日本の宇宙開発予算は少な過ぎる(EJ第1348号)
普通の国民の印象として、宇宙開発は巨額の金のかかる事業であると考えている人は
多いと思います。ところが必ずしもそうとはいえないのです。
今回失敗したH−ⅡA6号機では、搭載していた情報収集衛星2機が5I8億円、H
−ⅡAの打ち上げ費用115億円が一瞬にして失われているのです。この「一瞬にして
失われる」という表現をよく新聞紙上で見ることが多いのですが、この表現は正しいと
はいえないのです。
というのは、ロケット開発というのは、何年もかけて行なわれるからです。H−Ⅱロ
ケットとH−ⅡAロケットの開発費は次の通りです。
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H−Ⅱ ロケット ・・・・・ 2700億円/9年
H−ⅡAロケット ・・・・・ 1150億円/7年
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H−ⅡAロケットは、開発開始から打ち上げまでに9年かかっています。したがって
その1年あたりの投資300億円です。構想開始からですと12年なので、年平均は2
25億円です。
H−ⅡAロケットの場合は、打ち上げまで7年かかっていますから、1年あたり16
4億円です。構想開始からは9年であり、1年あたりでは128億円となります。
年平均こ128億円〜225億円――もちろん巨額ではありますが、この程度の金額
は、日本という大国が投資する案件としては大したことはない金額なのです。
H−Ⅱ/H−ⅡAロケットへの投資額に近い公共投資を探してみると、次のようなも
のが出てきます。
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諫早湾干拓事業 ・・・・・ 2370億円
長良川 河口堰 ・・・・・ 1840億円
吉野川 河口堰 ・・・・・ 1000億円
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どうでしょう。大型ロケット開発事業の投資額は、せいぜい干拓事業や大型河川に堰
を設ける程度でしかないのです。これに比べて、本州四国連絡橋では3つの橋を建設す
るのに2兆8000億円、東京湾横断道路には1兆4400億円、関西空港は第1期工
事だけで1兆4300億円もかかっているのです。
繰り返しますが、H−ⅡAの開発費用は1150億円に過ぎないのです。いかにも少
ない金額とはいえないでしょうか。
しかし、待ってもらいたい。公共事業の場合は橋なり、道路なりのインフラが残って
長い間にわたって使えるが、大型ロケット開発は失敗すれば何も残らないではないか
――こういう反論が出るかも知れません。
何も残らないわけではないのです。失敗してもそれまでに培われた貴重な技術力が国
家資産として残ることになります。また、衛星が打ち上げることができれば、日本にと
ってさまざまな有益な情報がもたらされるのです。けっして無駄ではないのです。
それでは、H−Ⅱ/H−ⅡAロケットのコストは世界のロケット開発のコストと比べ
るとどうなのでしょうか。
比較の対象を選ぶのが難しいのですが、H−Ⅱ/H−ⅡAロケットと同じ液体酸素・
液体水素を利用する第1段を持ち、2本の固体ロケットブースター(改めて解説する)
を備える「アリアン5」――欧州宇宙機関(ESA)が次世代ロケットとして開発――
と比較するのが一番良いと思います。
1987年11月にESAの閣僚理事会が認めたアリアン5の開発経費総額は、次の
通りです。
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41億1400万AU(Accounting Unit)
1ドル=11O円として/5660億円
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AUというのは、ESAが当時使用していた会計のための仮想通貨単位であり、1A
Uはほぼ1.25ドルです。5660億円といえば日本の倍になりますが、アリアン5
の開発費は、世界的な新型ロケット開発の相場といってよいのです。
H−Ⅱロケットの場合、当初の見積もりは2000億円だったのですが、こんな話が
あるのです。
H−Ⅱロケットの開発がはじまった頃のことです。日米の技術者の間でロケットの開
発費が話題になったことがあります。日本の技術者が「総額で2000億円だ」といっ
たところ、米国の技術者は、それは第1段エンジンのみにかかる費用だと勘違いしてい
たというのです。そして、最終的に事態を理解した米国技術者は、次のことばを発した
というのです――「クレイジー」と。
しかし、誤解してはならないのは、日本は技術力が優れていて諸外国よりも少ない予
算でロケットを開発できたのではないということです。『国産ロケットはなぜ堕ちるの
か/H−ⅡA開発と失敗の真相』(日経BP社)の著者、松浦晋也氏は、これについて
次のように述べています。
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このことは「日本は工夫によってそれだけ諸外国よりも安く
ロケットを開発できた」と理解してはならない。むしろ足りな
い予算で工夫を重ねて形にしたものの、どうしても完璧を期す
ることができなかったと見なければならない。
――上掲書より
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厳しい見方です。松浦氏はその例としてロケットエンジンの燃焼時間の差を上げてい
ます。
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世界的な累積燃焼時間 ・・・ 2OOOO秒
日本の 累積燃焼時間 ・・・ 13OOO秒
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手抜きではないが、予算の制約でこうなるというのです。
・・・[日本宇宙開発/03]
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