政策転換している小泉政権(EJ第1222号)
竹中大臣が経済財政相に兼務して金融担当相になったとき、彼はメガバンクを標的に
して、繰延税金資産を米国の基準と同じ1次自己資本の10%に厳格適用すると爆弾発
言したことは覚えておられると思います。
メガバンクの首脳からは、今まで一定のルールの中で、基準を遵守してやってきてい
るのに、突然基準を変更されたら困るという強い批判が出て、「竹中やめろ!」の大コ
ールが巻き起こったのです。「サッカーをやっていたのに、突然ルールが野球に変更さ
れた」という迷文句もこのとき生まれています。
とにかくそれ以来、竹中大臣と銀行とのバトルは、すさまじいものだったのです。大
銀行のトップが夜中の10時過ぎに全員雁首を並べ、時の担当大臣に異を唱えるという
金融史上前代未聞の出来事まで、起こっているのです。市場は、そういう竹中大臣の真
意を図りかねて株価を下げ続けたといえます。
しかし、基準とかルールを遵守するということではなしに、メガバンクは、なぜ自ら
資本を増強させようと努力しなかったのでしょうか。銀行という業務にとって自己資本
の充実は、役所からいわれるまでもなく、自らやっておくべきことではないかと思われ
るのに、なぜ、やってこなかったのでしょうか。
ここにきて、竹中大臣のやり方が明らかに変化したとみられることはいくつもありま
す。しかし、メガバンクに対しては、いささかも手を緩めていないのです。一体、竹中
大臣の狙いは、何でしょうか。以下、竹中行政のどこが変わったかを明らかにすること
によって、竹中大臣の狙いに迫ってみることにします。
最初に強調しておきたいのは、小泉首相は経済に弱いので、竹中大臣に丸投げしてい
るといわれていますが、そんなことはないということです。経済・金融に関しては、竹
中大臣が自ら判断して動いているようにみえますが、そうではなく、竹中氏は小泉首相
と一体であり、ある目的のためになりふりかまわず突進している――そのように考える
べきです。
ここで、EJ1219号に掲載した2001年6月の「骨太の方針」をもう一度掲載
します。
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≪市場メカニズムによる経済活性化≫
効率化の低い部門から効率性や社会的ニーズの高い部門へ、
労働力や資金を移動させるのは市場の力であり、これを阻害し
ている障害物を取り除く作業が構造改革である。
――「骨太の方針」より
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ここに書かれているコンセプトは「市場の活性化を阻害している要因は「不振企業」
であり、これらの企業を生き残らせている銀行に問題がある――すなわち、銀行は不良
債権をきちんと処理することによって、不振企業は市場から退出させ、市場のメカニズ
ムの阻害要因を取り除くべきであるといっています。
この考え方は「創造的破壊」といわれます。だめなものを壊せば、そこから経営資源
が溢れ出て、生産性の高い分野に移動し、それによって経済が活性化して成長するとい
う考え方です。
当初金融庁は、メガバンクだけではなく、地方銀行もこの創造的破壊を適用する――
つまり、不良債権処理を進めさせる気でいたのです。しかし、そのようなことをすれば
中小企業の倒産が激増して、不況は一層深刻化してしまいます。
そこで政府は急遽方針を変更したのです。1998年に「特別信用保証制度」という
ものができて、中小企業が一斉にこの制度を利用しています。この制度は無担保でも、
信用保証協会が保証して融資が受けられるという制度です。
しかし、保証期限は5年なのです。1998年から始まったので、今年がその返済す
る年になります。そこで、政府は2003年2月にこの制度を変更し、特別信用保証の
借り替えができるようにし、返済期間を10年まで延ばせることにしたのです。
5年で返済するのと、10年で返済するのとでは負担が大きく違います。中小企業は
これで一息ついて倒産件数は若干減少しつつあるのです。
しかし、本来返済しなければならない時期に返済できない企業は、銀行から見ると、
その貸付金は不良債権化することになり、小泉改革の骨太の方針に照らして考えると、
市場から退出させなければならないはずです。したがって、この政策は小泉改革に逆行
することになるのです。
もうひとつ、政府の金融審議会が2003年3月に出した「リレーションシップ・バ
ンキング」という政策があります。これは銀行と付き合いの長い企業の中から銀行は、
その企業の経営者の資質やビジネスプランについて情報を入手し、銀行の判断によって
融資を実行するというものです。
例えば、高い技術力のあるにもかかわらず、業績不振で銀行から不良債権扱いになっ
ている企業でも、最新の機械を導入すれば利益が出る可能性があるとします。そういう
とき銀行は、精査のうえ、積極的にそのための融資をするというものです。
しかし、「リレーションシップ・バンキング」などという大仰な名前をつけるまでも
なく、これこそ銀行の本来の仕事そのものではないでしょうか。
考えてみれば、銀行のバランスシートからだめな企業を切り捨てて、その債権を整理
回収機構や産業再生機構に回してみたところで、日本全体からみると不良債権は一銭も
減らないのです。単なる会計上の処理に過ぎないわけで、このようなものを経済政策と
呼ぶこと自体がおかしいわけです。
いずれにせよ、小泉政権は中小企業に対しては、当初の「創造的破壊」の政策を大幅
に改め、「破壊」のレベルを落としているのです。そして、何よりも、りそな処理にお
いて株主責任を問わなかったこと――これは結果として日本の株価を引き上げることに
大いに貢献しています。小泉政権は変わっていないふりをしていますが、とうの昔に政
策転換をしているのです。しかし、メガバンクにはいささかも手を緩めてはいないので
す。 ・・・[りそな処理の謎/05]