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このブログは、異文化研修の教育機関(株)インテック・ジャパンの情報発信用です。(株)イー・メディアとの提携により、同社のドキュメント・レポート「Electronic Journal」をウィークデイの毎日お届けします。
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● 2006年07月 記事 ●

2006年07月03日

ソーン博士の画期的な学説(EJ第1146号)

 今まで考えてきたことを総括すると、光速にできる限り近い速
度で移動することができれば、未来に行くことは科学的に可能で
あるということがいえます。
 しかし、光の速度は毎秒30万キロメートル――現在のところ
最高速の宇宙船ですら毎秒20キロメートル程度であり、よほど
の技術革新が行われない限り、光速に大きく近づくことは現状で
は困難です。もちろん可能性としては十分考えられることではあ
りますが・・・。
 まして、過去に行くタイムマシンの場合、光速を超える必要が
あるのですから、不可能ということになってしまいます。しかし
最近になって過去に行くタイムマシンも理論的には可能――そう
いう話になってきたのです。
 そのきっかけは、1988年の暮れに米国の物理学者キップ・
ソーン博士と他の2人の研究者が驚異の説を発表したことによる
のです。このキップ・ソーンなる人物、ただ者ではなく、相対性
理論の第一人者です。また、あのホーキング教授の研究仲間でも
あり、現代物理学者の最先端にいる学者です。
 キップ・ソーン博士の発表した論文は「フィジカル・レビュー
・レター」に掲載されたのですが、これは現在の物理学で最も権
威のある論文集である「フィジカル・レビュー」という雑誌の速
報版なのです。
 それまで物理学の世界では「タイムマシン」の話はいわゆるゲ
テモノ扱いであり、正面切ってそれを口にする学者は皆無という
状態だったのです。ところが相対性理論の権威であるソーン博士
がタイムマシンについて、しかも過去に行くタイムマシンについ
て発表したということで、ニュースになって、全世界に大きな波
紋を広げたのです。添付ファイルにもあるように、 1988年
12月5日付の朝日新聞にも記事として出ています。
 ところが、その論文が難解なのです。何回読んでも????に
なってしまいます。しかし、何はともあれ、解説をすることにし
ます。添付ファイルの図をご覧ください。
 宇宙には、いろいろな穴があります。一番有名なのはブラック
ホール、それからホワイトホール、それにワームホールです。ワ
ームホールというのは、いわば宇宙の虫食い穴です。
 ブラックホールには入口、ホワイトホールには出口しかないの
ですが、ワームホールには入口と出口の両方があります。一方の
穴から入って、もう一方の穴から抜けることが可能なのです。一
説には、ブラックホールから入って、ホワイトホールに抜けるの
がワームホールだという人もいます。
 これらの穴は、時間や空間が極端に曲がっていて、とにかく常
識的な想像を受けつけない「抜け穴」――それがワームホールと
いわれるものです。
 2つのトンネルの入口をそれぞれA、Bとします。Aが入口な
らBは出口になりますし、Bが入口ならAは出口になります。B
の近くに住んでいる人がいます。彼は、他方の穴Bを振動させま
す。振動は、最も簡単な加速運動ですから、Aの時間はBの時間
に比べて遅れ、だんだんその遅れは大きくなります。例えば、B
付近が平成10年になっても、A付近は平成5年のままというこ
とも起こり得るのです。
 Bの付近に住んでいる人――平成10年の世界にいる人が、何
らかの方法で、穴からではなく、外部を通ってAに行ったとしま
しょう。そうすると、その人の世界は平成5年になってしまいま
す。しかし、A付近とB付近はつながっている世界――例えば、
東京と大阪というように、つながっている世界ではなく、ぜんぜ
ん別の世界です。
 さて、ソーン博士によると、平成5年のAにやってきた人が、
今度はAの穴に飛び込んで、もう一方の出口であるBに出たとす
ると――ワームホールの通過には所要時間というものがないので
飛び込んだ瞬間が出た瞬間となる――穴を抜けた当人の周囲はA
と同じで平成5年になるというのです。
 もともとその人はBから出発したのですから、元の場所に戻っ
てきたことになるのです。Bを後にしたのは平成10年、帰って
きたときは平成5年――つまり、彼は過去の世界に旅をしたこと
になるのです。したがって、ソーン博士は、ワームホールを利用
すれば、過去に行くことができると主張しているのです。ところ
で、トンネルに入る時刻と出る時刻がまったく同じということが
ソーン理論の中核になっているそうです。
 以上が「フィジカル・レビュー・レター」に掲載されたソーン
博士の論文の内容です。できる限りやさしく書いたつもりですが
理解できたでしょうか。
 ブルーバックスの『タイムマシンの話』(講談社刊)の著者で
ある都築卓司氏は、ソーン理論をベースに別のモデルを設定して
説明しています。
 地球上に人がいて、この人が無人ロケットを飛ばして、途中で
大いに加速して地球に戻ってくるようリモート・コントロールし
たとします。平成元年に地球を出発して、戻ってきたときは平成
10年だったとします。この場合、ロケットの中は時間が遅れる
ので、平成5年とします。
 地球上の人がロケットの扉を開けて中に入ったとすれば、そこ
は平成5年の世界です。しかし、再びロケットの外に出たとする
と、そこはやはり平成10年の世界です。
 そこで、地球とロケットの出口を扉ではなく、ワームホールで
つないだとします。そして、平成10年の世界から扉を開けてロ
ケットの中に入り、そのままワームホールを通って地球に出たと
するのです。そうすると、そこは平成5年の世界になります。ワ
ームホールの通過中には時間の経過はないのです。
 つまり、平成10年の地球からロケットに入ると、ロケットの
中は平成5年、さらにそこからワームホールに入って地球に出る
と、そこも平成5年の世界なのです。こちらの説明の方がわかり
やすいと思います。       ・・・・[タイムマシン09]

ーンのワームホール.JPG

2006年07月04日

ブラックホールはどのように作られるか(EJ第1147号)

 宇宙に存在するさまざまな穴(ホール)――ブラックホール、
ホワイトホール、ワームホールなど――は、どのようにして形成
されるのでしょうか。今朝は中でも一番有名なブラックホールに
ついて説明します。
 恒星にも寿命があります。巨大な星が燃え尽きて、自分の重力
で著しく縮み、最後には元の体積のごく小部分に納まってしまう
のです。星は本来球形をしており、それが内部崩壊を繰り返して
より小さな球形へと縮んでいくわけです。
 このようにして潰れた星の重力は非常に大きく、原子でさえも
潰されて中性子となり、中性子星になるということは6月26日
のEJ1141号で既にお話ししています。
 このように星が燃え尽きて、自分自身の重さによって崩壊する
――そのときに中性子星にならないで、そのままブラックホール
を形成するケースもあります。また、いったんは中性子星になっ
ても、やがて自ら爆縮してブラックホールになる――そのような
ケースも考えられます。中性子星のコアは1秒の何分の1の間に
突然爆縮し、それらの破片がいったんは空中に拡散しますが、し
ばらくすると、それらはいずくともなくどこかに吸収され、あと
に空虚な空間が残るのです。それがブラックホールです。
 天文学者の中には、太陽系が生まれる何十億年も前に滅んだ巨
大な星の残骸が無数のブラックホールを形成して、銀河系全体に
散りばめられている――そのように主張する学者も多いのです。
 さて、星の爆縮は限界点まで休みなく続くのです。それがすべ
ての質量を保ちながら次第に収縮していくのです。形状は球形で
すが、それが少しずつ小さくなっていくのです。ボールは小さく
なればなるほど表面の重力は大きくなり、ある時点で重力はどの
ような物質も耐えられないほど強力になり、やがてボールは潰れ
てしまうことになります。
 これらのブラックホールや内部や中性子星の周辺では、重力が
時間の遅れを引き起こすのに十分な大きさになっており、地球上
の実際の時計よりも平均して30〜40%も遅く時を刻むといわ
れているのです。
 星の内部で起こる爆縮が進み、球形が小さくなるにつれて、時
間の遅れ因子は大きくなり、ある段階に達するとそれは無限大と
なります。これは、ボールの表面で時間の進行が地球時間に対し
て停止することを意味するのです。それは質量が増加して光速と
同レベルに達するからです。
 縮んでいく星から出る光は、振動数がどんどん小さくなり、こ
れを光の色で見ると、収縮しているボールから出る光はますます
赤くなり、最後には冷えていく燃えさしのように完全に消えてし
まうのです。そのあとは暗闇が訪れるのです。
 潰れた天体を取り巻く空間の領域は黒く、そして何もない空虚
さがあります。この「空虚さ」と「暗さ」が、ブラックホールと
呼ばれるゆえんであるといってよいと思います。
 このブラックホール――一度そこに入ってしまうと、そこから
抜け出すことはできないのです。なぜなら、外部の宇宙から見た
場合、ブラックホールの内部は、時間の終わりを超えているから
です。ブラックホールから抜け出すには、そこに入る前の時点に
出る必要がありますが、それは時間を過去に遡ることを意味する
のです。つまり、ブラックホールには入口はあるが、出口は存在
しないのです。それは、「無」に通じる一方通行の旅であるとい
うことができます。
 ところで、ブラックホールは、天文学上観測できるものなので
しょうか。
 ホーキング教授は、ブラックホールを次のようにいい、その困
難性を指摘しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ブラックホールは地下の石炭貯蔵庫の中の黒猫である
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 何しろブラックホールは見えないので、観測が困難なのですが
いろいろな観測方法があるのです。その結果として、いくつかの
有力なブラックホール候補といわれるものが、1970年代から
1980年代にかけて観測されています。その最も有力なものは
白鳥座(シグナス)のシグナスX−1というものです。
 実は、昨日ご紹介したキップ・ソーン博士は、このシグナスX
−1の研究者として有名なのです。1970年代の中頃から、シ
グナスX−1が本当にブラックホールなのか、それとも単に見え
ない普通の天体なのかについてホーキング教授と賭をしているの
です。ソーンはブラックホールであるに賭け、ホーキングはブラ
ックホールではないに賭けています。
 この決着はまだついていませんが、ホーキングは最近になって
自分の負けを認めているそうです。賭といっても他愛のないもの
で、ホーキングが勝てば、ソーンが雑誌「プライベート・アイ」
を4年間にわたって贈る、ソーンが勝てば、ホーキングが「ペン
トハウス」を1年間贈ることになっているそうです。このように
2人は大変仲良しなのです。
 ホーキング教授は、キップ・ソーン博士について、タイムマシ
ンとの関係について次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  私の友人であり、研究仲間でもあるキップ・ソーンとは、こ
 れまで何度も賭けをしたこともある親しい間柄ですが、彼は、
 皆がそうだからといって、物理学上の考えを無批判に受け入れ
 るような人物ではありません。多くの科学者は時間旅行、つま
 り、タイムトラベルなどできるはずがないと決めこみ、きちん
 と考えることをしてきませんでしたが、彼は勇気をもって物理
 学的に可能かどうか真剣に考えたのです。
  ――スティーブン・ホーキング著 佐藤勝彦訳『ホーキング
 未来を語る』より アーティスハウス刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ホーキングがソーンに関連してとはいえ、タイムトラベルにつ
いて述べることは大変珍しいことです。
               ・・・・・[タイムマシン10]

2006年07月05日

なぜ特殊相対性理論というのか(EJ第1148号)

 ここまでの考察で、タイムマシンには、ブラックホールなどの
宇宙に存在する穴(ホール)が深く関わっていることがわかって
きました。
 このことをさらに理解するには、宇宙のホールと重力の関係を
よく理解する必要があります。宇宙の穴をブラックホールである
として、それと重力との関係について考えてみます。
 タイムマシンのテーマを最初に取り上げたEJ1138号で、
一般相対性理論と特殊相対性理論の違いを次のように簡単に説明
したのですが、覚えているでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    特殊相対性理論 ・・・ 加速度考えない
    一般相対性理論 ・・・ 加速度を考える
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 特殊相対性理論の「特殊」とは一体何でしょうか。
 「特殊」というのは、その理論――相対性理論の制限枠を意味
しています。その制限枠とは次のようなものです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 制限枠=物理法則を考える観測者が等速直線運動をしていると
     いう条件下において成立する。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 つまり、特殊相対性理論とは、この条件の下に、光や物体の運
動、時間と空間の性質について論じているのです。要するに、特
殊相対性理論は制限付きの理論であるということになります。
 そもそも「相対」という考え方を物理学の世界に初めて持ち込
んだのは、地動説を唱えたあのガリレイなのです。ガリレイの地
動説に反対するため、次のように反論した学者がいたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 高い塔の上から石を落とした場合、石は真下に落ちる。もし、
 地球が動いているなら、石は真下に落ちないはずである。なぜ
 なら、石が落下している間に地球が動いてしまうからである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに対して、ガリレイは、一定速度で動いている船のマスト
の上から石を落としても、船上にいる人にとっては、石は真下に
落ちるように見えることを指摘して反論しています。なぜなら、
石も船と一緒に動いているからなのです。石は手から離れた後も
慣性によって、船と同じ速さで前に投げ出されながら落ちていく
のです。
 もし、陸上にいる人がその石を落とす瞬間を目撃したとすると
石は前方に放物線を描いて落ちるのがわかるはずです。つまり、
それを見る視点によって異なるのです。
 このことから、船が止まっていても動いていても、船に乗って
いる人にとっては、石はいつも真下に落ちるのです。これを「ガ
リレイの相対性原理」と呼んでいます。特殊相対性理論も「等速
直線運動」という条件下における光を含めた物質の運動の様子、
時間や空間の相対的尺度を考える理論なのです。
 アインシュタインは、この「特殊」という条件を外して、どの
ような場合でも理論が当てはまるようにしようと思ったのです。
そして、作り上げたのが「一般相対性理論」です。
 考えてみてください。「等速直線運動」という条件は、その言
葉通り特殊な条件といえます。ほとんどのものは、速度や運動の
方向は絶えず変化しているものです。これを物理学では、「加速
度」と呼んでいるのです。
 この加速度――速度が増加する場合、減速する場合、運動の向
きが変化する場合、すべて加速度と呼ぶのです。この加速度運動
をする観測者から見ると、物体の運動の様子はかなり違って見え
るのです。なぜなら、加速度運動は相対的な運動ではないからな
のです。
 飛行機が必要な高度まで上昇して一定速度で安定飛行に移った
場合、飛行機は猛スピードで飛んでいても、乗っている人には、
速度をほとんど感じないはずです。この状態で手から石を落とせ
ば、真下に落ちます。しかし、飛行機が離陸後上昇しているとき
に石を落とせば、石は真下には落ちません。これは、加速度運動
の状態にあるからです。
 加速度運動の代表的なものは、自由落下運動です。高いビルの
上から物体を落とした場合、空気抵抗を考えない場合、物体は毎
秒9.8メートルの割合で加速しながら落下します。物体を自由
落下させる力は地球の重力です。重力は、質量を持つすべての物
質の間に働く引力であり、そのため万有引力と呼ばれます。
 重力はあらゆる物質に働く力です。したがって、あらゆる運動
は加速度運動をしているといえます。特殊相対性理論は、加速度
運動をしている観測者の視点を考えることはできないのですから
非常に限定的な理論といわざるを得ないのです。
 もうひとつアインシュタインにとっては、重力の問題を解決し
ないと困る事情があったのです。それは「この世には光を超える
ものは存在しない」という特殊相対性理論の基本前提を変えざる
を得ないということです。
 従来の物理学では、重力は2つの物質の間で瞬時に時間ゼロで
働く力とされていたのです。つまり、重力の伝わる速さは無限大
なのです。この無限大の速度――すなわち時間ゼロで伝わる重力
を信号として使うと、そこには絶対時間が成立してしまうことに
なるのです。
 例えば、「午前○時」という信号を重力の信号で一瞬のうちに
――すなわち、時間ゼロで全宇宙に伝え、それから1分後に「午
前○時1分」という重力信号を送ったとします。そうすると、全
宇宙において、同一の1分間という尺度が持てることになる――
これは、絶対時間そのものではありませんか。
 特殊相対性理論は、全宇宙において同一の1分間などいう絶対
的な時間は存在しないという前提からスタートしており、これが
成立すれば、特殊相対性理論は崩壊してしまうのです。アインシ
ュタインは、どうしてもこの問題を解く必要があったのです。そ
して、1915年に一般相対性理論は生まれたのです。
                 ・・・[タイムマシン11]

2006年07月06日

重力の真の姿を追求する(EJ第1149号)

 特殊相対性理論は、1905年に発表されましたが、それを重
力も説明できる理論にバージョンアップさせるためには、さらに
10年の歳月が必要だったのです。
 1915年から1916年にかけて、アインシュタインは、一
般相対性理論――特殊相対性理論のバージョンアップ版――を発
表します。この新理論においては、単に重力を説明できるように
なっただけではなく、重力について新しい真理ともいうべきもの
を提示しているのです。
 重力についての新しい真理とは、重力という力の重要な性質と
いうべきもので、「等価原理」といわれます。アインシュタイン
は、1907年になってこの等価原理に気がつき、それから特殊
相対性理論のバージョンアップは急速に進んだのです。
 ところで、「等価原理」とは、一体何でしょうか。
 一言でいうと、「加速度は重力と等しい価値を持つ」というこ
とです。等価原理について説明しましょう。添付ファイルのイラ
ストを見ていただきたいと思います。
 ロケットの中に宇宙飛行士がいます。Aは、出発地点の状態で
すが、宇宙飛行士の足は床についています。この段階では、地球
の重力が働いているからです。
 ロケットは地球を離れ、宇宙に飛び出します。そして、宇宙空
間でロケットのエンジンを止めます。これがBです。この段階で
ロケットは、一定の速度で直進する等速直線運動を行うことにな
ります。このとき宇宙飛行士の体はロケットの中に浮かんでいま
す。無重力状態になったからです。
 さて、ここからが重要です。ここでロケットはエンジンを再点
火させると、ロケットは加速して進み出します。そうすると、宇
宙飛行士の足は、再びロケットの床につきます。Cがその段階で
す。これは、加速度運動を行うと、重力が働いたような状況が生
まれることを示しています。
 これは何を意味しているのでしょうか。
 注目していただきたいのは、宇宙飛行士の足が床につく状態を
引き起こす上での重力という力と、加速度運動が同じ働きをして
いる点です。ロケットが加速度運動を行えば、ロケット内にいる
宇宙飛行士も加速度運動をすることになるのです。この加速度が
重力と等しい価値を持つということを「等価原理」と呼んでいる
のです。
 重力と加速度が等しい価値を持つのであれば、加速度運動を行
うことによって、重力が働いているような状態を作り出したり、
または逆に実際に存在している重力を消したりできることになり
ます。要するに、重力は加速度運動によって作られる「見かけの
力」ということになります。
 加速度運動によって作られる「見かけの力」のひとつに「遠心
力」があります。自動車に乗っていて急にハンドルを切ると、車
内に乗っている人はハンドルを切った方向とは逆向きに倒れそう
になりますね。これが遠心力です。
 これは、車に乗っている人に重力が加わったのではなく、運転
の向きを変えるという加速度運動を行ったことで、自動車と一緒
に加速度運動を行う車に乗っている人に見かけ上の力が加わった
感じになるだけのことなのです。
 ところで、重力は本当に「見かけの力」なのでしょうか。加速
度運動によって重力の影響を消すことができるのでしょうか。重
力は真に実在する力ではないのでしょうか。
 飛行機で高度数千キロメートルまで上昇として、飛行機のエン
ジンを切ったとします。そうすると、飛行機も機内の人も地球の
重力に引かれて自由落下運動をはじめます。ちなみに、自由落下
運動は加速度運動の代表的なものです。
 このとき機内の中はどうなるでしょうか。
 そうです。無重力状態になります。なぜなら、飛行機と機内の
人が同じ速さ――つまり加速度で自由落下するために重力がなく
なったように見えるのです。
 しかし、分かりにくいのですが、機内の人にとって重力の影響
は完全になくなったわけではないのです。このとき、機内の人が
両手にボールを一つずつ持って、それを静かに手放したとすると
ボールも無重力状態になって、ふわふわ浮かんで見えます。無重
力状態ですから、当然ですね。
 しかし、これら2つのボールはよく観測すると、少しずつ近づ
き、間隔が狭くなっていくことが分かったのです。これは、加速
度運動による自由落下運動でも消えずに残っている重力の影響に
よるものなのです。飛行機も機内の人も2つのボールも地球の中
心方向に落下していくのですが、2つのボールについていうと、
ボールは地球の一点に向って少しずつ近づいていくように見える
のです。一見重力が消えたかに見える状況においても、2つの物
体をこのように近づける重力が働くのです。その意味では、重力
は真に実在する力ということになります。
 このように、2つの物体を近づける力は、別な状況でも起こる
ことがあります。有名な例を紹介しましょう。
 赤道上空の離れた2点から、2機の飛行機が経度線上をそれぞ
れ真北に、同時に同じ速度で飛んだとします。地球儀を見ると分
かるように、経度線はすべて平行になっていますから、2機の飛
行機は、互いに平行な向きに飛んでいることになります。
 しかし、北に向うにつれて、2機の飛行機の間隔は縮まり、遂
に北極点では衝突してしまうのです。この原因は明らかです。そ
れは地球の表面は丸い曲面であり、曲がっているからなのです。
もし、地球の表面が平面であれば、2機の飛行機は平行飛行を続
けて間隔が縮まることはないはずです。
 アインシュタインは、これら2つのことを考え合わせて、重力
の真の姿をとらえることに成功します。それは、誠に画期的な発
明だったのです。それは「重力とは時空の曲がりの産物である」
ということだったのです。これについては、明日のEJで詳しく
説明します。          ・・・・[タイムマシン12]

等価原理/重力と加速度.JPG

2006年07月07日

重力は時空のゆがみそのものである(EJ第1150号)

 昨日のEJで、平行に真っ直ぐ飛ぶ2機の飛行機が少しずつ間
隔が縮まり、そのまま行くと衝突してしまうということをお話し
しました。その理由は、地球という球面の上を飛ぶからです。
 アインシュタインは、この考え方を重力に当てはめて、重力の
正体について、次のような革命的な解釈を発表したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 重力による落下とは、曲がった時空の中を物体が運動すること
 である。              ――アインシュタイン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ところで、「曲がった時空」とは何でしょうか。
 「曲がった時空」は、「曲がった空間」と「曲がった時間」に
分けて考えるとわかりやすいと思います。「曲がった空間」から
説明します。
 「曲がった空間」――本来は3次元で考えるべきことですが、
複雑になってしまうので、2次元の空間で考えます。宇宙をトラ
ンポリンの表面――柔らかくて、弾力のあるものであると考える
のです。
 その上に1個のボールを乗せます。そうすると、平面はゆがみ
ます。そこで、もうひとつボールを乗せると、表面はさらにゆが
みます。そして、そのゆがみが原因で、2つ目のボールは最初の
ボールの方にころがって行ってくっついてしまいます。
 アインシュタインは、このボールがくっつく動きこそが重力で
あると考えたのです。その原因は平面のゆがみや曲がりであり、
お互いに引かれ合うような動きを生む――と考えたのです。
 トランポリンの表面にボールを乗せると表面がゆがむように、
アインシュタインは、宇宙においても物質があると、その周囲の
空間は曲がるはずだと考えたのです。その曲がった空間の中で物
質の動きを観察すると、重力が働くような現象――お互いに引き
合ったり、他の物質に引かれて2つの物質が近づくというような
運動をすることがわかったのです。
 このことからアインシュタインは、重力とは「空間――正しく
は時空の曲りそのものである」と結論づけたのです。それまで、
重力があるということは誰でも知っていたのですが、どのように
して物質に重力が働くのかはわかっていなかったのです。アイン
シュタインはそれを解明したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 物質には必ず質量というものがあり、質量はエネルギーと同じ
 ものである。その物質のエネルギーが周囲に影響して時空を曲
 げ、その曲った時空の中で物質が運動することによって重力が
 働くのである。           ――アインシュタイン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 それでは、「曲った時間」とは何でしょうか。
 簡単にいってしまえば、「曲った時間」とは、時間の遅れを意
味するのです。特殊相対性理論では、運動しているものは時間が
遅れることを明らかにしましたが、一般相対性理論では、物質が
存在すると時間が曲り、時間が遅れる――つまり、重力が働くと
時間が遅れるということになります。
 この一般相対性理論――どのようにしてその正しいことが証明
されたのでしょうか。
 1919年に南半球で皆既日食が観測されているのですが、太
陽のすぐ近くにある星の位置が本来見えるべき位置からずれて観
測されたという事実があります。
 太陽という巨大な質量を持つ物質の近くを通る光は、太陽の質
量による時空の曲りで、その進路が曲げられて星の位置がずれて
見えたことがわかったのです。そのずれの角度は、一般相対性理
論に基づく計算値と一致したのです。
 アインシュタインの話でよく出てくる例ですが、重力が非常に
強い星の上で、望遠鏡でものを見ると、自分の後ろ姿が見えると
いうのがあります。これは、重力が非常に強い星の上では大きく
時空が曲げられ、視線も大きく曲って地球を一周して自分の背中
が見えるというわけです。
 1971年に、原子時計をジェット機に積んで上空に飛ばし、
相対性理論が示す時間の遅れを計測する実験が行われています。
原子時計というのは、セシウムという金属の原子が出すある波長
を基準とした時計で、1秒について10兆分の1秒しか狂わない
世界で一番正確な時計です。
 この原子時計をジェット機に積んで、地球上空をぐるりと周回
させ、戻ってきた時計を地上に置いてある原子時計と比較したの
です。これには、特殊相対性理論と一般相対性理論の両方が影響
するのです。
 まず、「運動するものは時間が遅れる」という特殊相対性理論
によって、ジェット機の原子時計は地上の原子時計よりも時間が
遅く進みます。これは、今までに何回も説明しました。
 しかし、一般相対性理論では、「重力によって時間は遅れる」
ことを明らかにしています。地球の重力の影響は、地上よりも上
空の方が小さいので、上空の原子時計は逆に地上の原子時計より
も速く進むことになります。
 つまり、ジェット機に積んだ原子時計は、運動の影響と重力の
影響の2つが複合されて、時間の進み方に変化が生ずることにな
るのです。実際に、ジェット機の原子時計は、地上の時計に比べ
て、1000万分の1秒〜1億分の1秒だけ時間の進み方が、異
なっていることがわかったのです。この数値を分析したところ、
相対性理論の予想値とほぼ一致したそうです。
 このように重力による空間の曲りや時間の遅れは、一般相対性
理論の発表後に行われた数々の実験によって、その正しいことが
証明されているのです。
 ブラックホールは、時空のゆがみがその極に達している場所と
いわれています。そこでは、光でさえ脱出できないような重力の
領域であり、時間はほぼ凍りつき止まってしまいます。しかし、
そこにタイムマシンの謎を解く大きなヒントが隠されている――
そのように考えられるのです。   ・・・[タイムマシン13]

2006年07月10日

GPS衛星は時間を補正している(EJ第1151号)

 地上に置かれた原子時計と地球の上空を飛行している飛行体に
搭載されている原子時計の時間の差について、昨日のEJで述べ
ましたが、これは重要なことなので、もう少し詳しくお話しして
おきたいと思います。
 1971年に行われた実験では、原子時計を積んだジェット機
は地球を東回りで一周したのです。一方、地上の原子時計も地球
の自転により、動いているのですが、この比較ではジェット機の
方が速く運動しているので、ジェット機の中の時計の方が時間の
遅れは大きくなります。
 しかし、もうひとつ考慮すべきものに重力があります。重力に
ついては、地上と上空では差があります。地上の方が強力であり
上空の方は弱くなります。したがって、重力による時間の遅れは
地上の原子時計の方がジェット機の中の時計よりも遅れは大きく
なります。
 以上を勘案して計算した結果と実際に測定した結果は次のよう
になります。ちなみに、1ナノ秒とは、10億分の1秒です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 理論値:地上の原子時計は、上空の時計よりも「40ナノ秒」
     遅れている。
 観測値:地上の原子時計は、上空の時計よりも「59ナノ秒」
     遅れている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これで地上の時計の方がより遅れるということが明らかになり
ましたが、数値自体にはかなり差があります。しかし、原子時計
には、プラスマイナス20ナノ秒の誤差が許されているので、実
験結果は理論値の正しさ――つまり、アインシュタインの一般相
対性理論の正しさを証明したことになります。
 これはいろいろなものに応用されているのです。そのひとつに
GPS衛星の精度を高めることへの応用がありますので、簡単に
ご説明します。
 今やカーナビは当たり前になっていますが、どういう仕組みに
なっているかご存知でしょうか。
 カーナビは、高度2万キロメートルの軌道上を約半日で周回す
る30機ほどのGPS衛星のうち、4〜5機の衛星から電波を受
信し、自分の現在地を割り出すシステムなのです。GPSとは、
次の言葉の頭文字をとったものです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 GPS=Global Positioning System/全地球測位システム
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 GPSは、米国が軍事用に開発したものであり、かなりの間、
民間での利用が制限されてきたのです。どのように制限するかと
いうと、米国の陸海空全軍が民間用に割り当てられているGPS
衛星の衛星信号に対して意図的にスクランブルをかけて正確には
位置の測定ができないようにしていたのです。
 しかし、この措置は、2000年5月1日をもって、クリント
ン大統領が陸海空全軍に対し、解除命令を出したことによって、
民間で利用するGPSの精度は一挙に10倍近くも向上するよう
になったのです。
 さて、カーナビの受信機がGPS衛星からの電波を受信すると
電波の発信時刻と受信時刻の差からGPS衛星までの距離が計算
できるのです。GPS衛星の位置は正確に分かっていますから、
それらの情報から自分の現在地を計算するのです。これがGPS
の仕組みです。
 ところで、GPS衛星は、高度2万キロメートルの上空を猛ス
ピードで周回しています。そのため、GPS衛星に積んだ時計は
運動の影響と重力の影響との両者が複合されて、時間の進み方に
変化が生ずることになります。この時計は、電波の発信時刻を知
らせる働きをするのです。
 実際に計算してみると、GPS衛星の時計は、地上の時計より
もわずかですが、速く進んでしまうことが判明しています。した
がって、これを補正するために、GPS衛星の時計は、あらかじ
め、毎秒100億分の4.45秒だけ遅く進むようにしてあるの
です。地上の対象物の位置を正確に定めるためには、衛星の時計
のほんのわずかな進みも補正する必要があるのです。
 以上の話から、重力が強いということが、いかに時間に影響を
与えるかが理解できると思います。一般相対性理論は、物質の質
量によって周囲の時空が変化して曲がることを明らかにしていま
す。しかし、実際は、太陽ほどの質量のあるものでも、時空がわ
ずかしか曲がっていないことが確かめられているのです。
 1916年のことですが、ドイツの天文学者であるシュワルツ
シルトは、非常に強い重力を持つ物質の周囲では、ブラックホー
ルのような領域ができることを発表しているのです。それでは、
どのくらい重力が時空を激しくゆがめるのでしょうか。
 太陽の半径は、70万キロメートルあります。あり得ない仮定
かも知れませんが、この太陽を巨大な力で圧縮して半径を3キロ
メートルよりも小さくしてしまうとします。そうすると、そこに
は激しく時空が曲がる空間が出現します。そこは、光でさえも脱
出できない領域なのです。それが、ブラックホールです。
 アインシュタインはシュワルツシルトの発表に衝撃を受けたと
いわれています。彼は、宇宙にブラックホールのような物質や場
所が実在することに否定的な考え方を持っていたからです。
 しかし、何人かの物理学者が、太陽よりもはるかに重い星が、
最後に大爆発を起こし、そのさいに星の中心部にあった物質が極
限まで押し潰され、重力が限りなく強くなっていくと、ブラック
ホールのような領域ができるということを発表するに及んでその
存在を認めるようになったといわれます。
 6月21日のEJ1138号からタイムマシンの話をしている
のですが、前提知識が多く必要で、なかなか核心に入り込めませ
ん。つくづくこのテーマは奥が深いと思います。しかし、何とか
ブラックホールまでたどり着きました。明日からは、話はもっと
具体的になります。        ・・・[タイムマシン14]

2006年07月11日

ワームホールをスターゲートに利用する(EJ第1152号)

 ブラックホールが発見されたのは、1960年代の後半のこと
です。それ以来ブラックホールは、他の宇宙への入口――スター
ゲ−トとして、しばしばSFの世界に登場するようになります。
なぜなら、遠すぎる恒星間の距離を克服するための手段として、
または時間の流れを反転させるための道具としてこれを利用する
のが、本当っぽくて便利だからです。
 「スターゲ−ト」というのは、一方の穴を潜るとその出口は別
の宇宙につながっていて、時間差なしで星間移動ができる入口の
ことです。スターゲ−トには、われわれの宇宙と他の宇宙とを結
ぶワームホールや、同一宇宙同士を結ぶワームホールが想定され
ています。これを潜ることによって、地球から金星、シリウス、
白鳥座、アンドロメダなどへはすぐに行くことができるという画
期的なものです。
 何しろ地球から最も近い恒星である「アルファ・センタウリ」
までの距離は、約40兆キロメートルもあるのです。現在では、
約40キロメートルしか離れていない月に行くのでさえ、3日か
かるのですから、この計算で行くと、アルファ・センタウリまで
行くのには100万年かかることになります。これでは、たとえ
小説でも、スペース・コロニーのようなものを作って、何世代に
もわたって宇宙旅行することになってしまいますから、作家とし
ては困るわけです。
 しかし、SF小説の世界ではなく物理学の真面目な世界におい
て、スターゲートとなる可能性のある宇宙のホールには、次の7
つがあるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  1.ゲーデルの自転する宇宙
  2.ティプラーの無限に長い回転円筒
  3.シュワルツシルトの質量が大きなブラックホール
  4.ライスナー=ノルドストロームのブラックホール
  5.カーの質量が大きく、自転しているブラックホール
  6.カー=ニューマンのブラックホール
  7.超極限のカー物体(SECO)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これらは、アインシュタイン方程式の7つの解といわれるもの
です。しかし、これらをひとつずつ説明すると、相当のスペース
を要することと、非常に難解になるので、やめることにします。
ただ、多くの科学者が、大真面目にスターゲートについて研究し
ていることについては、知っておいていただきたいと思います。
 ブラックホールに関しては面白い話がたくさんあります。
 アインシュタインの相対性理論が発表される前の話ですが、フ
ランスの数学者のシモン・ラプラスという人がニュートンの力学
の結論として、ブラックホール状の天体の存在を考えていたとい
うのです。1795年のことです。
 ある惑星から発射された物体――ロケットでも何でもいいです
が、その物体の脱出速度はその惑星の質量と半径で決まります。
ラプラスは、質量が非常に大きいために脱出速度が光速を超える
ような惑星を想定して計算してみたのです。
 こういう惑星では、光もその表面を離れることができないので
まったくの暗黒に見えます。これはまさしく現代のブラックホー
ルそのものといえなくもありません。
 さて、ラプラスはニュートンの重力の法則を用いて、この暗黒
惑星の半径を計算してみたのです。実は、ニュートンの法則では
そんな巨大な質量の天体の重力効果は計算できないことになって
いたのです。後年このことをアインシュタインは自ら証明してい
るのですが、当時としては正しい計算だとされたのです。
 しかし、不思議なことに、ラプラスの計算した暗黒惑星の臨界
半径は、後年シュワルツシルトが計算したアインシュタインの一
般相対性理論の解とぴったりと一致したというのです。しかし、
それは、物理学の世界では珍しい「偶然の一致」だったのです。
このようなことがあったので、アインシュタインの相対性理論に
は、多くの反発と誤解が生まれ、正当に受け入れられるまでには
さまざまな困難があったのです。
 アインシュタインは、1922年にノーベル物理学賞を受賞し
ていますが、その受賞の名目は相対性理論ではなく、「理論物理
学の諸研究――とくに光電効果の法則の発見」だったのです。し
かし、その時点においてアインシュタインの相対性理論は物理学
の世界ではなくてはならない理論として定着していたのです。
 なぜ、相対性理論が受賞の名目ではないのかということについ
ては、ノーベル賞が「人類に大きな利用価値をもたらすような新
たな発見に対して授与するもの」であるからとしています。そし
て、相対性理論については、この理論は時間や空間の性質を再定
義しただけであり、新発見に該当しないとか、光速度に近づいた
世界でないと役に立たないとか、反対論を主張した選定委員が多
かったそうです。
 もうひとつ、当時、第一次世界大戦に敗れたドイツの中でユダ
ヤ人排斥を唱えるグループが台頭してきており、ユダヤ人である
アインシュタインにそういう賞を与えることに反対する政治的な
理由もあったのです。それに、あまりにも素晴らしい発明である
ため、多くの学者の嫉妬も相当強かったと想定されます。
 さて、タイムトラベルの話をするさいに必ず出てくるものに、
因果律の問題があります。そこで、週末の宿題として次のことを
考えてみていただきたいのです。
 ある教授が、2005年にタイムマシンを作り、2010年に
行ったのです。目的地に着くと、彼は大学図書館に行って、最新
の論文をいくつか拾い読みをします。そして、数学に関するある
定理をメモして、2005年に帰ってきたのです。
 そして、優秀な学生を集めて、その定理の概略を教えます。学
生は、それを整理して論文にまとめ、2010年に数学の論文雑
誌に投稿したのです。その論文雑誌というのが、教授が2010
年に読んだあの雑誌だったのです。どうでしょうか。その数学の
定理はどこから現れたのでしょうか。
                 ・・・[タイムマシン15]

2006年07月12日

天文学者製作の映画『コンタクト』(EJ第1153号)

 EJ1152号において宿題として出した因果律に関わる問題
は、「因果関係の輪」――「情報をめぐる因果関係」といわれて
います。この因果関係の輪は、原因と結果がひとつの輪のように
つながった状況――ある出来事の結果がその出来事の原因である
ような状況になっているものをいうのです。
 実は、1985年制作のロバート・ゼメキス監督の映画『バッ
ク・トゥ・ザ・フューチャー』の中に、この情報をめぐる因果関
係の輪が登場するのです。
 友人の科学者の作ったタイムマシンに誤って乗り込んで30年
前の世界に行った高校生のマーティは、その世界でチャック・ベ
リーの「ジョニー・B・グッド」という曲を演奏します。ところ
が、当時、この曲はまだ書かれていなかったのです。
 この音楽に感動したある男がチャック・ベリーに電話し、この
演奏を聴かせるのです。チャック・ベリーはマーティの演奏にヒ
ントを得て「ジョニー・B・グッド」を書きます。マーティは、
30年後の世界でチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」
を聴いていたからこそ、30年前の世界で演奏することができた
のです。ここにパラドックスが生じます。
 マーティの演奏によってチャック・ベリーは曲を書き、チャッ
ク・ベリーの作曲によってマーティは演奏しているのです。どち
らが原因で、どちらが結果なのでしょうか。これは、ある楽曲、
すなわち、情報をめぐる因果関係の輪なのです。
 こういう因果律の問題は、タイムトラベルの関連テーマとして
改めて取り上げる予定なのでひとまずおいて、この映画『バック
・トゥ・ザ・フューチャー』の監督、ロバート・ゼメキス監督の
撮ったもうひとつのタイムトラベルに関係する映画作品『コンタ
クト』についてお話しすることにします。この映画では、あのワ
ームホールが登場し、実際に目にすることができるからです。
 もともとタイムトラベルは、H・G・ウエルズの『タイムマシ
ン』のように、SF小説とともに生まれ、ごく最近までSF小説
の世界だけのものだったのですが、この映画『コンタクト』の同
名の原作小説は、タイムトラベルの問題を真面目な科学の研究対
象にするきっかけになった作品といえるのです。
 というのは、1980年代に発表された小説『コンタクト』の
作者カール・セーガンは、小説家にして、れっきとした天体物理
学者であり、小説の中のタイムトラベルの記述において、友人の
理論物理学者キップ・ソーンに相談するなど、彼の研究に大きく
依存しているところが多いからです。
 セーガンがソーンに相談した内容とは、「ワームホールが星間
空間を渡る近道として使えないか」というものだったのですが、
ソーンとその仲間は、セーガンのアイデアを現実のものとするに
はどうするかについてプロジェクト・チームを作って研究したと
いわれています。
 彼らは、「リバース・エンジニアリング的手法」――完成品を
解析してそれに利用されている技術を分析する手法を使って、星
間空間をショートカットする方法を導き出しているのです。
 映画『コンタクト』は1997年に製作されていますが、映画
のデータは、次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   題名 ・・・・・・ 『コンタクト』
   監督・製作 ・・・ ロバート・ゼメキス
   原作 ・・・・・・ カール・セーガン
   主演 ・・・・・・ ジョディ・フォスター
   時間 ・・・・・・ 150分
   製作会社 ・・・・ ワーナーブラザーズ1997年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 製作の経緯から何か難しい映画と誤解されるかも知れませんが
非常に内容の充実した映画で、2時間30分の上映時間があっと
いう間に過ぎてしまうほど面白いです。主演のジョディ・フォス
ターの演技は迫力があって素晴らしく、ぜひ、ご覧になることを
お勧めします。DVDで、2000円で入手できます。
 『コンタクト』のような映画を製作する場合、製作者としては
次のような困難性があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.地球から遠く離れた恒星に時間を短縮してどのような手段
   で行くか。
 2.恒星に行くロケットやその他の乗り物をどのように設計し
   て作るか。
 3.目指す恒星に行けたとしてもその世界や異性人をどのよう
   に描くか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ましてこの映画の原作者のカール・セーガンは単なる小説家で
はなく天体物理学者なのです。当然のことながら、セーガンは、
その内容を科学的に矛盾のないものにしたいと考えたのです。
 『コンタクト』では、地球から26光年離れた恒星ヴェガに行
くストーリーになっていますが、地球から最も近い恒星「アルフ
ァ・センタウリ」ですら、現在の技術では100万年もかかって
しまうのです。
 この時間をどのようにして短縮するか――この解決策として、
セーガンはワームホールを持ってきて、それを時間短縮の手段と
して使っています。ワームホールの描写は凄いといえます。
 それでは、ワーホールを潜り抜けてヴェガに行く「ポッド」の
設計はどうしたのかというと、それは恒星ヴェガから送られてき
た設計図によって作るという設定になっています。実に卓抜のア
イデアであると思います。
 しかし、映画で、恒星ヴェガの光景やヴェガ人の描き方には苦
しんでいます。なお、映画と小説の描写には大きく異なるところ
があり、小説の方も読まれることをお勧めします。
 この映画の内容については、明日のEJでも続けて取り上げる
ことにします。         ・・・・[タイムマシン16]

映画『コンタクト』.JPG

2006年07月13日

映画『コンタクト』の内容を分析する(EJ第1154号)

 映画『コンタクト』は、タイムトラベルという謎を解く手がか
りにもなるので、映画との関連でテーマを追及します。それには
映画のあらすじを知っている必要があるので、非常に短くあらす
じをまとめます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  幼い頃両親を亡くした優れた電波天文学者のエリー。彼女は
 周囲の学者の嘲笑や中傷を浴びながらも、地球外知的生命体か
 らのメッセージの研究という幼い頃からの夢を追っていた。
  しかしそんなエリーの苦労もついに報われる時が来た。周囲
 の圧力から研究期間もあとわずかとなったある晩、エリーは、
 23光年離れた恒星ヴェガからの規則的な電波をキャッチした
 のである。
  そしてこの素数の周期で送られてくるこの電波は、ある程度
 発達した文明に向けての電波だということが分かり、エリー達
 研究員は地球外知的生命体の存在を確信するにいたる。そして
 さらにその電波を解読した結果、星間空間移動装置の設計図が
 隠されていたことが分かったのである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この映画の前半部分では、ここまでEJで取り上げてきたアイ
ンシュタインの相対性理論に関する対話が出てきます。エリーと
その恋人役の大統領の宗教顧問パーマー・ジョス(マシュー・マ
コノヒー)との間に次のやりとりがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ジョス:アインシュタイの話を・・・
 エリー:いいけど
 ジョス:相対性理論とあの装置。あれに乗ってヴェガに行き、
     戻ったら・・
 エリー:戻れたらね
 ジョス:戻れたら・・・。君は4年でも地上では50年経つ
 エリー:そうなるわ
 ジョス:君の親しい人間は、みんな死んでる
 エリー:もしも、生きて戻れたらよ。誰もが危険だと思って
     いる。候補者はそれを十分理解したうえよ
 ジョス:なぜだ
 エリー:歴史的チャンスだから・・・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 恋人のジョスとしては、エリーには行って欲しくない――危険
だということがわかっているからです。結局、エリー(エリナー
・アロウェイ)は、候補者から落とされてしまうのです。それは
エリーが証拠のないものは信じないという無神論者であることが
暴かれてしまったからです。
 しかし、いろいろなことがあって、結局エリーは、映画では1
人で恒星ヴェガに旅立つことになるのです。ヴェガから送られて
きた設計図にしたがって製作された移動装置は、クレーンで吊り
下げられた球形の一人乗りポッドを高速で回転するマシーンの真
ん中に落とすシステムになっています。
 実際には、ポッドはその真ん中に落とされたあと、ワームホー
ルに入って行き、地球からヴェガへの星間空間移動が行われるの
です。ワーホール通過の特殊撮影は物凄いもので、光速を超える
通過とはこういうものなのだということがよく分かります。
 途中で気を失ったエリーが目を覚ますと、それは星の美しい浜
辺だったのです。地球の南国の浜辺に似ていますが、星の様子が
地球とは異なっています。そこが恒星ヴェガという設定です。
 そこに現れたのが亡くなった父親そっくりのヴェガ星人だった
のです。眠っているうちにエリーの記憶を読んで、故人の姿を借
りて現れたのです。実は原作では、エリーを含む5人がヴェガに
到着する設定になっています。
 5人は砂浜で野宿しますが、一夜が明けると砂浜に忽然とドア
が現れます。ドアを開けると中は漆黒の闇――何も見えません。
しかし、エリーを残して4人がその闇の中に入って行くのです。
このドアもワームホールの入口になっているらしいのです。
 浜辺に残されたエリーには、映画と同様父親の姿をしたヴェガ
人が現れるのですが、やがてワームホールに消えた4人も、それ
ぞれ同伴者を伴って戻ってきます。同伴者とは、死んだ伴侶や孫
などの最愛の人たちだったのです。
 ここで、何となく感ずるのは、原作者のカール・セーガンは、
この恒星ヴェガを「あの世」に見立てているのでは・・・という
感じがしないでもないのです。天文物理学者がまさか「あの世」
とは・・・と思うかも知れませんが、量子力学的考え方に立てば
それほど荒唐無稽な話でもないのです。
 このような出来事があって、エリーは無事に地球に戻るのです
が、地上の人々から、ヴェガ行きの飛行は失敗と聞かされて、エ
リーは仰天します。確かにその間の映像や対話が収められている
はずのビデオには何も映っていなかったのです。
 査問委員会でのキッツ委員長とエリーのやりとりです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 エリー:計器がポッドの存在を見失った時間は?
 キッツ:1秒以下です
 エリー:ええ、地上時間の
 キッツ:地上時間?
 エリー:ポッドはワームホールに入りました。つまり、時空間
     を通る連絡路です。相対性理論で私の過ごした18時
     間は、地上では一瞬です。
 キッツ:ワームホールは、理論上の仮説でしょう。存在は証明
     されていない
 エリー:物証は何も・・・
 キッツ:妙ですね。なぜ、彼らは招いておいて何の証拠も与え
     ず、帰したのでしょう。
 エリー:何十億年もそうしてきたと・・・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                ・・・・[タイムマシン17]

星間空間移動装置.JPG

2006年07月14日

原作者カール・セーガンの狙いは何か(EJ第1155号)

 昨日のEJの最後に、映画『コンタクト』の査問委員会のシー
ンの一部をご紹介しましたが、その内容は今回のEJのテーマで
ある「タイムトラベル」の本質に関わることに関連するので、も
う少し詳しく解説します。
 そもそもなぜエリーが査問委員会にかけられることになったか
です。本来であれば今まで人類が成し遂げることができなかった
快挙――恒星ヴェガに行き、異星人に会う――を成し遂げたので
すから、ヒーローとして扱われるべきです。
 査問委員会にかけられた理由は、本当に恒星ヴェガに行ったの
かについて疑いの目を向けられていたからです。映画の場合は、
地上の人がポッドを見失ったのは、たったの1秒間なのにポッド
に搭乗していたエリーは、18時間かけて地球より26光年離れ
た恒星ヴェガに行き、ヴェガ星人に会って地球に戻ってきたと主
張しているのですから、常識的な考え方に立てば、疑われても仕
方がないでしょう。
 既に述べたように、小説ではエリーを含めて5人の科学者が、
ポッドに乗り込み、恒星ヴェガに行き、戻ってくる設定になって
います。その間、地球にいる人は何を見たのか――小説の描写に
よれば、次のようになっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「そっちから見ていて、どうだったの?」とエリーは尋ねた。
 「どうもこうもないさ。真空システムが作動して、ベンゼルが
 回転した。電荷が上がってベンゼルが規定の回転数に達した。
 その後、全部もとへ戻っただけのことだよ」
 「もとに戻ったって、それ、どういうこと?」
 「ベンゼルの回転数が下がって、電荷が減衰した。間隙が与圧
 されて、ベンゼルが止まって、君たちが出て来たんだ。その間
 全部で20分といったところかな。ベンゼルの回転中は通信不
 能だった。そっちは、何かあったのかな」
        ――カール・セーガン著「コンタクト」下より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これによると、小説ではエリーたちが恒星ヴェガに行っている
間中ポッドは動いてはいたが、見えていたといっているのです。
これなら、疑われても当然かも知れません。
 査問委員長のキッツは、小説の中では次のように発言している
のです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「とにかくわたしの話を聞いてください。同士集団(恒星ヴェ
 ガに行った5人)は、<マシーン>に乗り込みます。<マシー
 ン>はその構造故に外からは内部の様子がわかりません。ひと
 たび稼動すれば交信も不能です。<マシーン>は始動して、や
 がてひとりで停止します。その間20分。外部からは何の操作
 を加えることはできません。それはともかく、20分後に集団
 の面々は欣喜雀躍しながら<マシーン>から姿を現します。そ
 して、驚くなかれ、彼らはブラックホールを超光速で潜り抜け
 て、銀河系の中心まで行って来た、とまことしやかに報告しま
 す」。    ――カール・セーガン著「コンタクト」下より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 要するに、査問委員長のキッツは、5人が共謀して全世界を騙
したといっているのです。5人がいずれも優れた科学者であり、
超一流の知識人であるだけに信ずる人もいてタチが悪いというの
です。その何よりもの証拠は、恒星ヴェガに行った証拠を持ち帰
れなかったことだといっているのです。
 小説における査問委員会のシーンは、映画とは比べものになら
ないほど詳しく、迫力があるのです。天文物理学者であるカール
・セーガンは、なぜここまで書くのでしょうか。おそらく、彼は
自分をエリーに見立てて、その抵抗勢力の凄さをわれわれに訴え
ているのではないかと思います。
 カール・セーガンは、宇宙船による惑星探査計画や地球外知的
生物との交信を目指す電波探査計画に深く関与しており、マリナ
ー、バイキング、ボイジャーなどのNASAの宇宙探査計画に貢
献した実績により、NASA功労賞を受賞しています。
 しかし、惑星探査計画はともかくとして、地球外知的生物との
交信については宗教的な理由や従来の天文物理学との矛盾といっ
た観点から反対者が非常に多いようなのです。もちろん、タイム
トラベルに肯定的な意見を持つことにも、従来の物理学の世界で
は批判のマトになっていたのです。
 小説に登場するエリーは、地球外知的生物からの電波探査機関
<アーガス>の責任者であり、宗教上の理由、学問上の理由など
で、さまざまな妨害や攻撃を受ける様子がこれでもか、これでも
かと描かれています。
 小説の査問委員会で、エリーが次のようにいうシーンがありま
すが、これこそセーガンが訴えたいことだったのだと思います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「これは地球の科学では、まだ、まったく未開拓の領域に属す
 る問題なのよ。でも、時空連続体というのは意味もなく使われ
 ている言葉ではないわ。もし、空間をトンネルで繋ぐことがで
 きるなら、時間の中にも何らかの形でトンネルを通せるのでは
 ないかしら。わたしたちが向うで1日過ごしたのに、前日の地
 球に帰ってきた事実は、異星人が少なくとも限られた範囲では
 タイムトラベルを実現している証拠よ」
        ――カール・セーガン著「コンタクト」下より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 既に検討してきたように、もし、何らかの方法で光に近い速度
か光を超える速度で恒星に行き、地球に戻ってくることができる
なら、地球出発時間の1秒後でも20分後でも、あるいは1日前
にでも戻れるのです。
 現在でこそソーンなどの先進的な物理学者はがタイムトラベル
を肯定的な話としてとらえるようになっていますが、小説とはい
え、1980年代でこれだけいうのは大変なことです。
                  −−[タイムマシン18]

「コンタクト」の原作.JPG

2006年07月18日

宇宙旅行には2つの方法がある(EJ第1156号)

 カール・セーガンの小説「コンタクト」には、典型的なワーム
ホールが登場します。それは、ワームホールというよりもタイム
トンネルといった方がぴったりかも知れません。
 エリーを含む科学者5人が恒星ヴェガに行き、一夜を浜辺で過
ごして目が覚めると、浜辺に突然ドアが現れるという話を思い出
してください。セーガンは次のように表現しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  波打際にドアが立っていた。板張りのドアで、真鍮の把手が
 付いている。少なくとも、見た限りでは真鍮と思われた。黒塗
 りの蝶番で脇柱に留められて、ドアは框(かまち)にぴったり
 とおさまっている。表札はない。地球人の目には、ごくありふ
 れたドアだった。
        ――カール・セーガン著「コンタクト」下より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このドアの裏側に回ってみるとドアはないのです。横から見る
と、砂の上に剃刀の跡ほどの線が垂直に立っているのが認められ
るのです。奇怪なドアであり、まるでダリの絵のようです。
 ドアといえば、映画「マトリックス/リローデッド」にもたく
さんのドアが登場するのです。そして、そのドアを開けるととん
でもない場所に出るのです。
 小説の中で、ドアに入って行って、若くして逝った最愛の夫ス
リンダル・ゴーシュを連れて戻ってきたデヴィにエリーが尋ねる
シーンです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「あのドアを抜けて、どこに出たの」とエリー。
 「メイドゥンホール街416」デヴィは答えた。
 エリーはきょとんとした。
 「ロンドンよ。時代は1973年。スリンダルがいて」
 デヴィはかつての若い夫の方へ顎をしゃくった。
 「まだ亡くなる前よ」
 エリーは自分が波打際のドアを潜ったらどこへ行ったろうと想
 像した。1950年代のウィスコンシンと考えて間違いはない
 だろう。彼女が時間通りに現れなかったので、父親の方から出
 向いて来たのだ。ウィスコンシンの時代にも、そんなことが、
 よくあった。 ――カール・セーガン著「コンタクト」下より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これはどう考えてもタイムトンネルです。必要に応じてどの時
代にも行けるようです。物理学的に考えても、これはワームホー
ルであると考えるなら、アタマから荒唐無稽な話と斬って捨てる
わけにはいかないのです。
 これに関連して思い出すのは、アーサー・クラーク原作、スタ
ンレー・キューブリック監督の映画、『2001年宇宙の旅』で
す。この映画は、1969年の作品ですが、その内容はあまりに
も完璧に宇宙旅行を描き出していたといえます。この映画につい
ては、何度かEJで取り上げていますが、「コンタクト」を読む
ことによって再びこの映画のことを思い出したのです。
 この映画には「モノリス」と呼ばれる不思議な矩形の物体が登
場するのですが、それが何を意味するのか、いまひとつはっきり
しないのです。中でも映画の後半の部分で、木星のひとつの衛星
上に巨大なモノリスが浮かんでいるシーンがあります。
 このモノリスは何を意味しているのでしょうか。
 宇宙船ディスカバリーの船長デービット・ボーマンは、最初の
目的地である木星を越えてかなたの恒星に旅をしようとするので
す。ボーマンは木星の近くで宇宙船が運転不能になってしまった
ので、小さな宇宙船に乗ってモノリスの方に向かって行きます。
 驚くべきことにその内部は空洞であって、たくさんの星が輝い
ているのです。その瞬間、えたいの知れない流れによって彼は、
モノリスの中に引き込まれてしまいます。物凄いスピードである
一点に向かって進行するさまは、映画『コンタクト』のワームホ
ールを通過するシーンと非常によく似ています。私はそのシーン
を見て、『2001年宇宙の旅』のモノリスの中を通過するシー
ンを思い出したのです。
 やがて、ボーマンは時間と空間の入れ替わった領域に到達する
のです。そこでは、空間の中を超光速で移動しているのですが、
時間はまったく変化しないのです。彼の持っていた時計は次第に
進みが遅くなり、ついに止まってしまいます。
 ふと気がつくとボーマンは、自分がある部屋の中にいるのを発
見します。そしてその部屋の壁や床には、あのモノリスがずらっ
と並んでいる――こんなシーンがあったのを、覚えておられるで
しょうか。
 この映画を観た人は、映画の終りのシーンには、かなりの戸惑
いを覚えたことと思います。そして、この部分を架空の物語につ
けられたあまりにも意味のない付け足しと感じたと思います。し
かし、このシーンこそ原作者であるアーサー・クラークが未来に
対する予言として提示したものと考えられるのです。
 このモノリスこそ、星間空間移動ができるワームホールの入口
――スターゲートなのです。アーサー・クラークは、モノリスは
宇宙のはるかかなたに住む知性を備えた生命――地球外知的生物
が星間空間飛行のために作り上げたものと考えているのです。も
っと具体的にいえば、その地球外知的生物は、人間が遠く離れた
彼らの惑星に短時間で到達できる手段としてこれを考え出したな
のです。
 どうでしょうか。この話は恒星ヴェガの話とそっくりではない
でしょうか。アーサー・クラークは、あの映画で宇宙旅行につい
て、2つの方法を示唆しているのです。
 ひとつは、宇宙船に人間を冷凍して保存する装置を作り、何世
代もかけて旅を続ける方法――ディスカバリーの中にはそういう
装置がある――であり、もうひとつはスターゲートを使って、超
光速星間空間移動により、短時間で目指す恒星に到達する方法で
す。これなら地下鉄に乗る気軽さで別の恒星に行けるのです。
                 −−−[タイムマシン19]

2001年宇宙の旅.JPG

2006年07月19日

超時空間ハイウェー/スター・ゲート(EJ第1157号)

 タイムトラベル――時空間旅行の話をここまで続けてきた結果
わかったことがあります。それは、こういう話の原点が1968
年4月に発表されたアーサー・クラークの原作の小説と、スタン
リー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』にある
のではないかということです。このテーマでEJを書きはじめた
当初は、考えてもいなかったことです。
 なお、EJ1156号で、この映画の発表時期を1969年と
書いてしまいましたが、1968年の誤りです。お詫びして訂正
させていただきます。
 考えてみれば、1968年という年はアポロ11号が月着陸を
実現した1年前の年なのです。アポロ11号の月着陸は、196
9年7月20日のことです。このような時期に発表されたこの小
説と映画の狙いは、この時点で21世紀、すなわち、33年後を
見通した予言だったのではないかと思うのです。
 この映画はほぼ日米同時に公開されているのですが、映画のキ
ャッチコピーは、「この目で見る33年後の現実」となっている
のです。映画に少し遅れましたが、同じ1968年にクラークの
原作――『宇宙のオデッセイ2001』/早川書房版邦訳も出版
されています。なお、この原題は、後に映画に合わせて『200
1年宇宙の旅』に改題されています。
 この原作のキャッチコピーをご紹介しておきましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ――21世紀がここにある!暗黒の宇宙を背景に浮かぶ人工の
 島、宇宙ステーション、人間の理解を超えるまでに発達したコ
 ンピュータ−、未知の惑星<土星>をめざして科学の粋を結集
 した大宇宙船ディスカバリー号――SF界の巨匠が壮大に描き
 上げた予言的な、科学的な、感動的な未来小説――
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1960年代は、米ソの宇宙開発競争によって「未来」が特権
化された時代であり、このキャッチコピーもいわゆる未来ゴール
ドラッシュともいうべき時流に乗ったものといえます。しかし、
この作品の内容は、そのようなばら色の未来について描いたもの
ではなく、未来社会に発生する最も深刻な事態――高度に発達し
たスーパー・コンピュータの発狂と反乱を指摘し、人類超進化の
結果起こるものについて暗示するという内容になっています。
 そのためとくに映画では後半部分が哲学的になり、観客の大半
が理解に苦しむ難解な映画になっています。しかし、それにもか
かわらず、今日までの35年間にわたって、さまざまな解釈や批
評が重ねられ、また、多くのアンケート企画が実施された結果、
この映画は20世紀を代表するオールタイムベストの映像作品に
選ばれるという快挙を成し遂げています。
 この作品(映画/小説)の前半部分は、スーパー・コンピュー
タHALの支配するテクノトピアにおけるHALの発狂としてと
らえることができますが、同時にHALに対抗する人間(ボーマ
ン船長)の反撃という構図も成り立つと思うのです。
 こういう構図は、最新の映画『マトリックス』にも見ることが
できます。この映画の内容もコンピュータの反乱に対する少数の
人間の抵抗の構図としてとらえることができます。この映画は大
変興味深い内容であり、改めてEJで取り上げる予定です。
 ところで、この1968年には『2001年宇宙の旅』だけで
はなく、宇宙に関する多くの映画が公開されているのです。異色
SF映画『バーバレラ』(ロジェ・ヴァディム監督)、『猿の惑
星』(フランクリン・シャフナー監督)も1968年に発表され
た作品です。考えてみると、1968年は未来小説の映画化が集
中した年だったといえます。
 『猿の惑星』といえば、2001年に同名の映画が公開されて
いますが、これはティム・バートン監督の作品です。注目すべき
は、オリジナル版であるフランクリン・シャフナー監督による1
968年の作品の方です。
 この映画の内容は、打ち上げられた宇宙船が、長い飛行のすえ
遠い宇宙の果てにある惑星に不時着するのですが、そこは猿が支
配する惑星だったのです。ところが、その惑星は、地球の未来の
姿であったというのがオチになっているのです。
 ちょっと考えると単純な娯楽映画のように見えますが、これを
タイムトラベルの話と考えると、ウェルズのタイムマシンと同じ
構図になってしまうのです。
 すなわち、宇宙船がタイムマシンであり、その宇宙船が光速を
超えるスピードで他の惑星に行って地球に戻ってくれば、宇宙船
の時計は遅く進み、地球は多くの年月が経過しているというもの
です。つまり、宇宙船は、地球から飛び立って数百年後の地球に
到着したと考えると分かりやすいと思います。それにしてもこの
映画は、未来を舞台にした映画のなかでも、現代社会について多
くのことを語っていると私は思います。
 さて、『2001年宇宙の旅』の後半部分は、木星(小説では
土星)の近くの宇宙空間に浮かぶ巨大なモノリス、すなわち、ス
ターゲートに呼び込まれ、人類の代表であるボーマン船長が超人
類として生まれ変わる部分を描いています。
 EJ1146号で述べたキップ・ソーン博士の理論によると、
スター・ゲートには通過時間というものがないのです。ですから
飛び込んだ瞬間が出た瞬間になる――これなら、どんなに離れて
いる恒星にでも一瞬で行けることになるわけです。つまり、超時
空間ハイウェーとでもいいましょうか。
 驚くべきことは、1968年に作られた映画で、モノリスとい
う正体不明の物体というかたちをとったとはいえ、この超時空間
ハイウェーが描き出されているという事実です。『2001年宇
宙の旅』が一連のタイムトラベルものの原点という理由はまさに
ここにあります。
 最近は、過去のこうした映画作品がDVDで、格安に入手でき
ます。こういう作品を探すかレンタルショップで借りて観ていた
だくと、一層興味が増すと思います。
                 −−−[タイムマシン20]

2001年宇宙の旅/モノリス.JPG

2006年07月20日

ワームホールは球対称か長方形か(EJ第1158号)

 タイムトラベルとの関連において、『2001年宇宙の旅』に
ついてもう少し述べたいと思います。
 『2001年宇宙の旅』に関しては、ぜひ映画と原作小説の両
方を読んでいただく必要があります。というのは、映画では幻想
的に描写されていることに対して、小説においてはそれに対して
厳密すぎるほどの理論的根拠が与えられているからです。
 例として、この映画の後半部分の描写は、普通の観客が見ると
ドラッグのトリップ感覚そのものの映像に見えるはずです。それ
を小説では、理論的にていねいに描写しているのです。小説から
その一部を紹介しましょう。
 ポッドに乗ったデイヴィット・ボーマンは、宇宙空間に浮かぶ
巨大なモノリス――実はスター・ゲートの上にやってきます。そ
して、ワームホールに引き込まれたボーマンの乗るポッドはやが
てホテルのホールのようなところに降りて静止するのです。
 ボーマンはポッドから降りて、ホールに続いているロココ風の
部屋に入ります。この部屋の様子については、EJ1157号の
添付ファイルを参照していただきたいと思います。
 ボーマンは、そこに空気があるかどうかを注意深く確かめて宇
宙服を脱ぎます。そして、冷蔵庫の中にあるものを食べて空腹感
を満たし、蒸留水のような水を飲んで、ボーマンはベットに入り
眠ります。それがボーマンにとって、「最後の眠り」になったの
です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  はじめは、時間が逆行しているように思えた。記憶の源泉が
 あけはなたれているのだ。何かの力にコントロールされながら
 彼はふたたび過去を生きはじめていた。(中略)
  彼は時の通路を子供時代へと一路逆行しながら、知識と体験
 を洗い流している。しかし、何も失われはしない。生涯のあら
 ゆる瞬間にあった彼のすべてが、もっと安全な場所に移されて
 いるのだ。ここにいるデイヴィット・ボーマンが存在をやめて
 も、別のデイヴィット・ボーマンは永遠に存在し続けるのだ。
   ――アーサー・C・クラーク著、『2001年宇宙の旅』
     より。早川書房刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これは実に驚くべきことをいっています。「『2001年宇宙
の旅』講義」(平凡社新書)の著者、巽孝之氏は、このシーンに
ついて、「モノリスという名のもうひとつのコンピュータ・マト
リックスがボーマンという人間を素材にその生体情報をカットア
ップ/リミックス/サンプリングしているシーンに他ならない」
と述べています。
 このように「生体情報」が別のところに移されて、保存される
ということになれば、生身の肉体が脳死状態になっても、その人
格とはいつでもネットワーク上で対面できることになります。原
作者のアーサー・クラークは1968年の時点でこれだけのこと
を述べているのです。これは、クラークという原作者が只者では
ないことをあらわしています。
 『2001年宇宙の旅』におけるクラークの記述で注目される
のは、やはり宇宙空間に浮かぶモノリス――スター・ゲートに関
する描写でしょう。原作からその部分を紹介します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ボーマンは見ているものを表現できなかった。彼は大きく平
 らで縦200m横60mの四角い岩のような固体で作られたも
 のの上にきていた。しかし、今やそれは彼から遠ざかっていこ
 うとしている。それは3次元の物体が裏返しにされたときの光
 景であるといってよいであろう。近いところと遠いところが突
 然入れ替えられたような・・・。屋根が無限の深みに落下して
 いくような感じである。目がくらむような垂直な縦穴を見下ろ
 しているような感じを受けた。
  ボーマンは脈絡のない言葉を考えることしかできなかった。
 「空洞――無限に続いている――ああ――星が輝いている」。
                      ――前掲書より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1989年のことですが、ある物理学の学術雑誌に「通り抜け
可能なワームホール――いくつかの実例」というタイトルの論文
が掲載されたのです。この論文の著者は、セントルイスにあるワ
シントン大学のマット・ビザーという学者だったのです。
 キップ・ソーンの理論では、ワームホールは球対称で砂時計に
似たかたちになるとしたのに対して、ビザーのモデルでは長方形
の縦穴のようなかたちをしているのです。砂時計の中心部分の管
は細くなっていますが、この部分を「ワームホールののど」とい
うのです。そして、そののどはそこを潜り抜けようとすると壁が
どんどん縮まって通り抜けることが困難になるのです。
 これに対してビザーのモデルは、まさにモノリスそのものであ
り、クラークは1968年にして1989年のビザーのモデルを
考えていたことになるのです。
 マット・ビザーの論文の一部を「フィジカル・レビュー/19
89」からご紹介しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  旅行者が奇妙な物質に出会わなくてすむようなワールホール
 を作ることは可能である。のどのところを平らな面にすればよ
 い。そのような平らな面のところにきた旅行者は潮汐力を感ず
 ることなく、奇妙な物質を見ることもないであろう。旅行者は
 単に別の宇宙に導かれるだけである。
  これはどんな四角いプリズムでも同じである。
        ――「フィジカル・レビュー/1989」より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 タイムトラベルの実現のための研究は、1968年の『200
1年宇宙の旅』以来、このように多くの物理学者によって大真面
目に研究が進められているのです。タイムトラベルは単なるSF
小説の中の話ではないのです。
                 ・・・[タイムマシン21]


ワームホールの形状.JPG

2006年07月21日

ブラックホールに出口がない理由(EJ第1159号)

 宇宙にある時空間トンネル――ワームホールは、実際のトンネルのように、つねに同じ場所に常時存在するものではなく、消滅したり、突如として現われたりすることがあるのです。しかも、現在わかっているワームホール――シュワルツシルトのワームホールには、人間を乗せた宇宙船を通すことなど、ほとんど不可能なのです。
 どうしてかというと、出入口が小さいことと、たとえそこを通り抜けたとしても、内部の重力の関係で、ワームホールののどが素早く閉じてしまうからです。
 1960年代に物理学者や数学者たちは、ブラックホールの研究をはじめています。回転する惑星は遠心力が原因で赤道の辺りが膨らむ現象が見られるのですが、ワームホールも同様に膨らむことがわかっています。つまり、遠心力は重力に反対するように働くわけです。
 この事実により、自転しているブラックホールは、通過可能なワームホールになるのではないかという仮説が大いに議論されたのです。なぜなら、ブラックホールが回転していると、遠心力によって閉じようとする力は減少するので、その、のどの部分を通過することはできるかもしれないと考えたのです。
 しかし、40年前のこの数学モデル――自転するブラックホールには、いくつかの大きな欠陥があるのです。ブラックホールののどの部分が通過できたとしても、宇宙飛行士は強い重力によって、ズタズタにされてしまうからです。
 飛行機から、人間が足を下にして飛び降りたとします。頭と足は上下に引っ張られます。地球の重力は高いところほど弱いので足は頭よりも強く地上に引かれます。それと同時に左右から肩が左右から押されることになります。つまり、人間の身体は上下左右に引き伸ばされるのです。左右の肩は地球の中心に引っ張られるわけです。
 これをブラックホールでやると、上下左右それぞれ引っ張られる力は非常に強いので、人間の身体はスパゲッティのようになってしまうはずです。しかし、そのブラックホールが非常に大きい場合は、そういう現象は起こらないのです。
 カール・セーガンからワームホールの科学的裏づけを要請されたキップ・ソーンは、映画『コンタクト』には、非常に分かりやすい装置を提供しています。
 乗員の乗る円形のポッドの周りは、いくつもの線状加速器(リニアック)の輪が縦横に取り囲んでいます。その輪が高速に回転すると、強いエネルギー界(プラズマ渦)を作り出します。そのようにして生じたプラズマ渦の中心にポッドを落とすと、ワームホールが発生し、ポッドは瞬時にして宇宙の別の場所に運ばれるという装置であり、実際に映画に登場します。
 『コンタクト』では、この装置の設計図が、恒星ヴェガから送られてくるという設定になっていますが、よく考えたものだと思います。地球人の手で作られるという設定になっていないところに、こういう装置を実際に作ることが、いかに難しいことであるかがあらわれていると思います。ところで、ブラックホールにはなぜ出口がないのでしょうか。
 それは、ブラックホールの重力が光を内向きに曲げてしまい、光を捕らえて、特異点というところで焦点を結んでしまうからです。それでは、「特異点」とは何でしょうか。
 正直いって、一番説明したくない概念が特異点なのです。しかし、ブラックホールの話をするときは必ず登場する言葉なので、避けて通るわけにはいきません。簡単にいうと、特異点とは、時間と空間が定義できなくなる点のことです。
 一般相対性理論は、3次元の曲がった空間の時間的発展を決める法則とみなすことができます。既に述べましたが、アインシュタインがこの理論を発表してまもなく、ドイツの物理学者であるシュワルツシルトは、アインシュタインの方程式にしたがって考えると、空間のある領域が極端にゆがみ、外部の世界から分離されてしまうことに気がついたのです。この極端にゆがんだ空間が
ブラックホールです。
 ブラックホールの構造は、基本的にはすべて同じなのですが、中心にきわめて重い天体があり、その周りを不思議な輪のようなものが取り囲んでいます。この中心の重い天体のことを特異点といっているのです。
 この輪の内部は、完全に外の世界と分離され、いったんこの輪の中に入ると、2度と外に出ることはできないのです。この現象を「事象の地平線」と呼ぶのです。事象の地平線とは、地平線の向こうで起こっている出来事はだれも知ることができないという意味でそう呼ぶのです。
 「事象の地平線」の輪の中は、重力が非常に強く、どんな物体も外に向かって運動することはできません。ブラックホールの中は井戸のような深いくぼみになっており、たとえ光であっても、抜け出せない空間なのです。
 ちょうど、事象の地平線の位置が光の速度で脱出できるギリギリの境目なのです。これを超えてしまうと、たとえ光であってもブラックホールを回る軌道に組み込まれてしまうのです。
 ワームホールの場合は、光がもうひとつの出口から出られるはずであり、そのためには内部のどこか、少なくとも事象の地平線より前の時点で光を外向きに曲げてやる必要があるのです。
 キップ・ソーンは、ワームホールを支え、ワームホールを容赦なくつぶし、特異点へと締め付ける重力と争う強力な力には何が必要であるかを考え、これを実現させる方法として、ある種の半重力を利用するというアイデアを思いついたのです。
 半重力とは何でしょうか。簡単にいってしまえば、UFOの宇宙船の推進方法――すっと垂直に上昇し、上下左右どこにでも飛行できる力です。また、古くから、重力に逆らって空中に浮かぶ空中浮揚――これも半重力です。
 アインシュタインも一般相対性理論に「斥力」というかたちで半重力を取り入れているのです。・・・[タイムマシン22]

2006年07月24日

アインシュタインの宇宙項(EJ第1160号)

 6月21日のEJ1138号から開始したタイムマシン/タイムトラベルの話は、まだ結論は出ておりませんが、今日と明日で一応終了します。
 昨日のEJの最後の部分で、アインシュタインは一般相対性理論において「斥力」というかたちで半重力を取り入れていると書きましたが、これについては面白い論争があったのです。タイムトラベルの話からは少し逸れますが、ご紹介することにします。
 一般相対性理論は、時空とその中にある物質とが密接な関係を持つことを明らかにした理論であるといえます。したがって、時空を宇宙と考えると、銀河などの宇宙の中身が、入れ物である宇宙にどのような影響を与えるかを一般相対性理論に基づいて考えることができるのです。
 当然のことながら、アインシュタインは自分の理論に基づいて宇宙の姿を考えてみたのです。ところがです。計算の結果、アインシュタインの予想に反して、宇宙は、ある一定の大きさにとどまっていられないという結論が出たのです。どうしてかというと宇宙の中にある銀河などの物質の重力によって宇宙は収縮して終わりを迎えるということが示されたからです。これは、基本的にはワームホールの、のどが収縮することと同じです。
 天才アインシュタインもこの結果にかなりショックを受けたのす。思い悩んだ末に、アインシュタインは本来の方程式を修正して、宇宙空間が斥力――押し返す力、半重力――を持つように式を勝手に作り変えてしまったのです。式の中の斥力を加えた部分は「宇宙項」または「宇宙定数」と呼ばれています。その結果宇宙空間の中の物質はそれぞれ重力で引き合いますが、空間には斥力が生じてそれを押しとどめるために宇宙全体の大きさは一定になるようにしたのです。科学者としてはやってはいけないことをしてしまったのです。
 このアインシュタインの細工は、1922年にロシアの物理学者であるフリードマンによって暴かれてしまうのです。フリードマンは、宇宙項のないアインシュタインの方程式を素直に解いて宇宙項を加える必要がないという説を発表したのです。その説は次のようなものだったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 宇宙の大きさは一定ではない。なぜなら、宇宙は膨張したり収縮したりする ものだからである。宇宙項は不要である。――フリードマン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 続いて、1927年になって、ベルギーの神父で物理学者でもあるルメート ルが、基本的にはフリードマンの説が正しいということを示す次の説を唱え たのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 宇宙は高密度の小さな<宇宙の卵>として始まって、そこから膨張してきた のである。――ルメートル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 フリードマンとルメートルの説について、アインシュタインは激怒し、2人を強く批判します。しかし、これは天才アインシュタインの衰えを証明するだけのことだったのです。
 この審判は1929年に下ります。その年に米国の天文学者であるハッブルが当時の世界最大の望遠鏡を使って、さまざまな銀河までの距離と、その遠ざかる速度を観測し、計算した結果、次の2つのことを発見したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.すべての銀河がわれわれの銀河(銀河系)から遠ざかっている
 2.各銀河が遠ざかる速度は、その銀河までの距離に比例すること
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これで勝負あったのです。アインシュタイン理論の世紀の敗北といえます。要するに、宇宙の大きさは一定ではなく、膨張していることがこれで証明されてしまったからです。これを「ハッブルの法則」というのです。アインシュタインは「わが生涯最大の不覚」といったそうです。
 しかし、近年、アインシュタインの宇宙項は何と復活しつつあるのです。宇宙の初期には宇宙項に相当する斥力があって、そのために宇宙は凄い勢いで膨張したという「インフレーションの理論」が多くの観測結果から間違いないものとされているのです。結局宇宙項は宇宙創造の鍵として働いたと考えられ、半重力は存在したといえるのです。
 ここで、アインシュタインのエネルギーと質量の関係式を思い出していただきたいのです。式が書けないので言葉で表現すると「物質が持つエネルギー(E)は、物質の質量(m)に、光速度(C)の2乗をかけたものに等しい」です。光速度は秒速30万キロメートルですから、その2乗は900億という大きな値になります。つまり、僅かな質量の物質にも膨大な量のエネルギーが
秘められているということを意味しています。
 実際に1グラムの物質は、約22万キロリットルの0度の水を100度(熱湯)にできるエネルギーを持っています。東京ドームを水で満タンにすると約124万キロリットル――1枚1グラムの1円玉が6枚あると、<22万×6=132万>となり、東京ドームを満タンにした水を沸騰させることができる計算になります。これを応用したものが原子爆弾だったのです。
 このエネルギーを正のエネルギーとすると、半重力は負のエネルギーということになります。負のエネルギーは斥力であり、ものを押し返す力です。したがって、キップ・ソーンは、何らかの方法でワームホールに負のエネルギーを起こさせることができれば、のどを閉ざすことを防ぐことができると考えたのです。
 実は1974年になってスティーヴン・ホーキングはブラックホールの近くに負のエネルギーが存在することをつきとめているのです。・・・[タイムマシン23]

アインシュタインの方程式の改ざん.JPG

2006年07月25日

インフレーション理論とは何か(EJ第1161号)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ――ブラックホール。彼女は確信した。これはブラックホールに違いない。 <マシーン>は事象の地平線を越えて、恐るべき特異点に向かっているの  だ。あるいは、ここはブラックホールではなく、<マシーン>は裸の特異点 に接近しようとしているのだろうか。裸の特異点・・・物理学者が考え出した言 葉だ。重力崩壊によって時空の曲率が無限大になる領域が特異点である。言 わばブラックホールの中心であり、時空の終点だ。これが事象の水平線に囲 まれていず、すなわち、ブラックホールを伴わなずに生じたものが裸の特異 点である。特異点では、因果律が破られ、物理法則は成り立たない。結果は物 原因に先立ち、時間の逆流が起こり得る。特異点に落ち込んだら、その体験  を記憶するどころか、二度と再び生きて帰れない。エリーはかつて学んだ知 識を総ざらいしてブラックホールと特異点について考えた。―― カール・ セーガン著『コンタクト』(下)より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これは、小説『コンタクト』において、ポッドに乗ったエリーがワームホー ルを抜けていくシーンの描写です。カール・セーガンは不安と期待に揺れる エリーの心を見事に描いています。
 小説にしては、かなり難しい専門語――ブラックホール、事象の水平線、特 異点などが出てきますが、ここまできちんとEJを読んでいただいた読者に は、ある程度のことは理解していただけると思います。これが理解できれ  ば、少なくともタイムマシン/タイムトラベルについて考えるアタマを持っ たといえるのです。
 タイムマシン/タイムトラベルの問題は、つきつめて行くと宇宙の始まりと いう宇宙物理学の問題になってしまいます。宇宙が膨張しているとすると、 現在の広大な宇宙は膨張の結果できたものであり、過去の宇宙はもっと小さ かったと考えられます。
 アインシュタインの宇宙項に反対したルメートルは、宇宙の出発点を「宇宙 の卵」と呼び、過去の宇宙は小さく圧縮された高密度のかたまりであったに 違いないといっています。こうした考え方を受けて、1940年代に米国の 物理学者ガモフはビックバン理論を唱えるのです。ビックバン理論を超要約 すると次のようにいうことができます。
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  初期の宇宙は、超高温・超高密度である=ビックバン理論
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 ビックバン理論の提唱者であるガモフは、もし、宇宙の初期が本当に超高温であれば、その名残りが今でも宇宙にあるはずだといっていたのです。果たせるかな、1965年にそれは証明されることになります。
 米国のベル研究所のペンジアスとウィルソンは、衛星通信用の高感度アンテナに原因不明の電波が混じることに気が付き、追求した結果、その原因不明の電波が、絶対温度3度の波長の電波であり、ガモフのいう高温の初期宇宙の名残りであると主張したのです。この電波は、「宇宙背景放射」と呼ばれ、ビックバン理論の強力な証拠となっているのです。
 ビックバン理論をもう少し正確にいうと、次のようにいうことができます。
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 ビックバン理論は、宇宙が膨張・収縮することを予測した一般相対性理論  と、ハッブルの宇宙膨張の発見と宇宙背景放射の発見という2つの観測結果 に基づいている。
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 しかし、ビックバン理論だけでは、わからないことはたくさんあるのです。ビックバン理論に基づいて宇宙の起源を過去に遡ると、宇宙が生まれた瞬間は、宇宙はある1点に凝縮され、そこでは温度も密度も無限大になります。これは、特異点そのものであり、宇宙は特異点から生まれたということになります。
 しかし、既に述べたように、特異点では一般相対性理論も含めたあらゆる物理法則が成立しなくなるのです。そうすると、宇宙は、特異点という物理法則が破綻する点から生まれて、その後は相対性理論にしたがって膨張してきたという、いささか不完全な理論展開になるのです。
 それにビックバン理論での膨張率は「時間の3分の2乗に比例する」といわれており、これによると比較的ゆっくりと宇宙は膨張してきたということになります。
 1981年になって、日本の宇宙物理学者である佐藤勝彦教授と米国の素粒子物理学者グースは、それぞれ独自に「初期の宇宙は急激に膨張した」という説を発表したのです。これが「インフレーション理論」です。
 どのくらいの勢いかというと、1ミリの砂粒が一瞬にして10兆キロメートルの1兆倍のさらに1兆倍の大きさに膨れ上がったと考えていただきたいのです。まさにインフレーションです。
 インフレーション理論では、最初に母宇宙がインフレーションを起こして子宇宙を作り、その子宇宙が今度は孫宇宙を作るというように宇宙の多重発生を提示しています。そして、それぞれの宇宙はワームホールでつながっていて、インフレーションが終了してビックバンが起こると、ワームホールは切れて、それぞれが宇宙を形成すると考えているのです。つまり、ワームホールは数学上のひとつの解としての存在から実在するとしたのです。
 実は、この考え方は量子論につながってくるのです。量子論とタイムトラベルは密接な関係にあるのです。現在、量子論については研究中ですが、いずれEJのテーマとして取り上げます。
 それからもうひとつ、タイムトラベルの話をしながら、あえて避けてきた問題に因果律の問題があります。これは、きわめて哲学的な問題ですが、量子論とともに興味あるテーマであると思っています。
 タイムマシン/タイムトラベルの話は本日で終了します。−−[タイムマシン24]

宇宙の多重発生.JPG