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2008年05月19日

ビジョナリー・カンパニーを解明する/その2/0107号

●企業そのものが究極の作品である

 ビジョナリー・カンパニーというと、最初からすばらしいアイデアに基づく
明確なビジョンを持って設立された企業というイメージがありますが、まった
くそうではないのです。
 ヒューレッド・パッカード(以下、HP)の創業者の一人であるビル・ヒュー
レッドは、創業時(1938年)を次のように振り返っています。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 たまに、ビジネス・スクールで講演する機会があるが、会社をはじめたとき
 に、なんの計画もなく、臨機応変になんでもやったというと、経営学の教授
 はあぜんとする。わたしたちは、カネになりそうなことは、なんでもやって
 みた。(一部略)たった約500ドルの資本金しかなかったから、だれかが自
 分たちにできそうだと考えたものは、なんでもやってみた。
     ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス著/山岡洋一訳
         『ビジョナリー・カンパニー』/日経BP出版センター刊
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ヒューレッド・パッカードだけではないのです。ソニーもそうなのです。ソ
ニーの創業者井深大が1945年8月に会社を設立したとき、具体的な製品の
アイデアはなく、井深と7人の社員は、会社がはじまったあとで、どんな製品
を作るかについて数週間をかけて意見を交換しているのです。
 これに対してテキサス・インスツルメンツ(以下、TI)の創業者はHPと異
なり、最初からしっかりとした技術を持ち、的を絞ったビジネス機会をとらえ
ようとして会社を設立しています。ケンウッドの創業者は井深のソニーと違い
音響技術を専門とし、その分野のパイオニアでありたいとして、1946年に
会社を設立しています。
 TIにしてもケンウッドにしても、現在も存続しており、それだけでも成功
企業であることは間違いないのですが、HPやソニーに比べるとそのスケール
という点においては大きな差があり、それぞれビジョナリー・カンパニーと比
較対象企業に分かれているのです。
 それでは一体どこが違うのでしょうか。
 簡単にいうと、TIとケンウッドは企業というものを技術や製品やサービス
などの手段と考えているのに対し、HPやソニーは技術や製品やサービスを企
業の手段と考えている点にあります。つまり、HPやソニーにとっては企業そ
のものが究極の作品なのです。

●時を告げる予言者になるな、時計を作れ

 前回述べたコリンズとポラスによるビジョナリー・カンパニーの定義の中に
次のフレーズがあります。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
   重要な点はビジョナリー・カンパニーが組織であることである
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 いつどんなときでも正確な日時を言える珍しい人がいたとします。この人物
は時を告げる驚くべき才能の持ち主であり、その才能によって多くの人の尊敬
を集めるはずです。しかし、その人が時を告げる代わりに時計を作ったとすれ
ば、その人がこの世を去った後でも後世の人に永遠に尊敬される存在になるは
ずである――「時を告げる予言者になるな、時計を作れ」――コリンズとポラ
スはこういっているのです。
 創業時にすばらしいアイデアを持っていたり、明確なビジョンを持つ人はカ
リスマ的指導者であり、これは「時を告げる予言者」に該当します。これに対
して、一人の指導者の時代をはるかに超えて、いくつもの商品のライフサイク
ルを超えて繁栄し続ける会社を築くのは「時計を作ること」なのです。
 コリンズとポラスによると、ビジョナリー・カンパニーの創業者は、概して
「時を告げる予言者」のタイプではなく、「時計を作る」タイプに属するとい
うのです。彼らにとって最も大切なことは、「時計を作る」ために会社を築く
ことなのです。
 ビジョナリー・カンパニーのGEとその比較対象企業であるウエスチングハ
ウスの例を取り上げます。ウエスチングハウスの創業者、ジョージ・ウエスチ
ングハウスは深い洞察力を持つすばらしいエンジニアであり、発明家であって
ウエスチングハウス以外にも59の会社を設立しているのです。彼の開発した
交流方式は米国市場に幅広く普及したのです。
 これと対照的にGEの創業者であるチャールズ・コフィンは、何も発明して
いないのですが、きわめて重要な革新を起こしています。アメリカ初の企業研
究所であるゼネラル・エレクトリック研究所の設立です。これによって、長い
年月にわたって次々と新しい製品が生み出されたのです。これぞ組織です。
 すなわち、ジョージ・ウエスチングハウスは時を告げ、チャールズ・コフィ
ンは時計を作ったのです。ウエスチングハウスの最高傑作は交流方式であり、
コフィンのそれはGEだったのです。
 ビジネス・スクールでは、経営戦略や起業に関する講義で、何よりもまず、
すばらしいアイデアと、綿密な製品・市場戦略を出発点とし、次に、「機会の
窓」が閉まる前に飛び込むことが大切であると教えるのですが、ビジョナリー
・カンパニーを築いた人はそうではなかったのです。         以上

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