注目すべき2つの”メンコン”(EJ1136号)
音楽の話題から入ります。テーマはメンコン――メンデルスゾ
ーン作曲「ヴァイオリン協奏曲ホ短調 作品64」です。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調といえば、あま
り音楽を聴かない人でも、最初の出だしの部分くらいは、知って
いるくらいポピュラーな曲のひとつです。
しかし、この曲に関する限り、心から満足できる演奏にめぐり
合える機会は少ないのです。多くのヴァイオリニストがこの作品
に挑み、数え切れないほどのCDが制作されているのにです。そ
れでいて、決定盤といえるものが少ないのです。それは、この曲
を演奏することが非常に難しいからです。
もちろん技術的に難しいという意味ではありません。それは、
この曲が、一度でも耳にすれば、誰もが忘れることのできない美
しいメロディを持ちながら、ちょっと演奏を誤ると、単なるセン
チメンタルな音楽になってしまうという危うさがあるからです。
演奏者はそういう音楽にならないようにしながら、この曲に本
来備わっている気品の高さや古典的な造形の美しさも表現しなけ
ればならない――これは至難のわざなのです。
ごく最近のことですが、注目すべき2つのメンコンが相次いで
発売されています。
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メンデルスゾーン作曲「ヴァイオリン協奏曲」ホ短調作品64
1.ヴァイオリン/ヴィクトリア・ムローヴァ
ガーディナー指揮
レヴォリュショネール・エ・ロマンティックO
(フィリップス/UCCP1075)
2.ヴァイオリン/五嶋みどり
マリス・ヤンソンス指揮
ベルリン・フィルハーモニーO
(ソニークラシカル/SICC123)
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この2つは対照的なメンコンといえます。両方を購入してもソ
ンはないということです。カップリングもお教えしましょう。
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ムローヴァ ・・・ ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲
五嶋みどり ・・・ ブルッフ のヴァイオリン協奏曲
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もともとムローヴァのメンコンは定評があり、私は高く評価し
ているのですが、今回の新盤は今までにない大きな特色があるの
です。というのは、この盤は古楽器を使って、新しい感覚の音色
でメンコンに挑戦しているからです。
現在のヴァイオリンは、ナイロン弦やスティール弦を使ってい
ますが、昔のヴァイオリンの弦はガット(羊腸線/ガット弦)を
使っていたのです。羊の小腸の一部分の繊維だけを取り出して、
これを太さに応じて何本も作り、E線からG線まですべてガット
で弦を張ったのです。
このCDでムローヴァは、メンデルスゾーンもベートーヴェン
もガット弦を張ったヴァイオリンで演奏しています。ですから、
聞き慣れない音がときどき出てくるので、かえって新鮮な感じが
するのです。しかし、2002年6月の録音であり、「レコード
芸術」の録音点数は93と、音は申し分ないのです。
もう一枚の五嶋みどりのCDは、マリス・ヤンソンス指揮のベ
ルリン・フィルとの共演です。このヤンソンスという指揮者は、
現在ヨーロッパの音楽界でサイモン・ラトルと人気を二分するほ
どの指揮者であり、五嶋にとって、現在望みうる最高の共演者と
いっても過言ではないでしょう。
ところで、この五嶋みどり――メンデルスゾーンもブルッフも
初録音であり、とくにメンコンに関しては実演でもここ10年以
上弾いたことがなく、本人にいわせると録音はあきらめていたと
いうのです。五嶋みどりといえば、既に20年以上のキャリアが
あり、実力派です。それでいて、このポピュラーな曲を録音する
のに逡巡する――それほど、この曲は難しいといえます。
録音は、ムローヴァと同じ2002年6月であり、非常に新し
い録音です。「レコード芸術」の月評にはまだ登場していません
が、音楽評論家の中村孝義氏は次のように絶賛しており、特選盤
か推薦盤は間違いないと思われます。
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今さら五嶋みどりに対して失礼かもしれないが、この演奏は、
いよいよ彼女が、後世に名を残す本物の芸術家への第一歩を踏
み出した演奏のように思えてならない ――中村孝義氏
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それに五嶋みどりの演奏は、メンデルスゾーンとブルッフとも
に、ライブ録音であるということです。それでありながら、両方
とも、きわめて完成度の高い演奏であるといえます。もし、質の
高いメンコンを1枚欲しいと望まれるのであれば、五嶋みどりの
方をお勧めしたいと思います。
このようにいうと、五嶋みどりの盤がムローヴァ盤を上回って
いるようにとる人がいるかも知れませんが、どちらも価値の高い
演奏であることには変わりはないのです。ただ、ムローヴァの場
合は、古楽器を使っている点が特殊であって、その点五嶋みどり
の方が一般的であるということだけです。
ムローヴァ盤について興味が尽きない点は、やはりガット弦を
中心とする古楽器の音です。ムローヴァは、ベートーヴェンでも
メンデルスゾーンでもガット弦を見事に鳴らしており、自然な音
作りに成功しているといえます。もともとムローヴァは、実演で
聴くと線の細い演奏になるのですが、このCDではそれが繊細さ
となって響いています。そういう意味で貴重な一枚といえると思
います。 ・・・・・[メンコン01]
