現代曲化が試みられる『四季』(EJ第731号)
3月10日から少しまとまったテーマについて連載するので、今週の分として、2回
の短い音楽のテーマを取り上げます。このレポートは、2001年10月29日と30
日の2日間取り上げたものであることをお断りしておきます。
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ヴィヴァルディが作曲した「四季」という曲をご存知ですね。この曲は日本人が最も
好むクラシック曲の1つといわれていますので、クラシックがあまり好きでない方でも
何回かは聴いたことがあると思います。
「四季」というタイトルをつけた曲は、チャイコフスキー、グラズノフ、ヨゼフ・ラ
ンナーなどいろいろありますが、その中でもヴィヴァルディの「四季」はダントツで、
今や「四季」といえばヴィヴァルディの「四季」を指すくらい、有名な曲になっています。
もうひとつ、ヴィヴァルディの「四季」ほど現代の音楽家が好んで現代風にアレンジ
を加える素材として取り上げる曲はないということです。ヴィヴァルディの「四季」を
現代風に演奏して成功したひとりに「ナイジェル・ケネディ」という人がいます。ケネ
ディの演奏は、もし、ヴィヴァルディがタイムスリップして現代にきたら、「四季」を
このように演奏するでしょうという表現法であるといわれています。
チェロの巨匠、ミッシャ・マイスキーがタクシーに乗ったところラジオで「四季」を
やっていたので、「止めてくれ」と頼んだそうです。そうしたら運転手が「お客さん、
この曲をご存知で・・・」と聞いてきたので、「ヴィヴァルディの・・」と答えると運
転手が笑って「はずれ!」といったというのです。「そういう曲じゃない。これはナイ
ジェル・ケネディ!」といったというのです。ナイジェル・ケネディ――それほど大ヒ
ットしたのです。
ところで、近代タンゴの巨匠、アストル・ピアソラの曲の中にも「四季」があるのを
ご存知でしょうか。「ブエノスアイレスの四季」というタンゴの名曲です。実は最近ヴ
ィヴァルディの「四季」とピアソラの「ブエノスアイレスの四季」をドッキングさせ1
つの曲として仕上げたヴァイオリニストがいます。
そのヴァイオリニストの名前はギドン・クレーメルです。クレーメルは1947年に
ラトヴィアのリガに生まれたヴァイオリニストで実力派として知られていますが、この
人があまねく有名になったのは1996年に「ピアソラへのオマージュ」というCDを
出してからです。
当時ピアソラの曲はあまり知られていなかったし、CDに収録されている曲も有名な
ものではなかったのに、このCDは爆発的に売れてベストセラーアルバムになります。
以後クレーメルは続々とピアソラのアルバムをCD化していますが、そのほとんどがヒ
ットしているのです。
最近のクレーメルは、バルト3国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)の若手演
奏家で構成されるオーケストラ、クレメラータ・パルティカを創設して、自らソリスト
をするとともにアーティスティック・リーダーを務めています。クレーメルの最近のア
ルバムは、そのほとんどがこのクレメラータ・パルティカとの共演によるものです。
実は、このクレーメルはヴィヴァルディの「四季」には思い入れがあり、何回も演奏
しています。1980年にクレーメルは、クラウディオ・アバドの指揮で、ロンドン交
響楽団とヴィヴァルディの「四季」を演奏し、録音することになったのです。
ところが、この曲の<冬>の第2楽章「ラルゴ」のテンポについてアバドとクレーメ
ルは対立します。クレーメルは「四季」の楽譜の深読みを何回もしており、曲に関して
自分なりの考え方を持っているので、指揮者のいいなりにはならないのです。
この<冬>の第2楽章「ラルゴ」は大変よい曲で、早からず遅からず絶妙のテンポで
演奏する必要があります。アバドは、クレーメルのこの楽章のテンポを気にしていて、
「もう少しゆっくりやってくれ」と注文をつけてきたので、クレーメルもできるだけ指
揮者の意に沿うよう演奏したつもりだったのです。
しかし、アバドは録音が済んだあとから「第2楽章を録音し直したい」といってきた
のです。しかも、アバドはゆっくりしたテンポで演奏したオケのテープを送ってきて、
クレーメルに対して自分のパートを吹き込むよう指示してきたというのです。
これはかなり失礼な話であり、クレーメルは吹き込みを拒否したのです。しかし、そ
の代わりに、たまたまイギリス室内管弦楽団と録音したばかりの「四季」のテープをア
バドに送りつけたといいます。クレーメルとしては、テンポに関して絶対に妥協するつ
もりはなかったからです。
ところで、この<冬>の第2楽章「ラルゴ」は短い曲で、問題になっているのは数秒
間の違いなのです。アバドはゆっくり目のテンポを要求するのに対して、クレーメルは
比較的早いデンポを主張しているのです。実は、この部分は指揮者や演奏者によって大きく異なる部分です。いくつか比較してみます。
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アーノンクール ・・・・・・・・ 1分10秒
クレーメル(イギリス室内管) ・ 1分16秒
クレーメル(アバド)・・・・・・ 1分25秒
アンネ・ゾフィ・ムター ・・・・ 2分49秒
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アバドが要求したのは1分50秒ということであり、なかなか意見が合わなかったの
です。結局アバド側が折れて録音テープはCD化され、そのまま発売になったのですが
皮肉なことにこのCDは非常に売れたそうです。
私個人の好みでは、この部分はゆっくり目に演奏して欲しいと思います。最初に聴い
たイ・ムジチ合奏団が比較的ゆっくり目であったからです。しかし、クレーメルのヴィ
ヴァルディとピアソラをコラボレーションした「四季」を聴いて、「四季」に対する考
え方が大きく変わったのです。 ・・・[ヴィヴァルディの『四季』の話/01]