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2007年03月02日

国家プロジェクトでも負ける恐れがある(EJ第1099号)

 有機ELの技術面は、1987年のタン氏の論文以来15年、日本が完全に世界をリ
ードしており、他国の追随を許さない――それに加えて、有機ELの権威、山形大学工
学部、城戸淳二教授率いる国家プロジェクトが進行中とくれば、有機ELは日本のもの
と誰でも考えます。
 しかし、城戸教授によると、それでも日本は、よほどうまくやらないと有機ELを自
分のものにし、それをテコにして経済を活性化できないというのです。すべては、企業
の経営者と国の力の入れ方にかかっているのです。
 とくに、警戒すべきは、サムスンSDIを筆頭とする韓国企業です。韓国企業の経営
者は、始動は遅いのですが、いったんこれで行くと決めると徹底して突き進むというス
タイルをもっているといいます。要するに、本物の経営者なのです。
 これに対して、日本の電機メーカの経営者たちは、自社の信念に基づいて何かをやる
というよりも、他社のやることを見ていてどこかの企業がある分野を開拓すると、それ
にならって一斉にその分野に入っていく傾向があるのです。他社のやることをやってお
かないと、あとになって「なぜ、やらなかったのか」と問われて責任を追及されるのを
嫌うからです。
 そういう電機メーカの中にあって、特異な存在がシャープとパイオニアなのです。シ
ャープは早くから液晶に着眼し、企業の存亡を賭けて、とことんそれに特化していった
のです。そして「液晶ならシャープ」といわれる存在になっています。
 パイオニアは、もともと音響メーカであったのですが、オーディオ分野での成長に限
界があることを見極めると、記録型のDVDレコーダやPDP(プラズマ・ディスプレ
イ)と有機ELディスプレイに絞って、どんどん開発を進めたのです。
 だからこそ、パイオニアは世界初の記録型のDVDレコーダの商品化や世界初の有機
ELの商品化を成功させています。パイオニアが商品化したのは車載用FMレシーバー
ディスプレイです。前にも述べたように、パイオニアという企業は、その社名のように
真のパイオニアといえます。
 城戸教授は、この2社は例外として、他の電機メーカのトップは、機を見るに敏にし
て、決断能力を持つというトップに求められる資質に欠けるところがあり、「自社は何
をするのか、しないのか」という決断も甘いものがあると、なかなか厳しい評価をして
います。他社と同じことをやっていれば、パイがあってもお互いにそれを食い合って自
滅してしまうだけです。
 城戸教授がここまで厳しいことをいうのは、韓国のサムスンSDIのやり口を知って
いるからです。サムスンは、1998年に城戸研究室に研究生を送り込んできているの
です。その頃は、サムスン本体でも有機EL研究者は10人程度のものであったのです
が、現在ではこの分野だけで400人以上いるといいます。
 また、サムスンSDIは、釜山にNECと合弁会社を作り、NECが過去10年以上
にわたって蓄えてきた有機ELのノウハウや半導体技術などのノウハウを吸収してしま
っています。そして先端技術も日本の特許もすべて買い取り、それに加えてパイオニア
やエプソンなどの有機ELのエンジニアたちをゴッソリ引き抜いているのです。やるこ
とが徹底しているのです。
 何しろサムスンSDIは、有機ELのエンジニアを400人以上抱え込み、数千億円
という巨大な資金を投下できる余裕があるのです。サムスンSDIのトップは、ヒト、
モノ、カネ、情報のすべてを賭けて、一気に日本を追い越そうとしているのです。
 実際問題として、高い技術力を持ちながら、日本は、鉄鋼、電気、半導体、液晶――
ことごとく日本は敗退しているのです。これは、企業の力だけでなく、国の政策に問題
があるといえます。このままでいけば、有機ELも同じ運命をたどる可能性は高いとい
城戸教授はいっているのです。
 現時点で有機材料やパネルがきちんと作れるのは、日本のメーカだけであり、特許も
日本が多く持っています。パネルの量産技術に関しても、東北パイオニアの米沢工場で
の歩留まりは、実に95%以上です。少なくとも他国を圧倒しているのです。
 それでは、どうして負けるのでしょうか。有機材料についてもパネルにしても量産と
なると、それらを生産する装置を作るのですが、その装置を外国企業は買うからです。
日本の装置メーカはきわめて優秀であり、その装置を購入して使いこなすと、誰でも日
本と同じ製品ができるようになります。そうなった時点で、日本と海外の製造技術の差
はなくなってしまうのです。それに加えて、高給で日本人技術者の引抜きをやるのです
から、生産技術差はほとんどなくなるといってもよいと思います。
 そうなってしまうと、韓国などのように労働賃金が低い国との競合には日本は不利に
なります。それに、そういうプロジェクトに関する国の援助も不十分そのものです。韓
国や台湾には税的な優遇措置がありますが、日本にはないのです。実効税率も先進国で
最高の税率を課せられています。米国がやっているように「日本のディスプレイ産業を
どうするか」という視点で政策を考える必要があるのですが、経済産業省などはわかっ
ていないのです。
 それに、この分野でも「ツウ・リトル、ツウ・レイト」なのです。城戸教授は、現在
の国家プロジェクトを早くやるよう要請してきたのに、2002年という遅い時点では
はじめ、しかも、予算はたかだか年間10億円なのです。
 サムスンなどは、1社で利益が4000億円〜5000億円もあり、いくらでも研究
開発費に投入できるのです。これでは、日本の企業は勝てるはずがないでしょう。
 首相は日本の有機ELの現状を知っているのでしょうか。有機ELについて何かの政
策を考えるには、ここまでEJが述べてきたくらいの知識は必要でしょう。しかし、役
人のレクチャーは15分が限度という人ですから、とても無理でしょう。
 ところで、有機ELの特許はどうなっているのでしょうか。なぜ日本は優位に立てな
いのでしょうか。この問題については、明日のEJで述べます。
・・・ [有機EL/10] 

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