百人一首五歌とは何か(EJ第1282号)
藤原定家の家系は、孫の代になってから家督相続の争いが起こり、次の3家に分立し
ています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1.二条家 ・・ 為氏 ・・ 百人一首
2.京極家 ・・ 為教(為氏の弟)
3.冷泉家 ・・ 為相 ・・ 百人秀歌
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
定家の長男である為家には為氏という嫡男がいます。しかし、為家は、50歳を過ぎ
てから後妻――阿仏尼を迎えています。この阿仏尼が為家との間に生まれた為相(ため
すけ)に宗家を継がせようとしたことから宗家をめぐる争いが起こるのです。
こういう場合、宗家は先妻の子に継がせるのがすじというものであり、為家は荘園の
権利を為氏に与えていたのです。しかし、阿仏尼の執拗な訴えにより、為家は為氏に権
利を為相に渡すよう迫ったのです。ところが、為氏はそれに抵抗して権利の譲渡を拒否
――結局、為家の生存中にはそれは実現せず、これが原因で、定家の家系は3家に分割
されたのです。
そして、百人一首は二条家、百人秀歌は冷泉家に伝えられたのですが、百人一首の方
は積極的に流布されたので、多くの人の知るところになったのに対し、百人秀歌の方は
徹底的に秘匿され、1951年になってやっと発見されたのです。
もうひとつ藤原家の歴史について、百人一首の謎を解くための鍵となる事実がありま
す。それは、為家が彼の先妻の父、入道蓮生から嵯峨中院の山荘――百人一首の色紙を
貼った障子がある山荘――を相続しており、それは為相(冷泉家)に受け継がれている
ことです。
これから少しずつ明らかになっていきますが、百人秀歌は百人一首の謎を解くために
は不可欠なものであり、これが発見されるまでは、誰も百人一首の謎に迫ることはでき
なかったのです。百人秀歌が厳重に隠されたのは、そういう理由によるのです。
ところで、百人秀歌には、巻末に次のような奥書があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
上古以来歌仙之一首 髄思出 書出之。名誉之人秀逸之詠、皆
漏之。 用捨在心。自他不可有傍難歟。
――上古以来の歌仙の一首を思うままに選んだ。名誉の人や秀
れた歌は皆漏らしたが、なぜそのようにしたかという理由は自
分の心の中にあるので、他からとやかく言わないで欲しい――
――藤原定家
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
もうひとつ百人一首には、古今伝授が明らかに深く関与していると考えられます。古
今伝授に関しては元禄14年に刊行された「和歌極秘伝」に、秘伝内容として次の12
項目が上げられています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1.歌のとまり字の口傳 7.古今和歌集山鳥の口傳
2.詠歌制の詞口傳 8.同七首の秘歌
3.百人一首五歌の口傳 9.三木の口傳
4.同他流の口傳 10.一首十躰
5.伊勢物語七ヶの秘事 11.一首五躰
6.つれづれぐさ三ヶの秘事 12.木綿袴の歌
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
この中に「百人一首五歌の口傳」とあることを見ても、百人一首が古今伝授に関係の
あることは確かです。古今伝授の伝授者である細川幽斉自身も「幽斉抄」の中で次のよ
うに述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
和歌の骨髄は此百人一首なり。余情比類なき物也。十の内実は
六七分、花は三四分たるべきにや ―――細川幽斉
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
さて、古今伝授の秘伝の内容に上げられている「百人一首五歌の口傳」の「五歌」と
はどの歌を指すのでしょうか。
これは、二条家と冷泉家では違うのです。歌人の名前で上げておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
二条家: 忠岑 人麻呂 仲麻呂 喜撰 定家
冷泉家: 忠岑 家持 忠道 実朝 経信
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
最初に冷泉(れいぜい)家の五歌から分析することにします。五歌とはどのような歌
でしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
30.有明のつれなくみえしわかれより
暁ばかり憂きものはなし 忠岑
6.かささぎのわたせる橋に置く霜の
白きを見れば夜ぞふけにける 家持
76.わたの原こぎいでてみればひさかたの
雲居にまがふ沖つ白波 忠道
93.世の中はつねにもがもな渚こぐ
あまの小舟の綱手かなしも 実朝
71.夕ざれば門田の稲葉おとずれて
あしのまろやに秋風ぞ吹く 経信
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
これら五歌は、百人一首だけではなく、百人秀歌にも選ばれています。それぞれの歌
番号を合計して見ましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
≪百人一首≫
忠岑 家持 忠道 実朝 経信
30+ 6 +76+ 93+71 = 276
≪百人秀歌≫
忠岑 家持 忠道 実朝 経信
30+ 5 +79+ 98+70 = 276
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
驚くべきことですが、合計数が276で一致しているのです。
・・・[百人一首/13]
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://www.intecjapan.com/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/79