吹きこぼれ対策が弱い日本の教育/0043号
●「吹きこぼれ」とは何か
2006年10月10日に安倍内閣が教育再生会議を閣議決定して以来、日
本では教育に関する議論が盛んです。そういう教育に関する用語の中で「吹き
こぼれ」という言葉があるのをご存知でしょうか。
教育関係者でもない限り、「落ちこぼれ」は知っていても「吹きこぼれ」を
知っている人は少ないと思います。「吹きこぼれ」とは、次のような現象をい
うのです。
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「吹きこぼれ」は「落ちこぼれ」の対義語として使われるもので、生徒の学
力が授業より高いため、勉強がつまらなくなり、やる気をなくしたり、ドロ
ップアウトしてしまうことである。
――『月刊アスキー』/2007・3月号「特集2」より
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成功者は回顧談として「学生時代は落ちこぼれだったんですよ」という人が
多いですが、多くの場合、彼らは落ちこぼれではなく、学校が彼らの能力を十
分フォローできず、吹きこぼれた結果なのです。
一般的に、上位層と下位層はそれぞれ2割、中間層は6割といわれますが、
高校を含む義務教育では、中間からその下の層を気にして、落ちこぼれが出な
いよう教育するが、上の層についてはあまり意を払っていないというか、手が
回らないのが現状であるといえます。
本来は中・下位層から落ちこぼれを出さないようにするかたわら、高い能力
が周囲の環境と合わない層のフォローを十分行い、吹きこぼれを出さないよう
にすることが必要なのですが、日本の教育はこの面が弱いといえます。それぞ
れ焦点をあてる層は次のようになります。
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2割 ・・・ HIGH ――
I― 大学(院)で焦点をあてる層
6割 ・・・ MIDDLE ――
I― 小・中・高で焦点をあてる層
2割 ・・・ LOW ――
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政府は2006年3月に「第3期科学技術基本計画」を閣議決定し、推進し
ています。その基本理念には、資源や人数が生み出す富から、人材が生み出す
富へのシフトが謳われています。具体的にいえば、日本でもマイクロソフトや
グーグルを創り出せる人材の育成に、国家が急務として取り組むということを
意味しています。そのためには、落ちこぼれを出さないようにするとともに、
吹きこぼれもなくすことが重要なのです。
●上位層の2割をさらに伸ばすプロが必要である
東京大学先端科学技術研究センター特任教授である妹尾堅一郎氏は、「教育
とは学習者の創造である」と位置づけ、教育の目標について次の2つのチェッ
クポイントを使って明快な説明をしています。
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みんなと同じことがいえるか
みんなと違うことがいえるか
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みんなと同じことしかいわない人を「凡人」、みんなと違うことしかいわな
い人は「変人」、そして、凡人、変人ではなく、みんなと同じことを踏まえつ
つ、違うこともいえるバランスのとれたミドルクラスを育てることが教育の目
標である――妹尾教授はこのようにいっています。
しかし、日本では小学校から大学まで「みんなと同じことがいえるか」を問
うてばかりいるのです。大学の試験ですらそうなのです。大学院になってはじ
めて、他人と同じことをいいつつ他人と違うオリジナルな知見――独創的知見
の創出が求められるのです。これでは遅いと妹尾教授はいうのです。
小学校から高校までは、落ちこぼれを出さないようにミドルとローの層に配
慮すべきですが、大学や大学院そして社会人教育になると、下層を気にしては
いけないのです。オリジナリティ性の高い上の層が吹きこぼれを起こしてしま
うからです。そして、最も多いミドルの層から上に行くか下に行くかはまさに
教育者の努力にかかっていることになります。
現在、日本では難関を突破して入社した若者がわずか3年でやめてしまうこ
とが問題になっていますが、これも一種の吹きこぼれ現象なのです。そういう
優秀な頭脳を使いこなせる先輩や上司がいないことが大きな原因のひとつであ
るといわれています。
妹尾教授は、才能が高度なプロを使い切るプロフェッショナル――ジェネラ
リストが必要であるといっています。ジェネラリストというと、日本では何で
もこなせる事務のベテランというイメージですが、ジェネラルとは「将軍」の
ことであり、陸海空全軍の有能なプロフェッショナルを使い切る能力のある人
という意味なのです。
落ちこぼれとともに吹きこぼれを出し続けている日本の教育――これで世界
に伍していけるのでしょうか。 以上
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