紀貫之をめぐる歌の分析(EJ第1280号)
2007年になって早くも1週間が過ぎました。百人一首のテーマはしばらく続きま
すが、結論はかなり先になりますので、区切りのよいところでいったん終了し、別のテ
ーマをいくつか取り上げて、再び百人一首のテーマに戻るというスタイルで記述します
ので、ご了承願います。
古今和歌集の42番は、紀貫之の次の歌です。
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42.人はいさ心も知らずふるさとは
花ぞ昔の香ににほひける 紀貫之
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この「42」という数は「三十六人撰」と「俊成三十六人歌合」の歌の数の差です。
「三十六人撰」の方が「俊成三十六人歌合」よりも歌の数が42首多いのです。
ここで、百人一首に採用された36歌仙を洗い出してみると、次の25歌仙になりま
す。左右の格で示しておきます。
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左 1:人麻呂 右 2:貫之
左 3:躬恒 右 4:伊勢
左 5:家持 右 6:赤人
左 7:業平 右 8:遍昭
左 9:素性 右10:友則
左11:猿丸 右12:小町
左13:兼輔 右14:朝忠
左15:敦忠 右18:忠岑
左21:敏行 右22:重之
左23:宋干 右28:元輔
左27:興風 右34:忠見
左29:是則
左33:能宣
左35:兼盛
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さて、ここでひとつの実験をします。百人一首では上記25人の歌人が1首ずつです
から、歌の数は25首ですが「三十六人撰」の独特の数え方と「俊成三十六人歌合」の
1人3首の数え方で、この25歌仙を数えるとどうなるか――そんなことをしても意味
がないではないかという疑問を持つ方もいると思いますが、やってみることにします。
「三十六人撰」における歌の数え方とは、左格1〜左格2と、右格1〜右格2の4人
の歌人、それに左格18と右格18の2人の歌人については、それぞれ10首ずつ、そ
れ以外の歌人についてはそれぞれ3首ずつという選び方です。意味がわからない方は、
1月28日のEJ1277号を参照願います。
百人一首に選ばれている25人の歌人のうち、10首と計算する歌人を次に示してお
きます。
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左格 1:人麻呂 右格 1:貫之
左格 2:躬恒 右格 2:伊勢
左格18:兼盛
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全部で5人ですから50首、それ以外の20人は3首ずつですから60首――合計し
て110首ということになり、「110」という数字があらわれました。
これに対して、「俊成三十六人歌合」は25人がそれぞれ3首ずつですから75首と
なり、「75」という数字が出てきます。そこで次の計算をすると、「35」という数
字になります。
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110 − 75 = 35
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百人一首でこの「35」番の歌をひくと、次の歌になります。
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35.人はいさ心も知らずふるさとは
花ぞ昔の香ににほひける 紀貫之
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話がかなり複雑になっていますが、ご理解いただけますでしょうか。こうなると、と
ても偶然とは思えなくなります。そこに一定のルールのようなものがあるからです。
紀貫之の「人はいさ心も知らず」の歌は、古今和歌集では42番の歌になっています
が、この「42」という数字は「三十六人撰」と「俊成三十六人歌合」の歌数の差――
150−108=42――なのです。
ところが、藤原定家は、公任がやったのと同じロジックを使って「35」という数字
を出し、百人一首の35番の歌として「人はいさ心も知らず」の歌を配置しているので
す。これで、百人一首の歌番号が年代別などではなく、ある目的のために、一定のロジ
ックの下に決められている――そのように考えられます。
さて、古今伝授の三鳥――喚子鳥、百千鳥、稲負鳥のうち、稲負鳥については、まだ
お話ししていません。稲負鳥を詠み込んだ歌は古今和歌集の208番に載っています。
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208.わがかどにいなおほせどりの鳴くなへに
けさ吹く風に雁はきにけり
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古今和歌集を見ると、この歌の5首前に「ひぐらしの・・」の歌(204)がありま
す。「三十六人撰」に載っている猿丸大夫の歌3首のうちの2番目の歌です。
そして、この歌から数えて8番目に、猿丸大夫の3番目の歌で百人一首の5番に置か
れている「おくやまに・・」の歌があるのです。つまり、古今和歌集208番の「わが
かどに・・」の歌はその前後を猿丸大夫の歌によってはさまれたかたちになっているの
です。ここに、「5」と「8」という数字が浮かび上がってきますが、この解明は明日
のEJでやることにします。 ・・・ [百人一首/11]
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