三十六人撰のからくりを探る(EJ第1277号)
「三十六人撰」というのは、藤原公任が柿本人麿から中務まで三十六人の歌仙の歌、
百五十首を撰出して結番した歌合形式の秀歌撰のことをいいます。後年になって、藤原
俊成は公任の撰んだ三十六人の歌人につき、それぞれ各三首を選び直したのが「俊成三
十六人歌合」です。
まず、これら2つの歌集の比較からはじめることにします。
「三十六人撰」において藤原公任は、歌人の格付けをやっているのです。36人の歌
人を左右18人ずつに分けて、番号をつけたのです。左右では左が右よりも格が高く、
番号は1番から順に格が下がっていくのです。大事なポイントなので、すべてを書き出
しておきます。
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左 1:人麻呂 右 1:貫之
左 2:躬恒 右 2:伊勢
左 3:家持 右 3:赤人
左 4:業平朝臣 右 4:遍昭僧正
左 5:素性 右 5:友則
左 6:猿丸 右 6:小町
左 7:兼輔卿 右 7:朝忠卿
左 8:敦忠卿 右 8:高光
左 9:公忠朝臣 右 9:忠岑
左10:斉宮女御 右10:頼基
左11:敏行朝臣 右11:重之
左12:宋干朝臣 右12:信明朝臣
左13:清正朝臣 右13:順
左14:興風 右14:元輔
左15:是則 右15:元真
左16:小大君 右16:仲文
左17:能宣朝臣 右17:忠見
左18:兼盛 右18:中務
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左と右の格の順序はこうなります。例えば、右の1番の貫之は左の1番の人麻呂より
も格は下ですが、左の2番の躬恒よりは格が上になります。
藤原公任は、これら36人の歌人について最初の左右1番と2番の4人と最後の18
番の2人については、それぞれ10首、他の歌人については各3首ずつを採っているの
です。
つまり、「三十六人撰」という歌集には、6人については10首ずつで60首、他の
30人については各3首ずつですから90首、合計で150首の歌が集められているこ
とになります。
奇妙に考えられるのは、上位の格の高い4人については10首というのはわかります
が、なぜ、一番格の低い18番の左右2人が10首なのかということです。
さて、後年の俊成の「俊成三十六人歌合」も公任の選んだ36人の歌人について歌の
選び直しをしています。そして、歌人の格付けも公任のものをそのまま踏襲しているの
です。しかし、歌の数については、36人から各3首ずつ集めているのです。36人か
らそれぞれ3首ですから、108首ということになり、俊成のそれとは42首の差が出
ることになります。
注目すべきは、猿丸大夫のポジションです。猿丸大夫は左の6番という高いポジショ
ンを与えられています。ここで、次の表を見ていただきたいのです。
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≪歌の通し番号≫ ≪左格通し番号≫
59 − 30 = 29
60 − 31 = 29
61 − 32 = 29
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「59」という数が出ていますが、これは猿丸大夫の3首の歌のうち、先頭の歌の通
し番号です。歌は左1番、右1番、左2番右2番、・・・の順序に並ぶのです。最初の
4人は10首ずつですから、伊勢の歌の最後が40首目ということになります。
続く、左3番以降右17番まではそれぞれ3首ですから、猿丸大夫の歌の前、すなわ
ち友則の歌までで、40+18で58首ということになり、59番が猿丸大夫の歌にな
ります。つまり、猿丸大夫の歌は59〜61番までです。
続いて、左格の通し番号とは、これは右を無視して、左1番〜左18番までの歌の通
し番号のことです。左1番と左2番で20首、左3番〜猿丸の1つ上の左5番までは9
首ですから、合計して29首、猿丸大夫の歌は30番〜32番ということになります。
そして、左右順番の通し番号から左格の通し番号の差をとってみると、すべて「29」
という数字になります。
この「29」という数は、左右の格付けをしているために、全歌仙の中で、猿丸大夫
だけに現れる数ということになります。この29番を、念のため、古今集の通し番号の
29番に合わせてみると、次の歌が現れたのです。
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29. をちこちのたつきもしらぬ山中に
おぼつかなくも喚子鳥かな
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何とこの歌は、猿丸大夫の3首のうちの最初の歌なのです。これは、単なる偶然でし
ょうか。既に述べたように、古今集においては「三十六人撰」の猿丸大夫の歌3首は、
いずれも「詠み人知らず」になっているのですが・・・。
藤原公任はこの仕掛けを作るために、格付け上位4人と下位2人については10首、
他は3首ずつというややこしい歌の選び方をしたのでしょうか。
しかし、それなら、なぜ「おくやまに・・」ではなく、「をちこちの」なのでしょう
か。その秘密は「喚子鳥(よぶこどり)」という鳥にあるのです。
・・・ [百人一首/08]
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