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2008年07月23日

『ガリバー旅行記』と火星の2衛星(EJ第1533号)

 『ガリバー旅行記』という本をご存知でしょうか。
 そうです。あのジョナサン・スウィフトの名作です。この本は一般的には単なる児童
向きの物語と思われていますが、実はそんな単純な物語ではないのです。これは、次の
4部から成る超大作になっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       第1部 「リリパット国(小人国)渡航記」
       第2部 「ブロブディナグ国(大人国)渡航記」
       第3部 「ラピュタその他の国への渡航記」
       第4部 「フウイヌム国渡航記」
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 児童物語として知られているのは第1部と第2部ですが、ここで注目すべきは、第3
部の「ラピュタその他の国への渡航記」なのです。第3部の正式名称は次の通りです。
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      第3部 「ラピュタ、バルニバービ、ラグナグ、魔法使いの島
          および日本旅行記」
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 ここに出てくる国はすべて架空の国ですが、日本だけが実在の国なのです。スウィフ
トがなぜ日本を取り上げたかについては興味はありますが、ここで取り上げるのは「ラ
ピュタ」なのです。
 このように書いてくると、火星の話をしているのに、なぜ『ガリバー旅行記』なのか
と不思議に思われると思いますが、この物語は火星に密接な関係があるのです。
 「ラピュタ」とは何でしょうか。スウィフトは次のように説明しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       この空を飛ぶ島、乃至は空に浮かんでいる島の形は正確な円
      形である。直径は7837ヤード(7.166キロメートル)
      つまり4マイル半、従って広さは1万エーカー(約40平方キ
      ロメートル)に及んでいる。厚さは300ヤード(274メー
      トル)である。底部、いいかえれば、下界から見上げた者の眼
      に映る下部の表面は、平らででこぼこのない硬石の一枚岩で出
      来ており、硬石の厚さは約200ヤード(183メートル)で
      ある。この層の上に数種の鉱物が下から一定の順序で堆積して
      おり、さらにそれを厚さ10フィート(約3メートル)から、
      12フィート(3.7メートル)に及ぶ肥沃な土壌が一面に上
      から蔽っている。・・・・・
               ――スウィフト著『ガリバー旅行記』より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このようにして、島の構成が語られて、島がどうして飛ぶのかの説明がそのあと続く
のです。
 「ラピュタ」といえば、宮崎駿監督の作品に『天空の城ラピュタ』がありますが、そ
のアイデアはおそらく『ガリバー旅行記』からとられていると思われます。そして、『
天空の城ラピュタ』は『ハウルの動く城』につながってくるのです。
 さて、スウィフトの「ラピュタ」の話に戻ります。この島に住む人は変わり者が多い
のですが、頭脳は明晰なのです。とくに天文学には優れていて、ヨーロッパの天文学者
が知らない遠くの星までを発見しているという説明のあと、注目すべき次の記述が出て
くるのです。
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       彼らは火星のまわりを回転している2個の小さな星、つまり
      衛星を発見している。その2個のうち、内側の星は、そのもと
      となる惑星つまり火星の中心から、火星の直径のまさに3倍の
      距離を保っており、外側の星の場合はそれが5倍である。前者
      が1回転するのに要する時間は10時間、後者は21時間半で
      ある。したがって、この2つの衛星の周期の2乗が、その火星
      の中心からの距離の3乗にほとんど同じくらい比例している。
      ということは、他の天体を支配しているのと同じ引力の法則に
      よってこの2つの衛星が支配されていることを、明らかにして
      いる。          ――平井正穂訳、岩波文庫版より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 既出の小森長生氏によると、原作の「直径」は「半径」の誤りであると指摘していま
す。そうでないと、ケプラーの第3法則と合わなくなってしまうからです。
 スウィフトのこの記述は実に驚くべきものなのです。火星には「フォボス」と「デイ
モス」という2つの衛星があり、それらの火星中心からの実際の距離は次のようになっ
ているからです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      フォボス ・・ 火星半径の2.76倍  7時間39分公転
       スウィフトの記述 ・・ 火星半径の3倍/10時間で公転
      デイモス ・・ 火星半径の6.92倍 30時間18分公転
       スウィフトの記述 ・・ 火星半径の5倍/21時間で公転
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 数字的な多少の違いがあるにしても、天文学者でないスウィフトがここまで正確に記
述するのは驚きです。いや、天文学者でも無理なのです。当時は、火星の2衛星の存在
自体が知られていなかったからです。
 スウィフトが『ガリバー旅行記』を出版したのは1726年であるのに対して、火星
の2衛星が発見されたのは1877年のことだからです。つまり、スウィフトは火星の
2衛星が発見される150年も前に事実に近い記述をしているのです。
 どうしてスウィフトが火星の2衛星のことを知ったのかは、今もって謎につつまれて
います。火星の2つの衛星を発見したのは米国の天文学者アサフ・ホールです。
 ホールは1862年にワシントンDCの米国海軍天文台に助手として就職し、187
7年にホールは折からの火星の大接近に合わせて、この天文台の最大最新鋭の屈折望遠
鏡を使って火星を観測、2つの衛星を発見したのです。・・・[火星の研究/12]


     ≪画像および関連情報≫
      ・ホールは発見した2つの衛星にフォボスとデイモスという名
       前を付けたが、これらの名前はトロイ戦争をうたったホメロ
       スの長編叙情詩「イリアッド」からとられている。デイモス
       とフォボスは、この詩に登場する軍神アレス(ローマ名では
       マーズ)の部下である。

火星の衛星/フォボスとデイモス

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