有機EL開発におけるコダック特許(EJ第1094号)
「太陽電池」というものがあります。現在では、広く普及して電卓などに当然のよう
に使われています。乾電池などの補給が必要ないので、とても便利です。実は、有機E
Lの原理は、この太陽電池のちょうど逆の発想なのです。
太陽電池は、太陽や電球などの光エネルギーを受けた物質が電気エネルギーを発生し
、電子機器を動かすというものです。有機ELはこれとは逆に、電気エネルギーを光エ
ネルギーに変えて、材料としての有機物に電気を流し、光らせようというものです。し
かし、プラスチックなどの有機物は電気が流れにくいのです。そういうわけで、多くの
学者がこの研究に挑んでは失敗していったのです。
こういう状況のなかでひとつの道を拓いたのが、イーストマン・コダック社の、タン
という研究員だったのです。
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C.W.タン――C.W.Tang
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80年代のはじめのことですが、当時米国政府は石油対策として、太陽電池の研究開
発に多額の投資を行っていたので、イーストマン・コダック社でも、太陽電池の研究開
発を積極的に行っていたのです。
しかし、タン氏が率いるコダック社の研究チームでは、太陽電池の素材に有機物質を
利用していたのです。普通はシリコンなどの無機物を使うのですが、コダック社のタン
・ チームは、他とは一味少し違う太陽電池を開発していたのです。いわゆる有機太陽電
・ 池です。そのとき開発された技術は次の4つです。
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1.真空成膜技術
2.電荷輸送性有機材料
3.電極材料
4.素子構造(多層構造)
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簡単にいうと、タン氏らはその太陽電池制作の工程の中で、有機薄膜を積み重ねて使
うという独特の方法で、高効率化を実現することに成功していたのです。
タン氏は、この有機太陽電池の制作経験から、効率よく有機物質に電気を通せれば、
有機物質を光らせることは可能と考えていたのです。そして、発光させる有機材料を2
層にするという卓抜なアイデアが実って、非常に高い輝度で光らせることに成功してい
るのです。
しかし、コダック社内では、ほとんどタン氏は、相手にされなかったのです。という
のは、光るとはいってもほんの数分で消えてしまったからです。それどころか、コダッ
ク社は、タン氏にそのプロジェクトの停止を通告したのです。
何やら青色発光ダイオードの開発に成功した中村修二博士の話とよく似ています。そ
こでタン氏は「プロジェクトを解散するなら、せめて論文だけでも発表させて欲しい」
と会社と交渉し、それを認めさせています。
このコダック社というのは非常にシビアな会社で、技術者たちに、特許を出願しても
論文の発表は厳禁という不文律を押し付けていたのです。会社から論文発表の許可を得
たタン氏は早速論文を発表します。1987年のことです。
結果として、この1987年という年を機に有機ELは大飛躍を遂げることになりま
す。というのは、タン氏の論文を見て、日本の学者、技術者、企業が続々とタン氏に会
いに、コダック社にやってくるようになったからです。その結果、タン氏のプロジェク
トは継続されることになったのです。
ちなみに、「アプライド・フィジックス・レターズ」に掲載されたタン氏の論文を見
て積極的に動いた日本の企業は、次の8社です。まさに先見の明――日本企業は大した
ものです。そこから先は、有機ELは日本の独壇場になるのです。
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≪電機系メーカ≫ ≪化学メーカ≫
1.パイオニア 7.三菱化学
2.NEC 8.出光興産
3.TDK
4.スタンレー
5.三洋電機
6.東芝
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コダック社のタン氏の研究成果により生まれた技術は次の2つです。これは「コダッ
ク特許」といわれています。
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1.超薄漠を可能にしたこと
2.発光層二層化の多層構造
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有機層に電極を付けて電気を流す場合、有機膜が薄ければ薄いほど電気は流れやすく
なります。しかし、膜を薄くすると、ピンホールができてしまうのです。ピンホールと
いうのは、小さい穴とかすき間のことです。
ピンホールが多い膜に金属の電極を付けると、金属がピンホールに入ってしまい、シ
ョートしてしまうのです。しかし、それを避けるために膜を厚くすると、相当高い電圧
をかけても電気が流れにくくなってしまうのです。
そこでタン氏は、薄膜にしてもピンホールができない優れた有機材料を発見して使っ
ています。これは、低分子系の材料です。しかも、それを2層にして万全を期したこと
です。2層にするとたとえ1層目にピンホール欠陥があったとしても、2層目のコーテ
ィングによって、その欠陥を防ぐことができるのです。
ところで、薄漠というのは、「真空蒸着」という方法で作るのですが、これはとくに
珍しい技術ではないのです。それよりも材料が有機ELの質を決めるのです。
・・・ [有機EL/05]
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