ウィストンとはどういう人物か(EJ第1009号)
ニュートンの弟子というべき人のひとりに、ウィリアム・ウィストン(1667〜1
752)という人がいます。ニュートンとは25歳の年の開きがあります。ウィストン
は、彼がケンブリッジ大学の学生のとき、ニュートンの『プリンキピア』という著作を
読んで感銘を受け、後にニュートンの推薦によってケンブリッジ大学・数学科のルカス
教授職を長く務めた人物です。
ところで、ニュートンの『プリンキピア』という本をご存知でしょうか。ニュートン
という人は、自分の研究を世に広めるのにあまり熱心でなかった人なのですが、ニュー
トンよりも10歳年上に当るエドマンド・ハレー――あのハレー彗星を発見した天文学
者――がニュートンに強く勧めて、陽の目を見た著作です。このハレーについては、あ
とでEJのテーマにからんできますので覚えておいてください。
ところで、『プリンキピア』では、ニュートンは次の3つの法則を公理として置いて
説明しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1.慣性の法則
2.運動の法則
3.作用反作用の法則
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定理というのは、この公理から導き出されたものであり、多くの定理が生まれていま
す。ケプラーの法則やガリレイの放物運動も、その定理のひとつということになるので
す。
数学においては、公理は必ずしも事実に基づかなくても良いのですが、物理の世界で
はそれは許されないのです。そのため、ニュートンが置いた公理は、実験や観察に基づ
いて導き出したものであったのです。そういう意味で、ニュートンは「私は仮説をつく
らない」といったのです。
『プリンキピア』は難解であるにもかかわらずベスト・セラーになり、若い人たちや
女性にも読まれたそうですが、そのせいもあって、『プリンキピア』の手法、つまり3
つの公理から出発する演繹法は、他の分野でも使われ始めて、それは神学にも及んだの
です。 これは、数学論文の形式にもなっています。ところで『プリンキピア』という
のは英語 「principle」をラテン語の「principia」 であり、それをカタカナにしたも
のなのです。
さて、EJ1007号で「ノアの洪水の謎を解く3つの理論」を上げましたが、その
第2の理論というのが、ウィリアム・ウィストンによる「地球の新理論」なのです。こ
の「地球の新理論」はニュートンの影響を受けて、次のような数学論文の形式でまとめ
られているのです。
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第1編 補助定理
第2編 仮説
第3編 現象
第4編 解
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この「地球の新理論」を仮に新刊書として出版するとして、表紙のオビに当る部分を
ウィストンは次のように書いています。
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すべてのもののはじまりから終末までの地球の新理論。ここ
では、聖書に示されたような6日間の世界の創造、全世界的な
洪水、そしてすべてのもののはじまりから焼失が、理性と哲学
に完全に合致することが示される――ウィストン
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この理論の説明に入る前に、ウィストンという人がどういう人であったかについても
う少し述べることにします。
ウィストンはもともと聖職者ですが、ケンブリッジ大学で数学と天文学の公開講義を
し、聖書の注釈やキリスト教の教義史の本を書いて出版するなど、大変活躍した人なの
です。彼は科学の関心においても、宗教への関心においてもニュートンの影響を大きく
受けていたのです。
ウィストンは、ニュートンが考えたように、三位一体説は原始キリスト教に付け加え
られた虚偽と確信していたのです。「三位一体」とは,聖書において啓示されている神
をいい表すキリスト教教理用語です。
「三位一体の神」とは,聖書の神が実体において唯一の神でありつつ、父と子と聖霊
の3つの位格において存在することを意味しているのですが、この三位一体の神の教理
は,歴史において、激しい論争を通して形成されたのです。三位一体の神の教理の成立
に至るまでの論争を教理史において「三位一体論争」と称しているのです。
ウィストンは、キリスト自身もその初期の弟子たちも子が父と同体であるとは信じて
いなかったと指摘し、ニュートンも同じ考え方であったのです。しかし、ニュートンは
自分の社会的地位を考慮してそのことを明言しなかったのに対し、ウィンストンは迎合
できず、大胆率直にそのことを講義で話したり、出版したりしたので、ケンブリッジ大
学の教授職を奪われ、大学から追放されてしまうのです。
このように、ウィストンは「変わり者の宗教家」というレッテルが貼られ、第一線か
ら遠ざけられるのですが、彼の「地球の新理論」は高く評価され、全部で6回も再版さ
れ、英国だけでなく米国やフランス、ドイツにも広く読まれたのです。最後の版は、1
755年でしたから、1752年のウィストンの死後まで本は寿命を永らえることにな
ります。
考えてみると、ウィストンが生きていた時代には、ケプラー、ガリレオ、ハレー、ニ
ュートン、バーネットという非常に優れた数学者や天文学者がほぼ同時期に生きていた
ということがわかります。背景を理解していただいたうえで、明日のEJではウィスト
ンの「地球の新理論」の説明をします。 ・・・ [ノアの洪水/10]
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