本当に宇宙開発を理解しているのか(EJ第1362号)
行政(官)が、いかに宇宙開発についての知識がないかを如実に示す話があります。
既に述べたように、情報収集衛星は「光学衛星」と「レーダー衛星」が一組となって
2回打ち上げられ、4機で運用されることになっています。その一組は2003年3月
28日に打ち上げられたのですが、これに関してこんな話があるのです。
情報収集衛星の打ち上げにさいして、内閣府は厳しい情報管制を敷いたのです。当然
ですが、衛星を投入する軌道についても一切の情報を提供しなかったのです。内閣府と
しては、衛星を運用する軌道を公開すると、いつどこの上空を通過するかがわかってし
まうので、偵察衛星としては非公開とするのは当然であると考えたわけです。
ちなみに、人工衛星の軌道は「軌道要素」という一組の数字がわかると算出すること
ができるのです。軌道要素は「2行要素」(TLE)という技術フォーマットが決まっ
ていて、TLEがわかると、誰でも計算でその衛星が地球のどの地点でいつ見えるかを
知ることができるのです。衛星観測が趣味のアマチュアでも十分計算可能です。
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軌道要素/2行要素 ・・ TLE Two Line Elements
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しかし、衛星の軌道は変化するので、最新のTLEを把握しておく必要があります。
内閣府は、このTLEを隠そうとしたのです。しかし、米国NASAのゴダード宇宙セ
ンターがインターネットのサイトで、日本の情報収集衛星(以下、IGS)のTLEを
公開したので、そのデータは世界中に配信されてしまったのです。ゴダード宇宙センタ
ーのデータを再配布しているサイトのひとつご紹介しましょう。
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http://www.heavens-above.com/
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そのため、IGSの軌道データは世界中に流れてしまったのです。これによって判明
したのは次の事実です。
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1.回帰日数4日の太陽同期準回帰軌道に打ち上げ
2.上空通過時間は午前10時30分であると特定
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この事実について問い合わせても内閣府は「ノーコメント」の繰り返しなのです。挙
句のはてに「そんな個人のホームページのデータなどに信頼性はない」とまでいう始末
です。
そうしているうちに、ゴダードからの軌道要素の公開はストップされたのです。おそ
らく日本から米国に中止要請が行なわれた結果と考えられます。
このように書いていくと、内閣府のとった処置は当然のことと考える人もいるでしょ
う。しかし、そうではないのです。日本はある意味において非常に恥ずかしいことをし
ているのです。なぜなら、この出来事は、いかに日本政府が宇宙開発の基礎を知らない
かを全世界に示してしまったからです。
衛星軌道要素は原則公開なのです。というのは米国の北米防空司令部(NORAD)は、軌道上の人工物体については10センチ程度の破片にいたるまで、レーダーで監視して
います。軌道上でそれらの破片が使用中の宇宙船や衛星に衝突することを避けるためで
す。もちろん軍事機密に属するものは公開しませんが、それ以外のものは公開が原則な
のです。
そして、それらの情報はゴダード宇宙センターがTLEのかたちで配布しているので
す。これを「軌道要素配布」と呼んでいるのです。先ほどのサイトは、ゴダード宇宙セ
ンターが配布したものを再配布しているサイトなのです。内閣府は、ちょっと宇宙のこ
とに詳しいマニアですら知っている「軌道要素配布」のことを知らなかったことになり
ます。
もうひとつ内閣府が知らなかったと思われることがあります。それは、衛星観測とい
う趣味が存在し、世界中に多くのサテライト・ウォッチャーがいることをです。最近は
民生用のデジタル映像機器の性能が優れていて、これらを駆使すればかつての軍事シス
テムに近い観測能力が持てることです。
したがって、ゴダード宇宙センターからのTLEの公開がストップした後もこれらの
サテライト・ウォッチャーたちが自らの観測結果をインターネットで公開し、連絡を取
り合って軌道要素の計算を続けてメーリングリストで配信しているのです。
打ち上げから3ヵ月後の6月に、日本のサテライト・ウォッチャーがIGSの撮影に
成功しています。つまり、宇宙空間から地球は丸見えですが、宇宙も最新のデジタル映
像機器を使えば、丸見えなのです。偵察衛星というものは、そういう事実をふまえて活
用を考えるものなのです。IGSの導入を決定した防衛族議員たちは、このような事実
を知っていたのでしょうか。
実は内閣衛星情報センターという組織があります。その設立は2OO1年4月のこと
です。主力は、防衛庁、外務省、警察などからの出向者が中心ですが、電子・通信メー
カからの民間の出向者もたくさんいます。つまり、宇宙関係の専門家はたくさんいたわ
けです。それでいて、軌道要素配布のように基礎的なことがどうしてわからなかったの
でしょうか。
それは、内閣衛星情報センターという組織自体が寄り合い所帯であって、出向者がそ
れぞれの出身母体だけしか見ていないという状態になっているのではないかと考えら
れます。知識が何ら共有化されていないからです。
それぞれ優秀な専門家はいるのですが、それを束ねる側の政治家や行政が宇宙開発に
ついて基本的なことがわかっていない――これは事実のようです。偵察衛星の導入を決
めた防衛力議員は、住宅を購入するに当たって一家の主婦が担当者を質問攻めにするほ
どの真剣さで、総額2500億円もかかる衛星システムの導入にさいしてメーカを質問攻めにしたのでしょうか。 ・・・ [日本宇宙開発/17]
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