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2012年02月06日

旧正月

   KRN株式会社『The Daily Korea News』チーフアナリスト 三木英明

 日本では年始回りに忙しい1月。この時期、韓国の日本人駐在員や出張者は
何とも微妙なモヤモヤ感におそわれます。理由は新正月と旧正月の狭間です。
 前回もご案内した通り、韓国では1月1日の新正月より旧正月(今年は1月
23日)を祝う風潮があります。そのため新正月から旧正月のこの期間は、日
本的に言えば「年始回り」の時期にもかかわらず、韓国では年末のご挨拶回り
の時期でもあるからです。
 韓国人同士の挨拶はストレートに「よいお年をお迎えください」で済むので
すが、相手が日本人となると先方も気を使って、冒頭「新年おめでとうござい
ます」でスタートし、帰りがけには「よいお年をお迎えください」となり、何
とも不思議な感覚になるのです。
 旧正月は1月20日ごろから2月20日ごろまでの間で毎年変動します。こ
のためモヤモヤ期間は年によって3週間から最大7週間ほどになります。今年
は1月23日なので最短の3週間ですが、それでもこの3週間はモヤモヤの連
続なのです。
 不思議なことに韓国では、旧正月と秋夕(お盆)の「2大名節」だけは旧暦
で祝い、その他の祝日は新暦で祝います。旧正月は家族が一堂に会して1年の
幸福を祈念し、秋夕は墓参で先祖と共に1年の収穫を祝う。まさに農耕民族ゆ
えの季節感あふれる思い入れの深い祝日といえます。事実、いずれも前後合わ
せて3日間が国民の祝日になっていますが、これはあくまで表向きで、実際は
故郷に帰る民族の大移動があり、「旧正月ウィーク」「秋夕ウィーク」といっ
て都市部では1週間くらい仕事にならないというのが実情です。事実、今年も
1月20日の金曜日午後から民族の大移動が始まり、各地の高速道路は深夜ま
で帰省するマイカーで大渋滞だったそうです。
 しかしその一方で、最近の旧正月が一時に比べて様変わりしたことも否めま
せん。その昔、1980年代の旧正月をソウルで過ごしたことがありますが、
当時はソウル市内のほとんどの店がシャッターを下ろし、まるでゴーストタウ
ンのような寒々しい光景だったことを覚えています。ところが最近の韓国は、
田舎を持たない都市生活者や核家族化が増えたせいでしょうか?いつもと変わ
らず店を開ける商店や海外旅行に出かける家族連れが増えるなど、旧正月の風
景も大きく変化してきました。今年の旧正月も厳しい冷え込みにはなったもの
の大型スーパーは平常通りの営業で、ゴーストタウンとは程遠いものでした。
 ところで韓国語で「あけましておめでとう」は、「セヘ・ポク・マニパドゥ
セヨ!」(福をたくさん受けてください)。旧正月を迎えた今、今度こそすっ
きりと「みなさん!セヘ・ポク・マニパドゥセヨ!」。

ロッテホテル

2011年12月19日

年の瀬風景

   KRN株式会社『The Daily Korea News』チーフアナリスト 三木英明

 韓国では12月の声を聞くとホテルやデパート、ショッピングモールなどに
華やかなXマスイルミネーションがほどこされ、街全体が一斉にXマスモード
に突入します。これ自体は日本でもよく見かけられる光景ですが、「街のあり
とあらゆる所に」というスケールでは韓国のほうが遙かに上でしょう。
 というのも韓国人のほぼ半数はキリスト教徒で、正月よりXマスのほうが市
民権を得ているのです。また韓国では元々1月1日の新正月より旧正月(来年
は1月23日)を祝う風潮があり、これもXマス重視に拍車をかけています。
実際、多くの企業は1月1日を一日だけ休みにし、2日からふだん通り仕事を
始めます。ちなみに今年はカレンダーのいたずらで、大晦日は土曜日、来年の
正月は日曜日。日本のように年越しを正月休みで祝うという感覚などなく、ふ
だんの週末と変わらない味気ないものになりそうです(ただし旧正月は日本同
様連休になります)。
 とはいえ、何かにかこつけてはお酒を飲みたがる韓国人。毎年この時期にな
ると「忘年会」「送年会」といった楽しい響きのお誘いが急増します。しかし
世界的な不況感や韓米FTA(自由貿易協定)批准に揺れる今年の韓国はどう
も様子がおかしいようです。
 あるウイスキーメーカーが30〜40代の中堅サラリーマン(980人)に
聞いたところ、今年の忘年会の予定は3〜4回が65%で最も多く、1〜2回
を含めるとほぼ9割が4回以下と例年に比べて明らかに回数が減っています。
しかも日頃は連帯感の醸成やチーム活性化を名目に食事会や2次会に多額の会
社補助をつけていた大手企業も、「翌日の仕事に支障が出る」(実際は経費節
減目的)として2次会の自粛を呼びかけ、食事会だけで終わる忘年会が増えて
いるそうです。これでは若手はさぞ不満だろうと友人の部長に聞いてみたとこ
ろ、「最近の若者は個人主義の高まりで2次会をいやがる」とむしろ歓迎の様
子。時代も変わったものです。
 ちなみに忘年会1回当たりの平均支出は10万ウォン(約7千円)未満が43
%で最も多く、以下 20万ウォン未満(20%)、15万ウォン未満(18%)、
5万ウォン未満(14%)の順。財布のヒモもきつくなったようです。
 例年なら寒空の下で酔いつぶれる酔客が路上をふさぎ、嬌声を上げながら闊
歩するサラリーマン集団でごった返す繁華街ですが、今年路上をふさいでいる
のはリストラに抗議する組合員の座り込み、騒いでいるのは韓米FTA批准に
抗議するデモ集団と、例年とはまったく異なる様相を呈しています。日本から
見ればまだまだ好調に映る韓国経済ですが、ここにもまちがいなく不況の波が
押し寄せているようです。

Xマスのイルミネーション(ロッテホテル)

2011年11月21日

学縁

   KRN株式会社『The Daily Korea News』チーフアナリスト 三木英明

 儒教精神で「地縁」「血縁」など「縁」を大切にする韓国で忘れてはならな
いのが「学縁」です。日本でもビジネスの場で同級生らがお互いに便宜を図り
合うという話は時々聞きますが、韓国の場合、同級生だけにとどまらず、同窓
生というだけでその親密度は計りしれないものがあります。
 ソウルの友人に、ある財閥系企業の社長に面会する方法を相談していた時の
ことです。おもむろに同窓会名簿をたぐりだした友人は、名前と卒業年次を確
認するとその場で社長に電話をかけはじめたのです。その手早さにも驚きまし
たが、もっと驚いたのは、お互いが電話口で自己紹介を始めたことです。聞け
ば友人もその社長と話をするのは初めてで、いわゆる初対面の関係だったそう
です。
 想像してみてください。いくら同窓生とはいえ、これまで一度も会ったこと
がなく、共通項といえば、同窓会名簿にお互いの名前が載っているだけの関係
で、いきなり上場企業の社長に電話をかけ、私のような全く赤の他人のアポイ
ントを依頼する友人。しかもそれをあっさり受け入れる社長。日本では到底考
えられない光景です。「なぜ?」と聞いた答えがまたふるっていました。「何
が?だって後輩だもん」。ことほど左様に韓国の学縁はディープなのです。
 韓国社会が学縁を重視するということは、裏を返せば、学縁を活かせる名門
校に受験生が集中するということでもあります。たとえば大学御三家は「SK
Y」と呼ばれるソウル大学(S)、高麗大学(K)、延世大学(Y)。高校御
三家は京畿高校、ソウル高校、景福高校でした。この3高校の1学年の定員合
計は約400人でしたが、その大半がSKYに進学するという超名門高校で、
中でも「京畿高校−ソウル大学」ルートは多くの官僚、医師、弁護士、大企業
役員を輩出し、「KSマーク」(本来はJISマーク同様、韓国工業標準規格
KSマーク)と呼ばれ、韓国屈指のエリートコースと羨望されました。
 一方、過酷な受験戦争を戦い抜いてきたエリート達のプライドにもすさまじ
いものがあります。たとえば韓国政府は、あまりに激しい受験戦争で教育格差
の弊害が出たとして1976年からソウル市と主要5都市での高校入試を成績
ではなく抽選で決める「高校平準化政策」を施行しましたが、これに抗議した
京畿高校の同窓会は、つい最近まで抽選で入学した後輩たちを同窓会員として
認めていませんでした。先輩から三行半を突きつけられたようなもので、抽選
入学者達の胸中は実に複雑だったと思います。その意味では「KSマーク」と
呼ばれるエリート達は1976年前の厳しい受験戦争を勝ち抜いた現在50歳
代以上の人たちになるのです。

延世大学キャンパス

2011年10月24日

退職金

   KRN株式会社『The Daily Korea News』チーフアナリスト 三木英明

 韓国の中小企業経営者と食事をしていた時のことです。ふだんは陽気な人が
時々なにか考え込むそぶりを見せます。理由を聞くと、長年勤務しているベテ
ラン女子社員が最近になって急に残業を増やしたり、日中ちょくちょく外出す
るなど様子がおかしいというのです。なるほど。合点がいきました。この女子
社員は転職を考えている可能性が大です。それで退職金の算定単価になる「平
均賃金」を上げるために残業に精を出しているふしがあります。
 日本に「労働基準法」があるように韓国にも「勤労基準法」があります。一
般的に韓国の経済関連法令の多くは経済先進国だった日本の法令を参考にして
作られたものが多く、内容的には概ね日本と大差はありません。極端な話、韓
国の勤労基準法がわからなくても日本の労働基準法に準じて対応していればそ
れほど大きな法解釈の誤りは生じません。しかし、こと「退職金規程」だけは
別もので、日本に比べると圧倒的に労働者優位の大盤振る舞い規定になってい
るのです。
 そもそも日本の労働基準法では、使用者側が最低限支払わなければならない
退職金額などは規定されていませんが、韓国では「最低法定退職金」という支
払い義務規定があり、しかも「勤続1年に対して30日分以上(1カ月分)の
『平均賃金』」と算定方式まで明記しています。1年以上勤務すれば最低1カ
月分の退職金が保証されるという仕組みです。
 さらにこの平均賃金というのがくせ者です。韓国では「通常賃金」と「平均
賃金」という2つの概念があります。通常賃金は毎月支払われる給与額。これ
に対して平均賃金は通常賃金に直近1年間の賞与、残業手当などを含んだ総所
得を月割り計算したもので、当然ながら通常賃金より高くなります。加えて言
えば日本のように自己都合による自主退職と会社事情による退職とで退職金の
支払い料率が異なるということもありません。まさに労働者天国です。
 何故でしょう?韓国で退職金規程が導入されたのは1961年のこと。当時
は一人当たりの国民所得が1000ドルにも達していない貧しい時代でした。
当然、失業保険など社会保障制度も整備されておらず、退職金が退職後の生活
のつなぎ資金の意味合いを持つやむを得ない側面がありました。しかし今や韓
国もれっきとした経済大国。給与水準も先進国並みに上がり、政府の失業対策
や企業の福利厚生策も格段に整備されています。それにも関わらず退職金規定
だけは以前と同じ。これでは企業側もたまりません。中小企業などでは支払い
負担が増え続け、「退職金倒産」が危惧されるほど企業経営を圧迫する要因に
なっているのです。

ソウル地下鉄

2011年09月26日

大統領の威信と竹島問題

   KRN株式会社『The Daily Korea News』チーフアナリスト 三木英明

 韓国で初の女性大統領を描いた韓流ドラマ『レディプレジデント』が大人気
になりましたが、その第1回放送分の冒頭が実に印象的でした。
 《ホワイトハウスで米韓首脳会談中に、中国領海で情報収集活動をしていた
韓国海軍の潜水艦が座礁したとの知らせが入ります。事を公にすれば韓国軍の
領海侵犯が明らかになり、国際世論の非難は免れません。と言ってそのまま放
置すれば乗組員の死は確実です。軍部は「見殺し」を主張するのですが、女性
大統領は「国民の命を守れないで何が大統領か」と一喝。首脳会談を中断し、
単身中国に乗り込み、事態を謝罪し、国家主席に救助を要請します。ところが
足元を見た中国側は「領海侵犯は韓国側に非がある」とノラリクラリの対応。
業を煮やした女性大統領は「韓国軍を出動させても救助する。その結果、中国
と戦闘状態になったとしてもやむを得ない」と一歩も譲りません。その迫力に
中国側が折れ、韓中が共同で救出作戦を行い、無事、乗組員を生還させる》と
いう設定です。国民の命と国家の威信を守るためには大国・中国との戦争も辞
さないという大統領の強いリーダーシップに多くの視聴者が溜飲を下げたシー
ンでした。
 このシーンを見てふと「竹島(韓国名:独島)」をめぐる最近の韓国政府の
強硬姿勢を思い浮かべました(但し、領有権の是非は触れません)。
 竹島問題の発端は1952年に当時の李承晩大統領が宣言した「海洋主権宣
言に基づく漁船立入禁止線(李承晩ライン)」で、それまでサンフランシスコ
条約で日本領とされていた竹島を韓国領と宣言したことです。しかし排他的経
済水域といった概念もなかった当時のこと、何の資源もない日本海の孤島のこ
とでギクシャクするのもどうかと、一時は「両国ともこの問題には触れない」
と「棚上げ」で外交決着していた案件でした。事実、韓国政府もそれほど執着
していませんでした。
 しかし2005年に島根県が「竹島の日」を制定したことで様相は一変しま
す。これに反発した当時のノ・ムヒョン政権が「棚上げ合意」を翻し、それま
で韓国民の入島も禁止していた竹島に観光客の上陸を認めたのです。これによ
ってそれまで「棚上げ案件」だった竹島問題が正式に日韓両国の政治・外交案
件に再浮上し、大統領も無視できない存在になってしまったのです。しかも冒
頭でも紹介したように韓国では「戦う大統領」が好まれます。調整型の弱腰外
交は国民性に合いませんのでポーズだけでも強気でなければなりません。警備
隊の常駐や日本国会議員の入国拒否など国民向けのポーズが求められます。こ
こが調整型の野田新総理のようなリーダーに期待する日本と韓国との国民性の
大きな違いなのです。

大統領が執務する青瓦台

2011年08月29日

長幼の序

   KRN株式会社『The Daily Korea News』チーフアナリスト 三木英明

 先日、韓国の財閥系大手企業の社長に面会を求めたところ、ご丁寧に紳士録
に掲載されているご自身のプロフィールを送っていただき、同時に当方の訪問
予定者の経歴を要請されました。初めて会う人の経歴を事前に調べ、当日の会
談を少しでも潤いのあるものにしようとする韓国流ビジネスマナーなのです。
 これはビジネスシーンだけではなく、一般の市民レベルでも同じです。初対
面同士の挨拶では、年齢、会社での肩書、出身地、出身校、家族構成、趣味な
ど、微に入り細に入り聞き出そうとします。事情を知らない外国人などは、な
にか警察の取り調べを受けているような不快感すら覚えることがありますが、
誤解しないでください。人間関係を大切にしようとする「コリアン・ホスピタ
リティ」の表れなのです。
 儒教の「長幼の序」を重んじる韓国では、言葉使い一つをとっても、上下関
係が曖昧な状態ではお互いがどう接していいか疑心暗鬼になり兼ねず、極力避
けようとします。根掘り葉掘り聞きたがるのは、目上の方に失礼にならないよ
う、あらかじめお互いの「上下関係」を確認しておきたいという人間関係構築
作業なのです。これはなにも相手より上でありたいということではなく、「上
なら上」「下なら下」「対等なら対等」とはっきりさせた上で、それに応じた
言動で接していきたいという「おもてなし精神」なのです。
 昔、あるパーティーで年格好がほぼ同じ韓国人ビジネスマンの名刺交換の場
に遭遇しましたが、実にけっさくな光景でした。聞けば、二人とも同年齢で、
最終学歴、会社の規模・肩書もほぼ同様で甲乙つけられません。このまま「対
等関係」で終わるのかと見ていましたが、当事者たちはどうも納得しないよう
です。他の話題で確認作業が続きます。まず徴兵時の派遣部隊と退役時の位。
これもお互い陸軍の前線勤務と同じ位で引き分け。次は家族構成。どうやら子
供の数で勝負をつけたかったようですが、双方2人、しかも一男一女でまた引
き分け。ようやく決着がついたのは韓国の国技・テコンドーの段位でした。こ
れを確認した一方が、それまで「〇〇さん」と呼んでいた呼び名を「〇〇ヒョ
ン(兄貴)」と改め、双方、笑顔で握手したのでした。
 因みに優先順位は友人関係では年齢、学歴、会社の規模・肩書など。ビジネ
ス面では取引形態の主従関係が一般的です。それと忘れてはならないのは、親
戚間では年齢より世代が優先されることです。何百年の歴史の中で、同門内で
世代がずれ、小学生の方が80歳のおじいさんより上の世代というケースもあ
ります。この場合、法事では80歳のおじいさんが子供に深々とお辞儀をする
のです。

世宗大王

2011年08月01日

タクシー哀史

   KRN株式会社『The Daily Korea News』チーフアナリスト 三木英明

 日本でタクシーといえば、電車やバスに比べるとちょっと高級な乗り物で、
大きな荷物を持っているとか、急いでいるとか、なにか特別な事情がない限り
あまり使わない乗り物ではないでしょうか?しかし韓国では違います。日本に
比べるとはるかに「庶民の足」になっていて、子供から大人までけっこう気軽
に使います。
 最大の理由は料金の安さのようです。例えば「一般タクシー」の初乗り料金
は2400ウォン(約180円)、高級車を使った個人タクシー最高ランクの
「模範タクシー」でさえ4500ウォン(約340円)と日本の半分以下です。
物価や為替レートの違いがあるので一概には比較できませんが、サラリーマン
のランチ予算が5000ウォン〜8000ウォン(400円〜600円)と日
韓ほぼ同額なのに比べるとこの安さは突出しています。地下鉄が整備されず、
バス、タクシーが公共交通の主役だった昔の名残でしょうか?住居費や食費な
ど他の生活物価に比べてタクシー料金は政府によって意図的に安く抑えられて
いるような気がします。
 お客にとってはありがたい低運賃もこれで生計を立てる運転手にとっては迷
惑な話です。先日、ある法人タクシーの運転手に聞いた話ですが、その劣悪な
労働環境は想像以上です。勤務時間は早朝4時から夕方4時までの12時間。
休みは週1回で実働26日。昨今の不況も相まって、こんなに働いても手取り
月額は、最低保証(固定給)と出来高(歩合)を合わせてせいぜい100万ウ
ォン(7万5000円)〜150万ウォン(11万3000円)。仮に150
万ウォンで計算しても時給は約4800ウォンで、政府が決めた最低賃金(時
給4580ウォン)をわずかに上回る程度です。稼ぎの少ない月だとそれさえ
下回ります。一方、「個人タクシー」の稼ぎは200万ウォン〜250万ウォ
ン。そのため日本同様、「いつかは個人タクシーになる」というのが、法人運
転手さんたちの夢のようですが、実はそれも簡単ではありません。
 個人タクシーの資格条件は「3年以上の無事故・無違反」ですが、あくまで
資格条件で免許がなければ開業はできません。しかし現在は個人タクシーが増
えすぎたため、新規の免許発給は行っていないそうです。どうしても個人タク
シーをやりたければ、相撲の「親方株」ではありませんが、今やっている人か
ら免許を譲ってもらうしかありません。びっくりするのがその売買相場。最低
7500万ウォン以上だそうで、なんと年収の約5年分です。これに加えて新
車を買う費用2500万ウォンも用意しなければなりません。働けど、働けど
・・・、女工哀史ならぬ「タクシー哀史」を思わせる昨今のソウルタクシー事
情です。

金浦空港のタクシー

2011年07月04日

財閥と世襲

   KRN株式会社『The Daily Korea News』チーフアナリスト 三木英明

 韓国経済を語る際、忘れてはならないのが「財閥」と言われる大規模企業集
団とそれを束ねる「創業オーナー一族」の存在です。かつて日本では総合商社
をして、ミサイルからインスタントラーメンまで「売る」と称しましたが、経
済成長を急ぎ、中小企業の育成まで手が回らなかった韓国では、ミサイルから
インスタントラーメンまで「作って」「売る」のが財閥なのです。
 またそれを束ねる「オーナー一族」は、儒教の「ウリ主義」の帰属意識の思
想背景の下、世代交代が進んでもファミリー間の世襲で二代、三代と企業統治
を受け継いでいるのです。たとえば、トップ3大財閥だけをとってもサムスン
グループ(財閥)は「李一族」、現代グループは「鄭一族」、LGグループは
「具一族」という具合です。
 しかしその世襲方式は創業オーナーの遺訓によって異なります。
 「長幼の序」という儒教思想にのっとり「長子継承」を絶対としているのが
LGグループで、本家の長男への継承が絶対条件です。しかもひとたび世代交
代となるとグループ経営に参画している父親と同世代の「叔父」たちも一斉に
経営の最前線から退くことになっています。これは父親亡き後、叔父たちが年
長者の威光をかさに、一世代下の若き総帥の経営に口をはさみ、企業統治の妨
げになることを未然に防ぐ狙いがあります。
 基本は創業一族間の世襲としながらも、長子にこだわらず能力本位としてい
るのはサムスングループで、現在の李健熙(イ・ゴンヒ)会長は三男です。創
業オーナーの故李ビョンチョル会長は生前、筆者とのインタビューで「長男は
几帳面な性格で大学教授向き、二男は細かい数字には強いが大局が読めず中小
企業オーナータイプ」と答えています。因みにこの場に同席していた李健熙現
会長は、「いつまで世襲するのか?」との問いに対して「能力さえあれば2代
3代は可能ではないか」と答えています。実際、長男の李在鎔(イ・ジェヨン)
氏は現在、40代半ばでサムスン電子社長の要職にあります。
 一方、創業者の死を契機に一族間で企業分割したのが現代グループです。創
業者の故鄭周永(チョン・ジュヨン)会長は生前、筆者に「現代グループは一
人の人間が統治するには大きくなりすぎた。私が死んだ後は子供たちがそれぞ
れの企業を担当し、現代グループという財閥は存在しなくなるのではないか」
と語っていました。事実、かつての現代グループは、狭義の企業グループとし
ての現代グループと現代建設グループ、現代重工業グループなどに企業分割し
ました。ただ皮肉なことに、ここにきて「創業オーナーの意志を継いだ本家は
うちだ」とばかりに兄弟間での内輪もめや株買い占めなどグループ再編騒動が
相次いでいます。

ソウル中区のビジネス街

2011年06月06日

酒席のお作法

   KRN株式会社『The Daily Korea News』チーフアナリスト 三木英明

 韓国ビジネスで意外と悩ましいのが韓国人相手の「酒席」でのマナーです。
「ただ酒を飲むだけなのに?」と思われる方も多いと思いますが、そこは「形
式を重んじる」韓国。ちょっとした「お作法違い」が、せっかくの酒席を台無
しにすることもあります。
 まずは「食事とお酒の順番」。日本では、とりあえずビールということで乾
杯し、その後は料理に合わせて各自が好きな酒を飲み、最後にご飯もので締め
るというのが一般的ですね。どちらかというとお酒、食事の順番になります。
ところが韓国では先に食事をがっちりとり、その後でお酒に移るというのが一
般的。韓定食ではまずお粥、バーなどでも麺類やご飯ものを先に食べ、その後
で乾杯というのが普通のようです。お酒の種類も焼酎なら焼酎、ワインならワ
イン。みんな同じものを一緒に飲みます。身体にとっては韓国式のほうがいい
のでしょうが、「酒はすきっ腹が一番旨い」と信じている「呑んべぇ」にとっ
ては、何か「お預け」をくっているようで実につらい食事時間でもあります。
 次に「飲む順番」。長幼の序を重んじる韓国では、客や年長者が杯に口をつ
けるまで他の人は我慢します。乾杯の音頭で一斉に杯を傾けるのは一向にかま
いませんが、それ以外の時は目上の人が杯を持つまで「先飲み」は厳禁です。
運悪くお酒より食事のほうが好きなお客につこうものなら、呑んべぇのイライ
ラ指数は一気に高まります。
 日韓の酒席で一番違うのが「お酌」の仕方。目上の人にお酌をしたり、杯を
受ける時は両手が基本です。また「注ぎ足し」は厳禁です。日本では客のコッ
プが空きそうになるとすかさず注ぎ足し、「あなたに気を使ってますよ」をア
ピールしますが、韓国では注ぎ足しは「法事の作法」で、通常は飲み干してか
らお酌します。いまでは韓国人もおおらかになりましたが、昔だったら「俺は
まだ死んでいない」と怒鳴られるのがおちです。
 女性にお酌をしてもらうのも気をつけなくてはいけません。その種の職業の
方ならかまいませんが、一般に韓国の女性がお酌するのは父親、夫、恋人のよ
うにごくごく親しい関係の人に限られます。今の若い女性は比較的おおらかで
すが、だからといって無防備に女子社員にお酌を求めると後でとんでもないこ
とになりかねません。
 冒頭に長幼の序と言いましたが、韓国では酒席での「年上の部下」への接し
方で上司の実力がわかるといいます。日本でも「無礼講」という言葉がありま
すが、韓国には「ヤジャタイム」(タメ口時間)があります。常に職場の上下関
係を持ち出すより、「ソンベ(先輩)」「ヒョン(兄貴)」と、臨機応変に無礼講
にできる上司のほうが人気があり、後々、仕事がやりやすくなるようです。

目上の方へのお酌

2011年05月09日

似て非なるもの

   KRN株式会社『The Daily Korea News』チーフアナリスト 三木英明

 長年、日韓を行き来しているとちょっとした「似て非なるもの」が随所に発
見でき、「同質性と異質性」を痛感させられます。そもそも日本人がアジア諸
国から嫌われる理由の一つが、この「同質性と異質性」を無視した「日本式の
押しつけ」です。
 本来、文化や風習が異なる日本人と韓国人なら、当然、立ち居振る舞いが異
なってあたりまえなのに、なまじ、肌の色、姿、かたちが似ているため、自分
と同じ価値観や常識、行動を求めるところに摩擦が生じます。金髪の欧米人と
韓国人が靴を履いたまま家に上がり込んできた場合を想像してみてください。
多くの日本人は、欧米人に対しては「外人だから仕方がない」と一種あきらめ
に似た理解を示します。しかし韓国人には「こんな常識もわからないのか」と
蔑み、烈火のごとく怒る筈です。もちろん同じことを韓国人も日本人に求めま
す。これが文化摩擦の最大の要因です。
 たとえば食事。日本では左手で茶碗を持ち、箸でごはんやおかずを口に運び
ます。しかし韓国では、厳密には、茶碗は洋食の皿と同じ概念で手で持つもの
ではありません。箸もおかずを茶碗まではこぶ道具で、口に入れるときはスプ
ーンを使います。味噌汁もスプーンで飲みます。ごはんや味噌汁を口に入れる
という所作だけ見ても日韓には大きな違いがあります。
 昔の話ですが、高級ホテルの日本レストランで日韓の2家族が食事をしてい
る場に出くわしました。日曜日の夜、家族団らんの夕食を高級ホテルの、しか
も当時の韓国では高級料理とされる和食を食べている家族です。両家族ともそ
れなりに裕福で知的階層の方々とお見受けしました。ところが驚いたことに、
お互いの母親が相手の家族を盗み見しながら、自分の子供に「あんな下品な食
べ方をしてはダメよ」と囁いているのです。最近でこそ韓国側が日本文化を尊
重して茶碗を手で持つようになりましたが、かつては食事の場も文化摩擦の最
前線だったのです。
 書店でも面白い光景が見られます。「立ち読み」ならぬ「座り読み」です。
日本でもコンビニでの立ち読みはごくあたりまえの光景になっていますが、書
店では原則禁止の筈です。しかし「ケンチャナヨ(ドンマイ)精神」の韓国で
は、立ち読みどころか堂々と床に座り込み、書店を図書館代わりに使います。
中には必要な箇所をその場でノートに書き写す強者までいます。主人は?と顔
色をうかがうと、そこは韓国が誇る「コリアン・ホスピタリティ」。見て見ぬ
ふりです。中にはソファーや椅子を用意している書店もあります。
 翻って、同じことを日本でしたら?・・・想像するだけで恐ろしい光景が目
に浮かぶのです。

ソウル市内の書店風景