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このブログは、異文化研修の教育機関(株)インテック・ジャパンの情報発信用です。(株)イー・メディアとの提携により、同社のドキュメント・レポート「Electronic Journal」をウィークデイの毎日お届けします。
「Electronic Journal」は様々な情報を400字詰原稿用紙7枚にまとめて配信する日刊メールマガジンです。

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2007年11月27日

一時国有化と実質国有化の違い(EJ第1218号)

 自民党が参議院での過半数を失って、過去のいろいろな疑惑がたくさん出てきていま
す。改革を売り物にした小泉政権にも謎がたくさんあります。その謎の1つに「りそな
処理」があります。
 このレポートは、2003年10月24日のEJ第1218号から同年11月14日
のEJ第1232号までの15回にわたって記述したものですが、再現することにしま
す。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 日経平均株価が4月末の7600円水準を底にして一転上昇したキッカケは、りそな
への公的資金の投入――いわゆるりそな処理であったことは既に述べた通りです。
 このりそな処理については賛否両論があります。竹中路線の功績という長谷川慶太郎
氏のような賛成意見から、問題の先送りや究極のモラルハザードという批判までいろい
ろあるのです。しかし、このりそな処理――何か釈然としないものがあります。2兆円
もの公的資金の投入を受けているにもかかわらず、りそなHDは現在でも迷走を続けているからです。
 日本経済について語るとき、金融問題は避けて通れないテーマです。そういうわけで
しばらく、経済の問題と関連させて、このりそな処理をテーマとして取り上げてみたい
と思います。
 最初に、簡単にりそなショックを振り返っておきましょう。
 2003年5月17日の午後5時30分のことです。おりしも日銀の記者クラブにお
いて、勝田泰久・りそなホールディングス(りそなHD)社長をはじめとした、りそな
首脳陣の記者会見がはじまろうとしていたのです。
 この日りそなHDは臨時取締役会を開き、経営危機のため、政府に公的資金の法人申
請を決定していたのですが、記者会見はそのことを報告するためのものだったのです。
要するに、経営危機で潰れる代わりに、りそな銀行は「実質国有化」の道を選択しとい
うわけです。国有化には「実質国有化」と「一時国有化」とがあり、その意味は大きく
違うのですが、これについてはあとで詳しく説明いたします。
 この記者会見のあとの午後6時30分――小泉首相は、預金保険法102条に基く金
融危機対応会議を招集して、りそなHD傘下のりそな銀行に公的資金2兆円の投入を決
定しています。これらの手続きは、1日のうちに手際良く、素早く進められ、公的資金
注入が正式に決まったのです。
 それにしても、りそな銀行は3月に発足したばかりの銀行なのです。しかも、3月に
1200億円の増資をしたばかりです。それが、なぜ、経営危機になってしまったので
しょうか。
 そのときの記者会見によると、りそなグループの中核であるりそな銀行は、2003
年3月期決算で、自己資本比率が2.07%、持ち株会社のりそなHDも自己資本比率
3.78%に低下してしまい、経営危機に陥ったのです。
 自己資本比率とは銀行の経営体力を示す指標であって、比率が高いほど経営の健全性
が高いとされています。自己資本比率の基準は次のように定められています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           国際業務を行う場合 ・・・ 8%
           国内業務のみの場合 ・・・ 4%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 りそな銀行は、1998年に国際業務から全面撤退しているので、自己資本比率は4
%でいいのですが、2003年3月期決算において、2.07%に低下してしまったの
で、経営危機に陥ったわけです。
 現在、金融ネットワークは世界規模で複雑に絡み合っており、ある国の金融機関の破
綻が全世界に連鎖してしまう危険があります。これを「システミックリスク」というの
ですが、自己資本比率の基準は、こういうシステミックリスクが起きないように各国の
コンセンサスのもとに定められたのです。
 問題は、りそな銀行の自己資本比率がなぜ2.07%になってしまったかです。もち
ろん銀行の経営に問題があったことは確かですが、なぜ、突然そのような事態に陥った
かです。
 これについてはいろいろな原因がありますが、一口にいうと会計監査上の問題なので
す。表面的に見ると、監査法人が銀行危機の引き金を引いたという印象になるのです。
もう少し具体的にいうと、決算内容について銀行の経営陣の判断よりも、監査法人が厳
しい判断をしたために、経営危機に追い込まれたということなのです。それがいかに銀
行の経営陣の予想を裏切るというか、意外なものであったかは、勝田泰久前社長の次の
ことばが雄弁に物語っています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      ゴールデンウィーク明けの5月7日になって、新日本監査法
      人の態度が豹変した。背信だ。    ――勝田泰久前社長
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 銀行のトップが公の席で「背信」ということばを漏らすのは、よくよくのことです。
あたかも「監査法人の裏切りによって命を絶たれた」というように聞こえるからです。
 ここで、「国有化」について知識を整理しておく必要があります。「国有化」という
と、1998年の旧長銀、旧日債銀のケースを思い浮かべる人が多いですが、この国有
化とりそな銀行の国有化は違うのです。
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      一時国有化 → その時点で債務超過の状態 → 経営破綻
      実質国有化 → 債務超過には陥っていない → 経営危機
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 旧長銀や旧日債銀のケースは、負債の総額が資産の総額を上回る債務超過に陥ってお
り、経営破綻の状態だったのです。そのため、特別公的管理を適用し、全株式を国が強
制取得して「一時国有化」したのです。この両行については、一時的に完全国有化さた
ので、株は紙くずとなり、社長は国が選んだのです。
 これに対して、りそな銀行のケースは2002年10月の竹中プラン(金融再生プロ
グラム)に基づく初めての「特別支援行」として「実質国有化」したのです。なぜなら
国有化の時点において、債務超過にはなっていないと認定されたからです。
 そのため、株式上場は維持され、りそな銀行の株は紙くずにならず、後任の社長は内
部登用が認められたのです。このケースの国の関与は比較的緩やかで、経営の独立性は
ある程度保てるといえます。「経営破綻」と「経営危機」とは違うのです。
                         ・・・[りそな処理の謎/01]

2007年11月28日

りそな処理と米国政府の関係(EJ第1219号)

 りそな処理には釈然としないものを感ずる――27日のEJでこのように書きました。その「釈然としないもの」の原因を探ってみると、次の3つがあるのです。
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      1.りそな処理は米国主導で決められていること。米国の狙い
        は何か。ブッシュと小泉は再選同盟を結んでいる。
      2.ある銀行を国有化に追い込み、その特別支援行をテコにし
        不良債権処理を急進させるのが竹中プランである。
      3.りそなショックには監査法人が深くかかわっているが、
        監査法人は、説明責任を果たしているとはいえない。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 そもそも日本の銀行であるりそな銀行の国有化の問題になぜ米国が首を突っ込んで
くるのでしょうか。米国は何を狙っているのでしょうか。
 米国政府が関心を払っているのは、自国経済に影響が及びかねない大手邦銀――要す
るにメガバンクの経営問題なのです。そのためにブッシュ政権は、小泉首相にメガバン
クの不良債権処理を急ぐよう強く要請しているのです。
 それに竹中平蔵経済財政担当相兼金融担当相(長いので、以下竹中大臣)は、米国政
府の推薦によって小泉首相が任命している大臣です。竹中大臣は、グレン・ハバード大
統領経済諮問委員会委員長に近い存在であり、米国政府とつながっています。竹中大臣
のバックボーンは、米国政府なのです。
 よく「小泉首相は経済を竹中に丸投げしている」といわれますが、2人は緊密に連携
をとってブッシュ政権の要請の実現に取り組んでおり、2人は一体であると見るべきで
す。だからこそ、今回の改造人事でも、あれほど青木参院幹事長に要請されても、頑と
して竹中大臣を残したのです。
 それでは、米国政府が望むことは何でしょうか。
 米国が望んでいるのは、竹中大臣の采配の下でのメガバンクが抱える不良債権処理の
強制的外科手術なのです。ここで不良債権とは何かをはっきりさせておく必要がありま
す。最も基本的な不良債権の定義をしておきましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      ――不良債権とは何か――
      不良債権とは、銀行が融資している企業の債権のうち、約定に
      基く返済がかなり困難になっている銀行の債権のことである。
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 それでは「不良債権を処理する」とは、どういうことなのでしょうか。何をすること
でしょうか。
 不良債権の処理には、次の2つがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.直接償却 ・・ 担保を売却して、貸金を回収する
       2.間接償却 ・・ 引当金を積んで損失に備えること
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 直接償却とは、銀行が担保に取っている不動産などを売却して債権そのものを銀行の
資産から消す最終処理のことです。または相手企業と話し合い、債権そのものを放棄し
て最終処理するのも直接償却です。
 これに対して間接償却とは、返済が困難になっている債権に対して、引当金を積んで
損失に備える会計処理のことをいいます。引当金とは、将来事故が発生したとき、穴埋
めに使うお金のことです。こうしておくと、その企業が倒産したような場合、引当金を
取り崩して穴埋めをすることができるわけです。
 なお、銀行が引当金を積んだからといって、別にその企業が急に返済を迫られること
はないのです。しかし、追加融資や新規融資は、当然のことですが、制限されます。
 したがって、銀行が不良債権の直接償却を強化すると、企業の倒産が増えることにな
り、経済に大きな影響が生ずるのです。小泉政権の構造改革は、実はこの直接償却を銀
行に要求し、それにより借り手企業を整理し、不振企業を市場から強制退出させること
を狙っているのです。
 これは、2001年6月に、経済財政諮問会議が発表した「骨太の方針(経済財政運
営の基本方針)」に基く考え方です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      ≪市場メカニズムによる経済活性化≫
       効率化の低い部門から効率性や社会的ニーズの高い部門へ、
      労働力や資金を移動させるのは市場の力であり、これを阻害し
      ている障害物を取り除く作業が構造改革である。
                        ――「骨太の方針」より
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 さて、竹中プランの政策ターゲットは、メガバンクに対する公的関与にあります。こ
れは、公的資金注入による銀行国有化にほかなりません。しかし、当時のメガバンクは
柳沢前金融担当相の時代から、必要以上の不良債権処理を強制され、不良債権の総額は
確実に減ってきていたのです。そのため、柳沢前金融担当相も「金融問題はほぼ解決/
メガバンクに公的資金など不要」と強弁していたのです。
 これに対して、竹中大臣は「金融システムは健全ではない」という見解を示し、小泉
首相も「金融には問題がある」として、それに同調していたのです。何としても、メガ
バンクが公的資金を必要とする状況に追い込む必要がある――小泉・竹中コンビは何と
か危機を演出しようと画策したのです。
 具体的には、その当時メガバンクがゆうゆうとクリアしていた自己資本比率を8%以
下に追い込むため、「税効果会計」というものを持ち出し、その厳格適用によって、メ
ガバンクの自己資本比率を8%以下にしようとしていたのです。
 本当に不良債権処理を加速化させようと思ったら、それがやりやすい施策をとるのが
常識ですが、竹中大臣は、あえて処理が困難になる施策を強行して、徹底的にメガバン
クを追い詰めたのです。まるで、銀行が悪の枢軸でもあるように。
                        ・・・[りそな処理の謎/02]

2007年11月29日

りそな基準でメガバンク大揺れ(EJ第1220号)

 東京農業大学の客員教授に紺谷典子さんという人がいます。日本証券経済研究所に入
って、1984年から主任研究員を務める株式市場の専門家です。
 紺谷氏は、小泉政権のりそなの国有化政策に対して強い疑念を抱いており、次のよう
に述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       りそなの国有化は実は、竹中氏の自作自演。わざわざ作り出
      した金融危機を2兆円の国費を使って消してみせたマッチポン
      プでしかない。りそな国有化は、銀行株中心に日本の株価を上
      昇させるきっかけになったが、何のことはない。自身が暴落さ
      せた株価の一部を元に戻しただけである。
              ――『世界』11月号/紺谷典子氏の論文より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 メガバンクを中心とする銀行の不良債権処理は、現在では順調過ぎるほど進んでいま
す。銀行は、「貸し渋り」「貸し剥し」の汚名を甘んじて受け入れてまで、不良債権処
理に全力を尽くしてきています。
 それでも竹中大臣は、今でも厳格な査定を強調し、あたかも銀行が今でも大量の不良
債権を隠しているように印象づけているのです。そして、評価基準を次々と切り替えて
資本不足を演出しようとしています。
 一時的に赤字になっても良いから、不良債権に対して十分な積立金を積めと促し、実
際にそうしたら今度は収益を上げろと迫る――そして、「大銀行といえども破綻はあり
得る」と発言して、銀行と市場の動揺を誘うのです。明らかに金融危機の演出をしてい
るとしか思えないのです。竹中大臣の狙いは、一体どこにあるのでしょうか。
 ところで、現在、再び「りそなショック」に金融界が揺れているのをご存知でしょう
か。
 その激震の原因は、10月10日に明らかになったりそなHDの9月中間決算の見通
しにあるのです。その内容は、1.7兆円の赤字――投入された2兆円の公的資金のほ
とんどを使う決算になっています。
 りそなHDの細谷英二会長は、その就任の時点から、9月中間決算が重要であるとい
っており、今回の決算でも、りそな再生に向けて大なたを振るっているのです。その内
容のポイントは、次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.グループ合算で、1兆2600億円の不良債権処理
       2.グループ傘下の近畿大坂銀行などに対する資本支援
       3.繰延税金資産を従来の3年分から1年分までに圧縮
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 不良債権処理額が1兆2600億円もの巨額になったのは、細谷会長が傘下の銀行に
対して、不良債権への貸倒引当金の大幅な積み増しを命じたからです。具体的にいうと
「要管理債権」と「破綻懸念債権」について、次のように大幅な積み増しをしているの
です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1.正常債権
        2.要注意先
        3.要管理債権   ・・・ 30% → 50%
        4.破綻懸念先債権 ・・・ 65% → 90%
        5.破綻先債権
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 現在、金融界が揺れているのは、金融庁、すなわち竹中大臣がこのりそなHDの9月
中間決算を盾にとって、「りそな基準」をメガバンクに押し付けてくるのではないかと
いう不安からなのです。とくに繰延税金資産を1年分しか計上していないという点は、
メガバンクにとって大衝撃なのです。細谷会長は、繰延税金資産の計上については、竹
中大臣と話し合って決定したと自ら述べています。
 仮に、繰延税金資産の計上をりそな基準の1年分にしたとしたら、メガバンクのすべ
てが国際業務を営むのに必要な自己資本比率8%を割り込んでしまうのです。単位は百
億円です。
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              BIS自己資本  自己資本比率
        み ず ほ     3582    5.1%
        三井住友     3382    5.9%
        三菱東京     4074    7.6%
        U F J     2685    6.0%
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 このあたりに竹中大臣の狙いがあるのではないでしょうか。昨日のEJの冒頭で、り
そな処理について「釈然としないもの」を3つあげましたが、その2つ目――ある銀行
を国有化に追い込みその特別支援行をテコにし、不良債権処理を急進させるのが竹中プ
ランである――がまさにこれなのです。
 竹中大臣のやり方には多くの批判があります。しかし、そのすべてが間違っていると
いうわけではないのです。やはり、責任は銀行にあります。
 というのは、繰延税金資産を1年分しか認めなかったとしても第1次自己資本(中核
的自己資本)の割合は、国際水準の10%にほど遠いからです。もともと竹中大臣は10
%にせよといったのです。この問題は明日詳しく解説します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             自己資本比率   対第1次自己資本占率
        み ず ほ   5.1%        23.8%
        三井住友   5.9%        23.1%
        三菱東京   7.6%        13.4%
        U F J   6.0%        22.7%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                        ・・・ [りそな処理の謎/03]

りそなHD細谷英二会長.jpg

2007年11月30日

自己資本と繰延税金資産(EJ第1221号)

 昨日のEJは、繰延税金資産の1年分とか10%とか難しい話になりましたが、これ
が分からないと、昨今の金融の話は理解できないと思うので、本日はまずこれらについ
てお話しします。なお、EJでは昨年もこれをテーマとして取り上げています。
 金融機関の「自己資本比率」とは、金融機関の規模に対し、元手のお金がどのくらい
あるかを表すひとつの指標です。例えば、貸付金が焦げついて回収できなくなった場合
など、この自己資本を取り崩して穴埋めをするので、自己資本の比率が高いほど経営が
安定していることになります。
 自己資本比率は次の式で計算されます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            自己資本
           ――――――― × 100 =自己資本比率
           リスク資産
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここで、「リスク資産」とは、回収の危険度を考えて設定した掛け目を銀行が保有す
る実際の資産の額に掛けて合算したものです。例えば、国債なら0%、対銀行融資は2
0%、一般企業向け融資であれば100%というようにです。
 銀行は、国際業務を営む場合は、この自己資本比率が8%以上国内業務だけの場合は
4%以上が必要なのです。しかし、ここにきて、世界のマーケットにおける自己資本の
定義が日本にとって一段と厳しさを増してきているのです。
 というのは、自己資本には、次の2つがあるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1次自己資本(Tier1) ・・・ 本来的な自己資本
        2次自己資本(Tier2) ・・・ 補完的な自己資本
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「1次自己資本」というのは資本金や利益剰余金などの本来の自己資本のことです。
「中核的自己資本」という難しい名前で呼ばれているものはこれのことです。
 これに対して「2次自己資本」は、株の含み益や劣後債などであり、本来自己資本に
なじまないものをいうのです。なぜなら、自己資本は、銀行が預金支払いする最後の原
資なのですから、株の含み益などの変動するものや劣後債などの返済する必要のあるも
のは、自己資本としてふさわしくないのです。
 それなら、なぜ、2次自己資本を設けたかですが、それは80年代後半にBIS規制
導入をめぐる各国間の駆け引きによって生まれた政治的妥協の産物なのです。もともと
は2次自己資本などというものはなかったのです。
 日本やヨーロッパは、銀行が株式を保有しない米国の銀行に比べて、株式保有分だけ
資産規模が膨らむので不利になると主張して、株の含み益などを2次自己資本として認
めさせたのです。当時日本の銀行は巨額の株の含み益を持っており、これを認めさせれ
ば、自己資本比率8%以上は軽いと考えたのです。
 そういうわけで、現在では2次自己資本はまったく問題にされず、自己資本といえば
1次自己資本なのですが、今度はその中身が問題にされているのです。
 日本のメガバンクの1次自己資本の中身は、そのほとんどが繰延税金資産と優先株式
・優先証券で占められています。しかし、格付機関では、これを自己資本とは認めてい
ないのです。
 繰延税金資産とは、一口にいうと、過払い分の税金の還付期待額のことです。要する
に税金の戻りです。銀行は、不良債権に対しては貸倒引当金を積まなければなりません
が、日本ではそれを有税で積む必要があるのです。
 そして、その取引先が破綻して損失が確定すると、貸倒引当金はその時点で損金とし
て認定され、税金が戻ってくるのです。その戻り分が繰延税金資産なのです。つまり、
いずれ戻ってくる税金の還付金を自己資本に入れておくということであり、実際に現金
があるわけではないのです。
 それから、優先株というのは、普通株に比べて配当金を優先的に受ける、あるいは会
社が解散した時に残った財産を優先的に受けるなど、投資家にとって権利内容が優先的
になっている株式のことをいいますが、その代わり、会社の経営に参加する権利(議決
権)については制限されます。日本の場合、公的資金は優先株のかたちで銀行に注入さ
れることになっています。
 しかし、格付機関では、公的資金といえども将来の償還を義務づけており、コアの自
己資本とはいえないとして、認めないところもあるのです。つまり、格付機関から見れ
ば、繰延税金資産と優先株・優先証券が中心の日本のメガバンクの自己資本は、張子の
虎に等しいといっているのです。
 もともと繰延税金資産は、大手銀行にはじめて公的資金が注入された1999年3月
期から、不良債権処理に伴う資本の劣化を緩和しようとして導入されたものなのです。
しかも、日本では、繰延税金資産を5年分認めているので、金額が非常に膨らんでいる
のです。
 これに対して、米国の銀行では、繰延税金資産は「1年分または1次自己資本の10
%」のいずれか少ない金額を上限としているのです。昨日のEJで述べた「1年分とか
10%」というのはこのことを指しているのです。
 竹中大臣は、遅々として進まないメガバンクの不良債権処理に対して、実質国有化し
た、りそな銀行に米国なみの厚い貸倒引当金を積ませ、繰延税金資産も1年分しか組み
入れないという決算をさせて、メガバンクにプレッシャーをかけたのではないかと見ら
れるのです。そのため、メガバンクは今回の「りそな基準」に大ショックを受けていま
す。
 繰延税金資産を1次自己資本の10%しか認めないと発言して物議をかもし、一時は
それを撤回させたはずなのに、結局事態は竹中大臣の狙い通りになりつつあります。し
かし、竹中大臣は、別に間違っていることをやっているわけではなくて、銀行が計画的
に資本の増強を図ってこなかったことに原因があるのです。
                         ・・・[りそな処理の謎/04]

2007年12月03日

政策転換している小泉政権(EJ第1222号)

 竹中大臣が経済財政相に兼務して金融担当相になったとき、彼はメガバンクを標的に
して、繰延税金資産を米国の基準と同じ1次自己資本の10%に厳格適用すると爆弾発
言したことは覚えておられると思います。
 メガバンクの首脳からは、今まで一定のルールの中で、基準を遵守してやってきてい
るのに、突然基準を変更されたら困るという強い批判が出て、「竹中やめろ!」の大コ
ールが巻き起こったのです。「サッカーをやっていたのに、突然ルールが野球に変更さ
れた」という迷文句もこのとき生まれています。
 とにかくそれ以来、竹中大臣と銀行とのバトルは、すさまじいものだったのです。大
銀行のトップが夜中の10時過ぎに全員雁首を並べ、時の担当大臣に異を唱えるという
金融史上前代未聞の出来事まで、起こっているのです。市場は、そういう竹中大臣の真
意を図りかねて株価を下げ続けたといえます。
 しかし、基準とかルールを遵守するということではなしに、メガバンクは、なぜ自ら
資本を増強させようと努力しなかったのでしょうか。銀行という業務にとって自己資本
の充実は、役所からいわれるまでもなく、自らやっておくべきことではないかと思われ
るのに、なぜ、やってこなかったのでしょうか。
 ここにきて、竹中大臣のやり方が明らかに変化したとみられることはいくつもありま
す。しかし、メガバンクに対しては、いささかも手を緩めていないのです。一体、竹中
大臣の狙いは、何でしょうか。以下、竹中行政のどこが変わったかを明らかにすること
によって、竹中大臣の狙いに迫ってみることにします。
 最初に強調しておきたいのは、小泉首相は経済に弱いので、竹中大臣に丸投げしてい
るといわれていますが、そんなことはないということです。経済・金融に関しては、竹
中大臣が自ら判断して動いているようにみえますが、そうではなく、竹中氏は小泉首相
と一体であり、ある目的のためになりふりかまわず突進している――そのように考える
べきです。
 ここで、EJ1219号に掲載した2001年6月の「骨太の方針」をもう一度掲載
します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      ≪市場メカニズムによる経済活性化≫
       効率化の低い部門から効率性や社会的ニーズの高い部門へ、
      労働力や資金を移動させるのは市場の力であり、これを阻害し
      ている障害物を取り除く作業が構造改革である。
                        ――「骨太の方針」より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここに書かれているコンセプトは「市場の活性化を阻害している要因は「不振企業」
であり、これらの企業を生き残らせている銀行に問題がある――すなわち、銀行は不良
債権をきちんと処理することによって、不振企業は市場から退出させ、市場のメカニズ
ムの阻害要因を取り除くべきであるといっています。
 この考え方は「創造的破壊」といわれます。だめなものを壊せば、そこから経営資源
が溢れ出て、生産性の高い分野に移動し、それによって経済が活性化して成長するとい
う考え方です。
 当初金融庁は、メガバンクだけではなく、地方銀行もこの創造的破壊を適用する――
つまり、不良債権処理を進めさせる気でいたのです。しかし、そのようなことをすれば
中小企業の倒産が激増して、不況は一層深刻化してしまいます。
 そこで政府は急遽方針を変更したのです。1998年に「特別信用保証制度」という
ものができて、中小企業が一斉にこの制度を利用しています。この制度は無担保でも、
信用保証協会が保証して融資が受けられるという制度です。
 しかし、保証期限は5年なのです。1998年から始まったので、今年がその返済す
る年になります。そこで、政府は2003年2月にこの制度を変更し、特別信用保証の
借り替えができるようにし、返済期間を10年まで延ばせることにしたのです。
 5年で返済するのと、10年で返済するのとでは負担が大きく違います。中小企業は
これで一息ついて倒産件数は若干減少しつつあるのです。
 しかし、本来返済しなければならない時期に返済できない企業は、銀行から見ると、
その貸付金は不良債権化することになり、小泉改革の骨太の方針に照らして考えると、
市場から退出させなければならないはずです。したがって、この政策は小泉改革に逆行
することになるのです。
 もうひとつ、政府の金融審議会が2003年3月に出した「リレーションシップ・バ
ンキング」という政策があります。これは銀行と付き合いの長い企業の中から銀行は、
その企業の経営者の資質やビジネスプランについて情報を入手し、銀行の判断によって
融資を実行するというものです。
 例えば、高い技術力のあるにもかかわらず、業績不振で銀行から不良債権扱いになっ
ている企業でも、最新の機械を導入すれば利益が出る可能性があるとします。そういう
とき銀行は、精査のうえ、積極的にそのための融資をするというものです。
 しかし、「リレーションシップ・バンキング」などという大仰な名前をつけるまでも
なく、これこそ銀行の本来の仕事そのものではないでしょうか。
 考えてみれば、銀行のバランスシートからだめな企業を切り捨てて、その債権を整理
回収機構や産業再生機構に回してみたところで、日本全体からみると不良債権は一銭も
減らないのです。単なる会計上の処理に過ぎないわけで、このようなものを経済政策と
呼ぶこと自体がおかしいわけです。
 いずれにせよ、小泉政権は中小企業に対しては、当初の「創造的破壊」の政策を大幅
に改め、「破壊」のレベルを落としているのです。そして、何よりも、りそな処理にお
いて株主責任を問わなかったこと――これは結果として日本の株価を引き上げることに
大いに貢献しています。小泉政権は変わっていないふりをしていますが、とうの昔に政
策転換をしているのです。しかし、メガバンクにはいささかも手を緩めてはいないので
す。                       ・・・[りそな処理の謎/05]

2007年12月04日

米寄り金融行政を展開する装置(EJ第1223号)

 2003年10月に発表された金融再生プログラム(竹中プラン)によると、次の3
つ原則が新しい金融行政の枠組みとして上げられています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             1.資産査定の厳格化
             2.自己資本の充実
             3.ガバナンスの強化
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 資産査定を厳格に行うこと、すなわち、繰延税金資産の取り扱いの厳格化を行えば、
銀行を自己資本不足に追い込むことができそして国有化して、借り手の不振企業を整理
する――この3原則からはそういう政府の意図が透けて見えます。つまり、この3原則
は国有化の手段なのです。
 しかし、意外だったのは、竹中プランの対象がメガバンクに限定されたうえに、整理
の対象になる企業からは、注意深く中小企業は除かれて、厳格な査定の対象となる企業
の範囲は一層せばめられたことです。明らかに竹中大臣は当初の方針から大きく変化し
ています。
 こういう竹中大臣の金融政策は、米国に高く評価されているのです。もちろん米国の
国益に合致するからです。総裁選の前の8月――当時、自民党の中では「竹中降ろし」
の真っ只中だったのですが、竹中大臣はそういう微妙な時期に訪米したのです。そのと
きも、大臣を降ろされたときに備えて、米国の大学に就職の口を探しに行ったのではな
いかと陰口をたたかれたものです。
 しかし、米ブッシュ政権は、グリーンスパンFRB議長を含む経済チームの主要閣僚
が総出で竹中大臣を歓迎したのです。スノー財務長官、フリードマン大統領補佐官(経
済政策担当)、グレン・ハバード前米大統領経済諮問委員会委員長、ケネス・ロゴフI
MF調査局長、ウィリアム・マクドノー前ニューヨーク連銀総裁など、まさに米国の経
済の重鎮が総出の歓迎です。
 どうして竹中大臣がこのように歓待されたのかというと、狙いは、自民党内の「竹中
降ろし」の動きを牽制することです。要するに「竹中を代えるな」というメッセージを
自民党の反竹中勢力に発信したのです。米国としては、露骨な圧力をかけなくとも米政
府の意向も汲んだ金融行政を展開してくれる「貴重な装置」として竹中大臣を温存した
かったからです。
 クリントン前政権時代から、米国は邦銀への公的資金再投入をはじめとした不良債権
の抜本的処理策をこれまで再三にわたって日本政府に要求してきたにもかかわらず、一
向に実行されず、現在までずるずると問題は先送りされてきたのです。
 しかし、竹中大臣は小泉首相のバックアップの下にトップダウンの金融行政を繰り広
げ、あとで改めて述べる監査法人の反乱という、アクシデントという要素はあったもの
の、りそなの実質国有化処理を成し遂げて、日本の株価回復につなげています。
 しかも、株主責任を問わなかったことによって、外国人投資家、すなわち、米ヘッジ
ファンドに大きな利益を与え、含み益拡大でできた余裕資金が再び米株投資に還流・投
資されて、米株価を底上げするとともにそれと連動して日本の株価を押し上げるという
好循環をもたらしているのです。
 EJ1216号で、ブッシュ大統領と小泉首相は「再選同盟」を結んだと書きました
が、日米で重要な選挙のある今年から来年にかけて、とにかく日米で株価にプラスにな
る政策は果敢に実施して、再選につなげるという点で小泉首相とブッシュ大統領は一致
しているのです。そのために、小泉首相にとってはもちろんのこと、ブッシュ大統領に
とっても竹中大臣は「使える駒」ということになります。したがって、米国としても竹
中大臣は代えられては困るので、8月の訪米のさい、米国の経済閣僚が竹中氏を全面的
にバックアップしたものと思われます。おそらく、小泉首相がブッシュ大統領に根回し
したものと思われます。この「再選同盟」の戦略がうまく行くと、日米の株価は、来年
いっぱいは株高を維持することになると思います。
 小泉首相がいかに竹中大臣を買っているかは、2007年の郵政事業民営化を竹中大
臣に託していることでも読み取れます。青木参議院幹事長が何をいっても、現在、小泉
・竹中は絶対的な信頼関係で結ばれています。小泉首相は竹中大臣を代える意思など最
初からなかったといえます。
 この竹中平蔵なる学者がどのような人物であるかは、現在発売中の『文芸春秋』11
月号に掲載されたジャーナリスト、菊池雅志氏の論文、『「政治家」竹中平蔵本当の実
力』に詳しく紹介されていますが、政治家以上に政治家である竹中大臣の実力がよくわ
かります。菊池氏は、論文の冒頭において竹中氏について、次のように書いています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       一橋大学卒、日本開発銀行、ハーバード大学、慶応大学教授
      という派手なキャリアも、一点の曇りもない華やかなものであ
      る。しかし、実は彼の半生は、苦渋に満ちたものだった。彼の
      足跡を詳細に辿ると、「笑顔の仮面」の裏に、「放浪学者」とい
      う、竹中のもう一つの顔が浮かび上がってくる。
                     ――『文芸春秋』11月号より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 竹中大臣は、米政府や有力シンクタンクに太い人脈を持っていると伝えられています
が、必ずしもそうではないのです。確かにハーバード大学や米国国際経済研究所(II
E)に在籍したことは確かですが、いずれも客員としてであり、長くそこで研究した実
績はないのです。それが放浪学者といわれるゆえんです。
 しかし、竹中大臣は、今や学者というよりも政治家として、小泉政権はもちろんのこ
と、ブッシュ政権にとっても大きな影響力を持つ経済閣僚になっています。
 本当に日本経済は彼に委ねていいのでしょうか。次回は、この問題について考えてみ
たいと思います。                ・・・ [りそな処理の謎/06]

竹中大臣と米スノー財務長官.jpg
               

2007年12月05日

デフレギャップを埋めることが先決(EJ第1224号)

 竹中大臣による経済政策を批判する経済学者、エコノミスト、政治家はたくさんいま
す。その中にあって、非常に理論的で、明快で、分かりやすい反論は、野村総合研究所
主席研究員であるリチャード・クー氏であると思います。
 クー氏は、銀行問題を解決すれば日本経済が回復するという小泉政権の経済政策は根
本から間違っており、このままで行くと最悪の場合、恐慌に発展する恐れがあると指摘
しています。
 仮に銀行問題が不況の主因であるとします。そうすれば、日本は外銀ばかりになり、
日本の企業は借り入れができなくなるので社債市場が大活況を呈しているはずだとい
うのです。それに、資金需要に供給が追いつかないため、銀行の貸出金利は急上昇して
いるはずです。実際に米国では、90年代の前半にそのような事態に陥ったことがある
そうです。
 しかし、「日本の現状はまったく逆である」とクー氏はいうのです。外銀は撤退話ば
かりであり、社債市場は償還が新規発行よりも多いという有様です。どうしてこうなる
のでしょうか。
 現在日本の企業は年間ネットで約20兆円を借金返済に当てている現実があります。
現在は90年代からの資産デフレによって、バランスシート上の資産価値が下がってお
り、経営者としては、その反対側にある負債そのものを圧縮しようと必死になっている
のです。
 その一方で家計の貯蓄は企業が借りないので、銀行に眠ったままです。これも約20
兆円あります。平時であれば、家計の貯蓄――銀行に預けているお金を企業が借りて使
うことによって、経済が回るのですが、これが動かないのです。
 この借金返済に回る約20兆円と家計貯蓄の約20兆円――計40兆円が日本のデフ
レギャップの正体なのです。小泉政権は、この約40兆円を埋める必要がある――そう
でないと、その分毎年需要は減少してしまうとクー氏はいうのです。
 そけでは、これをそのまま放置するとどうなるでしようか。
 その答えが米国にあるのです。1929〜1933年にかけて起こった米国の大恐慌
です。状況は、現在の日本経済に酷似していたのです。当時の米国の企業は、バランス
シート調整のために借金返済にひたすら走ったのです。
 時のフーバー米国大統領が、現在の小泉首相と同様に「財政出動はしない」といって
緊縮財政を組んで事態を放置したのです。その結果、米国のGDPは半分になり、都市
の失業率は実に50%をオーバーしてしまう未曾有の大恐慌に突入します。
 これを救ったのは、フーバー大統領に代わって登場したルーズベルト大統領です。彼
は、「いま銀行に必要なのは資金ではなく資本である」と見抜き、公的資金を銀行に注
入して銀行を回復させるとともに、ニューディール政策という積極財政を行うことによ
って、恐慌を克服したのです。
 クー氏がいうのは、民間にお金を借りて使う人がいないときは政府が十分な財政政策
でこのデフレギャップを埋めないと経済は再生しないといっているのです。クー氏の主
張は、ケインズ政策そのものですが、ケインズ政策は、民間が後ろ向きになって借金返
済に走ったときにこそ打つべきであるといっています。
 自民党の総裁選の候補者の議論でさんざん聞かされた話ですが日本の国債と地方債
の発行残高は約700兆円――これだけの累積債務があるのに、クー氏のいうように、
さらに積極的な財政出動すると、日本という国はどうなるのかと誰しも不安になってし
まいます。
 もし、大胆な国債発行をすると、長期金利が上昇し、国債価格が下落して、これが実
態経済に悪影響を及ぼすことになります。さらに金融機関が大量の国債をかかえている
ので、長期金利の上昇は銀行に巨額の損出を発生させることになる――というようにま
で破滅が先に見えているような議論になってしまうのです。
 しかし、約40兆円のデフレギャップがあるのに、国債発行に30兆円枠(下ろさざ
るを得なくなっているけれども)を設けるのは、明らかに間違っている――というクー
氏の主張はよく理解できます。
 財政出動しないとデフレギャップが埋まらないのに、財政出動すると長期金利が上昇
し、国債価格が暴落する――これをどのように解決するのか、そこまではクー氏は言及
していないのです。
 事態がここまで深刻化すると、打つべき手は本当に限られてきます。しかも、かなり
大胆な手を打つ必要があるのです。しかしこの難問は、解けない問題ではないのです。
これについては、目下勉強中ですので、改めてEJでお知らせする予定です。
 リチャード・クー氏は、竹中大臣には、日本の金融業界が置かれている立場が理解で
きていないといっています。それは、金融庁がこの8月1日に公的資金注入行15銀行
・グループに対して出した業務改善命令を見ればわかるといいます。すべての銀行が苦
しんでいるのに、一律に収益を上げろという神経が理解できないといっているのです。
 ここでクー氏は、彼がニューヨーク連銀時代に経験した「中南米危機」を例にとって
次のように説明しています。
 1982年のこと、米国の銀行は突如中南米危機に襲われたのです。その時点で大手
米銀は、自己資本の147%を中南米に投資していたため、大手行のほとんどが、破綻
状態になってしまったのです。当時のFRB(米連邦準備制度委員会)議長のボルカー
は、とにかく船が沈まないよう取れる措置はすべて打ち、金融システム全体の維持に努
めたのです。そして、10年という長い時間をかけたものの、納税者負担ゼロで解決し
ています。
 このときニューヨーク連銀は、ボルカー議長の指揮のもとに動いたのです。クー氏に
はこの経験があるのです。クー氏によれば日本が現在直面している危機は、明らかに中
南米危機の規模であるといっています。クー氏は、既に日本経済という船には水が流れ
込んできている−−とにかく、船が沈まないようにすることが先決だといっているので
す。                      ・・・ [りそな処理の謎/07]

リチャード・クー.jpg
               

2007年12月06日

『預金保険法第102条』の研究(EJ第1225号)

 EJ第1219号の冒頭に、りそな処理が釈然としない原因を3つ上げましたが、再
現しておきます。このうち、1と2の説明は終り、今朝から3の説明に入ります。これ
からがこのテーマの重要部分に入ります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.りそな処理は米国主導で決められていること。米国の狙い
        は何か。ブッシュと小泉は再選同盟を結んでいる。
      2.ある銀行を国有化に追い込み、その特別支援行をテコにし
        不良債権処理を急進させるのが竹中プランである。
     ⇒3.りそなショックには監査法人が深くかかわっているが、監
        査法人は、説明責任を果たしているとはいえない。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 りそな処理に対する一番大きな疑惑は、りそな銀行が公的資金投入時点において、既
に破綻していたのではないかという点にあります。もし、公的資金を投入する時点で、
りそな銀行が破綻していたのであれば、りそな銀行に対して政府がとった「預金保険法
第102条第1項に定める第1号措置」はとれないのです。
 このように書くと何のことやらさっぱりわからなくなります。事態を正確に理解する
ために、「預金保険法第102条」について少し勉強することにしましょう。
 「預金保険法第102条」とは首相が金融危機の恐れがあると判断したときに、「金
融危機対応会議」を開き対策をとる仕組みを定めています。同法は「金融危機の恐れ」
について次のように定義しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      我が国又は当該金融機関が業務を行っている地域の信用秩序の
      維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあるとき
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「金融危機対応会議」の出席者は、次の6人のメンバーと定められています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.首相       4.金融担当相
          2.財務相      5.金融庁長官
          3.官房長官     6.日銀総裁
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 公的資金は、政府、日銀、民間金融機関が共同出資する預金保険機構に15兆円の危
機対応勘定が設定されており、これが公的資金投入の原資になるのです。
 そして、預金保険法第102条第1項には、次の第1号〜第3号までの措置が定めら
れています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       第1号措置 公的資金注入による自己資本増強の措置
       第2号措置 破綻処理に伴う預金全額保護などの措置
       第3号措置 破綻金融機関に対する特別危機管理措置
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 預金保険法第102条の適用は、「首相が金融危機の恐れがあると判断したとき」と
いうのが前提となっています。しかし、りそな銀行に対する公的資金注入が決まった2
003年5月17日の首相談話で小泉首相は次のようにいっているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      ・同行については、平成15年3月期決算における自己資本比
       率が健全行の国内基準である4%を下回ることになりました
       が、現時点で、預金流失や市場性資金の調達困難といった問
       題はありません。
      ・現状においては、金融システム全体に影響が及ぶ状況にはあ
       りません。政府としては、今後とも金融システムの安定を確
       保していくとともに、日本銀行とも緊密な連携をとりつつ、
       預金者の保護、信用秩序の維持に万全を期す。
                         ――小泉首相談話より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 小泉首相によると、りそな銀行は破綻もしておらず、ましてや金融危機の状況にない
のです。それなら、なぜ、金融危機の恐れがあるときに適用する預金保険法第102条
を、自ら適用したのでしょうか。明らかに矛盾があります。
 まして、後からも述べるように、りそな銀行の監査から途中で降りた朝日監査法人に
よると、りそな銀行は繰延税金資産を5年分認めなければ、債務超過であったと明言し
ているのです。それなら、りそなは破綻銀行ということになり、預金保険法第102条
第1項第3号措置――長銀のケース/一時国有化――をとらなければならなかったはず
です。
 おそらくりそな銀行を破綻させられない「ある事情」が存在したと考えられます。副
島隆彦氏のいう「米国主導」という意見もあります。または、経営内容に問題のある大
手生保会社がりそな銀行の債権を大量に抱えていて、もし、りそな銀行を破綻させると
その生保会社に連鎖し、金融危機を引き起こす誘因になると判断したという説もありま
す。
 そのものズバリではありませんが、りそな問題を生保会社側から描いたとみられる香
住究氏の次の小説があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          香住究著『連鎖破綻/ダブルギヤリング』
                     ダイヤモンド社刊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この小説は明らかに実在の事件を下敷きに書いています。小説の中には、実名をもじ
った次のような名前が登場します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          竹浪啓造金融担当大臣
          相原英之民自党保険小委員会委員長
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 生保会社出身の諸兄が読まれると、結構リアルで面白いと思います。しかし、これは
小説ではなく現実なのです。           ・・・ [りそな処理の謎/08]
               

ダブルギアリング.jpg

2007年12月07日

米国がりそな処理を求めた理由(EJ第1226号)

 先のEJで、副島隆彦氏の情報として、りそな処理は5月12日に米国主導で決めら
れている――このように書いています。りそなへの公的資金投入が決まったのは5月1
8日のことですから一週間も早いことになります。
 なぜ、米国はりそな処理に介入してきたのでしょうか。ある読者から、そのあたりの
事情についてもっと詳しい説明をして欲しいという要請がきています。
 今回のりそな処理はこれから詳しく書いていきますが、法的根拠はあいまいであり、
しかも株主責任を問わない処理であって多くの疑念があります。
 今まで米国が口うるさく「安易なモラルハザードによる問題先送りの典型」と批判し
てきたやり方そのものであるのに、なぜか今回のりそな処理については、ブッシュ政権
は「金融再生に向けた輝かしいステップ」とベタ褒めなのです。これは、一体どうした
ことなのでしょうか。
 それは、現財務相の谷垣禎一氏が国家公安委員長のときの8月5日の訪米に関係があ
るのです。このとき谷垣氏は、アシュクロフト米司法長官と会談し、対テロ対北朝鮮対
策における日米協力を緊密なものにする「捜査共助条約」に署名しているのです。
 それまでの捜査共助においては、あくまで外交ルートを通してのものだったのですが
この条約では、日米の捜査機関同士の情報交換や犯人の引渡し交渉などが可能になるの
です。当面、大量破壊兵器の製造につながる恐れのある物質の商取引や麻薬・覚醒剤な
どの不正取引の情報交換をするのが狙いといわれます。
 ところでこの日米捜査共助条約とりそな処理はどのような関係があるのでしょうか。
 それは、りそな銀行ができる経緯について知る必要があるのです。りそな銀行は、旧
あさひ銀行と旧大和銀行とが合併して誕生したのですが、その旧大和銀行に問題がある
のです。
 というのは、旧大和銀行は、旧大蔵省の指導によって、経営の悪化した関西金融機関
――近畿大阪銀行など――を吸収しているのです。これらの関西金融機関は、在日北朝
鮮系企業やアングラ勢力のフロント企業との取引が多く含まれているのです。つまりこ
れらの企業の取引口座から北朝鮮へ資金が流出する恐れが非常に高いのです。
 そのため、単に金融の安定化対策だけではなく、りそなHDを国有化によって国家監
視の体制に置くというのが米ブッシュ政権の狙いなのです。そのため、株主責任を問わ
ず、盗人に追い銭的処理法もこのさいは見逃したといわれます。
 それだけではないのです。竹中大臣が大歓迎を受けた8月の訪米でも、りそなに続く
銀行へのさらなる公的資金の予防注入を要請されているのです。その中には、北朝鮮へ
の資金ルートになっているとされる某地銀が含まれています。
 しかし、旧大和銀行には、さらに、いろいろな問題があるのです。この銀行は北朝鮮
問題だけではなく、政治資金源である自民党とのかかわり、広域暴力団との関係などの
深い闇があるといわれているのです。しかし、株主責任を問わない処理をしたため、そ
ういうもろもろの問題は闇から闇に葬られてしまったことになるのです。
 このりそな処理が現在も疑惑に包まれているのは、りそなが既に「債務超過」ではな
かったのかという点について、金融庁――竹中大臣が、財務内容の精査も行わず、事実
を隠蔽しているように見えるからです。
 とくに不可解なのは、元あさひ銀行の監査法人である朝日監査法人がりそな銀行の監
査を降りている経緯とそれに関連して朝日監査法人の会計士の一人、平田聡氏が自殺し
ている点です。
 この平田氏の自殺については、経済雑誌『エコノミスト』の記者、山田淳雄氏の著作
『りそなの会計士はなぜ死んだのか』(毎日新聞社刊)に詳しいですが、EJでは、こ
の本をベースにりそな処理にかかわる疑惑を追及していきたいと思いのます。
 ことの経過を時系列的に並べてみます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       2003年4月24日 平田聡氏自殺
            4月30日 朝日監査法人の監査辞退
            5月 7日 新日本監査法人の「豹変」
            5月17日 りそなの公的資金注入要請
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 問題を整理しておきましょう。朝日監査法人は、旧あさひ銀行を担当する監査法人で
あり、これに対して旧大和銀行の監査法人は新日本監査法人です。
 この3月に旧あさひ銀行と旧大和銀行が合併して、りそな銀行になったのですから、
朝日監査法人と新日本監査法人は常識的には共同で監査することになるはずです。実際
に朝日監査法人は3月からりそなの監査に入っていたのです。
 それでは、朝日監査法人はなぜりそなの監査から突然降りたのでしょうか。監査法人
が決算前に監査を降りるということは極めて異常なことなのですが、そのことを新聞記
者はよく知らず、その時点ではニュースにならなかったのです。
 ところが、平田会計士が自殺したことによって、平田氏の自殺と朝日監査法人が共同
監査から降りることを結びつけて記事を書く新聞があらわれたのです。
 平田会計士は監査の結果、りそなの状態が極めて良くないことを発見し、あくまで、
厳格査定を貫くべきであると上層部に報告。しかし、朝日監査法人の上層部は、これを
支持せず、却下したので、平田会計士はこれに抗議して自殺してしまう――これが4月
24日のことです。
 平田氏の自殺に衝撃を受けた朝日監査法人は、その後審議の結果、りそなの共同監査
から降りることを決断し、4月30日に、そのことを銀行側に伝えてきた――その時点
では、一般的にそう受け止められてきたのです。しかし、事態はそんなに簡単なもので
はなかったのです。               ・・・ [りそな処理の謎/09]

2007年12月10日

不可解な平田会計士の自殺(EJ第1227号)

 先週の続きです。朝日監査法人に属する会計士平田聡氏が自殺した4月24日から、
りそなの公的資金注入要請までの一連の流れを再現しておきます。
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        2003年4月24日 平田聡氏自殺
             4月30日 朝日監査法人の監査辞退
             5月 7日 新日本監査法人の「豹変」
             5月17日 りそなの公的資金注入要請
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 この流れから考えると、平田氏は粉飾決算を容認しようとする監査法人上層部に抗議
して自殺した――こういう推理が考えられるのです。新日本監査法人の代表社員は次の
ようにコメントしているので、朝日監査法人は平田氏の自殺にひるんで監査を辞退した
という説が信憑性を帯びていたからです。
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      4月30日の時点で、朝日監査法人から、共同監査を降りると
      言ってきたのは事実である。こんな時期に降りると聞いて、正
      直驚いている。朝日監査法人側では、現場責任者の自殺など大
      変だったようだ。  ――新日本監査法人代表社員のコメント
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 しかし、経済誌『エコノミスト』の山口記者が朝日監査法人に要求した事実関係の確
認に対して寄せられた回答は次のようなものだったのです。
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      2月末まで、あさひ銀行の監査をしていたので、あさひ銀行の
      消滅とともに契約が消滅する。りそな銀行の監査は新しい契約
      になるので、それを受けるかどうかを予備調査(検討)した。
      4月22日、本部審査会で受嘱しない方針を決めた。4月30
      日に朝日監査法人として、監査を受嘱しないことを銀行側に通
      知した。           ――朝日監査法人の正式回答
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 これによると、朝日監査法人は、4月22日に監査を受嘱しない方針を決定していま
す。当然担当の平田会計士もその会議に参加しているでしょうし、その事実を知ってい
たはずです。それは平田氏が自殺する2日前のことなのです。
 そうなると、厳格監査を主張した平田会計士が監査法人の上層部と意見が合わず自殺
という線は崩れてしまうことになります。それでは、平田氏は何が原因で自殺したので
しょうか。
 ここで、自殺した平田聡氏がどういう会計士であったかについて少しご紹介する必要
があると思います。
 平田氏は年齢38歳、非常に優秀な会計士なのです。1998年6月22日から20
00年8月まで、当時の金融監督庁(現在の金融庁)に検査官として出向し、金融検査
の業務に精通したプロフェッショナルといわれる人であり、2003年5月には朝日監
査法人の代表社員に昇格が内定していたのです。
 朝日監査法人で代表社員になるには、約1500人の会計士のうち年間10人程度と
いうことですから、民間企業であれば、取締役に相当する地位の高い役職なのです。
 それにもうひとつ重要なのは、平田氏は、とくに税効果会計のプロフェッショナルで
あり、1998年には次の著書も出版されています。この平田氏という人物――は若く
して「銀行監査の第1人者」として業界で注目される存在だったということです。
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       宮野尾 幸潤/平田 聡 著/JMAM刊/1998年出版
      『図解すぐできる税効果会計』
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 平田氏の友人の一人は、平田氏が「清濁併せ呑んでなお、プロとして信念を貫く人」
といっています。金融監督庁に出向していたときは、プライベートな席では、「金融監
督庁はひどいところだ。税金泥棒だ」としきりに批判していたといいます。どうやらこ
の平田氏――「正義感に燃えて信念を貫く、銀行監査のプロ中のプロ」の会計士であっ
たようです。そんな前途のある人がなぜ自殺などしたのでしょうか。
 平田氏がなぜ自殺したのかという謎解きはしばらくおくとして朝日監査法人と新日
本監査法人との関係をもう少し詳しく説明する必要があると思います。
 既に述べたように、りそな銀行は、旧大和銀行と旧あさひ銀行が合併してできた銀行
です。そのうち、旧あさひ銀行は、1991年に、埼玉銀行と協和銀行が合併してでき
ています。ところが新日本監査法人は埼玉銀行、朝日監査法人は協和銀行を担当してい
たのです。
 したがって、旧あさひ銀行は両監査法人の共同監査となっていたわけです。つまり、
日本監査法人と朝日監査法人は、共同監査は慣れていたことになります。
 さて、ここで大事なことは、りそな銀行は、旧あさひ銀行と旧大和銀行が合併したと
何度も述べましたが、正確にいうと、りそな銀行になったのは、旧大和銀行と旧協和銀
行が合併したというのが正しいのです。というのは、旧埼玉銀行は、埼玉りそな銀行と
して分離独立しているからです。
 ややこしい話ですが、つまり、旧協和銀行は朝日監査法人、旧大和銀行は新日本監査
法人が担当して共同監査をやるはずであったというのが正確な表現ということになり
ます。
 いずれにせよ、監査法人が監査を降りるというのは、監査を受けた企業にとって、事
実上の死刑宣告に等しいのです。朝日監査法人がそれをやったということは、そこによ
くよくの事情があったものと思われます。
 一方、朝日監査法人に降りられて、全責任を負うかたちになった新日本監査法人にと
ってもショックは大きかったものと思われます。そのため、「突然の豹変」という事態
になったのではないでしょうか。そこで、この謎をさらに解明するために、監査法人に
ついてもっとよく知る必要があります。      ・・・ [りそな処理の謎/10]
               

2007年12月11日

監査法人についての知識武装(EJ第1228号)

 おそらく会計の世界に何の関係もない人が「監査法人」というものを意識したのは、
1999年の東邦生命の破綻のときではないかと思います。1999年6月5日、会計
監査法人「トーマツ」は、東邦生命(GEエジソン生命)に対し「不適法」意見を出し
業務停止に追い込んだからです。
 東邦生命は、1998年4月にGEキャピタルに営業権を譲渡し、既存の契約の管理
・維持と資産運営だけを行う会社になっていたのですが、その時点で東邦生命は事実上
破綻しているといわれていたのです。
 しかし、このときはバックに金融監督庁(現金融庁)の意思が働いていたとされ、ト
ーマツとしては、ここで「適法」意見を出せば、後で責任を問われかねないという追い
詰められた決断だといわれたものです。いずれにせよ、この東邦生命の破綻をきっかけ
として、「監査法人が企業破綻の引き金を引く」ということがいわれはじめたのです。
 この会計監査法人(以下、監査法人)について、少し知識武装をすることにしましょ
う。かつては、大企業についても個人会計士による監査だったのですが、1966年の
商法改正から、大企業に対する監査は、監査法人が担当することになったのです。
 商法改正と同時に公認会計士法という法律も改正され、公認会計士5人以上の法人組
織を監査法人とし、特殊法人のひとつとして、金融庁の監督下におかれるようになった
のです。
 この監査法人――2003年4月の時点で147法人あるのです。しかし、商法や証
券取引法で監査を義務づけられている大企業・上場企業の実に90%が、次の4つの監
査法人に委ねられているのです。つまり、寡占化しているわけです。ついでに、それぞ
れの監査法人のメガバンクの担当も示しておきます。
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        朝日監査法人 ・・・・・・・・ 三井住友
        新日本監査法人 ・・・・・・・ りそな、みずほ
        中央青山監査法人 ・・・・・・ みずほ、UFJ
        監査法人トーマツ ・・・・・・ 三菱東京
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 一方、公認会計士の数は2003年3月時点で約1万4763人、その3分の1の約
5000人を4大監査法人が擁しているのです。しかし、この数は、米国の公認会計士
約37万人と比べてあまりにも少ないといわれているのです。
 4大監査法人のうち中央青山監査法人は、中央監査法人と青山監査法人が合併してで
きたのですが、その合併のきっかけとなったのは、あの山一証券の破綻なのです。19
99年12月14日のこと、山一証券の破産管財人団は、1997年に倒産した山一証
券の粉飾決算を見逃したとして、会計監査を担当した中央監査法人などを相手取り、総
額にして60億円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に対して起こしたのです。
 そこで、中央監査法人としては今後のこのような巨額の法的リスクに備えるために、
青山監査法人と2000年に合併したといわれているのです。監査法人としてある程度
の規模を確保しなければひとたまりもないからです。
 もうひとつ日本の監査法人がこうした法的リスクに怯える事情があります。それは、
日本の監査法人の場合、監査法人に対する損害賠償請求は「無限連帯責任」であるとい
うことです。
 どういうことかというと、損害賠償請求が認められて、監査法人が債務を完済できな
いときは、監査法人の社員全員が連帯して残りの債務を弁済する義務があるのです。証
券取引法において、公認会計士または監査法人は、損害を無限責任で賠償する義務があ
ると定められているのです。
 監査法人および公認会計士に対するこの無限賠償責任は日本独自のものであり、概し
て日本は、公認会計士に関しては、非常に厳しいハードルを設けているのです。それを
端的に示すものとして、公認会計士の試験制度があります。
 公認会計士試験は、国家公務員試験、司法試験と並んで、日本で最も厳しい試験のひ
とつです。中でも公認会計士の試験の難しさは、米国の公認会計士試験とは比べ物にな
らないほどのレベルを要求されるといわれます。試験には、1次から3次まであり、し
かも、2次試験合格のあとに監査法人や公認会計士事務所における実習を受けないと、
3次試験の受験資格を与えられないのです。なお、大学において所定の単位を取得した
者については、1次試験は免除されます。
 参考までに、2002年の公認会計士第2次試験の合格状況を示すと、次のようにな
ります。
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         受験者数 13389人
         合格者数  1148人(うち、女性202人)
         合 格 率 8.6%
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 企業の監査のうち銀行監査については、もともと大蔵省と銀行がやっていたのです。
監査法人はその結果を見るだけなので、何のリスクもなかったのです。
 ところがバブルがはじけて、破綻銀行が増えるようになると大蔵省は危機感を感じ、
日債銀が破綻する前に制度を変更して、銀行監査を監査法人にまかせるようにしたので
す。それでいて、監査法人の監督官庁としての地位は手放していないのです。
 つまり、リスクは監査法人に押しつけて回避するが、監査法人に口出しできるように
しているのです。しかも、監査法人には、旧大蔵省からの天下りが公然と行われていま
す。さらに、監査法人の上層部には、会計士資格を持たない銀行出身者もいるといわれ
ます。これは完全な癒着の構図です。
 このように考えていくと、公認会計士や監査法人は、なかなか厳しい環境に置かれて
いると思います。りそな処理において、朝日監査法人が監査を降りたのも、そのあと、
新日本監査法人が突然態度を豹変させたのも、危機感からと思われるのです。
                        ・・・ [りそな処理の謎/11]

2007年12月12日

4大監査法人の国際提携状況(EJ第1229号)

 2002年8月のことです。米国の監査法人のアンダーセンはその89年の伝統に幕
を引いたのです。2001年12月に倒産したエンロンの粉飾事件に深くかかわってい
たのが原因です。
 アンダーセンといえば、世界5大監査法人の一角を形成する巨大な会計事務所だった
のです。世界5大監査法人とは、次の5つだったのですが、アンダーセンが消滅してし
まったので、現在では世界4大監査法人となっています。
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       1.アンダーセン ・・・・・・・・・・・・・・米
       2.KPMG ・・・・・・・・・・・・・・・・蘭
       3.アーンスト・アンド・ヤング(E&Y) ・・米
       4.デトロイト・トウシュ・トーマツ ・・・・・米
       5.プライス・ウォーターハウス ・・・・・・・米
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 アンダーセンは、1990年代に新興のIT関連企業の顧客を積極的に増やして巨大
化し、従業員約8万5000人、世界80ヶ国に385の事務所を持つ巨大監査法人に
なったのです。
 それまで米国の監査は透明性があり、世界のお手本といわれていたのです。それに対
して日本の企業は粉飾決算が多く透明性に欠けると批判の対象になっていたものです。
しかし、アンダーセンがエンロンとぐるになって、積極的に粉飾決算に手を貸していた
ことがわかり、全世界に衝撃を与えたのです。
 当然のことですが、とくに日本の監査法人に与えたショックは少なくなく、それが一
層監査の厳格化への道を突き進むことになるのです。そして、この流れが2003年の
りそな処理への大きな伏線となったのです。
 ここで、日本の4大監査法人が世界4大監査法人と、どういう提携関係にあったかに
ついて、お知らせしておく必要があると思います。というのは、世界的に監査法人業界
は寡占化と国際提携が進んでいることを認識する必要があるからです。
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      ≪国際提携状況≫
      新日本監査法人  ・・ E&Y
      朝日監査法人   ・・ KPMG
      中央青山監査法人 ・・ プライス・ウォーターハウス
      監査法人トーマツ ・・ デトロイト・トウシュ・トーマツ
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 世界4大監査法人と日本の4大監査法人との提携状況については、少し説明が必要で
す。朝日監査法人は、現在ではKPMGの日本での拠点――メンバーファームになって
いますが、もともとはアンダーセンのメンバーファームだったのです。
 エンロン事件でアンダーセンが破綻し、朝日監査法人としては急遽海外での国際会計
事務所の提携先を探す必要に迫られ、2002年5月にKPMGと業務提携を結び、2
003年4月に正式にKPMGのメンバーファームになったのです。
 しかし、KPMGは、本来は新日本監査法人の提携先であり、朝日監査法人はそれを
奪い取ったかたちになるのです。このことを理解するには、新日本監査法人についても
う少し詳しく知る必要があります。
 日本の国内4大監査法人は、2000年4月の段階においては次の6大監査法人だっ
たのです。
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            1.青山監査法人
            2.中央監査法人
            3.監査法人トーマツ
            4.太田昭和監査法人
            5.センチュリー監査法人
            6.朝日監査法人
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 このうち、2000年に青山と中央は合併して中央監査法人になり、そのほぼ同時期
に当時の国内第4位の太田昭和監査法人と第5位のセンチュリー監査法人が合併して、
新日本監査法人となったのです。なぜ、このように監査法人の合従連衡が行われるのか
というと、世界の大手監査法人のそれに引きずられる面があったからです。
 昨日のEJ第1228号で、中央と青山が合併して中央青山監査法人になったのは、
巨大法人リスクに対処するためと書きましたが、そのほかに世界の大手監査法人の合従
連衡に影響されたという面もあるのです。
 当時、中央監査法人はクーパース・アンド・ライブランドと、青山監査法人はプライ
ス・ウォーターハウスと提携していたのですが、1998年7月にクーパースとプライス・ウォーターハウスとが合併したのに伴い、日本の中央と青山もその2年後に合併し
たというわけです。しかし、太田昭和とセンチュリーの合併はそういう海外の提携先の
問題とは関係なく、合併の道を選んでいるのです。というのは、これらの2社は次の破
綻企業の担当監査法人だったからなのです。
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        太田昭和監査法人   ・・・・・ 長銀
        センチュリー監査法人 ・・・・・ 拓殖/日債銀
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 その一方で、太田昭和はE&Yと、センチュリーはKPMGと提携していたこともあ
り、両監査法人が合併して誕生した新日本監査法人は、現在その規模において国内第1
位の監査法人としての地位を占めるとともに、E&YとKPMGという当時の世界4大
大手監査法人の2つと提携するというかたちになったのです。
 朝日監査法人は、この動きに対応するため当時飛ぶ鳥を落とす勢いであったアンダー
センと提携することに成功したのですが、アンダーセンのまさかの破綻で、計画に狂い
が生じたのです。そして、新監査法人の提携先であるKPMGにアプローチし、そのメ
ンバーファームを獲得したというわけです。 ・・・ [りそな処理の謎/12]
               

2007年12月13日

朝日/新日本両監査法人の確執(EJ第1230号)

 「アンダーセン崩壊」は、日本の監査法人に大きな精神的重圧というか、危機感とい
うか、一種の恐怖となって重くのしかかっていた――実は、このことが、りそな担当の
会計士の自殺の背景にあるのです。
 平田会計士自殺の謎を解くために、自殺前後の状況をもう一度再現しておくことにし
ます。
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       2003年4月22日 朝日監査法人監査辞退決意
            4月24日 平田聡氏自殺
            4月30日 朝日監査法人の監査辞退
            5月 7日 新日本監査法人の「豹変」
            5月17日 りそなの公的資金注入要請
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 当初の報道では平田氏が厳格査定を主張したが、甘い査定をしようとする監査法人上
層部と対立――意見が通らず、平田氏は、それに抗議して自殺したというシナリオが盛
んにいわれたものです。いわゆる抗議の憤死です。
 しかし、それは的外れな見方なのです。というのは平田氏が属する朝日監査法人は、
22日に既に監査を降りることを決めていたという情報があるからです。ところが『り
そなの会計士はなぜ死んだのか』(毎日新聞社刊)の著者である山口敦雄氏は、新日本監
査法人への取材の結果、この事実が誤りであることを突き止めています。
 山口氏の取材に対し、新日本監査法人の上層部の代表社員は次のように述べたという
のです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       朝日監査法人は、4月22日の時点では、りそなを降りると
      いう決断はしていない。繰り延べ税金資産を全額認めないとい
      う方向感を示しただけである。
                      ――新日本監査法人代表社員
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 さらにこの代表社員は、朝日監査法人が「監査を降りる」ことを伝えてきたのは、平
田氏が自殺をした次の日、すなわち、4月25日だったといっているのです。
 これにより、次の推測ができるのです。
 朝日監査法人は、4月22日に開催された上級審査会において激論の結果、繰り延べ
税金資産を全額認めないという方針を決めたのです。問題は、どうしてこのような方針
が出されたかです。というのは、1年前はあさひ銀行に対して繰り延べ税金資産を5年
分認めているからです。
 朝日監査法人は、2002年9月の大和銀行の臨時株主総会で、りそな銀行の監査を
新日本監査法人と共同でやることを決めています。それも、単独で監査をやる気でいた
新日本監査法人を説得して共同監査に持ち込んでいるのです。それは、少なくともこの
時点では、りそな銀行の監査にリスクを感じていなかったことを示しています。
 しかし、ちょうどこの時期にアンダーセンが廃業しています。まして朝日監査法人は
アンダーセンと提携していたのですから、その衝撃は大変なものであったと推測できま
す。
 それに加えて、2002年10月に金融庁から、例の竹中プラン――金融再生プログ
ラムが出されたことによって、繰り延べ税金資産の厳格化の流れが一挙に加速すること
になります。
 そして、2003年3月頃には、朝日監査法人はりそな銀行の財務体質の脆弱さにリ
スクを感ずるようになっていたのです。りそな銀行担当の会計士である平田氏としては
当然りそな銀行の監査に対しては厳しい方針をもって臨んでいたはずです。
 これに対して新日本監査法人の方は、昨年に引き続いて繰り延べ税金資産を5年分認
めようとしていたのです。したがって、2つの監査法人の間では、その落としどころを
めぐって激しい議論が戦わされていたのです。
 それに、朝日監査法人はこの時点では、新日本監査法人と一緒に監査をやるのがいや
になっていたのではないかと思います。ひとつには、厳格監査をめぐって意見が合わな
いことに加えて、大和銀行、大和HDのデータは新日本監査法人が握っており、再三催
促してもなかなか出してくれなかったからです。
 その大和銀行/大和HD側のデータが新日本監査法人から示されたのが、4月16日
のことです。この日、平田氏は上司の代表社員と一緒に大阪のりそな銀行本店に出張し
ているのです。しかしその決算の数字は相当良くないものであったのです。これでは、
繰り延べ税金資産を認めないと過小資本になる――朝日監査法人としてはそう判断せざ
るを得なかったのです。
 朝日監査法人が監査から降りたがっていた理由がもうひとつあります。それは、共同
監査といってもあくまでメインは新日本監査法人であり、朝日監査法人は副の存在だっ
たからです。なぜなら、あさひ銀行と大和銀行の場合、存続会社は大和銀行だったから
です。それにいずれは新日本監査法人は監査の1本化を狙っていたので、朝日監査法人
としては進んでリスクをとることはないという考え方があったからです。
 このような経緯から朝日監査法人上層部は、りそな銀行の監査から降りる決断をして
いたのです。しかし、決算を前にして担当の監査法人が監査を辞退するというのは、監
査法人の信用問題になり、大きなイメージダウンになります。また、りそな株の暴落に
つながる恐れもあったのです。
 そういうわけで、朝日監査法人としては、りそな銀行の監査を引き受けるかどうか調
査してみたが、受嘱しないという結論にいたったというシナリオを考えついたのです。
これは、朝日監査法人上層部の経営判断です。
 しかし、平田氏は、監査法人上層部の考え方に賛成ではなかったのです。繰り延べ税
金資産をゼロ査定してしまえば、りそなは破綻する――そうすれば、大勢の人が職を失
うことになる。何とか救う方法はないかと必死に平田氏は考えたのです。
                        ・・・ [りそな処理の謎/13]

2007年12月14日

平田会計士はなぜ自殺したか(EJ第1231号)

 「日本公認会計士協会監査委員会報告66号」というものがあります。これは、繰り
延べ税金資産の回収可能性の判断を、会社の過去の業績などの状況に応じて、回収可能
性の高い順に1項から5項までの5段階に区分しており、この基準は1999年11月
に日本公認会計士協会が公表しています。
 実はこの資料を手に入れようと思い、日本公認会計士協会のホームページを参照した
のですが、会員・準会員はダウンロードできるものの、それ以外の人は有料というので
やめました。しかし、次の2つのことは、はっきりしています。
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        第5項 ・・・・・ 繰延税金資産は計上できない
        第4項 ・・・・・ 繰延税金資産の1年分を計上
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 この第4項には、但し書きが付いており、その内容は不明なのですが、何らかの救済
措置が書かれているらしいのです。朝日監査法人の上層部はりそな銀行に対しては第5
項適用を決めていたのに対し、平田会計士を中心とする監査チームは、第4項但し書き
を適用し、一定年数の繰り延べ税金資産の計上を認め、何とか破綻を回避しようとした
のです。そして、4月22日に朝日監査法人の本部審査会にその問題は持ち込まれたの
です。
 朝日監査法人の上層部は、かなり早い段階からりそな銀行/りそなHDの監査から手
を引きたい、つまり、降りることを考えていたフシがあります。その理由は、既に述べ
てきていますが、ここで整理しておきたいと思います。朝日監査法人がりそなの監査か
ら降りたいと考えた要因には、次の4つがあります。
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      1.大和銀行側の決算数字が良くないことは予想できており、
        繰延税金資産を外すと債務超過の状態にあったこと。
      2.かつての提携先であった米アンダーセンの消滅があり、経
        営陣としては強い危機感から慎重になっていたこと。
      3.りそなについては新日本との共同監査であり、副の立場で
        あって、いずれ外れることになると予測できたこと。
      4.新日本監査法人とは、海外提携先のKPMGをめぐってイ
        ザコザがあり、新日本側と何かと確執があったこと。
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 もうひとつ考えられるのは金融庁の圧力です。といっても、誤解のないように願いた
いのは、5月になってりそな処理をめぐって金融庁と監査法人の役員とのやり取りを記
述したメモの存在が問題になりましたが、その監査法人は新日本監査法人であって、朝
日監査法人ではないということをです。
 金融庁はどうように考えていたのでしょうか。
 当時の金融庁は、今でもそうかも知れませんが、竹中大臣の考え方と一枚岩ではない
のです。竹中大臣は、国有化推進論者ですが、金融庁の他の幹部はかつての柳沢路線を
推進しようと考えている者もおり、意思が統一されていないのです。
 しかし、朝日監査法人がりそなの監査を降りるという決断に、金融庁がぜんぜん関与
していないとは、とても考えられないのです。実際問題として朝日監査法人が監査を降
りたことが引き金となって、新日本監査法人も繰り延べ税金資産を3年分しか認めず、
竹中大臣の思惑――米国の思惑というべきかもしれませんが、りそなが実質国有化され
ることになったからです。
 一方、りそなの監査を担当する平田会計士は、朝日監査法人の上層部がりそなの監査
から降りようとしているのを知り、何とかそれを回避しようとしたと思われます。平田
氏自身は、もともと厳格監査の人であり、りそなの決算内容は会計士として許容の範囲
を超えていたと思われるのですが、監査法人が監査を途中で放り投げて降りるというこ
とについては、会計の現場にいる人間として、やってはならないことだと思っていたの
です。
 そこで、平田氏は、結果はどうなろうとも、監査を最後まで継続する道を探ったと思
われるのです。そこで、平田氏は、りそな銀行側、新日本監査法人側に対して、繰り延
べ税金資産の現実的な線を調整しようしています。そして、とくに新日本監査法人に対
して、繰り延べ税金資産を今期も5年分認めることは問題があるとして説得していたの
です。
 この平田氏の動きに対して、りそな銀行側は危機感を持ち、朝日監査法人に対して、
「平田会計士を外せ」と要求しています。さらに、銀行側はそれに断られると、今度は
金融庁を通じて朝日監査法人に圧力までかけたのです。
 これには、朝日監査法人も困惑し、平田氏に対し、代表社員への昇格を条件に担当か
ら外れるよう説得したという事実もあるのです。いずれにせよ、当時の平田氏は、四方
八方からの圧力がかかっており、尋常ならざる精神状態であったと考えられます。それ
に、大企業を担当する会計士――とくに平田氏のやっていたシニア・マネージャの仕事
というのは、歯を磨く時間すらないほどの激務といわれているのです。週3回徹夜など
はザラというのですから、平田氏は心身ともに疲労困憊の状態にあったことは確かであ
るといえます。
 そして、4月22日、午前11時30分――朝日監査法人の本部審査会が行われたの
です。平田氏率いる監査チームと審査会の意見は繰り延べ税金資産をめぐって対立し、
審査会は深夜まで続いたものの、結局監査チームの意見は通らなかったのです。
 4月24日、平田氏は午前中に新宿区内で会議に出席し、昼頃会社に戻り、夕方4時
頃に行き先を告げず会社を出ているのですが、いつも持ち歩いていた携帯電話、ノート
PC、鞄は会社に置いたままだったのです。
 夕方5時頃平田氏は自宅のマンションに戻り、カードキーでドアを開けようとしてい
る姿が目撃されています。しかし、平田氏は、そのまま自分の部屋に入らず、12階自
宅玄関前の手すりを乗り越えて、背広姿のまま飛び降りてしまったのです。計画的なも
のではなく、心身ともに極度の疲労困憊のすえの自殺であり、会社への抗議の意思はな
いと思われます。                ・・・[りそな処理の謎/14]
               

2007年12月17日

新日本監査法人豹変の理由(EJ第1232号)

 りそな処理をめぐる会計士の自殺/監査法人の対応のテーマは今日で終りです。とこ
ろで、りそな銀行/りそなHDは果たして債務超過だったのでしょうか。
 2003年6月13日、参議院財務金融委員会の参考人質疑で当時民主党の桜井充彦
議員は、参考人として出席した朝日監査法人岩本理事長に対して、その問題を問いただ
しています。
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      桜井:繰り延べ税金資産を外した場合、今回のりそな銀行は債
         務超過になっているか。
      岩本:りそな銀行は大和銀行とあさひ銀行の合併でできたが、
         あさひ銀行の一部を埼玉りそなとして、一部分割してい
         る。2つの銀行がそのまま一緒になれば、従来の考え方
         を踏襲できたが、一部分割しているので、それができな
         い。このため、従来の繰り延べ税金資産がそのまま受け
         継がれていいのかという問題がある。4月16日にいた
         だいた資料の中でもう一度、資産と負債と繰り延べ税金
         と分けて考えて、その段階では、非常に資産が少なかっ
         た。自己資本比率が繰り延べ税金資産を外したところ2
         %以下になるということは、資本充実のところで大きな
         問題。2%以下になる可能性が非常に強いということで
         過小と表現している。
      桜井:債務超過ではないのか。
      岩本:繰り延べ税金資産を外して資産と負債と比較すると、負
         債の方が多い状態です。
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 この答弁をどのように考えますか。
 岩本理事長は言葉を選びながらですが、はっきりと債務超過であることを認めていま
す。「繰り延べ税金資産を外して・・」という条件を付けていますが、本来銀行は、繰
り延べ税金資産などにこだわるべきではないのです。
 繰り延べ税金資産が導入されたのは、大手銀行にはじめて公的資金が注入された19
99年3月期からです。不良債権処理にともなう銀行の財務の劣化を緩和しようという
いわば金融当局によるあめ玉として導入されたのです。
 しかし、不良債権処理は増加の一途をたどり、当初から「繰り延べ税金資産を5年分
認める」とした当局の処置により、不良債権の処理をすればするほど、繰り延べ税金資
産が膨らむという皮肉な結果になってしまったのです。
 何度もいうように、繰り延べ税金資産とは、過払い分の税金の戻りなのです。不良債
権に対して積む貸倒引当金は、ほとんどの場合、有税で積み立てられますが、その取引
先が破綻して損失が確定すると、過払い分として戻ってくるのです。
 この戻り分をあらかじめ、自己資本の中に含めて良いというのですが、そこに現金が
あるわけではなく、将来戻ってくるといっても、赤字決算をすると税の還付はなくなる
ので、本当の自己資本とはいえないのです。
 本来自己資本は、銀行が預金の支払いをする最後の原資であり、いわば虎の子なので
す。その虎の子である自己資本の中に、現在手元になく、将来も確実に戻ってくるとは
いえない税金の還付金を含めるという発想がそもそも間違っているのです。
 銀行にしても、海外業務はリスク資産の8%、国内業務は4%という自己資本の基準
を、そういう決まりだから、いろいろなものをかき集めて目標をクリアするという感覚
で積んでおり、銀行自らの意思と判断で、自己資本を充実させねばという強い意気込み
が感じられないのです。
 その点、米国の銀行は外からいわれるまでもなく、つねに自己資本の充実化に努め、
その財務基盤を磐石にして、リスクの高い新興市場を開拓するという積極的な経営を展
開しています。自己資本の充実があってこそ、大きなリスクが取れるのであり、業務の
拡大ができるのです。そういう意味において、日本の銀行は何か間違えていると思いま
す。
 さて、4月25日、朝日監査法人は新日本監査法人に対し、りそなの監査から降りる
ことを伝えています。これは、明らかにその前日に自殺した平田会計士の「死」が影響
しています。もともと朝日監査法人は、りそなの監査から降りたかったですが、マイナ
スのイメージを恐れて、その時期をうかがっていたのです。それが平田氏の自殺で表明
しやすくなったといえるのです。
 「監査法人は最後まで監査を降りるべきではない」というのが平田氏の信念であった
はずです。それなのに、自らの死が監査法人をして、りそなの監査から降りやすくさせ
るという皮肉な結果となってしまったのです。
 この朝日監査法人のりそな監査からの離脱は、新日本監査法人を追い詰めることにな
ります。新日本監査法人に対しても、第2のアンダーセンの恐怖が襲いかかったからで
す。新日本監査法人の監査チームは、折からのゴールデンウィークを利用してりそな銀
行が提出した経営計画を改めて再チェックし、個別取引先の健全性を改めて調査し直し
たのです。
 銀行の決算は、4月末には数字が固まっているものであり、5月に入って決算数字を
洗いなおすことは稀有のことなのです。これも平田氏の自殺が大きく影響していること
は間違いないものと思われます。
 その結果、5月5日に開催された新日本監査法人の本部審査会において、繰り延べ税
金資産を5年分は認めず、3年分とするという結論が出されたのです。これにより、り
そな銀行の自己資本比率は、国内業務を営む最低ラインである4%を割り込むことにな
ったのですが、5月6日にその決定がそのままりそな銀行側に伝えられたのです。
 記者会見の席上、勝田りそなHD社長が「ゴールデンウィーク明けの5月6日になっ
て新日本監査法人の態度が豹変した」と述べたウラには、平田氏の死を含むこういう事
情があったのです。               ・・・[りそな処理の謎/15]

山口敦雄氏の本.jpg

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