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このブログは、異文化研修の教育機関(株)インテック・ジャパンの情報発信用です。(株)イー・メディアとの提携により、同社のドキュメント・レポート「Electronic Journal」をウィークデイの毎日お届けします。
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トップ カテゴリー:日本の宇宙開発の現状と課題

2007年03月23日

H−Ⅱロケットの知られざる実力(EJ第1346号)

 2004年5月5日付の日本経済新聞の社説に「H2A立て直しに万全期せ」という
タイトルの主張が掲載されていました。H2Aといえば2003年11月29日に種子
島宇宙センターから打ち上げられ、失敗に終わった国産の主力ロケットのことです。
 それがなぜ今ごろ日経の社説になるのかというと、打ち上げ失敗の原因調査がいまだ
にもたついているからです。実は宇宙開発委員会は、3月のはじめに最終報告書の案を
まとめているのですが、その内容が身内に甘い分析をしているとして各方面から非難が
集中して修正を余儀なくされているのです。
 一体H2A(H−ⅡA)に何が起こったのでしょうか。それにしても、なぜ、日本の
ロケットはこうも頻繁に落ちるのでしょうか。H−ⅡAだけではないのです。なぜか日
本のロケットは失敗続きです。技術立国日本といわれるほど日本の技術は世界をリード
しているはずですが、なぜロケットだけはこうも遅れているのでしょうか。
 既に中国は、有人宇宙衛星の打ち上げに成功しているのにこの有様です。このまま行
けば日本の宇宙開発は、米国やロシア、それに中国に追いつくどころか、韓国にも、北
朝鮮にも、インドにも抜かれる恐れがあるのです。
 これについては、既に数冊の本が出ているのでかなり前から情報を集めていたのです
が、ロケットの問題は、あまりにも専門的な用語が多く、前提として知っておくべき知
識も多いので、EJのテーマに取り上げるのに二の足を踏んでいたのです。
 しかし、5月5日の日経の社説を読んで取り上げる決心をしました。専門的な内容で
すが、誰にでもわかるようわかりやすく記述するつもりですので、読んでいただきたい
と思います。今朝はその予告編として考えていただきたいと思います。
 最初に、H2A――EJではH−ⅡAと記述――の話からはじめることにします。H−
ⅡAロケットは、H−Ⅱロケットの後継機です。H−Ⅱロケットは日本初の完全国産化
を達成したロケットで、1994年の初フライトに成功して以来、これまでに7機の打
ち上げを行っています。
 実は、このロケットなかなかの優れものなのです。大きな特色を上げると、次の4つ
になります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1.重量2トン級の静止衛星の打ち上げ能力がある
        2.全段自主技術開発による2段式ロケットである
        3.1トン級の静止衛星は同時に2個打ち上げ可能
        4.静止軌道以外の各軌道に打ち上げることが可能
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 なお、の段階で早くも「静止衛星」などの専門用語が出てきますが、それらの専門用
語はあとで説明しますので、ここでは、漠然とした特色だけを理解しておいていただき
たいと思います。
 宇宙開発先進国のロケットと比較して日本のロケットの際立つ特色として上げられる
のは、「経済的なロケット」という点にあります。具体的にいうと、H−Ⅱロケットは
人工衛星を静止軌道だけてなく、低・中高度の各種軌道に打ち上げられますし、1トン
程度の衛星であれば、同時に2個打ち上げることも可能ということですから、そういう
意味ではきわめて経済的といえます。それに、ロケット製造コストも他の先進国に比べ
て際立って低コストなのです。
 経済的といっても「安かろう悪かろう」では困りますが、日本のロケットの技術はわ
れわれが考えているよりは、はるかにレベルが高いのです。ちなみに、H−Ⅱロケット
の製造コストは1機約170億円ですが、その改良作であるH−ⅡAロケットの製造コ
ストは、半額の85億円にダウンしているのです。こういうことは他国には見られない
特色といえます。
 さて、H−Ⅱロケットは、1994年に初フライトに成功したあと、1997年まで
は順調に打ち上げ成功を続けていたのですが、1998年と1999年の2回にわたっ
て打ち上げに失敗し7機でその運用を中止しているのです。H−Ⅱロケットの7回の打
ち上げ記録を示しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.H−Ⅱ1号機  成功  1994. 2. 4
       2.H−Ⅱ2号機  成功  1994. 8.28
       3.H−Ⅱ3号機  成功  1995. 3.18
       4.H−Ⅱ4号機  成功  1996. 8.17
       5.H−Ⅱ6号機  成功  1997.11.28
       6.H−Ⅱ5号機  失敗  1998. 2.21
       7.H−Ⅱ8号機  失敗  1999.11.15
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これを見ると、6号機の方が5号機よりも早く打ち上げられていますが、ロケット開
発ではこういうことはよくあるのです。ちなみに、7号機は準備されていたのですが、
5号機と8号機が相次いで失敗したので、予定していた7号機の打ち上げは中止された
のです。そして、H−Ⅱで培われた技術は、H−ⅡAに受け継がれることになります。
 ここで注目すべきことがあります。H−Ⅱ1号機から3号機までは、ロケットの試験
なのです。これは、ことごとく成功しています。これらの3回にわたるテストでOKが
出たので、いよいよ本番の衛星の打ち上げがはじまったのです。そして、4号と6号、
では、次の衛星が打ち上げられています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      H−Ⅱ4号機 ・・・ 地球観測プラットフォーム技術衛星
      H−Ⅱ6号機 ・・・ 熱帯雨林観測衛星(TRMM)など
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この成功の波に乗って、5号機では通信放送技術衛星、8号機では多目的衛星を打ち
上げる予定だったのですが、続けて失敗してしまうのです。なぜ、テスト成功のあと、
このような失敗が起こるのでしょうか。      ・・・ [日本宇宙開発/01]

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2007年03月26日

6回目に失敗するパターン(EJ第1347号)

 H−Ⅱロケットのあとを引き継いだH−ⅡAロケットは、2001年に登場するので
すが、ここまで6回の打ち上げが行われているのです。H−ⅡAロケットがどのような
ロケットであるかについては後で述べることとし、6号機までの打ち上げの記録を見て
みることにします。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.H−ⅡA1号機  成功  2001. 8.29
       2.H−ⅡA2号機  成功  2002. 2. 4
       3.H−ⅡA3号機  成功  2002. 9.10
       4.H−ⅡA4号機  成功  2002.12.14
       5.H−ⅡA5号機  成功  2003. 3.28
       6.H−ⅡA6号機  失敗  2003.11.29
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これを見ると驚くべき事実がわかります。それは、H−ⅡAロケットもH−Ⅱロケッ
トと同様に、第1回から第5回までは成功しているのに、第6回で失敗していることで
す。パターンが同じなのです。これでは、開発担当者としては、第7号機の打ち上げに
躊躇してしまいますね。どうして、このようなことが起こるのでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.H−Ⅱ1号機  成功  ○ H−ⅡA1号機  成功
      2.H−Ⅱ2号機  成功  ○ H−ⅡA2号機  成功
      3.H−Ⅱ3号機  成功  ○ H−ⅡA3号機  成功
      4.H−Ⅱ4号機  成功  ○ H−ⅡA4号機  成功
      5.H−Ⅱ6号機  成功  ○ H−ⅡA5号機  成功
      6.H−Ⅱ5号機  失敗  × H−ⅡA6号機  失敗
      7.H−Ⅱ8号機  失敗  × H−ⅡA7号機   ?
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 最初は失敗が多いが、だんだん成功率が高くなるというならわかりますが、最初は成
功しているのに後になって失敗するというのは、ロケットの開発において、そこに何か
重要な欠陥が潜んでいることを示唆しているのです。
 この問題はさておき、H−Ⅱの後を継いだH−ⅡAロケットがどのようなロケットか
について説明しましょう。H−ⅡAロケットの特色を上げると、次の3つがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.液体酸素と液体水素を推進剤とする高性能なエンジンを搭
        載する国産の主力ロケットである
      2.さまざまな重さのペイロード(主に人工衛星)を宇宙空間
        各種軌道に投入できる能力がある
      3.このクラスのロケットとしては技術水準・価格(打ち上げ
        費用)ともに世界のトップレベル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ロケットには、噴射する推進剤が液体である「液体ロケット」と固体である「固体ロ
ケット」があります。液体ロケットは高性能だが取り扱いが難しく、まして液体酸素と
液体水素を組み合わせて使うH−ⅡA(H−Ⅱも同様)ロケットは、非常に高い性能を
発揮するものの、取り扱いの難しさが群を抜いているのです。
 それというのも液体水素が摂氏零下250度と非常に低温なうえに蒸発しやすく、非
常に小さな隙間からでも容易に漏れてしまう性質を持っているからです。日本は、この
難しい技術に挑戦しH−Ⅱからは推力の大きな第1段に使用しています。そういう意味
において、「液体酸素と液体水素を推進剤とする高性能なエンジン」は、H−ⅡAの第
1の特色といえるのです。
 これに対して固体ロケットは、性能が低く、一度着火したら燃え尽きるまで止める手
段がないという問題点があります。しかし長期保存が容易で取り扱いが簡単であり、推
力は大きいという利点を持っています。
 H−Ⅱ、H−ⅡAには、液体酸素と液体水素の本体の横に固体ロケットを装備してい
ますが、これは、それぞれの欠点を補う措置なのです。米国のスペースシャトルや、欧
州の「アリアン5」も同様の形式を採用しています。
 第2の特色ですが、現時点における宇宙開発ロケットの目的は人工衛星を、地球を回
る軌道に打ち上げることです。「ペイロード」ということばは「最大積載量」という意
味なのですが、人工衛星そのものを指すことばとして使われます。
 H−ⅡAは、次の重さの人工衛星を地球を回る軌道に打ち上げる能力があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         地球低軌道 ・・・・・・・・・ 10トン
         静止トランスファー軌道 ・・・  4トン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 また、難しいことばが出てきましたが、地球を回る軌道については改めてご説明しま
す。ロケットを理解するには、軌道の種類については知っておく必要があるからです。
 人工衛星を打ち上げる技術は軍事力と密接な関係があります。日本が米国やロシア、
それに中国といった宇宙開発先進国に大きく水を空けられているのは、日本が軍隊をも
っていないことに関係があります。日本では、軍隊を持つことは悪という考え方がいま
だに強くありますが、重要技術のほとんどは軍事目的のために開発されていることを知
るべきです。インターネットなどはその象徴的なものといえます。
 第3の特色ですが、技術水準が高いことは確かです。ロケットの打ち上げ失敗や人工
衛星の軌道乗せ失敗などは、どこの国でもやっていることであり、新規の技術開発には
つきものであるといえます。多少の失敗にくよくよすることはないのです。
 それに価格が安いことは、日本のロケットの大きな特色ですがその反面、大きなネッ
クにもなっているのです。なぜ、日本はロケット開発に関してはかくもケチケチ作戦な
のでしょうか。これは明日のEJで取り上げます。 ・・・ [日本宇宙開発/02]

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2007年03月27日

日本の宇宙開発予算は少な過ぎる(EJ第1348号)

 普通の国民の印象として、宇宙開発は巨額の金のかかる事業であると考えている人は
多いと思います。ところが必ずしもそうとはいえないのです。
 今回失敗したH−ⅡA6号機では、搭載していた情報収集衛星2機が5I8億円、H
−ⅡAの打ち上げ費用115億円が一瞬にして失われているのです。この「一瞬にして
失われる」という表現をよく新聞紙上で見ることが多いのですが、この表現は正しいと
はいえないのです。
 というのは、ロケット開発というのは、何年もかけて行なわれるからです。H−Ⅱロ
ケットとH−ⅡAロケットの開発費は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       H−Ⅱ ロケット ・・・・・ 2700億円/9年
       H−ⅡAロケット ・・・・・ 1150億円/7年
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 H−ⅡAロケットは、開発開始から打ち上げまでに9年かかっています。したがって
その1年あたりの投資300億円です。構想開始からですと12年なので、年平均は2
25億円です。
 H−ⅡAロケットの場合は、打ち上げまで7年かかっていますから、1年あたり16
4億円です。構想開始からは9年であり、1年あたりでは128億円となります。
 年平均こ128億円〜225億円――もちろん巨額ではありますが、この程度の金額
は、日本という大国が投資する案件としては大したことはない金額なのです。
 H−Ⅱ/H−ⅡAロケットへの投資額に近い公共投資を探してみると、次のようなも
のが出てきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         諫早湾干拓事業 ・・・・・ 2370億円
         長良川 河口堰 ・・・・・ 1840億円
         吉野川 河口堰 ・・・・・ 1000億円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうでしょう。大型ロケット開発事業の投資額は、せいぜい干拓事業や大型河川に堰
を設ける程度でしかないのです。これに比べて、本州四国連絡橋では3つの橋を建設す
るのに2兆8000億円、東京湾横断道路には1兆4400億円、関西空港は第1期工
事だけで1兆4300億円もかかっているのです。
 繰り返しますが、H−ⅡAの開発費用は1150億円に過ぎないのです。いかにも少
ない金額とはいえないでしょうか。
 しかし、待ってもらいたい。公共事業の場合は橋なり、道路なりのインフラが残って
長い間にわたって使えるが、大型ロケット開発は失敗すれば何も残らないではないか
――こういう反論が出るかも知れません。
 何も残らないわけではないのです。失敗してもそれまでに培われた貴重な技術力が国
家資産として残ることになります。また、衛星が打ち上げることができれば、日本にと
ってさまざまな有益な情報がもたらされるのです。けっして無駄ではないのです。
 それでは、H−Ⅱ/H−ⅡAロケットのコストは世界のロケット開発のコストと比べ
るとどうなのでしょうか。
 比較の対象を選ぶのが難しいのですが、H−Ⅱ/H−ⅡAロケットと同じ液体酸素・
液体水素を利用する第1段を持ち、2本の固体ロケットブースター(改めて解説する)
を備える「アリアン5」――欧州宇宙機関(ESA)が次世代ロケットとして開発――
と比較するのが一番良いと思います。
 1987年11月にESAの閣僚理事会が認めたアリアン5の開発経費総額は、次の
通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       41億1400万AU(Accounting Unit)
         1ドル=11O円として/5660億円
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 AUというのは、ESAが当時使用していた会計のための仮想通貨単位であり、1A
Uはほぼ1.25ドルです。5660億円といえば日本の倍になりますが、アリアン5
の開発費は、世界的な新型ロケット開発の相場といってよいのです。
 H−Ⅱロケットの場合、当初の見積もりは2000億円だったのですが、こんな話が
あるのです。
 H−Ⅱロケットの開発がはじまった頃のことです。日米の技術者の間でロケットの開
発費が話題になったことがあります。日本の技術者が「総額で2000億円だ」といっ
たところ、米国の技術者は、それは第1段エンジンのみにかかる費用だと勘違いしてい
たというのです。そして、最終的に事態を理解した米国技術者は、次のことばを発した
というのです――「クレイジー」と。
 しかし、誤解してはならないのは、日本は技術力が優れていて諸外国よりも少ない予
算でロケットを開発できたのではないということです。『国産ロケットはなぜ堕ちるの
か/H−ⅡA開発と失敗の真相』(日経BP社)の著者、松浦晋也氏は、これについて
次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       このことは「日本は工夫によってそれだけ諸外国よりも安く
      ロケットを開発できた」と理解してはならない。むしろ足りな
      い予算で工夫を重ねて形にしたものの、どうしても完璧を期す
      ることができなかったと見なければならない。
                            ――上掲書より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 厳しい見方です。松浦氏はその例としてロケットエンジンの燃焼時間の差を上げてい
ます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         世界的な累積燃焼時間 ・・・ 2OOOO秒
         日本の 累積燃焼時間 ・・・ 13OOO秒
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 手抜きではないが、予算の制約でこうなるというのです。
・・・[日本宇宙開発/03]

2007年03月28日

日本の宇宙開発はネクタイである(EJ第1349号)

 前回ご紹介した松浦晋也氏は面白いことをいっています。次のことばです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         日本の宇宙開発はしょせんネクタイである
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 よく高級クラブやサロンには「ノーネクタイお断り」と入口に書いてあります。「宇
宙開発先進国サロン」に入るためには、ロケット開発の実績――つまり、ネクタイが必
要なのです。要するに、日本のロケット開発は、そういう先進国サロンに入れてもらう
ためのネクタイのようなものであるというのです。
 なぜ、H−ⅡAロケット開発の予算が1000億円レベルのものになったのかという
と、NASDA(宇宙開発事業団)がH−ⅡAロケットをH−Ⅱの改良型として予算申
請をしたからだというのです。
 H−ⅡAロケットは、H−Ⅱの技術的基盤を引き継いでいるというものの、内容的に
はほとんど新規開発なのです。しかし、日本政府には、国の政策として宇宙開発をどの
ように進めて行くべきかというビジョンが欠落しており、それに取り組む情熱も欠けて
いるので、新規開発といってしまうと、予算が取れない恐れがあったのです。
 そこでやむなくH−Ⅱの改良型として財務当局に申請し、改良型なら新規開発のH−
Ⅱ(2700億円)よりも、当然安く出来るはずであるというロジックで、約1000
億円レベルの予算になってしまったというわけです。
 その予算上の無理がロケット開発において、もっとも時間をかけなければならない地
上実験時間を短くすることにあらわれ、それが失敗につながったといえるのです。
 前回も述べたように、新しいロケットエンジンを開発する場合累積燃焼時間は世界標
準では20000秒です。地上実験を重ねて、エンジンを実際に20000秒ぐらい運
転することで、信頼性を高めて完成に持ち込むのです。
 しかし、日本の場合、13000秒で完成としてしまったのです。エンジンの地上燃
焼実験には1回について数億円はかかるので、予算の少ないNASDAとしては700
0秒をカットせざるを得なかったのです。これによって、H−Ⅱ第8号機は、失敗して
しまったといえます。
 松浦晋也氏によると、予算を十分とって世界標準の地上実験を行わせれば、日本のロ
ケット開発技術は何ら世界に劣るものではないといっています。しかし、宇宙開発の現
場の士気は現在大きく低下しており、このままでは世界に大きく遅れをとってしまうで
あろうといっています。
 それでは、宇宙開発の現場の士気を大きく低下させている原因とは何でしょうか。松
浦氏は次の3つを上げています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.日本政府が宇宙開発に徹底的に無関心であったこと
       2.NASDAが特殊法人であって中途半端であること
       3.日米間の技術的な優位をめぐる確執が存在すること
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の問題点は「日本政府が宇宙開発に徹底的に無関心であったこと」です。確かに
日本の歴代の首相で宇宙開発の重要性を強調した人はいたでしょうか。私には思い当た
らないのです。
 一国のトップが宇宙開発について語った例として一番有名なのは、1961年5月2
5日の連邦議会におけるケネディ大統領の演説です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       私は、わが国が1960年代の終わりまでに人間を月に送り
      軟着陸させてから無事に帰還させるという目標を全力で達成さ
      せるべきであると信じます。なぜなら、それがやさしいことで
      はなく、困難なことだからです。しかし、人類にとって、これ
      ほど意義深く感動的な計画は他に例を見ないものです。
                  ――ジョン・F・ケネディ米国大統領
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 当時のソ連首相であったフルシチョフは、「米国が追随できない何人も乗れる宇宙船
を作れ」と命令を出し、そして1964年10月12日ソ連はA−1型ロケットで「ウ
ォスホート宇宙船1号」を打ち上げ、3人乗りの宇宙船を成功させています。
 フランスにおいてもド・ゴール大統領が中心になって人工衛星と大型ロケットの開発
に取り組み、1965年11月26日には「人工衛星A1」を搭載した3段式の「ディ
アマンロケット」の打ち上げに成功しています。
 米国、ソ連、フランス――いずれもトップの強力なリーダーシップによって宇宙開発
を国策として推進しているのです。しかし歴代の日本の首相で宇宙開発に言及した人は
いるでしょうか。
 第2の問題点は「NASDAが特殊法人であって中途半端であること」です。宇宙開
発の主軸になる宇宙開発事業団(NASDA)は、特殊法人であって、その社員は「官
僚」とも「技術者」ともつかないポジションに置かれていることです。
 こういう中途半端な組織のNASDAは、「問題は可能な限り先送りして現在の体制
を維持する」という官僚の悪しき文化のみ栄えて、技術者の育成という一番大事なこと
をなおざりにしてしまったのです。これでは、技術者の士気がダウンするのは当然のこ
とです。この組織体制については改めて述べます。
 第3の問題点は「日米間の技術的な優位をめぐる確執が存在すること」です。
 宇宙開発の技術はそのまま軍事に転用できるので、米国は神経質なほど他国に圧力を
かけてきます。米国は航空宇宙分野での優位を確保するため、包括貿易法「スーパー3
01」に基づいて衛星市場の開放を要求し、日本はこの要求を呑んだのです。その結果
国策としての日本の衛星産業は壊滅的打撃を蒙り、その影響はロケットにまで及んだの
です。この問題についても改めて述べます。    ・・・ [日本宇宙開発/04]

2007年03月29日

地球を回る軌道について知る(EJ第1350号)

 ロケットについてさらに詳しく知るには、地球を回る軌道についての知識が必要にな
ります。知っておいても損はないと思いますので、今朝は地球を回る軌道の話からはじ
めることにします。
 最初に大事なことですが、「軌道を回るのに動力はいらない」ということです。宇宙
空間には抵抗になる空気がないので、ロケットは動力なしで飛び続けるからです。映画
「スターウォーズ」で、宇宙船がロケットを噴射し続けているのを見ますが、推進動力
としての噴射であればそれは必要ないのです。
 もうひとつ重要なことは、「地球を回る軌道は楕円形をしている」ということです。
そのため、次の3つの数値によって軌道の性質が決まるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.近地点高度 ・・ 軌道の地表に一番近いところの高さ
      2.遠地点高度 ・・ 軌道の地表に一番遠いところの高さ
      3.軌道傾斜角 ・・ 赤道に対して軌道が傾いている角度
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、後で述べるように、静止軌道は円軌道であり、例外として覚えておいてくだ
さい。人工衛星がよく使う地球を回る軌道には、次の4つの種類があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             1.地球低軌道
             2.静止軌道
             3.極軌道
             4.静止トランスファー軌道
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の「地球低軌道」というのは、軌道傾斜角に関係なく、高度約300〜600キ
ロメートルの軌道のことです。この軌道は主として有人宇宙活動に使われます。スペー
スシャトルやソューズ宇宙船、国際宇宙ステーションなどは、この軌道を利用している
のです。
 第2の「静止軌道」というのは、赤道上空3万6000キロメートルの円軌道です。
この軌道に入る衛星は、地球を24時間で周回します。なぜ、静止軌道といわれるのか
というと、衛星が空の一点に静止したように見えるためなのです。
 静止軌道には、通信衛星、放送衛星、気象衛星など、おなじみの衛星はほとんどこの
軌道を利用しています。そのため、静止軌道は過密状態です。
 第3の「極軌道」は、軌道傾斜角90度付近を通る軌道であり、地球を南北に回りま
す。この軌道は、軌道高度や傾斜角を慎重に選定すると、地球全体をなめるように回る
ことができるので、高度700〜900キロメートル付近で地球観測衛星が利用してい
るのです。
 H−ⅡA6号機で打ち上げに失敗した情報収集衛星――軍隊のある他の国では「偵察
衛星」と呼ぶ――は、この軌道に打ち上げられる予定だったのです。
 第4の「静止トランスファー軌道」とは、地表からロケットが静止軌道に衛星を投入
するために入る途中の軌道のことです。これは楕円軌道で、その特徴は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        近地点高度 ・・・・・    200キロメートル
        遠地点高度 ・・・・・ 3万6000キロメートル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 つまり、地球に一番近いところはわずか200キロメートル、遠いところは3万60
00キロメートル――これは静止軌道と交差することを意味しています。添付ファイル
の図を見ていただきたいと思います。
 静止衛星を打ち上げるときは、静止トランスファー軌道の近地点高度に打ち上げ、あ
とは軌道に乗って遠地点高度まで行き、そこで衛星の持つロケットエンジンを噴射して
静止軌道に入るという方法をとるのです。そういう意味で静止トランスファー軌道は静
止軌道に衛星を投入するための途中の軌道――そのように呼ばれるのです。
 地球を回る軌道について、たったこれだけの知識があるだけでH−ⅡAロケットのこ
とが一層良くわかるようになります。H−ⅡAロケットは、地球低軌道に約10トンの
ペイロード(人工衛星など)、静止トランスファー軌道には4トンのペイロードを打ち
上げる能力があるのです。さらに、赤道上空3万6000キロの静止軌道に到達できる
質量を勘案すると、静止軌道に2トンのペイロードを投入できる能力があります。
 H−ⅡAは、そのために固体ロケットブースターSRB−Aに加えて、オプションと
して小型の固体補助ブースターを2基ないし、4基装着することができるようになって
いるのです。通常は2基ですが、4基つけると静止トランスファー軌道へ5トンのペイ
ロードの打ち上げが可能なのです。失敗したH−ⅡA6号機は、補助ブースターを4基
搭載していたのです。
 ちなみに失敗したH−ⅡA6号機は、固体ロケットブースターSRB−Aのうちの1
基が燃焼終了後も投棄できなかったことが失敗の原因とされています。燃え尽きたSR
B−Aは10トンの重量があり、そのために予定通りの加速ができなかったのです。
 このSRB−A――これは、名前こそH−Ⅱロケットに使われた固体ロケットブース
ター「SRB」と同じですが、中身はまったくの新規開発なのです。各種の新機能が装
備されているのですが、皮肉なことにそれが仇になって失敗が起こったのです。
 考えてみるまでもなく、われわれはロケットという「乗り物」について、ほとんど何
も知らないといえます。ロケットは自動車や列車とどこが違うのでしょうか。そういう
基本的なことを知ることによって、その開発に当たってどこが難しいのかが具体的にわ
かると思うのです。明日のEJでは、改めてロケットというものについて考えてみたい
と思います。                  ・・・ [日本宇宙開発/05]

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2007年03月30日

ロケットはどのような乗り物か(EJ第1351号)

 今朝は「ロケット」というものが、どのようなものであるかについて考えてみたいと
思います。ロケットには次の3つの基本的特徴があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.短時間の間に桁外れに巨大なエネルギーを必要とする
       2.真空宇宙で加速するためのものを全部持つ必要がある
       3.エンジンも機体も使い捨てにして1回使う方式にする
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1は、ロケットが「短時間の間に桁外れに巨大なエネルギーを必要とする」という
ことです。
 自動車(列車)や航空機をロケットと比較してみましょう。普通の自動車や列車は、
最大でも時速400キロメートル以下、航空機ならば、どんなに速くてもマッハ3以下
で運用されます。
 仮に自動車を時速360キロメートルとし、航空機をマッハ3として秒速を概算する
と次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      自動車時速360キロメートル ・・ 秒速 100メートル
      航空機時速マッハ3 ・・・・・・・ 秒速1000メートル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに対して、ロケットはどんなに遅いロケットでも次の速度が必要なのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      ロケット ・・・・・・・・・・・・ 秒速7900メートル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 どうでしょう。航空機の約8倍、とにかく桁外れの速度なのです。それに加えて空気
抵抗などがあるので、軌道に出ていくためには、秒速で10キロメートルの速度は不可
欠であるといわれています。毎秒10000メートルの速度です。
 第2は、ロケットが「真空宇宙で加速するためのものを全部持つ必要がある」ことで
す。物理学の法則ですが、質量を同じとすれば、速度の2乗と必要なエネルギーは比例
します。したがって、速度が2倍になれば、加速するためのエネルギーは4倍になりま
す。同様に10倍の速度を得るためには100倍のエネルギーが必要ですから、ロケッ
トは戦闘機の100倍、F1レーシングカーの10000倍のエネルギーが必要になり
ます。
 しかもロケットは、これほどのエネルギーを何もない真空の宇宙空間で出さなければ
ならないのです。これは、大変なことなのです。なぜなら、地球上の乗り物は、すべて
乗り物それ自体ではない外部のもの――空気なり、地面なりを利用して、推進力として
いるからです。
 自動車はタイヤを回転させ、それで地面を押して前進しますしジェット機は、前方か
ら空気を吸い込んで、勢いよくそれを噴き出すことで前進します。いずれも乗り物本体
の外側のものを利用して前進するのです。
 しかし、ロケットの場合は、何もない宇宙空間の中で加速するのですから、外側のも
のを一切利用できないのです。したがってそういう推進力を全部ロケットの内部に持っ
ている必要があるのです。具体的にいうと、燃料と酸化剤――2つをまとめて「推進剤
(プロペラント)」といいます。
 宇宙ロケットは、静止トランスファー軌道から静止軌道に入るように、軌道に乗る推
進力だけでなく、宇宙空間の中でも加速する必要があり、さらに地球に戻るための推進
力も必要なのです。したがって、ロケットにはたくさんのプロペラントを搭載しておく
必要があります。
 しかも、プロペラントを多く搭載すると重量が増し、それもろとも加速する必要があ
るので、そのバランスが難しいわけです。このプロペラントの量と到達できる速度の関
係について精力的に研究した人が「ロケット工学の父」といわれるロシアのコンスタン
ツィン・ツィオルコフスキーであり、有名な式があるのです。
 ツィオルコフスキーの式に基づいて、単段式ロケットのプロペラントを計算すると、
本体の89%がプロペラントであるという結果が算出されます。
 H−ⅡAのような2段式ロケットの場合は違ってくるのですが単段式ロケットでは、
ロケット本体の89%がプロペラント(推進剤)であって、残る11%が本体と打ち上
げるペイロード(人工衛星など)ということになるのです。
 自動車を例にとると、重量の90%が燃料で、残る10%が搭乗者と自動車本体の重
量ということになるのです。そんな乗り物はあり得ないでしょう。しかし、ロケットは
そこまでやらないと宇宙には出て行けないのです。
 第3は、ロケットは「エンジンも機体も使い捨てにして1回使う方式にする」必要が
あるということです。
 一言でいうと「限界設計」ということです。例えば、H−ⅡAロケットの第1段で使
われているLE−7Aエンジンは、10回の起動と停止が行えるという条件で設計され
ています。つまり、11回目は壊れてしまっても仕方がないという設計です。そして使
い終わったら使い捨てにするのです。
 使い捨てという設計は、仕事を終えた機体を回収して検査をすることができないこと
を意味しています。したがって、いつまで経っても一発勝負から脱却できないのです。
ロケットはそういう乗り物なのです。
 地球を回る軌道に打ち上げるロケットの開発がはじまって、既に半世紀近くになりま
す。その間の技術革新の速度を考えると、ロケットの事故率はもっと下がっても良いの
ですが、そうなっていません。それには、ロケットという特異の乗り物の特質が深く関
与しているのです。
 しかし、それにしても日本のロケットは少し落ち過ぎる感じがします。それには、ど
のような原因があるのでしょうか。次にその問題について考えます。   
・・・[日本宇宙開発/06]

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2007年04月02日

H−ⅡAに何が起こったのか(EJ第1352号)

 日本のロケットの失敗の原因について述べる前に、世界の主力ロケットの最初の10
機の残した実績を見ておくことにします。括弧内の年号は初打ち上げの年を示していま
す。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      デルタロケット  (米/1960)・・ 10機中1機失敗
      アトラスロケット (米/1960)・・ 10機中5機失敗
      タイタンロケット (米/1960)・・ 10機中1機失敗
      プロトンロケット(ソ連/1965)・・ 10機中4機失敗
      ゼニットロケット(ソ連/1985)・・ 10機中2機失敗
      アリアン1 〜4(欧州/1979)・・ 10機中2機失敗
      アリアン5   (欧州/1996)・・ 10機中2機失敗
      長征1〜4   (中国/197O)・・ 10機中2機失敗
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 平均すると、約20%の失敗率なのです。日本については、H−ⅡとH−ⅡAは、そ
れぞれまだ10機打ち上げていませんが、失敗率は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       H−Ⅱ  ・・・・・ 7機中2機が失敗/28.6%
       H−ⅡA ・・・・・ 6機中1機が失敗/16.7%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これで見ると、日本の失敗率がとくに高いというわけではないのです。しかし、日本
の場合、H−Ⅱにいたるまでに、次のようなロケットを打ち上げ、高い成功率を示して
いるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       N−Ⅰ  ・・・・・ 7機中1機が失敗/14.3%
       N−Ⅱ  ・・・・・ 8機すべてが成功/   0%
       H−Ⅰ  ・・・・・ 9機すべてが成功/   0%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この高い成功率を新聞報道などで、日本の宇宙技術は高い信頼性を達成していると書
いているため、H−ⅡとH−ⅡAの失敗が大きな失敗のように感じられるのです。
 しかし、この新聞論調は正しくないのです。というのは、N−ⅠからH−Ⅰまでのロ
ケットは、米国からの技術導入を受けて開発されているからです。これらのロケットの
ベースになったのはボーイング社のデルタロケットなのです。
 デルタロケットは1960年の初打ち上げ以降、2003年12月までに301機を
打ち上げ、17機が失敗――失敗率6%という94%の成功率を誇るロケットなのです。したがって、H−Ⅱ以前のNASDAの輝かしく見える実績は、米国の技術に負うとこ
ろが大きかったのです。
 したがって、H−Ⅱ以降は日本が独自に技術開発を進めたのであり、H−Ⅱ/H−Ⅱ
Aロケットの失敗率は、十分予測されるリスクの範囲内といえるのです。けっして日本
の技術が他の先進国に比べて劣っているわけではないのです。
 それでは、H−ⅡAロケット6号機の事故原因は何かについて考えてみることにしま
す。なお、本日現在時点でも、事故原因の発表は行われておらず、今までに明らかにな
った事実に基づき述べることになります。
 打ち上げは2003年11月29日午後1時33分、種子島宇宙センターからです。
ロケットの先端に搭載されていたのは、情報収集衛星(IGS)の第2弾です。しかし
ロケットが打ち上げられてから10分53秒後、地上からの指令破壊コマンドにより、
H−ⅡAロケット6号機は破壊されたのです。
 その理由は、打ち上げ後100秒ほどからロケットは予定の軌道から外れていき、衛
星を正常の軌道に投入できないことが明確になったからです。
 ちなみに、情報収集衛星(IGS)とは要するに偵察衛星のことで、次の2組の衛星
を2回にわたって打ち上げ、4つの衛星によって地球上のすべての地点を最低1日に1
回観測できる体制を整えようというのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.光学衛星   IGS−O 光を使って地上を監視
       2.レーダー衛星 IGS−R レーダーで夜間の監視
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 最初の1組は、2003年3月28日にH−ⅡA5号機で打ち上げられ、成功してい
るのです。したがって、同年11月29日の6号機による打ち上げが成功していれば、
4つの衛星がすべて揃っていたのです。惜しいことをしたものです。
 失敗の原因は、H−ⅡAロケットに2基装着されている固定ロケットブースター(S
RB−A)のうち、左(L)側の1機は燃焼後うまく投棄されたものの、右(R)側の
1基が投棄されずに残ってしまったことにあるといわれています。SRB−Aは燃え尽
きたあとも重さが10トンもあり、そのため予定通りの加速ができなかったのです。
 ロケットは打ち上げ直後からさまざまなデータを地上に送ってくるようになってい
ます。これをテレメトリ・データというのですが、このデータによると、打ち上げ後6
2秒から、問題のSRB−Aノズルの表面温度を監視するセンサーの測定値が一気に上
昇して測定不能になっていることがわかったのです。異常はすぐに周囲の温度センサー
に波及し、打ち上げ後70秒からは、反対側にあるSRB−Aのノズルの舵角が推力を
変更しようと増加したのです。
 分析の結果、ノズルに発生した穴か亀裂から燃焼ガスが噴き出し、その反動を打ち消
すために、反対側のSRB−Aの舵角が大きくなったものと思われます。
 実は、SRB−Aのノズル――開発時から問題が生じていたのです。地上燃焼実験で
は、5回中3回にわたってノズルの周りに問題が発生しています。これはノズルのかた
ちに問題があり、変更する意見も出ていたのですが、予算と時間の関係でそれは不可能
なことだったのです。               ・・・[日本宇宙開発/07]

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2007年04月03日

みどりはなぜ機能を喪失したか(EJ第1353号)

 H−ⅡA第6号機の打ち上げ失敗については大きく取り上げられ、注目されましたが
今までにもあまり表に出ないロケットや衛星に関わる失敗はたくさんあるのです。その
例として大型地球観測衛星「みどり」について考えてみることにします。
 H−ⅡA第6号機が失敗したのは、2003年11月29日ですが、同じ年の10月
25日に地球観測衛星「みどり2」が機能を停止するという発表がありました。このよ
うな報道に接するとわれわれは一瞬衛星の寿命が尽きたのかと考えてしまいますが、そ
うではないのです。
 「みどり2」は、2002年12月14日にH−ⅡAロケット4号機で打ち上げられ
たばかりです。衛星の寿命は平均3年といわれますが、うまく利用すれば10年は十分
使えるのです。それが1年経過しないうちに機能を停止したのです。
 「みどり2」というからには、もうひとつ「みどり」があるはずです。確かに「みど
り」は1997年6月に打ち上げられているのですが、やはり打ち上げ後1年にならな
い時点で機能を停止しているのです。何のことはない、「みどり」は2回連続して失敗
していることになります。
 宇宙開発の場合、ロケットの打ち上げは新聞でも大きく取り上げられますが、打ち上
げ後に衛星に故障が生じて運用を中止するときは、あまり大きな記事の扱いにならない
のです。しかし、打ち上げ後1年を経過しないうちに機能を停止するのは明らかに失敗
であり、われわれはもっと関心を持って見守るべきです。
 ところで「みどり」と「みどり2」は、大型地球観測衛星といわれますが、なぜ「大
型」といわれるのかご存知ですか。
 それは「重量」なのです。「みどり」も「みどり2」も重量が3トンを超えるので、
大型衛星といわれるのです。「みどり」以前の地球観測衛星には「ふよう1号」という
のがありましたが、重量は1.34トンであり、これが当時としては最大の衛星だった
のです。「みどり」/「みどり2」はその2倍以上です。
 問題はその失敗の原因です。原因の追究のためには、もう少し詳しく「みどり」につ
いて知る必要があります。
 この地球観測衛星は、もともと「みどり」という名前ではなく開発時の名称は「AD
EOS」といったのです。「ADEOS」は、次のことばの省略形です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      ADEOS = Advanced Earth Observation Satellite
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ことばからわかるように、技術的に高度な機構を備えた衛星とされているのです。衛
星の構造をごく大雑把にいうと、本体の前半部分に各種センサーを配置し、後半部分に
電源系や推進系、それに地表との通信系がまとめてあります。つまり、それぞれの機能
がモジュール化されているのです。こういう特徴を持つ衛星のことを「プラットフォー
ム衛星」といいます。
 「みどり」と「みどり2」は、その前半部分に非常に多くのセンサーを搭載し、それ
ぞれが3トン以上の重量になっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        「みどり」  ・・・ センサー8基 3.5トン
        「みどり2」 ・・・ センサー5基 3.7トン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 なぜ、このように多くのセンサーを積んでいるのかというと、それは国際貢献の分が
含まれているからです。「みどり」「みどり2」ともに日本が開発したセンサーは、2
基ずつであり、残りは米航空宇宙局(NASA)やフランス国立宇宙研究センター(C
NES)のセンサーなどを無償で搭載しているからです。
 それだけに失敗は許されないのです。せっかく信頼を寄せてくれているのにそれを裏
切る結果になったからです。たとえ無償とはいえ、失敗の確率の高いロケットであれば
どの国も高価なセンサーを提供しないからです。
 さて、地球観測衛星は地球を南北に回る極軌道に投入されますが、それぞれ投入され
る軌道は異なるのです。「みどり」と「みどり2」の軌道は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        「みどり」  ・・・・・ 回帰周期41日準回帰軌道
        「みどり2」 ・・・・・ 回帰周期 4日準回帰軌道
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 回帰周期41日準回帰軌道とは、41日に1回、地表の同じ場所の上空に戻ってくる
軌道という意味なのです。つまり、これら2つの衛星によって、地球をちょうどなめる
ように観測することができるのです。
 さて、この「プラットフォーム衛星」の設計は、非常に難しいのです。とくに電源系
――電気の供給をどうするかが一番困難なのです。「みどり」と「みどり2」の場合、
「フレキシブル型太陽電池パドル」を採用しています。
 この太陽電池パドル――柔らかい幕の上に電池セルを貼り付ける方式です。形状は文
章では表現しにくいので、添付ファイルを見ていただきたいと思います。
 このフレキシブル型パドルは、枠を持たない柔らかな幕を宇宙空間に広げる方式であ
って、無重力環境でどんな振動が起こるか、または温度変化によって伸び縮みをどう計
算するかなどの難問を解かなければならないのです。
 NASDAの技術陣は、この難問にあえて挑み見事に失敗をしています。なぜなら、
「みどり」「みどり2」の機能喪失は、ともに衛星の電源系にトラブルが生じたことが
原因とされているからです。
 「みどり」の機能喪失は、フレキシブル型の太陽電池パドルがちぎれてしまったこと
が原因ですし、「みどり2」の機能喪失は太陽電池パドル基部の電線ハーネスの破断が
疑われています。これは、明らかな設計上のミスといわれています。なぜ、このミスが
生じたのでしょうか。              ・・・ [日本宇宙開発/08] 

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2007年04月04日

4兎を追った『みどり』の失敗(EJ第1354号)

 「みどり」と「みどり2」はなぜ失敗したのか――この原因を探るには、宇宙開発を
担当している組織について知る必要があります。ここまでは、単にNASDA(宇宙開
発事業団)とご紹介してきましたが、2003年10月1日に宇宙開発に関わる次の3
つの組織が統合して、宇宙航空研究所開発機構(JAXA)という組織が誕生している
のです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        宇宙開発事業団  (NASDA)・・
        航空宇宙技術研究所(NAL)   ・・JAXA
        宇宙科学研究所  (ISAS) ・・
        JAXA ⇒ Japan Aerospace Exploration Agency
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 JAXAについては後で詳述するとして、「みどり」開発の背景的事情についてお話
しします。「みどり」――ADEOSの開発当時の正式名称は次のように呼ばれていたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       ADEOS = 地球観測プラットフォーム技術衛星
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 なぜ、プラットフォームと呼ばれるのかというと、それは米国のスペースシャトル計
画と密接な関係があるのです。スペースシャトルは、1981年4月に最初の打ち上げ
が行われたのですがこれが成功して米航空宇宙局(NASA)は、これを宇宙輸送系と
して使う計画を立てます。
 宇宙輸送系というのは、スペースシャトルによって地球低軌道に、軌道上における種
々の整備を行うための貨物を輸送することを意味しています。スペースシャトルは地球
低軌道に29.5トンの貨物を運ぶことができるのです。打ち上げの頻度は、スペース
シャトルを1週間に1回、年間50回打ち上げるという計画です。1回の打ち上げコス
トは日本円にして約30億円かかるといわれます。
 米国の構想はこうです。衛星をひとつのマシンとして作るのではなく、機能別のモジ
ュールを結合した構造物として設計するのです。そうすれば、スペースシャトルで打ち
上げるモジュールを必要に応じて取り替えることができるというわけです。こういうモ
ジュールの土台となる衛星のことを「プラットフォーム技術衛星」といいます。衛星の
軌道や姿勢を修正するための推進剤を補給することも可能です。
 しかし、昨日述べたように、このプラットフォーム衛星――設計が非常に難しいのです。電源系と並んで難しいのは「熱設計」の部分です。熱設計というのは、宇宙という厳し
い環境の中で、衛星を一定の温度に保つ設計のことをいいます。この設計に失敗すると
衛星は軌道上で簡単に壊れてしまうのです。
 宇宙空間において熱は「輻射」で伝わるのですが、宇宙の熱源である太陽の表面温度
は6000度Cもあるのに対し、宇宙の温度自体は零下270度C――極端に熱いか冷
たいかなのです。こういう厳しい真空の空間において衛星を一定の温度に保つには技術
的に大変難しいのです。
 しかも、モジュールを付けた場合も外した場合も温度が一定に保たれる必要がありま
す。そのためには、それぞれのモジュールやモジュールを取り付ける本体の熱設計が独
立しており、お互いに影響を与えないようにする必要があるのです。
 「みどり」の検討が始まった時点における「プラットフォーム衛星」の技術は将来的
に有望であり、日本としてもどうしても手に入れたいものであったのです。そこで「み
どり」を「プラットフォーム衛星」として設計するという壮大な試みにNASDAは挑
戦することになるのです。
 しかし、その挑戦意欲は評価されるものの、日本はその面での技術力はかなり低く、
そういう意味で無謀な試みであったといえるのです。「みどり」の本来の目的は地球観
測衛星であり、その制作に当って、世界のどの国もやったことのない新技術に挑戦する
必要などなかったのです。「二兎を追うもの一兎をも得ず」といいますが、NASDA
は明らかに地球観測衛星とプラットフォームという二兎を追ったことになります。
 しかも、プラットフォームはあくまでも米国のスペースシャトルによる地球低軌道へ
のモジュールの輸送計画の実現が前提だったはずです。しかし、1986年にスペース
シャトル「チャレンジャー」の爆発事故が起こって、シャトルによる軌道輸送サービス
計画は中止になってしまったのです。
 ところが、NASDAはそれにもかかわらず「みどり」の設計変更をせず、そのまま
「プラットフォーム衛星」として制作を進めたのです。松浦晋也氏は、「みどり」制作
時の日本の宇宙技術としては、実に四兎を追っていたと指摘しています。四兎とは、次
の4つです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            1.地球観測衛星という本来目的
            2. プラットフォームの技術修得
            3.重量3トンを超える衛星規模
            4.他国センサーを積む国際協力
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 なぜ、米国のシャトル輸送計画が中止になった時点でプラットフォームを断念しなか
ったのでしょうか。さらに、プラットフォームという未知の技術を試す衛星に他国のセ
ンサーを搭載して国際協力をしたのでしょうか。地球観測という目的だけを忠実に果た
す手堅い衛星――そういう技術は日本のお家芸である――にしなかったのでしょうか。
 疑問がたくさん湧いてきます。しかもです。「みどり」に続く「みどり2」までも同
じプラットフォーム衛星の設計を引き継いでいるのです。そして、ともに1年以内に機
能喪失――どうやら日本は失敗から学べないようです。
 NASDAとはどういう組織なのでしょうか。明日は、ロケットや衛星の開発組織の
実態にメスを入れます。             ・・・ [日本宇宙開発/09]

2007年04月05日

JAXA/文部科学官僚が天下り先(EJ第1355号)

 2003年のことです。宇宙開発に携わってきた3つの組織が合体してJAXA(宇
宙航空研究所開発機構)ができましたが、それまでは、NASDA(宇宙開発事業団)
が衛星やロケットを作ってきたのです。このNASDAというのは、どういう組織なの
でしょうか。
 NASDAが設立されたのは、1969年10月1日のことです。初代理事長には島
秀雄氏が就任しています。島秀雄氏は、旧国鉄の出身で、新幹線建設に辣腕を発揮した
スーパーエンジニアとして知られています。
 そのとき島理事長のもとに集まった人材は、大別すると次の3つの系統に分かれるの
です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           1.国の研究機関から来たエンジニア
           2.霞ヶ関の官庁からの出向者
           3.宇宙分野への進出を目指すメーカ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 とくに3番目のメーカからの出向エンジニアは優秀だったといわれます。宇宙開発と
いう新分野で確固たる地位を築きたいと考える各メーカは、こぞって一流の人材を送り
込んできたからです。これらのメーカのエンジニアを中心に、NASDA設立以前から
研究を続けてきた国の研究所からの人材の能力が加わってNASDAの基礎的な技術
基盤が作り上げられたのです。
 次のリストは、NASDAの歴代理事長の在任期間と出身を示していますが、これか
ら興味深いことがわかります。
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       島  秀雄  1969〜1977 国鉄
       松浦 陽恵  1977〜1980 宇宙航空技術研究所
       山内 正男  1980〜1984 宇宙航空技術研究所
       大澤 弘之  1984〜1989 科学技術庁
       山野 正登  1989〜1995 科学技術庁事務次官
       松井  隆  1995〜1996 科学技術庁
       内田 勇夫  1996〜2000 科学技術庁事務次官
       山之内秀一郎 2000〜     JR東日本
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 初代から第3代の理事長は、いずれもエンジニアが就任しています。NASDA立ち
上げの重要な時期であり、一番苦労の多い時期に当ります。この時期の理事長は自らも
衛星やロケットのことがよくわかっていないと務まらないのです。
 そういう大変な時期においては、官僚は敬遠しているのです。しかし、NASDAス
タートから15年が経過し、NASDAという組織が順調に運営されるようになると、
官僚出身者が理事長の座を独占するようになってくるのです。
 しかし、1999年11月にH−Ⅱロケット8号機の打ち上げ失敗が起こって官僚出
身の内田理事長が退任すると、次の理事長には再びエンジニアの山之内氏を就任させる
など、責任回避の官僚体質丸出しの人事が行われているのです。
 さらに、1981年〜1984年――この時期は、NASDA設立以来メーカから出
向されてきていた優秀なエンジニアがNASDAから去り、官僚出身者が副理事長にな
って、やがて理事長になる年に該当するのですが、その年にNASDAには、霞ヶ関式
の2年ローテーション人事が導入されているのです。この人事によって、NASDAで
は優秀なエンジニアが育たなくなってしまったのです。
 衛星やロケットの開発は一通りすべての工程を経験するのには、5年から10年はか
かるのです。そこに2年ローテをやられたらどうなるでしょう。この愚かな人事の強行
によって、優秀な人材によって築かれた初期のNASDAの技術基盤は大きく崩壊する
ことになるのです。
 衛星やロケットの開発現場では、エンジニアのモラールが低下し、責任回避の姿勢が
顕著にあらわれていたのです。2年後に移動が確実であれば、下手に動いて責任を負わ
されるのは損とばかりに、本気で取り組む者が少なくなっていたのです。大過なく2年
を過ごそうとするからです。
 不幸なことに、そういう時期に「みどり」/「みどり2」の設計が行われていたので
す。これでは、成功するはずがないではありませんか。
 聞くところによると、プラットフォーム衛星化について末端のエンジニアは一貫して
反対していたそうです。しかし、計画責任者がそもそも計画のことを知らず、技術力も
ないのですら、そのような意見が通るはずがないのです。そうなると「みどり」/「み
どり2」の2度にわたる失敗は起こるべくして起こったことになります。
 この2年ローテーション人事制度はさすがに是正の動きが出て現在は、プロジェクト
・マネージャ制度が行われています。この制度は、ひとつのプロジェクトにおいては、
その計画の終了までは主要なメンバーは動かさないという制度です。
 しかし、霞ヶ関の官僚が今もJAXAを有力な天下り先と考える構図は、何も変わっ
ていないのです。現在のJAXAの副理事長の前職は、文部科学省の文部科学審議官で
す。確かにこの人は京都大学工学部の出身ではありますが、科学技術庁には入庁したも
のの、2003年8月にNASDAの副理事長になるまでは宇宙開発とは関係ない仕事
に就いてきた人です。したがって、明らかに天下り先として現在のJAXAの副理事長
に就いていると考えられます。
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        http://www.jaxa.jp/about/gaiyo/index_j.html
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 他の省庁なら別ですが、JAXAのような組織では、現場で十分な経験を積み、技量
を磨いてきた人を理事長に就けるべきですが、きっとそうならないでしょう。何しろこ
の国は、官僚という種族に支配されている社会主義国なのですから。官僚支配は衛星や
ロケットの開発分野にも及んでいるのです。     ・・・[日本宇宙開発/10]

2007年04月06日

『マイクロラブサット』の奇跡(EJ第1356号)

「みどり」/「みどり2」運用失敗のウラに、ある意味において痛快な話があります。
実は、2002年12月の「みどり2」の打ち上げで、「マイクロラブサット」という
小さな衛星が打ち上げられているのです。その重量は54キログラムです。
 「マイクロラブサット」は、次の3つの目的のために開発された衛星なのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.衛星の製造・試験・打上げによるエンジニアの育成
       2.小回りのきく小型衛星に必要な技術を開発すること
       3.安価な民生用電子部品を利用した衛星開発への挑戦
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これは、ますます肥大化する衛星計画に対するアンチテーゼとして、小型衛星を開発
しようという動きの一環として開発されたものなのです。
 大型の衛星の開発には長大な時間とコストがかかり、次世代を担う人材が育たない
――このことに危機感を持ったNASDA内部の一部のエンジニアたちが、小型の低コ
スト衛星を自前で開発することによって、若手のエンジニアたちに経験を積ませること
を狙いとしたものなのです。
 このコンセプトがNASDA内部で提案されたのは1995年のことですが、実際に
開発が始まったのは1998年なのです。そして、2002年に打ち上げに成功してい
るのです。
 衛星の総開発費は4億円――2億円かけて筑波宇宙センター内に小型衛星の製造と試
験のための設備を建設し、残りの2億円で衛星を製造しています。
 皮肉なことに、当初寿命3ヶ月として設計された「マイクロラブサット」は、打ち上
げから1年6ヶ月を経過した現在でも正常に飛び続けているのです。
 秋葉原の電気街で入手できる民生部品で組んだ搭載コンピュータは、放射線が飛び交
う過酷な宇宙環境に耐えて正常な結果を出力し続けているし、同じく民生用の受光素子
を使ったデジタルカメラは、非常に鮮明な画像を送信してくれているのです。2003
年10月には、大規模な太陽フレアがあったのですが、それにも耐えて現在もなお動作
を続けているのです。
 その一方で膨大なコストをかけて3年の寿命として設計され、打ち上げられた「みど
り2」は、1年もたずに機能を喪失している――何とも皮肉な話ではありませんか。
 「みどり」/「みどり2」の失敗に見られるように、日本の宇宙開発のやり方は何か
しろおかしい点があります。何かが抜けているといったらよいのかも知れません。その
原因を究明するため気象衛星「ひまわり」について考えてみることにします。
 日本が気象衛星のことを真剣に考えるようになったきっかけは1959年9月26日
から27日にかけて中京地方を襲った伊勢湾台風だったのです。
 伊勢湾台風――最低気圧929.2ヘクトパスカル、上陸時の暴風半径250キロメ
ートルの巨大台風で、全国で死者・行方不明者が5098人、負傷者3万8000人以
上という昨今では考えられないほどの大被害を出してしまったのです。
 当時の気象観測は、陸上からの気象通報が主であって、海上の観測は一部船舶と航空
機に頼っていたのです。そのため、気象台が台風に関する警報を出したのは当日の午前
11時であって、台風に備える十分な時間的余裕がなかったのです。
 この伊勢湾台風の経験から、もっと広域的な気象観測によって台風の進路を予測する
べきであるという意見が出されたのです。ちょうど伊勢湾台風の翌年の1960年4月
米国は気象観測を目的とした試験衛星「タイロス1」を打ち上げています。そして19
65年までに米国は10機のタイロス衛星を打ち上げて技術開発力を高めていったの
です。
 そして、1966年に入って初の実用気象衛星「エッサ」の打ち上げに成功するので
す。しかし、「エッサ」は地球低軌道を回る衛星であり、気象衛星としては不十分だっ
たのですが、米国は同じ年の12月に気象観測センサーを搭載した実験衛星「ATS−
1」を静止軌道に打ち上げて、静止軌道からの気象観測を可能にしたのです。
 しかし、その当時の日本は、タイロス衛星やエッサ衛星の画像を受信してその利用法
を探るという程度のことしかできなかったのですが、1969年に「世界気象機関(W
MO)」が国際協力によって、静止軌道に衛星を打ち上げ、全世界的なリアルタイムの
気象観測を可能にする「世界気象観測計画」を打ち出すに及んで、日本もその一翼を担
うことになったのです。
 「世界気象観測計画」によると、大国の分担による衛星の提供により、1977年か
ら衛星5機による静止衛星観測体制を築こうというものだったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        米国 ・・・・・ 2機  欧州 ・・・・・ 1機
        日本 ・・・・・ 1機  ソ連 ・・・・・ 1機
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 この日本に課せられた1機の衛星の製造は、1969年に設立されたばかりのNAS
DAが担当して行うことになったのです。メーカは日本電気が選定され、米ヒューズ・
エアクラフト社が、開発していた静止気象衛星の技術を導入して、衛星を製造したので
す。そして、1977年7月14日、米国のデルタロケットによって打ち上げられたの
です。これが「ひまわり1号」なのです。
 「ひまわり」は、1978年から画像利用を本格的に開始し、気象観測に威力を発揮
するようになります。「ひまわり」は5号まで打ち上げられるのですが、その運用はま
さに綱渡りの連続で何ともすっきりしないものだったのです。
 しかし「ひまわり」という名前は、気象観測衛星の代名詞として定着し、国民生活に
欠くことのできない実用衛星となったのです。   ・・・ [日本宇宙開発/11]

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2007年04月09日

気象衛星なしの異常な状態(EJ第1357号)

 「ひまわり」は静止気象衛星であり、太平洋上空、東経140度の静止軌道上から、
1時間に1回の割合で地球半球の画像を配信していたのです。
 添付ファイルに「ひまわり5号」の写真があります。「ひまわり」シリーズは、第1
号から第5号まで基本的に構造は同じで同じセンサーを搭載していたのです。図の下の
部分はアンテナですが、このアンテナ部分をのぞいて衛星全体はぐるぐると回転する構
造になっています。
 アンテナの上に楕円形の窓のようなものがありますが、その奥に気象観測用のセンサ
ーがあります。このセンサーはスキャナと考えるとわかりやすいと思います。センサー
も本体と一緒に回転しており、1回の回転で地球を東西方向に1ラインだけ、スキャン
するのです。
 そうすると、センサーの内部に撮影する方向を変えるミラーが入っていて、1回転ご
とに少し動いて撮影する向きを1ライン分だけ南北方向に変えるのです。そして、セン
サーが次に地球を向いたときには前に、スキャンしたラインの隣のラインをスキャンす
る――これを繰り返していくのです。そのようにして、地球をなめるように1ラインず
つスキャンしていきます。そして、25分に1枚の割合で画像が得られるのです。
 このようにして「ひまわり」が取得した画像は、スーパー・コンピュータによって、
画像の雲の流れから風向・風速の分布を算出し、シミュレーションを行い、数時間先の
天候を予測するのです。このように気象衛星が取得した観測データは、天気予報の精度
を決める重要な働きをするのです。
 テレビで天気予報を解説するとき、天気予報士が『まず、「ひまわり」の画像を見ま
しょう』というのを聞いたことが何回もあると思います。しかし、2003年5月以後
は「気象衛星の映像を見ましょう」というように変わっており、「ひまわり」というこ
とばは消えているのです。どうしてでしょうか。
 どうしてかというと、「ひまわり」は2003年5月に寿命が尽きているからです。
それでは、それに代わる衛星はどうしたのでしょうか。
 「ひまわり」の後継衛星は「運輸多目的衛星(MTSAT)」だったのですが、この
衛星は1999年11月15日、「H−Ⅱロケット8号機」で打ち上げられる予定だっ
たのに、ロケットの第1段エンジンのトラブルで打ち上げに失敗――ついに後継機がな
くなってしまったのです。そこで、「ひまわり5号」をそのまま使い続けていたのですが、ついに2003年5月に寿命が尽きてしまったというわけです。
 それでは、現在、天気予報には何を使っているのかというと、米国の海洋大気庁(N
OAA)から借りてきた衛星「ゴーズ/GOES9」を使っているのです。何ともお粗
末な話です。どうしてこういうことになったのでしょうか。
 「ひまわり」の開発状況は次のようになっています。この頃は国産化率にはあまりこ
だわらず、高い精度で打ち上げられ、トラブルなしで動くということが目標だったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                         開発費 国産化率
      ひまわり   1977.7.14 117億円  11%
      ひまわり2号 1981.8.11 144億円  35%
      ひまわり3号 1984.8. 3 133億円  32%
      ひまわり4号 1989.9. 6  53億円  32%
      ひまわり5号 1995.3.18 146億円  29%
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 ここで説明しなければならないことがあります。衛星というものは一度故障すると軌
道上での修理はできないのです。したがって、故障しないように細心の注意をもって
設計・製造されます。当然のことです。
 それでも故障は起こるのです。そのために、通常は予備の衛星を用意するのです。ま
して気象衛星のように故障してしまったら天気予報ができなくなるので、予備衛星の用
意は不可欠です。
 予備の衛星は、あらかじめ軌道上に用意しておくこともありますし、製造した衛星を
地上で保管し、いつでも打ち上げられるようにしておくのが通常です。
 「ひまわり」から「ひまわり3号」までは開発に不可欠であるとして、いずれも予備
の衛星が地上に用意されていたのです。これを「プロトプライトモデル」といいます。
これが役に立ったのは「ひまわり3号」です。1号・2号は、正常に運用されたものの
「ひまわり3号」はトラブル続きで、運用停止の一歩手前まで追い込まれたのです。
 そこで3号の予備機として地上に用意されていたプロトプライトモデルが、4号とし
て打ち上げられたのです。4号の開発費が通常の半額なのはそのためです。そして5号
は最後までノートラブルで運用されたのです。これがかえって仇となったのです。
 というのは、「ひまわり5号」の安定運用によって、気象庁の上位官庁である運輸省
が、気象衛星の予備機の予算に難色を示すようになったからです。気象庁としては、2
機製造するには1機を作る2倍の経費はかからないし、製造に先行する試作品の製造も
不要であるとして予備機製作の必要性を説いているのですが、運輸省は聞き入れなかっ
たというのです。
 それに気象庁内部でも、気象衛星による気象観測に疑問の声も出ていた時期もあるの
です。それは「地域気象観測システム(アメダス)」との対立です。アメダスは日本全
国の気象データをネットワークで集めて分析し表示するシステムですが、一時期「気
象衛星を打ち上げる金でアメダスを充実させるべき」という意見が気象庁内部で出てい
たのです。運輸省の予備機予算反対の根拠はここにもあるのです。しかし、気象衛星の
有効性はすぐに認識されたのですが、運輸省はそれでも予備機の予算を認めず、遂に気
象衛星なしの最悪の事態に陥ったのです。     ・・・ [日本宇宙開発/12]

2007年04月10日

日本の気象衛星は今後どうなるか(EJ第1358号)

 「ひまわり」についてもう少し詳しくいうと、2つの不幸が重なったといえます。ひ
とつは、H−Ⅱロケット8号機の打ち上げ失敗で、「ひまわり5号」の後継機として考
えていた「運輸多目的衛星(MTSAT)」が無駄になったことですが、もうひとつつ
いていないことがあるのです。
 実は、代替衛星MTSAT−1R――2003年3月打ち上げ予定――を米スペー
ス・システムズ/ロラ−ル社に発注していたのですが、さんざん製造が遅れたうえ、2
003年7月に同社が倒産してしまったのです。何ということでしょうか。
 なぜ米社に発注するのかというと、日本は1989年の対米交渉「スーパー301」
によって、実用衛星については国際調達することを米国に約束させられているからで
す。
 ロラール社は、衛星の引渡しに当たって3000万ドルの追加経費や補償金の支払い
をを請求するなど、無理難題を気象庁に申し立ててきており、今年の1月時点において
は、この問題は解決のメドが立っていないのです。
 さて、気象衛星というと、誰でも天気予報のための衛星と考えていますが、実は次の
3つの意義があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.天気予報の高精度化
          2.国際貢献/アジア・太平洋地域
          3.安全保障面での貢献
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 第1は「天気予報の高精度化」のためです。
 日本の気象衛星は、東経140度の太平洋上で運用されていますが、最大の目的は天
気予報の高精度化です。台風がどこにいるのかをリアルタイムで把握して、台風に対す
る素早い備えを可能にし、気象被害を大幅に減少させることに貢献しています。
 第2は「国際貢献」のためです。
 日本の気象衛星は、アジア太平洋地域に対して行う国際貢献でもあるのです。「ひま
わり」シリーズの画像は、日本だけでなく東南アジア各国やオーストラリアのような南
半球の国でも受信されていたのです。
 日本は、国際貢献の一環として、受信したデータをもとに天気図を作成し、「ひまわ
り」に搭載した通信装置による衛星ファクシミリ通信「ウェザーファクス」を無料で配
信するという実用性の高いサービスを行っていたのです。こういうサービスは日本とい
う国の威信を高めることに貢献していたといえます。
 第3は「安全保障面での貢献」のためです。
 気象衛星は安全保障面でも重要な働きをします。天候は戦争に大きな影響を与えるの
です。したがって、米国は気象衛星には大変力を入れており、次の3つを組み合わせて
運用しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         1.静止気象衛星「ゴーズ(GOES)」
         2.極軌道気象衛星「ノア(NOAA)」
         3.軍事用極軌道気象衛星 「DMSP」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「ゴーズ(GOES)」は米国の気象庁に当たる海洋大気庁が運用しているのですが
開発時にはアルファベットで呼ばれ、打ち上げに成功すると数字に改称されるのです。
例えば、最初のGOESは開発時は「GOES−A」ですが、打ち上げ後は、「GOE
S−1」と呼ばれています。
 GOESは、1975年10月の打ち上げからスタートし、1986年の「GOES
−G」で打ち上げに失敗――直ちに地上予備機を打ち上げて「GOES−7」としたの
ですが、ここで設計を大幅に変更しています。
 そして新設計の「GOES−8」は1994年4月に打ち上げられ、2001年7月
の「GOES−12」まで、打ち上げが終わっています。このうち「GOES−9」に
ついては、日本の気庁が借りており、細々と気象観測をやっていますが、次の打ち上げ
のメドは立っていないのです。
 ところで、これほど頻繁に静止軌道に衛星を打ち上げていたら静止軌道がいっぱいに
なってしまうのではないかという疑問がわいてきます。静止軌道は、気象衛星だけでな
く、通信衛星や放送衛星なども使う衛星が密集した宇宙の特等席なのです。
 したがって、そこを用済みの衛星で埋めないように、寿命がきた衛星は最後の推進剤
――これは必ず残しておく必要がある――を使って静止軌道よりも少し高い軌道に移し
て、そこで動作を止めて廃棄するのです。これを「デオービット」というのです。
 「ひまわり5号」については、デオービットに必要な最後の推進剤を残しながら、機
能を絞って最後の最後まで運用を続けたことになるのです。
 さて、今後日本の気象衛星はどうなるのでしょうか。
 国土交通省(事故後運輸省から名称変更)と気象庁は、次世代気象衛星「MTSAT
−2」を2005年に打ち上げる予定で、三菱電機に発注しています。この衛星はロラ
ール社に発注した「MTSAT−1R」が打ち上げられる前提で発注されたのですが、
現在ではこれが本命になってしまっています。
 心配なのは、現在米国から借りている「GOES−9」がそれまで持つかということ
です。というのは、この「GOES−9」は、1995年の打ち上げでとっくに設計寿
命が切れており、いつ機能を停止しても不思議はないという代物だからです。
 もし、「GOES−9」が機能停止になると、東アジア・太平洋地域で、静止衛星に
よる気象観測の空白を作ってしまう恐れがあります。気象衛星の機能喪失は、単に日本
の天気予報の精度が落ちるだけのことではなく、この衛星を利用しているアジア・オセ
アニア地域の国々に多大な迷惑をかけることになります。日本の気象衛星は日本だけの
ものではないのです。
 現在の状況は、気象衛星計画の初期の段階で予備機を持つことの重要性を運輸省が理
解しなかった点にあるといえます。        ・・・ [日本宇宙開発/13]

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2007年04月11日

テポドン発射は衛星打ち上げである(EJ第1359号)

 1998年8月31日――この日は何の日だと思いますか。
 北朝鮮(朝鮮民主主義共和国)が「テポドン」を太平洋に向けて発射した日です。テ
ポドンは日本の上空を飛び越えて太平洋に落下しています。思えばこの日を境にして日
本が北朝鮮に対する姿勢を一段と強化することになるのです。
 9月4日になって、北朝鮮中央通信は、それを「光明星1号」の打ち上げであると発
表したのです。日本政府やマスメディアはこれを頭から信じようとはせず、「北朝鮮の
言い訳である」として、あくまでミサイルの実験であるとして報道し、現在でもその考
え方を変えていません。
 本当に衛星が打ち上げられたのであれば、衛星は27Mヘルツの電波を送信しており
それを受信できるはずです。しかし、世界中のアマチュア無線家が電波の受信に挑んだ
にもかかわらず、「光明星1号」の電波は受信されなかったのです。
 ところが、米政府は9月12日になって「衛星の打ち上げである可能性が高い」と発
表したのです。米国の北米防空司令部(NORAD)には軌道上の物体を監視するレー
ダーがあり、軍事機密以外の軌道上物体の軌道情報を公開しているのです。現在、そこ
にはテポドンは「1998−F04」と記録されています。これは次のことを意味して
いるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         1998−F04 F=Failure
         1998年に起きた4番目の衛星打ち上げ失敗
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 もちろん文部科学省もこのことは知っているはずですが、何もコメントしていません
し、日本政府もマスコミもあくまで「ミサイルの発射実験」という態度を変えていない
のです。いつもであれば、他の国ならばいざ知らず米国が発表することにはすぐ追随す
る日本がこの問題に関しては頑なな態度をとっているのは不思議な話です。
 米国の発表だけではないのです。9月17日には韓国の国家安全保障会議がやはり衛
星の打ち上げであると発表したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      2段式のミサイルの「テポドン」に第3段を載せて衛星の打ち
      上げに使用し、この第3段が着火せずに衛星の軌道投入に失敗
                    ――韓国国家安全保障会議の分析
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 松浦晋也氏は、テポドンは次の2つの理由から、衛星の打ち上げであると主張してい
ます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        第1の根拠:ロケットを真東に向けて打ち上げている
        第2の根拠:金正日総書記の祝賀行事に合わせている
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 第1の根拠は、「ロケットを真東に向けて打ち上げている」ことです。
 発射基地は、ハンギョンプクド・ムスダンリであり、そこから真東に向けて打ち上げ
られています。非力なロケットで大きな衛星を打ち上げる場合は、ロケットの到達速度
に加えて地球の自転速度を最大限に利用する必要があるのですが、そのためには北朝鮮
の場合、この位置から真東に向けて打ち上げるのがベストであるといえます。
 もし、単なるミサイルの実験であれば、真東である必要はないのです。まして日本を
恫喝するのが目的であれば、関東の上空を通過するように打ち上げたり、札幌や仙台な
どの大都市の上空を通過するなどのもっと効果的な方法がいくらでもあります。
 第2の根拠は、「金正日総書記の祝賀行事に合わせている」ことです。
 テポドンの打ち上げは8月31日ですが、9月9日には金正日総書記の国家最高指導
者就任の祝賀行事が行われているのです。こういう場では何らかの方法で国威の発揚を
はかるものですが、そのために日本を恫喝する――これは明らかにおかしいです。その
点、衛星の打ち上げの方がはるかに効果的です。
 祝典にはマスゲームが行われたのですが、その中には衛星が登場しているのです。お
そらく祝典前には「光明星1号」を打ち上げるという前提で衛星のマスゲームを何ヶ月
もかけて練習したものと考えられます。
 それでは、当時の日本政府(小渕恵三首相)は本気でミサイル実験と信じていたのでし
ょうか。
 そんなことはないと思います。どちらにせよはっきりした事実は出ないのですから、
ここは衛星の打ち上げよりもミサイル実験で押し通した方が得策という計算をしたと
考えられます。というのは、ちょうど当時日本政府は「偵察衛星」の開発をひそかに
検討していたからです。しかし、表面に出すと国民の反発を招くので「情報収集衛星」
として検討していたのです。
 こういう事実があります。1998年8月25日、自由民主党の科学技術・情報懇談
会の席上、三菱電機の谷口一郎社長が講演しているのです。演題は、「多目的精密観測
衛星について」――谷口社長はここで日本独自の偵察衛星の必要性について熱弁を振る
っているのです。
 そして、31日のテポドン発射――これを境に状況は一変してしまいます。9月1日
の自民党総務会では、日本も偵察衛星を持つべきであるという意見が出され、北朝鮮脅
威論が加速したのです。同じ1日にテレビに当時民主党の菅直人代表が「日本は自前で
偵察衛星を持つべきである」と発言し、小渕首相はそれに対して「強い関心」を表明す
るといった具合です。
 したがって、日本政府は衛星打ち上げよりもミサイル実験で押し通す方が得策と考え
たのでしょうが、本当は衛星打ち上げの方がミサイル実験よりも衝撃的なのです。衛星
打ち上げというと平和的に聞こえますが、本質は軍事目的の実験そのものなのです。
                        ・・・ [日本宇宙開発/14]

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2007年04月12日

宇宙開発計画の司令塔はどこか(EJ第1360号)

 気象衛星にせよ、多目的衛星(偵察衛星)にせよ、それを企画し、設計し、設計内容
を精査し、計画を立てて製作する――そういう司令塔はどこなのでしょうか。
 はっきりしているのは、製作しているのはメーカであるということです。問題は、メ
ーカを指揮して製作に当たらせているのはどこなのでしょうか。
 文部科学省なのでしょうか。それとも、JAXA(宇宙航空研究所開発機構)なので
しょうか。それともそのための特定のプロジェクトチームなのでしょうか。
 一番それらしいのはJAXA(以前はNASDA)ということになりますが、JAX
Aが本当にロケットや衛星の開発のノウハウを持っているのでしょうか。
 このようにいうと、基本的なコンセプトや仕様をメーカに提示したり、設計に関して
指示を出しているという答えが返ってくると思いますが、JAXAは本当にそのような
ことができる能力を持っているのでしょうか。
 これらの疑問に対し、日本初の偵察衛星(「みどり2」/多目的衛星)の製作の軌跡
を簡単に振り返って、実態はどうなっているかについて検証したいと思います。
 先週28日のEJ第1359号で、北朝鮮のテポドン発射の直後から偵察衛星に対す
る風向きが大きく変わったことを書きましたが、実際に1998年9月7日、政府与党
連絡会議は「情報衛星プロジェクトチーム」(座長:中山太郎元外務大臣)を発足させ
ているのです。
 このプロジェクトチームのメンバーは、次の通りですが、いずれも自由民主党の防衛
族議員です。
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      中山 太郎(大正13年生) 大阪高等医学専門学校卒
      野呂田芳成(昭和 4年生) 中央大学法学部卒
      愛知 和男(昭和12年生) 東京大学法学部卒
      玉澤徳一郎(昭和12年生) 早稲田大学大学院政治学部卒
      衛藤征士郎(昭和16年生) 早稲田大学大学院政治学部卒
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 同年10月14日には、このメンバーでヒヤリングが行われているのですが、そのと
きの資料「多目的情報収集衛星システムの検討」は、三菱電機の鎌倉製作所のエンジニ
アが総力でまとめたのです。ちなみにその資料には、次のようなことまで書いてあった
のです。
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           1998年着手/2002年打ち上げ
           予算総額       2000億円
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 プロジェクトチームは、テポドン発射の10日後の9月10日から10月15日まで
に7回のヒアリングを行い、10月29日に「情報収集衛星導入についての提言」をま
とめて党に提出しているのです。なお、この提言書の詳細は、次のアドレスをクリック
すると、見ることができます。
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       http://www.jimin.jp/jimin/saishin9998/seisaku-21.html
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 そして、11月6日の閣議で、政府は2002年度に情報収集衛星4機を打ち上げる
ことを決定し、予算も1998年度の第3次補正予算で17億円を組み、直ちにこの計
画は動き出すことになったのです。何と素早いというか、電光石火というか――当時小
渕内閣は予算の大判振る舞いをしていたときですから、こういうことができたのかも知
れません。
 単に予算を取るまでの計画のまとめ方ではないのです。かなり具体的なことまでこの
短い間に決まっているのです。主要な5つの点をまとめると次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1.比較的低軌道の周回軌道へ打ち上げる周回衛星
        2.必要な情報を高分解能で撮影できる機能を持つ
        3.1メートル以下の分解能を有する光学センサー
        4.悪天候や夜間時の撮影も可能なものにする機能
        5.同一地点を最低1日1回以上観測を可能にする
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 プロジェクトチームのメンバーの学歴を見ると、中山氏を除き全員が文科系です。そ
の中山氏の専攻も医学なのです。とてもではないが、ロケットや衛星に関して、基本的
なコンセプトを示したり、設計に関して指示ができるとは思えないのです。
 それなら、なぜ、このように早くまとまったのかというと、製作を担当した三菱電機
が衛星ビジネスのためにかねてから準備をしており、その計画をプロジェクトチームが
そのまま受け入れたからなのです。むしろ、プロジェクトメンバーから専門的な質問が
出ないからこそ早くまとめられたといってよいと思います。
 その証拠に、「民間から情報衛星について聞く」と題して行われた10月14日のヒ
ヤリングにおいて、三菱電機はプレゼンを行っているのですが、そのプレゼンの内容と
結論としてまとまったプロジェクトチームの5つのポイントは、まったく同じものなの
です。
 政治家はものごとの核心を把握して的確な判断を下し、あとは専門家にまかせればよ
い――これは丸投げ宰相の小泉首相がいうことばと同じですが、プロジェクトチームの
上記のメンバーに偵察衛星の核心を把握して的確な判断が下せるでしょうか。これは基
本的に丸投げと同じと考えてよいと思います。
 それでは、JAXAは何をやっているのかですが、ここには天下り官僚が居座ってお
り、専門家の言によると、ほとんど役立っていないと考えてよいそうです。結局、メー
カがコンセプトも基本設計も実施計画も、すべて作って製作するというかたちになって
いるのです。官僚たちはこういう衛星開発を利用して新しい組織を作り、天下り先の確
保に執念を燃やしているのです。         ・・・ [日本宇宙開発/15]

2007年04月13日

政治・行政における理工系素養の不足(EJ第1361号)

 1998年の多目的情報収集衛星の予算総額は最終的には衛星からのデータを受信
する地上局を建設するための費用が加わったため、2500億円に増加しています。
 これほど巨額の官需となると、メーカはそれを獲得しようとして必死になります。し
たがって、仮にプロジェクトチームのメンバーから相当無理な注文が出ても、否定的な
返事はまずできないと考えられます。したがって、メーカは何でも「できる」という返
事を返すことになるのです。
 したがって、それが無理かどうかの本当の判断は、メーカにいろいろな角度から質問
することによって、その応答から発注側自身が判断しなければならないわけです。その
ために発注側としては、ロケットや衛星、それに宇宙軌道に関する相当詳しい知識を持
っている必要があります。
 こういう知識は、単に理工系だからわかり、文科系だからわからないというのではな
く、勉強することによってはじめて身につく知識なのです。勉強しなければ、たとえ理
工系でもわからないのです。現代のように高度に科学が発達した世の中では、文科系の
人も理工系的素養を持たないと、正しい政策判断ができない時代になっているといえま
す。
 そういう意味で、中山太郎座長を中心とする情報衛星プロジェクトチームの防衛族議
員たちは、そういう知識の上に立って政策の判断をしたのでしょうか。結果は、最初の
2機は打ち上げられていますが、残る2機は昨年11月29日のH−ⅡA6号機の打ち
上げ失敗で、当初の計画は達成されていないのです。
 企業へのコンピュータの導入期に、さかんにいわれた次のことばがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      自らコンピュータを使う必要などない。コンピュータを使える
      人間を使えればよいからである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 私は大企業の情報システム部門に10年以上在籍した経験がありますが、その経験を
通じてこのことばがウソであることを実感したのです。結局自分がコンピュータを使え
なければ、コンピュータを使える部下を使うことなどできるはずがないのです。
 この発想はコンピュータを使う人間を一段低く見ています。コンピュータは下々の者
が使うマシンであって、一段上にいる経営者はとくに使う必要がない――そういう考え
方ですが、これは完全に間違っています。むしろ、重要な政策判断を下す経営者ほどコ
ンピュータを自ら使いこなす必要があるのです。
 コンピュータが使えるようになると、その分だけ自らのパワーが増すことになります
コンピュータを使うことによって、従来はできなかったことができるようになっている
はずです。そうすると、そのパワーアップした能力をベースにものごとを考えるように
なり、新しいアイデアや智恵が出てきます。
 したがって、コンピュータを使える人とそうでない人との間には考え方に大きな差が
生ずるのです。つまり、コンピュータが使えない人は、コンピュータの力をベースに物
事を発想する「コンピュータ頭脳」ができていないので、現代の経営に対応する良い智
恵やアイデアが出てこないのです。
 日本の場合、政治も行政も理工系的素養が決定的に不足していると考えます。日本で
は、自分ができない難しいことは、専門家の仕事であるとして、それから逃げる傾向が
あります。そのため理工系的知識が不足するのです。つまり、文科系の人から見ると理
工系の人はすべて「専門家」なのです。
 しかもこの「専門家」ということばも必ずしも相手を尊敬して使うことばではなく、
難しいことの好きな「技術屋」という意味で使うことが多いのです。しかし、理工系の
学部を出て企業に就職した人のほとんどは、その技術やノウハウを企業に入社してから
一から勉強して覚えたといっているのです。
 そういう国において、先端技術の粋を集結しなければならないロケットや衛星を製作
するのは非常にリスクがあります。結局はどんな無理なことでも「できる」といわざる
を得ないメーカを信じて、すべてを丸投げせざるを得ないからです。このあたりに、次
々とロケットの打ち上げに失敗したり、衛星が機能を停止する原因の一端が潜んでいる
のではないかと考えます。
 ここに興味深いデータがあります。最近宇宙開発で目覚しい進歩を遂げている中国の
指導者の最終学歴と専門分野を示したものですが、驚くなかれ全員が理工系です。ほと
んど全員が文科系の日本と際立った差というべきでしょう。
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       氏名   役職 出身校              専門
      胡錦涛 国家首席 精華大            水利工学
      温家宝 首相   北京地質学院          地質学
      呉邦国      精華大            電子工学
      賈慶林      河北工学院          電気工学
      曽慶紅      北