ソーン博士の画期的な学説(EJ第1146号)
今まで考えてきたことを総括すると、光速にできる限り近い速
度で移動することができれば、未来に行くことは科学的に可能で
あるということがいえます。
しかし、光の速度は毎秒30万キロメートル――現在のところ
最高速の宇宙船ですら毎秒20キロメートル程度であり、よほど
の技術革新が行われない限り、光速に大きく近づくことは現状で
は困難です。もちろん可能性としては十分考えられることではあ
りますが・・・。
まして、過去に行くタイムマシンの場合、光速を超える必要が
あるのですから、不可能ということになってしまいます。しかし
最近になって過去に行くタイムマシンも理論的には可能――そう
いう話になってきたのです。
そのきっかけは、1988年の暮れに米国の物理学者キップ・
ソーン博士と他の2人の研究者が驚異の説を発表したことによる
のです。このキップ・ソーンなる人物、ただ者ではなく、相対性
理論の第一人者です。また、あのホーキング教授の研究仲間でも
あり、現代物理学者の最先端にいる学者です。
キップ・ソーン博士の発表した論文は「フィジカル・レビュー
・レター」に掲載されたのですが、これは現在の物理学で最も権
威のある論文集である「フィジカル・レビュー」という雑誌の速
報版なのです。
それまで物理学の世界では「タイムマシン」の話はいわゆるゲ
テモノ扱いであり、正面切ってそれを口にする学者は皆無という
状態だったのです。ところが相対性理論の権威であるソーン博士
がタイムマシンについて、しかも過去に行くタイムマシンについ
て発表したということで、ニュースになって、全世界に大きな波
紋を広げたのです。添付ファイルにもあるように、 1988年
12月5日付の朝日新聞にも記事として出ています。
ところが、その論文が難解なのです。何回読んでも????に
なってしまいます。しかし、何はともあれ、解説をすることにし
ます。添付ファイルの図をご覧ください。
宇宙には、いろいろな穴があります。一番有名なのはブラック
ホール、それからホワイトホール、それにワームホールです。ワ
ームホールというのは、いわば宇宙の虫食い穴です。
ブラックホールには入口、ホワイトホールには出口しかないの
ですが、ワームホールには入口と出口の両方があります。一方の
穴から入って、もう一方の穴から抜けることが可能なのです。一
説には、ブラックホールから入って、ホワイトホールに抜けるの
がワームホールだという人もいます。
これらの穴は、時間や空間が極端に曲がっていて、とにかく常
識的な想像を受けつけない「抜け穴」――それがワームホールと
いわれるものです。
2つのトンネルの入口をそれぞれA、Bとします。Aが入口な
らBは出口になりますし、Bが入口ならAは出口になります。B
の近くに住んでいる人がいます。彼は、他方の穴Bを振動させま
す。振動は、最も簡単な加速運動ですから、Aの時間はBの時間
に比べて遅れ、だんだんその遅れは大きくなります。例えば、B
付近が平成10年になっても、A付近は平成5年のままというこ
とも起こり得るのです。
Bの付近に住んでいる人――平成10年の世界にいる人が、何
らかの方法で、穴からではなく、外部を通ってAに行ったとしま
しょう。そうすると、その人の世界は平成5年になってしまいま
す。しかし、A付近とB付近はつながっている世界――例えば、
東京と大阪というように、つながっている世界ではなく、ぜんぜ
ん別の世界です。
さて、ソーン博士によると、平成5年のAにやってきた人が、
今度はAの穴に飛び込んで、もう一方の出口であるBに出たとす
ると――ワームホールの通過には所要時間というものがないので
飛び込んだ瞬間が出た瞬間となる――穴を抜けた当人の周囲はA
と同じで平成5年になるというのです。
もともとその人はBから出発したのですから、元の場所に戻っ
てきたことになるのです。Bを後にしたのは平成10年、帰って
きたときは平成5年――つまり、彼は過去の世界に旅をしたこと
になるのです。したがって、ソーン博士は、ワームホールを利用
すれば、過去に行くことができると主張しているのです。ところ
で、トンネルに入る時刻と出る時刻がまったく同じということが
ソーン理論の中核になっているそうです。
以上が「フィジカル・レビュー・レター」に掲載されたソーン
博士の論文の内容です。できる限りやさしく書いたつもりですが
理解できたでしょうか。
ブルーバックスの『タイムマシンの話』(講談社刊)の著者で
ある都築卓司氏は、ソーン理論をベースに別のモデルを設定して
説明しています。
地球上に人がいて、この人が無人ロケットを飛ばして、途中で
大いに加速して地球に戻ってくるようリモート・コントロールし
たとします。平成元年に地球を出発して、戻ってきたときは平成
10年だったとします。この場合、ロケットの中は時間が遅れる
ので、平成5年とします。
地球上の人がロケットの扉を開けて中に入ったとすれば、そこ
は平成5年の世界です。しかし、再びロケットの外に出たとする
と、そこはやはり平成10年の世界です。
そこで、地球とロケットの出口を扉ではなく、ワームホールで
つないだとします。そして、平成10年の世界から扉を開けてロ
ケットの中に入り、そのままワームホールを通って地球に出たと
するのです。そうすると、そこは平成5年の世界になります。ワ
ームホールの通過中には時間の経過はないのです。
つまり、平成10年の地球からロケットに入ると、ロケットの
中は平成5年、さらにそこからワームホールに入って地球に出る
と、そこも平成5年の世界なのです。こちらの説明の方がわかり
やすいと思います。 ・・・・[タイムマシン09]