INTEC JAPAN/BLOG

このブログは、異文化研修の教育機関(株)インテック・ジャパンの情報発信用です。(株)イー・メディアとの提携により、同社のドキュメント・レポート「Electronic Journal」をウィークデイの毎日お届けします。
「Electronic Journal」は様々な情報を400字詰原稿用紙7枚にまとめて配信する日刊メールマガジンです。

トップ カテゴリー:有機EL

2007年02月19日

純国産有望技術/有機ELとは何か(EJ第1090号)

 2003年4月18日付の日本経済新聞朝刊に、次の見出しの記事が出ていたのをご
存知ですか。かなり大きな記事です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        パイオニアの有機ELディスプレイ
        フィルム状でフルカラー/世界初、折り曲げも自在
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この記事は何を伝えているのかというと、パイオニアが、フルカラーの動画を映し出
せるフィルム状の有機ELディスプレーの開発に成功したというニュースです。既に、
ガラス製の有機ELは量産化がはじまっていますが、フィルム状の有機ELは世界初の
快挙ということです。
 パイオニアが今回開発に成功したのは、定期券程度の大きさのフィルムで、重さは3
グラム――画素に関しては次の通りであり携帯電話の表示装置として普及するものとみ
られます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           縦 ・・・・・ 120画素
           横 ・・・・・ 160画素
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 EJでは、2001年5月16日のEJ616号で、一度有機ELを取り上げていま
す。その時点では、有機EL技術もまだそれほどでもなく、情報も少なかったので、日
本がリードしている新技術としての紹介にとどめたのです。
 しかし、ここにきて、冒頭のパイオニアの開発に見られるように、有機ELの技術は
大きく前進し、実用化の域に達しつつあります。しかも、純国産技術として日本が完全
に世界をリードしている将来有望な技術なのです。そこで、少し詳しくこの技術を、E
Jの新テーマとして取り上げてみることにします。
 まず、有機ELとは何でしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           有機EL=Electroluminescence
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 有機ELはのELは、「エレクトロ・ルミネッセンス」の意味であり、電気を有機物
に通すことで発行させる技術のことです。そして、有機ELは、次世代フラット・ディ
スプレイの本命技術のことです。なお、ELを英語で書くときは、次のようには書かな
いので、注意が必要です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           Electro Luminescence
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ディスプレイ市場を2分するのは、テレビとPC用のディスプレイです。大雑把にい
って、テレビが30%、PC用のディスプレイは50%、残りの20%は、携帯電話、
PDA、デジカメなどのディスプレイと車に搭載するパネル用になっています。
 それらのディスプレイに何が使われているかを2000年の経済産業省の統計で見
ると、次のようになります。市場全体としての規模は、約5.1兆円です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        液晶 ・・・・・   2.7兆円  52.9%
        ブラウン管 ・・   2.3兆円  45.0%
        プラズマ ・・・   0.1兆円   2.1%
               ―――――――――――――――――――――――
                   5.1兆円 100.0%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 最近は、液晶の明るさは一段と向上し、価格も下がっており、今後はテレビでもPC
用のディスプレイでも液晶が中心になっていくと考えている人は多いと思います。
 しかし、そうとはいえないのです。確かに液晶は、ブラウン管にない「薄さ」という
大きなメリットがありますが、ディスプレイとしての基礎能力は、意外に高くはないの
です。というのは、液晶は自らは光を発する物質ではなく、バックライトが必要である
こと、コストが高いこと、上や下、横から見ると色変わりがあることや高速な動きにつ
いていけない反応の遅さなど――大きな問題点がいくつもあるからです。
 それでは、液晶の次の候補として、どのような技術があるのでしょうか。主要なもの
は、次の3つです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.有機EL
       2.PDP(プラズマ・ディスプレイ)
       3.FED(フィールド・エミッション・ディスプレイ)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これら3つのなかで一番の本命が有機ELなのです。経済産業省の予測によると、2
010年の世界のディスプレイ市場は次のようになっています。なお、ディスプレイ市
場で知っておくべきことは、日本、韓国、台湾の3国で、世界シェアの大半を占めてい
るということです。つまり、市場のほとんどをアジアが押さえているわけです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       液晶 ・・・・・・  4.40兆円  36.9%
       有機EL ・・・・  4.10兆円  34.4%
       ブラウン管 ・・・  1.55兆円  13.0%
       FED ・・・・・  1.45兆円  12.2%
       プラズマ ・・・・  0.40兆円   3.5%
              ――――――――――――――――――――――――
                  11.9兆円 100.0%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 市場規模は2000年の5.1兆円から11.9兆円と倍増の勢いであり、そのなか
において、有機ELは全体の34.4%を占め、大きく液晶に迫っているのです。
                          ・・・ [有機EL/01]

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2007年02月20日

有機ELと液晶を徹底比較する(EJ第1091号)

 ディスプレイを選ぶとき、一番重視すべきポイントとは一体何でしょうか。何といっ
てもそれは「どのくらい美しく見えるか」ということに尽きると思います。
 ディスプレイの「美しさ」を決める基準のひとつに「輝度」があります。「輝度」は「キラキラ感」ともいわれます。雨が激しく降っていて、そこに稲妻がピカリと光ったり、時代劇で日本刀がキラリと光る――それに、海岸でさざ波がキラキラ白く輝くといった光り方をディスプレイでどこまで表現できるかというのが「輝度」なのです。
 こういう光り方を可能にするには、例えば、稲妻が光った瞬間に急激に大電流を流す
か、電圧を瞬間的に高くすることによってピカッと鋭利な光り方をさせることができる
のです。これを「瞬間最高輝度を上げる」といいます。
 しかし、この瞬間最高輝度を上げることは、ブラウン管やプラズマ・ディスプレイ、
有機ELなどの自発光型ディスプレイではできるのですが、液晶は自ら光ることのでき
ないディスプレイであり、画面の一部だけに瞬間的に大電流を流すことはできないので
す。そういう意味で液晶は、ブラウン管型ディスプレイ(CRT)を超えてはいないの
です。
 液晶は透過型ディスプレイであり、バックライトとして蛍光灯の光を必要とします。
バックライトの輝度はいくらでも上げることはできますが、それは輝度を全体的に上げ
ることになってしまうのです。液晶はコントラストが低いといわれるのは、そのためな
のです。
 それでは、液晶はどのようにしてコントラストをつけるのかというと、蛍光灯の輝度
を高めに設定して、そこから、光のシャッターとして機能する液晶素子によって、輝度
をマイナスして表示するのです。明るさをプラスすることはできないのです。
 これに対して有機ELの場合は、一定の輝度にプラスして電流を調整することによっ
て、光らせるべきところはいくらでも光らせることができるし、光っていないところは
とことん光らせないようにできるのです。したがって、黒の部分は徹底的に黒く、白い
ところは、輝くような白にすることが可能なのです。そのため美しいコントラストをつ
けることができます。
 液晶は、その「薄さ」において優位性があるといわれますが、これはあくまでブラウ
ン管との比較における「薄さ」であって、有機ELのそれとは比較にならないのです。
液晶ディスプレイというのは、結晶のようにきれいに並んだ液状の有機物質――液体材
料という――を使うので、何かに封じてやる必要があります。
 実際には、2枚のガラス板で挟んで保持することになります。それに液晶にはバック
ライトの部分が必要ですから、どうしても「薄さ」に限界が生じてしまいます。
 プラズマ・ディスプレイの場合、プラズマは気体なので、やはり2枚の板ではさむ必
要がありますが、プラズマは自ら光ることができるので、液晶よりはかなり薄くするこ
とができます。バックライトは必要ではないからです。
 これに対して、有機ELの素材は個体なのです。その素材を非常に薄い膜にして1枚
のガラスのような基板に貼り付ける――その膜の薄さは実に0.1ミクロンであって、
2層の電極だけが必要であり、挟む必要はないのです。
 基板は単なる補強材に過ぎないのです。基板はガラスである必要はなく、プラスチッ
クでもいい、フィルムでもいい――ステンレス板でも別にかまわないのです。その構造
は、きわめてシンプルそのもの――そのため有機ELを使えば、究極の壁掛けテレビが
実現することになります。
 さらに液晶のディスプレイとしての大きな欠陥は、応答速度の遅さが上げられます。
液晶テレビは、野球やサッカーなどの早い動きについていけないのです。もちろん、最
近この面は大きく改善されてはいますが、応答速度の遅さは液晶の原理的な問題であっ
て、改善したとしてもそれだけコストがかかることを意味します。これに対して有機E
Lは、液晶の1000倍の速度といわれており、テレビやDVDの表示には無類の強さ
を発揮することになります。
 それでは、有機ELは大型化できるのでしょうか。プラズマ・ディスプレイは、大型
化は得意ですが、小型化は困難なのです。もちろん液晶も大型化は困難であり、現在の
大きさにするまでに長い期間がかかっています。
 ところが、有機ELは、大型でも中型でも小型でも、何でも可能なのです。これによ
って、大型テレビから、家電製品のバネル小さいものでは、携帯電話やデジカメのディ
スプレイ、PDAなど、きわめて広範囲に利用できるのです。
 このように検討していくと、有機ELはいいことづくめでありこれといって欠点は見
られないのです。
 最後に、10のチェック項目における液晶との比較リストを示しておきます。『有機
ELのすべて』(日本実業出版社刊)の著者、城戸淳二山形大学工学部教授(有機EL
国家プロジェクト座長)によるチェックリストです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                液  晶    有機EL
         消費電力     ○       ◎
         応答速度     △       ○
         大 型 化     △       ○
         画  質     △       ○
         寿  命     ○        ○
         コ ス ト     △       ○
         視 野 角     △       ◎
         輝  度     △       ○
         柔 軟 性     ×        ◎
         耐震耐熱     △       ○
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                           ・・・[有機EL/02]

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2007年02月21日

『面』光源として応用できる有機EL(EJ第1092号)

 昨日までのEJで、有機ELが液晶などと比べると、ディスプレイとしていかに優れ
ているかについてお話ししました。しかしあまり良いことづくめでは、かえって信用さ
れないということがあっても困りますので、あえて問題点を指摘しておきます。
 有機ELの唯一の弱点は素子寿命が短いということです。確かに2002年までは、
有機ELの素子寿命は1万〜2万時間程度だったのです。このままでは、10万時間以
上といわれる液晶に対抗できないのです。
 しかし、有機ELの技術革新はすばらしく2002年中に、その「10万時間以上」
をクリアしてしまっているのです。さらに技術が進むと、素子寿命はもっと伸びる可能
性があり、既に問題点ではなくなりつつあります。
 強いてもうひとつ問題点を上げると、発光効率と耐久性の高い材料の開発が必ずしも
容易ではないという点があります。有機ELの材料の質によっては、耐久性に問題が出
てくるからです。しかし、こういうことは、他の技術にもありますし、決してクリアで
きない課題ではないといえます。
 それどころか、有機ELは、次世代フラット・ディスプレイの分野だけではなく、照
明市場に大きな影響を与えようとしているのです。照明といえば、現代においても、エ
ジソンの発明以来の白熱灯(電球)と蛍光灯が中心ですが、そこに有機ELが入り込も
うとしているのです。白熱灯や蛍光灯と対比すると、次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.白熱灯  ・・・・・ 「点」光源
          2.蛍光灯  ・・・・・ 「線」光源
          3.有機EL ・・・・・ 「面」光源
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 有機ELの場合、「面」そのものが光るという全く新しい光源です。非常に明るく、
しかも、とてつもなく薄いのです。だからどこにでも貼り付けられるので、天井に有機
ELの照明シートを貼れば、天井全体が光り、非常に明るいのです。文字通り部屋の隅
々まで光があふれます。
 有機ELは、どのような色も出せるので、白色を出せば普通の照明に使えます。もち
ろん、さまざまな色を使って、イルミネーションとしても使えます。現在のところ消費
電力では白熱灯よりも小さく、蛍光灯よりも大きいというレベルですが、将来的には、
消費電力で蛍光灯より小さくなるといわれています。
 もうひとつの可能性として、有機ELによる「電子ペーパー」というものが考えられ
ます。いきなり「電子ペーパー」といわれてもピンとこないと思いますが、ここでペー
パーとは文字通り紙のことではなく、紙のように薄いフィルム状のもの――それが「電
子ペーパー」なのです。
 そこまでいうと、EJ1090号に添付した朝日新聞の切り抜き記事を思い出してい
ただけると思います。その記事は、パイオニアによって、世界初のフィルム状の有機E
Lの開発に成功したと報じています。これこそ「電子ペーパー」そのものです。
 「電子ペーパー」は、シート状のディスプレイです。シート状ですから、くるくると
巻いて持ち運びができますし、テレビとしてもPCのディスプレイとしても使えます。
もちろん、フルカラーですし、ディスプレイですから、動画も扱えます。
 こういうディスブレイが出現すると、PCの形状――とりわけノートPCの形状が大
きく変わる可能性があります。ノートPCからディスプレイの部分とキーボードの部分
を切り離したら、とても軽くなるはずです。そして、箱型になったPCの本体部分をか
ばんの中に入れておき、手に持つのはシート状のディスプレイとマウスのみというスタ
イルです。かばんの中の本体部分とディスプレイとは、ブルーツゥースを使って無線で
つなぐのです。
 このように、有機ELは、ディスプレイの分野だけではなく、照明市場、電子ペーパ
ー(シート・ディスプレイ)などの分野でも使われようとしています。しかし、これほ
ど有望な技術でありながら、有機ELの正体は一般にはあまり知られているとはいえな
いと思います。そこで、EJでは、できるだけわかりやすく、その正体に迫ってみたい
と思います。
 その前に、電子ディスプレイの世界で使われている技術を整理しておきます。
 ディスプレイに使われる素材には、自ら光を発するタイプと光を発しないタイプがあ
ります。現在、幅広く使われている液晶は後者、光を発しない「受光タイプ」に属する
のです。王者、液晶としては、これが最大の弱みとなります。
 この液晶を超える技術としてひしめきあっているのは、いずれも自ら光を発する「自
発光タイプ」です。もちろん、有機ELもその中に入ります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.CRT(ブラウン管)
       2.POP(プラズマ・ディスプレイ)
       3.EL(有機EL/無機EL)
       4.FED(フィールド・エミッション・ディスプレイ)
       5.VFD(蛍光表示管)
       6.LED(蛍光ダイオード)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 有機ELは、EL(エレクトロ・ルミネッセンス)の中に入るのですが、無機ELと
いうのもあるのです。無機ELというのは無機蛍光体という素材を使うのですが、薄膜
無機ELというタイプがその耐久性の高さから、主として工場で使う機器のディスプレ
イや車載用に使用されています。
 一時期、日本語ワープロのディスプレイとしても使われたのですが、カラー化ができ
ないことや、高電圧、交流駆動であるため消費電力も高いことから、液晶との競争に敗
れています。明日のEJでは、有機ELの正体に迫ります。・・・ [有機EL/03]

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2007年02月22日

有機ELの材料に関する基礎知識(EJ第1093号)

 「有機」というと、「有機農法」とか「有機米」というように使われますが、そもそ
も「有機」というのは何でしょうか。有機ELを理解するには、このあたりからはっき
りさせていく必要があります。少し田中耕一さん的な世界に入りますが、逃げないでつ
き合っていただきたいと思います。
 化学の世界で「有機」というのは、次のように考えられているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     有機とは、動植物の体をつくっているものであり、人為的に合
      成することができないものである
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 有機というのは「オーガニック」(organic)の日本語訳で「オーガン」とは「内臓」
を意味するのです。これに対して「無機」というのは、石とか岩のように生物とは関係
のないもの――つまり、生物に関係のあるものとそうでないものというそういう分類が
「有機」と「無機」なのです。
 しかし、あとになって、石油から人工的に多くの有機物が作れることがわかってきて
生物と無生物で分ける意義がなくなってきています。そこで、現在では、「炭素を骨格
とする化合物」のことを「有機化合物」といっています。
 有機化合物の基本形というものがあります。学校の化学の時間を思い出すことになり
ますが、あえて説明します。Cは炭素、Hは水素です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
              H         H H
              I         I I
            H−C−H     H−C−C−H
              I         I I
              H         H H
             メタン        エタン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 基本形として、炭素1個と水素4個からなる「メタン」と炭素2個と水素6個からな
る「エタン」というものがあります。これらは「ガス」です。炭素を3個にし、水素を
8個にすると「プロパン」になります。
 骨格になる炭素の数に対応して、水素の数を増やしていくと、いろいろなものができ
ます。炭素8個と水素18個の組み合わせは「オクタン」と呼ばれる液体になりますし
炭素の数を数万個にしてつなぐと、プラスチックの一種である「ポリエチレン」になり
ます。「ポリスチレン」や「ポリエステル」などもこれと同種です。こういうものは、
すべて炭素化合物、すなわち、「有機物」なのです。
 こういう化合物ではない有機物は天然に広く存在しています。しかし、そういう天然
の有機物を有機ELの材料として使うことはなく、材料として使われるのは人工の有機
化合物です。
 ですから、有機ELを研究している学者は、さまざまな有機化合物を人工的に作り上
げ、有機ELの材料として使ってみて発光の状態などを調査しているのです。なぜなら
材料こそが有機ELの品質を決めるからです。
 有機ELの材料(有機材料)を考えるうえで、知っておくべきことがあります。それ
は、有機物には次の2つの種類があることをです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         1.低分子系の材料
         2.高分子系の材料 ・・・ ポリマー系
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「低分子」と「高分子」を分けるものは分子量の違いなのです。化学の基礎ですが、
分子とは、物質をつくっている最小の粒子で、そのものの基本になる性質をもっていま
す。分子は、普通いくつかの原子が結合してできています。「水」を例として考えまし
ょう。水をどんどん小さくしていくと、最後に、分割できない最小の粒子となります。
これが「分子」です。この分子をさらに分割すると水の性質はなくなり、水素原子2個
と酸素原子1個になります。水素や酸素などの原子量は次のように決まっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             原子量
          H(水素) ・・・・・  1
          C(炭素) ・・・・・ 12
          N(窒素) ・・・・・ 14
          O(酸素) ・・・・・ 16
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 各物質の分子量とはこれらの原子量の合計した数なのです。水の場合は、水素原子2
個と酸素原子1個ですから、分子量は次の通り18になります。同様に、エチレン(C
2H4)は28になります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          H2O=1×2+16=18
          C2H4=12×2+1×4=28
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 それでは、低分子と高分子を分ける分子量は、どのくらいになるのかですが、大雑把
な目安は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          低分子 ・・・・・ 分子量 1000以下
          高分子 ・・・・・ 分子量10000以上
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 実は、高分子は、低分子をもとにして作るのです。低分子モノマーを、多数(ポリ)
集めて作るという意味で、高分子のことを「ポリマー」というのです。普通は高分子と
はいわず、ポリマーといっているのです。現時点で研究が進んでいるのは、低分子系の
方なのです。                     ・・・ [有機EL/04]

2007年02月23日

有機EL開発におけるコダック特許(EJ第1094号)

 「太陽電池」というものがあります。現在では、広く普及して電卓などに当然のよう
に使われています。乾電池などの補給が必要ないので、とても便利です。実は、有機E
Lの原理は、この太陽電池のちょうど逆の発想なのです。
 太陽電池は、太陽や電球などの光エネルギーを受けた物質が電気エネルギーを発生し
、電子機器を動かすというものです。有機ELはこれとは逆に、電気エネルギーを光エ
ネルギーに変えて、材料としての有機物に電気を流し、光らせようというものです。し
かし、プラスチックなどの有機物は電気が流れにくいのです。そういうわけで、多くの
学者がこの研究に挑んでは失敗していったのです。
 こういう状況のなかでひとつの道を拓いたのが、イーストマン・コダック社の、タン
という研究員だったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             C.W.タン――C.W.Tang
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 80年代のはじめのことですが、当時米国政府は石油対策として、太陽電池の研究開
発に多額の投資を行っていたので、イーストマン・コダック社でも、太陽電池の研究開
発を積極的に行っていたのです。
 しかし、タン氏が率いるコダック社の研究チームでは、太陽電池の素材に有機物質を
利用していたのです。普通はシリコンなどの無機物を使うのですが、コダック社のタン
・ チームは、他とは一味少し違う太陽電池を開発していたのです。いわゆる有機太陽電
・ 池です。そのとき開発された技術は次の4つです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             1.真空成膜技術
             2.電荷輸送性有機材料
             3.電極材料
             4.素子構造(多層構造)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 簡単にいうと、タン氏らはその太陽電池制作の工程の中で、有機薄膜を積み重ねて使
うという独特の方法で、高効率化を実現することに成功していたのです。
 タン氏は、この有機太陽電池の制作経験から、効率よく有機物質に電気を通せれば、
有機物質を光らせることは可能と考えていたのです。そして、発光させる有機材料を2
層にするという卓抜なアイデアが実って、非常に高い輝度で光らせることに成功してい
るのです。
 しかし、コダック社内では、ほとんどタン氏は、相手にされなかったのです。という
のは、光るとはいってもほんの数分で消えてしまったからです。それどころか、コダッ
ク社は、タン氏にそのプロジェクトの停止を通告したのです。
 何やら青色発光ダイオードの開発に成功した中村修二博士の話とよく似ています。そ
こでタン氏は「プロジェクトを解散するなら、せめて論文だけでも発表させて欲しい」
と会社と交渉し、それを認めさせています。
 このコダック社というのは非常にシビアな会社で、技術者たちに、特許を出願しても
論文の発表は厳禁という不文律を押し付けていたのです。会社から論文発表の許可を得
たタン氏は早速論文を発表します。1987年のことです。
 結果として、この1987年という年を機に有機ELは大飛躍を遂げることになりま
す。というのは、タン氏の論文を見て、日本の学者、技術者、企業が続々とタン氏に会
いに、コダック社にやってくるようになったからです。その結果、タン氏のプロジェク
トは継続されることになったのです。
 ちなみに、「アプライド・フィジックス・レターズ」に掲載されたタン氏の論文を見
て積極的に動いた日本の企業は、次の8社です。まさに先見の明――日本企業は大した
ものです。そこから先は、有機ELは日本の独壇場になるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          ≪電機系メーカ≫   ≪化学メーカ≫
           1.パイオニア    7.三菱化学
           2.NEC      8.出光興産
           3.TDK
           4.スタンレー
           5.三洋電機
           6.東芝
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 コダック社のタン氏の研究成果により生まれた技術は次の2つです。これは「コダッ
ク特許」といわれています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           1.超薄漠を可能にしたこと
           2.発光層二層化の多層構造
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 有機層に電極を付けて電気を流す場合、有機膜が薄ければ薄いほど電気は流れやすく
なります。しかし、膜を薄くすると、ピンホールができてしまうのです。ピンホールと
いうのは、小さい穴とかすき間のことです。
 ピンホールが多い膜に金属の電極を付けると、金属がピンホールに入ってしまい、シ
ョートしてしまうのです。しかし、それを避けるために膜を厚くすると、相当高い電圧
をかけても電気が流れにくくなってしまうのです。
 そこでタン氏は、薄膜にしてもピンホールができない優れた有機材料を発見して使っ
ています。これは、低分子系の材料です。しかも、それを2層にして万全を期したこと
です。2層にするとたとえ1層目にピンホール欠陥があったとしても、2層目のコーテ
ィングによって、その欠陥を防ぐことができるのです。
 ところで、薄漠というのは、「真空蒸着」という方法で作るのですが、これはとくに
珍しい技術ではないのです。それよりも材料が有機ELの質を決めるのです。
                          ・・・ [有機EL/05]

2007年02月26日

有機ELの光る原理に迫る(EJ第1095号)

 有機ELはなぜ光るのでしょうか。それは「励起(れいき)」という現象によって起
こるのです。実は、ホタルが光るのも、蛍光灯が光るのも、みな励起現象によるものな
のです。
 それでは「励起現象とは何か」ですが、この現象について説明すると、かなり化学の
世界に入り込んでしまうことになります。しかし、せっかくここまで説明したので、ち
ょっとだけ、化学の世界に入っていくことにします。
 身近なところで、蛍光灯を例にとります。蛍光灯というのは、ガラス管の部分には、
蛍光物質が塗布されており、管の中にはアルゴンガスと水銀が封入されています。そし
て、管の両端のステム管には電極が付いています。
 発光する原理をごく簡単に述べましょう。蛍光灯の電極より熱電子が放出されます。
その熱電子は、水銀原子と衝突を起こし、紫外線を発生します。紫外線は目に見えない
光で、ガラス管に塗布されている蛍光物質に当たり、これを刺激してはじめて可視光線
になるのです。これを整理すると次の3つの段階になります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          第1段階:熱電子の放出
          第2段階:紫外線の発生 → 励起現象
          第3段階:光が発生する
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この場合、熱電子が水銀原子と衝突し、紫外線を発生させる第2段階のことを「励起
現象」というのです。これについてもう少し詳しく説明します。
 原子の構造をご存知でしょうか。励起現象を理解する基本知識として必要なのです。
 原子の中心には「原子核」があって、その周りをいくつかの電子が回っているのです
。その電子の回る軌道は、外側の方がエネルギーが高いのです。これを「準位が高い」
というのです。
 蛍光灯の場合、電極から放出された熱電子は水銀原子と衝突しますが、その衝撃で電
子は、外側の軌道にはじき飛ばされるのです。この電子は、原子核との間に拘束力が働
いて、その外側の軌道を回ることになるのです。このような現象のことを「励起」とい
っています。蛍光灯の場合は「水銀の励起現象」といいます。ちょうど屋根に追い上げ
られて、ハシゴを外された状態とでも、いいましょうか。電子にとっては、きわめて腰
の座りの悪い状態に置かれるわけです。
 そういうわけで、電子は元の軌道に戻ろうとします。つまり、エネルギーの強い外側
の軌道から、それよりもエネルギーの低い内側の軌道に戻るわけで、そのとき余分なエ
ネルギーを捨てることになります。その捨てられたエネルギーが一定の波長の放射線と
なって、外に放出されるのです。蛍光灯の場合は、紫外線となるわけです。この紫外線
が蛍光物質を刺激して発光するのです。
 有機ELの発光原理も蛍光灯のそれと同じです。有機ELの基本的なかたちは、電極
2枚で有機物の蛍光体をサンドイッチにしたかたちになっています。もちろんそれを最
終的に支えるための基板――現在はガラス――が必要になりますが、発光現象そのものに
基板は関係ないのです。
 さて、この電極によってはさまれた蛍光体が発光するのが有機ELなのです。陽極と
陰極からは次のものが放出されます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         陽極(プラス側の電極) ・・・・・ ホール
         陰極(マイナスの電極) ・・・・・ 電 子
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「ホール」とは何でしょうか。
 「ホール」とは、城戸教授によると、電子の抜けた穴のことであり、プラスに荷電さ
れている「正孔」であるといっています。何やら難しい話ですが、化学的にいうと、電
極の陽極界面では有機分子が酸化されるのです。酸化されるということは、電子を奪わ
れるということを意味します。
 これに対して電極の陰極界面では、逆に電子が注入されるのです。このように、陽極
からはホール、陰極からは電子が注入されそれらが有機分子から成る発光エリアでドッ
キングして再結合し発光することになります。
 有機ELは、有機物の蛍光体を陽極と陰極という2つの電極に挟み込んだかたちをし
ていますが、その中は、次のように5層になっているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           ●背面電極(陰極)
            1.電子注入層
            2.電子輸送層
            3.発光層 ← ここが光る
            4.ホール輸送層
            5.ホール注入層
           ●透明電極(陽極)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ディスプレイの表面であるガラス基板は、陽極の外側にあるのです。したがって、陽
極は、ITO電極といって、発光層に映った映像が見えるように透明になっています。
発光のメカニズムについては、明日のEJ1096号で説明します。
                          ・・・ [有機EL/06]  

~.jpg

2007年02月27日

有機ELの光る原理に迫る(EJ第1096号)

 EJ1095号で示した有機ELの構造を再現しておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         ●背面電極(陰極)
         1.電子注入層
         2.電子輸送層
         3.発光層 ← ここが光る
         4.ホール輸送層
         5.ホール注入層
        ●透明電極(陽極)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 光る原理を簡単にいうと、陽極から「ホール」(+)、陰極から「電子」(−)が注入
され、発光層において「ホール」と「電子」が「再結合」することによって「励起状
態」になり、元に戻ろうとするエネルギーが働いて発光する――こういう原理です。
 この「励起」という現象は、学校でいうと、中学校の理科で教えることになっている
のです。EJ1094号で蛍光灯の原理を説明しましたが、これはインターネット上で
見つけた中学校理科の学習指導要領を参照したものなのです。
 しかし、励起の話に深入りすると、話がかなり難しくなるのでこの程度でやめること
にしますが、有機分子の次の2つの状態をあらわすことばについては覚えておいてくだ
さい。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        有機分子の電子状態安 定 ・・・ 基底状態
        有機分子の電子状態不安定 ・・・ 励起状態
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ところで、発光層を二つの層で取り囲む5層のかたちになっているのはなぜでしょう
か。
 有機ELは、発光層には有機物質を使っていますが、発光層以外の、たとえば電極な
どには、アルミなどの無機材料が使われています。有機物の層と無機物の層の接合面は
具合がよくないというか、相性がよくないのです。たとえば、人肌と岩石を強引に接合
させようとするに等しいのです。
 有機ELのプラスの電極――陽極は、ITOと呼ばれる透明な電極を使っています。
ITOというのは次の意味です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             ITO=Indium Tin Oxside
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ITOは、インジウムとスズの酸化物であり、液晶などでも使われています。ITO
は有機材料とは相性が良くないので、「ホール輸送層」との間にバッファとして「ホー
ル注入層」を入れています。そもそも「発光層」に「ホール輸送層」を加えて、2層化
するというアイデアは、コダックのタン氏が考えたものなのです。5層構造は、これを
基にして「発光層」と一体であった「電子輸送層」を独立させて誕生しています。
 これに対して陰極側は不透明であり、アルミなどの金属が使われています。これも当
然のことながら、有機材料とは相性がよくないので、やはりバッファとして「電子輸送
層」との間に「電子注入層」を入れています。
 こうすることによって、電子やホールの注入効率が向上し、それが素子の発光効率の
向上につながっていくのです。しかし、すべての有機ELが、このような5層型である
ということではないのです。実際には、材料に何を使うかによって、単層型もあれば3
層型、4層型もありうるのです。
 EJ1093号で、有機材料には、低分子系の材料と高分子系の材料の2つがあるこ
とを説明しましたが、高分子系の材料を使うときは層が少なく、低分子系の材料のとき
は、多層型になると考えてよいのです。
 ここでもうひとつややこしい話をしなければならないのです。それは、有機ELでい
う「発光」には、次の2種類があるということです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1.蛍光(けいこう)fluorescence
        2.燐光(りんこう)phosphorescence
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 蛍光は、人間の目に見える可視光線です。蛍光灯しかり、蛍光ペンしかりです。しか
し、燐光は、極低温では観測されても常温では観測されることはほとんどないのです。
 さて、有機分子からは蛍光と燐光という2つの光が出てくるのですが、その割合は次
のようになっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             「蛍光」:「燐光」=1:3
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このように燐光の方が圧倒的に多いのです。人間の目に見える光が出る割合は全体の
25%なのです。すなわち、1つの電子とホールのペアから、0.25のフォトン(光
子)しか出てこないのです。これでは、あまりにも効率が低過ぎるといえます。
 電子から光子への変換効率が25%――かつてこれは有機ELの限界と考えられてい
たのです。しかし、それは、蛍光しか発しない有機材料を使う場合のケースです。
 もし、燐光を発する有機物質を使い、それに何らかの工夫を加えることによって、常
温で燐光を出すようにできれば、光への変換効率の革命を起こすことになります。
                           ・・・[有機EL/07]

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2007年02月28日

パッシブ型とアクティブ型はSTNとTFT(EJ第1097号)

 RGBというものをご存知でしょうか。RGBというのは、光の3原色といわれてい
ます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            R=赤 ・・・・・ Red
            G=緑 ・・・・・ Green
            B=青 ・・・・・ Blue
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 RGBのそれぞれの色の配分、組合せであらゆる色が紡ぎ出されます。そして、3原
色をすべて混合すると「白」になります。これに関連して「絵の具の3原色」というの
がありますので、これも覚えておきましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            藍 ・・・・・・・ シアン
            赤 ・・・・・・・ マゼンタ
            黄 ・・・・・・・ イエロー
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 有機ELでフルカラーを出す場合、RGBの素子を横置きして近接させます。RGB
それぞれを「サブピクセル」3つをまとめて「1ビクセル」と呼んでいます。この「1
ビクセル」のことを「1画素」というのです。
 この方法は「並置法」といわれるのですが、人間の目には3つのサブピクセルの光り
具合によって、1画素が黄色に見えたり、紫に見えたりするのです。
 そのピクセルを光らせる方法としては、次の2つの方式があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.パッシブ・ マトリックス方式
          2.アクティブ・マトリックス方式
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「パッシブ・マトリックス方式」というのは、陽極/陰極の2つの電極が、縦・横に
交差していて、その交点を選択して光らせることによって、文字や絵を表現する方式で
す。構造的には簡単であるため、製造装置は低コストで済みます。
 これに対して「アクティブ・マトリックス方式」というのは、1つひとつの発光素子
に対してトランジスタ(TFT)が2個〜3個付いていて、スイッチング素子として機
能しているという構造になっています。
 TFTということばが出てきましたが、パッシブ型とアクティブ型の差は、液晶にお
ける次の分類に対応します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.STN液晶 ・・・ パッシブ・ マトリックス
       2.TFT液晶 ・・・ アクティブ・マトリックス
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 現在、ノートPCのほとんどには、TFT液晶が使われていることはご存知と思いま
す。液晶について詳しい人は、TFT液晶は明るい液晶でハイレベル、STN液晶は暗
い液晶でローレベルということも知っていると思います。
 しかし、この区分けは、有機ELのパッシプ型とアクティブ型には、そのままは当て
はまらないのです。有機ELの場合は、パッシブ型であっても、液晶のTFTを凌駕す
る場合が少なくないからです。バックライトがないと光らない液晶と自らが光る有機E
Lの差が厳然とそこにあるからです。
 有機ELのパッシブ型とアクティブ型の大きな差は、消費電力の差です。パッシブ型
の消費電力は大きくなってしまうのです。パッシブ型の利点は、構造が単純であって、
その分パネルの製造コストが低くて済むことですが、消費電力には問題があります。
 どうして消費電力が大きくなるのかについて説明します。いまディスプレイの輝度と
して、100カンデラの明るさが必要であるとします。480ラインあるとすると、瞬
間に必要な輝度は、次の通りとなります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        100カンデラ×480ライン=48000カンデラ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 つまり、一瞬だけ光っても、4万8000カンデラが必要なのです。人間の目はそれ
が平均化されるので、面全体として感ずるのは、あくまで100カンデラなのですが、
そうするために、相当高電圧が必要になってしまうのです。それに、このように高電圧
が必要であるため画素の寿命にも影響が出てくるのです。
 これに対して、アクティブ型は、1つひとつの発光素子が独立しており、ONのとこ
ろはつねにON――したがって、100カンデラの輝度が必要な場合は、面全体でも1
00カンデラで済んでしまうのです。このように低消費電力で済むので、画素の寿命も
長くなるのです。
 このように考えていくと、有機ELの世界でもアクティブ型、すなわちTFT型の方
が高級品ということになりそうです。しかし、有機ELの場合、パッシブ型よりもアク
ティブ型の方が安くなる可能性もあるのです。
 パッシブ型とアクティブ型では、ディスプレイの構造に大きな違いがあります。とい
うのは、パッシブ型の場合、ディスプレイを駆動するために「ドライバIC」というI
Cを外付けにしなければならないのです。このICのコストが現在は非常に高く、ディ
スプレイのモジュール全体の半分以上を占めているのです。
 これに対して、アクティブ型の場合、1つひとつの発光素子にTFTを2個くらい組
み込んでいかなければならず、そのためにコストがかかるのですが、あるアイデアを採
用することによってコストダウンが可能なのです。
 それは、低温ポリシリコンを使うことによって、すべてを基板上につくり込んでしま
えるのです。その中にドライバICを入れることができるのです。そのため、かえって
コストが安くなってしまうのです。現状では、低温ポリシリコン基板のコストが高いの
ですが、これは量産化によって価格ダウンが可能なのです。・・・ [有機EL/08]

2007年03月01日

有機ELには国家プロジェクトがある(EJ第1098号)

 有機ELについて、かなりテクニカルな話が続いていますのでアタマが痛くなった人
も多いと思います。しかし、このくらい詳しく、ひとつの次世代技術について知ってお
くと、いろいろな面に役立つことが多いと思います。新聞記事を読んだ程度では、単な
る情報に過ぎず、応用は効かないものです。
 さて、有機ELは日本が独走状態であると述べましたが、具体的には、どうなのでし
ょうか。果たして、有機ELは、不況にあえぐ日本経済の救世主となり得るのでしょうか。
 有機ELの一番の狙い目は、ケータイ市場であると思います。この分野ではパイオニ
アが、まず、最初に参入しています。1999年のことです。しかし、これはエリアカ
ラーであり、国内向けではなく、モトローラの携帯電話向けに出荷されたのです。
 最近こういう技術革新のトップを突っ走っている企業は、つねにパイオニアなのです
。記録型DVDしかり、有機ELしかりとまさに社名のごとく、つねに先陣を切ってい
ます。
 2002年になると、韓国や台湾で、エリアカラーの携帯電話のディスプレイが発売
されています。東北パイオニア製のエリアカラーディスプレイなどは月産70万ユニッ
トも生産されているのですが、国内には販売されていません。日本のユーザには、フル
カラーでないと売れないという思い込みがあり、国内では販売していないのです。国内
はもっぱら液晶の全盛です。
 それでは、フルカラー有機ELの国内販売はいつになるのかというと、2003年か
ら数社で参入といわれています。もし、有機ELディスプレイが登場すると、液晶との
違いは歴然としており、急速に有機ELにシフトしていくはずです。
 有機ELにとって追い風になるのは、最近少しずつはやり始めているケータイの「動
画配信」です。そのため、あれだけ不振を極めている次世代携帯電話FOMAが、価格
が下がったこともあって、少しずつ売れ出しているのです。これなどは、動画配信が後
押しをしているといえます。
現在、液晶は輝度を上げてきれいに見せていますが、動画になると、液晶は決定的に
不利な立場に立たされてしまいます。というのは、液晶は素子移動が遅いため、動画に
は向かないのです。
 有機ELは、液晶の1000倍の速度で素子が移動するので、動画に向いており、液
晶の敵ではないのです。それに、カラーの美しさがありますから、ケータイ市場に有機
ELが参入すると、大きなシェアを獲得する可能性は大なのです。
 有機ELのテレビ化の状況はどうでしょうか。
 テレビ市場へのアプローチの方法は、60インチクラスの大型と、5インチ〜10イ
ンチクラスの小型の両端から、一番需要が見込める中型サイズに迫っていくという方針
のようです。
 メーカとしては、ソニー、三洋電機などが力を入れています。中でもソニーは「次世
代有機ELテレビはソニーが先陣を切る」という意気込みで取り組んでおり、2003
年1月には24インチ有機ELテレビを試作して発表しています。
 有機ELテレビのサイズの大小と、駆動方式との関係をまとめておきます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      大型〜特大型(40〜100インチ) ・・  パッシブ型
      中型〜 大型(15〜 40インチ) ・・ アクティブ型
      小型〜 中型( 5〜 15インチ) ・・ アクティブ型
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 興味深いのは、最大100インチクラスの特大テレビにパッシブ型が採用される可能
性が高いということです。60インチ以上のテレビとなると、有機ELの競合相手は、
もはや液晶ではなくPDP(プラズマ・ディスプレイ)なのです。
 軍配はどちらに上がるかというと、もちろん有機ELであるといえます。なぜなら、
有機ELは、プラズマと比べると、発光素子の効率が10倍以上も勝っていることと、
消費電力においても驚異的に小さくすることができるからです。それに、薄さ、軽さ画
質――何をとってもプラズマを凌いでいます。
 しかし、有機ELで、本当に60インチ以上が可能であるかどうか――これには、新
しく真空蒸着の装置を開発する必要があり大きなヤマが立ちはだかっているのです。
 ところが、この実現のために、2002年から、国家プロジェクトが立ち上がってい
るのをご存知でしょうか。
 日本の有機EL関係の「産・官・学」が結集し、それに加えて産業分野では、材料メ
ーカ、パネルメーカ、印刷会社など、日本を代表する有機EL12社が勢ぞろいして、
この国家プロジェクトに取り組んでいるのです。プロジェクト・リーダーには、山形大
学工学部教授/城戸淳二氏がなっています。
 この国家プロジェクトの目的は次の2つに絞られています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.60インチ有機ELディスプレイ/テレビを作る
       2.フレキシブルな「シート・ディスプレイ」を作る
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この2つの目的を5年以内(2002年〜2006年)に達成するというのです。最
近、この分野には、韓国、台湾が激しい攻勢をかけてきており、各社バラバラでやって
いると、いかに優れた技術を持っていても、負けてしまうのです。
 従来の国家プロジェクトは、国は資金のバラマキをやるだけで何も守ってくれないの
です。したがって、自国の中も、海外も敵ばかりという有様で、結局負けてしまうのです。
 しかし、今回は、有機ELの要(かなめ)になる材料メーカ、パネルメーカ、印刷会
社の3者が一体になっており、これがある限り、海外の敵に勝てるはずです。
 それに、このようなプロジェクトでは、どうしても最終商品のパネルに目が行ってし
まいますが、有機ELは材料しだいで勝負が決まるのです。その点、材料メーカとパネ
ルメーカが一体化しているので、大いに期待が持てます。・・・ [有機EL/09]

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2007年03月02日

国家プロジェクトでも負ける恐れがある(EJ第1099号)

 有機ELの技術面は、1987年のタン氏の論文以来15年、日本が完全に世界をリ
ードしており、他国の追随を許さない――それに加えて、有機ELの権威、山形大学工
学部、城戸淳二教授率いる国家プロジェクトが進行中とくれば、有機ELは日本のもの
と誰でも考えます。
 しかし、城戸教授によると、それでも日本は、よほどうまくやらないと有機ELを自
分のものにし、それをテコにして経済を活性化できないというのです。すべては、企業
の経営者と国の力の入れ方にかかっているのです。
 とくに、警戒すべきは、サムスンSDIを筆頭とする韓国企業です。韓国企業の経営
者は、始動は遅いのですが、いったんこれで行くと決めると徹底して突き進むというス
タイルをもっているといいます。要するに、本物の経営者なのです。
 これに対して、日本の電機メーカの経営者たちは、自社の信念に基づいて何かをやる
というよりも、他社のやることを見ていてどこかの企業がある分野を開拓すると、それ
にならって一斉にその分野に入っていく傾向があるのです。他社のやることをやってお
かないと、あとになって「なぜ、やらなかったのか」と問われて責任を追及されるのを
嫌うからです。
 そういう電機メーカの中にあって、特異な存在がシャープとパイオニアなのです。シ
ャープは早くから液晶に着眼し、企業の存亡を賭けて、とことんそれに特化していった
のです。そして「液晶ならシャープ」といわれる存在になっています。
 パイオニアは、もともと音響メーカであったのですが、オーディオ分野での成長に限
界があることを見極めると、記録型のDVDレコーダやPDP(プラズマ・ディスプレ
イ)と有機ELディスプレイに絞って、どんどん開発を進めたのです。
 だからこそ、パイオニアは世界初の記録型のDVDレコーダの商品化や世界初の有機
ELの商品化を成功させています。パイオニアが商品化したのは車載用FMレシーバー
ディスプレイです。前にも述べたように、パイオニアという企業は、その社名のように
真のパイオニアといえます。
 城戸教授は、この2社は例外として、他の電機メーカのトップは、機を見るに敏にし
て、決断能力を持つというトップに求められる資質に欠けるところがあり、「自社は何
をするのか、しないのか」という決断も甘いものがあると、なかなか厳しい評価をして
います。他社と同じことをやっていれば、パイがあってもお互いにそれを食い合って自
滅してしまうだけです。
 城戸教授がここまで厳しいことをいうのは、韓国のサムスンSDIのやり口を知って
いるからです。サムスンは、1998年に城戸研究室に研究生を送り込んできているの
です。その頃は、サムスン本体でも有機EL研究者は10人程度のものであったのです
が、現在ではこの分野だけで400人以上いるといいます。
 また、サムスンSDIは、釜山にNECと合弁会社を作り、NECが過去10年以上
にわたって蓄えてきた有機ELのノウハウや半導体技術などのノウハウを吸収してしま
っています。そして先端技術も日本の特許もすべて買い取り、それに加えてパイオニア
やエプソンなどの有機ELのエンジニアたちをゴッソリ引き抜いているのです。やるこ
とが徹底しているのです。
 何しろサムスンSDIは、有機ELのエンジニアを400人以上抱え込み、数千億円
という巨大な資金を投下できる余裕があるのです。サムスンSDIのトップは、ヒト、
モノ、カネ、情報のすべてを賭けて、一気に日本を追い越そうとしているのです。
 実際問題として、高い技術力を持ちながら、日本は、鉄鋼、電気、半導体、液晶――
ことごとく日本は敗退しているのです。これは、企業の力だけでなく、国の政策に問題
があるといえます。このままでいけば、有機ELも同じ運命をたどる可能性は高いとい
城戸教授はいっているのです。
 現時点で有機材料やパネルがきちんと作れるのは、日本のメーカだけであり、特許も
日本が多く持っています。パネルの量産技術に関しても、東北パイオニアの米沢工場で
の歩留まりは、実に95%以上です。少なくとも他国を圧倒しているのです。
 それでは、どうして負けるのでしょうか。有機材料についてもパネルにしても量産と
なると、それらを生産する装置を作るのですが、その装置を外国企業は買うからです。
日本の装置メーカはきわめて優秀であり、その装置を購入して使いこなすと、誰でも日
本と同じ製品ができるようになります。そうなった時点で、日本と海外の製造技術の差
はなくなってしまうのです。それに加えて、高給で日本人技術者の引抜きをやるのです
から、生産技術差はほとんどなくなるといってもよいと思います。
 そうなってしまうと、韓国などのように労働賃金が低い国との競合には日本は不利に
なります。それに、そういうプロジェクトに関する国の援助も不十分そのものです。韓
国や台湾には税的な優遇措置がありますが、日本にはないのです。実効税率も先進国で
最高の税率を課せられています。米国がやっているように「日本のディスプレイ産業を
どうするか」という視点で政策を考える必要があるのですが、経済産業省などはわかっ
ていないのです。
 それに、この分野でも「ツウ・リトル、ツウ・レイト」なのです。城戸教授は、現在
の国家プロジェクトを早くやるよう要請してきたのに、2002年という遅い時点では
はじめ、しかも、予算はたかだか年間10億円なのです。
 サムスンなどは、1社で利益が4000億円〜5000億円もあり、いくらでも研究
開発費に投入できるのです。これでは、日本の企業は勝てるはずがないでしょう。
 首相は日本の有機ELの現状を知っているのでしょうか。有機ELについて何かの政
策を考えるには、ここまでEJが述べてきたくらいの知識は必要でしょう。しかし、役
人のレクチャーは15分が限度という人ですから、とても無理でしょう。
 ところで、有機ELの特許はどうなっているのでしょうか。なぜ日本は優位に立てな
いのでしょうか。この問題については、明日のEJで述べます。
・・・ [有機EL/10] 

2007年03月05日

特許は多くても勝負はそれで決まらない(EJ第1100号)

 有機ELに関する特許については日本が圧倒的――ここまではそう書いてきましたが、実際に有機ELに関する新規特許の数で調べてみましょう。添付ファイルを見てください。
 これを見ると、1991年〜1996年までは日本、1997年から2000年まで
は米国、そして2001年は圧倒的な差で日本がトップを切っています。
 これは有機EL全体の新規特許数ですが、有機材料に関してもパネルの構造に関して
も、素子の構造についても、日本は圧倒的な特許数を誇っているのです。それでいて、
どうして韓国に勝てないのでしょうか。
 それはさておき、有機EL製品を作るさい、避けて通れない次の2つの重要な特許が
あるといわれています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1.コダック社の重要特許 ・・・ 低分子系
        2.CDT社 の重要特許 ・・・ 高分子系
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 コダック社の特許とは、あのタン氏の特許のことです。しかし城戸教授は、コダック
社の特許は重要な特許ではあるけれども、避けて通れない特許ではないというのです。
特許の世界では特許を次のように2つに分けており、コダック社の特許は「重要特許」
に過ぎないといっているのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        1.避けて通れない特許 ・・・ 基本特許
        2.避ければ通れる特許 ・・・ 重要特許
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 電極で有機物をサンドイッチのように挟んで光らせる――これは1960年からずっ
と存在していた技術であり、それ自体は特許ではないのです。それでは、コダック社の
特許に抵触しないようにするには、どうすればいいのでしょうか。
 まずコダック社の特許は、材料に低分子系を使っている特許であるということです。
EJ1093号で述べたように、有機材料には、「低分子系の材料」と「高分子系の材
料」があるのですが、コダック社の特許は前者を採用しています。
 低分子系の材料を使い次の2つのことを可能にしているのがコダック社の特許です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          1.超薄漠を可能にしたこと
          2.発光層二層化の多層構造
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 したがって、低分子系の材料を使わないか、低分子系の材料を使っても、上記の2つ
のことに触れなければいいのです。低分子系の材料を使い、単層でやれば、コダック社
の特許には触れないのです。これは、日本の技術で十分可能です。それに、コダック社
の特許は2003年に切れるということです。
 低分子系の材料を使わず、高分子系材料/ポリマーを使えば、コダック特許は関係が
なくなります。しかし、今度は、CDT社の特許がからんできます。
 実は、高分子系の材料を使い、有機ELの発光に世界ではじめて成功したのは、ケン
ブリッジ大学なのです。もう少し正確にいうと、高分子の中でも「π(パイ)共役高分
子」という特殊な材料を使い、有機EL素子を作製したのは、ケンブリッジ大学のフレ
ンド教授の率いるグループであり、のちにスピンアウトして、CDT社を設立していま
す。しかし、CDT社の特許は、高分子系材料といっても、非常に特殊な材料を使った
特許であり、別な材料を使えば一切抵触しないのです。これも日本の技術にとって何も
脅威ではないと城戸教授はいっています。
 このように特許には多くの抜け穴があるのですが、それは有機ELの世界を一つや二
つの特許では押さえられないということを意味しています。したがって、日本の特許も
いくら数が多いといっても、それだけで、有機ELの世界を完全に押さえられるもので
はないのです。
 しかし、はっきりしているのは、日本の有機ELの技術が台湾や韓国の比ではないと
いうことです。これは、液晶にしても同じことがいえるのですが、液晶の技術は韓国に
すぐ真似され、明らかに日本の技術が流れています。つまり、おいしいところは韓国に
吸い取られてしまっているのです。そういうことから、有機ELも同じ運命をたどると
見られています。
 それは、「クロスライセンス」が原因と見られています。日本の電機メーカは、いろ
いろな商売を海外企業と提携してやっており、結局特許はバーターになってしまうので
す。また、韓国企業については、明らかに特許侵害のケースもあるということですが、
それでもいろいろなしがらみがあって、訴えることはできないというのです。
 しかし、日本には、有機ELの国家プロジェクトのリーダーを務める城戸淳二教授が
います。城戸教授は、1984年に早稲田大学理工学部応用化学科を卒業して、すぐニ
ューヨーク・ポリテクニック大大学院に留学し、そこではじめて有機ELに関わりを持
ったそうです。
 そのニューヨーク時代に、留学先の後輩で台湾出身の杏林さんと結婚しているのです
が、この杏林さんは高分子化学の博士で城戸教授の重要なパートナーを務めています。
帰国後は、山形大学の工学部の一助手からスタートし、2002年11月に同大学の教
授となっています。まだ、若い有能な学者です。
 城戸教授は、企業、とくに中小企業と積極的に付き合っており足が地についた研究を
精力的に行っています。そして、山形県と掛け合って、「有機エレクトロニクスバレー
構想」を県の事業として認めさせるという快挙を成し遂げています。
 とにかく城戸教授の存在は、日本の有機ELにとって心強い限り――政府もこれに対
し全面的に支援を行うべきです。           ・・・ [有機EL/11]

有機EL

2007年03月06日

青色の発見からスタートした有機EL(EJ第1101号)

 有機ELの話は、今日と明日で終りです。今朝は、有機EL制作の課題について考え
ます。
 有機ELの品質は、その材料がすべてを握っているといっても過言ではないですが、
具体的にはどのような材料を使うのでしょうか。そして、そのような有機材料は日本に
あるのでしょうか。
 材料がなくなる心配はありません。なぜなら、有機ELの材料のほとんどは石油から
作られるからです。石油からプラスチックが作られるように、石油を原料として石油化
学製品(有機物)はいくらでも合成することが可能なのです。
 初期の頃の有機ELの材料は、「アントラセン」という有機化合物が使われたのです。このアントラセン――青色に発光するのですが、実はこの「青色に光る」ということは
重要な意味を持っているのです。というのは、青色さえ出せれば、他の色はすべてその
青色から引き出すことができるからです。
 青色は、可視光線の中で一番波長が短く、それ以外の色はすべて青色よりも長波長に
なります。この長波長の色は、それよりも短波長の色から取り出せるのです。そういう
意味で、青色は特殊な色であるといえます。
 思えば、有機ELは、アントラセンが発見され、一番短波長の青色からはじまった意
義は大きいのです。もし、これが長波長の赤色からはじまっていたら、有機ELがこれ
ほど急速に実用化されることはなかったと思うからです。
 その赤色の発見からはじまった例として、レーザーの基になるLEDがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        LED=Light Emitting Diode/発光ダイオード
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 LEDについては、赤色が最初に発見され、橙色、黄色、緑色までは出すことができ
たのですが、高輝度で鮮やかな青色の光を放つLEDを作り出すことができなかったの
です。それをカルフォルニア大学の中村修二教授が開発に成功して、青色、藍色、紫色
が出せるようになったのです。しかし、それまでのLEDの発達は苦難の道乗りであっ
たといえます。赤色が最初に発見されるのと青色が発見されるのとでは天と地ほど違う
のです。
 ところで、もともと有機物というのは、電気の絶縁体に使われてきたのです。プラス
チックや電気のコードなどがそうです。その有機物に電気を通して光らせるというのが
有機ELなのですがこれを今から25年も前にやって成功させたのが、あのノーベル賞
の白川英樹博士です。このように考えてみると、この分野の研究で日本が強いことはわ
かると思います。
 有機材料についてはこのくらいにして、有機ELの最大の課題といわれる長寿化の問
題について考えてみます。
 1987年にコダックのタン氏が実験に成功したときの有機ELは、わずか数分しか
光らすことができませんでした。そのためコダック社は当初歯牙にもかけなかったので
す。しかし、その後、日本の学者の研究によって、寿命は10時間から100時間にな
り2003年1月の時点で、ある特定の材料では10万時間を超えるところにきていま
す。しかし、一番よく使われる材料では、せいぜい数万時間であり、この程度の寿命で
は商品化は難しいのです。
 寿命を延長させる方法としては、有機ELが劣化するメカニズムをひとつひとつ解明
し、それを潰していくというやり方があります。有機ELの劣化の主要な原因には次の
2つがあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             1.発光効率が低下する
             2.ダークスポット増加
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 最初に「寿命」の定義をしておく必要があります。簡単にいうと、「明るさが半分に
なるまでの時間」ということになっているのです。1平方センチ当り5ミリアンペアの
電流密度で、5ミリ角の素子が100カンデラで光っているとすると、それが半分の5
0カンデラになるまでの時間が寿命ということになるのです。
 劣化の原因の第1は「発光効率が低下する」ことですが、これには、有機ELが光る
システムそのものに原因があるのです。というのは、有機ELの光る基本的なメカニズ
ムである次の2つの反応に原因があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       1.還元反応 ・・・ 有機物に電子を与える
       2.酸化反応 ・・・ 有機物から電子をとる
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 有機ELはその構造上、電子を与えたり、引き抜いたりを繰り返えさざるを得ないの
ですが、そのプロセスにおいて化合物が何らかの副反応を起こして構造が変わってしま
うのです。構造が変化すると、光らない「消光サイト」が増えて、光る部分が少なくな
っていくのです。そのため、消光サイトが増えるにしたがって有機ELの発光効率が落
ちてしまうのです。
 副反応が起きる原因は、不純物が混じることにあるとされています。有機物の純度は
無機半導体の材料レベルには達しておらず、さまざまな方法によって徹底的な純度アッ
プを図るしかないのです。有機材料の純度決定法を確立する研究が進行中です。
 「ダークスポット」は、発光面の中にできる非発光点がボツボツと増えていく現象です。原因は電極材料と湿気(水)とが反応することです。対策としては湿気を完全に遮断す
るしかないわけですが、これについては既に解決されているといいます。
 現在の有機ELの寿命は、先ほど述べたように数万時間〜10万時間――1年が約8
000時間ですから、もし、10万時間であれば、10年以上は持つということになり
ますが、現在の家電レベルでは不十分であり、これをもう一桁増やすことを目標に研究
が続けられているということです。城戸教授によると、いずれも解決できる問題である
といっています。                  ・・・ [有機EL/12]

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2007年03月07日

国と地方と企業がひとつの目標を目指す(EJ第1102号)

 日本が有機ELをテコにして復活する――このことを実現するには、基本的な条件と
して、国内に量産工場を持つ必要があります。そして、その工場で日本人が、日本の装
置を使って、日本の材料を使って有機ELを生産し、その結果、生まれた製品が良く売
れる――こういう状況が整うことが必要なのです。
 しかし、現在の状況を考えると、こういう状況が整うことは、夢のまた夢なのです。
企業は量産工場を労働賃金が安いところに作ろうとします。城戸先生のいる山形県など
は、国内では賃金が安いのですが、現在では、中国、タイ、ベトナム、フィリピンの方
がもっと安く上がるのです。そのため、国内の企業は東北地方に工場を建設するという
意識は低いのです。しかし、それでは液晶でたどった道と同じ道を有機ELもたどるこ
とになるのです。それでは、どうしたらいいのでしょうか。
 それは、国と地方(県)と企業が1つの目標に向って進むことしかないのです。とり
わけ国の責任は大きいのです。国は本当に分かっているのでしょうか。
 国は、道路建設などで土建業には多くの支援をしますが、製造業の支援には力を入れ
ていません。どうしてなのでしょうか。ものづくりは日本が世界に誇るべき伝統である
はずです。現時点で日本は、有機ELにおいて世界一の技術が結集した状態にあるので
す。有機ELを本当の意味で日本のものにする絶好の機会が、いま訪れているのです。
その事実を政府は、経産省は、きちんと認識しているのでしょうか。
 かつて半導体事業を「産業のコメ」として育てたように、有機ELについても、国が
リーダーシップを持って、「次世代の産業のコメ」として育て上げるべきです。それが、きちんとした目標のない、資金のバラマキをしているので、有機EL国家プロジェクト
に回せる予算が年間でたったの10億円なのです。話にならないのです。だから、日本
には戦略がないといわれるのです。
 地方(県)も有機EL産業誘致に一工夫すべきです。かつて青森県は、液晶産業を誘
致しようとして、面白いアイデアを提案しています。
 青森県は、陸奥湾に面した地域を工業用地として提供し、そこに青森県の負担で工場
を建設することを提案したのです。そして返済はリース形式でやるので、企業は銀行か
らお金を借りる必要はないのです。しかし、青森県は結局三重県に破れてしまいました
が、このアイデアは有機ELにも適用できるのです。
 城戸教授は、この青森方式を山形県で採用するよう県に要請しています。彼の構想は
こうです。山形県が用地を提供し、そこに有機ELの総合研究所を作ります。最近は不
景気で研究所を閉鎖する企業も増えているので、県として研究所を作ることは意義のあ
ることです。
 それに加えて県は貸し工場を建設し、それを進出企業に安く提供する。さらに、進出
企業に関しては5年間免税とし、必要な装置や機材についても県が負担して導入し、あ
とからリース形式で返してもらう――こういう方式が考えられるのです。
 山形県には、東北パイオニアの米沢工場があって有機ELを生産しています。既に述
べたように、この東北パイオニアは、有機ELの関連企業の中で群を抜いている優秀な
企業です。何しろこの工場では、パネルの量産技術において、その歩留まりは95%以
上という優秀さなのです。
 その東北パイオニアの米沢工場の道路一つ隔てた向かい側に旭硝子ファインテクノ
のITO基板の工場があり、そして有機ELのメッカともいうべき城戸教授のいる山形
大学があるのです。
 このように、山形県には、基板工場はある、量産工場はある、基盤研究をする大学が
あるのです。そこに最先端研究所ができて貸し工場があれば、確実に有機EL関連企業
が集まるに違いない――これが城戸教授の主唱する「山形有機エレクトロニクスプロェ
クト」なのです。
 この「山形有機エレクトロニクスプロジェクト」では、ディスプレイの他に、新会社
を設立して有機ELの白色パネル(照明)を量産する計画もあるとのことです。有機E
Lの白色パネルが量産されて低コストで市場に出てくると、非常に明るいので、確実に
蛍光灯を駆逐していくはずです。「線」の照明から「面」の照明に変わっていくわけです。
 そして、こういう白色パネルを中小企業が作れるような環境を整えることが第2段階
です。つまり、新会社によって白色パネルを部品として安く出荷できるようにするわけ
です。これは、究極の中小企業対策になるはずです。これによって中小企業が育ってい
くことになります。
 東北パイオニアのケースを見てもわかるように、有機ELの材料やパネルがきちんと
作れるのは日本のメーカだけです。それなら少なくとも有機ELの材料メーカだけは、
世界中からの注文殺到で発展するのではないかと誰でも考えます。
 しかし、これもかなり疑問なのです。有機ELの材料メーカのトップはあの出光興産
ですが、それ以外に20社以上の国内メーカがひしめいているのです。最近の国内メー
カは、発展しそうな市場があると、われもわれもと進出して、結局どこもかしこも利益
が出なくなってしまうのです。これでは、優秀な製品を継続して作り出していくという
ことが難しくなります。
 また、これは、「他社のやらないものをやる」という日本の企業スピリットが弱くな
ってきたことを示す証拠であるということができます。だからこそ、他社が開発したも
のであっても、安易に進出を図ろうとするのです。
 有機ELについて、主として城戸教授の著書を中心にいろいろご紹介してきました。
感じたことは、やはりこういう「ものづくり」は日本人に向いているということです。
しかし、それに国策がうまくフィットしないと、せっかくの技術が本当の意味で日本の
ものにならないのです。有機ELが、半導体や液晶の二の舞にならないよう国として、
地方として対策を講ずるべきです。           ・・・[有機EL/13]

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