●なぜ同一神、別神が多いのか(EJ第589号)
先週、「伊勢神宮は日本全国の神社の頂点」と説明したところある読者より事実と異
なるとの指摘がありました。「本当の神社の頂点は、大和にある三輪神社――正しくは
大和三輪山にある−大神神社(みわじんじゃと読む)が神々の中の神様で、伊勢神社も
大神神社の摂社、末社の一つである」ということです。
確かに伊勢神宮は、昔から伊勢にあったわけではなく、とくに内宮に関していえば、
大和の笠縫邑(かさぬいむら)というところにあったのです。それがいろいろの事情に
よって移動し、各地を転々としながら、最終的に伊勢に落ち着いたのです。そのため、
かって伊勢神宮があった神社を「元伊勢」と呼ぶのです。
「大神神社」は、日本最古と目される神社です。「大神」と書いて「オオミワ」と呼
ぶのは、そのある場所が奈良県の三輪山の麓だからです。大神神社の話が出ましたので
ついでに述べるとこの神社に祀っている主祭神は「倭大物主櫛み魂命」なのです。
「み」の字は特殊文字であり、ネットを通じて送ると昨日のようになりますので、あえ
てかなとさせていただきます。瓦ヘンに長という字を書くのです。「やまとおおものぬ
しくしみたまのみこと」というように読むのです。
昨日、天照大神を正式にいうと「天照国照彦天火明櫛甕玉饒速日命」であるとお話し
しましたが、この中の「櫛甕玉」の部分に注目していただきたいのです。これも「くし
みたま」と呼称するのです。「櫛み魂」と同じですね。それに昨日は、これを「大物主
命」と説明しています。結論からいうと大神神社の主祭神はやはり天照大神なのです。
実はこの三輪山には古代に強力な王権があって、ときの天皇家との争いがあったので
す。これについては改めて述べる予定ですが、三輪山の神が大和を代表する神であった
ことは「万葉集」の額田王(ぬかたのおおきみ)の次の歌でも明らかです。
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『三輪山をしかも隠すか雲だにも、
情(こころ)あらなも隠さふべしや』(巻一、一八番)
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実は、この大神神社と並んで注目すべき神社があります。それは京都府宮津市にある
「籠(この)神社」です。実は伊勢神宮の内宮が大和から移動して最初に落ち着いた元
伊勢の神社です。この神社は、伊勢神宮の内宮のみならず、外宮の祭神である豊受大神
も籠神社から直接伊勢に移っているのです。
籠神社の宮司は代々海部(あまべ)氏が継いできており、現在の宮司で82代を数え
るといいます。ちなみに元内閣総理大臣の海部俊樹氏は、この海部一族の末裔に当りま
す。海部氏の系図の正式名称は「籠名神社祝部海部直等之氏系図」といい、これは学術
調査の結果、本物と認定され、1976年に国宝に指定されているのです。
この系譜のトップ、すなわち始祖は「彦火明命(天火明命/火明命)」という神なの
です。ここでもう一度思い出していただきたいのは、天照大神の正式名である「天照国
照彦天火明櫛甕玉饒速日命」です。籠神社の主祭神「彦火明命」は、この名称の中央に
あるのです。この4神はすべて天照大神と同一神ですから、彦火明命は、天照大神とい
うことになるのです。
なぜ、このように同一神が多いのでしょうか。誠に複雑極まりない話ではありません
か。このあたりのことを籠神社の第82代宮司、海部光彦氏は次のように説明していま
す。
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『神様の世界は現実の世界とは違います。神は空間も時間も超
越することができます。ときには、御霊を分け、いわゆる分身
をつくることもあります。まあ、SF的かもしれませんが、私
はこれを「多次元同時存在の法則」と呼んでいます』。
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海部氏のいう「多次元同時存在の法則」をもっと具体的にいうと、次のようになりま
す。
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1.法則は神様にのみ適用される
2.神ゆえ時間と空間を超越する
3.神は分身をつくることがある
4.神の分身は別名となって表現
5.同じ名前の神は同一神である
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何でこのようなことをしたのでしょうか。
神話というのはそのベースに事実があったとしても基本的にはフィクションです。現
実の事件から神話を創作するとき、ひとりの偉大なる神を複数の神にすればそれだけ多
くのキャラクターを使うことができます。それに古代の豪族たちは自らの出自に非常に
こだわっており、そういう場合、神の分身をつくれば自分たちの出自を偉大なる神に結
び付けることが可能になります。このようにして編纂されたのが、古事記であり日本書
紀なのです。複雑なのは当然でしょう。
神社の場合は、これらの神の分身、すなわち別名を個々に取り出して祀るのです。古
い神社になれば、その別名を知ったうえで祀ることによって、記紀を編纂した体制側の
政治的圧力から神社を守ろうとしたと考えられます。
このことから記紀神話の裏に潜む真実を探ろうとする方法が見えてきます。まず、分
身を突き止め、それを元の神にまとめあげればよいのです。そうすれば、複雑なフィク
ションの中から真実が見えてくるはずです。
そういう意味において天照大神の場合は、「天照国照彦天火明櫛甕玉饒速日命」とそ
の正式名がわかっていますから、謎を解く重要なキーになります。これにより、天照国
照彦、天火明、櫛甕玉饒速日命の4神はすべて同一神であることは分かっています。こ
れを手がかりにして天照大神から天皇の系譜を解いて行くと、驚くべき事実が明らかに
なるのです。 ・・・[日本人のルーツ/03]