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このブログは、異文化研修の教育機関(株)インテック・ジャパンの情報発信用です。(株)イー・メディアとの提携により、同社のドキュメント・レポート「Electronic Journal」をウィークデイの毎日お届けします。
「Electronic Journal」は様々な情報を400字詰原稿用紙7枚にまとめて配信する日刊メールマガジンです。

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2008年07月07日

死せる火星/死につつある地球(EJ第1522号)

 「火星には何があるのか」−−これは非常にロマンのあるテーマです。火星について
、天文学的なアプローチではなく、ちょっと違った角度からいろいろ探ってみたいと思
います。
 なお、この記事は、2005年1月31日〜3月18日までの34回にわたってメー
ルマガジンとして配信したものであることをお断りしておきます。
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 いま、火星はいろいろな意味で注目されているのです。最近米国をはじめとする世界
各国で宇宙探査がさかんですが、どうしてだかわかりますか。それは、単なる学問的探
求だけでなく、ゆっくりとであるが、確実に迫りつつある、人類にとって深刻にして切
実な問題を解決することを目指して行われているのです。
 今年は2005年、京都議定書の第1期である最初の5年間は2008年からスター
トします。京都議定書は気象変動――地球温暖化防止に向けて定められた最初の国際規
則です。京都議定書はまだ発効されていませんが、まもなく発効される見通しになって
います。既に日本をはじめEUなど125カ国・地域が批准しているのに、なぜ、ここ
まで遅れたのか、わかるでしょうか。
 京都議定書が発効するためには、批准した先進国の二酸化炭素の排出量が90年時点
の55%以上なければならず、これまで発効できなかったのです。それは、最大の温室
効果ガス排出国である米国とロシアが参加していなかったからです。
 しかし、2004年11月に、京都議定書の批准案にプーチン大統領が署名し、ロシ
アが批准したことによって、米国抜きでも二酸化炭素の排出量が61%を超えるため、
ようやく京都議定書が今月中にも発効できる見通しとなったわけです。
 それにしても米国のブッシュ政権は、京都議定書を拒否する姿勢を示し、2001年
に離脱しています。しかしながら、その一方において米国は、世界環境研究の分野では
トップレベルにある――米国という国はそういう国なのです。
 その米国の火星科学の研究者が書いた次の本があります。
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       ブランデンバーグ&バクソン著/藤倉良訳 講談社刊
       「沈黙の惑星――火星の死と地球の明日」
        ―― DEAD MARS.DYNING EARTH ――
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 原題が凄い――戦慄的です。そのまま訳せば「死んだ火星、死につつある地球」とな
ります。地球は死につつある――われわれはいま「地球号タイタニック」に乗っている
ようなものだと著者はいっているのです。それは地球温暖化が深くかかわっているので
しょうか。
 環境問題の中でも気象変動は目に見えないだけにわかりにくいのです。100年後に
気温が5度〜6度上がるといわれたって、そんな先のことは誰もピンとこないはずです
。それだけに恐ろしいといえるのです。
 著者は、海洋に長い間にわたって蓄積された二酸化炭素が何かのはずみで突然大気中
に吹き出す可能性にも言及しています。実際に、湖底の二酸化炭素が噴出して村が全滅
した例があるということから推論しています。本当にそんなことが起こるのかどうかは
わかりませんが、可能性はあるといえます。
 著者は、「温暖化の末路は火星を見ればわかる」といっています。火星はなぜ「死の
惑星」になったのか――その原因を究明することによって、地球の危機を救うヒントが
見つかるのではないかと提案しているのです。
 確かに、2004年は、明らかに気象は大きく変動していることが誰の目にも明らか
になっています。異常に暑い夏と異常に寒い冬、台風、地震、津波、竜巻、大雪などが
世界レベルで起こっているからです。何かが狂っています。
 しかし、「沈黙の惑星――火星の死と地球の明日」の著者による提案は、火星はかつ
て生物が住めるような緑の惑星であったことを前提としているのです。火星は太陽から
遠くて寒いけど、かつては大気中に二酸化炭素と水蒸気があって温暖に保たれていたと
いう前提です。本当でしょうか。果たして、火星には本当に生物がいたのでしょうか。
 2004年4月に米国のブッシュ大統領は「2020年までに月と火星の有人探査を
行う」と宣言しており、今後5年間、NASAにはその有人宇宙探査のために年間10
00億円の予算が与えられることになったのです。
 地球上に問題が山積しているこの時期に、果たして月と火星の有人探査について米国
民の理解が得られるかどうか――諮問委員会は智恵を絞ったすえにSF作家のレイ・ブ
ラッドベリに次のような質問をしています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      諮 問委員会:実用的なアメリカ国民に、有人の月と火星の探
             査を理解してもらえるだろうか。
      ブラッドベリ:新しい自由、地球上の政治と恐怖のテロから離
             れる動きを強調すれば、人々はその重要性を認
             識するでしょう。
      諮 問委員会:地球上に課題が山積しているのに、宇宙探査に
             予算を費やしていいのだろうか。
      ブラッドベリ:地球上では毎日1000億円ものお金が、戦争
             や紛争に費やされているのです。1年のうちの
             1日分を宇宙旅行に使うことにすればできるこ
             となのです。たとえばコロンブスが大航海に出
             なかったら、すべての問題は解決できたでしょ
             うか。アメリカも発見されなかったでしょう。
             あきらめたら、ダメなのです。
             ――竹内薫著、『火星地球化計画』より。実業
                             之日本社刊
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                           ・・・[火星の研究/01]


≪画像および関連情報≫
     ・地球を構成しているすべての物質は宇宙からやってきた。われ
      われの現在の安住の地としての故郷、「天」と「地」は一体で
      ある。               ――カール・セーガン

『沈黙の惑星』

2008年07月08日

火星に行くのに必要な時間を知る(EJ第1523号)

 あなたは火星のことをどのぐらいご存知ですか。
 よくご存知の方もそうでない方もおられると思いますが、これからの話を進めやすく
するため火星に関して最小限度の知識を整理しておくことにします。
 火星は地球軌道のすぐ外側をまわる惑星です。つまり、地球の隣りの惑星なのです。
そして火星は、ほぼ2年2ヶ月ごとに地球に接近してくる身近な惑星といえます。
 なぜ、2年2ヶ月なのでしょうか。それは、地球、火星それぞれの軌道を何日かけて
ひとまわりするかによって決まってくるのです。ちなみに軌道を一周するとは、太陽の
周りをまわる時間であり、これを公転周期と呼んでいます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            地球 ・・・・・ 365.26日
            火星 ・・・・・ 686.98日
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この、地球と火星の公転周期の違いが地球と火星の間の距離の変化を引き起こす原因
となるのです。
 地球と火星の公転周期について知っておくと便利なことがあります。それは「衝」(
しょう)と「合」(ごう)の2つです。
 地球と火星の軌道は、ともに楕円軌道です。しかし、楕円の度合いは違いがあり、地
球の方が真円に近いのです。しかし、このことはあとでもう少し詳しく述べるとして、
説明の便宜上、地球も火星もともに真円であると仮定します。
 太陽が中心にいて、その下の軌道を地球、さらにその下の軌道を火星が回っているの
ですが、太陽・地球・火星が一直線に並ぶときがあります。地球と火星が接近するのは
、このときです。つまり、地球から見て火星が太陽の反対側にあるときです。この位置
に火星があるときを「衝」というのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        ・・・・・・太陽・・・・・・地球・・・・・・火星
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに対して、地球・太陽・火星の一直線に並ぶときがあります。地球から見て太陽
と同じ方向にあるときです。この位置に火星があるときは「合」と呼ばれるのです。「
合」のときは、火星は地球から一番離れていることになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        地球・・・・・・太陽・・・・・・・・・・・・火星
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 「衝」のときは、地球から見て火星は太陽と反対側にあるので火星は日没とともに東
から昇り、日の出とともに西に沈むことになります。つまり、一晩中見えているわけで
、「衝」のときは観測にはきわめて都合がよいことになります。
 これに対して「合」のときは、火星は太陽と同じ方向にあるので、地球から見ると、
太陽の光に邪魔されて火星はまったく見えなくなってしまいます。しかも、「合」のと
きは、火星は地球から一番離れているときであり、観測には最も適していない時期であ
るといえます。
 ここで話を少し前に戻します。地球と火星の軌道の話です。地球と火星の軌道は真円
ではなく、楕円なのです。もっとも地球については真円に近いので、小さい図を見ると
真円に見えてしまいます。火星の軌道は地球よりもいびつですが、それほどひどくはな
いのです。(添付ファイル参照)
 地球と火星の軌道が楕円ということになると、2つの軌道の間隔には、狭いところと
広いところが生ずることになります。したがって、「衝」の起きる場所によって接近の
度合いを次のようにいうのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         軌道の間隔のせまいところの衝 ・・・ 大接近
         軌道の間隔の中度のところの衝 ・・・ 中接近
         軌道の間隔のひろいところの衝 ・・・ 小接近
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このように火星の接近にはいろいろあるのですが、記憶に新しい2003年8月27
日の大接近では、地球との距離が5575万8000キロにまで近づいたのです。
 「衝」を前提として地球と火星との距離を考えると、次のようなります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         平均距離 ・・・・・ 8000万キロ
         大接近時 ・・・・・ 5500万キロ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 人間が歩くスピードを時速5.5キロとすると、大接近時では1000万時間――1
000年以上かかる計算です。しかし、まさか歩いて行くことはあり得ないので、車を
時速200キロで走らせると30年弱で火星に到着します。これが音速のマッハ1の飛
行機だと5年――いずれも現実的ではありませんね。
 そこで、ロケットで考えてみます。ロケットが地球の重力圏を脱出するのに必要な速
度は毎秒11.2キロ――これよりも少し早い速度で宇宙に飛び出すことができれば、
火星には約6ヶ月で到着するのです。まとめておきます。
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          ≪火星に行くのにかかる時間≫
           徒 歩 ・・・・・ 1000年
           車   ・・・・・   30年
           戦闘機 ・・・・・    5年
           宇宙船 ・・・・・   6ヶ月
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これで思い出すのは、「2001年宇宙の旅」を意識して火星に向かった2001マ
ーズ・オデッセイです。2001年4月に打ち上げられ、7ヵ月後には無事に火星の周
回軌道に入っているのです。火星までの距離は約6ヶ月になっているのです。
                          ・・・[火星の研究/02]


     ≪画像および関連情報≫
     ・公転周期の違いから、約780日の周期で火星は地球に接近す
      るが、接近時の地球との距離は一定ではない。2003年8月
      27日の大接近は、ALPO(月惑星研究会)のシェフリー・
      ビーシュ博士によると、5万7000年ぶりの大接近であると
      いうことである。

火星の地球への接近

2008年07月09日

火星の地球化計画というものがある(EJ第1524号)

 昨日のEJで、地球から火星までは、現在のロケットで約6ヶ月かかることを指摘し
ました。今後ロケット技術が飛躍的に向上すれば、この時間はさらに縮まると思います
が、いずれにしても月に行くのとは比較にならないほど長期間の宇宙旅行が前提となる
ことになります。
 ブッシュ大統領は、月や火星への有人宇宙探査のために、今年から5年間にわたって
毎年1000億円の予算をNASAにつけると宣言しています。その本当の狙いは何な
のでしょうか。
 その前に火星の大きさをチェックしておく必要があります。惑星の大きさは、赤道半
径を比較します。地球と比べてみると、次のようになります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         地球の赤道半径 ・・・ 6378キロメートル
         火星の赤道半径 ・・・ 3396キロメートル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これをみるとわかるように火星は地球の半分よりも少し大きめであることがわかりま
す。体積は地球の6.5分の1ぐらい、質量は地球の10分の1しかなく、かなり小さ
な惑星であることがわかります。
 ここで注目すべきは、火星の全表面積と地球の陸地の総面積がほぼ等しいということ
です。地球の半分の大きさしかない火星の表面積が、なぜ地球の陸地の総面積に等しい
かというと、現在の火星には海がないからです。
 ということは、もし、人類が火星に移住したとすると、現在の地球上の陸地と同じだ
けの活動の場が得られることになります。このようにいうと、火星に移住するなんて荒
唐無稽――火星は人間の住める環境ではないという反論を浴びてしまいます。ところが
火星への移住計画はけっして絵空事ではなく、現在マジで研究されているのです。もち
ろん、実現は100年以上先のことになるとは思いますが・・・。
 このように、火星は地球とは大きく異なる惑星ですが、似ているところもあるのです
。そのひとつに火星の自転周期は約24時間39分であり、地球とほとんど変わりませ
んし、自転軸の傾きも約25度で地球と同じです。
 したがって、火星では地球上とほとんど同じように一昼夜を繰り返し、四季の変化も
あるのです。しかし、既に述べたように、火星の一年間(公転周期)が1.88年であ
るため、季節の移り変わりは地球の2倍近い長さになり、かなり間のびした感じの四季
の移り変わりになります。
 空気はどうなのでしょうか。
 火星の大気圏については、かなり詳しいことがわかってきています。それは、197
6年のバイキング1号と2号による探査以来のことです。
 これによると、火星の表面気圧は平均6.1ヘクトパスカルとなっています。これは
、地球の成層圏の高度35キロメートルあたりの気圧に相当するほど希薄なのです。こ
のため気温は非常に低く、赤道地帯の夏の昼間ですら、〇度Cを上回ることはまずない
という寒さです。
 火星の大気の組成は次のようになっています。いずれも体積比であり、概算です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
           二酸化炭素 ・・・・・ 95.4%
           窒素 ・・・・・・・・  2.8%
           アルゴン ・・・・・・  1.7%
           酸素 ・・・・・・・・  0.1%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 水はどうなのでしょうか。
 火星の大気中にはわずかに水分が含まれていますが、液体の水は存在せず、気体(水
蒸気)と固体(氷晶)のいずれかです。雨が降らないので、火星の表面は極度に乾燥し
ています。しかし、水は地下や極冠には氷として蓄えられているのです。
 探査機が撮影した火星の表面の写真を見ると、砂漠のようなものが連なっている部分
があります。そのことから、大気は希薄とはいえ、かなり強い風が絶えず吹いているこ
とがわかります。大規模な砂嵐もときどき起こっており、火星の大気中には微小なダス
トが含まれています。このダスト粒子のため、火星の空は地球のような青空ではなく、
淡いピンク色をしているのです。
 このような厳しい環境の火星に人類を住めるようにする計画があるといったら信じら
れますか。
 それがあるのです。「火星テラフォーミング」――火星の地球化計画といいます。人
類の火星への移住計画――これを実現するには、火星の環境を人間が住めるようにしな
ければなりません。そけがテラフォーミングです。
 テラフォーミングは次のように定義することができます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       テラフォーミングとは、地球以外の天体、すなわち火星や金
       星、月などの環境を地球のように作り変えることである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「テラ」とはラテン語で大地あるいは地球を意味し、フォーミングは英語で何かを作
り上げることを意味します。つまり、テラフォーミングとは、宇宙の地球以外の場所に
、生物が生きられる地球的な環境を産み出し、人間が住めるようにするという意味にな
ります。
 そのためには、無人の宇宙探査を何回も繰り返し、やがて有人探査を行うことが必要
になります。2020年のブッシュ大統領の宣言はこのテラフォーミングを意識しての
ものなのです。
 しかし、火星を地球化することなど、理論的にもできることなのでしょうか。そして
、なぜ、このような計画が立てられたのでしょうか。そうしなければならない事情でも
あるのでしょうか。EJでは、そういうことについて少しずつ解明していきます。
                ・・・[火星の研究/03]


     ≪画像および関連情報≫
     ・火星に関するデータ
       火星の1年 ・・・ 687日
       火星の1日 ・・・ 24時間39分35秒
       火星の風速 ・・・ 毎秒40メートルの大型台風なみ
       火星の重力 ・・・ 地球の38%
       火星の重さ ・・・ 地球の約11%と非常に軽い
       地軸の傾き ・・・ 火星/25.2度
                 地球/23.5度

2001マーズ・オデッセイ

2008年07月10日

元祖はカール・セーガンである(EJ第1525号)

 火星の地球化計画――テラフォーミングを科学者として最初に取り上げたのは、カー
ル・セーガン(1934〜1996)という科学者です。
 この科学者については、2003年にEJで「タイムマシン」のテーマを取り上げた
とき、詳しく説明しています。2003年6月30日のEJ第1138号から7月31
日のEJ第1160号までの23回です。カール・セーガンは、映画『コンタクト』の
原作者なのです。
 このカール・セーガンという科学者は、1996年に62歳の若さで亡くなっている
のですが、その半生は科学界のスーパースターとして活躍したのです。米国の人気テレ
ビ科学番組「コスモス」の案内人として登場し、その同名の著書は、空前のベストセラ
ーになったのです。
 カール・セーガンは、テレビや新聞・雑誌にたびたび登場し、彼の専門分野である天
文学、物理学、生物学などを誰にでもわかるやさしい語り口で解説したのです。
 しかし、何といってもカール・セーガンを世界的に有名にしたのは、「核の冬」とい
う理論を展開してからです。1983年のことです。これによって、セーガンは一躍、
科学界や一般社会だけではなく、国際政治の世界でも知られる存在になったのです。
 「核の冬」という理論は、第二次大戦後、膨大な数の核兵器による米ソ対決で、もし
全面核戦争になると、地球全体が寒冷化して、氷河期のような気候が生じて全人類が滅
亡するということを科学的に示した理論なのです。
 もし、何千発もの核爆発が起こると、それが巻き上げる巨大な粉塵や砂嵐が空を覆い
、地球の大気が高度数十キロまで著しく汚染されることになります。これが長期にわた
って太陽光を遮ることによって、地球の気温が急降下することを指摘したのです。
 このセーガンの「核の冬」理論は、米ソ両大国の核兵器開発競争を牽制し、それに歯
止めをかけただけではなく、地球の大気汚染というテーマをはじめて地球スケールで考
える目というか視点を世界に与えたという点において高く評価されているのです。
 このように、カール・セーガンは、その時代の社会に衝撃を与える科学的な理論や仮
説をしばしば発表して国際的に注目された科学者であり、火星へのテラフォーミングも
そのひとつであったのです。思えば、惜しい科学者を若くして亡くしたものです。
 カール・セーガンは、以前から宇宙の地球以外の天体に生命が存在する可能性を追い
続けていたのです。とくに人間のように知性を持つ生物――地球外知性体/エクストラ
テレストリアル・インテリジェンス=ETIが存在する天体が宇宙にどのくらいあるか
について研究していたのです。
 そして、セーガンは多くの科学者との議論を通じて、銀河系宇宙だけで、100万の
天体にETIが存在する可能性があることを指摘しています。テラフォーミングはその
研究の中から生まれたものと考えられます。
 テラフォーミングという言葉を最初に取り上げたのは20世紀前半に活躍したSF作
家たちなのです。彼らの取り上げた天体は金星であったり木星であったりいろいろです
。そして、1960年代になって、当時カルフォルニア大学に籍を置いていた、弱冠2
7歳のカール・セーガンがはじめて科学者としてテラフォーミングに言及したのです。
 カール・セーガンがテラフォーミングの対象として最初に着目したのは、火星ではな
く金星だったのです。なぜなら、1960年代は、米国のアポロ計画によって代表され
るように米ソが宇宙開発を競い合っていた時代であり、金星探査機も金星へ送り出され
ていたからです。
 そして、セーガンが金星を対象に考えた時期がたまたま、1962年12月に米国の
金星探査機マリナー2号がはじめて金星の側方通過――フライ・バイに成功して、金星
のことが少しわかったという時期と一致したという事情があったのです。
 金星という惑星は、ある面において地球によく似ています。まず、大きさですが、赤
道半径は次のようになっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         地球の赤道半径 ・・・ 6378キロメートル
         金星の赤道半径 ・・・ 6050キロメートル
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 質量は地球を1とすると金星は0.82、密度(比重)はともに岩石質、そして地表
重力は地球1に対して金星は0.91というようにほとんど同じです。
 しかし、他の条件は地球と大きく異なっています。金星は地球より太陽に近い軌道を
回っているため、金星に降り注ぐ太陽エネルギーは強烈であり、500度近い高温に達
するのです。
 一番問題なのは金星の大気です。金星の大気は地球よりもはるかに濃密であることは
わかっていましたが、当時は正確なデータがないため、セーガンは金星の大気密度は地
球大気の約4倍と想定したのです。
 そして、大気密度の成分の大半は水蒸気であり、その他は二酸化炭素であると仮定し
、もし、水蒸気の多い大気環境であれば、そこには生物が生きられるニッチ、つまり「
生態系のすきま」が存在すると考えたのです。
 これを前提として、金星の大気に何らかの方法で、上空からある種のバクテリア――
シアノバクテリアをばらまけば、それらが大気中で増殖し、光合成によって二酸化炭素
を固定することができると考えたのです。そして、この微生物の死骸が地上に堆積する
過程で大気中に酸素が残されて、温室効果が低下して温度も下がっていくはずである。
さらに温度が下がると低地には水がたまり、岩石の風化作用がはじまる――こう考えた
のです。
 生物学者であるセーガンらしいアイデアですが、金星の大気が地球の約4倍という想
定が大きく違っていたためセーガンは、金星のテラフォーミングをあきらめたのです。
                          ・・・[火星の研究/04]


     ≪画像および関連情報≫
     ・金星は太陽系の太陽から2番目に近い惑星である。地球型惑星
      であり、太陽系内で大きさと平均密度が最も地球に似た惑星で
      あるため、地球の姉妹惑星と表現されることがある。また、太
      陽系の惑星の中で最も真円に近い公転軌道を持っている。欧米
      ではローマ神話よりヴィーナスと呼ばれている。世界各国で金
      星の名前には女性名を当てることが多い。

金星の画像

2008年07月11日

セーガンの『長い冬モデル』理論(EJ第1526号)

 カール・セーガンは、金星の大気密度を地球大気の4倍と推定したのですが、これは
大きく事実と異なっていたのです。しかし当時の金星に関する情報からいえば仕方がな
かったといえます。
 セーガンはこう考えたのです。金星の大気の大半は水蒸気であり、その他は二酸化酸
素であると。地球から観測したときの金星が「宵の明星」と呼ばれるように明るく輝い
ているのは、全体が高温の水蒸気に包まれた蒸し風呂の状態にあって、それが太陽光を
反射して輝いて見えると考えたのです。
 しかし、実際には、金星の大気の成分の96%が二酸化炭素であり、残りのほとんど
は窒素であって、水蒸気などはごく微量しかなかったのです。どうして、これほど多量
の二酸化酸素が出たかというと、過去の火山活動によって二酸化酸素が地表に噴出しそ
れが大気中に蓄積した結果なのです。
 こうして出来上っている金星の大気密度は、セーガンが推定した地球の4倍などでは
なくて、100倍以上だったのです。そうであるとすると、金星の地表に立つ人間は、
計算上地球において深さが100メートルの海中にいるときと同じ圧力を受けることに
なるのです。
 これでは呼吸すらできないし、しかもこの濃密な大気が温室効果によって、摂氏50
0度に近い高温に達している――500度といえば、鉛が融ける温度なのです。これで
はまさしく灼熱地獄そのものであるといえます。
 これらの事実が米ソの探査機によって次々と明らかにされてくると、さすがのカール
・セーガンも、金星テラフォーミングの思考実験を中止せざるを得なかったのです。し
かし、微生物をばらまいて酸素を作り出すというセーガンのアイデアは、当然他の惑星
にも応用できるもので、注目されたのです。
 1964年11月に米国のマリナー4号が火星のフライ・バイに成功し、その後19
70年代に入って、米国の一連の火星探査機とソ連の火星探査機も加わって火星の詳し
い情報が入ってくるようになったのです。そのため、太陽系惑星に関する学者の関心は
金星から火星へと移っていったのです。
 カール・セーガンも対象を火星に切り換えて、1973年にある論文を提出します。
それは「長い冬モデル」というタイトルの火星の気象モデルに関する科学論文だったの
です。それは、火星の地表のいたるところに残っている「干上がった川床」の地形がど
のようにして生じたのかを数万年単位の時間スケールで論じたものだったのです。
 セーガンの論文によると、火星は5万年の周期で温暖期と寒冷期が繰り返されている
というのです。温暖期には、大気は現在よりも濃密で湿度が高く、寒冷期には地表のす
べてが凍りつき、二酸化酸素の大気まで凍って、北極と南極――極冠にドライアイス状
になってしまうのです。そして、現在の火星は寒冷期にあると指摘しています。
 このように火星に温暖期と寒冷期が生じるのは、太陽に対する自転軸の傾きが変化す
るためなのです。地球の地軸も自転軸が一定の方向を向いておらず、コマの回転のよう
に首振り運動をしているので、やはり、温暖期と寒冷期が生じる――火星は5万年、地
球は2万6000年の周期です。
 カール・セーガンは、火星の極冠の氷に注目したのです。この氷を何とか溶かすこと
ができないか。どうしてかというと、氷が溶けると、それは二酸化酸素になって解放さ
れ、現在よりもはるかに濃密な大気を火星に作り出せる――今まで誰もが考えたことの
ないセーガンらしいアイデアなのです。
 問題はどのようにして火星の極冠の氷を溶かすかです。これについてセーガンは実に
奇抜なアイデアを考え出しているのです。それは、何らかの方法で極冠にほかの場所か
ら採取した表土を広範にばらまくというものだったのです。
 そうすれば、極冠は黒く汚れた状態になり、太陽光を効率的に吸収できるというので
す。現在極冠の氷は太陽光のほとんどを反射させてしまっています。だから、氷は溶け
ないのです。
 極冠の氷が溶けると、既に述べたように閉じ込められていた二酸化炭素が解放されて
濃密な大気を作り出します。それに温室効果が生じて火星の温度が上昇するのです。
 このようにして、温度が上昇すると地中に永久凍土として隠れている水が溶け出して
、地上に水たまりができるようになる――そうすると、水たまりは蒸発して水蒸気を増
やし、しだいに生物が生きられる環境が作られていくというのです。
 どうでしょうか。これが「長い冬モデル」という論文の概要ですが、これなら素人に
も十分納得できるはずです。カール・セーガンという人はこういう誰でもわかるやさし
い語り口で、多くの人々に科学を説いたのです。
 セーガンのこの「長い冬モデル」は、明らかに火星テラフォーミングを意図したもの
です。そして、セーガンは後世においてテラフォーミングを実際に実施するかもしれな
い世代に対して、たとえば核爆発のような強引な手法で彗星の軌道をそらせて火星に衝
突させるといったような手荒な手法は極力避けて、彼が金星テラフォーミングのときに
提案した微生物をばらまくなどの穏やかな手法を用いるべきであると強調しているので
す。
 この「長い冬モデル」が発表されて数年後に、NASAはセーガン理論の誤りを2つ
指摘しています。しかし、論文の発表時点でのセーガンの指摘は正しかったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.セーガンは、極冠のドライアイスを100年で蒸発させら
        れるとしているが、NASAの計算では10万年が必要で
        あること。
      2.極冠の氷はドライアイス――凍結した二酸化酸素ではなく
        その大半は水の氷であり、ドライアイスはごく少量と判明
        したこと。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                          ・・・[火星の研究/05]


     ≪画像および関連情報≫
     ・1970年代までの火星探査の歴史
      1964.11.28/マリナー4号(米)
       史上はじめて火星表面の近接写真撮影に成功
      1971. 5.30/マリナー9号(米)
       はじめて火星を回る人工衛星になる
      1973. 7.25/マルス5号(ソ)
       火星表面の観測撮影に成功
      1975. 8.20/軟着陸探査機バイキング1号(米)
       火星のクリュセ平原に軟着陸し、生命探査

カール・セーガン博士

2008年07月14日

火星に生物の痕跡発見か !?(EJ第1527号)

 カール・セーガンの「長い冬モデル」には、いくつかの誤りはあったものの、それ以
後の火星テラフォーミングに大きな影響を与えたのです。
 その後の新しいシナリオは、火星に濃密な大気を作り出そうとするセーガン・モデル
を修正して、火星を少しばかり暖めることによって必要なガスを放出させようとする方
向に変化していったのです。
 ただ、必要な気体(大気)の生成については、セーガンの考えていた極冠からレゴリ
ス(地表を包む岩石)へと対象が変化しています。火星の岩石層は多孔質であり、そこ
に大量の二酸化炭素が含まれている可能性が高いことがわかったからです。
 そして、2004年、火星の周回軌道を飛行して地表を精査している米国の探査機マ
ーズ・オブザーバーと、火星の地表を走り回って直接探査をしているランドローバーが
凄い事実を発見したのです。水――そうです。これらの探査機は火星にはかつて膨大な
量の水が存在し、それが現在、地下の永久凍土に氷として隠されていることを確認して
います。
 この発見は、火星には極冠と地中に大量の水が存在することになり、今後の有人火星
探査、火星基地の建設、テラフォーミングを考えるさいの重要な与件となったといえま
す。そして、水があれば生物がいるのではないかという期待が大きく膨らむことになる
のです。
 しかし、まだ火星には謎が多いのです。現在、火星について一番多くの情報を保有し
ているのは米国のNASAですが、NASAは必ずしも情報をすべて出しておらず、公
表情報を加工しているフシがあります。つまり、NASAは多くの事実を隠蔽している
と思われるのです。
 そこで、テラフォーミングの問題はひとまずおいて、火星の謎についてご紹介してい
きたいと思います。それには、1996年にNASAによって行われた衝撃的なニュー
スの公表から始める必要があります。
 1996年8月7日――NASAの研究チームは次のニュースを伝えています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      米国科学財団の調査隊は、1984年に南極で採取した隕石か
      ら、原始生命の痕跡を発見。その隕石は発見場所のアランヒル
      ズにちなんで「ALH84001」と命名された。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「ALH84001」――「ALH」は発見場所のアランヒルズ、「84」は発見し
た1984年、「001」は第1号という意味です。なぜ、この発表が衝撃的かという
と、その隕石が火星から飛来した隕石――火星起源隕石だったからです。
 どうして、火星から飛来したものとわかったのでしょうか。
 それは、この隕石に含まれる微量のガス成分が、1976年に米国の探査機「ヴァイ
キング1・2号」によってもたらされた火星大気成分のデータと一致したからです。
 それでは、どうして地球に落下してきたのでしょうか。
 これについても、微量元素の同位体分析によって、その隕石は小惑星サイズの天体が
火星に衝突した衝撃で地殻が砕かれて、その破片が宇宙にばらまかれ、その一部が地球
にやってきたものと考えられます。
 これらの隕石は「SNC隕石」と呼ばれたのです。SNCとは「スニック」と発音す
るのですが、その由来はそれまでに、やはり火星から地球に落下してきたと思われる次
の3つの隕石の名前の頭文字をとったものなのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1865年 インド シャーゴッティ(Shergotty) ・・・S
      1911年 エジプト ナクラ(Nakhla) ・・・・・・・N
      1815年 フランス シャシニー(Chassigny) ・・・・C
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 SNC隕石は現時点で19個が確認されているのですが、それらの生成年代は平均し
て13億年前後であるとされています。しかし、ALH84001については、その生
成が40〜45億年前と推定され、例外的存在なのです。
 生成時期が40〜45億年というと、それはほとんど火星誕生の年代に近いのです。
これにより、火星の地殻は火星誕生の非常に早い時期に既に出来上がっていたものと考
えられます。
 ところで、NASAの発表した「原始生命の痕跡」とは何のことでしょうか。ALH
84001から、一体何が発見されたのでしょうか。
 NASAとスタンフォード大学の共同研究グループは、この隕石――ALH8400
1を薄くスライスして成分の分析を進めた結果、PAH――多環式芳香族炭化水素と呼
ばれる有機物を発見したのです。PAHは燃焼のさいに発生する物質なのですが、有機
物の分解や化石化のプロセスでも生まれるものなのです。
 ALH84001は、他のSNC隕石よりも炭酸塩鉱物を多量に含んでいたのです。
この炭酸塩鉱物はカルシウムに富む鉱石が二酸化炭素の溶け込んだ水の中で分解して二
次的に作られるものなのです。これが隕石の中の空洞や割れ目に多量にあるのです。
 このことから、ALH84001隕石の源岩石は、かつて火星に存在した液体の水に
さらされて、その影響を受けた部分が変質したものと見られるのです。
 研究班は、PAH濃度が最も高い炭酸塩の端にある白黒の細い帯に注目したのです。
そして、この帯を形成している直径10〜100ナノメートル(1ナノメートルは10
0万分の1ミリ)という微細な鉱物結晶の形状が、地球のバクテリアが作り出すものと
同じ立方体や水滴上の形をしていることを発見します。
 この中から地球のミミズのような両端が丸く、細長いチューブ状の構造をした細胞の
連なる物体が発見されたのです。その形はどうみても微生物の化石にしか見えないもの
だったのです。
                          ・・・[火星の研究/06]


     ≪画像および関連情報≫
      ・PNC隕石ALH84001の情報
       全体がほとんど斜方輝石という鉱物から成る。重量1.9キ
       ログラム。火星地殻の比較的深い部分を構成していた岩石の
       断片と見られる。
      ・≪1986年8月7日のNASAの会見≫
      ・デビット・マッケイ博士(添付ファイルの3人の写真の右の
       人物)とPNC隕石ALH84001

NASAの会見とALH84001

2008年07月15日

火星人がいることを信じた時代がある(EJ第1528号)

 平凡社新書112に『火星の驚異』という本があります。惑星地質学者の小森長生氏
の著作です。この本の冒頭は次のように始まるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       20世紀の初めに、この世界が、人間よりもすぐれた知能を
      もち、しかも人間と同じようにいつかは死をむかえる運命にあ
      る生物によって、ごく間近に観察されてきたことを、みなさん
      はご存知だろうか。
       人間はだれもが身の回りのささいな事がらに気をとられてい
      る間に、こと細かに調べつくされていたのだ。あたかも、一滴
      の水の中でうごめく小さな生きものを、われわれが顕微鏡の下
      で調べるようなぐあいに。
       はるかな宇宙空間をこえて、われわれとはくらべものになら
      ないほどに冷酷で無情な、とてつもない知性体が、この地球を
      羨望のまなざしで見つめ、ゆっくりと、しかも確実に、われわ
      れ人類を自分たちのたくらみに引き込もうとしていたのである
      ・・・・小森長生著、『火星の驚異』より。平凡社新書112
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これは、1938年10月30日午後8時に、米国コロンビア放送(CBS)のラジ
オからいきなり流されたナレーションなのです。続いて、アナウンサーは、火星でガス
爆発によると思われる閃光が数回にわたって観測されたというニュースを伝えると、次
のように続けたのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       ニュージャージー州のトレントンからの特別報告です。午後
      8時50分、隕石と思われる巨大な火の玉物体が、トレントン
      から22マイルはなれた、グローバーズミル近くの農地に落下
      しました。空での閃光は半径数百マイルの範囲で見られ、また
      落下の衝撃音は、はるか北方のエリザベスまで聞かれました。
       目下、特別中継車が現場に急行中ですが、担当記者のカール
      ・フィリップスが現地に到着しだい、状況をお知らせします。
      それまでの間、ブルックリンのホテルから、ボビー・ミレット
      とその楽団によるダンス音楽をお送りします・・・。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このあと、現場に到着した担当記者フィリップスから驚くべき事実が報告されるので
す。地球に落下したものは実は隕石ではなく人工の物体であり、中から奇妙な生き物―
―火星人が出てきたということをフィリップス記者が伝えたからです。
 これは、あの『タイムマシン』の原作者、H・G・ウエルズが1898年に発表した
SF小説『宇宙戦争』をラジオ・ドラマに仕立てて、放送したものなのです。プロデュ
ースしたのは、のちに名優の名をほしいままにしたオーソン・ウェルズで、ハワード・
コッフの脚本をもとに人気番組「マーキュリー劇場」の一編としてドラマ化したのです

 しかし、演出が凝っていて、わざわざある番組を中断して、アナウンサーが「特別報
告です」と割り込み、以後は実況中継のかたちで進められたため、ラジオを聞いていた
人が本当のことと信じてしまうというハプニングがあったのです。放送の途中で「これ
は単なるドラマです」という断りを何度も入れたのですが、そんなことは視聴者の耳に
は届かなかったのです。
 H・G・ウェルズの『宇宙戦争』は、米国の天文学者パーシバル・ローウェルの説に
基づいて作られています。ローウェルという人は、1894年に米国アリゾナ州フラグ
スタッフに私設の観測所を作って火星観測に打ち込んだ人です。
 ローウェルは、火星の表面にある多数の細線模様を知的生物が作った人工運河と解釈
し、この説を中心に最初の著作『火星』を出版するのです。1895年のことです。H
・G・ウェルズはそのわずか3年後の1898年に『宇宙戦争』を発表しているのです
から、ウェルズはローウェル説を素材にしたといえます。
 ちなみに、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』は、1953年にも『世界戦争』のタイ
トルで映画になっています。この映画にはジーン・バリーが主演しています。もうひと
つ1996年にその続編と見られる『マーズアタック』という映画もあります。いずれ
も火星軍が地球を攻めてくる映画です。
 『世界戦争』のときは、火星軍の飛行物体に地球軍は翻弄されるのですが、最後に地
球を救ったのは地球のバクテリアだったという話です。これによって、それまで快進撃
を続けていた火星の飛行物体は次々と墜落し、活動を停止してしまったのです。
 『マーズアタック』では、火星軍が強力な宇宙戦艦で攻めてくるのですが、今度はバ
クテリアならぬコンピュータ・ウィルスが地球を救うのです。しかし、この映画は完全
なコメディであり、作品の質も高くないので、あまりお勧めできませんが・・・。
 この2つの映画から、もし、本当に火星人がいて、地球に攻めてくるのであれば、火
星のバクテリアを日本に持ち込んでくるに違いないと考えられます。そして、1996
年に火星の隕石ALH84001が公開されるのですが、奇しくもその1996年は日
本でO−157が猛威を振るった年であったのです。そしてこの隕石の中から火星のバ
クテリアが発見されたのです。
 ALH84001の中から発見されたチューブ状の構造物は、地球上の先カンブリア
時代の岩石から発見されるバクテリアの化石に酷似しているのです。ただし、その大き
さは20〜100ナノメートルで、地球上で発見される最小のバクテリアの100分の
1程度の大きさしかないのです。
 こんな小さい生物で、生命現象を営むのに必要なDNAなどを体内に持つことができ
るかどうかという疑問がありますが、現在のところそれが生物体でないという立証もで
きない状態であるといえます。いずれにしても映画に出てくるような火星人がいないこ
とだけは確かなようです。
 火星にはこのほかにも謎が多くあり、明日も追及します。
                          ・・・[火星の研究/07]


     ≪画像および関連情報≫
      ・ALH84001が発見されるまで
       ・45億年前、火星の誕生とほぼ同時にALH84001の
        母体火成岩が地殻の一部として形成される。
       ・約40億年前、隕石の衝突によって、この火成岩は火星の
        地表に放り出される。
       ・約36億〜18億年前、この火成岩の割れ目や空隙に溶液
        が浸透し、バクテリアの格好の住まいとなる。
       ・約1600万年前、2回目の隕石衝突によって、この岩石
        の一部は炭酸塩とバクテリアの化石を抱えたまま宇宙空間
        にはじき出され、長い宇宙旅行に出発。
       ・1万3000年前地球の南極に落下し、氷に埋もれていた
        が、1984年に米国の隕石探索隊によって発見され、A
        LH84001と命名される。
       ・1996年8月7日にNASAによって発表

H・G・ウェルズの本と映画

2008年07月16日

ローウェルの『カナリ論争』のゆくえ(EJ第1529号)

 火星人論争は「カナリ」の発見から始まるのです。昨日のEJで火星人論争に火をつ
けたのはパーシバル・ローウェルであるであると書きましたが、正確にいうとローウェ
ルより先に火星に運河らしいものを発見した人が2人いるのです。1人はイタリアの天
文学者ジョバンニ・ヴィルジニオ・スキャバレリ、もう一人はフランスの天文学者カミ
ーュ・フラマリオンです。
 スキャバレリは、火星を観測してその表面に「すじ」があることを発見します。イタ
リア語でそれを「カナリ」というのですがそれがフラマリオンによってフランス語のカ
ナルになり、さらに英語のキャナル、すなわち、「運河」になってしまったのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
             カナリ(canale) → canal
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 しかし、スキャバレリ自身は火星の表面の線を水路とは考えましたが、それが人工の
運河とはいっていないのです。それをいい出したのはフラマリオンです。運河があるな
ら、それを作った火星人がいるに違いない――彼はそう考えたのです。火星人論争はこ
うしてはじまったのです。1877年のことです。
 1895年になって、米国人のパーシバル・ローウェルは、フラマリオンの著作『惑
星火星』を読んで啓発され、自らも火星を観測して4連作の論文を書きます。これが彼
の著作『マーズ/火星』となるのですが、それは最初に「アトランティック・マンスリ
ー」誌に掲載されたのです。
 4連作の最後の論文「火星/オアシス」には、次のように書いてあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       まず、第1に、火星の全体的な物理条件は、ある種の形態の
      生命を否定するものではない。第2に、見たところ火星の表面
      では水が不足しているようであり、したがって、十分なる知性
      が棲んでいるのであれば、生命を維持するために灌漑に頼るほ
      かない。第3に灌漑用の水路とまったく同じように見えるネッ
      トワーク状の模様が円を覆っていることがわかる。そして、最
      後に灌漑によって肥沃になった土地があるであろう場所にいく
      つもの点が存在し、それはあたかも人工的につくられたオアシ
      スのようなものである。
               ――「アトランティック・マンスリー」誌
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 火星に灌漑用の水路(運河)を作れるほど高度な知性を持つ生物がいる――このローウ
ェルの説は学者だけでなく、一般の人にも大きな反響を巻き起こし、天体望遠鏡が爆発
的に売れるほどだったのです。ローウェルはこうして一躍有名になったのです。
 しかし、しだいに天体望遠鏡の性能によって運河が見えたり、見えなかったりする―
―天文学者の間では、やがてそういう意見があらわれるようになります。すなわち、普
通の天体望遠鏡では運河にみえるものが、高性能の望遠鏡で見ると、それは単なる点の
集まりにしか見えないことがわかってきたのです。
 このようにして、ローウェルの説に反論する学者が増えていっていったのです。その
代表的な学者の一人にギリシャ出身のフランスの天文学者E・M・アントニアジがいま
す。
 彼は最初のうち、フラマリオンと共同歩調をとり、ローウェル説を支持していたので
すが、20世紀に入って、パリ郊外のムードン天文台の口径83センチの大屈折望遠鏡
で観測をはじめるにようになってからは、ローウェルたちとの距離を置くようになりま
す。なぜなら、今まで線に見えていたものが、点の集まりであることがわかったからで
す。
 E・M・アントニアジらの反論によって、フラマリオンとローウェルの主張した「火
星運河説」は急速にしぼんでいくことになります。いわゆる火星人の存在が否定された
のです。
 しかし、このままでは、パーシバル・ローウェルという学者は「単なる夢想家」とい
う烙印が押されてしまうので、いくつか付け加えておきたいと思います。
 天文学者ローウェルの最大の関心事は火星だったのですが、それ以外にも天文学に2
つの大きな貢献をしているのです。
 1つは、渦巻銀河を観測して、その運動における大きな発見をし、それがエドウィン
・ハッブルが「ハッブルの法則」と呼ばれる銀河の後退速度と距離の関係を導き出す重
要な基礎になったことです。
 2つは、天王星の運動が計算された軌道からずれることを見出し、海王星の外側に未
知の惑星Xが存在することを予測し、結果として、冥王星の発見につながったことです

 「ハッブルの法則」への貢献については素人にはわかりにくいですが、冥王星の発見
と軌道の予測については誰しも認めるローウェルの功績であるといえます。
 冥王星の最初の2文字「P」「L」は、パーシバル・ローウェルの「P」「L」に合
わせてあるのです。これはこの発見に関するローウェル天文台の業績を高く評価してい
る証といえます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
          冥王星 Pluto → Percival Lowell
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ローウェルについてはもうひとつふれておく必要があります。ローウェルは天文学者
として活躍する前には、明治16年に来日し、以来10年にわたって日本に滞在してい
たのです。日本の各地を訪ねて日本の文化を研究したのです。そして、欧米に日本のこ
とを紹介したのです。
 小泉八雲という日本人名で知られるラフカディオ・ハーンも、ローウェルの影響を受
けて日本に関心をもったひとりなのです。ローウェルは明治26年に離日し、米国のア
リゾナ州に自前の天文台を作って天文学に多大の貢献をすることになります。
 この天文台は現在もあり、グランドキャニオンの観光スポットのひとつになっていま
す。
                          ・・・[火星の研究/08]


     ≪画像および関連情報≫
      ・ローウェルの火星の運河図
       1894年の夏から秋にかけて、ローウェルは火星観測を続
       けて、回を追うように多数の線状模様(運河)を発見し、そ
       れらが幾何学的な網目をなしてつながっていることを認めて
       いる。運河が交差するところは暗い斑点として見え、これを
       砂漠の中の「オアシス」だとしている。

ローウェル作成の「火星の運河」

2008年07月17日

水はかつてあったのか今あるのか(EJ第1530号)

 火星には生命体が存在するのかどうか――これは火星に水が存在するかどうかの問題
と裏腹の関係にあります。水が存在すればそこに生命体がいる可能性は大きくなります

 果たして火星に水はあるのかどうか――それもかつて存在し、いまないのか、それと
も現在もあるのかどうか――をはっきりさせる必要があります。
 われわれは今まで火星とは次のようなところであると知らされてきています。科学ジ
ャーナリストの並木伸一郎氏の著書より引用します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       その薄く透明な大気は冷たく、地表では巨大な火山や峡谷が
      あたりを睥睨する。平野部に目を転ずると、無数のクレータが
      隕石の衝突を、縦横に走る干上がった河床が太古の大洪水を物
      語る。地表の気温は赤道付近で日中はセ氏マイナス31度、夜
      間はマイナス86度。常時秒速7メートル程度の風が吹き、春
      には地表全体を覆う砂嵐が起こる。乾燥しきった極寒の世界。
      これが、われわれが教えられてきた火星の素顔である。
               ――並木伸一郎著「火星人面岩の謎」より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 既に述べたように、現在、火星について一番豊富な情報を持っているのは米国のNA
SAです。米国以外の探査機がことごとく失敗する中で米国だけが成功しているからで
す。そのNASAの情報によると、火星の素顔は上記のようになるのです。
 しかし、1997年以降、NASAの多くの探査機からもたらされる火星の情報を総
合すると、火星の素顔は、上記とはかなり違ったものになるのです。
 1997年7月4日と9月11日――この2つの日は火星探査にとって記念すべき日
となったのです。それは、NASAの2つの探査機が相次いで火星への軟着陸に成功し
たからです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      マーズ・パスファインダー     1997年7月 4日
      マーズ・グローバル・サーベイヤー 1997年9月11日
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これらの探査機は、パラシュートで落下し、ロケット噴射で減速したあと、エアバッ
クで衝突を吸収しながら火星に軟着陸するシステムを採用し、成功したのです。そして
、マーズ・パスファインダー(MPF)が着陸した地点は、カール・セーガンを追悼し
て「カール・セーガン・メモリアル・ステーション」と名づけられたのです。
 MPFにはカメラや気象観測装置などが搭載され、火星の地表や気象の観測などを行
ったのです。地表の調査については、「ソジャーナー」と呼ばれる超小型火星面車(ロ
ーバー)が担当し、多くの情報を収集しています。
 MPFは、着陸機が撮影した画像1万6000枚、ローバーが撮影した画像550枚
、その他15種類の岩石の分析や気象データなどを送ってきたのですが、これによって
火星について重要な事実が判明したのです。
 その重要な事実とは、火星にはかつて確実に水が存在したというものであり、これに
ついては、2002年3月にNASAが発表して認めています。それも南極周辺の浅い
地中に大量の水が、それも液体の水として存在しているという表現(?)でです。
 マーズ・グローバル・サーベイヤー(MGS)からも貴重な画像が数多く送られてき
ています。1998年に火星の異常地形を研究している米国のブライアン・ブッチャー
は、MGSが撮影した画像に奇妙な黒い影を発見――インターネット上にそれを発表し
、「このコーヒーのしみ(スティン)のようなものは何か」と問いかけたのです。
 2000年6月19日――エンタープライズ・ミッションの主宰者リチャード・ホー
グランドは、やはりMGSが送ってきた画像にスティンを発見し、はっきりとそれを「
水が流れる」証拠としています。
 既出の並木伸一郎氏は、これについて次のように記述しているのですが、これは液状
の水の流れなのでしょうか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       そこには、クレーターの壁面から続く不自然に暗い色をした
      ものと、薄い色の細長いスティスンが写っている。暗く写ると
      いうことは、深みがあり、穏やかな水流で、しみ出てからそれ
      ほど時間が経過していないことを意味する。つまり、この画像
      は地表からしみ出た水が溜まり、それが穏やかな流れとなって
      間もない瞬間をとらえたものだ。―――――――並木伸一郎氏
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 また、米国のアマチュア天文学者エフレイン・パレルモは熱水作用によって湧き出た
水分こそがスティンの正体であり、地表としみのような部分には温度差があると主張し
ています。
 問題は、スティンがかつてあった水の流れの痕跡なのか、それとも現在進行形で流れ
ているのかという点です。これについて、既出のリチャード・ホーグランドは、スティ
ンは水がまさに流れている現在進行中のものであると断じています。
 このホークランドの発言を裏づける1999年に撮影された2枚の写真(添付ファイ
ルA/B)があるのです。この2枚の写真は、1999年3月19日と同年8月16日
の同じ火星面の写真なのですが、3月の時点ではなかったスティンが6月には明確に写
し出されているのです。
 また、いま、まさに流れ出そうとする寸前のスティンの写真−Cもあります。その周
辺には多くのスティンがあり、地底から湧き出る水がスティンとなって地表にあらわれ
てきていると考えられるのです。このように、もし、スティンが水の流れであるとした
ら、火星には地底に大量の液状の水があり、それがスティンのかたちをとって流れ出し
、やがて川のようになりつつある――そういう想定もできると思うのです。
                          ・・・[火星の研究/09]


     ≪画像および関連情報≫
      ・NASAは、MGSが撮影した画像について水の存在を認め
       ているが、それは「かつて存在したかも知れない水」――具
       体的には100万年前に起きたものであるといっており、現
       在における水の存在については言葉を濁している。

水の流れ/スティン

2008年07月18日

さらに火星の水の問題を追及する(EJ第1531号)

 「火星に水があるのかないのか」という疑問には、「ある」と答えて間違いはないと
思います。2004年1月に火星の着陸に成功した火星探査車スピリットとオポチュニ
ティは、火星に水があったことを示す証拠を発見しています。
 スピリットは、火星のグセフクレーターというところに着陸し「ハンフリー」という
60センチほどの岩石の表面を削って調べたところ、内部に裂け目が見つかり、明るい
物質が発見されたのです。この物質は水に溶けていた物質が結晶化したものであり、水
の存在を示唆するものとして発表されたのです。
 オポチュニティは、昔湖の底であると考えられているメリディアニ平原に着陸し、調
査をした結果、①高濃度の硫酸塩鉱物の存在、②岩石の裂け目、③粒状の物体の3つが
決め手になって大量の水が存在していた確証が得られたと発表しています。
 しかし、これは「かつて火星には水が存在した」ということをいっているのであって
、現在、水――それも液体の水が存在しているといっているのではないのです。
 学者は理論的には「火星に水はない」と考えています。その根拠をご説明しましょう
。小学生の理科の知識で理解できます。添付ファイルの図をご覧ください。
 縦軸に「気圧」、横軸に「温度」をとります。1気圧の状態で水が沸騰する温度をセ
氏100度とします。これを「沸点」といいます。これに対して水が凍る温度をセ氏0
度とします。これを「氷点」といいます。グラフ上で「沸点」と「氷点」の位置を確認
してください。
 この場合、沸点よりも高い温度では水蒸気だけが存在し、氷点よりも低い温度では固
体の氷だけが存在できます。液体の水というのは、温度が沸点と氷点の間にあるときだ
け存在できることになります。
 なお、固体の氷も液体の水も一定の量以下の水蒸気と共存することはできます。この
最高の水蒸気の圧力を「飽和水蒸気圧」といい、その何パーセントまで水蒸気量がある
かの割合を「湿度」というのです。この飽和水蒸気圧は温度によって変化し、温度が高
いほど大きくなります。
 さて、沸点も氷点も気圧によって変化します。1気圧より圧力が下がると、沸点と氷
点の幅が狭くなり、「3重点」と書いてあるところで、沸点と氷点は同じになります。
 図の中で「地球」、「火星」と書いてある矩形の印は、それぞれの気圧、気温の範囲
を示しています。これを見ると、地球上の温度・圧力では、水は固体、液体、水蒸気の
いずれの状態にもなり得るのに対し、火星では、液体の水は存在しないことになるわけ
です。ちなみに、3重点の圧力は、6.1ミリバール、温度はセ氏0.01度ですが、
火星の気圧はこれにほぼ近いといってよいのです。
 このように、火星には理論上は水――それも液体の水は存在しないのです。しかし、
各種の探査機の調査によると、火星表面には、大量の水が流れた形跡があるのです。
 添付ファイルの写真は、1971年5月に米国のマリナー9号が撮影した火星の南極
地方に存在する地形なのですが、満々と水をたたえ、音を立てて流れる大河に見えませ
んか。30年以上も前に撮られた写真なのに、NASAは今頃になって出してきていま
す。NASAは明らかに何かを隠しているのです。
 理論上存在するはずがないのに水が存在する――このパラドックスをどのように解け
ればいいのでしょうか。これは、次の2つの問題として考えてみるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      1.今はないが、遠い過去には火星上に水は存在したのではな
        いか。
      2.もしそうであるとしたら、その水はどこに行ってしまった
        のか。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1については、遠い過去において火星はもっと暖かくて、もっと湿った厚い大気をも
っていたと考えれば納得がいきます。いくつもの火星探査機の調査がそれを証明してお
り、それは間違いないと考えられるのです。そうであるとすると、そのときは火星に生
物がいた可能性は非常に高くなります。
 それでは、かつてあったとされる水はどこへ行ってしまったのでしょうか。
 第1に考えられるのは、極冠です。南北両極に冬の間に白く見える(白冠)のがそう
です。もっとも氷といっても、水が凍った氷なのか、二酸化炭素が氷結したドライアイ
スなのかは議論のあるところです。
 1948年にジェラルド・カイパーという人が地球から火星の極地方の赤外スペクト
ル観測を行った結果、「水の氷である」という結論を出しています。しかし、問題は白
冠の温度がどのくらいかによって結論を出すしかないのです。温度によっては次の判定
ができるからです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      白冠の温度が−112度より高ければ、二酸化炭素は氷結でき
      ないので水の氷であるし、もし、それよりも低い温度であれば
      ドライアイスである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これに関しては、マリナー6号と7号の赤外輻射計による観測では−123度という
温度が得られているのでドライアイスと判定されるのです。しかし、その後のバイキン
グ2号による測定では北極冠の周囲の黒い部分の温度は−38度、中央の白い部分の温
度は−65度とかなり高く、水の氷と判定されるのです。
 水のゆくえで第2に考えられるのは土壌の中です。いわゆる地球にもある「永久凍結
帯/ツンドラ」にある――そう考えられているのです。しかし、これについての考察は
行わないことにし、来週はさらなる火星の謎に迫ります。
                          ・・・[火星の研究/10]


     ≪画像および関連情報≫
      ・人類は小さな球の上で
       眠り起きそして働き
       ときどき火星に
       仲間を欲しがったりする

       火星人は小さな球の上で
       何をしているか 僕は知らない
       (或いはネリリし キルルし ハララしているか)
       しかしときどき地球に
       仲間を欲しがったりする
       それはまったくたしかなことだ

       谷川俊太郎「二十億年の孤独」より

火星に水はないという理論的根拠

2008年07月22日

火星の空は本当に赤いのか(EJ第1532号)

 火星は「夜空に赤く輝く星」として知られます。火星の空と土地もすべては赤く染ま
っている――一般的にはこう考えられています。確かにNASAの発表する火星の写真
の多くは、火星の空は、ピンク色になっています。
 そもそも地球の空はなぜ青いのでしょうか。
 太陽からの光の中には、波長の違ういろいろな光が含まれています。太陽から直進し
てくる光は、大気中を漂う塵や埃や水蒸気それに大気そのもののゆらぎや酸素や窒素な
どの気体の分子――つまり、光から見て障害物にぶつかってしまうのです。
 この衝突が起こると、光は地上に届く前に大気中に散乱してしまうことになります。
これを「レーリー散乱」というのです。この「レーリー散乱」の「レーリー」というの
は、「空はなぜ青いのか」ということに疑問を持ったレーリー卿の名前から取られたと
いわれています。
 さて、光の中で紫色の光は波長が短いので、その結果、紫色の光は大気中に散乱しま
す。それがなぜ青く見えるかというと、人間の目の感度が「紫」よりも「青」の方が強
いためと、他の波長の短い光も一部は散乱するので、それらが混ぜあわせられ、青い色
になるのです。なお、雲が白く見えるのは、雲の分子が大きくて、すべてを反射してし
まうからです。
 それなら、火星の空はなぜ赤いのでしょうか。
 それは、火星の大気は、いつも塵や埃の微粒子で満たされていて、そのせいで光が屈
折するからであるといわれるのです。しかし、大気がいつも微粒子で汚染されていると
いう状況は実は考えにくいことなのです。
 確かに2001年において、火星全体がかつてないほどの砂嵐に見舞われたことがあ
ります。そのとき、ハッブル望遠鏡で見た火星は、赤く染まった地表と、グリーンのレ
ーリー散乱が認められたのです。この写真を見ると、確かに火星は赤い星であるように
見えます。添付ファイルの写真Aです。
 もともと火星の空は、地球と同じように青いのでは・・・最近はこういう説が出てき
ています。
 2001年の大砂塵のさいのグリーンのレーリー散乱も火星の空は青であることを証
明しているという説もあるのです。それは黄色と青色が混ざるとグリーンなるからです
。つまり、黄色の大砂塵が、もともとの青いレーリーと混在した結果であるといわれて
いるのです。つまり、火星の空は地球と同じように青いというわけです。
 トレド大学のフィリップ・ジェームス博士は、1997年5月27日と6月27日に
ハッブル宇宙望遠鏡で撮られた2枚の写真を発表したのですが、そこには明確に青いレ
ーリー散乱が認められるのです。添付ファイルの写真Bです。
 添付ファイルの写真Cは、1976年にはじめて火星に着陸したヴァイキング1号が
送信してきた火星地表の写真です。これを見ると、青い空が広がっていることが確認で
きます。しかし、その後、NASAから公表された同じ写真では空の色はピンクに染ま
っています。添付ファイルの写真Dです。
 ヴァイキング計画に携わったギルバート・レヴィン博士によると、火星の空は青く、
NASAの公表した写真の空はNASAが画像を修正を施したものであるという衝撃的
な暴露発言をしているのです。
 それにしても、なぜ、NASAは火星の空の色を隠そうとするのでしょうか。
 NASAは、火星に生命体が存在したことの一切を隠蔽しようとしているフシがあり
ます。それなら、空の色と生命体の有無はどのように関係するのでしょうか。
 ひとつ考えられることは、火星の大気中に占める窒素の割合との関連です。地球の場
合、大気の75%は窒素が占めています。もし、火星に生命体が存在するとしたら、火
星の大気も窒素を豊富に含むと考えられるのです。窒素は有機分子の生成に不可欠な要
素であり、アミノ酸からできる蛋白質が全ての地球生物の源になるからです。
 大気に含まれる豊富な窒素によって生命体が生まれ、それが二酸化炭素を排出する―
―それが大気を構成する物質の比率に影響を与えて、空は青くなるのです。ハーバート
大学のマイク・マッケルロイ博士は、探査機ヴァイキングによって採取されたデータを
分析して、火星はかつて窒素を含む多様な物質から成る大気に覆われており、二酸化炭
素も現在ほど高いレベルではなかったと結論づけています。このように、空の色は、生
命体の存在の可能性に直結する問題なのです。
 もうひとつ、火星の地表が赤いことについて、ヴァイキングによって採取されたデー
タを分析した報告書の中に次の記述があるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       地球上では、主として海底で発見される粘土質の赤土によく
      似た土壌が火星で発見されている。こうした粘土質の赤土には
      磁赤鉄鋼が含まれているが、発色は鉄分が酸化することで起き
      るものだ。また、マグネシウムやアルミニウム、鉄分、玄武岩
      から成る土壌の存在が確認されている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 火星の北半球には、南半球に比べてクレーターが少ないという事実があります。この
謎については、存在していたクレーターは溶岩流によって埋められたという説が主流に
なっています。
 これについて、元NASAの研究員で火星の異常構造物についての研究家であるリチ
ャード・ホーグランドは、「火星の北半球はかつて海底であった」とする大胆な仮説を
立てています。
 鉄分を多く含む赤土の土壌が火星に存在する――これは火星にかつて海が存在したと
いうことの証明になるのです。それはヴァイキングのデータとも、地球で見られる土壌
の特質とも一致するのです。             ・・・[火星の研究/11]


     ≪画像および関連情報≫
      ・添付ファイルの写真の説明
       A.2001年の大砂塵のときの火星
       B.青のレーリー散乱認められる火星
       C.ヴァイキングから送信された画像
       D.NASAが発表した同じ写真画像

火星はなぜ赤いのか

2008年07月23日

『ガリバー旅行記』と火星の2衛星(EJ第1533号)

 『ガリバー旅行記』という本をご存知でしょうか。
 そうです。あのジョナサン・スウィフトの名作です。この本は一般的には単なる児童
向きの物語と思われていますが、実はそんな単純な物語ではないのです。これは、次の
4部から成る超大作になっています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       第1部 「リリパット国(小人国)渡航記」
       第2部 「ブロブディナグ国(大人国)渡航記」
       第3部 「ラピュタその他の国への渡航記」
       第4部 「フウイヌム国渡航記」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 児童物語として知られているのは第1部と第2部ですが、ここで注目すべきは、第3
部の「ラピュタその他の国への渡航記」なのです。第3部の正式名称は次の通りです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      第3部 「ラピュタ、バルニバービ、ラグナグ、魔法使いの島
          および日本旅行記」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ここに出てくる国はすべて架空の国ですが、日本だけが実在の国なのです。スウィフ
トがなぜ日本を取り上げたかについては興味はありますが、ここで取り上げるのは「ラ
ピュタ」なのです。
 このように書いてくると、火星の話をしているのに、なぜ『ガリバー旅行記』なのか
と不思議に思われると思いますが、この物語は火星に密接な関係があるのです。
 「ラピュタ」とは何でしょうか。スウィフトは次のように説明しています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       この空を飛ぶ島、乃至は空に浮かんでいる島の形は正確な円
      形である。直径は7837ヤード(7.166キロメートル)
      つまり4マイル半、従って広さは1万エーカー(約40平方キ
      ロメートル)に及んでいる。厚さは300ヤード(274メー
      トル)である。底部、いいかえれば、下界から見上げた者の眼
      に映る下部の表面は、平らででこぼこのない硬石の一枚岩で出
      来ており、硬石の厚さは約200ヤード(183メートル)で
      ある。この層の上に数種の鉱物が下から一定の順序で堆積して
      おり、さらにそれを厚さ10フィート(約3メートル)から、
      12フィート(3.7メートル)に及ぶ肥沃な土壌が一面に上
      から蔽っている。・・・・・
               ――スウィフト著『ガリバー旅行記』より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 このようにして、島の構成が語られて、島がどうして飛ぶのかの説明がそのあと続く
のです。
 「ラピュタ」といえば、宮崎駿監督の作品に『天空の城ラピュタ』がありますが、そ
のアイデアはおそらく『ガリバー旅行記』からとられていると思われます。そして、『
天空の城ラピュタ』は『ハウルの動く城』につながってくるのです。
 さて、スウィフトの「ラピュタ」の話に戻ります。この島に住む人は変わり者が多い
のですが、頭脳は明晰なのです。とくに天文学には優れていて、ヨーロッパの天文学者
が知らない遠くの星までを発見しているという説明のあと、注目すべき次の記述が出て
くるのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       彼らは火星のまわりを回転している2個の小さな星、つまり
      衛星を発見している。その2個のうち、内側の星は、そのもと
      となる惑星つまり火星の中心から、火星の直径のまさに3倍の
      距離を保っており、外側の星の場合はそれが5倍である。前者
      が1回転するのに要する時間は10時間、後者は21時間半で
      ある。したがって、この2つの衛星の周期の2乗が、その火星
      の中心からの距離の3乗にほとんど同じくらい比例している。
      ということは、他の天体を支配しているのと同じ引力の法則に
      よってこの2つの衛星が支配されていることを、明らかにして
      いる。          ――平井正穂訳、岩波文庫版より
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 既出の小森長生氏によると、原作の「直径」は「半径」の誤りであると指摘していま
す。そうでないと、ケプラーの第3法則と合わなくなってしまうからです。
 スウィフトのこの記述は実に驚くべきものなのです。火星には「フォボス」と「デイ
モス」という2つの衛星があり、それらの火星中心からの実際の距離は次のようになっ
ているからです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      フォボス ・・ 火星半径の2.76倍  7時間39分公転
       スウィフトの記述 ・・ 火星半径の3倍/10時間で公転
      デイモス ・・ 火星半径の6.92倍 30時間18分公転
       スウィフトの記述 ・・ 火星半径の5倍/21時間で公転
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 数字的な多少の違いがあるにしても、天文学者でないスウィフトがここまで正確に記
述するのは驚きです。いや、天文学者でも無理なのです。当時は、火星の2衛星の存在
自体が知られていなかったからです。
 スウィフトが『ガリバー旅行記』を出版したのは1726年であるのに対して、火星
の2衛星が発見されたのは1877年のことだからです。つまり、スウィフトは火星の
2衛星が発見される150年も前に事実に近い記述をしているのです。
 どうしてスウィフトが火星の2衛星のことを知ったのかは、今もって謎につつまれて
います。火星の2つの衛星を発見したのは米国の天文学者アサフ・ホールです。
 ホールは1862年にワシントンDCの米国海軍天文台に助手として就職し、187
7年にホールは折からの火星の大接近に合わせて、この天文台の最大最新鋭の屈折望遠
鏡を使って火星を観測、2つの衛星を発見したのです。・・・[火星の研究/12]


     ≪画像および関連情報≫
      ・ホールは発見した2つの衛星にフォボスとデイモスという名
       前を付けたが、これらの名前はトロイ戦争をうたったホメロ
       スの長編叙情詩「イリアッド」からとられている。デイモス
       とフォボスは、この詩に登場する軍神アレス(ローマ名では
       マーズ)の部下である。

火星の衛星/フォボスとデイモス

2008年07月24日

フォボス2号はなぜ消滅したのか(EJ第1534号)

 2つある火星の衛星のうち内側の衛星フォボス――注目されるのはその軌道です。中
心の惑星にこんなに近く、しかも火星の自転周期の3分の1にも満たない公転周期で回
る衛星など今までに例がなく、前代未聞のことだからです。
 それにフォボスは長い間に高度が少しずつ下がり、公転速度が速くなっているのです
。これをめぐっていろいろな仮説が出されているのですが、旧ソ連の天文学者I・S・
シクロフスキーの出した仮説はそのユニークさにおいて群を抜いています。
 フォボスは、約5億年前に火星人が打ち上げた人工衛星である――シクロフスキーは
こういったのです。火星には希薄ではあるものの大気があります。その大気がフォボス
の軌道あたりまで広がっているとすれば、フォボスの公転運動にはブレーキがかかって
公転速度は遅くなるはずです。
 それでも公転運動が速くなるというのは、フォボスの平均密度が非常に小さい場合で
す。そうすれば密度の小さい衛星は希薄な大気中でも大きな抵抗を受けて高度が下がり
、公転速度は速くなるはずであるとシクロフスキーは考えたのです。
 それでは、そのような密度の小さい天体とはどういうものであるか――それは内部が
空洞の球体であればその条件を満たすと考えたのです。しかし、内部ががらんどうの球
状の天体などはあり得ないので、シクロフスキーとしては半ば冗談のつもりで、火星人
の打ち上げた人工衛星なのだろうと推理したのです。
 もうひとつフォボスにからんで非常に奇怪な話があるのです。それは、「フォボス」
とネーミングされた旧ソ連の宇宙探査船の話です。1988年7月、旧ソ連は2機の宇
宙探査船を火星に向けて発信させたのです。目的は火星地表の写真撮影と気象データの
収集、それに火星の衛星フォボスの調査です。探査船は、「フォボス1号」「フォボス
2号」と名づけられたのです。
 既に述べたように、フォボスもデイモスも非常に小さい衛星であり、地上からの観測
には限界があったため、欧州13ヶ国、それに米国も個人レベルでの協力体制をしき、
その成果は大いに期待されたのです。しかし、地球を飛び立って2ヵ月後、フォボス1
号は忽然と姿を消してしまったのです。公式発表では、「コンピュータの制御ミス」と
いうことでしたが、真相はわかっておらず、謎のままです。
 しかし、フォボス2号は予定通り、1989年1月に火星の衛星軌道に到着していま
す。それから約2ヶ月かけて、フォボス2号は火星地表の写真撮影や各種データの収集
を行っていますが、2号に関しては何もかも順調そのものだったのです。
 1989年3月26日――フォボス2号は軌道を変更して、計画通りに衛星フォボス
に向かったのです。衛星フォボスにぴったりとついて飛行しながら、詳しい調査が行わ
れることになっていたからです。
 ところが、3月28日になってフォボス2号は原因不明の交信不能状態に陥り、すべ
ての通信が途絶えてしまったのです。普通地上と探査船との交信が途絶することはよく
あることであり、地上からのコンピュータ制御で交信が回復することは珍しいことでは
なく、当初はあまり深刻さはなかったのです。
 しかし、事故の翌日の3月29日、グラフコスモス(ソビェト宇宙開発総局)の幹部
ニコライ・シムヨノフ氏は、沈痛な表情で次のコメントを発表したのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       フォボス2号が永遠に失われたことはほぼ間違いない。
                      ――ニコライ・シムヨノフ
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 3月30日のソ連のテレビ番組「フレムヤ」は、数名の科学者をスタジオに招き、フ
ォボス2号の事故に関する経過報告を行っています。それによれば、フォボス2号が消
息を絶つ寸前に撮影した写真に「未確認飛行物体」が写っていたというのです。
 この報告に世界は驚愕し、31日以降各国のマスコミはこれを取り上げ、報道したの
です。それまでも、未確認飛行物体を目撃した話は何回もマスコミに取り上げられてい
たのですが、無人の探査船とはいえ、未確認飛行物体から直接攻撃を受け、破壊された
(?)ということは尋常ならざることだったからです。
 1989年3月31日付のスペインの「ラ・エポカ」紙は、次のように報道していま
す。新聞にはっきりと「未確認飛行物体」という言葉が掲載された珍しい例です。
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       ソビエトのテレビ番組「フレムヤ」の報ずるところによると
      28日月曜日、火星の衛星軌道を周回中に消息を絶ったフォボ
      ス2号は、その通信が途絶える寸前に火星表面を飛行する未確
      認物体を撮影していたという。
       番組では、フォボス2号が最後に撮影したという2枚の写真
      についての説明に多くの時間が割かれた。それらの写真には、
      大きな影がはっきりと写し出されていた。スタジオに招かれた
      科学者たちは、これらの写真にはっきり写し出された細い楕円
      形の影について、科学的な説明は不可能であるとした。
       これらの影は、いわゆる光学現象ではないという。なぜなら
      ば、影は通常のカメラのみならず、赤外線カメラによっても鮮
      明にとらえられているからだ。ソビエト常任宇宙委員会の科学
      者たちは、これらの影を火星の地表近くを飛行する何らかの巨
      大な物体の影が地表に映ったものと考えているという。
       ある試算によると、フォボス2号が撮影した最後の写真に写
      し出されている影の長さは約20キロであるという。また、そ
      れよりも数日前に撮影された同様の影については、長さ26〜
      30キロと算定された。
       ソビエト特別宇宙委員会のある委員は、この異物の形状が何
      らかの宇宙船のものと思われるとする見解に同意を示した。
                   ――スペインの「ラ・エポカ」紙
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                          ・・・[火星の研究/13]


     ≪画像および関連情報≫
      ・写真説明
       火星にはフォボスとデイモスという2個の衛星がある。どち
       らも小型で火星に捕獲された小惑星と考えられている。フォ
       ボスには巨大クレーターと、何かが転がったような細長い溝
       が表面に刻まれている。

スペインの「ラ・エポカ」紙 

2008年07月25日

未確認飛行物体とフォボス2号(EJ第1535号)

 最初に添付ファイルの写真Aを見ていただきたいのです。これはフォボス2号が通信
を絶つ直前に写した写真なのです。確かに巨大な楕円の影が見えます。これを未確認飛
行物体と見るか、単なる影とみるかは微妙なところです。
 未確認飛行物体(UFO)があるかどうかの議論は、幽霊がいるかどうかのそれと同
じであり、それを信ずる人はいるといい、信じない人はアタマから否定する――どっち
もどっちなのです。しかし、フォボス2号喪失事件ではソビエトを中心に世界中の科学
者がマジでこの問題を議論したのです。
 スペインの新聞「ラ・エポカ」紙が伝えるように、ソビエト常任宇宙委員会の科学者
は、「この影は火星の地表近くを飛行する何らかの巨大な物体の影が地表に映ったもの
」といっています。しかも、その影の長さは20キロ程度と推定しているのです。もし
、宇宙船であるとしたら、途方もなく巨大な宇宙船ということになります。
 無人の宇宙探査船が何らかのアクシデントで故障することは珍しくないことであり、
未確認飛行物体から攻撃を受けたとは限らないではないかという意見があります。確か
に未確認飛行物体から攻撃を受けたという証拠はないのですが、フォボス2号に関して
はそれまでの飛行は非常に順調であり、突如として通信が途絶するようなことは考えら
れないのです。
 多くの情報を収集すると、フォボス2号は通信途絶に陥る直前に機体の安定を失って
いたことがわかっているのです。しかし、フォボス2号には、その優秀性には定評のあ
る「三軸式安定化装置」が組み込まれており、よほどのことがない限り、突如として安
定を失うなど考えられないことなのです。
 フランスの情報筋は、そのときのフォボス2号の状態を次のように伝えているのです

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       カリーニングラード・コントロール・センターでフォボス2
      号の機体制御を担当していた技師によると、撮影終了時に同機
      は信号を送信してきたが、それはまるで、くるくる回るコマか
      ら発せられた信号のようだったのである。
                        ――フランスの情報筋
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 つまり、フォボス2号はきりもみ状態に陥っていたと考えられるのです。安定化装置
が故障したのか、それとも何かにぶつかったのか――事故直前までに安定化装置には何
も異常はなかったので、何らかの外部的な力が加わったのではないかと考えざるを得な
いのです。
 この問題を調査するソ連の科学チームは1989年10月19日号の「ネイチャー誌
」において、同計画を技術的側面から報告しています。その中でフォボス2号がきりも
み状態になったことを認め、その原因を制御コンピュータの故障か、あるいは何らかの
物体との衝突と推定しているのです。
 しかし、同チームはその時点でのコンピュータの故障は考えられず、また、その何ら
かの物体が宇宙空間に漂う塵である可能性も否定しています。しかし、宇宙探査船をき
りもみ状態にさせることができる物体とは何かという点については「わからない」と記
述しているのです。
 もうひとつ、その巨大な楕円形の影は衛星フォボスの影ではないかという説がありま
す。単に衛星フォボスの影が火星に投影されただけというわけです。衛星フォボスの大
きさは約27キロあり、大きさも合致するというわけです。添付ファイルの写真Bが衛
星フォボスの影ですが、確かに楕円形ではあるものの、全体がぼやけた感じであるのに
対し、写真Aの楕円形は火星表面の照り返しの中に鮮明に浮き上がっており、明らかに
違うのです。だいいち、そうであるとしたら、フォボス2号はなぜ事故を起こしたのか
、ますます謎につつまれることになります。
 これらのフォボス2号が撮影した写真をソ連当局は一度に公開したわけではなく、小
出しにしています。関係各国の圧力に負けてしぶしぶ公開したのです。しかし、一枚だ
けは今もって公開していないのです。それはなぜでしょうか。何か公開できない事情が
存在するのでしょうか。
 この公開しない最後の写真の存在が、逆にフォボス2号の事故の真相を握っていると
いえます。フォボス2号は、「あるはずのない何か」に衝突し、永遠に失われたという
ことを雄弁に物語っているといえます。
 既出のシクロフスキーに代表されるように、ソ連の科学者は衛星フォボスには何らか
のかたちで人為的な力が加わっていると考えているのです。それには、次の2つの理由
によります。
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           1.地表に多数の直線的な溝がある
           2.巨大な真円のクレーターの存在
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 第1は、フォボスの地表を走る多数の溝の存在です。これらの溝は直線的に、しかも
お互いに平行を保ちながら走っている――このことから少なくとも自然にできたもので
はないと考えられているのです。溝の幅は、約230〜330メートル、深さは25〜
33メートルと計算されています。もうひとつ奇怪なことにこれらの地表に走る溝が増
えていることがわかっているのです。大気も水もないフォボスに溝ができるはずがない
のにです。
 第2は、衛星の一端に開いた真円のクレーターの存在です。このクレーターの直径は
フォボス自身の直径の3分の1におよんでおり、大きさにしても、真円というかたちか
らしても、とても自然に形成されたものとは思えないのです。
 加えて、地表のすべての溝がこのクレーターから流れ出たように、もしくは流れ込む
ようなかたちで走っているのを見ても自然とはいえないのです。このクレーターは天体
の内部に通じる間口部なのでしょうか。       ・・・[火星の研究/14]


     ≪画像および関連情報≫
      ・火星の第一衛星(内側の軌道を回る衛星)で、長軸の直径は
       27キロメートルと非常に小さい。1877年にA・ホール
       (1829〜1907)によって、もう一つの衛星デイモス
       (ダイモスとも言う)とともに発見された。いずれもじゃが
       芋に似た形をしており、火星の引力にとらえられた小惑星と
       考えられている。1977年、火星探査機ヴァイキング1号
       が500キロメートルまで接近して撮影した画像によると、
       クレーターの多い岩石の表面をしていることがわかった。ス
       ティックニーは最大のクレーターで、火星の直径の1/3を
       占める。

果たして何の影か

2008年07月28日

シドニア地区の立体構造物の正体(EJ第1536号)

 1975年の夏のことです。NASAは火星の周回軌道に向けて2機の無人探査機を
打ち上げています。ヴァイキング1号と2号です。1976年の夏にヴァイキング1号
は探査機が火星の周回軌道に達し、7月20日に同探査機から発射された着陸船が火星
の地表に降り立ったことは既にお話しした通りです。
 さて、火星の赤道から見て約41度北に「シドニア地区」と呼ばれる荒地があります
。探査機が35回目の軌道周回を行ったさい、このシドニア地区を撮影した写真を送っ
てきたのですが、その中に驚くべきものが写り込んでいたのです。
 35回目の軌道周回で撮影された写真は全部で72枚あるのですが、その中の1枚に
「35A−72」と名づけられた写真があります。添付ファイルの写真Aがその「35
A−72」です。
 その「35A−72」には、どのように見ても人間の顔としか思えない形状をした台
地が写っているのです。その台地には、矢印を付けておきました。そして、その台地を
拡大したのが写真Bです。どうでしょうか。その幅は1.6キロもありますが、どう見
ても人間の顔にしか見えません。
 この火星の顔のことを「人面岩」というのですが、この岩に最初に気が付いた人物が
トビー・オーエンという人です。オーエンはNASAが画像処理を依頼している「ディ
ープ・スペース・ネットワーク」の画像処理班の一人です。オーエンは続いて火星に飛
来してくるヴァイキング2号の安全な着陸地点を大きなルーペで探しているときに偶然
に人面岩を発見したのです。
 オーエンは驚きの声を上げて周りにいる人にその写真を見せましたが、幅が1.6キ
ロもある人の顔が火星表面にあるはずがないという常識的な考え方で、この顔の存在を
否定してしまったのです。かくして、いわゆる火星の人面岩論争が始まるのですが、そ
の決着はいまもってついていないのです。
 オーエンが声をかけた一人にジェリー・ソフェン博士がいたのですが、彼は記者団に
この「35A−72」を見せて次のようにいったそうです。
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       光と影は、ときとしてとんでもないものを造りだしてしまう
      ようです。これが人間の顔のように見えるのは、光が当たった
      角度によってできた陰影が原因と思われます。数時間後に同じ
      地域を撮影した写真には、このような構造物はまったく写って
      おらず、ごく普通の台地が写っているだけでした。
                     ――ジェリー・ソフェン博士
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 ソフェン博士が行った記者会見の記者席に後にこの人面岩の権威といわれる存在にな
るリチャード・C・ホーグランドがいたのです。彼はそのとき「アメリカン・ウェイ」
誌の記者という資格でその記者会見に参加していたのです。
 とくかく博士と名乗る人物が「光と影のいたずら」といえば、情報もなく、知識もな
い人間はそれに一応納得するはずです。ホーグランドも博士の説明に納得した一人です

 さて、人面岩の発見と検証について抜きには語れない次の2人の人物がいます。
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      ヴィンセント・ディピエトロ ・・・・ 画像処理の専門家
      グレッグ・モレナー ・・・・ コンピュータ・サイエンス
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 ヴィンセント・ディピエトロは、14年以上にわたる画像処理及びデジタル技術の専
門家ですが、彼は『地球外生命体考古学』というタイトルの付いた小冊子で火星の人面
岩をはじめて見たのですが、そのときはあまり関心を持たなかったのです。
 それから2年半後に、メリーランド州グリーン・ベルトにあるNASAのゴダード宇
宙飛行センター内に設置された国立宇宙科学センターで同じ人面岩の写真を見つけたと
き、彼はそれを不思議に感じたのです。なぜなら、NASAが何の意味もなく、写真を
保存するはずがないからです。
 NASAは、既にジェリー・ソフェン博士によって、その写真は「光と影のいたずら
」と片付けてしまっており、本当にそうであればそんな写真を残しておくはずがないか
らです。
 ディピエトロは、友人のグレッグ・モレナーにこのことを相談したところ、モレナー
もその写真に興味を持ち、空いている時間を利用して一緒に調べてみることにしたので
す。
 検証の方法は、コンピュータによる画像処理で、画面内にある被写体の輪郭を際立た
せ、全体像をより明確にするという方法なのですが、画質向上のために何回も試行錯誤
を繰り返した結果、通常NASAが画像解析に用いる手法とは異なる新技術の開発に成
功したのです。この手法を「SPIT」といいます。
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      SPIT = Starburst Pixel Interleaving Technique
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 このSPITという手法によって人面岩画像の検証作業を進めた結果、幅1.6キロ
の台地が人間の顔を思わせる完全な左右対称構造であることがわかったのです。太陽光
が当たっていなかったため影