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2007年05月22日

なぜ、ペイオフを強行するのか(EJ第1249号)

 日本経済の現状をどのようにとらえるか――これがすべての出発点です。リチャード
・クー氏によれば、日本経済は4つの金融危機のカテゴリ(8日のEJ第1247号の
添付ファイル参照)のうち、Wのカテゴリにあるというのです。
 Wのカテゴリとは、「資金需要がないなかでのシステミックな金融危機」とされてい
ます。対応が最も難しい金融危機です。このWのカテゴリの危機においては、不良債権
の処理などは慎重に進めないと、何らかのショックで一挙に危機が進行する恐れがある
のです。そして、そういう事態になったときは、公的資金を投入することが必要になり
ます。
 今回の足利銀行に対する破綻処理で注目されるのは、監査法人が承認した同行の3月
期決算を金融庁が否定していることです。それに金融庁が立ち入り検査に投入した金融
検査官が17人にものぼることです。まさに異例中の異例の措置です。
 それは、何が何でも3月期決算において、既に債務超過であることを暴いてやる――
そういう姿勢が見えます。新しい検査手法を取り入れ、通常では対象外の小口債務まで
査定の対象にした結果の債務超過の認定です。竹中大臣は一体なぜそんなに急いで銀行
を追い詰めようとしているのでしょうか。
 それは、2005年4月に迫ったペイオフの全面解禁があるからなのです。それまで
に、経営状態の良くない地銀の大掃除をしておこうという狙いがあるのです。しかし、
日本経済がWのカテゴリにあるときにそれをやると、今度こそ日本経済の息の根が完全
に止まってしまうでしょう。
 それになぜこのようなときにペイオフをやるのでしょうか。その理由がないのです。
竹中大臣にいわせると、「それは国際公約だから」であり、「グローバル・スタンダード
だから」ということなるでしょう。
 しかし、これには大いに疑義があるのです。というのは、金融先進国の中で、銀行が
経営破綻した場合、保証された上限までしか預金者に支払わないとするペイオフを政策
オプションにしているのは米国だけなのです。他の金融先進国は、預金者をずっと保護
してきているのです。それは、預金者にあまり銀行預金の心配をさせると、国民経済的
コストが大きくなってしまうと考えるからです。それなら、なぜ、米国はペイオフを政
策オプションとしているのでしょうか。
 それは、米国が諸外国とは異なる銀行制度を持っているからです。他の国は――もち
ろん日本も含めてですが、銀行の数がある程度限られているのに対し、米国は1万行近
くの銀行があって、参入障壁はほとんどないのです。そういうケースでは、何が起こっ
ても不思議はないので、あらゆる可能性に対処するため、できるだけ多くの政策オプシ
ョンを持っているのです。しかも、その米国でもペイオフは超例外的にしか実施されな
いのです。
 ところで、ペイオフとは何のために実施されるのでしょうか。その基本的な狙いとは
何でしょうか。
 経営不振の銀行があったとします。そういう銀行は、高い金利を顧客に提示して預金
を集め、それをハイリスク・ハイリターンに投資する――そういうことをやる可能性は
あるはずです。
 この場合、この投資がうまくいった場合は利益は銀行側のものになり、失敗してもそ
の損失は政府が払ってくれるという究極のモラルハザードになってしまう――だから、
全額保護をやめるべきであるというわけです。
 確かに一理はあるのですが、経済の状況――まして日本のようなバランスシート不況
のときにやると、確実に経済は、不安定になってしまいます。既に定期性預金はペイオ
フの対象になっていますが、これを機に銀行の貸し渋りが激化しているのです。
 添付ファイルをごらんください。銀行の貸し渋りが激しくなったのは、2001年の
後半からですが、これは、小泉政権が定期性預金のペイオフ解禁に踏み切ることが明ら
かになった時期に一致するのです。
 預金者が一斉に定期性預金を解約し、まだペイオフの対象になっていない普通預金
――預金者の要求に対して支払いに応じなければならないので要求払い預金という――
に移し変えていることが明確に読み取れます。
 日本の場合、総預金の半分近くが定期性預金なのです。銀行は貸し出しに当たって、
定期預金があったからこそ安心して貸し出しができていたのですが、それらの定期性預
金がいつでも引き出せる普通預金にシフトしてしまうということになると、どうして貸
し出しに当たって慎重になってしまうものです。
 何のことはない。政府は銀行の貸し渋りには頭を痛めており、銀行に公的資金を注入
してそれを解決しようとしていますが、貸し渋りの有力な原因のひとつは、政府自らが
実施手したペイオフ解禁そのものなのです。要するに、自分のやっていることがよくわ
かっていないのです。
 さらに日本では、総預金が500兆円あるのですが、その約半分の250兆円が10
00万円以上の大口預金なのです。これらの大口預金は、そのほとんどが地方自治体や
民間企業などが従業員に支払うために積み立てている資金であり、何千万人もの生活に
直結している資金なのです。そのような巨額な資金が安全な場所を探して移動はじめた
ら、どうなるでしょうか。
 その動きは既に始まっています。2005年からのペイオフの全面解禁を意識して、
1000万円以上は利息がつかないが、全額が保護される郵便局に入れるか、現金にし
て銀行の貸金庫に入れておくという預金者が増えています。銀行の貸金庫に長い順番待
ちができているのをご存知ですか。
 ペイオフ全面解禁は、国際公約でも、グローバル・スタンダードでもありません。も
し、小泉政権が2005年のペイオフ全面解禁を強行するなら、米国の格付け会社は、
一斉に邦銀の格下げをしてくることは必至です。2002年の定期性預金のペイオフ解
禁のとき、邦銀は格下げされているのです。 ・・・ [バランスシート不況/17]

                          

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