INTEC JAPAN/BLOG

このブログは、異文化研修の教育機関(株)インテック・ジャパンの情報発信用です。(株)イー・メディアとの提携により、同社のドキュメント・レポート「Electronic Journal」をウィークデイの毎日お届けします。
「Electronic Journal」は様々な情報を400字詰原稿用紙7枚にまとめて配信する日刊メールマガジンです。

トップ カテゴリー:タイムマシン

2006年06月21日

「相対性理論とタイムマシン」(EJ第1138号)

 いま「タイムマシン」が静かなブームになっているのをご存知
でしょうか。なぜか、タイムマシンなのです。特設コーナができ
ている書店もあります。
 実は今から30年ほど前、タイムマシンのブームがあり、当時
「広瀬 正」という作家の本が売れていました。彼は、過去への
タイムトラベルを取り上げて小説にしているのですが、読み終わ
ると????になってしまったものです。
 最後に彼は『タイムマシンの作り方』という本を上梓して、急
逝してしまうのですが、彼の棺には「タイムマシン」と書かれて
いたそうです。添付ファイルで広瀬正氏と彼の本をご紹介してお
きます。1973年の出版です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   広瀬 正著
   『タイムマシンのつくり方』 河出書房新社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この手のタイムトラベルSF作家として優れた作品を残した人
に、ハインライン、ウェルズ、フレッド・ホイルがいますが、広
瀬もその中に入る優れたタイムトラベルSF作家だと思います。
 もうひとつ――先日映画「マトリックス/リローデッド」を観
たのですが、前回に引き続いて「マトリックス」という空間に興
味を持ちました。この空間は一体何でしょうか。直接タイムマシ
ンには関係はありませんが、何か共通するような、ぞくぞくする
ものを感じます。
 そういうわけで、これからしばらく「タイムマシン」をテーマ
に取り上げてみたいと思うのです。しかし、このテーマは、時間
論、時空論に深く関連し、ともすると話が哲学的になりやすいの
で、そのあたりに注意して、やさしい記述に努めますので、しば
らくお付き合いください。
 「タイムマシン」とは一体何でしょうか。
 この答えは意外に簡単なのです。人間が乗れて、光に近い速度
で進むか、光を超える速度で進むマシン――それがタイムマシン
なのです。
 光に近い速度か光を超える速度かは、タイムマシンの性能に次
のように関係してくるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   光に近い 速度 ・・・ 未来に行けるタイムマシン
   光を超える速度 ・・・ 過去に行けるタイムマシン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 タイムマシンの問題には、アインシュタインの相対性理論が深
く関与してきます。相対性理論をごくごく簡単にいってしまいう
と、次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    相対的に速く動いている物体の時間は遅く進む
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 地球から、光速ロケットが宇宙に飛び出したとします。この場
合、光速ロケットの中の時間は、地球にいる人に比べて遅く進む
ということです。
 この場合、その光速ロケットから地球を見ると、ロケットは静
止し、地球が光速で遠ざかっているように見えます。そうである
とすると、地球の時間の方が遅く進むのです。相対的というので
すから、そういうことになります。
 ところで、相対性理論には「加速度」を考える、考えないで次
の2つがあるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    加速度を考える ・・・ 一般相対性理論
    加速度考えない ・・・ 特殊相対性理論
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この場合、加速度が変化すると、変化した側の時間が遅く進む
のです。例えば、光速ロケットが地球を飛び出し、途中で反転し
て戻ってきたとします。帰ってくるために反転したロケットは、
加速度が変化しているので、光速ロケットの時間は遅く進むこと
になります。要するに、物体を動かして、それをまた本本の位置
に戻せば戻った方の時間が遅く進むのです。
 しかし、あのアイザック・ニュートンの時間のとらえ方は違う
のです。彼は時間について次のようにいっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 絶対的な、真の、数学的な時間は、外部の何ものにも影響を
 受けず、一様に流れる       ―――――ニュートン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 一般の人の時間の観念は、このニートンの考え方に近いと思い
ます。時間というものは、どこにいても万人にとって等しく流れ
るはずのもの――そう考をえています。
 確かに心理的には、時間はときにより長かったり、短かったり
しますが、あくまで時間は時間であり、何をしようとどこにいよ
うと、時間は絶対的、普遍的なものであると考えています。これ
に異を唱える人はいないはずです。
 しかし、この考え方は間違っているのです。それを指摘したの
がアインシュタインの相対性理論なのです。つまり、アインシュ
タインは、時間と空間に関するニュートンの考え方を否定したこ
とになります。
 この相対性理論が発表されたのは1905年のことですから、
そろそろ一世紀が経過しようとしています。この長い時間の間に
相対性理論はあらゆる角度から世界中の物理学者が検証しており
正しいことを認めています。
 時間は相対的であり、普遍的な「今」をともなう絶対時間の常
識的な観念は虚構である――このことを多くの物理学者は認めて
います。しかし、あなたはどうでしたか。時間をどのように考え
ていたでしょうか。         −−[タイムマシン01]

広瀬 正/タイムマシンのつくり方.JPG

2006年06月22日

動いている側の時間は遅く進む(EJ第1139号)

 昨日のEJで、理論上未来に行けるタイムマシンをつくるには
そのマシンは、できる限り光に近い速度を出す必要があることを
指摘しました。
 これに関して、1971年に2人の物理学者が行ったある実験
があるのです。2人の物理学者の名前は、ジョー・ハーフェルと
リチャード・キーティングです。
 彼らはどのような実験を行なったのでしょうか。
 精巧な原子時計を2台用意して、一つは地上のある場所に置き
もう一台は飛行機の中に設置したのです。それから、原子時計を
積んだ飛行機は世界一周旅行に出発します。そして、飛行機が元
の空港に戻ってきてから、飛行機内の時計と地上のある場所に置
いてある時計とを比較したのです。
 その結果は、飛行機内の時計の方が、地上のある場所の時計よ
りもあきらかに遅く進んだことがわかったのです。正確にいうと
飛行機内の時計は、地上のある場所の時計よりも相対的に「59
ナノ秒」遅れていたのです。
 ちなみに、1ナノ秒とは、10億分の1秒のことです。ほんの
わずかな差ですが、この価は、アインシュタインの理論が予測し
た大きさと一致したのです。アインシュタインの予測した数値と
は、「時間の遅れ因子」というのです。それは、ある速さを光速
で割り、2乗し、1からその価を引く。そして差の平方根をとっ
た値なのですが、こんなことはわからなくてもいいのです。
 それよりもその僅かの差――これは大変なことを意味している
のです。差が僅かであるのは、動き回るのが飛行機であったため
であり、もし、光速に近いロケットで同じ実験を行なった場合は
非常に大きな差となってくるからです。
 これをもう少し分かりやすくするために、別な状況を考えてみ
ることにします。光速ロケットに乗っているAと、地球にいるB
がいると仮定します。
 光速ロケットの中に一枚の鏡とひとつの光源があるとし、A、
B両方の人がそれを見られる状況にいると仮定します。この状態
で、光速ロケットは静止しているとします。鏡と光源の間の距離
をDとします。
 この状態で光源から光が発せられたとします。その光は、鏡に
反射して戻ってきます。光の進んだ距離は往復ですから、Dの2
倍になります。これは当然ですね、光速ロケットにいるAから見
ても、地球にいるBから見てもDの2倍です。
 しかし、これは光速ロケットが静止しているからなのです。光
速ロケットが動き出すと、Dの2倍ではなくなるのです。もし、
Bが動いている光速ロケットの中の鏡と光源が見られるとしたら
それは、Dの2倍よりも長く見えてしまうことになります。
 仮に光速ロケットが左に移動したとします。この場合、ロケッ
トの中にいるAには、ロケットが静止しているときと同じように
Dの2倍に見えます。それは、Aを含めてロケットの中のものは
ロケットと一緒に左に移動しているからです。
 しかし、ロケットの外にいるBにとっては、光の進んだ距離が
変わってしまうように見えます。ロケットは左に移動しています
から、光源から発せられた光は鏡を目標に進むのですが、光が鏡
に到達する前に鏡は左に移動するので、それを追いかけると光は
斜めに移動することになります。さらに反射して戻る光も斜めに
進むことになり、その距離はDの2倍よりも長くなります。これ
については、添付ファイルをご覧ください。
 ここで、問題を整理しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.光速ロケット内にいるA(移動している)にとっては、光
   の移動した距離は同じDの2倍である。
 2.光速ロケット外にいるB(静止している)にとっては、光
   の移動した距離はDの2倍以上である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この場合、「光の速度はつねに一定である」という原則に基づ
いて考えると、移動した距離が長いということは、その距離を移
動するために必要な「時間も長くなる」ということになります。
 これはきわめて重要なことをいっています。仮に光速ロケット
内にいるAにはこの光の往復が1秒間であったとしても、ロケッ
トの外のBにとっては1秒以上の時間になっているのです。
 ちょっと考えると、これは奇妙なことに見えますね。これによ
ると、つねに飛行機であちこち飛び回っている人と、地上にいる
人とでは「時間の進む速度が違う」ことになるからです。
 あのスティーブン・ホーキング教授の本にも似たような事例が
出ていましたので、ついでにご紹介しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ひとつの例として、ふたつの正確な時計を飛行機で正反対の
 方向にそれぞれ運び、その後時間を比較するというのがありま
 す。その結果、非常に僅かな時間ですが、はっきりと差が生じ
 ていることが確認されたのです。このことは、少しでも長生き
 したいと願うなら、地球の自転速度を加えるために、飛行機で
 自転の方向である東に飛び続けたらいい、といったことを示し
 ています。 ――スティーブン・ホーキング著、佐藤勝彦訳、
 『ホーキング、未来を語る』より アーティスト・ハウス刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これは、西方向に航行する飛行機の中に置かれた時計は、逆方
向に進む飛行機に置かれた時計よりも速く進んでいる――という
ことを示しているのですが、いずれにせよ、これらは事実であり
時間というものは、どのような状況でもつねに同じように進む絶
対的なものでないことは確かなのです。
 これは本来大変衝撃的なことです。ただ、その差が1秒の何桁
も短いものであるだけに、あまり問題になっていないのです。し
かし、タイムマシンを論ずる場合には、アインシュタインの相対
性理論は避けて通れないのです。明日は、光速ロケットの時計の
話をさらに発展させます。      −−[タイムマシン02]

ロケット内外の光源と鏡のタ験.JPG

2006年06月23日

過去を遡るタイムマシンの原理(EJ第1140号)

 光速ロケットの中のA、地球にいるBの比較をもう少し続ける
ことにします。
 飛行機に乗って世界一周旅行をする人と地上にいる人では、時
間の進み方が違うということ――これについては既に指摘しまし
た。飛行機に乗って動いている人の時間の方が遅く進むことが物
理学的に証明されています。
 そこで飛行機を光速ロケット――光速に限りなく近い速度で飛
行するロケットでその時間比較をやったらどうなるかについて考
えてみることにします。
 ところで、光はどのくらい高速なのでしょうか。
 よく知られているように、光の速度は毎秒30万キロメートル
――これは1秒で地球を7周半もするのです。こんな途方もない
速度に大きく近づいたり、ましてそれを追い超すことなど不可能
と思われていますが、ここでは仮にそれがやれると考えて推論を
続けることにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                光速ロケット    地球
  光速 × 0.72     8ヶ月 0日   1年間
  光速 × 0.9953  10ヶ月14日   9年間
  光速 × 0.99953 10ヶ月15日  90年間
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 光速ロケットが光速の72%で飛行できるとすると、ロケット
内では8ヶ月しか経過していないのに、地球では1年経過してい
るという計算になります。さらに、光速ロケットの速度を光速の
99.53%に引き上げると、ロケット内と地球での時間差は、
ロケットの10ヶ月に対して地球では9年間も経過していること
になるのです。光速ロケットの速度をさらにアップして、光速の
99.953%にすると、ロケット内の10ヶ月は実に地球での
90年間に該当するのです。
 これは何を意味しているのでしょうか。
 光速ロケットのAと地球にいるBの年齢をともに20歳としま
しょう。この年齢のときに、Aが光速の99.53%で飛行する
光速ロケットに乗って10ヶ月間の宇宙飛行をして地球に戻って
きたとします。
 そうすると、Aはまだ21歳になっていないのに、Bは29歳
になっていることになります。これは、Aは10ヶ月かけて、B
の9年後の未来に到着したことを意味するのです。つまり、この
光速ロケットは、未来に飛ぶタイムマシンそのものということに
なります。
 以上が未来に飛ぶタイムトラベルの原理です。それでは、過去
にタイムトラベルするのはどうしたらよいのでしょうか。
 これが実現する条件は、そのマシンが光よりも速く飛行する必
要があるということです。現在の物理学では、「光よりも速いも
のはない」ということになっています。相対性理論では、それが
前提になっているのです。
 もし、あるマシンが光速に達したとすると、時間の遅れ因子は
無限大になる――要するに、時は停止してしまうことになるので
す。これは、通常の物体は光速に到達できないということを示し
ています。
 それをあえて、光よりも速いマシン、すなわちタイムマシンが
仮にあると考えてみるのです。ここからは、添付ファイルの図を
見ながら読んでいただくと、分かりやすいと思います。
 太陽と地球について考えてみます。太陽と地球の距離は非常に
長いので、太陽の光が地球に届くには約8分の時間を要するので
す。つまり、地球上でわれわれが見ている太陽光は実際よりも8
分遅れで地球に届いていることになります。別な表現でいうと、
われわれはつねに8分前の太陽を見ていることになります。
 ここから、非常に非現実的なたとえ話をします。いま光速より
も速いマシンに乗った地球人が太陽のすぐ近くにいると仮定しま
す。そんなことはあり得ませんが、一応そう仮定するのです。
 そのときに太陽に大きな爆発があったとします。太陽のすぐ近
くにいる地球人には当然それが見えます。しかし、その爆発の模
様は、地球には光速でも8分かかるのです。
 このとき、光速よりも速いマシンに乗った地球人が地球に3分
で戻ったとしましょう。つまり、マシンは地球に向う光を追い越
してしまうことになります。
 その地球人が地球に戻ったとき、地球から見る太陽にはまだ爆
発が起こっていません。地球から太陽の爆発が見えるのは、それ
から5分後です。爆発時点での太陽からの光はまだ地球には届い
ていないからです。
 その時点での太陽は過去の太陽――そうです。爆発以前の太陽
なのです。つまり、過去に戻ったことになります。もし、光速よ
りも速いマシンに乗った地球人が「これから5分後に太陽で爆発
が起こる」と予言したら、彼は預言者として名声を勝ち取ること
ができるでしょう。つまり、そのマシンこそ過去に遡ることがで
きるタイムマシンであるということができるのです。
 このように、タイムマシンをつくるには、そのマシンは光速に
限りなく近づくか、光速を超える必要があるのです。既に述べた
ように、現在の物理学では光速を超えることは不可能とされてい
ますので、少なくとも光速に近づける必要があります。しかし、
現状では、人間の乗り物の最大の速度は、せいぜい光速の1%程
度なのです。
 これでは、タイムマシンをつくることは、不可能ということに
なってしまいます。しかし、それなのになぜ、タイムマシンが現
在話題になっているのでしょうか。
 それは、アインシュタインの相対性理論の新しい解釈が続々と
生まれてきているからなのです。その中で最近とくに注目されて
いるのは「ワームホール」といわれるものです。しかし、これを
理解するには、相当の予備知識が必要になります。時間を考え直
すという意味で、あせらず論を進めていきます。
                 −−−[タイムマシン03]

過去に行くタイムマシン.JPG

2006年06月26日

なぜ、光を超えられないのか(EJ第1141号)

 タイムマシンがつくれるかどうかを議論するとき、そのタイム
マシンが光の速さに近づけるか、もしくは光の速度を超えられる
かどうかが中心の議題になります。
 しかし、現代の物理学では、光の速度を超えるはできないとし
ているのです。これについて、ホーキンズ教授は次のように述べ
ています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  相対論の非常に重要な点は、質量とエネルギーの関係です。
 光速が誰にとっても同じように見えるというアインシュタイン
 の仮説は、どんなものでも光より速く動くことができないこと
 を示しています。粒子であろうと、宇宙船であろうと、エネル
 ギーを使って速度を上げようとすると、その質量はどんどん増
 加するのです。質量が増えてしまうため、さらに加速しようと
 しても速度を上げることは困難になります。粒子を光速になる
 まで加速するには、無限のエネルギーがいることになりますの
 で、それは不可能です。――スティーブン・ホーキング著、佐
 藤勝彦訳、『ホーキング、未来を語る』より アーティスト・
 ハウス刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 なぜ、光の速さに追いつき、追い越せないのか――それは、速
く動こうとすればするほど質量が増えて、速度が加速しなくなる
からです。ホーキンズ教授はそれを、「粒子であろうと宇宙船で
あろうと、エネルギーを使って速度を上げようとすると、その質
量はどんどん増加する」という表現で説明しているのです。
 それでも何とか光速に肩を並べることができたとすると、その
時点で「質量は無限大」になる――つまり、世の中で最も重い物
体になってしまうのです。「光速を超える」ということは、無限
大の物体を動かせる力がなくてはなりません。それには無限大の
力が必要ですが、そのような力があるでしょうか。かくして、光
速に肩を並べることはもちろん、まして光速を超えるなどという
ことは、あり得ないということになるのです。
 添付ファイルを見てください。図の上に数式があります。これ
が有名なアインシュタインの方程式です。この数式は、タイムマ
シンに関する議論に重要な役割を果たすことになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        E ・・・・・ エネルギー
        m ・・・・・ 質量
        c ・・・・・ 光の速さ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 図は、あらゆる点でまったく同じ振り子がはかりの上に乗って
います。左側の振り子を動かしたとき、静止している振り子より
も、ほんの少しですが質量が増しているのがわかると思います。
なぜかというと、揺れている振り子は運動エネルギーを持ってお
り、運動エネルギーは質量を持つからです。物質と質量とエネル
ギーは互いに関係しあっているのです。
 「どんな物体も光よりも速くなれない」――これについて、世
界の物理学者たちは、素粒子を巨大な加速器を使って実験を繰り
返して行い、それが正しいことを認めています。
 実験では、光の速さに近づくにつれて、粒子は途方もなく質量
が増えて、粒子を加速することが困難になるのです。多くのエネ
ルギーが粒子を重くすることに使われるので、その分速さを増加
するために用いられるエネルギーが少なくなるからです。
 ここまで、光の速さに匹敵するか超える速度という観点からタ
イムマシンの可能性を探ってきましたが、もうひとつ方法がある
のです。それは「重力」を使う方法です。
 1908年にアインシュタインは、特殊相対性理論を拡張して
この「重力の効果」を取り入れています。どういうことかという
と、「重力は時間の歩みを遅くする」ということです。地球には
重力があるので、ビルなどでは1階と最上階では、僅かではあり
ますが、時間の進みに違いがあることになります。もちろん地面
に近い方が時間は遅く進むのです。
 1955年にハーヴァード大学で高さ22.5メートルの塔の
タイムワープ因子を計る実験が行われています。その結果、塔の
上と地上とでは、地上の方が、次の時間の遅れが観測されている
のです。この測定値は、アインシュタインの予測を追認するもの
だったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    0.000000000000257%の遅れ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 非現実的な仮定ですが、もし、魔法か何かを使って、地球を質
量を保ったまま半分の直径に縮めたとすると、表面の重力は4倍
になり、タイムワープは2倍になります。さらに圧縮していくと
時間の遅れ因子は拡大します。そして、地球の半径が0.9セン
チメートルという臨界値に到達すると、時間は停止してしまうの
です。そんな、バカなことを・・というなかれ、天体物理学では
物体が途方もなく圧縮されるということは起こり得るのです。
 牡牛座に「カニ星雲」と呼ばれるものがあります。この星雲は
巨大な恒星が爆縮によって粉々になった残骸なのです。こうした
潰れた星の重力は非常に大きいので、原子でさえ押し潰されて中
性子になってしまうほどです。そのためこういう星のことを「中
性子星」といっています。
 この中性子星の時計は、天文学者の計算によると、地球上の時
計よりも30%ゆっくりと時を刻むことがわかっているのです。
またまた、非現実的な仮定ですが、中性子星の近くに住まいを設
ければ、その住まいは未来を旅するタイムマシンとなるのです。
なぜなら、そこで7年間を過ごせば、地球で過ごす10年間に相
当するからです。
 蟹座には、互いに相手のまわりを跳ね回っている2つの中性子
星があるのですが、そこからは規則的に電波が出ており、その信
号を観測することで、それが違っていないことが分かるのです。
                  −−[タイムマシン04]

アインシュタインの方程ョ.JPG

2006年06月27日

光の2つの謎を解いたアインシュタイン(EJ第1142号)

 タイムマシンの話を続けていますが、今までのところを整理し
補強して、来週さらに先に進みたいと思います。
 1687年にアイザック・ニュートンは『プリンキピア』とい
う本を発刊します。この本については一度EJで取り上げたこと
がありますが、この本で「時間」と「空間」の数学的なモデルが
提示されているのです。
 このニュートンが提示したモデルは、「時間」と「空間」は事
象が生ずる舞台であるが、事象によって何ら影響を受けない絶対
的な存在となっているのです。「時間」は「空間」とは分離され
ており、また、両端が無限に続く1本の直線もしくは鉄道の線路
のようなものだと考えられていたのです。
 実は、ニュートンの時代において「光」には、次の2つの謎が
あったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ≪第1の謎≫
   ・なぜ、光の媒質であるエーテルが見つからないのか
  ≪第2の謎≫
   ・なぜ、光には速度合成の法則が当てはまらないのか
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 19世紀末には「光は波である」と考えられていたのです。そ
のため、その媒質探しが物理学の最大の関心事だったのです。こ
の未知の媒質は「エーテル」と名づけられ、多くの物理学者が、
それこそ血眼になって「エーテル探し」をやっていたのです。し
かし、誰もエーテルを見つけることはできなかったのです。これ
が「第1の謎」です。
 「速度合成の法則」というものがあります。時速40キロで走
る自動車同士がすれ違うとき、それらの車に乗っている人から見
ると、お互いに相手の自動車の速度は時速80キロに見えるとい
うのが「速度合成の法則」です。
 自分を基準とした相手の速度――つまり、相対的な速度ですが
自分と相手の速度の和や差で計算できるということは、ガリレイ
の相対性原理に基づくニュートン力学の基本中の基本なのです。
 しかし、時速40キロで走る自動車と秒速30万キロ――時速
10億キロの光のケースでは、次の式は成立せず、光の速度は、
時速10億キロメートルなのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   40キロ + 10億キロ = 時速10億40キロ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 つまり、「速度合成の法則」は成立しないことになるのですが
これが「第2の謎」なのです。1887年のことです。米国の物
理学者マイケルとモーレーは、地球の東西方向と南北方向とで、
光の速さを計測する有名な実験を行ったのですが、東西方向、南
北方向とも、光の速度はまったく同じだったのです。これでは、
「宇宙に存在するあらゆる運動を説明できる」としたニュートン
力学に重大な欠陥が存在することになってしまうのです。
 これらの光に関する2つの謎を解明したのが、アインシュタイ
ンだったのです。そのときアインシュタインは弱冠26歳だった
のですが、彼は、1905年に次の3つの論文を書いて、物理学
の世界に衝撃のデビューを飾るのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    1905年3月 ・・・・・ 光量子論
    1905年4月 ・・・・・ ブラウン運動
    1905年6月 ・・・・・ 特殊相対性理論
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「光量子論」では、今まで「波」と考えられていた光に「粒」
としての性質もあることを説いています。金属に、波長の短い光
(紫外線)を当てると電子が飛び出すのに、波長の長い光(赤外
線)を当てると何も起こらないという現象を光電効果というので
すが、光を「波」だと考えると、この現象は説明できないことな
のです。
 これから、アインシュタインは、光の正体は「光電子」という
「粒」とみなし、波長の短い光は粒子1粒当たりのエネルギーが
波長の長い光よりも大きいからであると考えたのです。この光量
子論によって、光とは次のような不思議な性質を持つものである
ことを明らかにしたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  光は粒でもあり、波でもある。ある時は粒であり、ある時は
 波であるというのではない。粒が波のように振動しているので
 もない。粒であり波であるとは、相反する性格が同居している
 ことを意味する。          ――アインシュタイン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「第2の謎」については、特殊相対性理論によって明らかにさ
れたのですが、その反響は大変でした。何しろこの論文は、時間
の進み方が遅くなるとか、長さが縮むとか、当時としては、常識
外れのことばかりが書いてあったからです。既にノーベル賞を受
賞していたオランダの物理学者ローレンツなどは、常識外れな論
文と決めつけ、批判の急先鋒に立ったほどです。
 しかし、その一方でアインシュタインの論文を高く評価する学
者もたくさんいたのです。この論文を読んだドイツの数学者ミン
コフスキーは、チューリッヒ工科大学で自分の授業をぼんやりと
聞いていたアインシュタインの優れた理論に驚嘆し、「信じられ
ない!」と何回も繰り返したといわれています。そして、ミンコ
フスキーは、後にこの相対性理論を幾何学的にまとめ直すという
優れた業績を残しています。
 しかし、われわれ一般の人間が持っている時間の観念は、まだ
ニュートン時代の絶対時間の観念にとどまっているのではないか
と思います。だから、タイムマシンが、荒唐無稽なSFの世界の
ことに感じられるのではないでしょうか。
 そういうわけで、タイムマシンを解明するには、相対性理論に
ついてさらに理解を深める必要があります。来週は、相対性理論
で時間の遅れを計算してみましょう。
                 −−−[タイムマシン05]

2006年06月28日

トンネルに入る列車の運命はどうなるか(EJ第1143号)

 今朝は趣向を変えてクイズを出します。特殊相対性理論に関す
る問題です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  秒速24万キロメートルで走る列車が全長40万キロメート
 ルのトンネルに差しかかったのです。ところが、このトンネル
 にはとんでもない仕掛けがしてあるのです。
  実は、この列車には時限爆弾が仕掛けてあって、列車の先端
 がこのトンネルに入ると、時限爆弾のスイッチが入り、その1
 秒後に時限爆弾が爆発するようになっているのです。
  ただし、トンネルの出口には時限爆弾解除のスイッチがあり
 列車の先頭部が出口にたどり着けば、爆発は回避されるように
 なっています。
  さて、列車は今トンネルに入り、時限爆弾のスイッチが入り
 ました。列車はトンネルを通り抜けることができるのでしょう
 か。途中で爆発してしまうのでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この問題は、添付ファイルの「時間の遅れ計算式――A」に数
値を当てはめて計算すると解くことができます。実際に計算する
前に計算式について説明します。Aの計算式を見てください。
 ルートの中のグレーの網がかかっている部分を見てください。
この部分では、「動いているものの速度」を「光の速度」で割っ
ていますが、「光の速度」は毎秒30万キロメートルという高速
なので、分子の「動いているものの速度」が「光の速度」に近い
高速でない限り、ほとんどの値はゼロになります。
 そうすると、この部分は1からゼロを引いて平方根を求めても
結局は1になるだけのことです。これは何を意味しているかとい
うと、動いているものの時間が遅れて進むといっても、ほとんど
は止まっているものの時間と変わらないということです。
 現在、いわゆる乗り物で、一番速いものといったら宇宙ロケッ
トしかないはずです。その宇宙ロケットにしてもせいぜい、秒速
20キロメートルぐらいのものです。この数値で時間の遅れを計
算すると、地球で1秒経過したときに宇宙ロケットでは次の時間
が経っているに過ぎないのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        0.999999998秒
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この数値では、16年間に1秒しか遅れないことになります。
したがって、秒速20キロ程度では、止まっているものの時間と
ほとんど変化はないといえます。
 問題を解いてみましょう。普通に考えると、トンネルの長さは
40キロメートル、秒速24キロメートルの列車が1秒間で通り
抜けられるはずはありません。計算すると、1.66秒かかるこ
とになり、列車は爆破されてしまいます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   40万キロ÷24万キロ=5/3秒=1.66秒
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、この列車の秒速は24万キロメートルであり、光の速
度にかなり近いので、はっきりとした時間の遅れが計算できるは
ずです。Aの計算式で計算してみます。
 24万キロ/秒を30万キロ/秒で割ると0.8、式にしたが
って、1から0.8の2乗を引くと0.36、その平方根を計算
すると0.6――つまり、地上時間の1秒は、0.6秒に該当す
るのです。
 そうすると、1.66秒かかるといっても、実際には次の時間
しかかかっていないのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  1.666666666×0.6=0.999999秒
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そうです。列車がトンネルの出口に差しかかるまで、0.9秒
しかかからない計算になります。つまり、列車は辛うじて爆破を
免れるのです。これが正解です。
 この場合、列車に乗っている人にとってはどのように見えるの
でしょうか。
 列車内の人から見れば、列車は動いていますが、乗っている人
は止まっており、時間の遅れは生じないのです。1秒は1秒なの
です。これは、積み込まれている時限爆弾の時計についても同じ
ことがいえます。
 そうすると、列車が約1秒間で40万キロメートル――光速を
超える速度でトンネルを通過したことになるのでしょうか。
 そうではないのです。結論からいうと、「トンネルの長さが縮
んだ」結果なのです。列車の中の人にとっては、トンネルが秒速
24万キロで近づいてくるように見えます。運動の相対性から、
トンネルが動いていると考えてもいいのです。
 そうすると、動いているトンネルの長さは、止まっているとき
の長さより縮むことになります。ここで、添付ファイルの計算式
のB――長さの縮みの計算式を見てください。
 このBの計算式は、Aとほとんど同じです。数値を当てはめて
計算すると、次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   40万キロメートル×0.6=24万キロメートル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 つまり、止まっているときの長さが40万キロメートルのトン
ネルが、もし秒速24万キロメートルで動けば、その長さは24
万キロメートルに縮むのです。だから、約1秒で通過できること
になるのです。
 このさい、「縮んで見える」ということを「縮んでいるように
錯覚している」と考えないことです。固有の長さが40万キロメ
ートルのものが動いているときは縮むのです。きちんと計算され
科学として認められていることなのです。
                 −−−[タイムマシン06]

時間の遅れ/長さの縮み計算ョ.JPG

2006年06月29日

時間は空間の一部である/ウェルズ(EJ第1144号)

 タイムマシンをテーマにした小説は多いのですが、何といって
も一番有名なのは、英国の作家、H・G・ウェルズの『タイムマ
シン』でしょう。ウェルズの『タイムマシン』は、今までに2回
映画化されています。
 最初の映画化は1959年――私はこれを映画館で見ているの
です。そして、第2回目は2002年――昨年のことです。もち
ろん、この映画はDVDで発売されており、どうやらこの映画が
昨今のタイムマシンブームの口火になった可能性があります。
 ところで、2002年の映画化の監督は、サイモン・ウェルズ
――彼は原作者H・G・ウェルズのひ孫なのです。いろいろな経
緯があったと思いますが、ディズニーアニメの助監督などをして
いたサイモン・ウェルズに白羽の矢が立ったのです。
 少し話が脱線しますが、この原作者H・G・ウェルズという人
物は単なるSF作家などではないのです。彼は、自分の小説の中
で作った空想の大量破壊兵器の廃絶運動を行うという奇妙な行動
をとっているのです。その大量破壊兵器とは、当時世界に存在し
ていなかった「原子爆弾」だったのです。
 空想の兵器といってもウェルズの記述は精緻を極め、物理学者
が読めば、その製造法のヒントがわかるほどだったのです。現実
にH・G・ウェルズのこの小説を読んだハンガリーの生物学者レ
オ・シラードは、衝撃を受け、生物学者の道を捨てて核物理学者
へと転身を図っています。そして、シラードは空想ではない本物
の原子爆弾の開発につながるいくつかの研究――核分裂における
連鎖反応方式の発明などをはじめるのです。
 そして、シラードは、アインシュタインを説得して、当時の米
国大統領ルーズベルトに対して、原爆開発のための「マンハッタ
ン計画」を進めるよう進言する有名な手紙を書かせることに成功
するのです。シラードは、アインシュタインと親しい付き合いが
あったので、その後も何かと彼を利用しています。
 しかし、原子爆弾のそもそものアイデアが、H・G・ウェルズ
の小説に登場していることはあまり知られていません。それだけ
ではないのです。H・G・ウェルズは、あの国際連盟の考案者で
もあるのです。いずれ、大韓航空機撃墜事件の関連テーマとして
国際連盟・国際連合について取り上げる予定ですが、これにもH
・G・ウェルズが深く関与しているのです。
 話を元に戻します。H・G・ウェルズがその代表作『タイムマ
シン』において、タイムマシンというマシンについてどのように
考えているかについて考えてみます。
 19世紀末の英国のあるサロンに好事家が集まってきます。こ
の邸宅の主人は発明家であり、著者はその主人のことを「タイム
トラベラー」と名づけています。
 物語は、そのタイムトラベラーが何人かの好事家に、ひどく難
しい問題を説明しているところから始まるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  この世の中にある立体は4つの方向に広がりを持っている。
 縦、横、高さ――そして、持続する時間だ。しかし、人間の肉
 体はもともと弱いので――それについてはいま説明するが――
 4番目の時間のことを忘れがちなのだ。
  この世界には4つの次元がある。そのうちの3つは、空間の
 平面と呼ばれるもの――縦、横、高さ――であり、残りのひと
 つは時間だ。
  ところが、僕たちはとかく、平面の3つの次元と、時間の次
 元をわけて考えるくせがある。わけることなどできないのに。
 なぜそんなことになるかというと、僕たちの意識が生まれてか
 ら死ぬまで、時間の流れとともに動いていくからだ。
       ――H・G・ウェルズ著、『タイムマシン』より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このタイムトラベラー――これはH・G・ウェルズ自身のこと
だと思いますが、彼は「時間は空間の一種である」と考えている
のです。しかし、時間をのぞく空間は自由に動きまわれるのに対
して、時間の中では動けない――これはおかしなことであると考
えており、そのことを好事家たちに説明しているのです。
 つまり、ウェルズのタイムマシンは、時間に対してだけ移動し
空間は不動なのです。小説の中でタイムトラベラーは、小さなタ
イムマシンをテーブルの上に置いて、実際にレバーを動かして見
せるのです。
 例えば、いまテーブルに置かれている小型のタイムマシン――
これはつい先ほどまではなかったのです。したがって、このマシ
ンのレバーを倒して、過去に飛ばしたとしましょう。そうすると
そのタイムマシンは一瞬のうちに消えてしまうはずです。
 過去に遡るというのは、1分前、1時間前、1日前というよう
に、過去に向って進行するからです。空間は動かず時間だけが過
去に遡るのですから、小型タイムマシンがそれを現在(いま)の
時点で見ている人の目から消えてしまうのは当然ですね。
 タイムトラベラーは、このあと邸内の研究室に入り、そこに置
いてあるタイムマシンに乗って80万年先の未来にタイムトラベ
ルします。着いた場所は芝生の上なのですが、その場所はタイム
マシンを置いてあった研究室の80万年後の姿なのです。つまり
空間は動いていないという設定です。
 タイムトラベラーは、この80万年後の世界で、探索、調査、
未来人間との会見など、いろいろやるうちに闘争に巻き込まれて
しまいます。そのどさくさに紛れてタイムマシンは、未来人間に
よって、少し位置を移動させられてしまうのです。
 しかし、タイムトラベラーは何とかタイムマシンに乗って現在
の世界に戻ってたくるのですが、着いたところは研究室から少し
離れたところだったのです。そうです。未来人間たちに動かされ
た分だけ、位置がずれて着いているわけです。このあたりは理に
かなっていると思います。
 この作品ができたのは、アインシュタインの相対性理論の発表
より前のことであり、大変優れた着想といえます。
                 −−−[タイムマシン07]

H・G・ウェルズとタイムマシン.JPG

2006年06月30日

時空の考え方を取り入れた干支暦(EJ第1145号)

 空間の3次元――縦、横、高さというものがあります。ニュー
トン以来の物理学では、物質が存在したり、物体が運動したりす
る入れ物として、この無限に広がる3次元の空間を考えており、
ニュートンはこれを「絶対空間」と呼んだのです。
 つまり、物体はその中で運動したり変化したりする――しかし
空間自体は固定されていて、全く変化せず、永久不変に存在して
いると考えたのです。
 時間についても同様です。時間は過去から未来に一様に流れ、
かつ宇宙のどこでも全く同じ時間になっていると考えたのです。
これが「絶対時間」です。これらの絶対空間と絶対時間の下で、
ニュートン力学は、あらゆる時間、あらゆる空間において、普遍
的に成り立つとされていたのです。
 しかし、アインシュタインは、時間と空間が密接に結びつき、
お互いに影響し合って変化することを明らかにしたのです。特殊
相対性理論の最大の功績は、従来の物理学でバラバラに扱われて
いた時間と空間を「時空」というひとつの概念にまとめたことで
あるといえます。つまり、空間の3次元に時間の1次元を加えて
「時空」という4次元の存在――4次元時空となるのです。
 「宇宙」の「宇」は「空間」、「宙」は「時間」の意味を持つ
といわれます。すなわち、「4次元時空」とは、「宇宙」そのも
のをあらわす言葉なのです。
 「時間」とか「空間」とか難しい話が続いているので、少し脱
線して、今朝は時空に関連する「十干十二支」についてお話しす
ることにします。
 「十干十二支」は、中国から伝わったといわれています。「十
二支」は、中国の戦国時代(西暦前5〜3世紀)からいわれるよ
うになってきており、「十干」はそれより後の漢の時代に占星術
師が考え出したといわれています。
 実は、この「十干十二支」は、時空をあらわしているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        干 ・・・・・ 空間
        支 ・・・・・ 時間
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「干支暦」というのがありますが、この暦は、時間と空間の組
合せでできているのです。「十干十二支」は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 十 干:甲 乙 丙 丁 戊 己 庚 辛 壬 癸
 十二支:子 丑 寅 卯 辰 巳 午 未 申 酉 戌 亥
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「十二支」が時間を意味することはよく知られています。現在
私たちは「定時制」を採用しています。例えば、午前2時といえ
ばその瞬間を指すことになっています。しかし、江戸時代におい
ては、24時間を12で割った120分間(2時間)の「不定時
制」だったのです。
 例えば、「子の刻」というと、午後11時から午前1時までの
2時間を指していたのです。十二支と当時の時刻の関係を知って
おくと、時代小説を読むとき役立つので、次に示しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    十二支   時刻          鐘
    子 ・・・ 午後11時〜午前 1時  九つ
    丑 ・・・ 午前 1時〜午前 3時  八つ
    寅 ・・・ 午前 3時〜午前 5時  七つ
    卯 ・・・ 午前 5時〜午前 7時 明六つ
    辰 ・・・ 午前 7時〜午前 9時  五つ
    巳 ・・・ 午前 9時〜午前11時  四つ
    午 ・・・ 午前11時〜午後 1時  九つ
    未 ・・・ 午後 1時〜午後 3時  八つ
    申 ・・・ 午後 3時〜午後 5時  七つ
    酉 ・・・ 午後 5時〜午後 7時 暮六つ
    戌 ・・・ 午後 7時〜午後 9時  五つ
    亥 ・・・ 午後 9時〜午後11時  四つ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 午の刻の真ん中の時刻――正午を境に午前と午後を区別してい
ます。私たちは何気なく「午前」「午後」といっていますが、こ
れは午の刻を中心にいうことばなのです。そして、正子の刻(午
前0時)と正午の刻(午後12時)が、陰陽道でいう陰陽の境に
なっているので、この時刻になると鐘を九つ打ったのです。現在
でいう時報です。
 鐘の数は今でもことばとして残っています。「三時のおやつ」
といいますが、これは午後3時に打つ鐘の数が八つであるからで
すし、唄で歌われる「お江戸日本橋七つ立ち・・・」は、旅立つ
には、午前3時から5時の間に・・という意味なのです。
 ところで、「空間」をあらわす「干」は10、「時間」をあら
わす「十二支」は12ですから、2つ余ります。十干と十二支を
甲子、乙丑、丙寅・・・癸酉のように組み合わせていくと、次の
2つ――戌、亥には、時間に見合う空間がありません。これは、
12年に2年間はそういう年があることを意味しています。
 「時間がある」ということは「生きている」ことです。「時間
があるのに空間がない」というのは、生きてはいるが実感がない
ということを意味します。例えば「寝ている」ときがそうです。
人間には、12年に2年間はそういう年があるのです。
 したがって、そういうときに何かを積極的にやるのは、リスク
が大きくて成功の可能性が低いということなのです。中国の諸賢
はそれを「空亡」とか「天中殺」と呼び、後世の人に注意のサイ
ンを送ったのです。
 このように十干と十二支とは2つずつずれるので、全部で60
通りの組み合わせがあって、元の甲子に戻ります。60歳を「還
暦」というのは、このことをいっているのです。
 十干十二支はこのように時空をあらわしますが、来週からは少
し複雑な話に入っていきます。    −−[タイムマシン08]

二支と時刻.JPG

2006年07月03日

ソーン博士の画期的な学説(EJ第1146号)

 今まで考えてきたことを総括すると、光速にできる限り近い速
度で移動することができれば、未来に行くことは科学的に可能で
あるということがいえます。
 しかし、光の速度は毎秒30万キロメートル――現在のところ
最高速の宇宙船ですら毎秒20キロメートル程度であり、よほど
の技術革新が行われない限り、光速に大きく近づくことは現状で
は困難です。もちろん可能性としては十分考えられることではあ
りますが・・・。
 まして、過去に行くタイムマシンの場合、光速を超える必要が
あるのですから、不可能ということになってしまいます。しかし
最近になって過去に行くタイムマシンも理論的には可能――そう
いう話になってきたのです。
 そのきっかけは、1988年の暮れに米国の物理学者キップ・
ソーン博士と他の2人の研究者が驚異の説を発表したことによる
のです。このキップ・ソーンなる人物、ただ者ではなく、相対性
理論の第一人者です。また、あのホーキング教授の研究仲間でも
あり、現代物理学者の最先端にいる学者です。
 キップ・ソーン博士の発表した論文は「フィジカル・レビュー
・レター」に掲載されたのですが、これは現在の物理学で最も権
威のある論文集である「フィジカル・レビュー」という雑誌の速
報版なのです。
 それまで物理学の世界では「タイムマシン」の話はいわゆるゲ
テモノ扱いであり、正面切ってそれを口にする学者は皆無という
状態だったのです。ところが相対性理論の権威であるソーン博士
がタイムマシンについて、しかも過去に行くタイムマシンについ
て発表したということで、ニュースになって、全世界に大きな波
紋を広げたのです。添付ファイルにもあるように、 1988年
12月5日付の朝日新聞にも記事として出ています。
 ところが、その論文が難解なのです。何回読んでも????に
なってしまいます。しかし、何はともあれ、解説をすることにし
ます。添付ファイルの図をご覧ください。
 宇宙には、いろいろな穴があります。一番有名なのはブラック
ホール、それからホワイトホール、それにワームホールです。ワ
ームホールというのは、いわば宇宙の虫食い穴です。
 ブラックホールには入口、ホワイトホールには出口しかないの
ですが、ワームホールには入口と出口の両方があります。一方の
穴から入って、もう一方の穴から抜けることが可能なのです。一
説には、ブラックホールから入って、ホワイトホールに抜けるの
がワームホールだという人もいます。
 これらの穴は、時間や空間が極端に曲がっていて、とにかく常
識的な想像を受けつけない「抜け穴」――それがワームホールと
いわれるものです。
 2つのトンネルの入口をそれぞれA、Bとします。Aが入口な
らBは出口になりますし、Bが入口ならAは出口になります。B
の近くに住んでいる人がいます。彼は、他方の穴Bを振動させま
す。振動は、最も簡単な加速運動ですから、Aの時間はBの時間
に比べて遅れ、だんだんその遅れは大きくなります。例えば、B
付近が平成10年になっても、A付近は平成5年のままというこ
とも起こり得るのです。
 Bの付近に住んでいる人――平成10年の世界にいる人が、何
らかの方法で、穴からではなく、外部を通ってAに行ったとしま
しょう。そうすると、その人の世界は平成5年になってしまいま
す。しかし、A付近とB付近はつながっている世界――例えば、
東京と大阪というように、つながっている世界ではなく、ぜんぜ
ん別の世界です。
 さて、ソーン博士によると、平成5年のAにやってきた人が、
今度はAの穴に飛び込んで、もう一方の出口であるBに出たとす
ると――ワームホールの通過には所要時間というものがないので
飛び込んだ瞬間が出た瞬間となる――穴を抜けた当人の周囲はA
と同じで平成5年になるというのです。
 もともとその人はBから出発したのですから、元の場所に戻っ
てきたことになるのです。Bを後にしたのは平成10年、帰って
きたときは平成5年――つまり、彼は過去の世界に旅をしたこと
になるのです。したがって、ソーン博士は、ワームホールを利用
すれば、過去に行くことができると主張しているのです。ところ
で、トンネルに入る時刻と出る時刻がまったく同じということが
ソーン理論の中核になっているそうです。
 以上が「フィジカル・レビュー・レター」に掲載されたソーン
博士の論文の内容です。できる限りやさしく書いたつもりですが
理解できたでしょうか。
 ブルーバックスの『タイムマシンの話』(講談社刊)の著者で
ある都築卓司氏は、ソーン理論をベースに別のモデルを設定して
説明しています。
 地球上に人がいて、この人が無人ロケットを飛ばして、途中で
大いに加速して地球に戻ってくるようリモート・コントロールし
たとします。平成元年に地球を出発して、戻ってきたときは平成
10年だったとします。この場合、ロケットの中は時間が遅れる
ので、平成5年とします。
 地球上の人がロケットの扉を開けて中に入ったとすれば、そこ
は平成5年の世界です。しかし、再びロケットの外に出たとする
と、そこはやはり平成10年の世界です。
 そこで、地球とロケットの出口を扉ではなく、ワームホールで
つないだとします。そして、平成10年の世界から扉を開けてロ
ケットの中に入り、そのままワームホールを通って地球に出たと
するのです。そうすると、そこは平成5年の世界になります。ワ
ームホールの通過中には時間の経過はないのです。
 つまり、平成10年の地球からロケットに入ると、ロケットの
中は平成5年、さらにそこからワームホールに入って地球に出る
と、そこも平成5年の世界なのです。こちらの説明の方がわかり
やすいと思います。       ・・・・[タイムマシン09]

ーンのワームホール.JPG

2006年07月04日

ブラックホールはどのように作られるか(EJ第1147号)

 宇宙に存在するさまざまな穴(ホール)――ブラックホール、
ホワイトホール、ワームホールなど――は、どのようにして形成
されるのでしょうか。今朝は中でも一番有名なブラックホールに
ついて説明します。
 恒星にも寿命があります。巨大な星が燃え尽きて、自分の重力
で著しく縮み、最後には元の体積のごく小部分に納まってしまう
のです。星は本来球形をしており、それが内部崩壊を繰り返して
より小さな球形へと縮んでいくわけです。
 このようにして潰れた星の重力は非常に大きく、原子でさえも
潰されて中性子となり、中性子星になるということは6月26日
のEJ1141号で既にお話ししています。
 このように星が燃え尽きて、自分自身の重さによって崩壊する
――そのときに中性子星にならないで、そのままブラックホール
を形成するケースもあります。また、いったんは中性子星になっ
ても、やがて自ら爆縮してブラックホールになる――そのような
ケースも考えられます。中性子星のコアは1秒の何分の1の間に
突然爆縮し、それらの破片がいったんは空中に拡散しますが、し
ばらくすると、それらはいずくともなくどこかに吸収され、あと
に空虚な空間が残るのです。それがブラックホールです。
 天文学者の中には、太陽系が生まれる何十億年も前に滅んだ巨
大な星の残骸が無数のブラックホールを形成して、銀河系全体に
散りばめられている――そのように主張する学者も多いのです。
 さて、星の爆縮は限界点まで休みなく続くのです。それがすべ
ての質量を保ちながら次第に収縮していくのです。形状は球形で
すが、それが少しずつ小さくなっていくのです。ボールは小さく
なればなるほど表面の重力は大きくなり、ある時点で重力はどの
ような物質も耐えられないほど強力になり、やがてボールは潰れ
てしまうことになります。
 これらのブラックホールや内部や中性子星の周辺では、重力が
時間の遅れを引き起こすのに十分な大きさになっており、地球上
の実際の時計よりも平均して30〜40%も遅く時を刻むといわ
れているのです。
 星の内部で起こる爆縮が進み、球形が小さくなるにつれて、時
間の遅れ因子は大きくなり、ある段階に達するとそれは無限大と
なります。これは、ボールの表面で時間の進行が地球時間に対し
て停止することを意味するのです。それは質量が増加して光速と
同レベルに達するからです。
 縮んでいく星から出る光は、振動数がどんどん小さくなり、こ
れを光の色で見ると、収縮しているボールから出る光はますます
赤くなり、最後には冷えていく燃えさしのように完全に消えてし
まうのです。そのあとは暗闇が訪れるのです。
 潰れた天体を取り巻く空間の領域は黒く、そして何もない空虚
さがあります。この「空虚さ」と「暗さ」が、ブラックホールと
呼ばれるゆえんであるといってよいと思います。
 このブラックホール――一度そこに入ってしまうと、そこから
抜け出すことはできないのです。なぜなら、外部の宇宙から見た
場合、ブラックホールの内部は、時間の終わりを超えているから
です。ブラックホールから抜け出すには、そこに入る前の時点に
出る必要がありますが、それは時間を過去に遡ることを意味する
のです。つまり、ブラックホールには入口はあるが、出口は存在
しないのです。それは、「無」に通じる一方通行の旅であるとい
うことができます。
 ところで、ブラックホールは、天文学上観測できるものなので
しょうか。
 ホーキング教授は、ブラックホールを次のようにいい、その困
難性を指摘しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  ブラックホールは地下の石炭貯蔵庫の中の黒猫である
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 何しろブラックホールは見えないので、観測が困難なのですが
いろいろな観測方法があるのです。その結果として、いくつかの
有力なブラックホール候補といわれるものが、1970年代から
1980年代にかけて観測されています。その最も有力なものは
白鳥座(シグナス)のシグナスX−1というものです。
 実は、昨日ご紹介したキップ・ソーン博士は、このシグナスX
−1の研究者として有名なのです。1970年代の中頃から、シ
グナスX−1が本当にブラックホールなのか、それとも単に見え
ない普通の天体なのかについてホーキング教授と賭をしているの
です。ソーンはブラックホールであるに賭け、ホーキングはブラ
ックホールではないに賭けています。
 この決着はまだついていませんが、ホーキングは最近になって
自分の負けを認めているそうです。賭といっても他愛のないもの
で、ホーキングが勝てば、ソーンが雑誌「プライベート・アイ」
を4年間にわたって贈る、ソーンが勝てば、ホーキングが「ペン
トハウス」を1年間贈ることになっているそうです。このように
2人は大変仲良しなのです。
 ホーキング教授は、キップ・ソーン博士について、タイムマシ
ンとの関係について次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  私の友人であり、研究仲間でもあるキップ・ソーンとは、こ
 れまで何度も賭けをしたこともある親しい間柄ですが、彼は、
 皆がそうだからといって、物理学上の考えを無批判に受け入れ
 るような人物ではありません。多くの科学者は時間旅行、つま
 り、タイムトラベルなどできるはずがないと決めこみ、きちん
 と考えることをしてきませんでしたが、彼は勇気をもって物理
 学的に可能かどうか真剣に考えたのです。
  ――スティーブン・ホーキング著 佐藤勝彦訳『ホーキング
 未来を語る』より アーティスハウス刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ホーキングがソーンに関連してとはいえ、タイムトラベルにつ
いて述べることは大変珍しいことです。
               ・・・・・[タイムマシン10]

2006年07月05日

なぜ特殊相対性理論というのか(EJ第1148号)

 ここまでの考察で、タイムマシンには、ブラックホールなどの
宇宙に存在する穴(ホール)が深く関わっていることがわかって
きました。
 このことをさらに理解するには、宇宙のホールと重力の関係を
よく理解する必要があります。宇宙の穴をブラックホールである
として、それと重力との関係について考えてみます。
 タイムマシンのテーマを最初に取り上げたEJ1138号で、
一般相対性理論と特殊相対性理論の違いを次のように簡単に説明
したのですが、覚えているでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    特殊相対性理論 ・・・ 加速度考えない
    一般相対性理論 ・・・ 加速度を考える
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 特殊相対性理論の「特殊」とは一体何でしょうか。
 「特殊」というのは、その理論――相対性理論の制限枠を意味
しています。その制限枠とは次のようなものです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 制限枠=物理法則を考える観測者が等速直線運動をしていると
     いう条件下において成立する。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 つまり、特殊相対性理論とは、この条件の下に、光や物体の運
動、時間と空間の性質について論じているのです。要するに、特
殊相対性理論は制限付きの理論であるということになります。
 そもそも「相対」という考え方を物理学の世界に初めて持ち込
んだのは、地動説を唱えたあのガリレイなのです。ガリレイの地
動説に反対するため、次のように反論した学者がいたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 高い塔の上から石を落とした場合、石は真下に落ちる。もし、
 地球が動いているなら、石は真下に落ちないはずである。なぜ
 なら、石が落下している間に地球が動いてしまうからである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに対して、ガリレイは、一定速度で動いている船のマスト
の上から石を落としても、船上にいる人にとっては、石は真下に
落ちるように見えることを指摘して反論しています。なぜなら、
石も船と一緒に動いているからなのです。石は手から離れた後も
慣性によって、船と同じ速さで前に投げ出されながら落ちていく
のです。
 もし、陸上にいる人がその石を落とす瞬間を目撃したとすると
石は前方に放物線を描いて落ちるのがわかるはずです。つまり、
それを見る視点によって異なるのです。
 このことから、船が止まっていても動いていても、船に乗って
いる人にとっては、石はいつも真下に落ちるのです。これを「ガ
リレイの相対性原理」と呼んでいます。特殊相対性理論も「等速
直線運動」という条件下における光を含めた物質の運動の様子、
時間や空間の相対的尺度を考える理論なのです。
 アインシュタインは、この「特殊」という条件を外して、どの
ような場合でも理論が当てはまるようにしようと思ったのです。
そして、作り上げたのが「一般相対性理論」です。
 考えてみてください。「等速直線運動」という条件は、その言
葉通り特殊な条件といえます。ほとんどのものは、速度や運動の
方向は絶えず変化しているものです。これを物理学では、「加速
度」と呼んでいるのです。
 この加速度――速度が増加する場合、減速する場合、運動の向
きが変化する場合、すべて加速度と呼ぶのです。この加速度運動
をする観測者から見ると、物体の運動の様子はかなり違って見え
るのです。なぜなら、加速度運動は相対的な運動ではないからな
のです。
 飛行機が必要な高度まで上昇して一定速度で安定飛行に移った
場合、飛行機は猛スピードで飛んでいても、乗っている人には、
速度をほとんど感じないはずです。この状態で手から石を落とせ
ば、真下に落ちます。しかし、飛行機が離陸後上昇しているとき
に石を落とせば、石は真下には落ちません。これは、加速度運動
の状態にあるからです。
 加速度運動の代表的なものは、自由落下運動です。高いビルの
上から物体を落とした場合、空気抵抗を考えない場合、物体は毎
秒9.8メートルの割合で加速しながら落下します。物体を自由
落下させる力は地球の重力です。重力は、質量を持つすべての物
質の間に働く引力であり、そのため万有引力と呼ばれます。
 重力はあらゆる物質に働く力です。したがって、あらゆる運動
は加速度運動をしているといえます。特殊相対性理論は、加速度
運動をしている観測者の視点を考えることはできないのですから
非常に限定的な理論といわざるを得ないのです。
 もうひとつアインシュタインにとっては、重力の問題を解決し
ないと困る事情があったのです。それは「この世には光を超える
ものは存在しない」という特殊相対性理論の基本前提を変えざる
を得ないということです。
 従来の物理学では、重力は2つの物質の間で瞬時に時間ゼロで
働く力とされていたのです。つまり、重力の伝わる速さは無限大
なのです。この無限大の速度――すなわち時間ゼロで伝わる重力
を信号として使うと、そこには絶対時間が成立してしまうことに
なるのです。
 例えば、「午前○時」という信号を重力の信号で一瞬のうちに
――すなわち、時間ゼロで全宇宙に伝え、それから1分後に「午
前○時1分」という重力信号を送ったとします。そうすると、全
宇宙において、同一の1分間という尺度が持てることになる――
これは、絶対時間そのものではありませんか。
 特殊相対性理論は、全宇宙において同一の1分間などいう絶対
的な時間は存在しないという前提からスタートしており、これが
成立すれば、特殊相対性理論は崩壊してしまうのです。アインシ
ュタインは、どうしてもこの問題を解く必要があったのです。そ
して、1915年に一般相対性理論は生まれたのです。
                 ・・・[タイムマシン11]

2006年07月06日

重力の真の姿を追求する(EJ第1149号)

 特殊相対性理論は、1905年に発表されましたが、それを重
力も説明できる理論にバージョンアップさせるためには、さらに
10年の歳月が必要だったのです。
 1915年から1916年にかけて、アインシュタインは、一
般相対性理論――特殊相対性理論のバージョンアップ版――を発
表します。この新理論においては、単に重力を説明できるように
なっただけではなく、重力について新しい真理ともいうべきもの
を提示しているのです。
 重力についての新しい真理とは、重力という力の重要な性質と
いうべきもので、「等価原理」といわれます。アインシュタイン
は、1907年になってこの等価原理に気がつき、それから特殊
相対性理論のバージョンアップは急速に進んだのです。
 ところで、「等価原理」とは、一体何でしょうか。
 一言でいうと、「加速度は重力と等しい価値を持つ」というこ
とです。等価原理について説明しましょう。添付ファイルのイラ
ストを見ていただきたいと思います。
 ロケットの中に宇宙飛行士がいます。Aは、出発地点の状態で
すが、宇宙飛行士の足は床についています。この段階では、地球
の重力が働いているからです。
 ロケットは地球を離れ、宇宙に飛び出します。そして、宇宙空
間でロケットのエンジンを止めます。これがBです。この段階で
ロケットは、一定の速度で直進する等速直線運動を行うことにな
ります。このとき宇宙飛行士の体はロケットの中に浮かんでいま
す。無重力状態になったからです。
 さて、ここからが重要です。ここでロケットはエンジンを再点
火させると、ロケットは加速して進み出します。そうすると、宇
宙飛行士の足は、再びロケットの床につきます。Cがその段階で
す。これは、加速度運動を行うと、重力が働いたような状況が生
まれることを示しています。
 これは何を意味しているのでしょうか。
 注目していただきたいのは、宇宙飛行士の足が床につく状態を
引き起こす上での重力という力と、加速度運動が同じ働きをして
いる点です。ロケットが加速度運動を行えば、ロケット内にいる
宇宙飛行士も加速度運動をすることになるのです。この加速度が
重力と等しい価値を持つということを「等価原理」と呼んでいる
のです。
 重力と加速度が等しい価値を持つのであれば、加速度運動を行
うことによって、重力が働いているような状態を作り出したり、
または逆に実際に存在している重力を消したりできることになり
ます。要するに、重力は加速度運動によって作られる「見かけの
力」ということになります。
 加速度運動によって作られる「見かけの力」のひとつに「遠心
力」があります。自動車に乗っていて急にハンドルを切ると、車
内に乗っている人はハンドルを切った方向とは逆向きに倒れそう
になりますね。これが遠心力です。
 これは、車に乗っている人に重力が加わったのではなく、運転
の向きを変えるという加速度運動を行ったことで、自動車と一緒
に加速度運動を行う車に乗っている人に見かけ上の力が加わった
感じになるだけのことなのです。
 ところで、重力は本当に「見かけの力」なのでしょうか。加速
度運動によって重力の影響を消すことができるのでしょうか。重
力は真に実在する力ではないのでしょうか。
 飛行機で高度数千キロメートルまで上昇として、飛行機のエン
ジンを切ったとします。そうすると、飛行機も機内の人も地球の
重力に引かれて自由落下運動をはじめます。ちなみに、自由落下
運動は加速度運動の代表的なものです。
 このとき機内の中はどうなるでしょうか。
 そうです。無重力状態になります。なぜなら、飛行機と機内の
人が同じ速さ――つまり加速度で自由落下するために重力がなく
なったように見えるのです。
 しかし、分かりにくいのですが、機内の人にとって重力の影響
は完全になくなったわけではないのです。このとき、機内の人が
両手にボールを一つずつ持って、それを静かに手放したとすると
ボールも無重力状態になって、ふわふわ浮かんで見えます。無重
力状態ですから、当然ですね。
 しかし、これら2つのボールはよく観測すると、少しずつ近づ
き、間隔が狭くなっていくことが分かったのです。これは、加速
度運動による自由落下運動でも消えずに残っている重力の影響に
よるものなのです。飛行機も機内の人も2つのボールも地球の中
心方向に落下していくのですが、2つのボールについていうと、
ボールは地球の一点に向って少しずつ近づいていくように見える
のです。一見重力が消えたかに見える状況においても、2つの物
体をこのように近づける重力が働くのです。その意味では、重力
は真に実在する力ということになります。
 このように、2つの物体を近づける力は、別な状況でも起こる
ことがあります。有名な例を紹介しましょう。
 赤道上空の離れた2点から、2機の飛行機が経度線上をそれぞ
れ真北に、同時に同じ速度で飛んだとします。地球儀を見ると分
かるように、経度線はすべて平行になっていますから、2機の飛
行機は、互いに平行な向きに飛んでいることになります。
 しかし、北に向うにつれて、2機の飛行機の間隔は縮まり、遂
に北極点では衝突してしまうのです。この原因は明らかです。そ
れは地球の表面は丸い曲面であり、曲がっているからなのです。
もし、地球の表面が平面であれば、2機の飛行機は平行飛行を続
けて間隔が縮まることはないはずです。
 アインシュタインは、これら2つのことを考え合わせて、重力
の真の姿をとらえることに成功します。それは、誠に画期的な発
明だったのです。それは「重力とは時空の曲がりの産物である」
ということだったのです。これについては、明日のEJで詳しく
説明します。          ・・・・[タイムマシン12]

等価原理/重力と加速度.JPG

2006年07月07日

重力は時空のゆがみそのものである(EJ第1150号)

 昨日のEJで、平行に真っ直ぐ飛ぶ2機の飛行機が少しずつ間
隔が縮まり、そのまま行くと衝突してしまうということをお話し
しました。その理由は、地球という球面の上を飛ぶからです。
 アインシュタインは、この考え方を重力に当てはめて、重力の
正体について、次のような革命的な解釈を発表したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 重力による落下とは、曲がった時空の中を物体が運動すること
 である。              ――アインシュタイン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ところで、「曲がった時空」とは何でしょうか。
 「曲がった時空」は、「曲がった空間」と「曲がった時間」に
分けて考えるとわかりやすいと思います。「曲がった空間」から
説明します。
 「曲がった空間」――本来は3次元で考えるべきことですが、
複雑になってしまうので、2次元の空間で考えます。宇宙をトラ
ンポリンの表面――柔らかくて、弾力のあるものであると考える
のです。
 その上に1個のボールを乗せます。そうすると、平面はゆがみ
ます。そこで、もうひとつボールを乗せると、表面はさらにゆが
みます。そして、そのゆがみが原因で、2つ目のボールは最初の
ボールの方にころがって行ってくっついてしまいます。
 アインシュタインは、このボールがくっつく動きこそが重力で
あると考えたのです。その原因は平面のゆがみや曲がりであり、
お互いに引かれ合うような動きを生む――と考えたのです。
 トランポリンの表面にボールを乗せると表面がゆがむように、
アインシュタインは、宇宙においても物質があると、その周囲の
空間は曲がるはずだと考えたのです。その曲がった空間の中で物
質の動きを観察すると、重力が働くような現象――お互いに引き
合ったり、他の物質に引かれて2つの物質が近づくというような
運動をすることがわかったのです。
 このことからアインシュタインは、重力とは「空間――正しく
は時空の曲りそのものである」と結論づけたのです。それまで、
重力があるということは誰でも知っていたのですが、どのように
して物質に重力が働くのかはわかっていなかったのです。アイン
シュタインはそれを解明したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 物質には必ず質量というものがあり、質量はエネルギーと同じ
 ものである。その物質のエネルギーが周囲に影響して時空を曲
 げ、その曲った時空の中で物質が運動することによって重力が
 働くのである。           ――アインシュタイン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 それでは、「曲った時間」とは何でしょうか。
 簡単にいってしまえば、「曲った時間」とは、時間の遅れを意
味するのです。特殊相対性理論では、運動しているものは時間が
遅れることを明らかにしましたが、一般相対性理論では、物質が
存在すると時間が曲り、時間が遅れる――つまり、重力が働くと
時間が遅れるということになります。
 この一般相対性理論――どのようにしてその正しいことが証明
されたのでしょうか。
 1919年に南半球で皆既日食が観測されているのですが、太
陽のすぐ近くにある星の位置が本来見えるべき位置からずれて観
測されたという事実があります。
 太陽という巨大な質量を持つ物質の近くを通る光は、太陽の質
量による時空の曲りで、その進路が曲げられて星の位置がずれて
見えたことがわかったのです。そのずれの角度は、一般相対性理
論に基づく計算値と一致したのです。
 アインシュタインの話でよく出てくる例ですが、重力が非常に
強い星の上で、望遠鏡でものを見ると、自分の後ろ姿が見えると
いうのがあります。これは、重力が非常に強い星の上では大きく
時空が曲げられ、視線も大きく曲って地球を一周して自分の背中
が見えるというわけです。
 1971年に、原子時計をジェット機に積んで上空に飛ばし、
相対性理論が示す時間の遅れを計測する実験が行われています。
原子時計というのは、セシウムという金属の原子が出すある波長
を基準とした時計で、1秒について10兆分の1秒しか狂わない
世界で一番正確な時計です。
 この原子時計をジェット機に積んで、地球上空をぐるりと周回
させ、戻ってきた時計を地上に置いてある原子時計と比較したの
です。これには、特殊相対性理論と一般相対性理論の両方が影響
するのです。
 まず、「運動するものは時間が遅れる」という特殊相対性理論
によって、ジェット機の原子時計は地上の原子時計よりも時間が
遅く進みます。これは、今までに何回も説明しました。
 しかし、一般相対性理論では、「重力によって時間は遅れる」
ことを明らかにしています。地球の重力の影響は、地上よりも上
空の方が小さいので、上空の原子時計は逆に地上の原子時計より
も速く進むことになります。
 つまり、ジェット機に積んだ原子時計は、運動の影響と重力の
影響の2つが複合されて、時間の進み方に変化が生ずることにな
るのです。実際に、ジェット機の原子時計は、地上の時計に比べ
て、1000万分の1秒〜1億分の1秒だけ時間の進み方が、異
なっていることがわかったのです。この数値を分析したところ、
相対性理論の予想値とほぼ一致したそうです。
 このように重力による空間の曲りや時間の遅れは、一般相対性
理論の発表後に行われた数々の実験によって、その正しいことが
証明されているのです。
 ブラックホールは、時空のゆがみがその極に達している場所と
いわれています。そこでは、光でさえ脱出できないような重力の
領域であり、時間はほぼ凍りつき止まってしまいます。しかし、
そこにタイムマシンの謎を解く大きなヒントが隠されている――
そのように考えられるのです。   ・・・[タイムマシン13]

2006年07月10日

GPS衛星は時間を補正している(EJ第1151号)

 地上に置かれた原子時計と地球の上空を飛行している飛行体に
搭載されている原子時計の時間の差について、昨日のEJで述べ
ましたが、これは重要なことなので、もう少し詳しくお話しして
おきたいと思います。
 1971年に行われた実験では、原子時計を積んだジェット機
は地球を東回りで一周したのです。一方、地上の原子時計も地球
の自転により、動いているのですが、この比較ではジェット機の
方が速く運動しているので、ジェット機の中の時計の方が時間の
遅れは大きくなります。
 しかし、もうひとつ考慮すべきものに重力があります。重力に
ついては、地上と上空では差があります。地上の方が強力であり
上空の方は弱くなります。したがって、重力による時間の遅れは
地上の原子時計の方がジェット機の中の時計よりも遅れは大きく
なります。
 以上を勘案して計算した結果と実際に測定した結果は次のよう
になります。ちなみに、1ナノ秒とは、10億分の1秒です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 理論値:地上の原子時計は、上空の時計よりも「40ナノ秒」
     遅れている。
 観測値:地上の原子時計は、上空の時計よりも「59ナノ秒」
     遅れている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これで地上の時計の方がより遅れるということが明らかになり
ましたが、数値自体にはかなり差があります。しかし、原子時計
には、プラスマイナス20ナノ秒の誤差が許されているので、実
験結果は理論値の正しさ――つまり、アインシュタインの一般相
対性理論の正しさを証明したことになります。
 これはいろいろなものに応用されているのです。そのひとつに
GPS衛星の精度を高めることへの応用がありますので、簡単に
ご説明します。
 今やカーナビは当たり前になっていますが、どういう仕組みに
なっているかご存知でしょうか。
 カーナビは、高度2万キロメートルの軌道上を約半日で周回す
る30機ほどのGPS衛星のうち、4〜5機の衛星から電波を受
信し、自分の現在地を割り出すシステムなのです。GPSとは、
次の言葉の頭文字をとったものです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 GPS=Global Positioning System/全地球測位システム
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 GPSは、米国が軍事用に開発したものであり、かなりの間、
民間での利用が制限されてきたのです。どのように制限するかと
いうと、米国の陸海空全軍が民間用に割り当てられているGPS
衛星の衛星信号に対して意図的にスクランブルをかけて正確には
位置の測定ができないようにしていたのです。
 しかし、この措置は、2000年5月1日をもって、クリント
ン大統領が陸海空全軍に対し、解除命令を出したことによって、
民間で利用するGPSの精度は一挙に10倍近くも向上するよう
になったのです。
 さて、カーナビの受信機がGPS衛星からの電波を受信すると
電波の発信時刻と受信時刻の差からGPS衛星までの距離が計算
できるのです。GPS衛星の位置は正確に分かっていますから、
それらの情報から自分の現在地を計算するのです。これがGPS
の仕組みです。
 ところで、GPS衛星は、高度2万キロメートルの上空を猛ス
ピードで周回しています。そのため、GPS衛星に積んだ時計は
運動の影響と重力の影響との両者が複合されて、時間の進み方に
変化が生ずることになります。この時計は、電波の発信時刻を知
らせる働きをするのです。
 実際に計算してみると、GPS衛星の時計は、地上の時計より
もわずかですが、速く進んでしまうことが判明しています。した
がって、これを補正するために、GPS衛星の時計は、あらかじ
め、毎秒100億分の4.45秒だけ遅く進むようにしてあるの
です。地上の対象物の位置を正確に定めるためには、衛星の時計
のほんのわずかな進みも補正する必要があるのです。
 以上の話から、重力が強いということが、いかに時間に影響を
与えるかが理解できると思います。一般相対性理論は、物質の質
量によって周囲の時空が変化して曲がることを明らかにしていま
す。しかし、実際は、太陽ほどの質量のあるものでも、時空がわ
ずかしか曲がっていないことが確かめられているのです。
 1916年のことですが、ドイツの天文学者であるシュワルツ
シルトは、非常に強い重力を持つ物質の周囲では、ブラックホー
ルのような領域ができることを発表しているのです。それでは、
どのくらい重力が時空を激しくゆがめるのでしょうか。
 太陽の半径は、70万キロメートルあります。あり得ない仮定
かも知れませんが、この太陽を巨大な力で圧縮して半径を3キロ
メートルよりも小さくしてしまうとします。そうすると、そこに
は激しく時空が曲がる空間が出現します。そこは、光でさえも脱
出できない領域なのです。それが、ブラックホールです。
 アインシュタインはシュワルツシルトの発表に衝撃を受けたと
いわれています。彼は、宇宙にブラックホールのような物質や場
所が実在することに否定的な考え方を持っていたからです。
 しかし、何人かの物理学者が、太陽よりもはるかに重い星が、
最後に大爆発を起こし、そのさいに星の中心部にあった物質が極
限まで押し潰され、重力が限りなく強くなっていくと、ブラック
ホールのような領域ができるということを発表するに及んでその
存在を認めるようになったといわれます。
 6月21日のEJ1138号からタイムマシンの話をしている
のですが、前提知識が多く必要で、なかなか核心に入り込めませ
ん。つくづくこのテーマは奥が深いと思います。しかし、何とか
ブラックホールまでたどり着きました。明日からは、話はもっと
具体的になります。        ・・・[タイムマシン14]

2006年07月11日

ワームホールをスターゲートに利用する(EJ第1152号)

 ブラックホールが発見されたのは、1960年代の後半のこと
です。それ以来ブラックホールは、他の宇宙への入口――スター
ゲ−トとして、しばしばSFの世界に登場するようになります。
なぜなら、遠すぎる恒星間の距離を克服するための手段として、
または時間の流れを反転させるための道具としてこれを利用する
のが、本当っぽくて便利だからです。
 「スターゲ−ト」というのは、一方の穴を潜るとその出口は別
の宇宙につながっていて、時間差なしで星間移動ができる入口の
ことです。スターゲ−トには、われわれの宇宙と他の宇宙とを結
ぶワームホールや、同一宇宙同士を結ぶワームホールが想定され
ています。これを潜ることによって、地球から金星、シリウス、
白鳥座、アンドロメダなどへはすぐに行くことができるという画
期的なものです。
 何しろ地球から最も近い恒星である「アルファ・センタウリ」
までの距離は、約40兆キロメートルもあるのです。現在では、
約40キロメートルしか離れていない月に行くのでさえ、3日か
かるのですから、この計算で行くと、アルファ・センタウリまで
行くのには100万年かかることになります。これでは、たとえ
小説でも、スペース・コロニーのようなものを作って、何世代に
もわたって宇宙旅行することになってしまいますから、作家とし
ては困るわけです。
 しかし、SF小説の世界ではなく物理学の真面目な世界におい
て、スターゲートとなる可能性のある宇宙のホールには、次の7
つがあるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  1.ゲーデルの自転する宇宙
  2.ティプラーの無限に長い回転円筒
  3.シュワルツシルトの質量が大きなブラックホール
  4.ライスナー=ノルドストロームのブラックホール
  5.カーの質量が大きく、自転しているブラックホール
  6.カー=ニューマンのブラックホール
  7.超極限のカー物体(SECO)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これらは、アインシュタイン方程式の7つの解といわれるもの
です。しかし、これらをひとつずつ説明すると、相当のスペース
を要することと、非常に難解になるので、やめることにします。
ただ、多くの科学者が、大真面目にスターゲートについて研究し
ていることについては、知っておいていただきたいと思います。
 ブラックホールに関しては面白い話がたくさんあります。
 アインシュタインの相対性理論が発表される前の話ですが、フ
ランスの数学者のシモン・ラプラスという人がニュートンの力学
の結論として、ブラックホール状の天体の存在を考えていたとい
うのです。1795年のことです。
 ある惑星から発射された物体――ロケットでも何でもいいです
が、その物体の脱出速度はその惑星の質量と半径で決まります。
ラプラスは、質量が非常に大きいために脱出速度が光速を超える
ような惑星を想定して計算してみたのです。
 こういう惑星では、光もその表面を離れることができないので
まったくの暗黒に見えます。これはまさしく現代のブラックホー
ルそのものといえなくもありません。
 さて、ラプラスはニュートンの重力の法則を用いて、この暗黒
惑星の半径を計算してみたのです。実は、ニュートンの法則では
そんな巨大な質量の天体の重力効果は計算できないことになって
いたのです。後年このことをアインシュタインは自ら証明してい
るのですが、当時としては正しい計算だとされたのです。
 しかし、不思議なことに、ラプラスの計算した暗黒惑星の臨界
半径は、後年シュワルツシルトが計算したアインシュタインの一
般相対性理論の解とぴったりと一致したというのです。しかし、
それは、物理学の世界では珍しい「偶然の一致」だったのです。
このようなことがあったので、アインシュタインの相対性理論に
は、多くの反発と誤解が生まれ、正当に受け入れられるまでには
さまざまな困難があったのです。
 アインシュタインは、1922年にノーベル物理学賞を受賞し
ていますが、その受賞の名目は相対性理論ではなく、「理論物理
学の諸研究――とくに光電効果の法則の発見」だったのです。し
かし、その時点においてアインシュタインの相対性理論は物理学
の世界ではなくてはならない理論として定着していたのです。
 なぜ、相対性理論が受賞の名目ではないのかということについ
ては、ノーベル賞が「人類に大きな利用価値をもたらすような新
たな発見に対して授与するもの」であるからとしています。そし
て、相対性理論については、この理論は時間や空間の性質を再定
義しただけであり、新発見に該当しないとか、光速度に近づいた
世界でないと役に立たないとか、反対論を主張した選定委員が多
かったそうです。
 もうひとつ、当時、第一次世界大戦に敗れたドイツの中でユダ
ヤ人排斥を唱えるグループが台頭してきており、ユダヤ人である
アインシュタインにそういう賞を与えることに反対する政治的な
理由もあったのです。それに、あまりにも素晴らしい発明である
ため、多くの学者の嫉妬も相当強かったと想定されます。
 さて、タイムトラベルの話をするさいに必ず出てくるものに、
因果律の問題があります。そこで、週末の宿題として次のことを
考えてみていただきたいのです。
 ある教授が、2005年にタイムマシンを作り、2010年に
行ったのです。目的地に着くと、彼は大学図書館に行って、最新
の論文をいくつか拾い読みをします。そして、数学に関するある
定理をメモして、2005年に帰ってきたのです。
 そして、優秀な学生を集めて、その定理の概略を教えます。学
生は、それを整理して論文にまとめ、2010年に数学の論文雑
誌に投稿したのです。その論文雑誌というのが、教授が2010
年に読んだあの雑誌だったのです。どうでしょうか。その数学の
定理はどこから現れたのでしょうか。
                 ・・・[タイムマシン15]

2006年07月12日

天文学者製作の映画『コンタクト』(EJ第1153号)

 EJ1152号において宿題として出した因果律に関わる問題
は、「因果関係の輪」――「情報をめぐる因果関係」といわれて
います。この因果関係の輪は、原因と結果がひとつの輪のように
つながった状況――ある出来事の結果がその出来事の原因である
ような状況になっているものをいうのです。
 実は、1985年制作のロバート・ゼメキス監督の映画『バッ
ク・トゥ・ザ・フューチャー』の中に、この情報をめぐる因果関
係の輪が登場するのです。
 友人の科学者の作ったタイムマシンに誤って乗り込んで30年
前の世界に行った高校生のマーティは、その世界でチャック・ベ
リーの「ジョニー・B・グッド」という曲を演奏します。ところ
が、当時、この曲はまだ書かれていなかったのです。
 この音楽に感動したある男がチャック・ベリーに電話し、この
演奏を聴かせるのです。チャック・ベリーはマーティの演奏にヒ
ントを得て「ジョニー・B・グッド」を書きます。マーティは、
30年後の世界でチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」
を聴いていたからこそ、30年前の世界で演奏することができた
のです。ここにパラドックスが生じます。
 マーティの演奏によってチャック・ベリーは曲を書き、チャッ
ク・ベリーの作曲によってマーティは演奏しているのです。どち
らが原因で、どちらが結果なのでしょうか。これは、ある楽曲、
すなわち、情報をめぐる因果関係の輪なのです。
 こういう因果律の問題は、タイムトラベルの関連テーマとして
改めて取り上げる予定なのでひとまずおいて、この映画『バック
・トゥ・ザ・フューチャー』の監督、ロバート・ゼメキス監督の
撮ったもうひとつのタイムトラベルに関係する映画作品『コンタ
クト』についてお話しすることにします。この映画では、あのワ
ームホールが登場し、実際に目にすることができるからです。
 もともとタイムトラベルは、H・G・ウエルズの『タイムマシ
ン』のように、SF小説とともに生まれ、ごく最近までSF小説
の世界だけのものだったのですが、この映画『コンタクト』の同
名の原作小説は、タイムトラベルの問題を真面目な科学の研究対
象にするきっかけになった作品といえるのです。
 というのは、1980年代に発表された小説『コンタクト』の
作者カール・セーガンは、小説家にして、れっきとした天体物理
学者であり、小説の中のタイムトラベルの記述において、友人の
理論物理学者キップ・ソーンに相談するなど、彼の研究に大きく
依存しているところが多いからです。
 セーガンがソーンに相談した内容とは、「ワームホールが星間
空間を渡る近道として使えないか」というものだったのですが、
ソーンとその仲間は、セーガンのアイデアを現実のものとするに
はどうするかについてプロジェクト・チームを作って研究したと
いわれています。
 彼らは、「リバース・エンジニアリング的手法」――完成品を
解析してそれに利用されている技術を分析する手法を使って、星
間空間をショートカットする方法を導き出しているのです。
 映画『コンタクト』は1997年に製作されていますが、映画
のデータは、次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   題名 ・・・・・・ 『コンタクト』
   監督・製作 ・・・ ロバート・ゼメキス
   原作 ・・・・・・ カール・セーガン
   主演 ・・・・・・ ジョディ・フォスター
   時間 ・・・・・・ 150分
   製作会社 ・・・・ ワーナーブラザーズ1997年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 製作の経緯から何か難しい映画と誤解されるかも知れませんが
非常に内容の充実した映画で、2時間30分の上映時間があっと
いう間に過ぎてしまうほど面白いです。主演のジョディ・フォス
ターの演技は迫力があって素晴らしく、ぜひ、ご覧になることを
お勧めします。DVDで、2000円で入手できます。
 『コンタクト』のような映画を製作する場合、製作者としては
次のような困難性があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.地球から遠く離れた恒星に時間を短縮してどのような手段
   で行くか。
 2.恒星に行くロケットやその他の乗り物をどのように設計し
   て作るか。
 3.目指す恒星に行けたとしてもその世界や異性人をどのよう
   に描くか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ましてこの映画の原作者のカール・セーガンは単なる小説家で
はなく天体物理学者なのです。当然のことながら、セーガンは、
その内容を科学的に矛盾のないものにしたいと考えたのです。
 『コンタクト』では、地球から26光年離れた恒星ヴェガに行
くストーリーになっていますが、地球から最も近い恒星「アルフ
ァ・センタウリ」ですら、現在の技術では100万年もかかって
しまうのです。
 この時間をどのようにして短縮するか――この解決策として、
セーガンはワームホールを持ってきて、それを時間短縮の手段と
して使っています。ワームホールの描写は凄いといえます。
 それでは、ワーホールを潜り抜けてヴェガに行く「ポッド」の
設計はどうしたのかというと、それは恒星ヴェガから送られてき
た設計図によって作るという設定になっています。実に卓抜のア
イデアであると思います。
 しかし、映画で、恒星ヴェガの光景やヴェガ人の描き方には苦
しんでいます。なお、映画と小説の描写には大きく異なるところ
があり、小説の方も読まれることをお勧めします。
 この映画の内容については、明日のEJでも続けて取り上げる
ことにします。         ・・・・[タイムマシン16]

映画『コンタクト』.JPG<