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2006年10月30日

音声通話の定額制をめぐる仕掛けと駆け引き/0029号

●「予想外割」で価格破壊を仕掛けるソフトバンク

 2006年5月18日のことです。東京・汐留において、ソフトバンクの携
帯電話事業におけるブランド名披露記者会見が行われていたのです。孫社長が
巧みなスピーチでプレゼンテーションを進めるなかで、30分が経過するころ
から多くの記者が中座して会場を去って行ったのです。
 おそらく孫社長は複雑な思いで中座する記者の背中を見ていたに違いありま
せん。ソフト・バンクの主催する過去の記者会見において、そういうことはか
つてなかったことだからです。一体彼らはどこに行ったのでしょうか。
 記者たちの向かった先はあの六本木ヒルズ――同じ日の午後2時30分から
au(KDDI)によるグーグルとの業務提携記者会見が行われる予定になっ
ていたのです。会場には大勢の記者が詰めかけており、立ち見が出るほどの盛
況だったのです。記者たちにとっては、ウェブ2.0ブームの中において、業
績好調なauとグーグルが何をやろうとしているのかについて、大きな関心が
あったに違いないのです。
 その孫社長が「番号ポータビリティ制」がスタートする前日の23日、急遽
記者会見を行い、「予想外割」なる仰天サービスを発表したのです。「予想外
割」とは、基本料金を払えば、ソフトバンク加入者間の通話や250字以内の
ショートメールは無料とする――そういう内容だったのです。やっぱりソフ
トバンクは、ケータイにおいても価格破壊を仕掛けてきたのです。
 おそらく孫社長は、5月18日の記者会見のときから、10月23日にそう
いう発表をするつもりで、構想を暖めてきたものと思われます。ソフトバンク
はボーダフォンを1兆7500億円で買収したことから、ケータイの価格破壊
を一挙に仕掛けてこないだろうというのが大方の見方であり、ソフトバンク自
体もそういうポーズをとってきただけに大きな反響を呼んだのです。

●独自の存在としてウィルコムがある

 ソフトバンクの「予想外割」で留意すべきことがあります。それは、ソフト
バンク加入者間の音声通話が無料になるという点です。もちろん、これには、
午後9時から午前1時までの時間帯は月200分までという条件がついていま
すが、それ以外の時間帯は同じソフトバンクの加入者同士であれば、時間を気
にしないでゆっくり話せるのです。
 ケータイは定額時代といわれますが、それはデータ通信――パケット定額制
のことであり、音声通話の定額制ではないのです。そのため、この音声通話の
定額制が今後ケータイ各社の競争の焦点になってくると思われます。
 もともとソフトバンクには「LOVE定額」というサービスがあります。こ
れは恋人など特定のひとりの相手と話す場合に定額になるというもの、今度の
場合は同じソフトバンクの加入者間はすべて定額(基本料金のみ)になるとい
うのですから、大きな変化であるといえます。
 NTTドコモにも「カケ・ホーダイ」というサービスがあります。これは5
人と会話ができますが、トランシーバーのように片通話しかできないので、使
い勝手はお世辞にも良いとはいえません。
 ところが、かなり満足のいく音声通話定額サービスを既にやっている企業が
あります。その企業の名前はウィルコム――同社の「ウィルコム定額プラン」
がいま、大変な話題を呼んでいるのです。音声通話定額の始祖なのです。
 どういうサービスかというと、月額2900円でウィルコム間のユーザ同士
であれば、無料で音声通話ができるというものであり、制限などは一切ないの
です。毎日、いくら話しても無料ですから、カップルや女子高校生を中心に利
用が広がっており、最近では法人も使い始めているのです。
 ところでこのウィルコムという企業をご存知でしょうか。
 ウィルコムは、もともとKDDI系のDDIポケットというPHS最大手企
業だったのです。しかし、業績は芳しくなく、2004年10月に外資が入っ
て資本構成が変わり、2005年1月に現在の八剣洋一郎氏が社長に就任して
から業績は急速に伸びはじめたのです。
 ウィルコムの特徴はあくまでPHSであることです。かつてPHSは「つな
がりにくい」という問題点があったのですが、ウィルコムは10年の年月をか
けて、基地局を16万局に増やし、つながりにくいという評価を「どこでもつ
ながる」という評価に変えてしまったのです。
 この基地局16万という数は、NTTドコモのFOMAの基地局が約4万局
であることを考えるとき、いかに多いかわかると思います。さらにウィルコム
は、それまではNTTの回線を借りて実現させていたバックボーン(通信事業
者間を結ぶ大容量の基幹通信回線)を独自のIP網を構築して進化させ、安定
した通信を実現させているのです。
 もともとPHSはデータ通信に強く、音質はクリアで、電磁波の影響が少な
いなどの多くの特色があります。データ通信に強いところからその端末もケー
タイというよりもPDAか小型PCという印象が強いのです。最新の端末W−
ZERO3「es」には「ウインドウズ・モバイル5.0」が搭載されており
PC的な使い方ができるからです。
 このようにウィルコムは注目のマトですが、途中で資本構成が変わった経緯
から、今回の「番号ポータビリティ制」の対象外になっています。既に400
万人以上のユーザがおり、総務省の対応が注目されるところです。   以上

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