超巨大小売業IKEA成功の秘訣を探る/その5/0121号
●スウェーデンを脱出するカンプラード
IKEAのストックホルム店が大成功を収めた1970年代の前半において
カンプラードはヨーロッパ大陸へのIKEAの進出を考えていたのです。その
初出店先はスイスと決めたのです。
しかし、スウェーデンの企業が外国で仕事をするのは容易なことではなかっ
たのです。スイスで持ち出せる資金は500万クローネの制限があり、おまけ
にスイスで稼いだ利益はスウェーデンに送らなければならなかったのです。
500万クローネでは家具店の建築費が出ないので、借金嫌いのカンプラー
ドもスイスでは融資を受けなければならなかったのです。
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外国で投資をしたことがカンプラードに決定的な転機をもたらした。スウェ
ーデンの法律は、彼が国内で儲けた金を海外で好きなように投資するのを許
さなかった。そのためカンプラードは企業家としての自由が制限されている
と感じた。これは要するに、ストックホルムの政治家や役人が勝手に決めた
ことにイケアが縛られているということだった。
――リュディガー・ユングブルート著/瀬野文教訳
『IKEA/超巨大小売業、成功の秘訣』 日本経済新聞出版社刊
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このことが契機となってカンプラードは、スウェーデンにIKEAの親会社
と事務総局を置くことをあきらめ、一家でスウェーデンを離れることを決めた
のです。この国では企業家に対してしかるべき敬意が払われていない――カン
プラードはそう考えたのです。ドイツ人作家ハンス・マグヌス・エンツェンス
ベルガーは、当時のスウェーデンについて次のように書いています。
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スウェーデンのような社会では、金持ちは面白くないだろうと思われる。い
やまったく、税金だけならまだしも我慢ができただろう。たとえ不承不承に
せよ、彼らとてやはり立派な市民として、税金だけはきちんとおさめるつも
りでいるのだから。だがそれよりも彼らの自尊心を傷つけるのは、誰一人と
して彼らの運命に理解を示さないことである。
――リュディガー・ユングブルート著/瀬野文教訳の前掲書より
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要するに、金持ちが邪魔者扱いされ、さげすまれ、排除される国になってし
まっていたのです。なかでもカンプラードが一番心配していたのは相続税の問
題です。当時のスウェーデンの税法では、相続者は遺産全体のわずか35%し
かもらえず、残りの65%は税務署に持っていかれたのです。
これから逃れるのは、カンプラード一家が半永久的にスウェーデンを離れる
しかない。カンプラードは妻や弁護士と相談した結果、とりあえず隣の国であ
るデンマークに移ることにしたのです。
1973年、準備を整えて、カンプラード一家はデンマークに移住します。
その時点で既にIKEAは、従業員を1000人を抱える家具商に成長してお
り、その企業価値は1億6000万クローネに達していたのです。
●IKEAの経営バイブル「ある家具商人の遺言」
カンプラードは、スイスを手始めとして、フランス、ドイツ、デンマークな
ど、ヨーロッパのほぼ全域に出店攻勢をかけたのです。このようにビジネスが
拡大していくと、当然のことながら、すべてをカンプラードが企画・決定・管
理をすることが不可能になります。
そこでカンプラードは、それぞれの国の店舗の責任者となる幹部社員たちの
ために、「ある家具商人の遺言」というタイトルのIKEAKの経営バイブル
書というべきものを書き始めるのです。そのとき彼はまだ50歳に手が届いて
いなかったのです。それはまさにカンプラードの企業に対する考え方や経営哲
学そのものであったのです。
カンプラードは、企業は金儲けの手段ではなく、職業はけっして、生活の糧
を得るためだけのものではないと説き、働くということについて次のように述
べています。
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だが働くよろこびがなければ、人生の三分の一は失われたも同じである。そ
の喪失感は、机の引き出しからマンガ本を取り出して読んだところでけっし
て埋まらないだろう。人間の幸福というのは、目的を達することにあるので
はなく、実現するまでの過程が幸せなのである。 ――上記前掲書より
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卓越なる企業経営者の至言には似ているものが多いものですが、カンプラー
ドの場合、他の経営者とは異なっています。企業の目的を果たすための資金の
調達についてカンプラードは「ある家具商人の遺言」で次のようなユニークな
ことをいっています。
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そのために企業は資金を必要とするが、それは自分で手に入れなければなら
ない。銀行から金を借りるとか株主から資金を集めるなどは論外である。資
金を調達する場合も信頼できるのは自分だけだ。 ――上記前掲書より
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