気象衛星なしの異常な状態(EJ第1357号)
「ひまわり」は静止気象衛星であり、太平洋上空、東経140度の静止軌道上から、
1時間に1回の割合で地球半球の画像を配信していたのです。
添付ファイルに「ひまわり5号」の写真があります。「ひまわり」シリーズは、第1
号から第5号まで基本的に構造は同じで同じセンサーを搭載していたのです。図の下の
部分はアンテナですが、このアンテナ部分をのぞいて衛星全体はぐるぐると回転する構
造になっています。
アンテナの上に楕円形の窓のようなものがありますが、その奥に気象観測用のセンサ
ーがあります。このセンサーはスキャナと考えるとわかりやすいと思います。センサー
も本体と一緒に回転しており、1回の回転で地球を東西方向に1ラインだけ、スキャン
するのです。
そうすると、センサーの内部に撮影する方向を変えるミラーが入っていて、1回転ご
とに少し動いて撮影する向きを1ライン分だけ南北方向に変えるのです。そして、セン
サーが次に地球を向いたときには前に、スキャンしたラインの隣のラインをスキャンす
る――これを繰り返していくのです。そのようにして、地球をなめるように1ラインず
つスキャンしていきます。そして、25分に1枚の割合で画像が得られるのです。
このようにして「ひまわり」が取得した画像は、スーパー・コンピュータによって、
画像の雲の流れから風向・風速の分布を算出し、シミュレーションを行い、数時間先の
天候を予測するのです。このように気象衛星が取得した観測データは、天気予報の精度
を決める重要な働きをするのです。
テレビで天気予報を解説するとき、天気予報士が『まず、「ひまわり」の画像を見ま
しょう』というのを聞いたことが何回もあると思います。しかし、2003年5月以後
は「気象衛星の映像を見ましょう」というように変わっており、「ひまわり」というこ
とばは消えているのです。どうしてでしょうか。
どうしてかというと、「ひまわり」は2003年5月に寿命が尽きているからです。
それでは、それに代わる衛星はどうしたのでしょうか。
「ひまわり」の後継衛星は「運輸多目的衛星(MTSAT)」だったのですが、この
衛星は1999年11月15日、「H−Ⅱロケット8号機」で打ち上げられる予定だっ
たのに、ロケットの第1段エンジンのトラブルで打ち上げに失敗――ついに後継機がな
くなってしまったのです。そこで、「ひまわり5号」をそのまま使い続けていたのですが、ついに2003年5月に寿命が尽きてしまったというわけです。
それでは、現在、天気予報には何を使っているのかというと、米国の海洋大気庁(N
OAA)から借りてきた衛星「ゴーズ/GOES9」を使っているのです。何ともお粗
末な話です。どうしてこういうことになったのでしょうか。
「ひまわり」の開発状況は次のようになっています。この頃は国産化率にはあまりこ
だわらず、高い精度で打ち上げられ、トラブルなしで動くということが目標だったのです。
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開発費 国産化率
ひまわり 1977.7.14 117億円 11%
ひまわり2号 1981.8.11 144億円 35%
ひまわり3号 1984.8. 3 133億円 32%
ひまわり4号 1989.9. 6 53億円 32%
ひまわり5号 1995.3.18 146億円 29%
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ここで説明しなければならないことがあります。衛星というものは一度故障すると軌
道上での修理はできないのです。したがって、故障しないように細心の注意をもって
設計・製造されます。当然のことです。
それでも故障は起こるのです。そのために、通常は予備の衛星を用意するのです。ま
して気象衛星のように故障してしまったら天気予報ができなくなるので、予備衛星の用
意は不可欠です。
予備の衛星は、あらかじめ軌道上に用意しておくこともありますし、製造した衛星を
地上で保管し、いつでも打ち上げられるようにしておくのが通常です。
「ひまわり」から「ひまわり3号」までは開発に不可欠であるとして、いずれも予備
の衛星が地上に用意されていたのです。これを「プロトプライトモデル」といいます。
これが役に立ったのは「ひまわり3号」です。1号・2号は、正常に運用されたものの
「ひまわり3号」はトラブル続きで、運用停止の一歩手前まで追い込まれたのです。
そこで3号の予備機として地上に用意されていたプロトプライトモデルが、4号とし
て打ち上げられたのです。4号の開発費が通常の半額なのはそのためです。そして5号
は最後までノートラブルで運用されたのです。これがかえって仇となったのです。
というのは、「ひまわり5号」の安定運用によって、気象庁の上位官庁である運輸省
が、気象衛星の予備機の予算に難色を示すようになったからです。気象庁としては、2
機製造するには1機を作る2倍の経費はかからないし、製造に先行する試作品の製造も
不要であるとして予備機製作の必要性を説いているのですが、運輸省は聞き入れなかっ
たというのです。
それに気象庁内部でも、気象衛星による気象観測に疑問の声も出ていた時期もあるの
です。それは「地域気象観測システム(アメダス)」との対立です。アメダスは日本全
国の気象データをネットワークで集めて分析し表示するシステムですが、一時期「気
象衛星を打ち上げる金でアメダスを充実させるべき」という意見が気象庁内部で出てい
たのです。運輸省の予備機予算反対の根拠はここにもあるのです。しかし、気象衛星の
有効性はすぐに認識されたのですが、運輸省はそれでも予備機の予算を認めず、遂に気
象衛星なしの最悪の事態に陥ったのです。 ・・・ [日本宇宙開発/12]
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