新しいタイプの帝国/拡大EU/0017号
●EUは新しい型のローマ帝国である
欧州連合(EU)が拡大化を加速させています。2004年5月1日を機に
いわゆる拡大EUがスタートしたからです。中・東欧8ヶ国と地中海2ヶ国の
計10ヶ国が加わり、全25ヶ国、約4億5000万人、約10兆ドル市場と
いう空前の規模を誇っています。
さらに2007年にはルーマニアとブルガリアが加盟予定となっています。
このうちブルガリアについては、汚職や組織犯罪流入の懸念があり、必ずしも
すべてのEU加盟国が賛成というわけではないのですが、ブルガリアが加盟し
ないと、バルカン半島が安定しないとして、イタリアが強力にバックアップし
ており、加盟は承認される見通しです。
さらに、2013年から15年にかけて、西バルカン5〜6ヶ国、イスラム
の大国トルコが加盟予定であり、この動きは加速して、ノルウェー、スイス、
アイスランドも加盟する可能性があるのです。したがって、加盟国が30ヶ国
を超えるのは時間の問題といわれます。
一方北大西洋条約機構(NATO)についても2004年3月末には7ヶ国
の最終加盟が決定され、26ヶ国体制が既にスタートしています。NATOに
はルーマニア、ブルガリアも加盟し、旧東ヨーロッパでは旧ユーゴスラヴィア
を除くすべてがヨーロッパに回帰し、欧米の安保体制に組み込まれたのです。
最近このEU/NATOの拡大についてローマ帝国に類似しているとよくい
われます。確かに2004年以降のEU/NATOの拡大は、歴史上最大のヨ
ーロッパの領土を、戦争によらず、平和的に、かつ各国の自由意志に基づいて
同一の構造の下に統合する――そういう壮大な作業であり、大きな歴史的意義
を有しているといえます。
中央に強い求心力を持ち、そのパワーで周辺国を引き込み、安定化を図ると
いう発想は、ローマ帝国の拡大戦略と同じ発想であるといえます。ベルギー国
際関係王立研究所のドスクーテート氏と筑波大学の鈴木一人助教授は、EUに
ついてそれぞれ次のようにいっています。
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・EUとローマ帝国はともに周辺国への拡大を原動力とし、共通の法体系で
地域統合を進める点で共通している。 ――ドスクーテート氏
・EUは経済のグローバル化に伴う新しい型の帝国である。武力の代わりに
規制を使って周辺地域に影響力を行使するのである。――鈴木一人助教授
2006年8月1日付、日本経済新聞より
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●もはや英独仏がヨーロッパではない
「EUの拡大」は、「ヨーロッパ」の概念の問い直しにつながります。どこ
までがヨーロッパなのか、ヨーロッパとは何かという命題です。近代以降、一
般的に「ヨーロッパ」といえば、西ヨーロッパに代表される地域のことです。
ヨーロッパの復興と統合は冷戦のはじまりとともにヨーロッパの西半分の先
進国が統合し、ソ連を敵としてはじめられたのです。そのため、1947年か
ら開始された米国によるマーシャルプラン――ヨーロッパ復興援助計画は、当
初は多くの戦争犠牲者を出し、ヨーロッパにおいて最も経済支援を求めていた
戦勝国ソ連や中・東欧諸国を含むものだったのに対し、ドイツを戦略的に西側
に取り込む必要性から、敗戦国ドイツを取り込み、戦勝国ソ連および社会主義
陣営を排除するというかたちで行わざるをえなかったのです。
つまり、戦後のヨーロッパ復興という計画は、自由主義陣営の経済的再編と
いうかたちで行われたのです。一方NATOに関しては、1949年に12ヶ
国によってはじめられた後、1952年にギリシャとトルコ、1955年には
西ドイツ、1982年にはスペインが参加して、西側の軍事機構が完成してい
るのです。
そして1989年の米ソ冷戦の終結宣言――これを契機にEUは拡大化に向
けて一気に動き出したのです。その求心力の源泉になったのは、何といっても
フランスとドイツの協調と連携の強化です。これがあるからこそ、EUの拡大
化が現実化したのです。この強固な絆はあのイラク戦争反対においても一致し
て反対の姿勢を押し通したことでも確認されています。
もともとドイツとフランスは、それぞれの政治、行政、社会において大きな
相違点があります。とくにフランスは、戦勝国としてドイツに対して優位な立
場に立ち、あのド・ゴール大統領にいたっては、ドイツと対等の立場に置かれ
ることを極端に嫌っていたのです。フランスが核武装をしたのも、ドイツとの
違いを鮮明にしたかったというのが動機であったといわれます。
そのフランスとドイツがニクソンショックのあたりから過去の恩讐を捨てて
手を結び、それが現在の拡大EUにつながったのです。しかし、経済格差の大
きい中・東欧諸国がEUに加盟することによっていろいろな問題が起こること
は確かです。ましてトルコまで加盟するとなると、またしても「ヨーロッパと
は何か」が改めて問い直さなければならなくなるはずです。
もはやヨーロッパは英独仏ではないのです。EUとアジアの地域協力におい
て、日本はどのような役割を果たすべきか――中国が経済力とともに軍事力を
含めて台頭しつつある中で、日本は政治面、安全保障面、文化面でグローバル
時代の独自のビションを示す必要があります。 以上
