肺炎と糖尿病併発の日本経済(EJ第1251号)
今日で経済の話はひとまず終わりにします。しかし、年末にきて、急速に円高が進行
し、経済が不安定になっていますので、来年になって再び経済の話を取り上げる予定で
す。
毎年40兆円の補正予算――そんなことをやったら国債の価格が暴落すると懸念する
人が多いです。日本の財政政策は、戦争に例えると「兵力の逐次拡大」なのです。少し
ずつ、恐る恐る投入して、少し効果が出たらすぐやめる――そんなことを10年以上続
けてきているわけです。
その結果、「財政出動は効果がない」という短絡的な結論を信ずる人が多くなってい
ます。しかし、少しずつ、恐る恐るでも、やってきたからこそ、金融パニックを起こさ
ないでここまできているのです。しかし、戦争は一挙に圧倒的な兵力の投入をして一気
にカタをつけるのが、結果として一番効率的なのです。ところが、首相をはじめとする
経済運営責任者が経済停滞の原因を取り違えており、経済政策運営に確たる自信を持っ
ていないため、効果が上がらないのです。
さて、財政赤字がこれ以上累積したら、後で返せなくなるという議論ですが、これは
景気回復時に大幅な自然増収があるという要素を考慮しておらず、ただ現状を直線的に
将来まで伸ばしただけの議論なのです。
この景気が良くなったときの税収の自然増収というのは、多くの人が想像しているよ
りもはるかに大きいのです。この点を米国の例で考えてみましょう。
米国では、個人所得税の国税に占める割合は、72%(日本は32%)ですが、レー
ガン政権のときは、所得税率をフラットにし過ぎたために、好況時にも財政赤字に苦し
んだのです。そのため、ブッシュ政権(父)では、税制を改正し、最高税率を引き上げ
るなどの措置を施したのです。
具体的にいうと、個人所得税の割合を高く保ち、実効的な譲渡益税を持ち、税率の累
進度を高めたことによって、好況時に大幅な税収が得られるようにしたのです。これは
クリントン政権下の景気回復によって威力を発揮し、これによって米国はあの膨大な財
政赤字を解消してしまったのです。
日本の場合、1985年〜1990年の5年間で、単年度での自然増収は23兆円に
上がっています。とくに法人税や所得税の増収は大きいのです。こういう自然増収は無
駄遣いせず、計画的に国債の償還に充当していけば、日本の場合は、まだまだ財政出動
を継続することが可能なのです。
また、景気が回復したら、財政政策は継続しながら、増税を図るという方法もありま
す。好況時には増税はやり易いのです。あのバブル景気の時にタイミング良く、地価税
を導入していれば地価の上昇に歯止めをかけることができたのです。しかし地価税は、
バブルが潰れてから、導入されているのです。
クー氏によると、日本の企業の80%がバランスシートの修復に取り組んでおり、そ
れが経済を低迷化させ、不況の原因を形成しています。しかし、バランスシートの修復
自体は、企業の財務を改善していることであり、大変良いことなのです。
経済指標を見ますと、2003年5月頃から日本企業のキャッシュフローも財務内容
も大幅に改善してきており、そのことに気がついた外国人投資家が再び日本株を買い増
しつつあります。5月以降の株価の改善はそれを反映したものであるといえます。
しかし、間違って欲しくないのは、それは、断じて小泉政権の経済政策が功を奏した
という意味ではないということです。それは企業努力によるものであり、小泉政権の経
済政策は、むしろ、回復しつつある企業の足を引っ張っているとさえいえます。全体が
よく見えていないのです。
日本経済はいわば肺炎と糖尿病という2つの病に冒されているのです。肺炎と糖尿病
は併発しうる病気ですが、治療方法は相反するのです。例えば、肺炎患者は十分な栄養
を与える必要がありますが、栄養の摂り過ぎは、糖尿病には良くないのです。したがっ
て、その匙加減が難しいわけです。
しかし、肺炎の治療は急を要しており、手遅れになると命にかかわります。したがっ
て、手遅れにならないよう、早くから十分な投薬治療をする必要があるのです。一方、
糖尿病は時間をかけて様子を見ながら、少しずつ患者の身体機能の回復を図らなければ
ならない病気なのです。
肺炎治療の一部が糖尿病を悪化させるのと同様に、バランスシート不況に不可欠な財
政政策には、一部にモラルハザードという甘えを残したり、必要な改革を先延ばしする
という面が確かにあります。しかし、そういう副作用を嫌って財政をやらなかったら、
患者は確実に死んでしまいます。したがって、多少糖尿病を進行させる危険があっても
肺炎の治療を優先することになります。これは、政策の適切な優先順位と実施順序を間
違えないことに該当します。まず、差し迫った問題を解決するのです。
しかし、現在の小泉政権は、経済が肺炎と糖尿病を併発しているのに糖尿病しか発症
していないと思い込んで、深刻な肺炎の症状を見過ごしているのです。その深刻な肺炎
の症状とは、現在の経済と資産価値の下落です。
小泉政権は、既に前向きの行動がとれる、バランスシートを修復した20%程度の企
業を助けようとして、現在もバランスシートの修復に取り組んでいる80%の企業のこ
とを見過ごしていますが、両方支援しなければならないのです。
簡単にまとめると、政府は適切な財政政策を持続させながら経済の安定を保つととも
に、構造改革を推進する必要があります。そして、バランスシートを修復した企業が魅
力的な投資機会を国内で多く見つけられるよう努力すべきです。
政府は国民を説得して貯蓄率を下げさせ、デフレギャップを埋める努力を行うべきで
す。例えば、土地の有効活用を進め、もっと立派な住宅が持てるよう支援すべきです。
それが経済を活性化させるのです。 ・・・ [バランスシート不況/19]
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