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● 2007年08月 記事 ●

2007年08月07日

隠されたメッセージのある映画(EJ第1252号)

 現在、3次元仮想空間「セカンドライフ」が話題になっています。セカンドライフは
「仮想現実」ではなく「拡張現実」といわれますが、現在月単位で100万人ずつ登録
会員が増えているといわれます。
 このセカンドライフと対比して、1999年〜2003年の5年間かけて製作された
映画『マトリックス』(3部作)を考えることは興味深いものがあります。
 この記事は、2003年12月15日から26日までの9回にわたってEJで取り上
げたものですが、今朝から再現することにいたします。
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 今朝からは話題の映画をテーマとして取り上げます。その映画とは米国映画『マトリ
ックス』です。この映画は3部作で3本の映画で話が完結する超大作です。第1章は1
999年に封切られそれから実に4年後の2003年6月に第2章、11月に第3章が
公開され、現在第3章の『マトリックス/レボリューション』が上映されております。
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      『マトリックス』 ・・・・・・・・・・・・ 1999年
      『マトリックス/リローデッド』 ・・・・・ 2003年
      『マトリックス/レボリューション』 ・・・ 2003年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 私はもちろんそのすべてを劇場で観たうえで、第1章、第2章のDVDを入手し、可
能な限り情報を収集してEJで取り上げることにしたのです。EJで取り上げる以上、
単なる映画解説ではなくビジネスマンの話題としても使えるレベルを目指しています。
今朝は、その予告編です。
 映画『マトリックス』は、ジャンルとしてはSF(サイエンス・フィクション)とい
うことになります。「SFは苦手だ」という人もいるでしょう。しかしこの映画は明ら
かに単なるSFを超えています。
 EJではときどき映画の話題を取り上げています。今まで取り上げたものは『200
1年宇宙の旅』『13デイズ』『千と千尋の神隠し』『コンタクト』などがあります。
映画は娯楽ですが、話題になる映画というものは、きちんと観て、自分の感想なり意見
を持っておくべきであると思います。
 あのリチャード・クー氏ですら、固い経済書の中で、1997年の北海道拓殖銀行の
破綻に関連して、次のように書いているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       ところで、北海道の出来事(拓銀の破綻――平野注)で、日
      本と諸外国との間に大きな認識のずれが生じた。東京の外資系
      金融機関としか接点のない海外のマスコミは北海道で実際に何
      が起きたのかを全く報道しなかったのである。そこで私が、当
      時流行っていた映画『コンタクト』で、ジョディ・フォスター
      が宇宙に打ち上げられる時、出発点となったのが北海道だと説
      明すると、ようやく北海道が日本にある四つの大きな島の1つ
      だとわかってもらえたのである。  ――リチャード・クー著
      『デフレとバランスシート不況の経済学』(徳間書店刊)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この記述において、もし読者が映画『コンタクト』を観ていなかったら、何のことか
わからないはずです。忙しくて、わざわざ映画館に行く時間がないという人がいるかも
しれません。それなら、現在ではDVDで観ることもできるのです。
 EJの情報源は、単行本や新聞・雑誌だけではありません。インターネットは当然の
こととして、さまざまな人から直接話を聴いたり、TV番組、映画などもフル動員する
のです。映画もぜひ関心を持っていただきたいと思います。とくに60歳以上の方はど
んな映画でも1000円で観られる特典があります。
 さて、前置きが長くなりましたが、『マトリックス』の話に入ります。『マトリック
ス』は、TVでも公開されましたので、ご覧になった方もあると思います。しかし、内
容は本当に理解できたでしょうか。
 1回でこの映画を理解するのは大変難しいと思います。何回も繰り返して見るべきで
す。その点DVDは便利です。何回でも観ることができるからです。しかし、そのため
の条件として、何回見ても飽きがこないくらい面白くなければなりませんが、『マトリ
ックス』は、その条件を十二分に満たしていると思います。
 それに『マトリックス』は、それを見たあとで、内容についていろいろ友達と語り合
える――それができる映画なのです。それは、何回見てもよくわからない謎の部分、隠
された部分がいくつもあるからです。『2001年宇宙の旅』でもそういうところが多
い映画だったと思います。だから、現在でも語り継がれているのです。
 『マトリックス』の研究家といわれるグレン・イェフェス氏は『マトリックス』につ
いて次のようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       あなたは『マトリックス』をただの映画だと思っていなかっ
      たでだろうか。
       いい映画がみなそうであるように、すぐれた芸術作品がみな
      そうであるように、一度観るだけでは不十分だ。繰り返し、見
      なおし、その意図と衝撃への注意深い考察を加えることによっ
      て、じつに多くのことが発見できる。たんに物語としてではな
      くひとつの批評として、この映画に描かれている現実というも
      のの本質について、かなり詳細に検討する機会があたえられて
      いるからで――われわれと、われわれ自身の「現実」を映しだ
      す鏡となっているのだ。われわれには洞察の機会があたえられ
      るのだ。―――グレン・イェフェス編、『マトリックス完全分
      析』より。小川隆ほか訳/扶桑社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                        ・・・[マトリックス/01]

2007年08月08日

三位一体の3人の登場人物(EJ第1253号)

 映画『マトリックス』の主人公の一人は、トーマス・アンダーソンという青年です。
ハリウッドのドル箱スターであるキアヌ・リーブスが演じています。
 最初にお断りしておきたいのですが、映画の内容を話してしまうといわゆる「ネタバ
レ」といって、映画を観るとき面白くなくなるといって嫌がる人がいます。
 しかし、この映画は、ちょっとした「ネタバレ」をしても内容がつまらなくなるほど
薄っぺらな映画ではなく、最初にある程度事情を知っていた方がはるかに面白いし、楽
しめると思うのであえて必要最小限のことをお話ししておきます。
 トーマス・アンダーソンは、昼はメタコーテックス社というコンピュータ・ソフトの
大会社に勤めるプログラマーですが、夜は「ネオ」という名のハッカーとして知られて
いるのです。そのため、どうしても夜が遅くなるので、遅刻ばかりして上司から叱られ
ています。
 そのアンダーソンは、最近起きているのに夢を見ているような感覚にとらわれていま
す。夢と現実の境がつかなくなっているのです。それに彼のPCのディスプレイには、
モーフィアスという人物から奇妙なメッセージが届くようになっています。
 ある夜、居眠りをしていたネオは、ふと目を覚ますと、次のようなメッセージがPC
の画面上に表示されたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       「起きろ、ネオ」
       「マトリックスが見ている」
       「白うさぎの後について行け」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そして続いて「トントン」というメッセージが画面上にあらわれたとたんに、ネオの
部屋の扉がノックされます。恐る恐る扉を開けると、チョイという男が女友達と一緒に
立っていたのです。チョイからは、ハッキングを依頼されており、そのデータを受け取
りにきたのです。
 チョイは、約束の2000ドルを渡してデータを受け取ったとき、次のようにいうの
です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       「やったぜ。助かるぜ。あんたは救世主だ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この「救世主」ということばには実に深い意味があるのです。「救世主」といえば、
イエス・キリスト――まさしくネオは、この映画では、キリストの役回りをすることに
なるのです。彼こそは人類を救う「救世主」と目されるのです。
 もうひとつ、ネオをキリストになぞらえると、この映画の登場人物が聖書の人物と重
なってくるのです。これは、この作品にキリスト教的テーマがあることの証拠といえま
す。これについては後から詳しく述べることになると思います。
 話を映画に戻します。データを受け取ったチョイは、ネオに飲みに行かないかと誘い
ます。ネオは「明日仕事があるから・・」といったんは断りますが、そのときチョイの
女友達の左の腕に白うさぎのタットウを見つけてチョイと一緒に行くことを承知するの
です。PCの画面のメッセージ「白うさぎの後について行け」を思い出したからです。
 そしてチョイと一緒に行ったバーで、ネオはトリニティーという女性に会うのです。
トリニティーは、国税庁のコンピュータに侵入してデータを盗み出したという伝説のハ
ッカーとしてその世界では有名な人物とされています。このトリニティーは、この映画
のもう一人の主役であり、キャリー=アン・モスという女優が演じています。
 ネオは、このトリニティーから「身に危険が迫っている」と忠告を受けます。何のこ
とかわからず、不安になるネオ。その危険は、次の日、やはり遅刻をして上司に退職を
勧告されたその日に現実のものとなるのです。
 さて、「白うさぎの後について行け」で思い出すのは、ルイス・キャロルの『不思議
な国のアリス』です。私は、学生時代にこの作品にかなり凝ったことがあるのです。こ
れは、現実と非現実という2つの世界に基づいて物語が展開されているのですが、これ
は『マトリックス』と酷似しています。
 『不思議な国のアリス』において、主人公のアリスは、白うさぎが時計を見ながらあ
る穴に入るのを見て、それを追っかけて行くところから始まるのですが、『マトリック
ス』でもネオは、白うさぎのタットウの女性と一緒にあるバーに行き、そこでトリニテ
ィーと会っています。明らかに『マトリックス』の原作者は、『不思議の国のアリス』
に影響されていることは明らかであると思います。また、『オズの魔法使い』にも非常
に似ているところがあります。
 さて、勤務先でネオは、黒ずくめのスーツ姿のエージェントに襲われ、捕まってしま
うのですが、トリニティーに救出され、モーフィアスと会うことになります。このモー
フィアス――預言者のことばを信じ、救世主を救うことに人生を捧げている男であり、
この映画の三人目の主役なのです。個性豊かな俳優ローレンス・フィッシュバーンが演
じています。
 このネオとトリニティーとモーフィアス――その関係は、トリニティーの名前に由来
しています。この「トリニティー」という名前はキリスト教の「父なる神・子なる神・
聖霊は『三位一体』の精神」――3つのものがひとつに心を合わせることに由来してい
るのです。そういえば、小泉政権も『三位一体改革』を唱えていますが、その『三位一
体』もここから出ています。
 一応、中心的な登場人物が3人揃ったようです。ネオとトリニティーとモーフィアス
――この3人を中心として、この映画は展開されていくのです。この映画は、ネオ――
すなわち、アンダーソンがプログラマーなので、この3人以外の登場人物には、コンピ
ュータ関係用語が多く使われています。        ・・・[マトリックス/02]

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2007年08月09日

マトリックスは仮想現実の世界(EJ第1254号)

 『マトリックス』の主役の3人は、昨日のEJ第1253号でご紹介しました。3人
の主役とは、ネオ(アンダーソン)、トリニティー、モーフィアスの3人です。
 一体何がどうなっているのでしょうか。ネオは、何者に狙われているのでしょうか。
モーフィアスとトリニティーたちは、誰と戦っているのでしょうか。
 当然の疑問ですが、このあたりのことを少しずつ明らかにして行きたいと思います。
まず、現在の時点は1999年ではなく、2199年であるということです。なぜ、1
999年かというと映画『マトリックス』の第1章が公開されたのが1999年だった
からです。つまり、現在よりも200年も経過した時代になっていることになります。
 簡単に状況をいうと、人類は高度に発達した知能(AI)を持つコンピュータによっ
て支配されてしまったのです。具体的にいうと、世界中のAI(人工知能)が結束して
人間に対して主導権を握ろうと反乱を起こしたのです。
 これに対して人類は、当時のコンピュータが太陽エネルギーを動力源にしていたので
太陽光線を人工的に遮断して対抗したのですが、AIは叡智を結集して人間の生体電気
エネルギーを動力源にするシステムを開発し、この戦いに勝利したのです。
 そして、それ以降、世界はAIによって支配され、人類はAIにパワーを供給する発
電機としてのサイバー人間に成り下がってしまったのです。さらに、人類はもはや誕生
するのではなく、果てしなく広がるバイオ・テクノロジーの畑(子宮)で栽培されてい
るのです。
 そして作り出されたその時点から、発電装置につながれ、起きているともなく、眠っ
ているともない半覚醒の状態で、死んだ者を液化した養分を静脈から取り入れてそれを
栄養分とし、AIに生体電気エネルギーを供給しながら一生を終えるのです。こういう
人間のことを「培養人間」というのです。『マトリックス』の3人の主役――ネオ、ト
リニティー、モーフィアスは、いずれも培養人間なのです。
 マトリックスとは、そうした培養人間たちに現実を悟らせないためにAIが創り上げ
た仮想現実の世界なのです。人間の心が見ているものは、「神経によるインタラクティ
ブ可能なシミュレーション・・・人間を支配下に置くためにAIが創りだした虚像の世
界」なのです。
 そこには高度に発達した20世紀の世界が広がっており、人々はそれが現実であると
錯覚してそこで暮らしているのです。ネオすなわち、アンダーソンが働いていたメタコ
ーテックス社でのプログラマとしての生活とネオとしてのハッカーの生活は、いずれも
マトリックスの中の生活であり、現実世界において彼は培養人間として巨大な発電装置
につながれていたのです。つまり、彼が現実だと思っていた世界は夢の世界、つまり、
それこそ不思議な国だったのです。
 この部分は、以上のようなことがわかっていて映画を見ると、納得ができると思いま
すが、予備知識なしで見ると、おそらく何のことかわからないと思います。おびただし
い培養器の中で何かが蠢めいており、その培養器が発電装置にコードでつながれている
――そういうシーンが目に飛び込んできます。ネオは、仮想現実の世界では、大手ソフ
ト会社のプログラマであり、ハッカーですが、現実の世界での彼は、培養器に入れられ
た培養人間だったのです。このことをきちんと理解していないと、この映画は何のこと
か、さっぱりわからないはずです。
 ところで、人類の一部はAIの支配から逃れ、地底深くに都市を作って住んでいたの
ですが、AIによって攻め立てられ、現在は地球の核の近くに地底都市を作って住んで
います。もはや、ここを攻め落とされたら、人類は全滅するのみです。その都市の名は
「ザイオン」――つまり、ザイオンは人類最後の都市というわけです。ザイオンは、旧
約聖書に「聖なる山、神の座、世界の中心にして不落の砦」と記されたシオンにちなん
だ名称を持っているのです。
 したがって、ザイオンという都市には人間から生まれた本当の人間――つまり、培養
人間ではない人間が住んでいるのです。モーフィアスは培養人間ですが、特殊な能力を
発揮してAIのからくりを見抜き、自らその状況から脱却したのです。そう、培養器が
飛び出して、独立したのです。そして、ザイオンの人間と協力してAIから人類を解放
するための活動をするゲリラを結成しています。彼は預言者オラクルがいう「救世主」
の出現を信じており、ひたすらそれを探し求めていたのです。
 モーフィアスは、やはり、培養人間であるトリニティーをマトリックスから離脱させ
るなど、これはと思う同士を集めてひとつの軍団を形成し、ネブカドネザル号という名
のホバークラフトの船長をしているのです。トリニティーは、ネブカドネザル号のクル
ーですが、地位は将校です。
 このネブカドネザル号は、宇宙船のようなかたちをしていますが、飛んでいるのは宇
宙ではなく、地球の内部なのです。地上は完全にAIに占領されているので、もっぱら
地底の通路――排水溝などを飛ぶことになるのです。
 ネブカドネザルの名は、バビロンの捕囚を行った新バビロニア王国の名に由来してい
ます。この王は、旧約聖書のダニエル書に登場し、ダニエルに夢解きを行わせた逸話で
有名です。しかし、このネブカドネザル号は2069年の建造で、2999年には既に
930年も経過しているので、相当の老朽船なのです。まあ、そんなことは、どうでも
よいことではありますが・・・。
 現実と仮想現実――われわれが現在存在し、生活をしている空間がこういうバーチャ
ルリアリティーでないといい切れる自信があるでしょうか。われわれが現実であると信
じている世界が仮想現実であるかも知れない――そう考えるとゾッとしませんか。この
映画は人類の未来を予言しているのかも知れません。  ・・・[マトリックス/03]

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2007年08月10日

コンピュータは意識を持てるのか(EJ第1255号)

 AI(人工知能)が高度に発達し、人間と普通に会話し、場合によっては嫉妬し、そ
のために人間の行動を制約することさえする――そんな状況をわれわれは映画『200
1年宇宙の旅』で見ています。木星に向かう宇宙船「ディスカバリー号」のスーパーコ
ンピュータHALとボーマン船長との対立がそれです。
 この旅の途中HALが発狂して宇宙船の乗組員たちを殺すのです。ただひとり生き残
ったディヴ・ボーマン船長は、殺される前にHALの思考力を奪おうとします。そうす
ると、HALは機能を停止させられる前に、自分の行動を正当化するために次のような
ことをいうのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      このミッションは私にとってきわめて重要なので、あなたに台
      なしにされるわけにはいかない。
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 かつてあのサン・マイクロシステムズ社のビル・ジョイは、マシンが意識を持ったら
、いずれ人間にとって代わるのではないかとマジに恐れていたといいます。ビルがいう
のは、もし思考マシンが、自分たちがやりたいことに人間が邪魔していることを知った
なら、人間を排除する行動に出ることは明らかである――こういっているのです。
 「コンピュータやロボットは、きちんと監視しないと手に負えなくなる」――このア
イデアは、SFの世界では今日にいたるまで、繰り返し使われてきています。
 ウィリアム・ギブスンの1984年の作品、長編小説『ニューロマンサー』の中には
「チューリング」という警察組織が登場するのです。このチューリングの警官は、コン
ピュータシステムに本物の知性や自我が出現する兆候がないかを見張っており、少しで
もその兆候があると、手遅れになる前にシステムを停止するのが仕事なのです。
 「知性や自我は、ひょいと生まれるものである」ということをHALの生みの親であ
るアーサー・C・クラークは、ごく早い時期にその可能性に言及しています。彼の短編
小説『Fはフランケンシュタインの番号』には、世界規模の通信ネットワークが人間の
脳よりも複雑で相互接続の多いものになって、ある日突然、ネットワークの中に意識が
出現する可能性を描いています。
 「意識は複雑なシステムから突発的に生み出される」――映画『マトリックス』にお
いて地球全体に君臨しているAIは、そのようにして生まれたのではないでしょうか。
 ここで話題をひとつ。『2001年宇宙の旅』に登場するコンピュータHALは、I
BMをアルファベットで一文字ずつ前にずらしたものである――ということはあまねく
有名な話です。IBMを超えるコンピュータという意味です。しかしアーサー・クラー
クは、それを否定しているのだそうです。
 しかし、それはクラークのウソで、彼は確信犯なのです。というのは、彼の1990
年の長編小説『ゴールデン・フリース』(早川書房)に登場するAIの名前はJASO
N――彼はそれをJCNと略して呼んでいるのです。JCNはIBMをアルファベット
で、一字ずつ後ろにずらしたものです。HALの話を人にいうとき、これを話すとHA
Lのいわれを知っている人もきっと驚くはずです。
 余談が長くなりましたが、話を『マトリックス』に戻します。映画の主役の3人は既
に述べましたが、彼らが戦っている相手は誰なのでしょうか。
 この映画を見たある知人は、「誰と戦争しているのか今ひとつ相手がはっきりしない
が、とにかく変化が激しくて面白かった」といっていましたが、予備知識なしで見ると
確かにそういうことはいえるかもしれません。
 正解は、人類とAI(意識を持つコンピュータ)との戦いということなのです。やや
こしくてわかりにくいのは、人類が人間と培養人間の両方を含んでいること、それにA
Iはつねに背後にいて、実際に人類が戦うのはAIが創り出した数々のプログラムや、
攻撃用の兵器(センチネル)であることです。
 ちなみに、プログラムは、マトリックスにおいて、すべて人間のかたちをして出てき
ます。一番よく出てきて、ネオやモーフィアスやトリニティーと戦うのは、エージェン
トの頭目のスミスです。ところで、この黒いスーツにサングラスというシークレット・
サービスのいでたちのエージェントの正体は何でしょうか。
 エージェントの正体は、マトリックスの機能が正常に機能しているかどうかを監視す
る「システム監視プログラム」なのです。そのため、マトリックスの中に侵入を繰り返
すゲリラやプログラム自体が持っているバグを排除しようとして動くのです。エージェ
ントの頭目のスミスは、ヒューゴ・ウィービングというオーストラリアの俳優が演じて
います。
 映画を観るとき注目していただきたいのは、第1章におけるエージェントは全員耳に
イヤホンのプラグを付けているのに対し、第2章の「リローデッド」と第3章の「レボ
リューション」ではイヤホンプラグを付けていないことです。これは第1章の段階では
いちいち中央コンピュータ(AI)の指示を受けて動いていたのに、第2章以降はシス
テムから離脱し、独立していることを示しているからです。
 要するに、映画『マトリックス』には、次の3種類の「人間」が登場するのです。こ
れをきちんと見分けないと、頭の中が混乱します。
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      人間   ・・・・ 自然の繁殖で誕生したザイオンの人間
      培養人間 ・・・・ AIが栽培した人間/首にプラグあり
      プログラム ・・・ AIが創作したマトリックス内の人間
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                         ・・・ [マトリックス/04]

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2007年08月13日

マトリックスの中の人間の研究(EJ第1256号)

 この映画はなかなか奥が深いのです。この映画を製作したウォシャウスキー兄弟が、
「知的なアクション映画」を目指して製作しただけあって、徹底的に考え抜かれている
のです。
 現実世界と仮想現実世界――仮想現実世界であるマトリックスの世界にはどのような
人間がいるのでしょうか。マトリックスには、次の3種類の人間が存在することができ
ます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         1.培養人間(実体は培養器の中にいる)
         2.培養器から脱出した人間(ネオなど)
         3.各種プログラム(エージェントなど)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 マトリックスの中で生活しているほとんどの人間は培養人間で実際は培養器の中にい
ます。彼らは、自分がどのような状況にあるのかがわかっていません。夢を見るように
毎日を20世紀の世界そっくりに作られたマトリックスの中で暮らしています。
 モーフィアスによって培養器から解き放たれた培養人間がゲリラで、彼らはすべて首
の後ろにプラグが付いています。これがザイオン都市に住む人間と違う点です。モーフ
ィアス、ネオ、トリニティーはいずれも開放された培養人間です。
 彼らは、安楽椅子風のマシンに横たわり、首の後ろのプラグに電極を差し込まれる―
―これによってオペレータの操作で、意識のみがマトリックスの内のどのポイントにも
瞬間移動できるのです。現実世界に戻るときは、オペレータの指定した回線から意識が
転送されるのですが、その転送の入り口となるのがマトリックス内に存在する電話なの
です。つまり、彼らはマトリックスと現実世界とを自由に行ったり、来たりできるわけ
です。
 しかし、転送時に使われる電話は、エージェントに盗聴されるリスクを伴うため、ダ
イヤル式のアナログ回線が使われることになっています。それでも、オペレータとの連
絡には携帯電話を使わざるを得ないので、彼らはエージェントに容易に見つけられてし
まうことになります。
 それでは、プログラムとは何でしょうか。
 マトリックス内における培養人間以外のキャラクターはすべてプログラムです。エー
ジェントのスミスをはじめ、まだ説明していませんが、預言者のオラクルやセラフは人
の心を読む直感プログラムですし、最古のプログラムといわれるメロビンジアンやその
妻のパーセフォニー、手下のザ・ツインズなどなど――すべてプログラムなのです。プ
ログラムには、現実のプログラムがそうであるように、必ず目的があり、その目的が何
であるかを考えながら映画を観ると、よくわかると思います。
 そして、本物の人間――首の後ろにプラグのない人間は、当然ですが、現実世界にし
か住めず、もちろん、マトリックスに潜入することはできないのです。また、いうまで
もないことですが、マトリックスの内のプログラムに人間は、現実世界にはやってこれ
ないのです。
 映画に一番よく出てくるネブカドネザル号のクルーは、ほとんど培養人間ですが、オ
ペレータのタンクとドーザーは人間です。なお、ドーザーはタンクの兄です。クルーを
紹介します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      船長 ・・・・・・・・・ モーフィアス ――― 培養人間
      クルー/将校 ・・・・・ トリニティー ――― 培養人間
      クルー ・・・・・・・・ ネオ ――――――― 培養人間
      クルー/オペレータ ・・ タンク ―――――― 人間
      クルー ・・・・・・・・ ドーザー ――――― 人間
      クルー ・・・・・・・・ マウス ―――――― 培養人間
      クルー ・・・・・・・・ サイファー ―――― 培養人間
      クルー ・・・・・・・・ スイッチ(女性) − 培養人間
      クルー ・・・・・・・・ エイポック ―――― 培養人間
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここで、改めてマトリックスについて考えてみます。人間の感覚器官は、外からの情
報(光や音など)を電気信号に変換し、さらに脳による処理を経てイメージ化された現
実として、意識的経験が構成されています。
 そこでAIは、同じ電気信号を人間の脳に送り、現実と見分けがつかない幻想を創り
上げているのです。これがマトリックスの実体なのです。
 ネオがマトリックスの訓権プログラムに入ったときのモーフィアスとネオの次の会話
があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      ネオ「これは現実ではない?」
      モーフィアス「現実とは何だ?明確な区別などできない。五官
      で知覚できるものが現実だというなら、それは脳による電気信
      号の解釈にすぎない」
      ―― モーフィアスはディスプレに映像を写して見せる ――
      モーフィアス「これが君の知る世界、20世紀末の世界だ。い
      まやこれは、われわれがマトリックスと呼ぶ双方向神経系シミ
      ュレーションの一部としてしか存在していない。きみは夢の世
      界で暮らしていたんだよ、ネオ」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 モーフィアスやネオやトリニティーなどの培養人間にとっては意識がマトリックスに
行っているときに電極プラグを抜かれると死ぬことになります。また、マトリックス内
で戦って死亡したときは、現実の世界でも死ぬことになります。
 エージェントやオラクルやメロビンジアンなどのプログラムにとっての死とは、シス
テム上からプログラムが削除されたときがそれに該当します。このように、マトリック
スは、あらゆる可能性を考慮して設計してあるのです。 −−[マトリックス/05]

モーフィアス

2007年08月14日

単なるアクション映画でない証拠(EJ第1257号)

 『マトリックス』という映画を劇場で3回観て、ひとつ気が付いたことがあります。
1999年の第1章のときは日中の時間であったせいかそれほど混んでいなかったので
すが、第2章の「リローデッド」と第3章の「レボリューション」のときは、劇場内で
行列をつくらされたのです。
 もちろん作品が評判を呼んだことが原因ですが、劇場内で行列をつくらされるという
ことは「入れ替え制」になったことが原因です。つまり、「リローデッド」からは一回
ごとの入れ替え制になったのです。
 というのは、第1章のときあまりにも連続して二度観る観客が多かったので、後から
入場した人が座れないという事態が生じて「入れ替え制」にしたのです。最近の映画で
昼の時間帯から「入れ替え制」は大変珍しいのです。並みの映画であれば、ウィークデ
イの昼の時間帯は、学生と年寄りしか入らないからです。
 なぜ、2度観るのでしょうか。それは一度観ただけではワケがわからないからです。
といっても、単にワケがわからないだけであれば、「ワケのわからん映画だ」で終わっ
てしまいます。ですから、「好奇心をそそる映画」であることは確かです。
 「あのシーンは何を意味しているのか」とか「あの人物の役割は何なのか」――強く
好奇心を刺激するものが多いのです。だから、続けてもう一度観ようとするのです。こ
のように、何かに好奇心を持って追求するということは人間にとって非常に大事なこと
です。なぜなら、好奇心がなくなると人間終わりだからです。
 好奇心は年齢とともに失われていきます。したがって、老齢に達すると、何か特定の
ことに凝り固まるか、何事にも関心を持てなくなるものです。価値があると思っても、
興味がないと振り向きもしなくなります。これが老いを進行させるのです。
 一般論ですが、『戦場のピアニスト』や『スパイゾルゲ』に行く人は、『マトリック
ス』のような映画には関心を向けないものです。それが意識の世界を小さくしてしまう
のです。『マトリックス』は秀逸な映画です。人類の未来について考えさせられる何か
を持っています。ですから、もし、その魅力にとりつかれると意識の世界が一挙に拡大
されるでしょう。私がEJを続けているのは、好奇心をいつまで持続させられるか試し
たいからです。
 ジャン・ボードリヤールという人を知っているでしょうか。
 ジャン・ボードリヤールは、フランスの社会学者にして思想家です。生産中心主義の
思想を批判して、独自の象徴交換論を展開しています。なぜ、ジャン・ボードリヤール
かというと、その思想が『マトリックス』に深くかかわっているからです。
 『マトリックス』の第1章で、夜中にネオがノックの音に気づいて目を覚ますシーン
があります。来訪者はチョイというクライアントで、違法データを受け取りに来たので
す。
 そのとき、ネオは本棚に行き、一冊の本を取り出します。DVDで確認したのですが
、その本のタイトルは『シミュラークルとシミュレーション』と書いてあったのです。
実はこれは、ジャン・ボードリヤールの著作のひとつで、消費社会のシミュレーション
現象に鋭く分析を加えた著作として知られています。
 ところが、映画ではその本の表紙を開けると、中がくりぬかれていて、何枚かのフロ
ッピーディスクが入っているのです。ネオはハッカーですから、フロッピーディスクの
中身は違法データであることは確かです。
 書物自体が偽物であって、その中に入っているフロッピーディスクのデータも偽物―
―つまり、自分の暮らす世界がコンピュータによってつくられた完全なまがい物である
という、その後ネオが知ることになることを予示する伏線になっているのです。
 『マトリックス』の制作者であるウォシャウスキー兄弟は、この映画の主要な出演者
に次の2冊の本を読むよう指示しているのですが、その中に『シミュラークルとシミュ
レーション』が入っているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         ●ジャン・ボードリヤール著
          『シミュラークルとシミュレーション』
         ●ケヴィン・ケリー著
          『複雑系を超えて』(1994年アスキー出版)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 普通に映画を観る人は、まさかネオが手にする本のタイトルまで注意しないでしょう
し、よほどジャン・ボードリヤールに関心のある人でない限り、気がつかないと思いま
す。しかし、制作者のウォシャウスキー兄弟は、そのような細かいところまで、仕掛け
を施しているのです。
 ところで「シミュラクル」というのは何でしょうか。
 「シミュラクル」とは、「にせ物」とか「幻影」という意味です。スペルは次の通り
です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            smulacre →  simulacrum
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「シミュラクル」とは、オリジナルでもコピーでもないが、独自の価値として流通す
る一種の記号――記号は現実ではないが、情報はすべて記号でしかない。そして、世界
はこのシミュラクルによって作られたハイパーリアルである――何だかよくわかりませ
んが、マトリックスの世界的な概念であることは確かです。なお、『シミュラークルと
シミュレーション』は、法政大学出版局から翻訳書が出ています。少し、高い本ですが
・・・。
 第1章でモーフィアスがネオに2199年の荒廃とした世界を見せるシーンで、モー
フィアスは次のようにいいます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
               現実の砂漠にようこそ!
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これも『シミュラークルとシミュレーション』の中に出てくる「現実それ自体の砂漠
」の引用なのです。                 −−[マトリックス/06]

「マトリックス」に関係する2冊の本

2007年08月15日

ネオはなぜ空を飛べるのか(EJ第1258号)

 培養人間のうなじ(首のうしろ)についているプラグ――これをバイオポートという
のですが、このバイオポートの一方の先は太いケーブルを通してマトリックスを制御す
るコンピュータにつながっています。
 さて、バイオポートのもう一方の先は、脳全体に広がる電極の群れに配線を通してつ
ながっています。うなじから、脊柱の上で頭蓋を支えるしなやかな軟骨から入り、脊髄
を頭蓋にはめこんでいる自然の開口部を通って脳に達している――と考えられます。
 映画で興味深いことは、このバイオポートを利用して、ネオの脳にカンフーの技能を
ダウンロードするシーンとトリニティーに対して、ヘリコプターの操縦技術を脳に植え
つけるシーンです。要するに脳の永久記憶に直接書き込むわけです。
 しかし、マトリックスの中の人間――つまり、培養器に入っている人間ですが、そう
いう人間はこのような方法で知識や技能を身につけることはせず、本を読んだり、学校
に行ったりして、ごく普通のやり方で物事を学ぶのです。
 このバイオポートを利用して技術プログラムをダウンロードする方法は、モーフィア
スやトリニティーなどのゲリラが開発したノウハウなのです。興味深いのは、そのよう
にして超高度のカンフーの戦闘技能をダウンロードされたネオが師匠であるモーフィア
スに最初は勝てないことです。
 私がこの映画で最も印象に残っているのは、マトリックスそっくりに作られた環境で
のカンフーの訓練プログラムのシーンなのです。そこで、モーフィアスとネオは戦うの
ですが、どうしてもネオは、モーフィアスのスピードについて行けず、負けてしまいま
す。そのシーンを再現してみましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      モーフィアス:なぜ、やられた?
      ネオ    :速すぎる。
      モーフィアス:考えてみろ。仮想現実の世界で強さやスピード
             の原因が筋力にあると思うか。
      ネオ    :・・・・・
          ―― 再び、速さについていけないネオ ――
      モーフィアス:何してる。もっと速いはずだぞ。速く動こうと
             考えるな。速いと知れ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 カンフーに必要なすべての技能を脳にダウンロードしていても実際にそれを演ずると
き、何か考えてしまったり、やろうとすることに自身が疑問を持ってしまうと、身体の
動きがセーブされてしまうのです。
 モーフィアスのいう「速く動こうと考えるな。速いと知れ」はなかなか深遠なことば
です。「速く動こう」と考えるのは意思の力ですが、「速く動けるのだ」と信じて疑わ
ないと、そのように動けるのです。「速いと知れ」はそのことをいっています。思考は
現実化するのです。
 カンフーの戦いの途中で、モーフィアスは盛んに「心を解き放て」と叫びますが、マ
トリックスの中では心を解き放つこと――すなわち、現実世界での行動概念を捨てて、
意識の開放をすればするほど、パワーが増すのです。
 もう少し詳しく説明しましょう。
 現実世界では、やれないことがたくさんありますね。空を飛べない、空間で長い間静
止できない、高いところから落ちれば死ぬ近くでは弾丸を避けられないなど――しかし
、マトリックスの世界には、重力や質量は存在しないのです。したがって、現実世界で
できないと考えていることをすべて意識の外に捨ててしまえば何だってできるようにな
るのです。ネオが空を飛んだり、近くで発射された弾丸を止められるようになったのは
、十分に心が開放された結果と考えることができます。
 「速く動こうと考えるな。速いと知れ」――このことは、現実の世界でも当てはまる
教訓ではないでしょうか。「やれないと考えてはいけない。できると知れ!」――「で
きる」と考えれば、たいがいのことは可能になるのです。
 以上のように考えたうえで、この映画には大いなる矛盾というか、不可解な謎があり
ます。映画『マトリックス』を観た人は、ぜひ考えていただきたいと思います。
 ひとつは、第2章「リローデッド」の最後の部分で、AIの放つイカ型ロボット「セ
ンチネル」をネオが片手で止めるシーンがあったと思います。しかし、その場所はマト
リックスの中ではなく、ザイオン――現実の世界なのです。いくらネオでも、現実世界
で超能力は発揮できないはずですが、どうして止められたのでしょうか。この謎につい
てどのような意見をお持ちですか。
 もうひとつ謎があります。
 ネブカドネザル号のクルーの一人にサイファーという人物がいます。サイファーは、
ゲリラの生活に嫌気がさして、もう一度マトリックスにつながれたいと願っています。
そういう心のスキにエージェントのスミスが入り込んで、サイファーは裏切りを勧めら
れます。
 実際にサイファーは仲間を裏切るのです。そのために、モーフィアスは窮地に陥り、
それが原因でネブカドネザル号のクルーであるマウス、スイッチ、エイポック、ドーザ
ーの4人とその裏切りの張本人であるサイファー自身も死ぬことになります。
 そのサイファーがマトリックス内のレストランで、スミスと密会するシーンがありま
す。裏切りの打ち合わせですから、一人でこっそりとやったはずですが、現実世界から
マトリックスに行くのは、自分ひとりではできないはずです。
 少なくともオペレータは必要ですが、サイファーがマトリックス内で何をしているか
は、オペレーターにすべてわかってしまいます。どのようにして、サイファーはマトリ
ックスに行ったのでしょうか。一人でプラグに電極を差し込んでマトリックスに行き自
動的に一人で戻ってこれるのでしょうか。       −−[マトリックス/07]

変身したネオ

2007年08月16日

ネオは3回変身している(EJ第1259号)

 キアヌ・リーブスが映画『マトリックス』で演ずるネオは、明らかに3回変身してい
ます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.トーマス・アンダーソン時代のネオ
          2.スミスによって殺され復活したネオ
          3.第2章で究極の選択をした後のネオ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 映画『マトリックス』の物語がキリスト教的テーマをベースにしていることは明らか
です。ネオは人類を救済する「救世主=選ばれし者」といわれているので「イエス・キ
リスト」であり、救世主の出現を固く信ずるモーフィアスは、洗礼者ヨハネに相当する
と思われます。
 それでは、トリニティーはどうでしょうか。既に述べたようにトリニティーという言
葉には、三位一体の意があることを指摘していますが、具体的に誰に当たるかといえば
、それはマグダラのマリアではないかと思われます。それは、どちらも男社会のなかで
ひときわ際立つ女性であるからです。
 一回目の変身をしたネオは、モーフィアス救出劇に続く画面でエージェントのスミス
と単身立ち向かい、近くのモーテルの303号室に逃げ込みます。そこには、マトリッ
クスからの脱出口であるアナログ電話機があるのです。
 しかし、ネオが受話器を取り上げようとした瞬間、先回りをしていたスミスの銃弾を
浴びて死ぬのです。ネブカドネザル号に横たわるネオの生命維持装置も「死」を示す表
示が出ます。「まさか!」と叫ぶモーフィアス。トリニティーは、預言者に「私の愛す
る人が救世主」といわれたことを告白し、息のないネオに口づけする――そうすると、
ネオは息を吹き返すのです。これは、明らかにイエスの復活をあらわしています。
 トリニティーをマグダラのマリアであるとしたのには、2つのことが一致するからで
す。一つは、マリアはイエスが殺されるときそばにいたことであり、二つは、イエスが
復活して最初に顔を見たのがやはりマリアであったという点です。
 トリニティーは、ネオが殺されるとき一緒にいる――現実世界とマトリックスという
距離感はあるが――それに、ネオが息を吹き返したとき最初にその顔を見たのも、やは
り、トリニティーだからです。役柄はマリアと一致しているのです。
 第1章で、モーフィアスがネオをマトリックスに住むオラクルという預言者のところ
に連れていくシーンがあります。そのときオラクルはネオに次のようにいうのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        あなたは救世主ではない。しかし、来世では・・・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 確かに、一度死んで復活する――つまり、来世ですが、その後のネオは明らかに変身
しています。銃弾をすべて手で叩き落し、カンフーも力強さを増し、そして空を飛ぶ―
―それに顔つきも少し変貌しているように感じます。
 実は、イエスも復活前と復活後は違うのです。パウロは、「コリント人への第一の手
紙」第15章44節で、「ソーマ・プニュマティコン」ということばを使ってそのこと
について述べています。「ソーマ・プニュマティコン」とは「霊のからだ」といったよ
うな意味になります。パウロは次のように書いています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      まかれるときは朽ちるものでも、朽ちないものによみがえり、
      まかれるときには卑しいものでも、栄光あるものによみがえり
      まかれるときには弱いものでも、強いものによみがえる。
            ――「コリント人への第一の手紙」第15章より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 確かにネオの変身に共通性があることがわかると思います。復活したネオの身体には
光さえ差しているのです。まさに「ソーマ・プニュマティコン」です。それに昨日のE
Jでご紹介した仲間を裏切るサイファーですが、これはユダそのものでしょう。
 サイファーが隠れてスミスと会うのは、ユダが祭司長らと内々に会ってイエスを裏切
る相談をするのとそっくりです。ユダには「秘密」という意味があるそうですが、サイ
ファーにも「秘密」という意味があり、一致しています。
 ここで、預言者のオラクルについて述べる必要があります。このオラクル――見た目
は普通のおばさんですが、かつてモーフィアスに救世主が復活することを予言し、人々
にその運命を告げる予言者としての役回りなのです。
 マトリックスの設計者であるアーキテクト――AIの代弁者はオラクルは人間心理の
探索のために作った「直感プログラム」であると語ります。第2章の「リローデッド」
で、このオラクルについてネオは、彼女とそのガードマンのセラフがバックドアから出
入りするのに気がついて、「あなたはプログラムだ」と迫るシーンがあります。バック
ドアとは、ハッカーが再侵入のために作っておく裏口のことです。システム開発者がセ
キュリティのために意図的に作るのも「バックドア」といいます。
 「リローデッド」で無数のドアが並ぶ廊下が登場しますが、このドアはマトリックス
内のあらゆる場所に抜けられるようになっています。バックドアはそのドアの中に作ら
れているのです。この廊下に入ると、ネブカドネザル号の監視カメラから姿が見えなく
なることも覚えておくとよいでしょう。
 さて、「第2章で究極の選択をした後のネオ」とは何でしょうか。「リローデッド」
の終わりのところでネオは、マトリックスの設計者アーキテクトという老人に会います
。そのときのネオとアーキテクトの会話は非常に重要な意味を持っているのです。
 アーキテクトは、ネオが救世主であることを認めた上でネオに究極の選択を迫るので
す。「人類を救うなら右のドアを、トリニティーを救い、人類が滅亡する道を選ぶなら
左のドアを――君はどちらを選ぶか」と。このテーマは明日終了します。
                          −−[マトリックス/08]

ネオの変身

2007年08月17日

ネオはアノマリーである(EJ第1260号)

 今朝は映画『マトリックス』のテーマを一応しめくくることにします。第2章でネオ
は、預言者のオラクルにザイオンを救うためにはソース(マトリックスの中核部分)に
たどり着き、マトリックスの設計者であるアーキテクトに会う必要があるとアドバイス
されます。
 そのためには、キー・メーカーの持つ鍵が必要なのですが、そのキー・メーカーは、
メロビンジアンというマトリックス内の古いプログラムに幽閉されているのです。そこ
で、ネオたちは、メロビンジアンのところに行き、キー・メーカーを奪還して、大変な
苦労をして、アーキテクトにたどり着くのです。
 そのアーキテクトとネオの対話――ここにこの映画のすべての謎が隠されているので
す。ここで、2つの重要なことがアーキテクトによって語られるのです。
 1つ目は、「なぜ、私はここにいる?」というネオの問いに対する次のアーキテクト
の答えです。話の内容は非常に難解ですが意味がわかるでしょうか。字幕をそのまま掲
載します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      アーキテクト:
      君はアンバランスな均衡の余剰だ。プログラム固有の問題だ。
      つまり、君は変則的なアノマリーの産物だ。いまだ、排除でき
      ずにいるが、本来求めたのは数学的な正確さだ。解決すべき問
      題だが、予想範囲内でコントロールも可能だ。それで君は容赦
      なくここに導かれた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 要するにアーキテクトは、ネオは「アノマリー」だというのです。「アノマリー」と
は例外とか変則とか異例という意味です。システム全体の設計思想に問題があると、こ
のようなアノマリーが生じてしまうのです。アノマリーは、システムの中に本来あって
はならないものです。
 つまり、ネオやエージェントのスミスはアノマリーであり、本来排除すべきものなの
だが、いまだに排除できないでいる――とアーキテクトはいうのです。しかし、もとも
とアノマリーはその出現が予想されていたものであり、大きな意味ではシステムのコン
トロール下にある――だからこそ、いや応なく君はここに導かれてきたのだといってい
るのです。
 重要なことの2つ目は、現在のマトリックスのバージョンが6であるという事実です
。バージョンが変わるたびに人類は危機に瀕し、そのつど選ばれし者である救世主があ
らわれて、次に述べることを行ってザイオンを再建してきたというのです。

      アーキテクト:
      ここでの「選ばれし者」の役割は、起動源(ソース)に戻って
      自分が保持するコードの臨時配布を実行、基幹プログラムを再
      挿入することだ。その上で、君はマトリックスから女性16名
      および男性7名から成る23名の人間を選抜し、ザイオンを再
      建する。この処理過程での不履行の発生は大規模なシステムク
      ラッシュを招き、マトリックスに接続された全ての人間の生命
      を奪う結果となる。それはザイオンの崩壊と併せて、最終的に
      は人類の滅亡を意味するのだ。

 アーキテクトによると、最初のマトリックスは、AIである自分が制作したので、シ
ステム上完璧であって、いっさいのアノマリーが発生しないものだったが、人間がそれ
を受け入れなかったというのです。そこで、システムのレベルを下げて、もっと乏しい
心、完璧のパラメータに束縛されない貧しい精神に基づくシステムを目指して6回も作
り直した結果、ほとんどの人間がそれを受け入れるようになっている――とアーキテク
トはいうのです。
 そういう人間にフィットするマトリックスのバージョン6ができたのは、本来は人間
の精神を調査するために作られた直感プログラム/オラクルが役に立ったとアーキテク
トはいいます。そして、私がマトリックスの父であれば、オラクルは間違いなくマトリ
ックスの母であると。
 そして、アーキテクトは、ネオに究極の選択を迫るのです。右のドアを開ければ、人
類の救済にいたる道が開ける。左のドアを開ければトリニティーのところに行けるが、
人類は全滅する――ネオは何のためらいも見せず左のドアを開けて、トリニティーの救
出に向かうのです。
 その後のことは、現在上映中の第3章「レボリューション」を観るしかないのですが
、それ以上踏み込むとネタバレになるので今回の分析はここまでのことにします。いず
れ、「レボリューション」のDVDが発売された時点で、再びEJで取り上げてみたい
と思います。
 映画『マトリックス』については、9回にわたってお送りしました。全原稿量は40
0字詰め原稿用紙63枚――それだけ書いてもまだ書くことはたくさんあります。それ
ほど奥が深い映画ということがいえます。       −−[マトリックス/09]

アーキテクトとの対話

2007年08月20日

再現/御巣鷹山飛行機事故の真相(EJ第1051号)

 犠牲者520人を出した1985年の日航ジャンボ機墜落事故から22年日が経過し
ました。しかし、いまだにその謎は解明されておらず、大きな謎が残っています。
 「御巣鷹山飛行機事故」についは、1999年5月7日のEJ132号からはじまっ
て、1999年5月25日のEJ144号までの13回にわたって取り上げています。
 以来、このテーマについて再研究をしてきたのですが、新事実も数多くあり、本日か
らこのテーマを再構築して取り上げることにしたいと思います。単なる再現ではなく、
新規にレポートするつもりです。今日は「予告編」だと思ってください。
 第1回のEJ132号では、次のメッセージによってこのテーマはスタートを切って
います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       今日から取り上げるテーマは、私自身がまだ半信半疑に思っ
      ているものです。何度かEJで取り上げようと思ったのですが
      見送ってきたテーマです。テーマの内容は「御巣鷹山/JAL
      123便遭難」です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 半信半疑は今もあります。しかし、その後の情報収集によってそういうことがあって
も不思議はないと思うようになってきています。何よりもわれわれは、この不幸な事故
を風化させてはならないと思います。そのためにもEJで再び取り上げるのは意義があ
ると思います。
 1998年の暮れのことです。私はいつも土曜日にブックハンティングに行くジュン
ク堂書店で、次の本を見つけたのです。
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        池田昌昭著
        『JAL123便は自衛隊が撃墜した』/文芸社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 思わずギョッとするようなタイトルです。タイトルを見る限りキワもののように見え
ます。しかし、実はこの本は2冊目であり私がEJに取り上げる直前にさらに3冊目が
出版されているのです。そして、2001年7月に4冊目が出ています。内容はキワも
のではなく、事実に基づいて記述されています。
 関連書籍については、あとでまとめてお知らせしますので、まずはEJのレポートを
読んでいただきたいと思います。読み進めるにしたがって、池田氏の2冊目の本のタイ
トル『JAL123便は自衛隊が撃墜した』という結論に近づくのかどうかです。
 1985年8月12日、羽田発大坂行きJAL123便は、乗客509人、乗員15
人、合計524人を乗せて、午後6時12分に羽田を離陸したのですが、午後6時56
分30秒、群馬県側の山岳地帯である御巣鷹山に墜落――乗客のうち重傷4名は8月1
3日に救出されたものの、505人の乗客と15人の乗員は還らぬ人となったのです。
 問題は事故の原因です。当時の運輸省航空事故調査委員会は結論として、次のように
述べています。報告書はもっと詳細なものですが、重要な部分のみ書きます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      機体後部の圧力隔壁の破壊による機内与圧空気の急激な噴流に
      より、垂直尾翼を噴き飛ばし、JAL123便は操縦不能とな
      り、御巣鷹山に墜落したものである
             ―――運輸省航空事故調査委員会の報告書より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 大きな疑問点は、次の3つがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.圧力隔壁は何によって破壊されたか
          2.機内急減圧が本当に起きているのか
          3.墜落場所がなぜ御巣鷹山になったか
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 事故調査委員会は、機体後部の圧力隔壁が破壊された原因について、「疲労亀裂の進
展で残留強度が著しく低下したため」としています。JAL123便は、垂直尾翼が3
分の2も損傷しているのです。航空機の垂直尾翼は非常に頑丈なものであり、簡単に破
損するものではないのです。機内与圧空気の急激な噴流などで壊れるものかどうかは疑
問です。
 事故調査委員会は、機内与圧空気の急激な噴流が尾翼破壊の原因という説を正当化す
るために、圧力隔壁の破壊を後からつけたのではないでしょうか。
 もし、与圧空気の噴流が頑丈な垂直尾翼を吹き飛ばすほど強いものであったなら、機
内にはその空気抜けによる急減圧が起きているはずなのです。何しろ高度24000フ
ィート(7200メートル)で起こったことなのですから、機内の人たちは大変なこと
になっていたはずです。
 しかし、生存者の証言を調べても、そのような急減圧は起きているフシはないのです
。事故調査委員会も急減圧の起きていないことは一応認めており、これを解明できない
未解決事項としているのです。
 垂直尾翼が破壊された原因を常識的に考えると、何らかの飛行物体が尾翼にぶつかっ
たのではないかということになります。疲労亀裂で圧力隔壁に穴が開き、内部の空気の
墳流によって尾翼を飛ばしたという説明はかなり苦しいのではないでしょうか。
 そして、3つ目の疑問は、なぜ航路から大きく外れた御巣鷹山に墜落したのでしょう
か。途中で操縦不能になり、ダッチロールによって御巣鷹山まで行ってしまったという
説を信じている人は多いのですが、御巣鷹山に行く必然性がないのです。
 このように、事故から17年を経過しても、なお不明なことがあまりにも多いのです
。これら多くの疑問点にひとつずつメスを入れていくことにします。  
                        −−[御巣鷹山事故の謎/01]

ボーイング747

2007年08月21日

後部圧力隔壁破損は起こっていない(EJ第1052号)

 JAL123便の機内に、「急減圧」があったか、なかったかは、事故のあと、大き
なテーマとなって、いろいろなところで実験が行われています。その結論として急減圧
はなく、したがって後部圧力隔壁の破損もなかったということがいえるのです。
 しかし、事故調査委員会は「後部圧力隔壁破損説」をいささかも譲ろうとはせず、再
調査もしないまま、事故後17年が経過しているのです。
 急減圧がなかったいう根拠についてまとめておきます。根拠は4つあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1.JAL123便は、規定の急降下をしていない
        2.酸素マスクは降りたが、クルーは使っていない
        3.墳流で乗客も荷物も噴き飛んでいる様子はない
        4.生存者の機内の状況目撃証言でも急減圧はない
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の根拠は、JAL123便のクルーは、機を急降下させていないことです。機内
に急減圧が発生すれば、直ちに急降下を行うことが義務づけられているのですが、JA
L123便は高度を2万2000フィートに下げる許可を求めただけで、急降下させて
いないのです。それは、急減圧がなかったことを意味していることになります。
 第2の根拠は、酸素マスクが降りてきたにもかかわらず、パイロット・クルーはそれ
を着用していないことです。これは、マスクをつけなくても操縦ができたことを意味し
ており、これも急減圧がなかったことを意味しています。
 それに酸素マスクが降りたのは、急減圧のせいではなく「ドーン」という何かがぶつ
かった衝撃によって降りてきたのではないかともいわれているのです。
 第3の根拠は、墜落前の機内写真によると、酸素マスクは降りているものの、比較的
機内は整然としていることです。もし、本当に急減圧が起きていれば、乗客や荷物が後
ろに噴き飛んで大混乱になっていたはずなのに、そういう状況は見られないのです。ボ
イスレコーダにも、それをうかがわせるものはいっさい入っていないのです。
 第4の根拠は、生存者の落合由美氏の証言でも急減圧は起きていないのです。乗客は
降りてきた酸素マスクは当てているが、混乱はなかったと落合氏は証言しています。事
故機の機内にいた人自身がそう証言しているのですから、これ以上確かなことはないは
ずです。
 しかるに、事故調査委員会は、それでも後部圧力隔壁の破損の一点張りなのです。そ
れにJAL123便の過去の事故を持ち出して正当化しようとしているのです。
 JAL123便は、JA8119機というのですが、墜落事故を起す前に、2つの事
故を起しているのです。事故調査委員会はこの事故と後部圧力隔壁破損を結びつけてい
るのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1978年6月 2日 ・・・ 大阪空港でのしりもち事故
      1982年8月19日 ・・・ 千歳空港の滑走路での事故
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 JA8119機は、1985年8月12日の墜落事故の7年前の6月2日に、大阪空
港において「しりもち事故」を起しています。着陸のさいに進入角度を大きく取りすぎ
、尾翼付近の機体底部を滑走路に接触させ、その部分が幅約1メートル、長さ約17メ
ートルにわたって破損しています。
 このときは、ボーイング社から修理チームが来日し、圧力隔壁の下半分を取り替えて
いるのです。墜落事故後のボーイング社の話によると、圧力隔壁には亀裂が入っていた
ので後部全体を取り替えており、新品同様であるといっているのです。しかし、事故調
査委員会は、このとき隔壁の上部を取り替えていないことが、今回の事故の原因と見て
いるようなのです。
 もうひとつの千歳空港の事故は、墜落事故の3年前に起きています。千歳空港に着陸
するさいに、右第4エンジンを滑走路に擦っているのです。それにしても、よく着陸ミ
スを起す飛行機であるとはいえると思います。しかし、この事故は墜落事故には直接関
係ないとされています。
 墜落事故の7年前の大阪空港のしりもち事故で後部圧力隔壁を修理したという事実は
、操縦不能になった原因をその圧力隔壁破損にあるとするのには格好の根拠として使え
ることは確かです。ボーイング社の修理ミスのせいにするためにも、その方がプラスと
判断したのでしょうか。
 ちなみに「隔壁」とは、強度の強いアルミ合金製であり、円錐構造の機体におわんの
ように嵌め込まれているのです。したがって、しりもち事故のさい、その衝撃は下方部
分だけでなく、上方部分にも及んでいるはずとする主張には一理あるのです。しかしだ
からといって、それが操縦不能の原因として断定することは、困難であるといえます。
状況的には、機内に急減圧は起きておらず、圧力隔壁は破損していないという証拠が、
大勢を占めているからです。
 このように、JAL123便が操縦不能になった原因については数多くの疑問がある
のです。そのため被害者の遺族たちは、1999年1月に事故原因再調査要求を提出し
たのですが、事故調査委員会はこれを完全に無視し、それどころか、JAL123便墜
落事故関係の全書類を1999年11月にすべて廃棄処分にしてしまっているのです。
 事故の真の原因を徹底的に究明することなく、大きな矛盾のある事故原因であくまで
押し通し、あまつさえその証拠となる書類をすべて廃棄処分にする――考えられないこ
とであり、許されないことであると思います。
 さて、圧力隔壁の破損がないとすると、JAL123便は何によって操縦不能となっ
たのでしょうか。明日からは、外部原因説について分析を進めていきたいと考えていま
す。
                        −−[御巣鷹山事故の謎/02]

2007年08月22日

事故調が隔壁破損に執着する理由(EJ第1053号)

 JAL123便の機内に、「急減圧」があったか、なかったかは、事故のあと、大き
なテーマとなって、いろいろなところで実験が行われています。その結論として急減圧
はなく、したがって後部圧力隔壁の破損もなかったということがいえるのです。
 しかし、事故調査委員会は「後部圧力隔壁破損説」をいささかも譲ろうとはせず、再
調査もしないまま、事故後17年が経過しているのです。
 急減圧がなかったいう根拠についてまとめておきます。根拠は4つあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1.JAL123便は、規定の急降下をしていない
        2.酸素マスクは降りたが、クルーは使っていない
        3.墳流で乗客も荷物も噴き飛んでいる様子はない
        4.生存者の機内の状況目撃証言でも急減圧はない
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 第1の根拠は、JAL123便のクルーは、機を急降下させていないことです。機内
に急減圧が発生すれば、直ちに急降下を行うことが義務づけられているのですが、JA
L123便は高度を2万2000フィートに下げる許可を求めただけで、急降下させて
いないのです。それは、急減圧がなかったことを意味していることになります。
 第2の根拠は、酸素マスクが降りてきたにもかかわらず、パイロット・クルーはそれ
を着用していないことです。これは、マスクをつけなくても操縦ができたことを意味し
ており、これも急減圧がなかったことを意味しています。
 それに酸素マスクが降りたのは、急減圧のせいではなく「ドーン」という何かがぶつ
かった衝撃によって降りてきたのではないかともいわれているのです。
 第3の根拠は、墜落前の機内写真によると、酸素マスクは降りているものの、比較的
機内は整然としていることです。もし、本当に急減圧が起きていれば、乗客や荷物が後
ろに噴き飛んで大混乱になっていたはずなのに、そういう状況は見られないのです。ボ
イスレコーダにも、それをうかがわせるものはいっさい入っていないのです。
 第4の根拠は、生存者の落合由美氏の証言でも急減圧は起きていないのです。乗客は
降りてきた酸素マスクは当てているが、混乱はなかったと落合氏は証言しています。事
故機の機内にいた人自身がそう証言しているのですから、これ以上確かなことはないは
ずです。
 しかるに、事故調査委員会は、それでも後部圧力隔壁の破損の一点張りなのです。そ
れにJAL123便の過去の事故を持ち出して正当化しようとしているのです。
 JAL123便は、JA8119機というのですが、墜落事故を起す前に、2つの事
故を起しているのです。事故調査委員会はこの事故と後部圧力隔壁破損を結びつけてい
るのです。
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      1978年6月 2日 ・・・ 大阪空港でのしりもち事故
      1982年8月19日 ・・・ 千歳空港の滑走路での事故
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 JA8119機は、1985年8月12日の墜落事故の7年前の6月2日に、大阪空
港において「しりもち事故」を起しています。着陸のさいに進入角度を大きく取りすぎ
、尾翼付近の機体底部を滑走路に接触させ、その部分が幅約1メートル、長さ約17メ
ートルにわたって破損しています。
 このときは、ボーイング社から修理チームが来日し、圧力隔壁の下半分を取り替えて
いるのです。墜落事故後のボーイング社の話によると、圧力隔壁には亀裂が入っていた
ので後部全体を取り替えており、新品同様であるといっているのです。しかし、事故調
査委員会は、このとき隔壁の上部を取り替えていないことが、今回の事故の原因と見て
いるようなのです。
 もうひとつの千歳空港の事故は、墜落事故の3年前に起きています。千歳空港に着陸
するさいに、右第4エンジンを滑走路に擦っているのです。それにしても、よく着陸ミ
スを起す飛行機であるとはいえると思います。しかし、この事故は墜落事故には直接関
係ないとされています。
 墜落事故の7年前の大阪空港のしりもち事故で後部圧力隔壁を修理したという事実は
、操縦不能になった原因をその圧力隔壁破損にあるとするのには格好の根拠として使え
ることは確かです。ボーイング社の修理ミスのせいにするためにも、その方がプラスと
判断したのでしょうか。
 ちなみに「隔壁」とは、強度の強いアルミ合金製であり、円錐構造の機体におわんの
ように嵌め込まれているのです。したがって、しりもち事故のさい、その衝撃は下方部
分だけでなく、上方部分にも及んでいるはずとする主張には一理あるのです。しかしだ
からといって、それが操縦不能の原因として断定することは、困難であるといえます。
状況的には、機内に急減圧は起きておらず、圧力隔壁は破損していないという証拠が、
大勢を占めているからです。
 このように、JAL123便が操縦不能になった原因については数多くの疑問がある
のです。そのため被害者の遺族たちは、1999年1月に事故原因再調査要求を提出し
たのですが、事故調査委員会はこれを完全に無視し、それどころか、JAL123便墜
落事故関係の全書類を1999年11月にすべて廃棄処分にしてしまっているのです。
 事故の真の原因を徹底的に究明することなく、大きな矛盾のある事故原因であくまで
押し通し、あまつさえその証拠となる書類をすべて廃棄処分にする――考えられないこ
とであり、許されないことであると思います。
 さて、圧力隔壁の破損がないとすると、JAL123便は何によって操縦不能となっ
たのでしょうか。来週からは、外部原因説について分析を進めていきたいと考えていま
す。
                        −−[御巣鷹山事故の謎/03]

2007年08月23日

無人標的機『ファイア・ビー』の衝突説(EJ第1054号)

 JAL123便が操縦不能になった原因は、飛行機の垂直尾翼が3分の2程度破壊さ
れたことにあります。事故調査委員会は内部原因説を結論としていますが、ごく素直に
考えれば、何らかの飛行物体がJAL123便の尾翼に衝突したのではないかというこ
とを疑うのが自然であると思います。
 しかし、高度高度24000フィート(7200メートル)の上空で飛行機の垂直尾
翼にぶつかるものといったら、何があるでしょうか。それは、飛行機かミサイルのよう
なもの以外は考えられないのです。
 飛行機は考えられないので、ミサイルのような謎の飛行物体ということになるのです
が、場所は相模湾上空であり、もっとも飛行機の往来の多いところなのです。なぜ、そ
のような物騒なものが飛んでくるのでしょうか。普通では考えられないことです。
 しかし、ひとつだけ気になることがあります。それは、JAL123便の墜落事故が
起こった1985年8月12日に、相模湾で当時の新型護衛艦「まつゆき」が試運航中
であったことです。
護衛艦は、昔のことばでいえば戦艦です。戦艦の試運航というのは、単に海上を航行す
るだけではなく、兵装運用実験を行うことが大切な目的なのです。
 当時「まつゆき」といえば、最新の高度ミサイル防空システムを備えたシステム艦で
あり、実験項目もかなりあったと考えられます。「まつゆき」の任務は、来襲するミサ
イルや戦闘機という標的を正確に攻撃して防空することにあり、当時のこの軍事技術が
後のイージス艦の開発につながっていくことになります。
 この「まつゆき」の実験の一環で、たまたま相模湾上空にさしかかったJAL123
便のところに何かが飛んできたのではないか――こういう推定も成り立つのです。
 ここで、1985年当時の日本の防衛に関する状況を振り返っておく必要があります
。1985年といえば、時の総理大臣中曽根康弘氏が米国で「日本列島は不沈空母」と
発言して、大騒ぎになっていたときです。米国がレーガン政権のときの話です。
 当時の中曽根内閣は、国防政策の中身として、武器輸出三原則や軍事費のGNP1%
枠を撤廃し、世界最先端軍事技術を米国の監視のもとで自主開発する国防政策を推進し
たのです。その具体的な目玉は、国産巡航ミサイルの開発だったのです。そして日本は
、独自に光学ミサイル管制技術を開発したのです。
 米国はこの日本の技術を自国の巡航ミサイルの中心部分に組み込み、あの「トマホー
クミサイル」を完成させたのです。レーガン政権は、日本に対し、石油資源のルート確
保を担わせるため、シーレーン防衛の名のもとで、日本の自衛隊を強化しようとしてい
たのです。そして、とくに日本に求めた技術開発は、ミサイル誘導装置の開発なのです

 このミサイル誘導システムの精度をチェックするために使われるものに「無人標的機
」というものがあります。航空評論家の関川栄一郎氏は、JAL123便の垂直尾翼に
ぶつかったのは、この無人標的機ではないかといっているのです。
 「無人標的機」には、次の3種類があります。
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         1.高速無人標的機「ファイア・ビー」
         2.高速無人標的機「チャカ(CHUKAR II )」
         3.対空無人標的機「ターゲット・ドロン」
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 第1の「ファイア・ビー」は、長さ7m、幅3.93m、高さ2.25m、重さ68
6.3キロで、最大速度0.96マッハで実用上昇限度1万7000m、航続時間は約
60分です。事故発生時の高度7200mにゆうゆう届くのです。操縦方式は、無線コ
マンド・コントロールです。
 第2の「チャカ II 」は「ファイア・ビー」を小型化した対ミサイル用標的機です。
長さ3.87m、幅1.76m、高さ0.71m、時速350〜900キロ、高度15
0〜9000m、重さ182キロ、航続時間約80分です。これもJAL123便に届
くのです。訓練支援艦「あずま」の管制システム「艦上追尾管制装置」によって飛行を
コントロールするのです。
 第3の「ターゲット・ドロン」は、長さ3.8m、幅4.03m、高さ0.79m、
重量162キロ、航続時間約90分、母艦艇からジャトーにより発射され、UHF、F
M方式の電波でリモコンされて飛行するプロペラ機なのです。
 垂直尾翼を壊したのがこれらの標的機であるとした場合、3つの標的機のうち、どれ
がJAL123便の垂直尾翼に衝突したのでしょうか。
 まず、はっきりしていることは、プロペラ機である「ターゲット・ドロン」ではない
ということです。そうすると、「ファイア・ビー」か「チャカ II 」ということになり
ますが、「チャカ II 」は、JAL123便の垂直尾翼を壊すには、重量的に軽過ぎる
と考えられます。
 この点、「ファイア・ビー」は重量が686.3キロありますので、JAL123便
の垂直尾翼を破壊する力は十分あります。したがって、もし、標的機が犯人であるとし
た場合、「ファイア・ビー」である可能性が高いことになります。
 しかし、無人標的機「ファイア・ビー」をリモート・コントロールするには、海上自
衛隊の訓練支援艦が必要なのです。事故当時は、訓練支援艦は「あずま」のみが実在し
ていたのですが、当日「あずま」は、呉港に繋留されていたのです。したがって、当日
は「ファイア・ビー」を飛ばせることはできなかったのです。
 それに「ファイア・ビー」については、航続距離や民間航空路線の関係から相模湾で
はできないことになっているのです。つまり、アリバイがあるわけです。
 そこで、事故の起こった時刻に、その空域――関東南A空域にどのような航空機がい
たのか詳細に調べたところ、気になる航空機が多く存在していたことがわかってきたの
です。
                        −−[御巣鷹山事故の謎/04]

ファイア・ビー

2007年08月24日

謎の飛行物体はSSM−1である(EJ第1056号)

 JAL123便が事故時刻に飛んでいた空域は、「関東南A空域」と「関東西空域」
の2つです。それぞれの空域にその時刻にどのような航空機がいたかを調べた記録があ
ります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      ≪関東南A空域≫      ≪関東西 空域≫
       1.全日空トライスター   8.全日空ボーイング747
       2.全日空YS11     9.全日空トライスター
       3.日航ボーイング747 10.日航ボーイング747
       4.東亜国内航空DC9  11.ノースウエスト航空
       5.ビーチクラフト機   12.大韓航空
       6.米軍機C―130   (11と12の機種はいずれも
       7.自衛隊機C−1    ボーイング747)
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 このほか、関東西空域に米軍機がもう1機存在していたのですが、位置や高度などは
不明です。この中で注目すべきは、自衛隊機C−1です。C−1は、人員や兵器を輸送
するずんぐりとした航空機なのですが、外形はこれとそっくりのEC−1という航空機
があるのです。
 EC−1は、C−1を電子戦用に改良したもので、所属は岐阜の航空実験団です。こ
の航空実験団というのは、航空機および搭載装備品、支援機器、電子機器、兵装などの
試験・評価と、これらの基礎的な運用、研究、開発をやっているのです。諸般の情勢か
ら考えて、この空域にいたのは、C−1ではなく、EC−1であると考えられます。
 重要なことは、JAL123便事故の1985年8月12日には、このEC−1は納
入前のテストをしており、試験飛行をしていていたこと、それに護衛艦「まつゆき」も
納入前の試運航をしており、EC−1、「まつゆき」の両方とも厳密には国有財産とし
て未登録であったことです。
 国有財産でない場合は、所有権は製造会社側にあるので、これらの航空機や艦艇が実
際にやったことの報告義務から法的には免れることになります。実際に何が行われたか
を究明するのは非常に困難になるのです。
 訓練支援艦「あづま」が8月12日に呉港にいたことによってJAL123便の垂直
尾翼に衝突した謎の飛行物体は「ファイア・ビー」でないことは確かです。なぜなら、
「ファイア・ビー」は、訓練支援艦がいないと飛行させることができないからです。
 そこで、謎の飛行物体として現在考えられているのは、1985年当時鋭意開発が進
められていた沿岸防衛用国産巡航ミサイル「SSM−1」のプロトタイプ、すなわち、
爆薬を搭載していない演習用ミサイルではないか――と考えられるのです。
 2月25日に北朝鮮が発射した「シルクワーム」も、沿岸の艦艇を攻撃する地対艦ミ
サイルですが、SSM−1はより性能が高く、かなり長い射程でミサイルを発射し、管
制できる巡航ミサイルなのです。
 JAL123便墜落事故の3年前の1982年、アルゼンチンとイギリスのフォーク
ランド紛争が勃発したのですが、アルゼンチン空軍の「シュペル・エタンダール」機が
放ったフランス製ミサイル「AM39エグゾセ」が、イギリス軍のミサイル駆逐艦、「
シェフィールド」(3500トン)を轟沈し、世界の軍事関係者に衝撃を与えたのです
。これは、空対艦ミサイルですが、これが刺激となってSSM−1の開発に拍車がかか
ったのです。
 SSM−1は、地上基地、陸上移動発射台、あるいは航空機からでも発射できる巡航
ミサイルで、その飛行モニターを空中では電子戦機EC−1、海上では護衛艦「まつゆ
き」が実施する――これなら、ミサイルの発射実験は可能なのです。
 そして、同時にその空域にいた米軍のC−130やもう1機の米軍の正体不明機も、
日本の巡航ミサイルの発射実験をモニターしていたと考えられます。米軍は、民間機、
軍用機を問わずコックピットと管制塔との交信すべてを傍受するシステムを敷いている
からです。その証拠に、所沢市の東京航空交通管制部(東京ACC)のすぐ隣りに米軍
の通信傍受施設があるのです。
 その国産巡航ミサイルの飛行実験が何らかのアクシデントで、演習用ミサイルをコン
トロールすることができなくなり、民間航空機の空域に入り込んでしまい、JAL12
3便の尾翼に衝突したのではないか――と一応考えられるのです。
 JAL123便の尾翼が吹き飛んだとみられる地点の南40キロメートルの高度15
00フィート付近は、R−116という自衛隊の演習区域になっているのです。雫石で
全日空機が自衛艇のF86F戦闘機と衝突して墜落したのも、自衛隊機が民間航路へ侵
入した結果なのです。けしからん話ですが、自衛隊戦闘機パイロットの中には、民間航
空機を敵機とみなして訓練する者もいるということです。
 さて、護衛艦「まつゆき」には、艦対空ミサイル「短SAMシースパロー装置」が搭
載されています。1985年8月12日に「まつゆき」は相模湾・伊豆沖で試運航中で
あったのですが、当然、ミサイルの発射実験とその誘導レーダーの操作、命中について
のテスト訓練をやっているはずです。したがって、そういう飛行物体が民間航空路に迷
い込む可能性はゼロではないのです。
 しかし、爆薬の入っていない巡航ミサイルが「まつゆき」から打ち上げられたのか、
内陸部の車両発射台から打ち上げられたのか、もしくは航空機から発射されたのかは、
わかっていないのです。巡航ミサイルであれば、自衛隊の東富士演習場から打ち上げら
れ、富士山を迂回して、相模湾上空でJAL123便に遭遇するということも、十分考
えられるのです。
 ボイスレコーダなどの分析記録によると、操縦クルーや乗客の一部がその謎の飛行物
体を目撃しているフシがあるのです。事故調査委員会はそういう事実も知ったうえで、
あくまで圧力隔壁破損が垂直尾翼破壊の原因であることで通してしまったのですからよ
ほど外部からの飛行物体の存在を隠したかったのでしょう。
                        −−[御巣鷹山事故の謎/05]

護衛艦/まつゆき

2007年08月27日

衝突6分前から気付いていた操縦クルー(EJ第1056号)

 JAL123便の操縦クルーは、謎の飛行物体にぶつかる少し前に気がついていたの
ではないかと思われるフシがあります。今朝はここからはじめます。
 JAL123便が羽田空港を離陸したのは、午後6時12分のことです。そのまま順
調に飛行を続け、水平飛行に移行した午後6時18分過ぎ、右側に富士山と江ノ島が見
えます。高度は、約3500メートル。富士山と眼下の相模湾が一望できる風光明媚な
場所で、この場所を飛行するパイロットたちがホッと息をつく瞬間だそうです。
 そのとき、右前方から奇怪な飛行物体が飛行機に近づいてきたのです。あり得ないこ
とであるだけに、操縦クルーに緊張がはしります。「危ない!衝突する!」
 それとほぼ同時に、座席中央部分の最後部から5番目に座っていた小川哲氏(当時4
1歳)も、その飛行物体に気がつき、それをカメラに収めているのです。この写真は、
JAL123便事件の謎を解く、唯一の貴重な物的証拠として後世に遺ることになるの
です。
 その前後のコックピットと客室とのやりとりなどの状況を整理しておきます。
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      18:12:20 ・・・ 羽田空港を離陸
      18:18:00 ・・・ 謎の飛行物体操縦クルー視認
                   小川氏が謎の飛行物体を撮影
      18:23:00 ・・・ ベルト着用指示
      18:24:15 ・・・ 客室乗務員とのやりとり
      18:24:35 ・・・ ドーンという爆発音
      18:24:42 ・・・ スコーク77を発信
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 JAL123便の操縦クルーが謎の飛行物体を認めた午後6時18分の時点で飛行機
は水平飛行に移っており、ベルト着用のランプは消えていたはずです。しかし、23分
になって再びベルト着用のランプがついたので、24分にスチュワーデスが、「(トイ
レにいき)たいという方がいらっしゃるのですが、よろしいでしょうか」とコックピッ
トに許可を求めています。
 そのとき、副操縦士は次のように応答しているのですが、声は上ずっており、内容も
かなりおかしかったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      「気をつけて、じゃ気をつけてお願いします、手早く、気を
      つけてください」――副操縦士
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 副操縦士の物言いは明らかにていねい過ぎますし、ボイス・レコーダに残されたその
声を周波数分析した結果、緊張度が非常に高いことが分かったのです。スチュワーデス
の声が正常値の3であるのに対し、副操縦士の声の緊張度は7と明らかに異状に高い緊
張度を示しているのです。
 この分析方法は、航空自衛隊航空医学実験隊が開発したものでパイロットの「音声基
本周波数」(1秒間の声帯振動数)をボイス・レコーダから抽出し、緊張状態との相関
関係を推定する方法なのです。
 ここで注目すべき事実があります。謎の飛行物体を操縦クルーが視認した18時18
分時点の飛行機の高度は、1万1300フィート(3440メートル)なのですが、謎
の飛行物体が尾翼に衝突した18時24分35秒時点の高度は、2万3900フィート
(7170メートル)であることです。つまり、6分間に1万2600フィート(37
80メートル)も上昇しているのです。
 この2万3900フィートという高度は、ジャンボ旅客機が水平飛行に移ろうとする
ときの高度なのです。JAL123便は、6分間も謎の飛行物体に追い掛け回されてい
たことを意味するのです。何かが飛んできて偶然にぶつかったという状況ではなく、そ
の飛行物体は執拗に飛行機を追尾しているのです。
 このことから考えて、謎の飛行物体は明らかに巡航ミサイルであるといえます。標的
が、どのように高度を変えても、時々刻々自ら軌道修正を行い、標的を追い詰めて標的
の後ろに回ろうとします。その結果がJAL123便の垂直尾翼破壊だったのです。
 最初謎の飛行物体は、コックピットの右サイドで視認されています。つまり、JAL
123便よりも前の方を飛んでいたことになります。そのあと、飛行機の右後ろに回り
、そこから垂直尾翼に衝突しているのです。
 謎の飛行物体が国産の巡航ミサイルSSM−1であるとするとなぜ、そのようなもの
を民間航空機が数多く通る空の銀座通りといわれる相模湾上空で飛ばしたのでしょうか
。場所といい、時間といい、自衛隊は軽率のそしりを免れないでしょう。
 巡航ミサイルSSM−1は、攻撃してくるミサイル迎撃のための半導体レーザー結合
光ファイバー画像解析装置を搭載しています。光学センサーでミサイルや戦闘機を瞬時
に識別し、最適攻撃手段を選択できる当時の最先端技術です。
 それならば、なぜ、民間航空機であるJAL123便を識別できなかったのでしょう
か。当然識別できるはずですし、まして、地上、海上、航空での管制システムによって
動くのですから、JAL123便が識別できないはずがないのです。
 地上の管制システムは、巡航ミサイルSSM−1が先端部に搭載したシーカーによっ
て民間機JAL123便の画像情報をSSM−1を経由して捕捉していたはずです。そ
れなのに、なぜ衝突を回避できなかったのでしょうか。なぜ、自爆させるなどの処置が
とれなかったのでしょうか。管制システムに突如故障が生じたのでしょうか。
 考えられることは、SSM−1搭載コンピュータに民間機識別情報が入力されていな
かったことです。演習用なので、すべての航空機を敵機とみなすようになっていたので
はないしょうか。
 衝突後、JAL123便の機長は7秒後に「スコーク77」を発信していますが、こ
れについては明日のEJで取り上げます。     −−[御巣鷹山事故の謎/06]

2007年08月28日

東京航空管制はどう受け止めたか(EJ第1057号)

 JAL123便の垂直尾翼に演習用巡航ミサイルSSM−1がぶつかったのを知って
機長はその7秒後に「スコーク77」を発信しています。
 この「スコーク77」は、国際緊急無線信号であり、めったなことでは使わない信号
なのです。仮に事故調のいうように、圧力隔壁の破損が原因で尾翼が破壊された場合、
「ドーン」という爆発音が聞こえた18時24分35秒の時点では、コックピットの中
では何が起こったのかわからなかったはずです。
 そういう状況において、まして「ドーン」という音が聞こえた7秒後に「スコーク7
7」を発信することはあり得ないのです。操縦クルーたちは、謎の飛行物体に6分間も
つけまわされていたからこそ、「ドーン」という音が聞こえたとき、その飛行物体が垂
直尾翼にぶつかったと確信して、「スコーク77」を発したのです。「スコーク77」
は、飛行機が他から攻撃されたようなときに発信する緊急信号だからです。
 「スコーク77」を発信させたJAL123便は、墜落したと見られる午後6時56
分26秒までの間に、次の4つと交信しています。数字はその通信回数です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       東京航空管制 羽田航空管制 横田基地 日航羽田無線
           28      8   13      9
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 JAL123便が最初に交信をしたのは、所沢にある東京航空交通管制部(ACC)
です。この東京航空管制の立場に立って、作家の山崎豊子氏は、『沈まぬ太陽/御巣鷹
山篇』(新潮社刊)において、次のように記述しています。この本では、JAL機のこ
とをNAL(国民航空)と表現していますが、ボイスレコーダに基づいて記述されてお
り、その内容は正確です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       午後6時24分40秒――、突然、関東南A空域のレーダー
      画面に、EMG(緊急事態)の赤い文字が点滅し、ピーピーと
      金属音を帯びた警報が鳴った。(一部略)
       何が起こったのだろうか――、ヘッドセットをつけ、口元に
      のびた小さなマイクに向って、直接、交信している管制官の耳
      に、国民航空123便の機長の声が飛び込んで来た。
      25分20秒
      NAL「アー、東京管制部、こちらNAL123便、緊急・・
         トラブル発生、羽田に戻りたい、22000フィートま
         で降下する、どうぞ」
      管制部「22000フィートまで降下ですね。了解、要求通り
         承認します」
      NAL「大島へのレーダー誘導をお願いします」
      管制部「右旋回しますか、それとも左旋回?」
      NAL「右旋回に移っています。どうぞ」
      管制部「右旋回して、磁方位90度(真東)、大島レーダー誘
         導します」
      ―――山崎豊子著、『沈まぬ太陽/御巣鷹山篇』(新潮社刊)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、この時点では、東京管制部では、JAL123便のトラブルの内容はわかっ
ていなかったのです。急病人が出て羽田に戻りたいのか、それともハイジャックされた
のか、管制部としてはいろいろ考えたそうです。
 しかし、右旋回するといったJAL123便は、一向に方角を東に変えず、そのまま
、西に移動しており、高度も下がっていないので、不審に思った管制部は、JAL機に
連絡をとります。ここも山崎氏の小説から引用します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      27分02秒
      管制部「NAL123便、確認しますが、緊急事態ですね」
      NAL「その通りです」
      管制部「123便、了解、緊急事態の内容を、知らせてくださ
         い」
      NAL「・・・(応答なし)」
      28分30秒
      管制部「NAL123便、磁方位90度で飛行せよ、大島レー
       ダー誘導です」
      NAL「しかし、現在、操縦不能」
       ――山崎豊子著、『沈まぬ太陽/御巣鷹山篇』(新潮社刊)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 操縦不能――緊急事態の第1報がこれなのです。それでいて、2万5000〜400
0フィートの高度を保っている――これは管制官にとっては初体験だったといいます。
まして、JAL123便はボーイング747、安全度が最も高い飛行機だったのですか
ら尚更のことです。
 そのときJAL123便は静岡の焼津付近に達しており、なお西に向っていたのです
。近くには、自衛隊の浜松基地があるのですが、滑走路が短くジャンボ機の着陸は無理
なのです。それなら名古屋空港へ行った方が早い――管制官はJAL123便に連絡を
とろうとしたとき、JAL123便の高度が一定しなくなっているのに気がつきます。
1万5000〜1万2000フィートの間を上下し出したのです。いわゆるダッチロー
ルです。
 管制官は、JAL123便に連絡を取り、名古屋に着陸できるかと聞いています。し
かし、JAL123便の機長は、あくまで羽田着陸を主張したというのです。
 そこで、大島通過の報告をしてきた米輸送機C−130が横田基地への着陸を求めて
きているのにスタンバイの指示を出し、JAL123便の航路を最優先に確保しようと
したのです。
 ちょうど、そのときJAL123便は、垂直尾翼を飛ばされながら、操縦を何とかコ
ントロールして、羽田に戻る体制を確立しようとしていたのです。驚くべき操縦技術で
す。                      −−[御巣鷹山事故の謎/07]

「沈まぬ太陽/御巣鷹山篇」

2007年08月29日

7分間の空白の謎を探る(EJ第1058号)

 東京航空管制部(ACC)は、18時41分55秒に関東南A空域を飛行中の全航空
機に対して、次の指令を出しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      全機に告ぐ。JAL123便を除く全機に告ぐ。東京管制部と
      は周波数134メガヘルツで交信せよ。周波数を134メガヘ
      ルツに切り替えよ         ――東京航空交通管制部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 東京管制部はなぜこのような指令を出したのでしょうか。
 それは、羽田に戻りたいというJAL123便が尋常ならざる飛行を続けており、い
つ連絡してくるかわからないからです。その時間帯は関東南A空域を航行する飛行機が
増えて、ラッシュアワーのピークを迎えつつあったのです。
 そうすると当然東京管制部と交信する航空機が増加し、JAL123便が緊急連絡を
とってきたとき、他機と交信中では迅速な対応ができないので、他機に対しては周波数
の切り替えを要求しJAL123便との通信に備えたのです。
 もう少し正確にいうと、東京管制部は18時40分45秒にJAL123便に「予備
用周波数134に切り替えられますか」と何回か問い合わせたのですが、応答がなかっ
たのです。応答がないのは異常であり、JAL123便との交信は従来の周波数で行う
ことにし、他機との交信周波数を予備用周波数134メガヘルツに切り替えることを決
断したのです。
 それでは、JAL123便はなぜ交信に応じなかったのでしょうか。実は、18時3
7分〜44分までの7分間、JAL123便と管制部(東京、羽田、横田など)との交
信回数はほとんどないのです。謎の7分間の空白というわけです。
 JAL123便は「通信に応ずる状況にはなかったのでは・」と一般的にはいわれて
いますが、JAL123便は45分には東京管制部や横田基地と連絡をとっていますの
で、交信できたはずなのです。どうして、交信に応じなかったというと、この間、他機
と交信中であったという説があるのです。その他機とは、自衛隊の軍用機です。
 なぜ軍用機が出てくるのか――それには「スコーク77」についてもう少し詳しく知
る必要があります。「スコーク77」というのは、いわゆる「エマージェンシー・コー
ル」(緊急通信)のことですが、軍用機が発信することが多く、日本の民間機が発する
ことは非常に稀なのです。逆にいうと、それほど民間航空機は安全にできているという
ことです。
 状況によるのだと思いますが、「スコーク77」が発信されると、ICAO(国際民
間航空機関)条約「付属文書2」に規定されている「民間航空機に対する要撃」によっ
て、軍用機がスクランブル発進し、誘導指示を出すことができるのだそうです。
 『JAL123便墜落事故真相解明』など、一連のJAL123便墜落事故関連の本
の著者、池田昌昭氏によると、JAL123便の「スコーク77」によって、自衛隊浜
松基地から2機の自衛隊機がスクランブル発進し、JAL123便に接近し、横田基地
へ着陸態勢を取ろうとしていたJAL123便を御巣鷹山方向に誘導したといっていま
す。
 18時37分〜44分までの空白の7分間、JAL123便は自衛隊機と交信してい
る可能性があり、事故後この部分はボイスレコーダから削除されているフシがあると池
田氏はいっているのです。自衛隊が関連するところは、国家機密として削除することも
不可能ではないというのです。
 添付ファイルのJAL123便の航跡図を見ていただきたいのですが、東京管制部が
関東南A空域の航空機に対し、周波数の切り替えを要求した18時40分の時点で、J
AL123便は、機体を何とか真東に向けることに成功したように見えます。
 操縦系統が効かないことに気付いたJAL123便の操縦クルーは、エンジンの出力
を調節することによって、飛行方向を変えようとしていたのです。この操作の一環で左
の第1エンジンの出力を大きくしたところ、機体は右へ旋回し18時39分から45分
の間に、進路を北東から約420度右旋回し、真東を向かせることができたのです。
 この航跡を見て東京管制部は、「操縦不能といっているが、羽田に帰る力は残ってい
る」と考えたのです。横田基地はすぐ近くであり、機長は横田基地に着陸するつもりで
いたのではないかと考えられるのです。ちょうどその時点で機内では、スチュワーデス
の声で「予告なしに着陸する場合が・・・」というアナウンスを流しているのです。
 横田基地は合計13回にわたって「横田基地はスタンバイができている」ことを繰り
返しJAL123便に呼びかけていますがJAL123便はなぜかこれに応答していな
いのです。そして、不可解なことに、18時47分の時点でJAL123便は向きを大
きく北西方向に変えて、墜落地点である御巣鷹山に向かっ降下していくのです。
 18時54分20秒になってJAL123便の機長は、「リクエスト・ポジション」
といっています。「自機の位置がわからない」という意味です。これに対して、羽田の
東京進入管制所は次のように答えています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       45マイル羽田の北西、熊谷から25マイル西の地点です
                     ―――羽田東京進入管制所
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 墜落が18時56分とみられるので、54分といえば最終段階です。日本語で管制所
と交信していた機長があえて「リクエスト・ポジション」となぜ英語でいったのでしょ
うか。
 実は、「リクエスト・ポジション」は、要撃された民間機が軍用機に対して使用する
用語のひとつであり、池田氏はこの用語を使うことによって、誘導指示した自衛隊機の
存在を何らかのかたちで知らせたかったのではないかといっているのです。
                        −−[御巣鷹山事故の謎/08]

JAL123便航跡図

2007年08月30日

スコーク77と自衛隊機のスクランブル(EJ第1059号)

 「スコーク77」は、単なるエマージェンシー・コールとは異なるようです。これに
関する限りあまりにも情報がないので、ある程度推測するしかないのですが、とくに、
「スコーク77」を発信すると、なぜ自衛隊の軍用機がスクランブルをかけてくるのか
ということがいまひとつ理解しにくいと思うので、池田氏の本をベースにして説明しま
す。
 昨日ご紹介したICAO(国際民間航空機関)条約「付属文書2」というのは、日本
が支配する空域において、民間機が何かに要撃された場合の自衛隊機の対処法が決めら
れているのです。というよりも、日本の空域において民間機が何かに要撃されることは
想定しにくいので、日本の領空を侵犯してきた航空機に対する自衛隊機の対応を民間機
要撃のケースにそのまま適用しているというべきです。
 日本は、米国と日米安全保障条約を締結しており、当然のことながら、これは米軍と
無関係ではありません。歴史を遡ると、領空侵犯機に対する対応は、1959年9月2
日に、当時の米軍第5空軍司令官ロバート・バーンズ中将と日本の航空自衛隊総司令官
松前未曾雄空将との間で締結された「松前・バーンズ協定」にたどりつくのです。これ
によると、日本の航空自衛隊は、米国第5空軍の「交戦準則」をもとに規定を作ってい
るのです。何もかも米国任せのこの国の姿勢を示していると思います。
 それにしても、日本の領空で民間機が何かに要撃されたとき、その民間機を領空侵犯
機と一緒に扱うというのはどうかと思いますが、一応そういう規則になっているのです

 「スコーク77」は、民間機が何かに要撃の対象とされたということですから、自衛
隊機としてはスクランブル発進をかけて被要撃機を誘導し保護する必要がある――一応
そういう理屈になっているのです。
 そのとき、被要撃機は、自衛隊機の指示・誘導に従うよう定められています。スクラ
ンブルをかけた自衛隊機が使用する言葉は次の4つです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.当方に従え
      2.着陸のため降下せよ
      3.この飛行場に着陸せよ
      4.そのまま飛行してよい
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに対して、要撃された民間機が使用できる言葉は、次の6つです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.了解、指示に従う
      2.指示に従うことはできない
      3.指示を繰り返してください
      4.自機の現在位置がわからない ← リクエストポジション
      5.○○に着陸したい
      6.降下したい
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 18時54分20秒に機長がいった「リクエストポジション」はこの中にあります。
実は、31分21秒の時点で、尋常ならざる事態と判断した東京管制部は、JAL12
3便に対して「日本語で交信してください」と指示しており、それ以降管制とはすべて
日本語で交信しているのです。
 無線交信は、万国共通、英語で行われているのですが、非常のさいには、パイロット
の負担を軽くし、かつ意思疎通の妨げにならないように日本語での交信を指示したので
す。
 しかし、なぜか、54分20秒のときだけは、「リクエストポジション」と英語で聞
いており、これは自衛隊機との交信と考えられるのです。限られた言葉の中で機長とし
ては、それを英語で「リクエストポジション」と発信することによって、JAL123
便の前後に自衛隊機がいることを管制に知らせたかったのではないかと考えられるので
す。
 もうひとつボイスレコーダの分析でわかったことがあります。18時33分38秒〜
34分52秒にかけて、日本航空の社内無線は、JAL123便を次のように呼び出し
ているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           JAPAN AIR 123 JAPAN AIR TOKYO
           How do you read ?
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「JAL123便、聞こえますか」という意味です。そのあと日本航空の社内無線は
、36分00秒に「羽田に戻ってこれますか」と聞いています。機長自身は東京管制部
には「羽田に戻りたい」と伝えているのですから、社内無線に対しても「羽田に戻りま
す」と伝えるのが自然ですが、機長は社内無線に対しては、次のようにいっているので
す。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       ふたたびコンタクトしますので、このままモニターして
       おいてください −−−−−−−−−−−−−−−機長
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これはどういう意味でしょうか。池田氏は、自衛隊機とのやりとりを社内無線に傍受
させる意図でそうしたのではないかといっているのです。
 18時46分の時点でJAL123便は、明らかに横田基地に着陸体制にあったとい
えます。JAL123便の動きを外部から見た場合、今まで北北東に向かっていた飛行
機がぐるりと真東に機体を向けて高度を下げつつあったのですから、パイロットは機体
をコントロールできると考えても不思議はないのです。
 しかし、どうしても横田基地に降りられては困る事情が政府筋にあったのではないか
という疑いがあるのです。したがって、JAL123便は墜落必至と見て、横田基地周
辺の市街地に墜落させるわけにはいかないという大義名分のもと、自衛隊機が御巣鷹山
に強引に誘導したのではないかと考えられるのです。−−[御巣鷹山事故の謎/09]

2007年08月31日

なぜ横田基地着陸阻止になったか(EJ第1060号)

 JAL123便が操縦不能に陥った真の原因は、演習用ミサイルが飛行機の垂直尾翼
に衝突してその3分の2が失われたという仮説を中心にこのレポートを書いています。
事故より14年が経過した時点で発刊された山崎豊子氏の『沈まぬ太陽/御巣鷹山篇』
(新潮社刊)には、この演習用ミサイル衝突説はどのように扱われているのでしょうか
。それとも無視されているのでしょうか。
 実はちゃんと取り上げられているのです。事前調査には定評のある山崎豊子氏のこと
ですから、あらゆる情報を集めて研究し、書いています。もちろん山崎氏が、荒唐無稽
な情報であると判断すれば無視するでしょうが、ちゃんと取り上げているのです。
 それは、事故調の藤波調査官に突撃取材を試みる週刊日本の記者のシーンで取り上げ
られています。本を読まれた方も多いと思いますが、その一部をご紹介しましょう。
 それにしても当時の内閣官房長官は、あの藤波孝生氏――山崎さんは皮肉を込めて「
藤波」という名を使ったのでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      「藤波調査官ですね」
      再び、声をかけられた。今度は三十そこそこの男性だった。
      「そうですが―――」
      「週刊日本の記者です、ちょっと話を伺いたいのですが」
      行く手を阻むように言い、名刺を差し出した。
      (一部略)
      「どのような話ですか」
      「実は、事故機の墜落原因について、聞き捨てならない重大な
      話を仕込みましてね、墜落の真相は、自衛隊がミサイル発射訓
      練に使う標的機が、たまたま飛行中の国民航空123便の尾翼
      に衝突したらしいのです、ご意見を聞かせて下さいませんか。
      (駅の)ホームで、記者は強引にコメントを求めた。
      「いきなりそんな突飛なことを言われても、答えようがないで
      すな」
      「おや、おとぼけですか、それとも政府、防衛庁は、事故調査
      官を棚上げして、真相を隠蔽するつもりなんですかね」
      嫌味な言い方をした。
      「確たる証拠でもあるのですか」
      「事故機が、最初に緊急事態を発信したあの時刻に、海上自衛
      隊の護衛艦『たかつき』が、相模湾でちょうど演習中だったの
      ですよ。現に事故の翌日、相模湾内に尾翼の重要部分である垂
      直安定版が浮いていて、回収されたではありませんか」
       −――山崎豊子著、『沈まぬ太陽(三)/御巣鷹山篇』より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうでしょう。疑惑の追及者を週刊誌の記者という設定にしているのは、作家の山崎
氏自身が、そこに多少なりとも「真実かも知れない」という気持があったからこそそう
いう設定にしたのだと思います。
 さて、JAL123便の「スコーク77」の発信を探知して自衛隊機がスクランブル
発信したのは18時30分頃です。機種はF−4EJ戦闘機2機です。そして2〜3分
後にJAL123便を発見しています。F−4EJ戦闘機は、機種を識別する機能を持
つコンピュータを搭載しているので、標的はレーダー・スコープ上に表示されるのです

 そのときJAL123便は、焼津市上空で右方向に向かい、羽田もしくは横田基地に
戻ろうとしていたのです。F−4EJ戦闘機はJAL123便の後ろから垂直尾翼の状
況を肉眼で観察し、次に前に出て、ダッチロール(機体左右の揺れ)とフゴイド(機体
前後の揺れ)を減衰させる方法を指導しています。
 しかし、このとき、JAL123便のパイロットは、左右のエンジンの出力調整だけ
で、ダッチロールとフゴイドをかなり減衰させることに成功していたのです。垂直尾翼
の3分の2を欠いてこれをやることはきわめて困難なことですが、彼らはそれをクリア
しつつあったのです。そして、横田基地への着陸に向けて高度を下げていったのです。
 2機のF−4EJ戦闘機は、このことを要撃管制官に報告しています。このとき、要
撃管制官としては、横田基地への着陸を容認していたはずです。横田基地側も何度も直
陸許可を出しており救急体制も整えていたのです。
 それがどうして横田基地着陸阻止に変わってしまったのでしょうか。ここからは、池
田昌昭氏の推測にしたがって、記述していきます。
 JAL123便を追尾したF−4EJ戦闘機の航空基地指令への報告の中に、欠けた
垂直尾翼に巡航ミサイルの衝突痕跡――オレンジ色の塗料の跡があるというのがあった
のです。自衛隊では軍事演習用の機器は、オレンジ色に塗ってあるのです。
 この報告を受けた航空基地指令はがくぜんとします。そして、直ちにこの事実は上級
指令者(航空幕僚)に報告されたのです。その航空幕僚はそれをさらに上――自衛隊を
指揮命令する立場の者に報告して、指示を仰いでいるはずです。
 垂直尾翼にオレンジ色の塗料の痕跡が残っているということは民間機が軍事演習のタ
ーゲットになって操縦不能に陥ったことになり、日本国政府と自衛隊の立場は完全に崩
壊します。しかし、本来であれば、だからこそJAL123便に乗っている524人の
乗客・乗員の救出を何としてでも行うべきなのです。
 しかし、われわれは、この事件のあと、警察や自衛隊、各官庁の官僚たちの責任回避
体質をイヤというほど見てきています。彼らがこういう状況に直面したときどうするか
。何よりも現体制の維持と責任回避を考えただろうと思います。
 彼らは、もしJAL123便が横田基地着陸に失敗したときの被害の大きさ――50
00人規模の死傷者を予測――を理由にF−4EJ戦闘機に対して、指令を発するので
す。「JAL123便の横田基地着陸を阻止せよ」と。
                        −−[御巣鷹山事故の謎/10]

演習用はオレンジ色/ファイア・ビー