喚子鳥/百千鳥と紀貫之(EJ第1279号)
百人一首に入っている歌の中で、5番の歌「おくやまに・・」の作者である猿丸大夫
は、次のような理由により、特異な存在になっています。今まで検討してきたことを6
つにまとめておくことにします。
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1.藤原公任は、古今和歌集で「詠み人知らず」である歌3首
を猿丸大夫という名前で「三十六人撰」に収めている。
2.猿丸大夫は生没年、経歴ともに不明の謎の人物であり、猿
丸大夫の名前では勅撰集に1首も選ばれていないこと。
3.藤原俊成は、「三十六人撰」に入っている猿丸大夫の同じ
歌3首を、「俊成三十六人歌合」の中にも収めている。
4.藤原定家は、「三十六人撰」および「俊成三十六人歌合」
の中の猿丸大夫の歌1首を百人一首の中に収めている。
5.藤原定家は、百人一首のうち99首を勅撰集から採歌して
いるが、猿丸大夫の1首は私撰集から採っていること。
6.定家は百人一首の中の猿丸大夫の歌「おくやまに・・」と
よく似ている俊成の歌を83番の歌として収めている。
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以上により、これらの歌集において、猿丸大夫は特異の存在であり、何らかのキーワ
ードとして使われているのではないかと考えられるのです。
28日のEJ第1277号において、「三十六人撰」における猿丸大夫のポジション
(左格6番)について、「三十六人撰」全体の歌の通し番号と左格の通し番号の差をと
ったところ「29」という数があらわれましたが、古今和歌集の29番は次の歌である
ことがわかったのです。
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29. をちこちのたつきもしらぬ山中に
おぼつかなくも喚子鳥かな
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この歌は、「三十六人撰」に猿丸大夫の作として公任によって選ばれている歌であり
しかも、この歌には古今伝授の三鳥のひとつが歌い込まれており、古今伝授とも関係が
あるようです。
このあと、猿丸大夫に関連してキーワードとなりうる数としては、次の4つが上げら
れと思います。
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1.「三十六人撰」と「俊成三十六人歌合」の
全体の通し番号の差
2.「三十六人撰」と「俊成三十六人歌合」の
左格の通し番号の差
3.「俊成三十六人歌合」における全体と、左
格の通し番号との差
4.「三十六人撰」と「俊成三十六人歌合」に
おける歌数の差42
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1については、次の結果となります。繰り返しますが、猿丸大夫は、左格6番のポジ
ションです。
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≪歌の通し番号≫ ≪左格通し番号≫
59 − 31 = 28
60 − 32 = 28
61 − 33 = 28
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この「28」で古今和歌集を引くと、次の歌が出てきます。
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28.ももちどりさへずる春は物ごとに
あらたまれども我ぞふりゆく
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ここで「ももちどり」とは「百千鳥」――またまた古今伝授の三鳥の中のひとつが登
場してきました。
続いて、2と3を計算します。
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●「左の格の通し番号の差」
≪「三十六人撰」≫ ≪「俊成三十六人歌合」≫
30 − 16 = 14
31 − 17 = 14
32 − 18 = 14
●「俊成三十六人歌合」の通し番号の差
≪全体の通し番号≫ ≪左の格の通し番号≫
31 − 16 = 15
32 − 17 = 15
33 − 18 = 15
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この「14」と「15」については、試行錯誤の結果、次の事実が判明しています。
「三十六人撰」の中で猿丸大夫の名前で採歌されている歌は3首あり、その最初の歌は
59番の「をちこちの・・」です。この歌が古今和歌集の29番に「詠み人知らず」と
して出ていることは既にお話ししましたね。
この古今和歌集29番の歌から14番目の歌が何であるかを調べると次の歌が出て
きたのです。番号は42番です。
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42.人はいさ心も知らずふるさとは
花ぞ昔の香ににほひける 紀貫之
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この歌は百人一首の35番の歌です。ここで、やっと百人一首の歌との関連が出てき
ました。しかも、この「42」という数字は、「三十六人撰」と「俊成三十六人歌合」
の歌の数の差なのです。そして古今和歌集の42番から15番さかのぼると――つまり
「をちこちの・・」の前の歌が古今伝授に関係のある「ももちどり・・」の歌なので
す。「14」と「15」という数字はいずれも古今和歌集の選者「紀貫之」に結びつく
のです。 ・・・ [百人一首/10]