リクルートのDNAはいかに育てられたか/0058号
●自由闊達な企業風土はどうして生まれたか
いま、経営者――とくにベンチャー経営者の間で次の本が話題となっており
書店で好調に売れているそうです。リクルートの創業者であり、ベンチャーの
先駆けといわれる江副浩正氏の最近の著作です。
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江副浩正著/角川ONEテーマ21
『リクルートのDNA――企業家精神とは何か』
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よくカリスマ経営者の「○○語録」という本が出版されています。これらは
その経営者が日々口にしている言葉を誰かが語録として書きとめたものがほと
んどであり、本人が文章にはしていないのです。
江副氏自身は自らカリスマ性はないといい、シャイな性格で人前で話すこと
が苦手だというのです。そのため、自分の思いや経営に関するスタンスについ
ては「社是」や「社訓」あるいは「心得」などとして、自ら文章にし、それを
社員教育の教材として使っているのです。
自分の考え方を文章にして社員に伝える――この江副流のやり方が結果的に
リクルートに共同経営体意識という独特の企業風土を生むのに役立ったと江副
氏は述懐しているのです。いまやリクルート出身者が日本の上場企業20数社
の社長をしており、リクルートは人材輩出企業とまでいわれているのです。
リクルートの企業風土に対して多くの人々が持っているイメージは「自由闊
達」ということであろうと思います。そういう風土はどのようにして生まれた
のかといえば、徹底的な「現場主義」であると江副氏はいいます。
リクルートはゼロからの起業であり、江副氏はすべてを自分ひとりでやらな
ければならなかったのです。この場合、経営者は仕事の現場の隅々まで知って
いる必要があると考え、社内をくまなく回って現場の社員との対話を大事にし
たというのです。また、リクルートは他社のあとを追わずに、これまで誰もや
っていないことをするという経営スタンスに立っているので教わる人がいない
――そこで江副氏はお客様を先生にして学ぶことにしたのです。それも単に教
わるだけではなく、自分の意見をちゃんと持ったうえでお客様から学ぶ――こ
ういう経営姿勢が現場主義であり、これがリクルートにみなぎる自由闊達な企
業風土として実ったのです。
●リクルートのDNAはいかにしてつくられたか
江副氏は19歳で東大在学中、東大新聞の広告のコミッションセールスマン
になり、その仕事をもとに23歳でリクルートを創業したのです。以来29年
間リクルートの発展に尽くしたのですが、コスモス株譲渡事件をきっかけにリ
クルートを退社したのです。
そのとき、リクルートグループ全体で1兆8000億円余りの借入金があり
リクルートは危機に陥ったのです。しかし、あとにつづく社員が懸命に働いて
危機を乗り越え、毎年1000億円余りの利益を出し続けて遂に借金を返済し
てしまったのです。そして、リクルートは無借金会社となり、売上高利益率が
30%を超える超優良企業に甦ったのです。このようにリクルートのビジネス
モデルとDNAは現在も生き続けているのです。
江副氏はどのようにしてそのDNAをリクルートに残したのでしょうか。
江副氏が経営をするに当たってヒントを得たのはP・F・ドラッカーの『現
代の経営』なのです。そこには組織を効率的に機能させる方法について、多く
のヒントがありますが、なかでもPC――プロフィットセンター制と称するマ
ネジメントのシステムなのです。
これにヒントを得た江副氏は、会社の中に会社(PC)をたくさんつくり、
そこに大幅な権限を委譲したのです。このPC制を導入したことで、社員一人
ひとりが自発的に仕事をする風土が生まれ、そのなかで経営者が育って、リク
ルートは高収益企業になっていったのです。江副氏は、このリクルートのPC
制を「社員皆経営者主義」と呼んでいます。
これによって「リクルートは商売の勉強ができる会社」ということが学生の
間で評判になり、企業家精神旺盛な人材が積極的に入社してくるようになった
のです。そしてPC制のもと、組織は自己増殖と細胞分裂を繰り返して、江副
氏に関係なく、社員が互いに競争しつつ成長するようになっていったのです。
リクルートでは、社員が退職することを「卒業」といい、それぞれの「卒業
式」はホテルの宴会場などで会費制で行われるようになっています。リクルー
トの定年は他の企業と同様に60歳ですが、実際には50歳前後で卒業する人
がほとんどなのです。社員が早期に退職できる背景には、早期退職割増金制度
や社員持株制度、フレックス定年制度などが早くから設けられており、これが
起業家を育てているのです。
江副氏自らが書いた「江副語録」にはなるほどと思われるものがたくさんあ
りますが、あるリクルートの卒業生に聞いた次の言葉はきわめて印象的です。
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時間はお金では買えないが、買える時間はできるだけ買いなさい
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例えば、タクシーに乗るのはコストがかかりますが、それによって時間が節
約できるならそれを利用する価値は十分あるという意味です。 以上
