地球規模の洪水伝説は世界中にある(EJ第1003号)
「ノアの洪水」の謎を解くことに貢献した人物の一人にジョージ・スミスという人が
います。スミスは、1840年に英国のロンドンで生まれ、14歳のときに銀行券の銅
版づくりの見習いになります。
この仕事でスミスは非凡な才能を発揮します。しかし、スミスの関心は楔形文字を解
読することにあったのです。そこで、スミスは、銅版づくりの仕事をやめて、博物館の
修理工として働き始めます。それは、楔形文字の刻み込まれた何千という粘土板の断片
を集めて修復する作業です。この仕事を通じて、スミスは楔形文字を完全に解読するこ
とができるようになったのです。
スミスの名を世界的に有名にしたのは、アッシリアの首都ニネヴァで発掘された粘土
板の解読に成功したことです。その粘土板は、アッシュール・バニパル王の図書館にあ
ったものですが、その一片には、次のように記述されていたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ニシル山に船は止まった。7日たっても、船はニシル山の頂に
止まったままだった。私は、鳩を放った。だが、止まる場所が
ないのか、鳩は戻ってきた。
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これは創世記の「ノアの洪水」の記述に瓜二つです。「ニシル山」と「アララト山」
の違いはありますが、明らかに、「ノアの洪水」のことを書いています。スミスは、残
りの膨大な粘土板をつなぎ合わせて読んでいったところ、それは「ギルガメッシュ叙事
詩」と呼ばれる文献であることが判明したのです。
さらに調べてみると、この粘土板は、アッシリア人が先住民であった古バビロニア人
から継承したものであることがわかったのです。このアッシュール・バニパル王という
人は古代文化に造詣が深く、アッシリア以前の記録を収集して、自ら図書館を建てて、
そこに保存していたのです。
「ギルガメッシュ叙事詩」は全編12章から成り、その11章に、「ノアの洪水」と
そっくりの記述があるのです。『ノアの大洪水』の著者のノーマン・コーンによると、
その11章は幸いにも全体のうちで最もよく保存されているもののひとつであり、洪水
の記述は200行に及んでいたそうです。
1872年12月3日、スミスは聖書考古学会で「ギルガメッシュ叙事詩」について
報告し、世界中にそのニュースは伝わっていったのです。その発表会の席には、当時の
英国首相グラッドストンをはじめ、多くの著名な学者、神学者、考古学者がならんでい
たといいます。しかし、スミスは、惜しいことに赤痢にかかり36歳の若さで世を去っ
ています。
昨日のEJで「あること」が原因で「ノアの洪水」が、もしかしたら史実ではないか
と考えられるようになったと述べましたが、その「あること」とは、スミスによる「ギ
ルガメッシュ叙事詩」の発見なのです。
仮に「ノアの洪水」が史実であったと考えてみましょう。そうであったとすると、大
洪水――それも地球規模の大洪水の記録はメソポタミア地方だけでなく、世界中にある
はずです。結論からいうと、地球規模の大洪水の記録は世界中に存在するのです。
イラクの隣りのイランには、ペルシャ人固有の神話体系の中に洪水伝説があります。
インドは遺跡の中から楔形文字が見つかっており、もともとメソポタミア地方との結び
つきは強いのです。もちろん洪水伝説は存在します。インドには「マハーバーラタ」と
いう大叙事詩があるのですが、この中に「ノアの洪水」とそっくりの話があるのです。
中国では、「欽定古今図書集成」の中に、大洪水が起こって地上の人間や動物は絶滅
したが、一部の人間や動物は巨大なヒョウタンに乗って助かるという話があります。こ
の他にも漢民族の神話の中に大洪水の伝承が見られます。
オーストラリアにも大洪水の伝説があります。ここでは、動物が主人公になっていま
す。ハワイにも洪水伝説があります。ハワイの話は、「創世記」の「ノアの洪水」の話
と酷似しています。北米のアラスカ地方にも大洪水の伝説はあります。インディアン系
のトリンギット族、その他のインディアンの部族を調べると大洪水神話は存在します。
中南米インディアンの神話の中にも、スケールの大きな大洪水の伝説が存在します。
今までに宇宙は4回死滅したが、そのつど大洪水と大火事が天地を襲ったとあります。
ギリシャにも大洪水伝説があります。古代ギリシャが青銅の時代、主神ゼウスが堕落
した人類を滅ぼす目的で、大洪水を起すのですが、「ノアの洪水」によく似ています。
ヨーロッパの北欧神話の中にも洪水伝説があります。北欧神話の『エッダ』という文
献の中に、真っ赤な色をした星が現れて、大洪水が起こったという話があります。北方
のスカンジナビアやアイルランドにも大洪水の伝説があります。
古代エジプトに関しては、直接的に大洪水にふれた記録はないのですが、エジプトの
地方の神話の中には大洪水伝説があるといわれています。アフリカのマサイ族の神話に
も大洪水の話が存在します。
不思議なことに日本に関しては、明確に大洪水についての記述が残っていないのです
。日本神話の原典である「古事記」や「日本書記」には、「大洪水」ということばも描
写もないのです。しかし、イザナギとイザナミによる日本列島形成に関する記述はあま
す。それを大洪水直後と考えればツジツマは合います。
このように、例外はあるとしても、世界中に地球規模の大洪水の記録が伝説として存
在しているのです。その神話のいずれもがひとにぎりの人間や動物をのぞいて、世界中
の人間や動物が絶滅したと述べています。したがって、「ノアの洪水」は、実際に起こ
った史実と考えても別に不思議はないのです。
しかし、神話の中に残っていてもそれは起こったことの証明にはならないという説も
一理あるといえます。 ・・・ [ノアの洪水/04]
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