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このブログは、異文化研修の教育機関(株)インテック・ジャパンの情報発信用です。(株)イー・メディアとの提携により、同社のドキュメント・レポート「Electronic Journal」をウィークデイの毎日お届けします。
「Electronic Journal」は様々な情報を400字詰原稿用紙7枚にまとめて配信する日刊メールマガジンです。

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● 2008年10月 記事 ●

2008年10月01日

量的緩和とは一体何なのか(EJ第1784号)

 昨日のEJで、経済同友会の高橋温氏の次の発言をご紹介しま
したが、注目に値する発言であると思います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 量的緩和解除を提言したが、ゼロ金利の解除を提言している
 のではない。               ――高橋温氏
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この発言によると、「量的緩和」と「ゼロ金利」とは別のもの
ということになります。日銀の金融政策について少し勉強する必
要があります。EJで前に「ゼロ金利政策」を取り上げたときに
もすでに説明していますが、繰り返し解説することにします。
 まず、「コール市場」について知る必要があります。コール市
場とは、金融機関の間で資金を融通し合う市場のことです。「コ
ール」とは「呼ぶ」という意味であり、「呼べば直ちに戻ってく
る資金」として、ごく短期の資金を指しているのです。
 コール市場における資金の貸し借りにはいろいろな形態があり
ますが、一番代表的な取引形態は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     無担保コール翌日物――オーバーナイト物
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これは無担保で借りて、借りた日の翌営業日には返済する短期
資金です。コール市場で取引される資金を「コール資金」といい
その貸借レートを「コール・レート」といいます。ゼロ金利とい
うときの金利はこの金利を指すのです。
 もうひとつ知っておくべきことがあります。それは、銀行が日
本銀行に当座預金口座――日銀当座預金を持っているということ
をです。銀行間の資金のやり取りはすべてこの口座を通じて行わ
れることになります。
 B銀行がA銀行から資金を借り入れるとします。この場合、A
銀行の日銀当座預金がB銀行の日銀当座預金に振り替えられるの
です。このときB銀行がA銀行に支払う金利がコール・レートで
あり、オーバーナイト・レートはそのひとつです。
 もう少し詳しくいうと、このケースのA銀行とB銀行を結びつ
ける役割をする会社があるのです。資金の余っているA銀行と資
金を必要とするB銀行の仲介役であり、そのさいには仲介料を取
ります。この仲介者を短資会社といいます。
 短資会社――聞き慣れない会社ですが、具体的にどういう会社
なのでしょうか。
 短資会社はかつては6社あったのですが、現在は次の3社にな
っています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         1.上田八木短資
         2.東京短資
         3.セントラル短資
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 銀行は預金の量に応じて一定比率の日銀当座預金を保有してい
なければならないという決まりがあります。この一定比率を「所
要準備率」といいます。所要準備率は日銀の金融政策上の決定事
項のひとつとなっています。
 100億円の預金を保有している銀行があるとします。仮に所
要準備率を1%とすると、銀行はその1%に当たる1億円を日銀
当座預金に保有していなければならないのです。
 この銀行がある企業に1億円を融資することを決定したとしま
しょう。この場合、銀行はその企業に預金口座を作らせ、その口
座に1億円を入金することによって融資を実行します。このよう
に、銀行が融資を実行すると、預金が増加するのです。したがっ
て、1億円の1%に当たる100万円分の日銀当座預金を増やす
必要があります。この当座預金を増やす手段のひとつが、コール
市場で資金を調達することなのです。このような制度のことを準
備預金制度といいます。
 以上のことを基礎知識として、量的緩和政策について考えてみ
たいと思います。
 「量的緩和」とは量を増やすことを意味していますが、その増
やすべき「量」とは何を指すのでしょうか。その「量」には厳密
には次の2つあるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.マネタリーベース
          2.マネー・サプライ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 もともと「量的緩和」という言葉は、1999年2月12日の
日銀の金融政策決定会合においてはじめて登場したのです。この
とき委員の中原伸之氏が、次のような言葉で量的緩和を表現して
います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   通常では行われないような思い切った金融緩和
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 中原委員が主張する「量」とは「マネタリーベースの量」のこ
とであり、量的緩和とはマネタリーベースの拡大を意味すること
になります。それでは、マネタリーベースとは何でしょうか。
 マネタリーベースとは、日銀がその量を直接コントロールでき
るお金のことです。マネタリーベースは、ベース・マネーとか、
ハイ・パワード・マネーとも呼ばれます。これに対して「マネー
・サプライ」とは、われわれが決済に使えるお金のことです。
 マネタリーベースは次のようなお金のことです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     日銀当座預金  ・・・・・  6%
     銀行手元現金  ・・・・・ 14%
     非銀行保有現金 ・・・・・ 80%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             ・・・[財政危機は本当か/26]


≪画像および関連情報≫
 ・1999年2月12日の日銀の金融政策決定会合
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  この会議で中原委員から「量的緩和論」が出たのですが、意
  見がまとまらず、「オーバーナイト金利に少しでも引き下げ
  る余地が残っている以上、まずはそれによって経済活動をサ
  ポートし、金融市場に対して潤沢な資金供給を行って、マネ
  ー・サプライの拡大を促していくことが重要である」という
  考え方が支配的となって、中原委員の提案は否決されている
  のです。しかし、この決定会合によって、事実上のゼロ金利
  政策がスタートしたのです。
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

中原伸之氏.jpg

2008年10月02日

どのようにして金利をゼロにするのか(EJ第1785号)

 1999年2月12日の日銀の金融政策決定会合では、次のことが決まっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      オーバーナイト・レートは当初0.15%前後を目指し、その
      後市場の状況を踏まえながら、徐々に一層の低下を促す。
                   ――1999.2.12決定会合
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これがゼロ金利政策のはじまりです。それでは、日銀はどのようにしてオーバーナイ
ト・レートを0.15%に、誘導するのでしょうか。
 日銀は銀行と取引して銀行に資金を供給したり、銀行から資金を吸い上げたりするの
ですが、これを「金融調節――公開市場操作」といっています。日銀の金融政策とは、
この金融調節を通じて行われることになります。
 日銀が金融調節を行う場合、原則的には次の操作を行うことになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           資金を供給する ・・・ 買いオペ
           資金を吸収する ・・・ 売りオペ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 オーバーナイト・レートをゼロに誘導するとき、日銀が行った金融調節は「短期国債
の現先買いオペ」です。短期国債とは、政府が発行する満期の短い(3ヶ月、6ヶ月、
1年)国債のことであり、この国債を一定期間後に一定価格による売り戻し条件をつけ
て取引先金融機関から買い入れて、資金を供給することを「短期国債の現先買いオペ」
というのです。
 このようにして銀行に大量の資金を供給すると、資金が不足しがちな都銀などが、コ
ール市場で資金を借りる必要性はそれだけ低下することになります。そうすると、コー
ル資金の供給が需要を上回ることになるので、オーバーナイト・レートをはじめとする
コール・レートは低下します。日銀はこの手法を使ってオーバーナイト・レートをゼロ
まで誘導したのです。これがゼロ金利政策なのです。
 ちなみに、こまかな話ですが、オーバーナイト・レートをゼロにするといっても、短
資会社の仲介料は支払わなければならないのです。したがって、正確にいうならば、ゼ
ロ金利政策とは、オーバーナイト・レートから短資会社の仲介手数料を控除した残りを
ゼロにする政策ということができます。
 しかし、オーバーナイト物というのは、取引日の翌日には返済するというきわめて短
い期間の資金なのです。その金利をゼロにしたところで、どれほどの効果があるのでし
ょうか。
 確かに、もしオーバーナイト・レートだけがゼロになるだけであれば、その影響力は
微々たるものであり、金融政策としてはほとんど無意味です。しかし、そうはならない
のです。
 オーバーナイト・レートがゼロになると、他の期日物にその影響が及ぶからです。都
銀をはじめとするコール市場で資金を調達している銀行のなかには、期日物(1〜3週
間物)で資金を調達しているところも多くあります。
 しかし、オーバーナイト・レートがゼロになると、期日物を減らしてオーバーナイト
物で資金を調達しようとします。その方が資金調達コストが安くなるからです。そうい
う銀行が多くなると1〜3週間物の取引における需給が緩むため、1〜3週間物の金利
は低下します。
 同様の理由で、1〜3週物の金利が下がると、1〜11週物で資金を調達していた銀
行はその取引を減らして、1〜3週物で資金を調達しようとするはずです。このように
して、1年未満の期日物の金利低下が次々と起こることになります。
 このようにコール市場で資金を調達している銀行がより低い金利の取引に移行するこ
とによって、取引期間が異なるコール資金の金利体系が調整されることを「金利裁定」
というのです。
 それでは、オーバーナイト・レートをほぼゼロに維持することによって、期日物の金
利がどこまで低下するでしょうか。
 それは、市場に参加する者がゼロ金利政策がいつまで続くと予想するかにかかってい
るといえます。ゼロ金利政策がまだまだ長く続くと予想する人が多ければ、満期の長い
期日物の金利も低下しますが、市場参加者がゼロ金利政策はいずれ解除されると予想す
ると、満期の長い期日物の金利は低下しないで、上昇することも考えられるのです。
 ゼロ金利政策をとったとき、日銀はそれをいつまで継続するかについて、次のコミッ
トメントを出しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      デフレ懸念の払拭が展望できるようになるまで、ゼロ金利政策
      を継続する。                ――日銀総裁
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 こういうコミットメントは、市場参加者にゼロ金利政策がいつまで続くかを予想しや
すくすることによって、満期の長い期日物の金利低下を促すという効果があるのです。
 コミットメントは、できるだけ具体的な尺度で示す方がよいのです。しかし、速水総
裁のこのコミットメントは、「デフレ懸念の払拭が展望できるようになるまで」という
抽象的な表現であった点が問題であるといえます。
 そのため、速水総裁は、2001年3月に量的緩和政策に踏み切ったとき、ゼロ金利
解除の目安をCPI(消費者物価指数)という客観的基準に置き換えています。
 このアイデアは、ゼロ金利政策解除の誤った思惑によって、長期金利が上昇すること
を防ぐ効果をもったのです。また、財政の金利負担軽減にも大きく貢献したといえます
。これについては、明日、もう少し詳しく解説します。
                       ・・・[財政危機は本当か/27]


     ≪画像および関連情報≫
      ・「金利裁定」とは何か
       金利の低いところから、金利の高いところに資金が流れるこ
       と。2国間に金利差がある場合、先渡し及び先物には、直物
       で金利の高い通貨を売る動きが現れ、これらの相場は、限り
       なく通貨間の金利差を埋める水準まで下がる。このような為
       替市場の動きのことを金融裁定という。
       http://www.all-navi.jp/sec/glossary/word_%B6%E2%CD%F8%BA%DB%C4%EA

日本銀行旧館.jpg

2008年10月03日

速水前総裁が採用した新機軸(EJ第1786号)

 1999年2月、2000年8月、2001年3月――これら3つの年月は、速水日
銀前総裁が重要な決断をした時期として、記憶に残しておいて損はないと思います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         1999年2月 ・・・・・ ゼロ金利を始動
         2000年8月 ・・・・・ ゼロ金利を解除
         2001年3月 ・・・・・ 量的緩和を開始
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1999年2月12日の日銀金融政策決定会合――このとき中原伸之委員が次の提案
をしたのですが、全委員に反対され、速水総裁はゼロ金利を採択した経緯はすでに述べ
た通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      金利がゼロ近くまで低下している状況では、この際マネタリー
      ベースに目標を置いた量的緩和を明示すべきである。
                       ――中原伸之委員(当時)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ややこしい話ですが、現在の日銀政策委員会のメンバーのなかにも中原という審議委
員がいるのです。もちろん、中原伸之氏ではなく、現在、三菱東京UFJ銀行副頭取を
されている中原真氏です。興味深いことに、この中原真委員も量的緩和論者であると同
時に、インフレ・ターゲッティング論者であるといってよいと思います。
 日銀の審議委員は総裁を含めて9人いますが、中原委員は量的緩和解除に対して反対
のスタンスを取っているのです。量的緩和解除に関して中原委員は次のように述べてい
ます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      物価動向に加え、海外経済や雇用者の賃金動向などを含めた総
      合的な判断が必要だ。中国の市場参加などもあってグローバル
      な供給圧力が依然として高く、相対的にはインフレよりデフレ
      のリスクに注意を払うべき状況にある。(量的緩和策の解除に
      は)遅すぎるリスクより早すぎるリスクに注意すべきだ。
                     ――産経新聞社ニュースより
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日銀審議委員の任期は5年となっており、中原氏の任期は今年の6月16日までです
。したがって、量的緩和に反対する与党の金融政策小委員会にとって、中原氏の存在は
重要です。
 中原真氏と正反対のスタンスを取る審議委員がいます。学習院大学経済学部教授の須
田美矢子氏です。彼女は量的緩和解除に賛成であり、インフレ・ターゲッティングには
反対なのです。しかし、須田審議委員の任期は3月末であり、微妙な時期に当るのです
。そこでいろいろな政治的な思惑のもとに須田氏を審議委員に残そうという動きがあり
、再任が決定したという一部報道も流れていますが、日銀からは正式な発表はありませ
ん。
 さて、話を本題に戻します。ゼロ金利政策を始めた速水総裁は大方の反対を押し切っ
て、2000年8月11日にゼロ金利を解除し、無担保コールレート翌日物金利を、0
.25%まで引き上げたのです。この0.25%というのは短期金利の誘導目標として
使われます。しかし、代表的な政策金利である公定歩合については据え置いたのです。
 経済に関心のある方であれば、ここまでの経緯はよくご存知であると思います。しか
し、そのあとどうなったのか――これについてはよくわからないという人が多いと思い
ます。
 『週刊/東洋経済』2/25号では「『金利復活』後の世界」という特集を組み、こ
の問題についてかなり詳しい検証を行っており、とても参考になります。
 これによると、無担保コールレート翌日物金利が0.25%に引き上げられると同時
に、銀行の預金金利がいち早く反応し、正常の状態に戻っているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          定期預金 ・・・ 0.08 → 0.14
          普通預金 ・・・ 0.05 → 0.10
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 結果として、このタイミングでのゼロ金利解除は、完全な失敗だったのです。なぜな
ら、せっかく少し上向きかけていた景気を失速させてしまったからです。当時、例の山
本幸三議員は、自分のウェブサイトに次のように書いて、日銀を批判しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      今回、日銀が金利を上げたので、政府は補正予算の編成を余儀
      なくされました。日銀と政府の政策の方向が真反対を向いてお
      り、本末転倒です。しかも、今回のように、一国の総理大臣が
      これほど馬鹿にされた政策決定はなかったと思います。こんな
      経済政策の運営はあってはなりません。    ――山本幸三
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そういうわけで、ゼロ金利解除後6ヶ月で速水総裁は、中原伸之氏のいっていた「通
常では行われないような思い切った金融緩和」策に踏み切ることになったのです。これ
が2001年3月の量的緩和策です。
 そのさいに速水総裁は、他の中央銀行ではやったことのない2つの新機軸を打ち出し
たのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.金融政策の操作目標を従来のコールレートから日銀当座預
        金残高に変更し、所要準備預金を引き上げていること
      2.この政策をCPI(生鮮食品を除く)の前年比上昇率が安
        定的にゼロ%以上になるまで継続すると約束したこと
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この政策によって日本の金融は世界でも例を見ない未踏の領域に迷い込むことになっ
たのです。これら2つの新機軸については明日のEJで論評しますが、現在までこの政
策は維持されてきているのです。そして、再び、量的緩和解除が福井日銀総裁によって
行われようとしているのです。・[財政危機は本当か/28]


     ≪画像および関連情報≫
      ・量的緩和策解除後の金融政策運営の「道しるべ」について
       の中原真日銀審議委員の意見
       ―――――――――――――――――――――――――――
       「道しるべ」について中原氏は、量的緩和の誘導目標である
       日銀当座預金残高(現行30兆円から35兆円程度)を縮小
       させる過程と、その後の中立的な金利水準に至る経路という
       二つの局面に対応させる必要があると指摘。そのうえで「望
       ましい物価上昇率を示すことは透明性向上と解除後の市場の
       期待の安定化に効果的だ。それは中長期的に目指すべき物価
       上昇率を数値化する『参照値』で、一定の期限に目標達成が
       求められるインフレ目標と異なる」と強調した。
                ――2006.2.21/産経新聞より
       ―――――――――――――――――――――――――――

速水日銀前総裁.jpg

2008年10月06日

量的緩和政策は役に立ったか(EJ第1787号)

 このところ日銀の問題を取り上げています。日銀総裁が量的緩和解除の姿勢を見せて
いるからです。今回のEJは、財務省が目論んでいる財政再建を目的とする大増税は本
当に不可避なものなのかについて追求していますが、そのさい日銀の判断は大きな鍵を
握っています。
 2000年8月に実施したゼロ金利解除に失敗した速水前総裁は、2001年3月に
量的緩和を打ち出しています。そのさい、金融政策の操作目標を従来のコールレートか
ら日銀当座預金残高に変更したのです。
 つまり、目標残高として5兆円を設定したのです。当時、所要準備は4兆円であった
ので、1兆円の余裕を作ったのです。こうすることによって、コールレートは当然ゼロ
金利に貼り付くことになります。
 日銀はその後長期国債の買いオペを増やすことによって、2004年1月までの間に
目標残高を実に9回にわたって引き上げて現在は30兆円〜35兆円の巨額に達してい
るのです。これが量的緩和なのです。
 2003年3月20日に速水総裁は退任し、福井総裁に代わったのですが、日銀当座
預金残高の引き上げはその後4回行われ、現在の水準に至っているのです。
 既に述べたように、量的緩和の「量」はマネタリ−ベースの量のことです。マネタリ
ーベースとは、日銀がその量を調節できるお金のことであり、これを増大させようとい
うのです。なお、マネタリーベースは、ベースマネーともいわれます。
 日銀の量的緩和によって、ベースマネーの平均残高は次のように飛躍的に増加してい
るのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         ●ベースマネー平均残高の前年比増加率
          2001年 ・・・・・  7.4%
          2002年 ・・・・・ 25.7%
          2003年 ・・・・・ 16.4%
          2004年 ・・・・・  7.1%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、この世界に類を見ない量的緩和策は効果があったのでしょうか。
 金融機関は預金などで集めたお金を企業や個人に貸し出したり債券や株式など有価証
券に投資して、預金に対して支払う利息以上のお金を生み出すことにより、収益を上げ
ています。日銀当座預金も金融機関にとっては、貸し出しや有価証券などと同じ資産と
なるのです。しかし、日銀当座預金の場合、一切利子は生まないのです。
 量的緩和というのは、そういう利子を生まない資金が通常必要とされる以上に積み上
がっている状態ですから、資金をそのままに放置すると、巨額の資金を寝かすことにな
り、資産の利回りは悪化してしまうことになります。
 そうすれば、金融機関はそれを取り崩して、貸し出しなどリスクを取った運用を増や
そうとするはずである。そうでなければ、資産の利回りは悪化する――そういう狙いが
日銀にはあったのです。このように、貸し出しなどで市場に出回る資金のことを「マネ
ー・サプライ」というのです。
 このマネー・サプライについてもう少し正確に述べましょう。マネー・サプライは通
常次のように定義されます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          マネー・サプライ = M2+CD
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 M2(エム・ツー)は、普通銀行の「定期性預金」のことであり、CDは「譲渡性預
金」のことです。ちなみに、M1は「当座預金/普通預金」、M3は「郵便貯金」を意
味します。譲渡性預金は、途中で売買できる預金証書のことです。
 この「M2+CD」をマネー・サプライといい、日銀が金融政策の運用上で一番注目
しているデータの一つなのです。2001年〜2004年間についてマネー・サプライ
の平均残高の前年比の伸びを見てみることにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      2001〜2004(量的緩和あり)  1.7〜3.3%
      1997〜2000(量的緩和あり)  2.1〜4.0%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これによると、マネー・サプライ(M2+CD)は、量的緩和を実施した4年間と量
的緩和のない先の4年間に比べても明らかに増えていないのです。
 どうしてマネー・サプライが増えなかったのかというと、銀行としては、国からの性
急なる不良債権処理、自己資本比率維持、収益改善の三重苦の押し付けによって、古い
貸し出しの回収と新規貸し出しに慎重姿勢を取らざるをえなかったのです。
 マネー・サプライが増えないだけではないのです。デフレからも脱却していないので
す。消費者物価指数(CPI/生鮮品をのぞく)は一貫してマイナスになっているので
す。
 量的緩和の効果があったとされることがひとつあります。それは、長期金利の上昇を
抑えたことです。それは日銀が量的緩和の継続条件として、CPIの前年比上昇率が安
定的にゼロ以上になるまでという客観的条件を表明したことです。
 このように客観的指標を示したことにより、市場は量的緩和の継続期間が予測しやす
くなり、間違った思惑(リスク)によって長期金利が上昇することを未然に防いだので
す。
 鈴木政経フォーラム代表/鈴木淑夫氏は、「現在の長期金利は将来の予想短期金利の
加重平均にリスクプレミアムを加えたものである」といっています。したがって、リス
クプレミアムを小さくすることによって長期金利は安定化するのです。これは財政の金
利負荷軽減に大いに貢献したのです。しかし、量的緩和には大きなデメリットもあるの
です。                     ・・[財政危機は本当か/29]


     ≪画像および関連情報≫
      ・鈴木政経フォーラム代表/鈴木淑夫氏のコメント
       ―――――――――――――――――――――――――――
       (速水総裁の打ち出した)新機軸の最大の副作用は、金融機
       関経営の自主性喪失と市場の歪みである。金融機関経営とは
       将来の金利、資金のアベイラビリティ、顧客の信用などにつ
       いて、自主的に判断してリスクをとり、ポートフォリオを調
       整していくものだ。しかし、量的緩和政策の下で、日本銀行
       が巨額の長期資金を安定した金利で供給し続けた結果、金融
       機関は市場との自主的な対話で将来の金利や資金事情を予想
       し、リスクを取る必要がなくなった。
         ――『週刊/東洋経済』7/30/鈴木淑夫氏論文より
       ―――――――――――――――――――――――――――
      ・添付ファイルの図
       http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo204.htm

日銀当座預金残高の推移

2008年10月07日

日銀金融政策3つの選択肢(EJ第1788号)

 どうやら日銀による量的緩和政策は、3月中か遅くも4月には解除される見通しが強
くなってきています。3日発表のCPIが明確なプラスになり、政府内部も解除容認の
ムードになってきているからです。福井日銀総裁としては、次の2つの理由から、少し
でも早く量的緩和解除を実現したいのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.「異例の政策」を一日も早く終わらせて正常に戻したい。
        解除条件であるCPIのプラス化をクリアしつつある。
      2.このところ「買いオペ札割れ」による日銀当座預金の目標
        残高割れが何回も起こっており、限界に達しつつある。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 確かに金融機関が必要とする以上の大量の資金を日銀が供給する量的緩和政策は異例
の政策といえると思います。日銀総裁としては一日も早く日銀当座預金の目標残高「3
0兆〜35兆円」を本来の6兆円まで引き下げ、政策手段を金利に戻したいと考えるの
は至極当然のことです。
 まして、最近は「買いオペ札割れ」が何回も起こっており、日銀当座預金残高の目標
「30兆〜35兆円」を下回ることが何回も起きているのです。これは量的緩和政策が
限界に達しつつあることを示すサインと考えることができます。
 日銀が金融調節をするさい、手形や国債を買い入れる予定額を事前に金融機関に伝え
、金融機関がこれに応札するかたちで行われるのです。これに対する代金の支払いとい
うかたちで日銀は各金融機関の日銀当座預金口座に資金を振り込んで、残高を増加させ
るわけです。
 しかし、応札額が日銀の予定する額を下回ることがあります。これが「買いオペ札割
れ」です。このところ短期国債では札割れが頻繁に起こっているのです。
 短期国債だけでなく、中期国債でも札割れが起きています。この2月22日、中長期
国債オペは、入札予定額3000億円に対し、応札額が2302億円にとどまったので
す。中期国債の需要が一時的に高まり、日銀に中期国債を売る金融機関が少なかったた
めとみられています。これは中長期国債の買い入れオペでは9年5ヶ月ぶりのことなの
です。
 なぜ、札割れが起きているのでしょうか。
 それは、景気が回復し、金融機関は必要以上の手元資金を不測の事態に備えておく必
要がなくなったと考えられます。つまり、札割れの頻発は景気回復のシグナルであると
いえます。
 しかし、不用意に量的緩和政策を解除すると、長期金利が上昇する危険があります。
それは量的緩和の解除を金融引き締めのサインであるととられる恐れがあるからです。
 なぜなら、日銀は日銀当座預金の残高を引き上げるときに「追加緩和」といってきた
からです。したがって、残高を引き下げると「金融引き締め」と受け取る恐れがあるの
です。
 こういう憶測が広がると、長期金利が上昇(債券が下落)し、金融機関が抱える大量
の国債に含み損が発生する恐れがあるのです。そうなると、企業収益が悪化し、景気を
腰折れさせる恐れが出てくるのです。
 しかし、景気回復が確実なものになった現在では、札割れが起こるということは、量
的緩和がその役割を終えており、後は粛々と目標残高を下げていけばよいという意見が
支配的です。これに対してRIETIのファカルティ・フェローである伊藤隆敏氏はそ
れは正しくないといっています。
 やはり不用意に量的緩和解除を行うと、日銀は金融引き締めに転換したと受け取られ
るというのです。そのため、日銀による現在の金融政策としては、次の3つの選択肢が
ありうると伊藤氏は提言しているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         第一の選択肢:30兆〜35兆円を死守する
         第二の選択肢:日銀当座預金に利息をつける
         第三の選択肢:物価水準目標を明示的に導入
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 伊藤氏は、日銀の量的緩和政策は景気回復に大きく貢献していると評価し、継続すべ
きであるという立場に立って、上記3つの選択肢を示しています。
 札割れに対する対策としては、第一の選択肢として長期国債とその他の債券――具体
的には社債や不動産投資信託(REIT)株価指数連動型上場投資信託(ETF)など
のリスクを伴う債券の購入を検討すべきであるといっています。これによって長期金利
を低く保つことができるからです。
 第二の選択肢である「当座預金に利息を付ける」の発想はなかなかユニークです。こ
れは、金融機関が余剰資金を日銀に預けるインセンティブとなり、日銀は30兆〜35
兆円を維持することが可能になります。
 第三の選択肢は、デフレ脱却のためのシグナルを「量的緩和」から「物価水準数値目
標」にシフトし、デフレ脱却に向けてのコミットメントを強める――日銀が具体的な数
値を上げて物価安定を定義し、その目標達成期限を示すことを伊藤氏は求めているので
す。そうしておくことによって日銀当座預金残高を減額させても、金融引き締めと市場
は受け取らないからです。竹中総務相も同じようなことをテレビ朝日「サンデー・プロ
ジェクト」でいっていました。
 コミットメント――約束することですが、これは市場に対して強いシグナルを送るの
です。とくに日銀総裁の発言は市場に強いメッセージとして伝わるのです。
 福井総裁は解除に向けて前のめりの姿勢で訴えているので、政府内には容認のムード
が出てきたものと思われます。問題は出口ですが、その姿勢として、「ゼロ金利は続け
る」とし、その上限を0.1%とするという踏み込んだ発言もしています。問題は長期
金利がどうなるかです。            ・・・[財政危機は本当か/30]


     ≪画像および関連情報≫
      ・「買いオペ札割れ」について
       オペの札割れとは、日本銀行が金融調節のためのオペレーシ
       ョンをオファーしたときに、金融機関から申し込まれた金額
       が、入札予定額に達しないことを言います。資金供給オペレ
       ーションで札割れが起こっているということは、金融機関に
       十分な資金が既に行き渡っているため、金融機関がオペレー
       ションに全額は応じようとしなくなるほど、日本銀行が豊富
       に資金供給を行っていることを意味します。
      ・伊藤隆敏氏のレポートのサイト
       「ファカルティ・フェロー」とは、省庁や大学に籍を置く非
       常勤のフェローのことである。
       http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/ito/01.html

福井総裁と伊藤フェロー

2008年10月08日

名目成長率を上げる方法とは(EJ第1789号)

 先日、竹中総務相がテレビの番組に出演し、日銀の量的緩和解除に関連して次のよう
な趣旨の発言をしたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      実質成長率は確かに上がってきたが、名目成長率は低いままで
      ある。量的緩和解除の指標はCPIだけではなく、エネルギー
      を除いたGDPデフレーターもある。名目成長率が上がってく
      ることが重要である。           ――竹中総務相
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 竹中氏は、日本経済はまだデフレを脱却しておらず、間接的に「量的緩和解除はまだ
早い」といいたいのでしょう。量的緩和が解除されると、それは長期金利の上昇を招き
、名目成長率を上回ってしまうからです。そこで、竹中・中川ラインは、しきりに日銀
に対し、「目標を示せ」と迫っています。
 その目標とは何でしょうか。
 それは「物価水準数値目標を示せ」ということであると思います。例えばインフレ率
を1〜3%とし、その達成期限を明示せよということです。名目成長率は、実質成長率
に物価上昇率を加えたものですから、要するに「名目成長率を上げよ」というのはイン
フレ・ターゲッティング政策と同じ意味になるのです。
 しかし、竹中氏といえば、日本経済の問題点は供給サイドにあるとして、供給サイド
――すなわち、企業を金融機関の不良債権処理を加速させて削減しています。弱いとこ
ろ、問題のあるところを削減すれば、強いところが残るという論理なのです。
 しかし、問題なのは、その一方で緊縮財政を5年間も継続させ需要を徹底して抑制し
たことです。その結果として、デフレは一層深化し、大幅な税収の落ち込みを招いてし
まったのです。
 竹中・中川ラインは、現在は財務省の目論む大増税路線に反対し、正義の味方のよう
に振舞っているものの、大幅に税収を落ち込ませ増税の言質を財務省に与えたのは、こ
れまでの経済運営の結果なのです。ここに竹中政策の矛盾点があるのです。
 それでは名目成長率を増やすにはどうしたらよいでしょうか。
 大方の批判を覚悟していえば、「緊縮財政を解いて、公共投資を増やすこと」です。
このようにいうと、政府債務が795兆円もあるのに、そのうえ無駄な公共投資を増や
せというのかという批判を浴びてしまうでしょう。現在の世の中は、そういうムードに
なってしまっているからです。
 『増税が日本を破壊する』(ダイヤモンド社刊)の著者である菊池英博教授は、これ
について次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       (1)「公共投資はGDPの増加に寄与していない」
      この言葉は、当初から小泉純一郎氏と竹中平蔵氏がよく宣伝し
      マスコミも便乗して使っている。しかし、事実に反する発言で
      あり、大間違いである。1990年代の前半から今日までのG
      DP成長と税収の関係をみると、積極財政の効果は税収を増加
      させている。問題は、効果が出始めると、すぐ緊縮財政に切り
      換える政策をとっていることだ。
       菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
            はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 現在、日本では「公共事業=悪役」という構図ができ上っています。しかし、本当に
そうなのでしょうか。これに関して、『中央公論』1903年12月号に出ている国土
交通省技監の大石久和氏の「本当に公共事業は悪役なのですか」という論文が参考にな
ります。
 大石氏は、公共事業に関する批判を次の4つに分けています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.公共事業の大きさに 係わるもの
          2.公共事業の対象に  係わるもの
          3.公共事業の経済効果に係わるもの
          4.公共事業の手続きに 係わるもの
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1は公共事業費の金額の大きさに関する批判です。大石氏は2003年度の国債発
行額36.4兆円を例に上げて説明しています。確かに大きい金額ですが、36.4兆
円のうち30兆円は赤字国債――税収不足を埋める国債であり、公共事業に使われる建
設国債は6.4兆円(18%)に過ぎないのです。そこまで調べたうえで公共事業費が
大きいといってはいないはずです。
 第2は公共事業の対象に関する批判です。つまり、内容や質の問題です。人の通らな
い道路建設とか不要なハコものの建設などがそうです。クリントン前大統領は、地上交
通網の建設や地域開発、教育振興、学校建設など十分に質を考えて投資しています。日
本でも必要な対象がたくさんあるはずです。
 第3は公共事業の経済効果です。財政出動の経済効果は経験則でしかいえませんが、
辛抱強く継続したケースではちゃんと効果が上がっているのです。日本の場合は、少し
効果が出てくると、すぐ緊縮財政に切り換えてしまうことの繰り返しであり、これでは
効果をうんぬんできないのです。
 第4の手続きに関するものとして一番批判があるのは談合、それによる高コスト体質
のことです。
 大石氏は額の大きさに関し論文中で次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      国債発行額の増加は赤字国債の急激な拡大に起因しており、公
      共事業に使われる建設国債発行額は逆に減少。公共事業の規模
      も、同様に年々縮小しているというのが、この数年間の構造な
      のである。この構造を見れば、財政悪化の主因が公共事業のた
      めの国債発行にあるとする主張『財政破綻主因論』は、およそ
      説得力に欠けるものと言わざるを得ない。  ――大石久和氏
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 毎年大量の赤字国債を発行しなければならない主原因は、緊縮財政による税収減少な
のです。                    ・・[財政危機は本当か/31]


     ≪画像および関連情報≫
      ・大石久和氏の主張より
       ―――――――――――――――――――――――――――
       政府予算における公共事業費は、削減され続けてきた。平成
       15年度当初予算における一般公共事業関係費(国費)は前
       年度比3.8%減の約8兆円であり、これは景気対策として
       大規模な補正予算が組まれた平成10年度の約6割にすぎな
       い。事業規模が縮小したことそれ自体を慨嘆する必要はない
       が、その結果として、日本の国際競争力が必要な水準に維持
       されているか否か、日本が目指すべき国土利用に向けて直実
       に進んでいるのか否か、を懸念するのである。
       『中央公論』/2003年12月号――大石久和著、『本当
       に公共事業は悪役なのですか』―――森田実著、『公共事業
                     必要論』より。日本評論社刊
       ―――――――――――――――――――――――――――

森田実氏の本

2008年10月09日

クリントン前大統領の米財政改革(EJ第1790号)

 財政改革で日本が一番参考にしなければならないのは、米クリントン前大統領の財政
改革です。クリントンが大統領に就任する前の米国経済の状況は次の通りです。ちなみ
にクリントン氏が大統領に就任したのは、1993年1月のことです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1991年 ・・・・・ GDP実質成長率がマイナス
       失業率   ・・・・・ 7.5%
       財政赤字  ・・・・・ 2904億ドル(過去最高)
              (1991年10月〜1992年9月)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 クリントン政権は2期行われていますが、その期間は次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          第1期 1993年 〜 1996年
          第2期 1997年 〜 2000年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 クリントン大統領は、1993年2月17日に議会で演説し、経済戦略を次のように
打ち出しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.支出を消費から投資に向ける
          2.家族と勤労をとくに尊重する
          3.保守的な見積りの予算の編成
          4.政府支出削減と公平税制導入
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 まず、クリントン大統領は、雇用を増やすための手を打っています。限られた政府予
算から消費を削減して、投資項目に重点支出することを表明したのです。
 続いて予算方針を打ち出したのですが、それには次の3つの特徴があったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.予算は積極財政、物価の上昇率を上回る3.3%
       2.消費項目を抑えて投資項目に予算を重点的に投入
       3.政府職員を3万人削減、物価上昇でも支出は不変
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 重要なことは、第1期、第2期とも予算は積極財政であるということです。支出項目
別年平均の伸び率で見ると、第1期は歳出規模で3.3%、第2期でも3.0%の伸び
になっています。そして、第1期は軍事費を3.6%削って、投資項目にプラスしてい
るのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                  第1期     第2期
       歳出規模      3.3%    3.0%
       【裁量的経費】
         全 体     0.1%    2.5%
         国防費    △3.6%    1.2%
         その他     公共投資    公共投資
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 公共投資としては、第1期、第2期とも地上交通開発費、地域社会開発、職業訓練、
雇用増進費、教育費を大幅に増額しているのです。つまり、景気振興策を財政に組み込
んだわけです。日本は、なぜこういう投資ができないのでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                  第1期     第2期
      地上交通開発費   37億ドル   70億ドル
      地域開発その他   28億ドル  115億ドル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第2期に入ると、財政赤字は大幅に縮小してきましたが、日本のように緊縮財政を組
むことなく、積極財政を続けたのです。そのため1998年には黒字となり、財政再建
に成功しています。公共投資は第1期よりも第2期の方が多いことが日本とは大きく違
うところといえます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                  第1期     第2期
       歳出規模      5.6%    4.6%
       【義務的経費】
         社会保障    5.4%    3.7%
        メディケア   10.9%   11.9%
          その他   △0.1%    7.2%
          利払い    4.4%   △1.6%
          その他   △0.1%    7.2%
          利払い    4.4%   △1.6%
       菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
            はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1990年代後半になって、長短ともに金利が低下してきたのです。そこでクリント
ン政権は長期国債の書き換えを短期国債で行い、国債コストの削減を行っています。
 このように、クリントン大統領は消費項目を抑えて投資項目に予算を重点的に投入し
、景気振興策をとっているのですが、クリントン政権は、2003年から景気が回復基
調にあることを鋭く見抜いていたため、こういう手を打ったのです。
 巨額な財政赤字を解消するには、景気回復の力を借りて、思い切ったメリハリのある
手を打つべきです。日本の場合も小泉政権の発足した1年後は景気回復基調にあったの
です。
 しかし、小泉政権は経済がデフレであるにもかかわらず、緊縮財政をひいて需要を抑
え込み、供給サイドを強くすると称して、金融機関の不良債権処理を強行して企業をつ
ぶしたのです。それが税収の大幅減少を招き、赤字国債の発行額を増やすという財政再
建とは逆のことをやったのです。それが改革なくして景気回復なしの正体です。   
                       ・・・[財政危機は本当か/32]


     ≪画像および関連情報≫
      ・2001年度大統領の予算教書より
       財政赤字が減少し始めたのは1993年度からである。これ
       は米国の景気が回復し始めた時期であり、その後1995年
       にかけて景気が回復し、税収が増加した。この間の財政赤字
       減少の約7割は、景気回復によるものであり、税率の変更な
       どの構造要因は約3割にすぎない。ついで1995年度から
       1998年にかけては、税収が増加し、財政は黒字に転換し
       た。この間の税収増加要因の約7割が、税率の引き上げなど
       の構造要因である。  ――2001年度大統領の予算教書

クリントン前大統領

2008年10月10日

名目成長率がかぎを握っている(EJ第1791号)

 名目成長率が上がること――これはプライマリーバランス黒字化の達成要件のひとつ
であることは確かです。竹中総務相のいうように、実質成長率がいかに上ってもデフレ
下では、それは本物の景気回復とはいえないのです。名目とか実質とわかりにくい話話
で恐縮ですが、できるだけわかりやすく説明します。
 菊池英博教授は、デフレのもとでは「実質」成長は幻想に過ぎないといい、次のよう
に述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      構造改革が始まった2001年から今日まで、マクロ経済指標
      (経済全体からみた指標)は悪化し、それが税収の激減、財政
      赤字の拡大、政府債務の増加になっている。デフレのもとで数
      字が「よくなった」といっても「実質」の数字であり、ここに
      デフレのマジック(数字上のごまかし幻想)がある。「名目」
      での統計数字が改善しない限り、税収は増加しないのである。
       菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
            はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 名目成長率の数字だけが改善すれば良いというわけではありません。名目成長率とも
うひとつ別のファクターの両方を見て、判断する必要があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1.名目成長率 VS 純債務増加率
        2.名目成長率 VS 国債残高の加重平均利回り
        3.名目成長率 VS 長期金利
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ひとつずつ検証していくことにします。
 第1は「名目成長率VS純債務増加率」です。
 結論からいうと、名目成長率が純債務増加率を上回ればよいのです。1997年から
2003年までの6年間について、米国、英国の2国と日本を比較してみます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1997年〜2003年の6年間
               純債務増加率        名目成長率
      米国  8.5%(年率1.4%) 34.0%(年率1.4%)
      英国 11.7%(年率2.0%) 37.8%(年率6.3%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 米国はこの6年間で純債務は8503億ドルから9229億ドルに増加しているので
すが、名目成長率が34%増加しているので、政府債務の国民負担率は53.1%から
42.8%に低下しているのです。
 英国も同様で、純債務は3420億ポンドから3820億ポンドと11.7%増加し
ているのですが、名目成長率が37.8%増加しているので、政府債務の国民負担率は
46.6%から34.7%に低下しています。
 これに対して、日本とドイツは名目成長率が低く、純債務増加率の方が高いので、政
府債務の国民負担率は増加しています。とくに日本はこの6年間で、名目成長率はマイ
ナス6.6% であるので、純債務は35.2%から76.2%と、2倍以上に増えてしま
っています。これは金融政策の失敗以外のなにものでもないといえます。
 米国が双子の巨額の赤字を抱えている債務国であるのに、大幅な減税をしたり、積極
的な投資をしているのは、債務を上回る名目成長率を上げれば、債務負担度合いが減る
ことを十分に心得ているからです。
 米国に比べれば、日本は債権国であり、国債残高も純債務でみれば正常であるにもか
かわらず、大増税をしようとし、同じ財政政策の失敗を何回も繰り返して国民を苦しめ
ているのです。そのためには、国民は現在EJが取り上げているような生きた経済学の
知識を身につけて、政府や財務省のウソに騙されないようにする必要があると思います

 第2は「名目成長率VS国債残高の加重平均利回り」です。
 国債残高が減少するための必要な条件は、名目成長率が国債残高の加重平均利回りを
上回ればよいのです。ここ15年ほど名目成長率は、国債残高の加重平均利回りを下回
っているのです。「国債残高の加重平均利回り」とは、長期国債だけではなくすべての
国債残高の利回りであり、国の資金調達コストを意味しています。関連知識としては巻
末の解説を読んでください。
 要するに、国の資金調達コストを上回る名目成長率――税収といってもよい――を上
げなければ、いつまで経っても元本である国債残高は減らないというわけです。
 現在、国債残高の加重平均利回りは、1.5% 程度と考えられています。2005年
度の名目成長率は政府実績見込みの 1.6%を達成できれば、15年ぶりに成長率が加
重平均利回りを上回るのです。問題は、日銀がおそらく実施すると思われる量的緩和解
除が金利にどういう影響を与えるかです。
 ここで強調しておきたいことは、名目成長率を上げる一番よい方法が公共投資を増や
すことであるということです。しかし、日本は財務省のPRが効き過ぎて、そのような
ことを一切いえない雰囲気になっています。日銀が量的緩和を解除する時期にそのよう
なことをすれば、国債価格は暴落し、長期金利は跳ね上がり、国債の元利払いが急増す
るという批判を浴びます。財務省の思うつぼなのです。
 国債残高を600兆円として、長期金利が1%上がると、6兆円も財政負担が増えま
す。もし、5%になると30兆円――現在税収が40兆円しかないので、税収のほとん
どが国債の元利払いに消える――この論法に多くの人が騙されています。
 この論法は財務省とそれを看板にする評論家が繰り返しいっていることですが、金利
が上がると国の金融資産も上がるのです。ここからの税収増を計算に入れず、利払いの
ことだけをいっているのです。3については14日に述べます。
                       ・・・[財政危機は本当か/33]


     ≪画像および関連情報≫
      ・加重平均利回りについて
       A社とB社がともに10円ずつの配当金を出したとしましょ
       う。A社の時価総額は10億円、B社の時価総額は50億円
       だとします。この場合、同じ10円の配当金額でも、時価総
       額ではA社のほうが少なく、したがって10円の配当金の重
       みが違ってきます。つまり、A社のほうが、配当政策に対し
       て積極的であると判断できるのです。単純な平均利回りでは
       このような点はいっさい加味されていません。加重平均利回
       りは、企業の規模に応じてより妥当性を追及したかたちでの
       利回りを示すわけです。
      ・添付ファイルのグラフ
       <出所/みずほ証券>『週刊/エコノミスト』2/7日号
       「金利の復活」特集より

名目成長率と金利との関係

2008年10月14日

名目成長率VS長期金利論争(EJ第1792号)

 名目成長率ともうひとつ別のファクターの組み合わせによる分析の続きです。
 第3は「名目成長率VS長期金利」です。
 名目成長率と長期金利の関係については、竹中総務相と与謝野経財相との議論で有名
になっています。
 この議論について、『週刊/東洋経済』2/25日号に高橋洋一氏の次の論文が掲載
されています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          与謝野・竹中論争が意味するもの
          「政府部内で高まる成長率・金利論争を斬る」
                 ――早稲田大学講師 高橋洋一
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 論文自体は少し難しいですが、大変内容のある興味深いものであり、一読の価値はあ
ると思います。しかし、この高橋洋一氏というのは、既に述べたように、総務省参事官
で、竹中総務相の懐刀といわれる人物であり、当然のことながら竹中説の正しいことを
強調する内容になっています。
 この論文で述べられているのですが、「ドーマーの定理」というのがあるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      名目GDPの成長率が国債のコストよりも高ければ、国債残高
      は自然に減少していく。        ――ドーマーの定理
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「国債のコスト」を長期金利と考えると、名目成長率と長期金利の関係になってくる
のです。現在の長期金利は1.4〜1.5%で低水準です。問題は、この長期金利が量
的緩和解除によってどのくらいまで上がるかです。
 3月3日の日本経済新聞によると、量的緩和が解除された場合6月と12月の長期金
利について、4人のエコノミストたちの予測値が次のように出ています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                    6月     12月
          佐野和彦氏  1.75%   1.75%
          吉野昌雄氏  1.70%   1.90%
          三浦哲也氏  1.80%   2.00%
          小林益久氏  2.10%   2.20%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 財務省は2006年度予算を長期金利を2%と想定して組んでいます。したがって、
最も高い場合でも長期金利は2%と考えて間違いないと思います。
 添付ファイルのグラフは、OECD諸国の中で、ドーマー条件を満たす国の多寡を示
しています。ドーマー条件を満たす国の数から満たしていない国の数を引いて棒グラフ
にしたものです。条件を満たしている国がそうでない国より多いときはプラスになり逆
のときはマイナスになります。
 これを見ると傾向は明らかです。1960〜70年代は条件を満たしている国が多く
、1980〜90年代はマイナスになっています。すなわち、1960〜70年代は名
目成長率は金利を上回っていたが、1980〜90年代になると、名目成長率は金利を
下回っているのです。しかし、2000年代になると、条件を満たしている国とそうで
ない国が拮抗しています。
 高橋洋一氏は、G7の主要先進国について1960年から2004年までの平均で成
長率と金利を比較しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
               名目成長率     長期金利
         アメリカ   7.3%     7.1% ◎
         イギリス   9.1%     8.9% ◎
         フランス   8.7%     7.9% ◎
         カ ナ ダ   8.2%     8.1% ◎
         イタリア  11.7%     9.8% ◎
         ド イ ツ   6.3%     6.8% ▲
         日  本   7.4%     5.4% ◎
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 竹中総務相は名目成長率4%程度は堅実な前提とし、成長率は長期金利を上回ると予
測しています。この考え方に立てば、税収は増えるので、増税をしないか、しても小規
模の増税でプライマリーバランスの黒字化は可能という考え方です。
 しかし、与謝野経財相は成長率4%は楽観的過ぎるとし、金利は名目成長率を上回る
のが常識的であるといって、竹中氏と真っ向から対立しています。彼は財務省派で増税
賛成なのです。
 高橋氏は、この論争は物価上昇率がどうなるかによって決まるといっています。現在
、実質成長率は竹中氏も与謝野氏もともに2%と予測しており、名目成長率は次の式で
決まるからです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           名目成長率=実質成長率+物価上昇率
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 最近政府筋が日銀に対し、物価目標の設定を要求しているのはこういう背景があるか
らです。日銀はどうなのでしょうか。名目成長率と金利の関係について日銀の福井総裁
は、2月の時点では次のようにいっているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      80年代以降、金融の自由化やグローバル化が進んだ後の各国
      の例を見ると、長期金利は名目GDP成長率を幾分上回って推
      移することが多い。           ――福井日銀総裁
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうも竹中説は旗色がよくないようです。学者や日銀総裁まで含めて増税の大合唱―
―谷垣財務相は土・日曜はテレビ各局にハシゴ出演し、財務省出身の評論家も経済番組
に頻繁に出演して、「増税不可避論」をひたすら説いています。菊池教授などはお呼び
がかからないようです。            ・・・[財政危機は本当か/34]


     ≪画像および関連情報≫
      ・与謝野大臣と竹中大臣の違い
       ―――――――――――――――――――――――――――
       与謝野経済財政担当相は現状の日銀の金融政策で十分とし、
       インフレ目標政策には否定的である。一方、竹中総務相は、
       現在政府と日銀が政策目標を共有しているとは言いがたい状
       況に対して、インフレ目標政策の導入によって政府と日銀が
       政策目標を共有し、そこまでは政府が金融政策への期待を表
       明するが、ひとたび目標を掲げた後は日銀のオペレーション
       は日銀に任せて、中央銀行の独立性を確保するという、世界
       で標準的な金融政策を求めている。
       『週刊/東洋経済』2/25日号所載/高橋洋一氏論文より
       ―――――――――――――――――――――――――――
      ・添付ファイルグラフ
       『週刊/東洋経済』2/25日号所載/高橋洋一氏論文より

ドーマー条件を満たす国数

2008年10月15日

100兆円が使える日本政府(EJ第1793号)

 ここまでの分析ではっきりしてきたことは、要するに日本の財政の問題点は税収が減
少を続けているという点にあります。税収を上げるには、名目GDPの成長率を毎年4
〜5%程度まで上げる必要があります。
 菊池教授によると、それを実現するには政府は次の2つのことを実施すればよいとい
うのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1.政府が緊縮財政をやめ積極財政に切り換える
        2.財政支出の重点を投資項目に集中させること
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そのためには国債を増発させる必要があります。しかし、もし政府がそれをやろうと
すると、きっと、反対の嵐が巻き起こるでしょう。「ただでさえ、国の借金が多いのに
、その借金をさらに増そうというのか」という非難です。
 これは、完全にわれわれが財務省のレトリックに騙されているからなのです。ここま
で、菊池教授の本を中心にいろいろ財務省のレトリックを暴いてきていますが、もうひ
とつわかりやすい例を上げることにします。
 小泉首相がしきりと牽制していたにもかかわらず、福井日銀総裁は3月9日に量的緩
和の解除を決定しています。そうすると、長期金利が上り、国債費の利払いが急増する
――大量の借金を抱えている日本の財政は、税収のほとんどが国債費の利払いに消えて
しまうことになると多くの人が考えています。
 仮に日本の国債の残高が600兆円としましょう。長期金利が1%でも6兆円の財政
負担となります。もし、金利が5%になったら30兆円の財政負担――日本の税収は現
在40兆円ですから税収の75%が国債費の利払いで消えてしまう計算です。これでは
財政が破綻する――大増税やむなしとなるわけです。
 しかし、このロジックは、金利が上ることのマイナスの面しかいっていないのです。
政府は金融資産を480兆円も保有しているのです。それに個人金融資産が1400兆
円もあります。もし金利が5%になったら、こういう金融資産も当然金利を生むことに
なります。
 もし、5%になると、個人金融資産は70兆円の金利を生むことになります。その約
20%の14兆円は源泉徴収で税金として国庫に入るのです。この源泉徴収分を引いた
56兆円は大きな経済効果を生みます。日本のGDPは約500兆円――それに56兆
円規模の消費が加わったらどうなるでしょう。大変な消費税が国庫に入ってくることで
しょう。
 ですから、仮に国債費が30兆円になったとしても、差し引きプラスの面が多いので
す。財務省はマイナス面だけを強調して増税を煽り、プラスの面は口をつぐんでいるの
です。
 しかし、現状で国債を増発してもとくに問題はないのです。それによって国債価格が
暴落し、長期金利が上昇する可能性は非常に低いと考えられるのです。
 既に述べたように、政府の金融資産は次のように480兆円もあるのです。データを
再現しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          社会保障基金 ・・・・・ 254兆円
          内外投融資 ・・・・・・ 136兆円
          外貨準備 ・・・・・・・  90兆円
          ――――――――――――――――――
                       480兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 注目していただきたいのは、外貨準備の90兆円です。こんなに多額の外貨準備を持
っている国は日本以外にないのです。このお金は、国が外貨危機に陥ったときや、急に
多額の外貨が必要になったときに使うために保有している資金です。
 この外貨準備――その大部分を米国の国債で運用しているのですが、問題はこのお金
をどこから調達しているかです。国家のために外貨を買うのですから、当然中央銀行の
資金で賄うのが常識であり、他国ではすべて中央銀行の資金で賄っているのです。
 しかし、日本の場合は違うのです。正確にいえば、1999年9月までは日銀の資金
で調達されていたのですが、それ以降現在までは違うのです。
 財務省は円高を防ぐために為替市場で円売りドル買いをしますが、その資金はどうす
るのかというと、財務省は政府短期証券を発行し、それを日銀が引き受けるというかた
ちで調達していたのです。これは正常なかたちであるといえます。
 この場合、日本は大量のドルを手にすることになりますが、政府はそのほとんどを米
国国債に投資しているのです。ところが、1999年10月から政府は外貨買い取りの
ための円資金調達の手段である政府短期証券を市場に売り出すことにしたのです。当時
金融機関は莫大な資金を有しながら投資先がない状況にあり、それをカバーする目的が
あったと考えられます。
 そうなると、政府短期証券は銀行などの一般金融機関が購入することになるのです。
これは、われわれ国民の預金が政府短期証券の購入に使われることを意味します。そう
すると、国民の預金が海外に出てしまうことになります。
 外貨準備は国家のために外貨を買うのですから、日銀の資金で調達するのがすじとい
うものであり、本来の姿に戻すべきであるといえます。それをしても何も問題は起こら
ないのです。
 もし、これが実現されると、金融機関には100兆円という巨額な金額が浮いてくる
ことになります。この100兆円を日本は自分のために使えばよい――菊池英博教授は
このように提案しているのです。この100兆円は、そのまますぐ国債発行のために使
うことは可能なのです。
 何もあわてふためいて多くの国民が難渋する増税をやる必要はないのです。世の中に
はいろいろなからくりがあり、われわれが知っていることはごく一部なのです。
                       ・・・[財政危機は本当か/35]

     ≪画像および関連情報≫
      ・政府短期証券とは何か
       ―――――――――――――――――――――――――――
       財務省が支出に必要な資金を一時的に調達するために発行す
       る債券で、国の借金(債務)とみなされる。税金が入るまで
       のつなぎ資金を調達する財務省債券、為替介入の円資金を調
       達する外国為替資金証券、備蓄石油を買う石油証券などがあ
       る。2004年9月末時点の残高は86兆7875億円。
                       ――「マネー経済」より
       http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yougo/000438.htm
       ―――――――――――――――――――――――――――
      ・添付ファイルの図
       菊池英博著、『増税が日本を破壊する/「本当は財政危機で
       はないこれだけの理由』より。ダイヤモンド社刊

外貨準備の調達方法
外貨準備の調達方法

2008年10月16日

投資減税を継続実施せよ(EJ第1794号)

 外貨準備のための政府短期証券を金融機関ではなく、1999年までやっていたよう
に日銀が引き受けるという正常なかたちに戻すと、100兆円の資金が浮いてくる――
問題はこれを何に使うかです。
 まず、実施すべきは投資減税です。
 ここに経済産業省の作成した「IT投資促進税制の投資減税モデル」というものがあ
ります。投資をするからには、こういうシミュレーション・モデルを作って分析してか
ら実施するのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      IT投資促進税制 ・・・・・・ 3年間合計 1.2兆円
      IT投資の増加 ・・・・・・・ 3年間合計 2.2兆円
      実質GDP押上効果 ・・・・・ 3年間合計 2.7兆円
      ――――――――――――――――――――――――――
      国・地方への税収の影響 ・・・ 6年間合計
                        国 税1.54兆円
                        地方税1.02兆円
      投資増加波及効果に伴う雇用増 3年間投資 18.5万人
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 IT投資を促すため減税を3年間で1.2兆円を行うと、それによって投資は2.0
2兆円増加し、それによる実質成長率の押し上げ効果は2.7兆円になると計算されて
います。
 問題は税収への影響ですが、減税実施後6年間で国税は1.54兆円(加えて地方税
1.02兆円)となっています。これにより、3年間で1.2兆円減税しても減税実施
から6年間で税収の増加分が1.54兆円ですから、0.34兆円プラスになったこと
になります。
 IT投資増加による直接的な雇用増加効果は18.5万人ですが、中長期的には、実
質GDP押し上げ効果によって64万人の雇用を増やせると推計しているのです。
 この投資減税は2003年度に投資減税枠2兆円が組み込まれ実施されているのです
。2004年度の税収が当初予算42兆円から45.5兆円に増えているのは、この投
資減税効果であると推定されているのです。
 政府は法人税の減税によって投資を促進させようとしているのですが、法人税の減税
は法人税を納めている企業しか恩典がないのです。また、企業が減税分を投資に回すと
は限らないのです。したがって、投資した企業だけが恩恵に浴することができる投資減
税が有効なのです。
 しかし、政府はこのIT投資税制を廃止し、別のかたちで実施するとしており、事実
上廃止を決めています。どうしても税金でとりたいたいという財務省のハラが透けて見
えます。
 菊池教授の本には、日本再興投資資金枠による税収倍増・赤字国債解消の具体的にし
て、十分実行可能な詳細なプランが提案されています。
 詳細は本に譲るとして、それが2006年度から実施された場合の10年後のかたち
を示しておくことにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.名目成長率 ・・・・・・・・・・・ 毎年4〜5%増加
      2.名目GDP ・・・・・・・・ 740兆円〜800兆円
      3.普通国債の名目GDP比率 ・・ 104% → 80%
      4.長期金利 ・・・・・・・・・・・・・・ 1〜2%前後
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 現在の日本の現状からは夢のような数字が並んでいますが、上記経済産業省の投資減
税モデルなどの分析を参考にして精密に予測が行われており、けっして荒唐無稽な計算
でないことを申し添えておきます。
 現在、政府(財務省)は、こういう何とか増税をさせないプランを封殺しています。
マスコミもこれに協力しているように見えます。一番不愉快なのはあの借金時計――1
秒間にXX円ずつ国の借金が増えていることを示すあの時計です。日曜日には政治番組
が花盛りであり、増税是か非かの論議が行われていますが、こういう席に菊池英博教授
のような方が呼ばれることはまずないでしょう。したがって、多くの国民は、増税やむ
なしの方向に誘導されてしまうのです。
 繰り返しますが、国が国民から取り立てる資金は、税金か国債しかないわけであり、
国からみるとどちらも同じことなのです。しかし、税金というかたちで取ると、それは
財政上の黒字になり国債を売るというかたちを取ると、赤字として計上されてしまうの
です。あなたが国――いや財務省の立場だったら、どちらの立場を取りたいですか。
 明らかに「税金で取りたい」に決まっています。だから、何が何でも税金というかた
ちで取りたがるのです。また、国債というかたちで国民に対して行った借金は、最終的
には税金を取り立てて帳尻を合わせるしかないということなのです。
 谷垣財務相は、「こんなときに増税しないでも・・」と迫られると、必ず次の言葉を
返しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       そうしないと、ツケを次の世代に先送りすることになる
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このことばは一応正しいといえます。国としては、税で取り立てるのも、国債を売る
のも同じことですが、世代会計という立場で考えると、税でとるか国債を売るかは大違
いなのです。
 なぜなら、国債には償還期限があるということです。国債は償還期限までは国債保有
者にとって金利を生む金融資産ですが、国がその国債を償還するときは、国債保有者に
元本を返済する資金を税金で取り立てることで帳尻合わせをするのです。そうすると償
還する時期に税金を支払う立場の人は税金の分だけ自分の使えるお金が少なくなります
。まして、国債を持たず税金だけは払わなければならない人もおり、先送りすると世代
間の会計ををゆがめることになるのです。    ・・・[財政危機は本当か/36]


     ≪画像および関連情報≫
      ・IT投資促進税制とは何か
       2000年11月に成立した「IT基本法」では、5年以内
       に「世界最先端のIT国家」を目指すと宣言しています。こ
       れを一層推進するため翌年に政府は『イー・ジャパン戦略』
       と名付けた政策プログラムを打ち出しています。政府は、こ
       の政策方針の下にIT投資促進税制を創設しました。政府は
       ITの基盤整備に積極的に取り組みながら民間企業にもIT
       活用による経営基盤の強化を促しています。IT投資促進税
       制は、民間企業に対するIT投資促進策といえます。
       http://dynabook.com/pc/business/it_info/index_j.htm
      ・日本の借金時計
     
       http://www.takarabe-hrj.co.jp/clock.htm

日本の借金時計

2008年10月17日

シュンペーター的財政赤字の日本(EJ第1795号)

 ここまで日本の財政危機に関して、何が何でも大増税を実施しようとしている財務省
などの動きに関し、菊池英博教授の本を中心に本当に日本は財政危機なのか、増税する
前にまだやることがあるのではないかといろいろ探ってきました。
 しかし、世の中の動きは政府内で多少の反対の動きはあるものの、大増税に向って真
っ直ぐ進んでおり、残念ながら、いまさら何をいおうと大増税の路線は変わらないよう
に思います。
 どうしてなのでしょうか。どうも何かが隠されているように思えてなりません。財務
省はそのすべてを知っており、何が何でもここで大増税をしないと大変なことになるこ
とを知っているのではないでしょうか。
 神野正彦東京大学・大学院教授は、日本の財政赤字の実態を次のことばで表現してい
ます。
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       小さすぎる政府が大きすぎる借金を抱えた弱すぎる財政
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 このように表現されると、日本は確か「小さい政府」を目指しているはずだけれど、
既に「小さすぎる政府」であるとはどういうことかと考える人が多いと思います。
 なぜ、「小さすぎる政府」なのかというと、神野教授によると日本は米国とともに経
常収入が先進国中非常に小さいので、小さすぎる政府だというのです。
 それでは「経常収入」とは何でしょうか。
 経常収入とは、国税と地方税の租税負担と社会保障負担の合計――すなわち、国の国
民負担率のことです。この金額のGDP比をとると、次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                 1999年     2000年
          日  本   31.1%     32.2%
          米  国   31.0%     31.6%
          カ ナ ダ   40.9%     40.3%
          英  国   40.4%     40.3%
          フランス   50.4%     49.8%
          ド イ ツ   44.5%     44.4%
          イタリア   46.4%     46.6%
      神野正彦著、『二兎を得る経済学/景気回復と財政再建』より
                      講談社+α新書79−1C
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 この数字を見ると、日本と米国は他の国に比べると、GDP比が非常に低いことがわ
かると思います。したがって、日本は小さすぎる政府であるというのです。
 なぜ、日本がこのような小さすぎる政府になったのかということについて、神野教授
は次のようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       不況のもとで少なくとも実施しておくべき税制改革は、景気
      が回復した時に自然増収が期待できるようなメカニズムをイン
      プットしておくことである。不況になれば、所得が減少し、個
      人所得税は低い累進税率が適用されるようになり、企業は赤字
      に陥り、法人税の租税負担を免れ、自動的に減税になる。
       逆に景気が回復すれば所得が増加するため、所得税には高い
      累進税率が適用されたり、法人税を納税しなければならなくな
      り、自動的に増税となる。そのため景気が回復すると、所得税
      や法人税では自然増収が期待できる。
      神野正彦著、『二兎を得る経済学/景気回復と財政再建』より
                      講談社+α新書79−1C
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、日本は今までに景気回復を狙って所得税や法人税を大幅に減税してしまって
いるのです。そのため、景気が回復しても自然増収が期待できない税制になっているの
です。つまり、日本の税制は計画的に考え抜かれていないということです。
 日本の場合、消費税がかなり遅れて導入されたのですが、ある程度の高率の消費税が
定着している国では、不況のさいには、消費税を減税し、それによって消費需要を増加
させ、間違っても所得税や法人税の減税はしないという手が打てるのです。
 よく減税論議が出るときに政府側は、減税分が消費に回らず貯蓄されてしまうという
ことを反対の理由として使いますが、消費税の減税であれば、ものを購入する人だけに
減税が適用されるので、確実に消費が増えるのです。消費税の税率が20%の国で、も
し、10%の減税が実施されれば、その時を狙って多くの人は家を建てたり、車を購入
したりするはずです。
 神野正彦教授は、現在の日本の財政赤字は「シュンペーター的財政赤字」であるとい
っています。ところで、「シュンペーター的財政赤字」とは何でしょうか。
 シュンペーターは、オーストリアの経済学者であり、財政社会学の始祖といわれてい
る学者です。彼は古い時代と新しい時代の転換期には、財政が必ず危機に陥ることを指
摘したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      現存の制度が崩壊をし始め、新たな制度が生まれ始めていると
      きには、いつも財政が危機に陥ることになる。そのため、社会
      が転換期にあるときには財政分析が最も効果的である。
                    ――ヨーゼフ・シュンペーター
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 神野教授は、こうした歴史の峠を越えるような総体としての社会の大転換期に生ずる
財政危機を「シュンペーター的財政赤字」と名付けることを提案し、日本の財政赤字は
まさにそれであると指摘しているのです。
 マーガレット・サッチャーは、英国がこのシュンペーター理論通りにならないように
、政権運営を進めたという話は有名ですが日本の財政赤字は、神野教授によると、シュ
ンペーター理論通りになりつつあるようです。  ・・・[財政危機は本当か/37]


     ≪画像および関連情報≫
      ・ヨーゼフ・シュンペーター
       ―――――――――――――――――――――――――――
       シュンペーターは、経済活動における新陳代謝を創造的破壊
       という言葉で表し、資本主義経済の発展は企業家の行う不断
       のイノベーション(革新、新結合)によってであるとした。
       また、資本主義は、成功ゆえに巨大企業を生み出し、それが
       官僚的になって活力を失い、社会主義へ移行していく、とい
       う有名な理論を提示した。      ――ウィキペディア
       ―――――――――――――――――――――――――――

シュンペーター

2008年10月20日

ネバダ・レポートというものがある(EJ第1796号)

 日本は「小さい政府」を目指しているということが何回もいわれています。要するに
政府が大きくなりすぎたというわけです。しかし、昨日のEJでも見たように、日本は
経常収入面で見る限り、小さすぎる政府なのです。
 それならば何をもって大きな政府といっているのでしょうか。それは歳出面に着目し
たものと考えられます。歳出面(総支出)をチェックしてみましょう。%は対GDP比
です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                1999年     2000年
          ――――――――――――――――――――
          日  本  38.1%     38.2%
          ――――――――――――――――――――
          米  国  30.0%     29.3%
          カ ナ ダ  38.8%     37.8%
          英  国  39.1%     38.4%
          フランス  52.1%     51.1%
          ド イ ツ  45.9%     43.0%
          イタリア  48.3%     46.7%
        神野正彦著、『二兎を得る経済学/景気回復と財政再建』
                      講談社+α新書79−1C
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、歳出面を見ても国際的にはとくに大きな政府というわけではないのです。し
かもその大きさは、国債費によって押し上げられており、別に公共サービスの供給が多
くて豊かである――そういうわけではぜんぜんないのです。日本の公共サービスの質は
けっして高くないからです。
 国債というものは、将来の税収を担保にして政府が財政赤字をファイナンスするため
に発行する債券です。したがって、その償還に当っては税金を当てるしかないのです。
したがって、国債を発行するということは、将来増税になるということを国として宣言
しているのと同じなのです。
 国債が適正に発行され、国民がそれによって満足できるだけの公共サービスを受けて
いるのであれば、政府から適切な説明があれば、国民は国債の償還に当たって増税に応
じるはずです。
 しかし、それが大幅な赤字になっているということは、国民が利益を享受しない不必
要だと考えている支出に財源を充当した結果であると考えるべきです。
 日本国家破綻説が溢れるなかにおいて、何とか再生の道を求めてここまで分析してき
たのてすが、本当の実態はかなり深刻であることは事実のようです。巧妙に重要なこと
が隠されてきているからです。それに日本の財政のメカニズムはきわめて複雑であり素
人の理解を超えています。あえて、複雑にして分かりにくくした形跡があり、表面上は
問題がないように見えるのです。
 国家破綻論について論じた書籍は現在書店に溢れていますが、そのほとんどは事実誤
認か、間違った前提と乱暴な結論か、針小棒大かのいずれかですが、なかには真実に肉
薄していると見られるものもあります。
 そのひとつをご紹介します。2006年2月23日に発刊された次の書籍です。
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          森本亮著
          『日本国破産に最終警告』 PHP研究所刊
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 森本亮氏は、三菱信託銀行出身の経済評論家で、現在、経済工学研究所を主宰されて
いる金融分野のエキスパートです。同書の内容は、客観的事実に基づく合理的な推論が
積み上げられ、この手の本につきものの誇張が一切ないのに、きわめて説得力がありま
す。しかも、新聞、雑誌などでは入手できない最新の情報に基づいて記述されています

 EJの今回のテーマとしては、そろそろ終りに近づいていますが、その最後の局面に
おいて森本氏の主張をご紹介し、その主張に関連のある事実について記述してみたいと
思います。
 「ネバダ・レポート」というのをご存知でしょうか。
 実は、日本の財政の破産的状況は国外でも注目されており、IMF(国際通貨基金)
ではそのときに備えてどうすべきかとの処方箋を用意しているのです。その具体的な案
のひとつが「ネバダ・レポート」といわれるものです。
 けっしてデマではないのです。このネバダ・レポートの存在を竹中平蔵金融担当大臣
(当時)が衆議院予算委員会で認めているからです。
 森本氏の本から、その項目をご紹介しておきます。実に戦慄すべき内容になっていま
す。
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      1.公務員の総数および給料の30%カット、ボーナスはすべ
        てカット
      2.公務員の退職金は100%カット
      3.年金は一律30%カット
      4.国債の利払いは5年から10年間停止
      5.消費税を15%引き上げて20%へ
      6.課税最低限度を年収100万円まで引き下げ
      7.資産税を導入して、不動産に対しては公示価格の5%を課
        税。債券・社債に対しては5〜15%課税。株式は取得価
        格の1%を課税
      8.預金は一律ペイオフを実施するとともに、第二段階として
        預金額の30%〜40%カットする
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうでしょうか。こんなことが現実のものになっては困りますが、そうなる可能性を
十分にあると思います。国はあまりにも多くのことを隠しており、一般にはその実体が
見えないよう擬装されているのです。      ・・・[財政危機は本当か/38]


     ≪画像および関連情報≫
      ・ネバダ・レポートに関する衆議院予算委員会質問より
       ●五十嵐委員 私のところに一つレポートがございます。ネ
       バダ・レポートというものです。これは、アメリカのIMF
       に近い筋の専門家がまとめているものなんですけれども、こ
       の中にどういうことが書いてあるか。ネバダ・レポートの中
       でも、昨年の九月七日に配信されたものなんですけれども、
       IMF審査の受け入れの前に、小泉総理の、日本の税収は、
       五十兆円ほどしかない、今の八十五兆円を超える予算は異常
       なんですという発言があります。これを大変重視して、当然
       だと言っているんです。同時に、九月上旬、ワシントンで、
       私、柳澤大臣と行き会いましたけれども、そのときに、柳澤
       大臣が記者会見をワシントンでされていまして、IMFプロ
       グラムを受け入れるという発言をされていますね。これは御
       確認をさせていただきたいんですが、そのとおりですか。
              ――2002.2.14/衆議院予算委員会

森本亮氏の本

2008年10月21日

借換債というものを知っていますか(EJ第1797号)

 昨日のEJでご紹介した森本亮氏によると、日本は既に2回の国家破産を経験してい
るといいます。国家破産は国家破滅とは違い、国がなくなるわけではないのです。財政
が破綻し、正常な状態に戻らないことをいうのです。過去2回の国家破産の期間を示し
ておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        第1回/1904年〜1916年 ・・・ 12年間
            明治37年〜大正 5年
        第2回/1931年〜1945年 ・・・ 14年間
            昭和 6年〜昭和20年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1回は、日露戦争勃発から第1次世界大戦の半ばまでの12年間であり、第2回は
満州事変勃発から太平洋戦争の終わった年までの14年間です。
 いずれも戦争が原因の国家破産だったのですが、その間、国民は大増税とインフレに
襲われて、悲惨にして過酷な生活を強いられたのです。
 それでは、何をもって国家破産というのでしょうか。
 もちろん、個人や企業の破産と違って法的に明確な定義があるわけではないのです。
森本氏によると、国債爆発指数が一定の数を超えると、国家破産の状態であるというの
です。2005年度の政府予算のケースで計算してみましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      (利子9.3兆円+借換債103.8兆円)÷税収47兆円
      =2.406 →    2.406×100=240.6
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 森本氏は、この数値が300になると、日本の財政的な国家破産が誰の目にも明らか
になるといっています。森本氏の予測によると、2008年度は次のように数値は29
4になり、その数値に限りなく近づくと予測しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      (利子22兆円+借換債119兆円)÷税収48兆円×100
      =294
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここで「利子9.3兆円」は、国債残高に長期金利を乗じたものであり、2005年
の9.3兆円は長期金利1.5%で計算してあります。しかし、2008年の利子が2
2兆円になっているのは、量的緩和解除などの影響で長期金利が3%になったという前
提の金額であり、実際に長期金利がそこまで上昇するかどうかについては疑問です。
 問題は「借換債/かりかえさい」です。「借換債」とは一体何でしょうか。
 借換債とは、満期を迎えた国債の償還に対して、その償還財源に当てるために、新た
に発行される国債のことです。法的根拠は国債整理基金特別会計法第5条です。要する
に、国債の償還を国債を発行して行うということです。借金の返済を別な借金で行うと
いうことと同じです。
 借換債については次のような理屈がついています。
 国債には、建設国債と赤字国債がありますが、建設国債――道路や橋などの社会資本
を建設する目的で発行される国債について説明します。
 国債は国民に対する国の借金です。借金はいずれ返さなければなりません。国債も同
じことであり、償還期限というものが定められています。しかし、例えば、10年国債
を国が10年後に償還するわけではないのです。建設国債は60年償還ということが決
められているからです。
 つまり、道路や橋などの耐用期間を60年とみなし、その建設資金を調達するため、
国債は60年かけて償還すると決められているのです。しかし、60年満期の国債では
市中では消化されにくいため、満期5年や10年などの国債で調達して償還するのです
が、そのとき償還分に見合う新たな国債を発行できるのです。これを借換債といいます

 しかも、借換債を発行しても、既存の借金を継続するためのものなので、政府の新た
な借金にはならないというわけです。それにこの借換債は一般会計――われわれが通常
財政や予算と呼んでいるものの中には計上されないので、国民の目にふれることはない
のです。
 もうひとつ、このように借換債が発行されると、当然国債の利払い費(国債費)は膨
らむことになりますが、国債費も1980年代に一般会計から特別会計に移されている
のです。したがって国債費が膨らんでも一般歳出とはならないため、その分赤字国債を
発行しないで済むことになります。巧妙な仕掛けです。
 建設国債というのは、それによって社会資本が次の世代に受け継がれるので、長期償
還が認められるというのは、一応の理屈であると思います。しかし、森本氏の指摘によ
ると、これは官僚が国債の償還を少しでも遅らせるために作り上げたトリックであると
いうのです。
 なぜなら、国が定めた社会資本の平均耐用年数は32年、道路の耐用年数は45年な
のです。いくつかの社会資本の耐用年数を上げておきますが、60年などというのは皆
無です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       道 路 ・・・ 45年   下水道 ・・・ 34年
       港 湾 ・・・ 50年   国有林 ・・・ 34年
       水 道 ・・・ 32年   治 水 ・・・ 49年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 道路の耐用年数が45年なのに、その建設資金の償還は60年は少しおかしいと思い
ます。日本の地方債の多くは20年償還ですし、諸外国の例でも20年〜40年という
ところであり、60年というのは驚くべき長期です。昭和20年頃に建設した道路の償
還が今年くるのですから。           ・・・[財政危機は本当か/39]


     ≪画像および関連情報≫
      ・国家破産とは何か
       日本の場合「国家破産」という出来事がある日突然起こるこ
       とはない。国が借金を返せる見通しが立たなくなり、返済を
       諦め、債権者に救済を求めること。ただ日本の借金には「国
       外からの借金」がないので、過去にアルゼンチンがやったよ
       うな対国外への債務不履行(デフォルト)のような「国家破
       産を実感できるわかりやすい事件」は起こらない。
       http://homepage1.nifty.com/silabel/kyoyo/kokka_hasan.html
      ・森本亮氏の写真
       森本亮著、『日本国破産に最終警告』より。PHP研究所刊

森本亮氏

2008年10月22日

建設国債と赤字国債の差がなくなっている(EJ第1798号)

 建設国債が60年償還であることは、期間が長過ぎるとは思うものの、単なる借金で
はなく社会資本が残るので、一応納得できます。しかし、赤字国債となると話は違って
きます。
 既に述べたように赤字国債は、国の経常的経費に当てられる国債であって、財政法で
は原則として発行できないようになっているのです。そのため、歳入欠陥が生じたとき
は、毎年度特例法を制定して発行しているのです。
 したがって、本来であれば赤字国債は年度内に償還されるべきものです。といっても
、さすがに年度内償還は無理であり、通常10年間で償還していたのです。事実198
4年度までは、10年間の償還期間を守って全額返還されていたのです。それに赤字国
債には借換債は認められていなかったのです。
 しかし、1985年の特例法から、赤字国債も建設国債と同じ60年償還になったの
です。この犯罪的ともいうべき決定をしたのは時の中曽根首相であり、竹下蔵相です。
赤字国債に借換債を認め、60年償還ルールを適用するなどということは他国に例を見
ないのです。
 60年間といえば、財務省などの国の機関で働く官僚が定年になるまでの間には――
たとえ新入社員であっても、償還期限は到来しないのです。したがって、どうしても無
責任になります。つまり、借金の60年先送りです。どうせ償還は先の話であり、その
ときオレは役所にいない。あとは野となれ山となれだ・・ということになります。
 そもそも戦後日本が赤字国債を発行したのは、1965年度の補正予算からです。こ
の年はいわゆる「40年不況」で、税収が大幅に減ったのです。そして、翌年の196
6年度からは建設国債を発行するようになり、国債発行政策をはじめたのです。
 なぜ、国債発行政策をとったかというと、GDP成長率が鈍化して税収が伸び悩み、
その一方において公共投資の必要性があったからです。
 しかし、赤字国債についてはその後1974年度までは発行していないのです。さす
がに赤字国債は一時的なものとすべきであるというまともな考え方が当時はあったから
といえます。
 ところが1985年からは、建設国債と赤字国債は、償還期限が同じになったので、
その根拠法と発行対象の違いはあるものの区別する必要性はなくなってしまったといえ
ます。
 森本亮氏は、この借換債について、次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      この財務省の2つの「亡国の技巧」(建設国債の60年償還ル
      ールと赤字国債にも同じルールを適用したこと/平野注)の結
      果、「借換債」というとんでもない代物を生んでしまった。こ
      んな国債は世界に類例がない。日本の財務官僚や政治家の会計
      音痴ぶりが世界の笑いものになっているが、その自覚すらない
      のである。借換債は現在100兆円の大台に乗っているが、こ
      れが財務省の「奥の手」だと自慢しているようでは、言語道断
      だ。財務官僚の罪は万死に値し、具体的には「公務員職権乱用
      罪」にあたるのではなかろうか。
      ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より PHP研究所刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 3月16日の朝日新聞によると、財務省は「増税せずに歳出削減だけで財政を健全化
しようとしたら・・」という試算を財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で報告して
います。
 国立大学の授業料は4倍近くなり、災害時でも設備が足りない自衛隊が出動できず、
取り締まりが手薄になって不法滞在外国人が増えるなど国民生活に大きな影響が出ると
いう、増税の地ならしをしたい同省の意向が強くにじむ内容になっています。
 しかし、日本の財政を今のような状況にしたのは財務省自身です。しかるに、そうい
う反省がほとんど感じられず、国民に対する一種の脅しのようになっているのは残念な
ことです。国民は何もわるくないからです。
 借換債は2005年に100兆円の大台に乗っており、これから毎年じりどりと増え
る一方です。
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       2005年  104兆円  2012年  112兆円
       2006年  113兆円  2013年  116兆円
       2007年  117兆円  2014年  123兆円
       2008年  119兆円  2015年  123兆円
       2009年  115兆円  2016年  128兆円
       2010年  113兆円  2017年  133兆円
       2011年  111兆円
                      ――森本亮氏前掲書より
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 こういう借換債は、国の予算である一般会計には計上されないのです。借換債は、国
債整理基金特別会計で発行されるのです。この特別会計で処理されるものについては外
からは見えないので国民の目につきにくいのです。
 一般的に財政とか予算というのは一般会計のことです。一般会計は税金などを財源と
し、政府活動のなかの基本的な経費を賄っているのです。しかし、特別会計は、特定の
事業を含む場合や、特定の資金を保有して運用を行う場合、その他特定の歳入によって
特定の支出に充当し、一般の歳入歳出と区別して経理する必要のあるものに限って設け
られている会計です。
 例えば、市場に出る国債には、一般会計で発行される新規分と特別会計で発行される
借換債の両方があるのですが、市場参加者にはその区別はつきません。このように、国
債の新規発行と借換発行が会計によって区別されているのは日本だけなのです。
 この他、特別会計で発行されるものとしては、「蔵券」と呼ばれる財務省証券、「糧
券」と呼ばれる食糧証券、「為券」と呼ばれる外国為替資金証券などがあります。この
ように会計が2つあると会計が不透明になってしまうのです。
                       ・・・[財政危機は本当か/40]


     ≪画像および関連情報≫
      ・特別会計とは何か
       国の予算には、教育費や防衛費など政策経費を扱う一般会計
       のほかに、厚生保険特別会計や道路整備特別会計など全部で
       31の特別会計(特会)がある。特会は、国民の「受益と負
       担」との関係を分かりやすくし、弾力的かつ効率的に予算執
       行するのが本来の趣旨だ。しかし、実際には、31特会の予
       算規模はあわせて387兆円、特会同士の重複部分などを除
       いても207兆円にのぼり、例外のはずの特会が、一般会計
       の5倍近い規模に膨らんでいる。さらに、特会の収入のうち
       の47兆円は、一般会計からの繰り入れでまかなわれ、一般
       会計歳出の6割近くを使っている。―2005年度予算数値
       http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo151.htm

中曽根・竹下両氏

2008年10月23日

日銀と政府の不適切な関係(EJ第1799号)

 日本の一般会計予算で特徴的なことといえば、歳入と歳出が同じであることです。い
や、同じであるといういい方は正しくない――同じにしているというべきでしょう。
 人に聞いた話ですが、米国の予算においては歳入と歳出は違うのが普通なのだそうで
す。そして歳入の不足分があるときは「財政赤字」と明記されているそうです。これを
埋めるのは国債であり、こういう会計のやり方であれば、「国債は借金である」ことが
誰の目にも明らかであって、大変わかり易いのです。
 しかし、日本では「歳入の部」に「税収」と並んで「国債」の項目があるのです。こ
れはおかしな話です。国債は借金であるのに歳入の部――すなわち、収入の部に計上さ
れているからです。赤字が収入の部に計上されている――これは基本的におかしなこと
ですが、これが当たり前なこととして通っているところに日本財政の借金体質を見る思
いがします。当然のように毎年借金をしているという感じなのです。
 国債を償還するための借換債が100兆円ある――この事実を認識している国民は少
ないと思います。国民の感覚では毎年30兆円前後の赤字国債を発行せざるを得ないこ
とはわかっていてもその他に国債の償還のためにさらに100兆円以上のの国債発行を
しているとは思っていないでしょう。国債償還費が特別会計で処理されているため、国
民には見えにくいのです。
 日本は今後毎年100兆円以上の借換債に加えて30兆円前後の赤字国債を発行し続
けなくてはならないのです。それに道路建設などのための建設国債もそれに加わるので
す。こうなってくると、いかに日本は金融資産を持っているといっても安心はできない
といえます。長期金利の上昇が心配だからです。
 森本亮氏は、長期金利の上昇による債券クラッシュが起きる前に、カルロス・ゴーン
氏のような人が現われて、大なたを振るってくれることが大事であるとして、国債の両
刃の剣の怖さを知り抜いている福井日銀総裁に次のように期待をかけています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      福井総裁はかつて自分の立場を「両手を縛られてボクシングを
      するようなものだ」と語ったことがある。福井総裁は大学時代
      には、ハンドボール部の主将をつとめた方だけに、スポーツを
      見る目、万事に通ずるということか。とにかく、最後のデフレ
      ファイターである福井総裁が「両手を縛られたボクサー」から
      抜け出す道は、「忍耐と寛容」から脱皮して、国債は今や「世
      紀の愚策」であり、「両刃の剣」であることを堂々と口にする
      ことではなかろうか。
      ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より PHP研究所刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 その福井日銀総裁は、3月9日にコップ一杯の水でいい患者にバケツ一杯の水を与え
るに等しい量的緩和の解除を宣言して、既に縛られた縄を解いています。しかし、最近
の日銀のやっていることには、いささか懸念すべきことが多いのです。
 そのひとつは、日銀が2003年度から会計ルールを変更したことがあげられます。
ところで日銀、すなわち日本銀行は、れっきとした株式会社なのです。1960年に店
頭登録されており、1株の額面は100円、発行総額は1億円です。しかし、日銀株の
55%は財務大臣が保有していて、株主には議決権がなく、出資総会(一般の株主総会
)にも議決権はないのです。
 2003年まで日銀は保有国債の評価法について「低価法」という会計ルールを持っ
ていたのです。低価法とは、取得原価と期末時点での時価(時価とは期末時点での取得
に通常要する価額です)とを比較して、いずれか低い方の価額で債券を評価する方法で
す。つまり、低価法をとると、毎期評価損益を計上する必要があるのです。
 これに対して「原価法――償却原価法」とは、期末時点で保有する債券を取得原価で
評価する方法をいうのです。この場合、期末時点で保有する債券について、取得時から
値下がりしていたとしても、その値下がりについて損失を計上しなくていいのです。
 日銀としては、原価法を採用したことによって、市中銀行が保有している国債や株式
――本来やってはならないことを引き受け易くしたことは確かであり、そのための会計
ルールの変更であるといわれても反論はできないと思うのです。
 2005年12月現在、日銀の株価は14万6000円です。日銀株価の最高値は、
1988年12月の75万5000円でしたので、実に約80%ダウンしたことになり
ます。それに日銀の現在の自己資本比率は7.33%であり、8%を割り込んでいるの
です。どうして、こうなったのでしょうか。
 それは、日銀が財政法第5条で禁じられている「日銀による国債引き受け」をやって
いるからです。次の2004年12月2日付、日本経済新聞の記事を読んでください。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      政府・日銀は来年度以降の国債の大量償還に備えた協力体制を
      強化する。現在はオペなどで日銀が市中購入した国債が満期を
      迎えた際、政府が1年に限って短期国債を発行。日銀に引き受
      けてもらって現金償還を先延ばししているが、政府・日銀はこ
      の期間をもう1年延長する方向だ。過去に積み上がった国債の
      償還を段階的に進める狙い。ただ、例外的に認められる「日銀
      の国債引き受け」が拡大する懸念がある。
            ――2004年12月2日付、日本経済新聞より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日銀が保有する長期国債は、償還期が来たら現金で償還されるのがルールです。とこ
ろが日銀はそれをしないで、1年間の短期国債で借り換え、現金償還を1年延期したの
です。これは事実上の日銀による国債引き受けになります。上記の日経の記事はこの方
法が常態化することを懸念しているのです。なぜなら、そうなると、国債の相場が急落
するからです。それに2008年には長期国債の償還が激増するのです。・[財政危機
は本当か/41]


     ≪画像および関連情報≫
      ・財政法第5条
       「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受
       けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを
       借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合におい
       ては、国会の議決を経た金額の範囲内ではこの限りでない」
      ・財政法では、このように日銀国債の引き受けは禁じている。
       しかし、日銀の「乗り換え短期国債」の引き受けは例外規定
       に基づき、国会の議決を経て引き受け可能となっている。

福井日銀総裁

2008年10月24日

プライマリー・バランス論の抜け道(EJ第1800号)

 日本は諸外国に比べて文化的に名詞がたくさんある国です。そのため、ひとつのもの
をたくさんの固有名詞で表現することができます。かつて中曽根康弘氏が首相のとき、
選挙公約で「大型間接税」はやらないと訴えたのに、あとで「消費税」をやろうとしそ
れを批判されると、「消費税をやらないとは、一言もいってない」といって物議をかも
したことがあります。
 政治家や官僚は、このようなレトリックを頻繁に使うので、注意が肝要です。日本の
財政を調べていくと、随所に言葉のいい換えやレトリックによって、本当のことが巧み
に隠されているようなところがたくさんあります。
 1965年――この年の国会で赤字国債の発行が決まったのですが、そのとき、当時
社会党の木村禧八郎議員が徹底的に政府を追及しているのです。今の野党の国会質問と
は雲泥の差があるといってよいと思います。はじめての赤字国債を発行するのですから
、野党から厳しい追求のあるのは当然のことです。
 既に何度も述べているように、赤字国債の発行は法律上は認められていないのです。
そこで、毎年「特例国債法」という法律を制定して、赤字国債を発行しているのです。
 しかし、最近政治家や官僚は赤字国債を「特例公債」とか「特例国債」といい換えて
いるのです。この姿勢がいけないのです。あえて赤字国債といい続けるべきなのです。
なぜなら、「赤字」という言葉がそれが借金であることを忘れないようにする最後の歯
止めになるからです。
 この歯止めを失ってしまうと、そのうち財政法を改正して赤字国債を法的に発行でき
るようにする可能性すらあるのです。これでは、国債発行の最後の歯止めが外れてしま
うことになります。したがって、財政法は絶対に改正するべきではないのです。
 結局、財政に関して現在やらなければならないことは、やはりプライマリー・バラン
スの一日も早い均衡を実現することです。これについては既に政府は計画を推進してお
り、2011年度には、国・地方を合わせて黒字化するといっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        2003年度   −19兆6469億円
        2004年度   −19兆0214億円
        2005年度   −15兆9478億円(見通し)
        2006年度   −11兆2000億円(見通し)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 計画はここまでは一応順調に推移しているので、十分達成可能ですが、このプライマ
リー・バランスを均衡させる政策にはいくつかの抜け道があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.国債費が膨張する恐れがあること
          2.無駄な公共事業に歯止めかからず
          3.特別会計の隠れ借金を増やすこと
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1は、「国債費が膨張する恐れがあること」です。
 心配なのは長期金利が上昇し、金利が高止まりすることです。量的緩和政策は解除さ
れ、やがてゼロ金利も解除されることは確実です。そうなると、長期金利は上昇し、高
止まりすると、国債費が膨張する恐れが出てきます。この場合、名目GDP成長率が金
利を上回るペースで伸びればいいのですが、そうでないと、債務残高の増加に歯止めが
かからなくなります。
 第2は、「無駄な公共事業に歯止めかからず」です。
 プライマリー・バランスでは、国債費が外される一方で建設国債が対象外になってい
ます。つまり、プライマリー・バランスを悪化させないで、建築事業を継続できるので
す。そのため無駄な公共事業にメスが入らず、建設国債の発行に歯止めがかからなくな
る恐れがあるのです。これでは、プライマリー・バランスが改善する一方で国債残高は
増えていくことになります。
 第3は、「特別会計の隠れ借金を増やすこと」です。
 もともとプライマリー・バランス均衡の考え方は、財政構造改革法から出てきている
のですが、財政赤字削減目標のつじつまを合わせるために、一般会計のプライマリー・
バランスの均衡に目を向けさせ、特別会計において「隠れ借金」を増やしていくことを
黙認していたのです。あるいは当初予算だけがコントロールの対象となり、補正予算と
いう抜け道も許されているのです。
 3月16日の経済財政諮問会議では、長期金利と名目GDP成長率のいつもの大議論
が行われ、結局意見を集約することができなかったのです。次にまとめておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                長期金利   名目GDP成長率
        民間委員の意見   4%       3%前後
        竹中総務相意見 4%以下         4%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 はっきりしていることは、どちらの意見を基本ケースにするかで増税の幅が違ってく
るのです。結局複数のケースで検討することになったのです。要するに結論が出なかっ
たということです。
 いずれにしても増税は避けられそうはありませんが、日本の税制にはいろいろな問題
があるのです。増税をするのであれば、税制の問題点を是正してから行うべきです。
 プライマリー・バランスの黒字化には、、歳入増と歳出減の裏付けが必要です。森本
亮氏は次のようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      私にいわせると、これから大切なことは官業の不良債権処理と
      官のリストラ問題だ。アレシナ米ハーバード大学教授らの研究
      によると、先進国の財政再建は歳出削減七、増税三と指摘して
      いる。歳出削減をおろそかにして大増税の税金地獄では失敗に
      終わる例が多いのである。
      ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より PHP研究所刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                       ・・・[財政危機は本当か/42]


     ≪画像および関連情報≫
      ・プライマリー・バランスとは
       ―――――――――――――――――――――――――――
       国などの財政状況を示す。国債などの借金を除いた歳入と、
       過去の借金の元利払いを除く歳出を比較する。歳出の方が多
       ければ赤字となり、将来の借金負担が経済規模に比べ増大す
       ることになる。黒字になれば、新たな借金は過去の借金返済
       に充てられるため、財政が健全であることを示す。政府は歳
       出削減などで、2010年代初頭の黒字を目指している。
          http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yougo/000338.htm
       ―――――――――――――――――――――――――――

2004年度一般会計/国

2008年10月27日

日本経済の潜在成長率は2%程度(EJ第1801号)

 森本亮氏の本を含む多くの国家破綻本に共通していることがひとつあります。それは
、日本の国家破綻の時期が2008年であると予測している点です。このことは「20
08年問題」として巷でもいわれていることでもあります。その根拠とされていること
は、次の3つです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.団塊の世代がちょうど定年を迎え、年金負担が急増する
      2.ビルやマンションが供給過剰になり資産デフレが起きる
      3.小渕政権時代に発行した長期国債の償還時期に該当する
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 2005年の衆議院総選挙で自民党が圧勝した9月13日のことですが、谷垣財務大
臣が定率減税の廃止と消費税増税について発言し、大方のひんしゅくを買っています。
選挙中自民党と公明党は「いわゆるサラリーマン増税はしない」と訴えていただけに財
務大臣が国民の反発がくるのを承知しながら、なぜこの時期にあえて増税発言をしたか
――おそらく財務相の頭に2008年問題があったからと考えるのが自然であると思い
ます。
 この谷垣財務相を抵抗勢力として竹中総務相と中川自民党政調会長が批判しています
。中川政調会長は、増税の前に歳出削減が先であるとして、公務員宿舎などの国有財産
の実態を記者団を連れて視察するというパフォーマンスを行っています。竹中総務相も
同様の発言を繰り返しています。
 また、竹中総務相は、経済財政諮問会議において、財務省寄りの与謝野経財相や民間
議員に対して、名目GDP成長率は長期金利を上回る4%は見込めると強硬に発言し、
いかにも増税反対の旗手のように振る舞っています。
 しかし、これらの行動を冷静に見ると、事前に練り上げられたシナリオがあって、そ
れに沿ってそれぞれの役割を演じているように思えるのです。最終的に大増税と消費税
率引き上げは同時に行われることになっていて、中川・竹中両氏の言動は、国民の不満
が爆発しないように押さえ込む一種のガス抜きであると考えてよいと思うのです。
 森本亮氏の分析によると、日本は必然的に重税国家になると予測しています。その根
拠は、日本の潜在成長率が2%程度まで落ち込んでいることを上げています。
 この潜在成長率とは何でしょうか。
 潜在成長率とは、国全体の労働力、資本設備など生産活動に必要な要素をすべて使っ
た場合に達成可能な成長率のことです。実質成長率、名目成長率、それに潜在成長率と
実にややこしい話ですが、潜在成長率は実質成長率や名目成長率を生み出す基盤と考え
てよいと思います。
 竹中大臣の口グセですが、日本経済は低く見積もっても2%後半から3%程度の実質
成長率を達成できる潜在的可能性を持っているが、その潜在成長率を高めるのが構造改
革である――この考え方は違っていないのですが、その構造改革自体が、現状何らうま
くいっていないから問題なのです。
 第一生命経済研究所の門倉貴史氏のレポートによると、ニートの増加が、直接的には
投入される労働量を減少させることによって、潜在成長率の下押し要因になること。さ
らに、労働投入量が減ると、資本の投入量も影響を受け、ニートの増加は間接的に資本
の投入量を押し下げることを指摘しています。
 門倉貴史氏は、日本の潜在成長率は、ニートの影響を考慮しない場合でも、労働不足
などにより中長期的に低下するとして、以下の予測をしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         2000〜2005 ・・・ 1.72%
         2006〜2010 ・・・ 1.48%
         2011〜2015 ・・・ 1.26%
         2016〜2020 ・・・ 1.06%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 かつて高度成長期には、日本の潜在成長率は10%を超えていたのです。それが今や
ダウンする一方です。それが石油危機のあとは5%になり、現在では2%――門倉レポ
ートでは2%以下になっている――そのくらいしかないのです。
 そうであるからこそ、竹中氏は名目成長率こだわるのです。なぜなら、名目成長率は
物価上昇率を加えているからです。それに名目成長率は所得税や法人税と相関が高く、
税収に密接に関係しているのです。実質GDPが増加しなくても名目GDPが増加すれ
ば税収は増加することになります。わかりやすくいうと、インフレが起これば実質的に
税収は増加するのです。
 しかし、世界規模で見ると、世界的にデフレ基調であり、景気が好調な中国、インド
、米国でもインフレ率は高くなっておらずこんななかにおいて、日本だけインフレを起
こすことは現実的なことではないのです。
 森本氏は上記の理由により、日本の名目成長率は高く見積もっても2%程度と予測し
ています。森本氏はここで「税収の予測弾性値」という考え方を持ってきます。税収の
予測弾性値というのは、GDPが1%増加するとき、税収は何%増加するかをあらわす
数値です。森本氏はこれを「1」と想定しています。
 これによると、GDPが2%伸びたときの税収の増加率は「2%×1.0=2%」と
なります。日本の税収はGDPの約10%ですから、GDPが2%増加したときの税収
増は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       500兆円×10%=50兆円 GDPが2%増えると
       50兆円×2%=1兆円 → 税収増加分
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうでしょう。現在の税制のもとでは、自然増収は今後好況が続いても、せいぜい1
兆円しか見込めないのです。これではプライマリー・バランスを黒字化の実現とその継
続などできるはずがないのです。       ・・・[財政危機は本当か/43]


     ≪画像および関連情報≫
      ・潜在成長率とは何か
       潜在成長率とは、国内総生産(GDP)を生み出すのに必要
       な供給能力を毎年どれだけ増やせるかを示す指標。労働力、
       資本設備など生産活動に必要な要素をすべて使った場合に達
       成可能な成長率。GDPは、個人消費や設備投資といった需
       要項目から捉えるのが一般的だが、これは需要サイドからみ
       たGDPであり、それに対して労働力や資本ストック(これ
       らを生産要素という)から、一国の供給能力を測ったものが
       潜在GDPである。
       http://kw.allabout.co.jp/glossary/g_politics/w007661.htm

門倉貴史氏

2008年10月28日

サラリーマンはなぜ怒らないのか(EJ第1802号)

 ブログEJの読者から次のコメントをいただいたので、ご紹介し、そのことに関連し
て述べることにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      いつも勉強させてもらっています。
      色々読ませていただきまして、少し疑問に思うことがございま
      したのでコメントさせていただきます。今までの正社員サラリ
      ーマン層が派遣社員、パートなどに置き換わってきているのが
      今の日本だと思うのですが、なぜ政府はこれからの日本を引っ
      張っていくこれらの層に対して、増税を行っていくのでしょう
      か?そしてなぜ、それらの層と反対側にいる恵まれた層には減
      税を行うのでしょうか?私には理解できませんので、ぜひ、見
      解をお聞かせ願いたいのですが。
           ――  Posted by てつを at 2006年03月21日 10:02
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本の税制が不公平税制であるとよくいわれます。不公平税制を一言でいうと、徴税
しにくい層から徴税する努力をしないで、徴税しやすい層から取ろうとする点です。
 現在、所得のある就業人口は約6400万人といわれます。その内訳は次のようにな
っています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                   就業人口  税金未払い者
        サラリーマン   4500万人   700万人
        農業従事者     300万人   250万人
        個人事業主    1300万人   300万人
        フリーターなど   300万人   300万人
        ―――――――――――――――――――――――
                 6400万人  1550万人
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 驚くなかれ、就業人口の24%が税金を払っていないのです。確かに制度上税金を払
わなくてもよい層もあります。しかし、支払わなければいけないのに支払わないケース
も多いのです。そういういわば取りにくい層から税金を徴収するのは税務署の仕事のは
ずですが、ほとんど徴収できていない現状があります。
 フリーターの中にはかなりの高額所得者もいるのです。しかし多くの場合、彼らには
国民の義務として税金を収めようという精神に欠けており、税金を払っていないのです
。国民年金保険料の払わないケースと同じです。
 つまり、こういうことになります。税を徴収する立場から見ると、全就業人口の70
%以上を占めるサラリーマン層が最も所得を捕捉しやすく、徴税しやすいのです。
 したがって、所得を捕捉しにくい層や、納税義務のあるのに支払わない層はそのまま
にしておいて、取り易いサラリーマンから取れるだけ取る――こういう不合理な徴税方
式になってしまうわけです。
 もう既に死語になっていますが、むかし税金に関して、「クロヨン/9・6・4」と
いう言葉があったのです。この9・6・4は次のように対応するのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       9 → 所得の90%を税務署に捕捉 ・・ 給与所得者
       6 → 所得の60%を税務署に捕捉 ・・  自営業者
       4 → 所得の40%を税務署に捕捉 ・・ 農業従事者
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 もうひとつ「トーゴーサンピン/10・5・3・1」という言葉もあります。10は
サラリーマン、5は自営業者、3は農業従事者です。それでは1は何かといえば政治家
なのです。
 これに関して、国家破綻説の元祖といわれる副島隆彦氏は著書で次のように述べてい
ます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      実は、この「クロヨン」とか「トーゴーサンピン」という税金
      の不平、不平等を言いつのるコトバを世の中に流行らせている
      のは、国税庁自身である。サラリーマンたちの不満を、自営業
      者や経営者にぶつけて、妬み、嫉妬の感情を煽り立てて、税金
      を取りやすくするための国税庁の策略である。
               ――副島隆彦著、『重税国家日本の奈落/
             金融ファシズムが国民を襲う』より。祥伝社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 サラリーマンは源泉徴収されてしまうので、所得はほぼ100%捕捉されることにな
ります。したがって、他の所得者との不公平を是正するために、サラリーマンには「給
与所得控除」が認められてきたのです。これにより、所得から約30%が控除されてい
るのです。ところが今回の政府税調の「論点整理」には次のようなことが書いてあるの
です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      給与所得者であることを理由に、所得の計算に特別な斟酌を行
      う必要性は乏しくなって来ている。
                     ――政府税調の「論点整理」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに基づき、給与所得控除の見直し論が打ち出されているのです。つまりこれは、
今までサラリーマンにはお上のお情けで3割控除を認めてやってきたが、今は国家財政
の非常事態であり、そんな特別待遇をする理由も必要もない――こういっているのと同
じです。
 日本の国家財政をここまで貶めたのは、財務省を中心とする官僚機構です。自分たち
の失敗を棚に上げて、そもそも不公平税制を是正するために設けられている給与所得控
除を見直すとはとんでもない暴論です。
 給与所得控除を廃止するなら、財務省はサラリーマンに対する源泉徴収制度を廃止し
、確定申告制にすべきです。これが実施されたら一番困るのは財務省です。4500万
人が全員申告制になると、税務署がパンクするからです。
                       ・・・[財政危機は本当か/44]


     ≪画像および関連情報≫
      ・サラリーマンは全員確定申告すべし
       ―――――――――――――――――――――――――――
       約4500万人のサラリーマン全員が確定申告したらどうな
       るだろう。各人が経費として認められる「特定支出控除」の
       対象項目を拡充して申告したら、税務署はパンクしてしまう
       はずだ。   ――森本亮著『日本国破産に最終警告』より
                           PHP研究所刊
       ―――――――――――――――――――――――――――

政府税調/石会長

2008年10月29日

大増税の仕掛け人は誰か(EJ第1803号)

 財務省がどのように考えているか――副島隆彦氏の本を参考にして、財務省の狙いを
まとめておきます。2004年度の一般会計の数値を例にとります。
 2004年度の国の歳入は84兆円ですが、税収は45兆円しかないので、新規の国
債発行は39兆円です。この39兆円の内訳は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         国債費 ・・・・・・・・・・・・ 19兆円
         プライマリーバランスの赤字 ・・ 20兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 プライマリーバランスを均衡させるには、20兆円を何とか集める必要があります。
財務省はそれを増税によって埋めるつもりでいるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         消費税率引き上げ ・・・・・ プラス10兆円
         サラリーマン増税 ・・・・・ プラス10兆円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そうすると、赤字20兆円はなくなり、プライマリーバランスは均衡することになり
ます。このために、消費税は10%以上にせざるを得ないと財務省は主張するのです。
しかし、この計算は歳出の削減を考慮に入れず、増税だけでプライマリーバランスを均
衡化させる計画です。
 それにしても、この増税計画は常軌を逸しています。政府税調のいうように計算する
と、年収700万円のサラリーマンは、次のように41万円の増税になります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         所得税 ・・・・・・・・・ 21万3000円
         住民税 ・・・・・・・・・ 19万7000円
         ――――――――――――――――――――――
                       41万0000円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この計算は、給与所得控除と特定扶養控除は半減、配偶者控除はゼロにして算出して
いるのですが、石会長のいうように、基礎控除や扶養控除も削減されると税額はもっと
大きくなります。これに消費税が10%以上になり、もしかすると同時に実施される恐
れがあるのです。
 1997年の橋本政権下における消費税の税率引き上げのさいの国民負担額は9兆円
――このときの名目GDP521兆円との対比で見ると1.7%、当時の雇用者報酬は
280兆円であったので、9兆円はその3.2%に相当したのです。この負担はきわめ
て重く、市場の株売りを招き、株価の暴落と金融恐慌を引き起こしているのです。
 これと2004年度と比較してみると、名目GDPは521兆円から501兆円に減
少、雇用者報酬も280兆円から265兆円へと、ともに約20兆円減少しているので
す。しかし、増税額は9兆円から11.3兆円に増加し、国民負担は増加する傾向にあ
るのです。つまり、所得が減っているのに、国民は1997年以上の大増税に追い込ま
れようとしているのです。
 新聞記者が、石会長の「論点整理」に関して、あまりにもサラリーマンいじめではな
いか、サラリーマンに対して会長はどう説明するのかと問い正したところ、石会長は次
のように答えているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      これから国民が全体としてこの国をどう支えるかという議論か
      らいいますと、サラリーマンが核にならなかったら絶対にでき
      ないですよ。サラリーマンというのは、就業者の8割を占めて
      います。・・・誰にやってもらうかと言ったら、サラリーマン
      の方々にみんなで頑張ってもらうほかないんじゃないですか。
      というメッセージを送りたいと思いますけれども。
           ――2005.6.21の政府税調石会長談話より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 勝手な言い分であると思います。しかし、石会長のこの発言は与党の間でもさすがに
マズイと考えた人が多かったようです。自民党はその後必死に石発言の火消しをしたの
ですが、7月3日の都議選では民主党に敗退しています。
 自民党税調でも政府税調の石発言については次のように反対を表明しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      政府税調は、『所得税に増税の余地がある』という前提だが、
      まったく賛成できない。所得税課税を増税するかのような議論
      は党税調として受け入れることはできない。
         ――2005.7.1/津島雄二・自民党税制調査会長
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、日本は確かに財政赤字は抱えていますが、巨額の貿易黒字を持つ国であり、
対外債権国なのです。それなのにどうしてここまで追い詰められてしまったのでしょう
か。
 副島隆彦氏は、「サラリーマン大増税」について、次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      「サラリーマン大増税」の大本営発表は、日本の財務省にして
      みても、国民いじめの大悪政であることはわかっている。今で
      も重税にあえいでいるサラリーマン層から、さらに税金を年額
      で40万円も搾り取ろうというのである。しかも消費税を最低
      15%とかに引き上げることも同時にやろうとしている。こん
      なめちゃくちゃな大増税を国民に押しつけることは、まともな
      神経をしていたら、為政者としてできることではない。
               ――副島隆彦著、『重税国家日本の奈落/
             金融ファシズムが国民を襲う』より。祥伝社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 バックに何かがいるのです。          ・・[財政危機は本当か/45]


     ≪画像および関連情報≫
      ・『重税国家日本の奈落』について
       この本では、「誰も竹中平蔵大臣には逆らえない。なぜなら
       彼のバックには、アメリカのロックフェラーがついているか
       ら」という実態が明らかにされています。既に日本長期信用
       銀行(現・新生銀行)に8兆円もの税金をつぎ込んだあげく
       わずか10億円で外資に売り渡した“実績”を持つ竹中大臣
       です。そこにはアメリカの強力な「支持」と「指示」があっ
       たことは明白です。
       http://www.h2.dion.ne.jp/~apo.2012/bookstand-juzeikokka.html

副島隆彦氏

2008年10月30日

日本政府を支配する米国政府(EJ第1804号)

 日本のバックに何がいるのかといったら、米国しかいないのです。日本国内の政治・
経済などの分析をするとき、確かに日米関係を抜きにしては論ずることはできないと思
います。
 政治評論家の森田実氏は、戦後日本の歴史は次の4期に分けることができるといって
います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       第1期 占領時代 ・・・・・・ 1945〜1952
       第2期 半自立時代 ・・・・・ 1953〜1982
       第3期 半自立崩壊時代 ・・・ 1983〜1995
       第4期 従属時代 ・・・・・・ 1996〜2005
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の占領時代――米国としてはもっと長くする計画であったのですが、朝鮮戦争が
起こって方針が変更されたのです。日本に再軍備させ、米国の尖兵として使おうと考え
たのです。しかし、吉田首相はこれに反対し、再軍備は実現できなかったのです。日本
は平和主義を国是として新憲法のもとで独立国として生きる方向に一歩を踏み出したの
です。
 第2期の半自立時代――この時代は、2つの路線の対立があったのです。1つの路線
は、米国との軍事的従属関係を緩和して自立を目指す路線です。代表的な内閣は、池田
隼人、田中角栄の両内閣です。もう1つの路線は、従米路線をとった岸内閣です。
 これら2つの路線の争いは岸内閣が勝利し、中曽根内閣がその路線を引き継いだので
す。いや、中曽根内閣を仕掛けたのは当時のレーガン政権だったといわれます。これに
よって、日本国の自立路線は崩れたのです。
 第3期の半自立崩壊時代――第3期は中曽根内閣登場から村山内閣退陣まで続くので
すが、この時期日本は、米国の世界戦略と対日戦略に乗せられて米国の利益のために働
くようになったのです。しかし、唯一の例外は細川内閣です。この内閣は国の自立を目
指したため、米国政府から嫌われ、追われたのです。
 第4期の従属時代――橋本内閣から現在の小泉内閣までです。
森田氏は、この間に日本は米国の好みの方向に「改造」させられたといっています。橋
本・小渕・森内閣については「穏健な」従米主義だったのですが、小泉内閣になって「
過激な」従米主義になってしまっています。
 ここに一冊の本があります。森田氏が日本人ならぜひ読むよう推奨している本です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      関岡英之著/文春新書
      『拒否できない日本――アメリカの日本改造が進んでいる』
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この本は「米国政府の日本政府に対する年次改革要望書」というものがあることを教
えてくれます。この年次改革要望書は表面上は「要望」のかたちをとっていますが、実
際は米国政府の日本政府に対する「指令」なのです。とくに1994年から今日に至る
日本の経済政策である構造改革は、この指令書に沿って行われてきたことを明かしてい
ます。
 こういう文書の存在は、日本の政治、外交、安全保障、経済政策、社会政策のすべて
が米国政府のコントロール下に置かれていることの証明である――このように森田氏は
述べているのです。
 この年次改革要望書について政府に質問した国会議員は与党・野党を含めてかなりた
くさんいます。森田氏が多くの国会議員にこの本を読むことを勧めたからです。
 しかし、これに対して小泉首相はのらりくらりとまともに答えようとはしなかったの
です。しかし、これらの質問は無視されたわけではなかったのです。それは、2005
年9月11日の衆議院総選挙のあと、とくにこの問題に熱心だった前衆議院議員から森
田氏に次のような電話があったことで明らかです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      森田さん、国会で年次改革要望書を総理に質問した衆議院議員
      は、ほとんど落選しました。年次改革要望書を取り上げた議員
      が狙い打ちにされたような気が私はするのです。「年次改革要
      望書隠し」が徹底的に行われたような気がするのです。
        ――森田実著、『小泉政治全面批判』より。日本評論社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 それだけではないのです。年次改革要望書問題を取り上げた学者、ジャーナリスト、
評論家などにもテレビ出演のお呼びがかからなくなったというのです。そして、現在で
は、テレビの政治番組では、この問題を取り上げるところは皆無になってしまっている
のです。
 副島隆彦氏も年次改革要望書については具体的に取り上げています。この年次改革要
望書が出現したのは1994年のことであり、それから今日まで、「規制緩和」の名の
下で次のような法律が改正され、制度の大幅な手直しが行われたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.持株会社の解禁 ・・・・・・・・・ 1997年
       2.NTTの分離・分割 ・・・・・・・ 1997年
       3.金融監督庁の設置 ・・・・・・・・ 1997年
       4.企業における時価会計の導入 ・・・ 2000年
       5.大規模小売店舗法の廃止 ・・・・・ 2000年
       6.確定拠出年金制度の導入 ・・・・・ 2001年
       7.法科大学院の設置 ・・・・・・・・ 2004年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ちなみに2004年10月発表の年次改革要望書に「郵政民営化」もはっきりと盛り
込まれているのです。日本政府はこれらの要望をきちんとこなしてきていることになり
ます。
 今回の大増税についてもそのにバックには米国の意思が存在するといわれています。
「日本は米国の51番目の州である」とはよくいわれることばです。われわれは、今後
のことを含めて日米関係について正確に認識すべきです。
                       ・・・[財政危機は本当か/46]


     ≪画像および関連情報≫
      ・落選した城内実前自民党衆議院議員のブログより
       ―――――――――――――――――――――――――――
       みなさんは、前に紹介した月刊文藝春秋12月号の関岡英之
       氏の論文「警告リポート奪われる日本」をお読みになったで
       しょうか。この論文は、郵政民営化の背後に米国保険業界の
       意向を受けた米国政府からの圧力があることを指摘したもの
       で、なかなか内容の濃い読み応えのある話題の論文です。そ
       の関岡氏ですが、同じ月刊文藝春秋1月号に再び寄稿されま
       した。「TVで暴言を吐いた竹中大臣へ」というタイトルの
       ものです。時間がありましたら、是非読んでいただきたいと
       思います。
       http://www.kiuchiminoru.com/blog/2005/12/post_3.html
       ―――――――――――――――――――――――――――

関岡英之氏の本

2008年10月31日

日本は金持ちなのか貧乏なのか(EJ第1805号)

 46回にわたって続けてきた「日本は破綻危機なのか」は今回で終了します。
 3月25日の朝刊のトップに、2005年末の国の債務残高が800兆円を超えたと
いう記事が出ていました。勘違いしないでいただきたいのは、国債の残高が800兆円
を超えたのではないことです。しかし、見出しだけを見ると、国債の残高が800兆円
を超えたと勘違いしてしまう人も出てくると思います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        未償還の国債残高 ・・・ 663兆7743億円
        借入金 ・・・・・・・・  59兆3494億円
        政府短期証券 ・・・・・  90兆0593億円
        ―――――――――――――――――――――――
                     813兆1830億円
                        ――財務省発表
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 実は同じ25日には、2005年末の個人金融資産残高が1500兆円を突破したと
いう明るいニュースがあるのです。ところが国の借金が増えたニュースは第1面で大き
く扱い、個人金融資産増加のニュースは他の面で扱うか、ニュースそのものを載せてい
ない新聞もあったのです。
 借金を大きく見せて、資産を小さく扱う――新聞まで財務省に協力しているのでしょ
うか。ちなみに国の債務残高のニュースは財務省の速報、個人金融資産のそれは日本銀
行の速報です。
 日本の個人金融資産といえば1400兆円台ということで相場が決まっていたのです
が、それが前年末よりも5.6%増えて、1509兆円になったのですから大きなニュ
ースであり、このことは日本経済にとっては明るいニュースといえます。
 景気回復で所得が増えたことに加え、株価や投資信託の価格上昇が残高を押し上げた
結果なのです。このまま景気上昇が続くと個人金融資産は今後大きく伸びていくことが
期待されます。
 個人の金融資産は、1990年度に1000兆円を突破し、その後順調に伸びたので
すが、2001年末に株価低迷などで前年末比で減少に転じ、2003年末から景気回
復に伴って再び上昇に転じていたのです。
 個人金融資産が1500兆円であるということは、主要先進国で米国に次ぐ第2位で
あり、大変なことなのです。しかし、その中身を見ると、「貯蓄から投資へ」という流
れが顕著であり、この傾向は今後ますます強まると考えられます。
 これは一面において危険な兆候でもあるのです。貯蓄離れが進み、投資へのシフトが
加速すると、国債の中心的な引き受け手がいなくなるからです。これによる国債価格の
暴落(長期金利の上昇)もあり得るからです。
 さて、この個人金融資産1500兆円――およそ実感の持てない数字だとは思いませ
んか。
 それは、「個人金融資産」の日銀の定義が問題なのです。まず誰でも資産と考える不
動産などの実物資産は入らないのです。逆に資産とは考えないものが含まれます。最も
金額が多いのは年金準備金――これが150兆円以上あります。また、企業年金の運用
資産相当額も含まれるのです。
 このほか、個人事業者の事業用資産が含まれています。法人でなければ預貯金などの
名義はすべて個人となるからです。また、未収・未払い金――まだもらっていない預金
利息なども個人金融資産に含まれているのです。
 しかし、富裕層向けの営業に力を入れる金融機関の関係者によると、1500兆円の
個人金融資産には実感があるといっているのです。メリルリンチ日本証券は、日本の個
人金融資産について次のように推計しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      日本の個人金融資産は人口上位1%の126万人が全体の30
      %の440兆円を保有している。1人平均では3億5000万
      円。上場企業のオーナー経営者の自社株保有額は上位500人
      で計7兆円(1人平均140億円)に上がるという。
             http://be.asahi.com/20041016/W13/0044.html
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 また、米系のハートフォード生命保険の関係者によると、現役を引退した高齢者の持
つ金融資産だけで、ゆうに600兆円近くあり、それが使われずに眠っているといって
いるのです。ハートフォード生命保険は、2000年に日本で営業を開始して、3年半
で変額個人年金保険の預かり資産が1兆円を超えたというのです。顧客は10万〜12
万人、契約1件当りの平均保険料は、約800万円――すべて現金一括払いであるとい
うのです。
 このように見ていくと、日本には一部に途方もない大金持ちが存在し、それらの資金
が有効に使われていない実態が見えてくるのです。何しろ実態に近いといわれる家計調
査との差が500兆円もあるというのですから驚きです。
 47回にわたって財政を中心に日本経済を調べてきたのですが何かすっきりしないも
のが残ります。なぜなら、米国に次ぐ世界第2位の経済大国である日本の台所事情が火
の車に近いというのはどういうわけなのでしょうか。何かわれわれの知らないウラに途
方もないカラクリが隠されているのではないでしょうか。
 森本亮氏の本に次のようなことが書いてあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      日本の外貨準備90兆円のうち73兆円の米国国債はニューヨ
      ーク連銀金庫に保管され、事実上の資産凍結となっている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日本は米国の意のままに米国国債を引き受けており、莫大な米国国債を抱え込んでい
る――ブッシュ政権はその資金で減税をしているのです。しかも、その国債のほとんど
はニューヨーク連銀の金庫に保管され、日本は意のままに使えないのです。日本と米国
はそういう関係なのです。           ・・・[財政危機は本当か/47]


     ≪画像および関連情報≫
      ・読売新聞/YOMIURI ONLINE
       ―――――――――――――――――――――――――――
       日本銀行が24日発表した資金循環統計で、昨年12月末の
       個人金融資産が1500兆円の大台を突破した。景気回復を
       背景に、家計が貯蓄を株などへの投資に振り向け始めた。企
       業の負債(借金)は1997年に調査を始めて以来、初めて
       増加に転じた。負債を減らし続けてきた企業も、借金をして
       設備投資をする攻めの経営に転じ、デフレ経済で停滞してい
       たお金が前向きに動き出している。(五十棲 忠史)
       http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20060327mh06.htm
       ―――――――――――――――――――――――――――

谷垣財務相

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